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誰も住まない実家…空き家放置が招くリスク
親の家を相続したものの、遠方に住んでいる、忙しい、または「いつか使うかもしれない」といった理由で、実家をそのまま放置している方は少なくありません。しかし、この「とりあえず放置する」という選択こそが、将来的に大きな金銭的・法的リスクを招く最大の原因となります。思い出の詰まった大切な実家は、適切に対処しなければ、やがて「負動産」へと姿を変えてしまうのです。
この記事では、空き家を放置することで所有者が直面する深刻なリスクを分かりやすく解説し、そのリスクを回避するために今すぐ取るべき具体的な行動についてご説明します。
1.日本の空き家問題の現状と背景
現在、日本の空き家問題は深刻化の一途をたどっています。総務省の調査によると、2023年時点で全国の空き家総数は約900万戸にのぼり、これは全住宅の約13.8%と過去最高を更新しました。これは、日本の住宅のおよそ7戸に1戸が空き家であることを意味します。
空き家が増える背景には、少子高齢化と人口の都市集中という社会構造の変化があります。子が都市部で生活基盤を築いているため、親が亡くなっても実家に戻る必要がなく、空き家のまま放置されるケースが増加しています。また、相続が発生した際、兄弟姉妹の間で活用方針について話し合いがまとまらず、不動産が「塩漬け」状態になってしまうことも、放置が続く大きな要因です。
2.空き家放置が招く3つの深刻なリスク
管理されていない空き家は、所有者自身だけでなく、地域社会全体に多くの悪影響を及ぼします。リスクは「安全」「経済」「法務」の3つの側面から考える必要があります。
1. 倒壊・犯罪につながる「安全リスク」
① 老朽化による倒壊・破損と損害賠償責任
人が住まなくなった家は換気や清掃が行われず、湿気やカビにより建物の劣化が想像以上に早いスピードで進みます。特に木造住宅は、湿気や雨漏り、シロアリの被害を受けやすく、柱や基礎の耐久性が急速に低下します。 老朽化した建物が地震や台風などの自然災害で倒壊したり、屋根材や外壁が飛散したりして、隣家や通行人に被害を与えた場合、所有者は民法上の損害賠償責任を問われる可能性があります。管理不備が原因と見なされると、数千万円から数億円といった高額な賠償金を請求されるケースも想定されます。
② 衛生環境の悪化と近隣トラブル
放置された建物や庭には雑草が伸び放題となり、ネズミ、ハクビシン、ハチ、ゴキブリといった害虫や害獣の格好の住処となります。これらの生物が繁殖すると、悪臭や衛生上の問題が発生し、近隣住民の生活環境に深刻な悪影響を与えます。雑草や庭木が隣地に越境し、苦情やトラブルの原因になることも頻繁に発生します。
③ 放火・不法侵入など犯罪の温床に
人の出入りがない空き家は、不法投棄や不法侵入、放火といった犯罪のターゲットにされやすい傾向があります。特に敷地内にゴミや枯れ草が放置されていると、火災のリスクがさらに高まります。空き家が犯罪者の拠点に使われるなど、地域の治安悪化につながり、近隣住民に多大な不安を与えることになります。
2. 資産を蝕む「経済リスク」
④ 固定資産税が最大6倍になる恐れ
住宅が建っている土地には、固定資産税が軽減される「住宅用地の特例」が適用されています。しかし、空き家の管理が不十分であると自治体から「特定空き家」に指定され、改善の「勧告」を受けると、この優遇措置が解除されてしまいます。 その結果、土地にかかる固定資産税は更地と同等の扱いとなり、税額が最大6倍に跳ね上がる可能性があります。この税負担の増加は、所有者にとって最も直接的で深刻な経済的リスクです。
⑤ 資産価値の急激な下落と維持費用の負担
空き家を放置し老朽化が進むと、売却しようとしても「再利用に多額の費用がかかる」と判断され、買い手がつきにくくなります。結果として、大切な資産が「負の遺産」に変わってしまうリスクがあります。さらに、売却や活用ができなくても、所有し続ける限り、固定資産税のほかに、火災保険料、定期的な清掃、草刈り、簡単な修繕など、年間で数十万円に及ぶ維持費用が継続的に発生します。
3. 将来を閉ざす「法務リスク」
⑥ 特定空き家指定による強制措置と過料
倒壊のおそれがある、衛生上有害である、景観を著しく損ねているなどの状態にある空き家は、市町村により「特定空き家等」に指定されることがあります。 特定空き家等に指定された後、改善のための「命令」にも従わない場合には、50万円以下の過料が科される可能性があります。さらに、状況が改善されないときは、自治体が建物の除却などを行う「行政代執行」が実施され、その費用は全額、所有者に請求されることになります。
⑦ 相続登記を怠ることによる権利関係の複雑化
空き家問題の根本には、所有者が亡くなった後に相続登記を行わないまま放置されるという問題があります。2024年4月からは相続登記が義務化されており、相続の開始を知った日から3年以内に登記を行わない場合、10万円以下の過料の対象となります。 さらに、登記簿上の名義が亡くなった方のままだと、その不動産の売却や解体といった法的な手続きが一切できなくなります。時間が経つと相続人が次々と亡くなり、権利者がネズミ算式に増えていく(数次相続)ため、将来的に売却や活用をしたくても、共有者全員の合意を得ることが極めて困難になります。
3.リスクを回避するための実践的アクションプラン
空き家が「負動産」と化してしまうのを防ぐには、先送りせずに早期の行動が不可欠です。
1. 【最重要】親が元気なうちに家族で話し合う
相続が始まってからでは、親の意向が分からず、兄弟姉妹の間で「売却するのか」「賃貸に出すのか」「誰かが住むのか」といった点について意見が対立し、トラブル(いわゆる「争族」)に発展することがあります。そのため、親が元気なうちに、将来の不動産の扱いについて家族で話し合っておくことが重要な生前対策となります。
2. 空き家を処分・活用する4つの選択肢
将来利用する予定がない場合は、以下の選択肢を検討しましょう。
- 売却して現金化する(最もシンプル): 実家を売却し現金化すれば、固定資産税や管理の負担から完全に解放され、売却益を公平に分割できます。築年数が浅く、劣化が進む前に市場価値を査定して売却することが、資産価値を守るカギです。老朽化物件や早期に手放したい場合は、不動産買取業者に直接売却する「買取」も有効な手段です。
- 賃貸に出して収益化する: リフォームを行って賃貸物件として活用すれば、家賃収入を得ながら、人が住むことで建物の劣化を防ぐことができます。賃貸需要が見込めるエリアであれば、維持費の負担を家賃収入で賄うことが可能です。
- 適切に管理して維持する: 将来的に利用予定がある場合や、すぐに方針を決められない場合は、適切な管理を続けることが必須です。定期的な換気、清掃、草刈りを行い、建物の劣化を抑え、特定空き家に指定されるリスクを回避できます。遠方に住んでいる場合は、専門の空き家管理サービスを利用することも有効です。
- 解体して更地にする: 建物の老朽化が激しい場合は、解体して更地として売却する方が買い手がつきやすい場合があります。ただし、解体費用がかかることと、解体した翌年から固定資産税の軽減措置が解除され、税負担が増加する点には注意が必要です。
3. 相続が発生したら「権利関係」を整理する
相続が発生した場合には、まず相続登記を進め、不動産の名義を相続人へ変更することが重要です。
相続人が複数いる場合で意見がまとまらないときは、遺言書の有無を確認したうえで、遺産分割協議を行い、誰がどの財産を相続するのかを明確にする必要があります。
4.相続・遺言手続きでお悩みの方へ
当事務所は、相続手続きおよび遺言書作成を専門とする司法書士事務所です。横浜市青葉区を中心に、地域に密着したサポートを行っております。
空き家問題の根本的な解決は、まず不動産の権利関係を正確に整理することから始まります。当事務所では、戸籍の収集から相続登記の申請、相続人全員の合意形成(遺産分割協議)のサポートまで、法律専門家でなければ対応が難しい煩雑な手続きを一括して代行いたします。
また、当事務所は空き家問題解決のハブ(拠点)として、不動産会社など各分野の専門家と連携した体制を整えております。そのため、不動産の売却や活用を含めた最適な出口戦略についても、安心してご相談いただくことが可能です。
さらに、ご家族の将来の安心と円満な相続を実現するためには、親御様が元気なうちに行う公正証書遺言の作成や、家族信託の活用といった生前対策が極めて重要です。
ご相談は初回無料で承っております。大切なご実家を「負の遺産」にしないためにも、まずは一度、専門家へご相談ください。その一歩が、将来のご家族の安心と笑顔につながります。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
未登記建物の相続手続きガイド
亡くなった方が所有していた実家や建物について、相続手続きを進める中で「未登記建物」であることが判明し、困惑されるケースは少なくありません。未登記建物とは、法務局に正式に登記(登録)されていない建物のことを指し、通常の不動産相続よりも複雑な手続きが必要となります。
未登記のまま放置すると、将来的な売却や活用が難しくなるだけでなく、法律上の義務違反となるリスクも伴います。
ここでは、法律の専門家ではない方にも分かりやすいよう、未登記建物の定義から、放置するリスク、そして名義変更を含む具体的な相続手続きの流れについて詳しく解説します。
1.未登記建物とは?その存在と確認方法
未登記建物とは、文字通り登記がされていない建物です。具体的には、建物の大きさや構造といった物理的な情報が記載される登記簿の「表題部」の登記がない建物を指します。
不動産登記法により、建物を新築したり、表題登記がない建物の所有権を取得したりした場合、取得日から1か月以内に表題登記を申請することが義務付けられています。しかし、実際には、住宅ローンを利用しなかった場合や、登記手続きを失念したまま所有者が亡くなってしまった場合など、さまざまな理由で未登記のまま残されている建物が存在します。
未登記建物かどうかを確認する方法
相続した建物が未登記かどうかを確認する最も手軽な方法は、固定資産税納税通知書に同封されている課税明細書を確認することです。
- 家屋番号の記載:登記済みの建物には「家屋番号」が記載されていますが、未登記建物の場合、この家屋番号が空欄または「未登記家屋」といった記載になっている可能性が高いです。
- 登記事項証明書の請求:法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を請求し、取得できなければその建物は未登記であると判断できます。
なお、未登記建物であっても、固定資産税は課税されます。これは、法務局の登記簿とは別に、市区町村が独自の台帳(名寄帳など)で所有者を把握し、その情報をもとに課税しているためです。固定資産税を支払っているからといって、登記されているとは限らない点に注意が必要です。
2.未登記建物を放置するリスクとデメリット
未登記建物を相続したにもかかわらず、登記手続きをせずにそのまま放置すると、多くの重大なデメリットが発生します。
法律上の義務違反と過料のリスク
まず、表題登記の申請は法律上の義務です。所有権を取得した日から1か月以内に申請を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
また、2024年4月1日からは相続登記が義務化されましたが、未登記建物自体は、権利部に所有権の登記名義人がいないため、相続登記義務化の直接的な対象外とされています。しかし、表題登記の申請義務は元々存在しており、今後は国や自治体が未登記不動産の所有者を特定しようとする動きが強まる可能性もゼロではありません。
所有権の主張ができない
登記は他人に所有権を主張するための重要な手段です。登記がない状態では、自分がその建物の真の所有者であることを法的に証明できず、第三者に対して権利を主張できません。
例えば、万が一、自分の知らない間に他者名義で登記されてしまった場合や、建物を建てている土地(底地)が売却された場合などには、所有権を失ったり、新しい土地所有者からの立ち退き要求を拒否できなくなるリスクがあります。
売却や融資が困難になる
未登記建物は、売却や活用が極めて難しいという大きなデメリットがあります。
1. 融資を受けられない:住宅ローンを組む際には、購入する不動産に抵当権を設定して担保とするのが一般的です。しかし、未登記の建物には抵当権を設定できないため、金融機関から融資を受けることができません。
2. 売却が困難:買主は、所有権が公的に証明されていない未登記物件の取引に慎重になります。また、売却する際にも、買主名義で所有権移転登記を行う前に、まず売主名義で表題登記と所有権保存登記を行う必要があるため、手続きが複雑化し、売却のタイミングを逃すリスクがあります。
相続税や固定資産税で損をするリスク
税金面でもデメリットが生じます。未登記建物が存在すると、土地にかかる固定資産税の軽減措置(住宅用地の特例)が適用されず、本来よりも高い固定資産税を支払っている可能性があります。
また、自治体の現地調査などで未登記の存在が判明した場合、これまで支払われていなかった過去分の固定資産税をまとめて請求されるリスクもあります。
さらに、相続税の申告が必要な場合、未登記建物であっても相続財産に含まれるため、その相続税評価額を算出しなければなりません。未登記のため正確な情報が不足している場合、専門家による測量や鑑定が必要となり、手続きが煩雑化する可能性があります。
将来の相続手続きの複雑化
未登記のまま所有者が亡くなり放置しておくと、時間の経過とともに相続人が増え続け、いざ登記をしようとした際に、複雑な相続人調査や遺産分割協議が必要になり、手続きが極めて困難になるリスクがあります。
3.未登記建物を相続した際の手続きの流れ
未登記建物を相続した場合、通常の名義変更(所有権移転登記)とは異なり、まず建物の存在を公的に記録する表題登記から始める必要があります。手続きは以下の流れで進めます。
Step 1: 遺産分割協議書の作成と相続人の決定
未登記建物であっても、財産的価値があるため、相続財産として遺産分割の対象となります。相続人が複数いる場合は、まず遺産分割協議を行い、誰がその建物を相続するのかを決定し、相続人全員の合意を得る必要があります。
遺産分割協議書への記載方法の注意点
登記済みの建物と違い、未登記建物には登記簿謄本が存在しないため、遺産分割協議書に建物を特定する情報を記載する際には特別な注意が必要です。
遺産分割協議書には、未登記である旨を明記し、固定資産評価証明書や名寄帳に記載されている建物の所在地、種類、構造、床面積などの情報を引用して特定します。これにより、相続人全員の合意内容を文書として明確に残します。
Step 2: 表題登記の申請(建物の公的な記録)
表題登記は、未登記建物の相続手続きにおける最初の必須ステップです。表題登記を行うことで、建物の所在地、家屋番号、構造、床面積、所有者の住所氏名など、建物の物理的な情報が登記簿の「表題部」に記録され、新たな登記簿が作成されます。
専門家と必要書類
表題登記は、建物の測量や図面作成(建物図面、各階平面図)が必要となるため、土地家屋調査士に依頼して代行してもらうのが一般的です。費用は建物の規模や構造、地域によりますが、土地家屋調査士への報酬として8万円から15万円程度が目安とされています。
申請には、登記申請書のほか、建物の図面、建築確認済証、検査済証、工事完了引渡証明書、固定資産評価証明書、そして遺産分割協議書を含む相続に関する資料(戸籍謄本、住民票など)が必要となります。古い建物の場合、これらの書類が紛失していることが多いため、専門家への早期相談が推奨されます。
Step 3: 所有権保存登記の申請(名義変更の準備)
表題登記が完了し、建物の存在が公的に認められたら、次に建物の所有者を明確にするために所有権保存登記を申請します。これは登記簿の「権利部(甲区)」に所有者情報を記録する手続きです。
所有権保存登記は法律上の義務ではありませんが、これを行うことで所有権を公的に公示し、第三者に対して権利を主張できるようになります。法律上、被相続人名義でも相続人名義でも登記が可能ですが、相続人名義で登記するのが実務上一般的です。
専門家と費用(登録免許税)
所有権保存登記の手続きは、申請書の記入など専門的な知識が必要となるため、司法書士に依頼するのが一般的です。司法書士への報酬は、2万円から6万円程度が目安です。
また、この登記には登録免許税が発生します。登録免許税の額は、不動産の評価額(固定資産評価額)に税率(0.4%)をかけた金額が基本となります。
登録免許税=不動産の評価額×0.4%
4.未登記建物を解体する場合の注意点
相続した未登記建物が老朽化しており、解体する予定がある場合は、表題登記や所有権保存登記をあえて行う必要はありません。建物を取り壊せば、その建物に権利は発生しなくなるからです。
ただし、解体後も市区町村の課税台帳には情報が残ってしまうため、固定資産税が課税され続けないよう、解体後は必ず役場(資産税課など)に「家屋滅失届出書」を提出しなければなりません。この届出を怠ると、固定資産税の負担が続くことになります。
5.早期対応と専門家への相談の重要性
未登記建物を相続することは、通常の相続手続きに加えて、表題登記と所有権保存登記という2段階の作業が必要となり、非常に複雑で手間がかかります。特に、相続登記の義務化が進む現代において、未登記のまま放置すれば、過料のリスクや所有権を主張できないといった深刻なデメリットが生じます。
また、遺産分割協議書の作成においても、未登記建物の特定には専門的な知識が必要であり、相続税の計算においても、建物の評価が難しくなることがあります。
名義変更を確実に行い、将来的なトラブルや税金のリスクを避けるためには、未登記建物が判明した時点で速やかに、土地家屋調査士や司法書士といった専門家に相談し、適切な手続きを進めることが最善の策といえるでしょう。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続登記の登録免許税の計算方法
相続が発生し、亡くなった方が所有されていた不動産を承継する場合、相続登記(正式名称:相続による所有権移転登記) の手続きが必須となります。この手続きは、不動産の所有権を公的に証明するために不可欠ですが、申請時には登録免許税という税金が課されます。
2024年4月1日からは相続登記が義務化され、不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請を行わないと、10万円以下の過料が科される可能性があるため、迅速かつ正確な手続きが求められます。
本記事では、相続登記をスムーズに進めるために、登録免許税の基本的な計算方法から、正確な税額を導くための具体的な手順、適用される免税措置、そして納付方法までを詳しく解説します。
1.登録免許税とは:相続登記に必要な税金の基礎知識
登録免許税は、不動産や会社、資格などに関する登記・登録といった行政サービスに対して課される国税です。相続登記の場合、その税額は、対象となる不動産の価格(課税標準額)に一定の税率をかけて算出されます。
相続や遺贈によって不動産を取得した場合は、登録免許税の税率は0.4%が適用されるのが一般的です。ただし、遺贈によって相続人以外の人が不動産を取得した場合は、税率が2.0%となります。
登録免許税の計算式は以下の通りです。
登録免許税額 = 課税標準額 × 税率
この計算を正確に行うことが、適正な納税、ひいてはスムーズな相続登記の鍵となります。
2.登録免許税の「課税標準額」を確定する手順
登録免許税の計算の基礎となる課税標準額は、不動産の固定資産税評価額を基に算出されます。課税標準額を確定するためには、次のステップを踏みます。
1. 固定資産税評価額の確認と課税明細書の見方
まず、課税標準額の基となる不動産の固定資産税評価額を調べる必要があります。この情報は、主に以下の書類で確認できます。
- 固定資産税・都市計画税 課税明細書
- 固定資産評価証明書
課税明細書は、通常、毎年4月から6月頃に不動産の所有者宛に送付される固定資産税の納税通知書に同封されています。
課税明細書の「見方」で注意すべき点
課税明細書や固定資産評価証明書を確認する際、登録免許税の計算基準となるのは「価格」または「評価額」と表記されている箇所です。
書類上には、「固定資産税課税標準額」という名称の金額も記載されていますが、これは固定資産税などを計算するための基準であり、登録免許税の算定基準とは異なりますので、絶対に混同しないように注意しましょう。
また、計算に使用する評価額は、登記を申請する日が属する年度(4月1日~翌年3月31日)の最新のものを使用しなければなりません。
2. 課税標準額の計算ルール
複数の不動産がある場合
相続登記を一つの申請書で複数の不動産について行う場合(例:土地と建物、または複数筆の土地)、それぞれのすべての固定資産税評価額を合算します。
合算した合計額について、1,000円未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てます。この切り捨てを行った金額が、登録免許税の課税標準額となります。
共有持分を相続する場合
亡くなった方が不動産の一部(共有持分)を所有していた場合、不動産全体の固定資産税評価額に、移転する持分の割合をかけて、相続する持分の評価額を算出し、その後1,000円未満の切り捨てを行います。
3. 特殊な不動産の場合の評価額
マンション(敷地権付き区分建物)
マンションを相続する場合、建物(専有部分)の評価額に加えて、土地(敷地部分)の評価額も考慮します。敷地部分の評価額は、マンション全体の土地の評価額に、敷地権割合をかけて算出し、建物と合算します。
非課税の土地(私道など)
私道や公衆用道路など、固定資産税が非課税となっている土地であっても、相続登記を行う際には登録免許税が課税されます。これらの非課税地の評価額が固定資産評価証明書に記載されていない場合、近隣の宅地(近傍宅地)の単価を基に評価額を算出します。公衆用道路の場合、近傍宅地の1㎡あたりの価額に地積と30%を乗じて計算するのが一般的です。
3.最終的な税額の算出と端数処理
課税標準額に税率(相続人の場合は0.4%)をかけた後、最終的な税額を確定するために再度端数処理が必要です。
算出した金額に100円未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てます。 また、計算結果が1,000円未満となった場合でも、登録免許税の最低額は1,000円と定められています。
4.相続登記の登録免許税の免税措置
長期間放置された相続登記の解消を促すため、現在、土地に限り登録免許税が免除される免税措置が設けられています。この措置は令和9年3月31日までに登記申請を行った場合に適用されます。
1. 免税措置が適用される2つのケース
以下の2つの要件を満たす土地の相続登記が免税措置の対象となります。
① 相続登記をしないまま亡くなった場合(数次相続)
相続人が相続により土地を取得したにもかかわらず、その相続登記を行わないまま死亡した場合、その亡くなった個人の名義とするための相続登記については、登録免許税が免除されます。これは、数次相続が発生した場合の、中間省略登記が可能でない場合の一次相続登記の負担を軽減するものです。
② 土地の価額が100万円以下の場合
相続によって取得した土地の固定資産税評価額(価額)が100万円以下であるときは、登録免許税が免除されます。この基準は、令和4年度の税制改正で10万円から100万円に引き上げられ、適用対象が全国に拡大されました。
2. 免税措置を受けるための手続き
免税措置の適用を受けるためには、法務局に提出する登記申請書に、その根拠となる法令の条項を必ず記載しなければなりません。
• 数次相続の場合:「租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税」。
• 価額100万円以下の場合:「租税特別措置法第84条の2の3第2項により非課税」。
この記載が漏れると、免税措置は適用されませんので、細心の注意が必要です。
5.登録免許税の納付方法
登録免許税は、相続登記の申請を行う際に納付します。納付方法は主に以下の3種類です。
1. 収入印紙による納付
実務上、最も一般的な納付方法です。郵便局などで購入した収入印紙を、登記申請書に添付する別紙に貼り付けて提出します。高額な場合でもこの方法が利用されることが多いです。
2. 現金による納付
現金で納付する場合、法務局の窓口では直接支払いができないため、金融機関または税務署で納付手続きを行います。納付後、交付された領収証書を登記申請書に添付して提出します。
3. キャッシュレス(オンライン)納付
オンラインで登記申請を行う場合は、インターネットバンキングやモバイルバンキング、ATMを利用して電子納付が可能です。これにより、自宅などから申請から納付までの手続きを完了できます。
6.司法書士へのご相談をおすすめいたします
登録免許税の計算は、複数の不動産や特殊な評価が必要な場合、また課税明細書と登記簿の情報の相違がある場合の見方の判断など、専門的な知識が必要とされる場面が多くあります。正確かつスムーズに手続きを完了させたい、複雑な計算や書類の準備に不安があるという場合は、ぜひ専門家にご相談ください。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続人申告登記の記載例と必要書類
2024年4月1日から、不動産に関する相続登記の申請が義務化されました。この法改正は、長年にわたり社会問題となっていた「所有者不明土地」の増加に歯止めをかけることを目的としています。所有者不明土地は、公共事業や復旧・復興事業の妨げとなるだけでなく、民間取引の阻害や土地の管理不全化、さらには隣接する土地への悪影響といった深刻な問題を引き起こしています。その主な原因は、相続登記がされないこと(62%)や住所変更登記がされないこと(34%)とされています。
この義務化に伴い、相続人の方々の負担を軽減し、手続きを円滑に進めるための新たな制度として「相続人申告登記」が創設されました。本記事では、この相続人申告登記について、その必要書類や記載例、利用する際のデメリット、費用、そしてどこで申出を行うかについて詳しく解説します。
1.相続人申告登記とは?義務化の背景と制度の概要
相続登記の申請義務化により、不動産を取得した相続人は、自己のために相続が開始したことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務付けられました。正当な理由なくこの義務を怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があります。
しかし、相続発生後すぐに遺産分割協議がまとまらないケースや、相続人が多数で戸籍書類の収集に時間と手間がかかるケースも少なくありません。そこで、このような状況下でも相続人が相続登記の申請義務を簡易に履行できるよう創設されたのが「相続人申告登記」です。
この制度を利用すると、相続人は「所有権の登記名義人について相続が開始した旨」と「自らがその相続人である旨」を登記官に申し出るだけで、一時的に義務を履行したとみなされます。申出を受けた登記官は、必要な審査を行った上で、申出をした相続人の氏名や住所等を職権で登記簿に付記します。これにより、登記簿を見た人が不動産の所有者(相続人)の情報を把握しやすくなり、所有者不明土地の発生予防に繋がることが期待されています。
相続人申告登記の大きな利点は、法定相続人の範囲や法定相続分の割合を確定するための複雑な戸籍謄本等の収集が不要となる点です。相続人が複数いる場合でも、特定の相続人が単独で申出を行うことが可能です。
2.相続人申告登記の必要書類
相続人申告登記の申出には、主に以下の書類が必要となります。
1. 申出人の戸籍関係書類
- 被相続人の死亡日、被相続人と申出人との関係性、および申出人自身の生存の事実を証明できる戸籍全部事項証明書などが必要です。
- 数次相続が発生している場合は、登記名義人から中間相続人、そして中間相続人から最終申出人への相続関係を一代ずつ証明できる戸籍関係書類が必要となります。
- ただし、申出人以外の他の相続人の戸籍は、原則として不要とされています。
2. 申出人の住所を証する情報
- 原則として住民票の写しなどが必要です。
- ただし、申出書に氏名のふりがな、生年月日(外国人の場合は氏名のローマ字表記)を正確に記載し、かつ住民基本台帳ネットワークシステムの情報と照合可能であれば、住民票の写しの提出を省略することができます。
3. 法定相続情報一覧図または法定相続情報番号
- 法定相続情報証明制度を利用している場合、法定相続情報一覧図の写しやその番号を提供することで、上記の戸籍関係書類や住所を証する情報の一部または全部の添付を省略できる場合があります。
4. 被相続人の同一性証明書類
- 被相続人の登記記録上の住所と戸籍に記載されている本籍が異なる場合など、登記記録上の人物と戸籍上の人物が同一であることを証明するために、住民票の除票や戸籍の附票の写しなどが必要となることがあります。
5. 代理権限証明情報
- 司法書士などの専門家が代理人として申出を行う場合、代理権限を証する書面(委任状など)の提出が必要です。書面による申出の場合、この代理権限証明情報への押印または署名は不要とされています。
申出書の申出人の押印については、申出人本人が書面で申出を行う場合は押印不要です。オンラインでの申出の場合も、申出情報への電子署名は不要とされています。
3.相続人申告登記の申出書の記載例
相続人申告登記の申出書は、法務局のウェブサイト等でひな形が公開されています。以下に主要な記載事項を説明します。
• 申出の目的:「相続人申告」と明記します。
• 登記名義人(被相続人)の情報:死亡した不動産登記名義人の氏名と、その相続が開始した年月日(被相続人の死亡日)を記載します。
• 申出人の情報:申出人自身の現在の住所、氏名、電話番号を記載します。氏名のふりがなと生年月日を記載すれば、住所証明情報の提出を省略できます。
• 不動産の表示:申出の対象となる不動産を、登記記録(登記事項証明書)に記載されているとおり正確に記載します。不動産番号を記載すれば、所在や地番、家屋番号といった詳細な表示を省略することが可能です。
• 添付情報:提出する書類名を記載します。
• 相続関係説明図:任意で提出することができます。これを提出すると、添付した戸籍謄本等の原本還付が可能となります。
4.相続人申告登記の記載例
相続人申告登記の実際の登記記録の記載例は以下のようになります。

5.相続人申告登記のデメリット
相続人申告登記は、相続登記の申請義務の履行を簡易にするための応急措置であり、いくつかのデメリットがあります。
• 終局的な権利の公示ではない:この登記は、あくまで「相続人が存在すること」を公示するものであり、最終的な権利関係(例えば、誰がどの不動産を単独で取得したかなど)を明確に公示するものではありません。
• 登記識別情報は通知されない:相続人申告登記を行っても、登記識別情報は通知されません。登記識別情報は、不動産の所有者が自身の権利を証明し、将来的な登記申請の際に必要となる重要な情報です。
• 別途、遺産分割の結果に基づく相続登記が必要:遺産分割協議が成立した場合や、遺言によって特定の相続人が不動産を取得した場合は、その内容を踏まえた所有権移転登記を別途申請する義務が生じます。この登記は、遺産分割が成立した日(遺言の場合は所有権取得を知った日)から3年以内に行う必要があります。
• 不動産の処分に制約:相続した不動産を売却したり、抵当権を設定したりするといった処分行為を行う場合、相続人申告登記のみでは不十分であり、別途、遺産分割協議に基づく所有権移転登記などを行う必要があります。
これらのデメリットを理解し、相続人申告登記は、遺産分割協議に時間がかかりそうな場合など、相続登記の義務履行期間に間に合わせるための一時的な手段として活用することが望ましいと言えます。最終的には、遺産分割協議を速やかに成立させ、その内容を反映した相続登記を行うことが重要です。
6.相続人申告登記にかかる費用
相続人申告登記は、その簡易な性質から、登録免許税が非課税とされており、審査手数料も不要です。
ただし、申出に必要な戸籍謄本や住民票の写しなどの公的書類の取得には、別途実費がかかります。また、これらの手続きを司法書士などの専門家に依頼する場合は、別途報酬が発生します。
7.どこで申出を行うか
相続人申告登記の申出は、原則として対象となる不動産の所在地を管轄する法務局に対して行います。書面による申出の場合は、管轄法務局の窓口に提出するか、郵送で送付します。
また、オンラインでの申出も可能であり、「かんたん登記申請」というサービスも利用できます。オンライン申出の場合、物理的な管轄の制約を受けにくいという利便性があります。
詳細な手続きについては、事前に管轄法務局に確認することをお勧めします。
8.分からないことがあれば専門家にご相談ください
相続人申告登記は、相続登記の義務期間内に間に合わせるための一時的な措置としての性格が強く、長期的な視点で見れば、遺産分割協議をまとめ、その結果を反映した最終的な相続登記を行うことが最も望ましい対応と言えるでしょう。必要書類を正確に準備し、適切な申出を行うことが重要です。
新しい制度の円滑な運用には、国民への十分な周知と理解が不可欠です。不明な点があれば、法務局や専門家へ相談し、適切な手続きを進めるようにしましょう。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続登記をスムーズに!必要書類の有効期限は?
不動産を相続した際に行う「相続登記(所有権移転登記)」は、大切な財産の名義を変更する重要な手続きです。しかし、「どんな書類を揃えればいいのか」「書類に有効期限はあるのか」といった疑問を抱く方も少なくありません。特に、書類の有効期限については誤解が生じやすく、手続きを停滞させる原因となることもあります。
この記事では、相続登記に必要な書類の有効期限について、一般的なルールと注意点を詳しく解説し、円滑な手続きをサポートするための情報を提供します。
1.相続登記における書類の有効期限の基本的な考え方
多くの公的書類、例えば戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍、住民票、印鑑証明書などには、法律上で明確に定められた有効期限は存在しません。これらの書類は、発行された時点での情報を証明するものであり、その情報自体に期限がないためです。そのため、何十年も前に取得された書類であっても、基本的に相続登記の手続きで利用することができます。
しかし、書類の種類や提出先の要件によっては、実質的に「最新のものが求められる」、あるいは「発行日から一定期間内のものが必要」とされるケースがあるため注意が必要です。
2.最新の書類が求められる主なケース
相続登記において、特に取得時期が重要となる書類は以下の通りです。
相続人全員の戸籍謄本
相続人の戸籍謄本は、被相続人の死亡後に取得された、最新の情報が反映されたものが必要です。これは、相続開始時点で当該相続人が生存していること、および相続人としての資格を証明するためです。被相続人が亡くなる前の日付で発行された戸籍謄本では、申請が受理されないため注意しましょう。
相続する不動産の固定資産評価証明書
固定資産評価証明書は、登記申請を行う年度のものが求められます。不動産の固定資産評価額は毎年変動し、これを基に登録免許税(相続登記にかかる税金)が計算されるため、最新の評価額が必要となるためです。評価証明書は通常4月1日に切り替わるため、年度が変わってから申請する際には特に注意が必要です。固定資産税納税通知書に評価額が記載されている場合は、そのコピーで代用できることもあります。
3.印鑑証明書の取り扱いについて
印鑑証明書自体には、法的な有効期限は定められていません。相続登記において、遺産分割協議書に添付する場合、発行から3ヶ月以内といった期限は定められていません。遺産分割協議書が真正に作成されたことを証明する目的であれば、故人が亡くなる前に発行された印鑑証明書も相続登記の添付書類として使用可能です。これは、遺産分割協議が合意された時点での意思表示を証明するものであり、時間経過によってその合意が無効になるわけではないためです。
ただし、同じ相続手続きであっても、銀行などの金融機関に預貯金の解約や名義変更を依頼する際には、発行後3ヶ月以内または6ヶ月以内という有効期限が設けられている場合が多いため、各金融機関の規定を事前に確認することが非常に重要です。また、新たに遺産分割協議書を作成する際に、古い印鑑証明書を添付するのではなく、改めて最新の印鑑証明書を取得することが一般的です。
4.有効期限の定めがないその他の主要書類
以下の書類には、原則として有効期限の定めはありません。
• 被相続人の出生から死亡までの戸籍・除籍謄本 相続人の確定と相続発生の事実を証明するために、出生から死亡までの連続した記録が必要となります。
• 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票 登記簿上の住所と戸籍上の本籍地を関連付け、被相続人が同一人物であることを示すために使用されます。
• 不動産取得者の住民票 新たに不動産の名義人となる人の現在の住所を証明するために必要です。現住所が記載されている住民票であれば、期限は設けられていません。
• 遺産分割協議書 相続人全員の合意内容をまとめたもので、相続人全員の署名と実印の押印が必要です。
• 遺言書(検認済証明書を含む) 自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合には、家庭裁判所による検認済証明書が必要です(法務局で保管されている自筆証書遺言を除く)。
• 遺産分割調停調書・審判書(確定証明書付き)謄本 遺産分割調停や審判によって相続が確定した場合、これらの書類が遺産分割協議書や多くの戸籍謄本の代わりとなり、単独で相続登記が可能です。審判書の場合は、確定証明書も必要となります。
• 登記申請書 法務局のウェブサイトから雛形をダウンロードして作成できます。
5.スムーズな相続登記のための重要な注意点
相続登記を円滑に進めるためには、以下の点にも留意しましょう。
提出先による要件の確認
法務局への相続登記では有効期限がない書類が多い一方で、金融機関など他の手続き先では独自の有効期限が設けられていることがほとんどです。そのため、各提出先の要件を事前に確認することが非常に重要です。
原本還付制度の活用
法務局では「原本還付」という制度を利用することで、提出した公的書類の原本を返却してもらうことができます。これにより、複数の手続きで同じ書類を使い回すことが可能になり、書類の取得費用や手間を省くことができます。原本還付を希望する場合は、書類のコピーに「原本に相違ありません」と記載し、署名・押印した上で、原本と一緒に提出します。
住民票の除票・戸籍の附票の保存期間
住民票の除票や戸籍の附票には、市区町村役場での保存期間が存在します。以前は5年間でしたが、令和元年(2019年)6月20日以降は150年に延長されました。しかし、それ以前に亡くなった方の書類で、すでに保存期間が過ぎている場合は取得できないことがあります。その際は、法務局に事情を説明する「上申書」を提出することで、受理される可能性があります。
2024年4月1日からの相続登記義務化と期限
不動産の相続登記は、令和6年(2024年)4月1日より義務化されました。これに伴い、相続人が不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請する期限が設けられています。この期限は、義務化される前の相続についても適用され、その場合は「施行日から3年以内(2027年3月31日)」または「不動産取得を知った日から3年以内」のいずれか遅い方が期限となります。正当な理由なく期限内に申請を怠ると、10万円以下の過料が科される可能性があるため、早めの手続きが推奨されます。
専門家への依頼
相続登記は、遺言の有無、遺産分割協議の有無など、そのケースによって必要な書類が大きく異なります。書類の準備や申請書の作成には専門的な知識が必要となる場合があり、ご自身での手続きは時間と労力がかかるだけでなく、不備が生じるリスクもあります。また、他の人に手続きを依頼する場合は、委任状の添付が必要です。ご自身での手続きが困難な場合や、複雑な状況の場合は、司法書士などの専門家に相談することを検討すると良いでしょう。
6.司法書士にご相談ください
相続登記を円滑に進めるためには、必要書類の種類だけでなく、それぞれの有効期限に関する正確な理解が不可欠です。書類によっては、一見有効期限がないように見えても、提出先の要件や、証明する情報の性質上、最新のものが求められる場合があります。また、2024年4月1日からの相続登記義務化により、期限内の申請がより一層重要になりました。
不明な点や複雑なケースに直面した際は、専門家のアドバイスを求めることで、手続きをスムーズかつ確実に行い、大切な不動産を適切に承継することができるでしょう。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
特定空き家に指定されたらどうなる?
空き家を所有している方や相続予定の方、または近隣に空き家があることで不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「特定空き家」に指定されると、税金の増加や行政からの命令、費用負担など、知らないと損をするリスクが多く存在します。
本記事では、特定空き家の定義や指定基準、影響、対策方法、予防策までをわかりやすく解説し、安心して空き家問題に向き合える知識を提供します。
1.特定空き家とは?知っておきたい基礎知識
特定空き家とは、単なる空き家とは異なり、放置することで倒壊や衛生上の問題、景観の悪化など、周辺環境や住民に著しい悪影響を及ぼすと判断された空き家を指します。
このような空き家は、自治体によって「特定空き家等」として指定され、所有者に対して厳しい措置が取られることがあります。
特定空き家に指定されると、税金の優遇措置がなくなったり、行政からの指導や命令、最悪の場合は強制的な解体(行政代執行)などのリスクが発生します。
空き家を所有している方は、特定空き家の基礎知識をしっかり理解しておくことが重要です。
空き家と特定空き家の違い・定義を解説
「空き家」とは、居住や使用がされていない建物全般を指しますが、「特定空き家」はその中でも特に危険性や悪影響が高いと判断されたものです。
特定空き家の定義は、空家等対策特別措置法に基づき、倒壊の危険や衛生上の問題、景観の著しい悪化、周辺住民の生活環境に深刻な影響を及ぼす状態などが該当します。
単なる空き家と特定空き家では、行政の対応や所有者の責任が大きく異なるため、違いを正しく理解しておくことが大切です。
| 空き家 | 特定空き家 |
|---|---|
| 居住・使用されていない建物全般 | 倒壊や衛生・景観悪化など著しい悪影響がある空き家 |
| 行政からの指導は基本的にない | 指導・勧告・命令・行政代執行の対象 |
特定空き家が増加する背景と問題点
近年、少子高齢化や人口減少、都市部への人口集中などの影響で、全国的に空き家が増加しています。
その中でも、管理が行き届かず放置された空き家が「特定空き家」として指定されるケースが増えています。
特定空き家が増えることで、倒壊や火災、害虫・害獣の発生、不法投棄、景観の悪化など、地域社会にさまざまな問題を引き起こします。
また、所有者が遠方に住んでいる場合や相続問題が絡むことで、適切な管理が難しくなり、問題が深刻化しやすいのも現状です。
- 倒壊や火災のリスク増加
- 害虫・害獣の発生
- 不法投棄や犯罪の温床
- 地域の景観・資産価値の低下
空家等対策の推進に関する特別措置法(特措法)とは
空家等対策の推進に関する特別措置法(特措法)は、2015年に施行された法律で、空き家問題の深刻化を受けて制定されました。
この法律により、自治体は特定空き家の調査や指定、所有者への指導・勧告・命令、さらには行政代執行による解体まで、幅広い権限を持つことになりました。
特措法の目的は、空き家の適切な管理を促進し、地域住民の安全・安心な生活環境を守ることにあります。
特定空き家に指定されると、所有者は法的な義務を負うことになるため、特措法の内容を理解しておくことが重要です。
2.特定空き家の指定基準と判断の流れ
特定空き家に指定されるかどうかは、法律や自治体のガイドラインに基づいて判断されます。
指定の基準や流れを知っておくことで、所有者は早めに対策を講じることができます。
自治体は現地調査や通報をもとに、空き家の状態を確認し、必要に応じて所有者に連絡や指導を行います。
判断の流れや基準を理解しておくことで、突然の指定や命令に慌てず対応できるようになります。
特定空き家に該当する基準と判断ポイント
特定空き家に該当するかどうかは、主に以下の4つの基準で判断されます。
1つでも該当すれば、特定空き家と認定される可能性があります。
これらのポイントを日頃からチェックし、該当しないように管理することが大切です。
- 倒壊など著しく保安上危険となるおそれがある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれがある状態
- 著しく景観を損なっている状態
- 周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態
誰が特定空き家を決める?指定の流れと関係者
特定空き家の指定は、主に市区町村の自治体が行います。
自治体は、住民からの通報や定期的な調査をもとに、空き家の現状を確認します。
必要に応じて所有者に連絡し、改善を促す指導や助言を行います。
改善が見られない場合は、勧告や命令、最終的には行政代執行に至ることもあります。
この流れの中で、所有者や相続人、近隣住民、自治体の担当部署などが関係者となります。
| 関係者 | 役割 |
|---|---|
| 自治体 | 調査・指定・指導・命令・執行 |
| 所有者・相続人 | 管理・改善・対応 |
| 近隣住民 | 通報・情報提供 |
自治体による調査・通報の受付と一覧の事例
多くの自治体では、空き家に関する通報窓口を設けており、近隣住民や関係者からの情報提供を受け付けています。
通報があった場合、自治体職員が現地調査を行い、写真や状況を記録します。
調査結果をもとに、特定空き家に該当するかどうかを判断し、必要に応じて所有者に通知します。
自治体のホームページでは、特定空き家の指定事例や対応状況を一覧で公開している場合もあります。
これにより、地域全体で空き家問題への意識が高まっています。
- 通報受付窓口の設置
- 現地調査・写真記録
- 指定事例の公開
3.特定空き家に指定されるとどうなる?影響と所有者の義務
特定空き家に指定されると、所有者にはさまざまな義務や負担が発生します。
税金の優遇措置がなくなり、固定資産税が大幅に増加することもあります。
また、自治体からの指導や命令に従わない場合、罰則や行政代執行による強制解体が行われるリスクもあります。
さらに、周辺住民や地域社会への悪影響も無視できません。
特定空き家の指定による影響を正しく理解し、早めの対応を心がけましょう。
固定資産税・都市計画税など税金への影響
特定空き家に指定されると、住宅用地特例の対象から除外され、固定資産税が最大6倍に増額されるケースがあります。
都市計画税の軽減措置も適用外となるため、税負担が大きくなります。
税金の増加は所有者にとって大きなデメリットとなるため、特定空き家に指定されないよう日頃から管理を徹底しましょう。
| 状態 | 固定資産税 | 都市計画税 |
|---|---|---|
| 通常の空き家 | 住宅用地特例で1/6 | 軽減措置あり |
| 特定空き家 | 特例除外で6倍 | 軽減措置なし |
勧告・命令・指導・助言の具体的な措置内容
特定空き家に指定されると、自治体から所有者に対して段階的な措置が取られます。
まずは助言や指導が行われ、改善が見られない場合は勧告、さらに命令へと進みます。
命令に従わない場合は、罰則や行政代執行の対象となることもあります。
これらの措置は、所有者の負担や責任を大きくするため、早期の対応が重要です。
- 助言・指導:改善のためのアドバイスや要請
- 勧告:法的根拠に基づく改善要請
- 命令:法的強制力を持つ改善命令
- 罰則・行政代執行:命令違反時の強制措置
取り組まない場合の罰則・行政代執行・代執行除却とは
命令に従わず改善が行われない場合、自治体は行政代執行を実施することができます。
これは、自治体が所有者に代わって空き家の解体や撤去を行い、その費用を所有者に請求する制度です。
また、命令違反には50万円以下の過料が科されることもあります。
行政代執行は最終手段であり、所有者にとって大きな経済的・精神的負担となるため、早めの対応が求められます。
- 行政代執行による強制解体
- 費用の全額請求
- 命令違反時の過料(50万円以下)
周辺環境・周辺住民への悪影響やリスク
特定空き家が放置されると、倒壊や火災、害虫・害獣の発生、不法侵入や犯罪の温床になるなど、周辺住民や地域社会に深刻な悪影響を及ぼします。
また、景観の悪化や資産価値の低下、地域のイメージダウンにもつながります。
こうしたリスクを防ぐためにも、空き家の適切な管理と早期対応が不可欠です。
- 倒壊・火災の危険性
- 害虫・害獣の発生
- 不法侵入・犯罪リスク
- 景観・資産価値の低下
4.特定空き家の対応・対策方法
特定空き家に指定されてしまった場合、または指定される前に、どのような対応や対策を取るべきかを知っておくことは非常に重要です。
早期対応や適切な管理、解体やリフォーム、売却・賃貸など、状況に応じた選択肢があります。
また、専門家や自治体のサポート、補助金の活用も有効です。
ここでは、特定空き家への具体的な対応策とその流れについて詳しく解説します。
早期対応が必要な理由とその流れ
特定空き家に指定される前に早期対応を行うことで、税金の増加や行政からの命令、罰則などのリスクを回避できます。
また、周辺住民とのトラブルや地域の資産価値低下も防げます。
早期対応の流れは、現状把握→専門家相談→対策実施(修繕・解体・活用など)→定期的な管理が基本です。
問題が大きくなる前に行動することが、最もコストを抑え、安心につながります。
- 現状の確認・点検
- 専門家や自治体への相談
- 修繕・解体・活用などの対策実施
- 定期的な管理・見直し
解体・リフォーム・活用などの具体的方法
特定空き家の対策としては、建物の解体やリフォーム、または新たな用途での活用が考えられます。
解体は最も確実な方法ですが、費用がかかるため補助金の活用も検討しましょう。
リフォームによって再利用や賃貸物件への転用も可能です。
また、地域のニーズに合わせてシェアハウスや店舗、コミュニティスペースとして活用する事例も増えています。
| 方法 | メリット | デメリット |
|---|---|---|
| 解体 | リスク解消・税金対策 | 費用負担大 |
| リフォーム | 資産価値向上・活用可能 | 費用・手間がかかる |
| 活用 | 収益化・地域貢献 | 企画・運営が必要 |
特定空き家の売却・賃貸や相続時のポイント
特定空き家は、売却や賃貸によって第三者に活用してもらう方法も有効です。
ただし、特定空き家に指定されている場合は、買い手や借り手が見つかりにくくなるため、早めの対応が重要です。
相続時には、空き家の現状や管理責任、税金の負担などをしっかり確認し、相続放棄や売却も選択肢に入れて検討しましょう。
専門家のアドバイスを受けることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
- 売却・賃貸の際は現状説明が必須
- 相続時は管理責任や税金を確認
- 専門家のサポートを活用
専門家・自治体への相談や補助金の活用術
特定空き家の対応には、建築士や不動産会社、弁護士などの専門家の力を借りることが有効です。
また、多くの自治体では解体やリフォーム、活用に関する補助金制度を設けています。
自治体の窓口やホームページで情報を収集し、積極的に相談・申請しましょう。
専門家や自治体のサポートを受けることで、費用や手間を大幅に軽減できます。
- 建築士・不動産会社・弁護士への相談
- 自治体の補助金・助成金の活用
- 無料相談窓口の利用
5.特定空き家にならないための管理・予防のコツ
特定空き家に指定されないためには、日頃からの適切な管理と予防が不可欠です。
定期的な点検や清掃、修繕を行い、建物の劣化や周辺への悪影響を防ぎましょう。
また、空き家管理サービスやNPO法人の活用も有効です。
ここでは、特定空き家を未然に防ぐための具体的な管理・予防のコツを紹介します。
定期的な管理・点検で不全を防ぐ方法
空き家は放置すると急速に劣化が進み、特定空き家に指定されるリスクが高まります。
定期的な管理・点検を行うことで、建物の状態を良好に保ち、問題の早期発見・対応が可能です。
最低でも年に数回は現地を訪れ、屋根や外壁、窓、庭の状況を確認しましょう。
必要に応じて清掃や修繕も行い、近隣住民への配慮も忘れずに。
- 年数回の現地点検
- 屋根・外壁・窓・庭の確認
- 清掃・修繕の実施
- 近隣住民への配慮
空き家管理サービスやNPO法人の活用例
遠方に住んでいる場合や管理が難しい場合は、空き家管理サービスやNPO法人のサポートを活用しましょう。
これらのサービスでは、定期的な巡回や清掃、簡易修繕、報告書の提出などを行ってくれます。
費用はかかりますが、特定空き家への指定リスクを大幅に減らすことができます。
地域によっては自治体と連携したサービスもあるので、情報収集をおすすめします。
- 定期巡回・点検サービス
- 清掃・簡易修繕
- 報告書の提出
- 自治体やNPOとの連携
空家認定を防ぐために知っておきたい注意点
特定空き家に認定されないためには、建物の外観や衛生状態、周辺環境への配慮が重要です。
ゴミや雑草の放置、外壁や屋根の破損、窓ガラスの割れなどは、すぐに対応しましょう。
また、近隣住民からの通報がきっかけで調査が入ることも多いため、日頃から良好な関係を築くことも大切です。
定期的な管理と情報収集で、空家認定を未然に防ぎましょう。
- 外観・衛生状態の維持
- ゴミ・雑草の処理
- 破損箇所の早期修繕
- 近隣住民との良好な関係
6.今すぐ始めるべき対策
特定空き家に指定されると、税金の増加や行政からの命令、罰則、周辺環境への悪影響など、多くのリスクが発生します。
これらを防ぐためには、日頃からの適切な管理と早期対応が不可欠です。解体やリフォーム、売却・賃貸、専門家や自治体のサポート、補助金の活用など、状況に応じた対策を検討しましょう。空き家問題は他人事ではありません。今すぐできることから始め、安心して資産を守りましょう。
空き家の管理や相続でお困りの方は、高野司法書士事務所にご相談ください。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続した不動産を売却すべきケース
親や祖父母などの遺産として不動産を相続した場合、「その不動産をこのまま保有すべきか」「いっそ売却すべきか」と悩まれる方は少なくありません。相続した不動産は、たとえそこに住む予定がなくても「故人の思いがこもっている」「いずれ子どもに残したい」といった感情的な理由や、「将来値上がりするかもしれない」という期待などから、すぐに売却に踏み切れないこともあるでしょう。
しかし、相続した不動産には、維持費・固定資産税・老朽化による修繕義務といった「目に見えないコスト」がかかり続けます。特に空き家のまま放置していると、倒壊や雑草・害虫被害など近隣への迷惑にもつながり、自治体から行政指導を受けることもあります。さらに、2024年4月からは「相続登記の義務化」が施行され、放置していると10万円以下の過料の対象になる可能性もあります。
また、不動産を売却する場合には、譲渡所得税や不動産取得税、確定申告などの税務的な知識も必要になり、専門的な判断が求められます。
この記事では、「相続した不動産を売却すべきケースとはどんな場合か?」をはじめ、売却に伴う名義変更(相続登記)や税金のポイント(3,000万円控除など)、売却後の確定申告など、相続不動産の売却を検討している方が押さえておくべき情報を網羅的に解説していきます。
1.相続した不動産を売却すべき典型的なケース
不動産を相続したからといって、必ずしもそれを保有し続けることが最善とは限りません。実際には、売却したほうが経済的・法的に合理的なケースが多く存在します。ここでは、相続した不動産を売却すべき典型的なケースを4つ紹介します。
1. 誰も住む予定がない空き家の場合
被相続人が住んでいた住宅を相続したものの、自分や家族がそこに住む予定がなく、賃貸にも出さないまま空き家状態で放置されるケースは非常に多いです。
空き家のまま放置していると、次のようなリスクが発生します。
- 固定資産税・都市計画税などの維持費が毎年発生する
- 建物が老朽化して倒壊などの危険が生じる
- 雑草・害虫被害・不法侵入などにより近隣トラブルに発展
- 行政から「特定空き家」に指定されると固定資産税の優遇がなくなる
このような場合、売却によって資産を現金化し、維持コストや管理の負担から解放される方が得策といえるでしょう。
2. 相続人が複数いて不動産を共有している場合
相続人が複数いる場合、不動産を「共有」名義で相続することがあります。しかし、共有名義の不動産は以下のような問題を引き起こすことが少なくありません。
- 長期の賃貸借・売却などにすべての共有者の同意が必要になる
- 相続人間で意見が分かれると不動産の有効活用が困難
- 将来的に相続が繰り返され、共有者が増え続け土地の利用・管理が困難になったり、意思決定が難しくなったりする
こうしたトラブルを未然に防ぐために、不動産を売却して現金化し、代金を法定相続分に応じて分配する「換価分割」も有効な手段です。
3. 相続税の納税資金が必要な場合
基礎控除額を超える場合、相続税が発生することがあります。現金で相続税を納めることが難しい場合には、不動産を売却して納税資金に充てるという選択肢があります。
- 相続税の納付期限は相続開始(被相続人の死亡)から10か月以内
- 納税のための「物納」や「延納」には厳格な条件がある
不動産を早めに売却して現金化すれば、納税準備に余裕が生まれます。
4. 利用価値がなく老朽化が進んでいる場合
古い建物で修繕費がかかる、または土地が狭小で再建築も困難な物件などは、保有していても資産価値が下がり続ける可能性があります。加えて、管理費・保険料・固定資産税などの支出がかさみ、「負動産(ふどうさん)」となることも。
売却によって資産としての価値を回収し、他の有効な資産運用に充てるのも合理的な選択です。
2.不動産売却にかかる税金と「3,000万円特別控除」
不動産を相続した後に売却すると、売却益(譲渡所得)が発生した場合に税金がかかります。ここでは、代表的な「譲渡所得税」や「不動産取得税」、そして節税に有効な「3,000万円特別控除」など、売却時に関係する税金について詳しく説明します。
1. 譲渡所得税とは?
譲渡所得税は、不動産を売って得た利益(譲渡所得)に対して課税される税金です。譲渡所得は、以下の計算式で求められます:
譲渡所得 = 売却価格 -(取得費 + 譲渡費用)
- 取得費: 被相続人がその不動産を取得した際の購入金額や取得時の諸費用
- 譲渡費用: 売却にかかった仲介手数料、登記費用など
※相続の場合、被相続人の取得費を引き継ぎます。
2. 短期・長期譲渡の区分
譲渡所得税率は、所有期間によって異なります。
- 長期譲渡(所有期間5年超): 約20%(所得税15%+住民税5%)
- 短期譲渡(所有期間5年以下): 約39%(所得税30%+住民税9%)
※相続による取得の場合は、被相続人の取得時期から計算するため、多くの場合「長期譲渡」に該当します。
3. 3,000万円特別控除の適用条件
相続した不動産が被相続人の「居住用財産(自宅)」であった場合、一定の条件を満たすと3,000万円の特別控除が受けられます。
適用の主な要件:(詳細は税務署または税理士にご確認ください)
- 被相続人が死亡時点でその家に住んでいた
- 相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売却すること
- 売却した相手が親族など一定の関係者でないこと など
この控除が適用されると、譲渡所得から3,000万円が差し引かれるため、課税額が大きく軽減される可能性があります。
3,000万円特別控除の適用を受けるには、翌年の2月16日〜3月15日の間に確定申告を行う必要があります。控除を適用して税金がゼロになった場合でも、確定申告が必要です。
4. 相続税と譲渡所得税の関係
相続税を納付している場合、譲渡所得の計算上、その相続税の一部を「取得費に加算」できる特例もあります(取得費加算の特例)。この特例により、譲渡所得が減り、結果として譲渡所得税が軽減されるケースがあります。
ただし、この特例は令和5年度の税制改正により要件が一部見直されており、最新情報に注意する必要があります。
5. 不動産取得税
相続によって取得した不動産には、原則として不動産取得税は課されません。これは、不動産取得税が不動産の購入や贈与、建築等による「取得」に課税される地方税である一方、相続は被相続人の死亡に伴う所有権移転であり、取得者の意思によるものではないため課税対象外とされているためです。
ただし、贈与や売買による取得の場合は、不動産取得税が課税されます。
3.相続不動産を売却するまでの手続きと流れ
相続した不動産を売却するには、いくつかの重要なステップがあります。適切な順序で進めないと、売却契約を結べなかったり、思わぬトラブルが発生するおそれもあります。この章では、不動産売却に至るまでの流れを詳しくご紹介します。
1. 相続登記(名義変更)
まずは、被相続人の名義から相続人名義へと登記(名義変更)を行う必要があります。
相続登記が完了していない状態では、不動産を売却することはできません。
【ポイント】
- 登記のためには、遺産分割協議書・戸籍謄本・固定資産評価証明書などの書類が必要
- 2024年4月から相続登記が義務化されており、3年以内に登記を行わないと過料の対象(10万円以下)になる
司法書士に依頼すれば、煩雑な手続きや書類収集も含めて一括で対応してもらえます。
2. 不動産の査定と仲介業者の選定
登記が完了したら、不動産会社に査定を依頼して市場価値を把握します。査定は複数社に依頼し、信頼できる仲介業者を選びましょう。
【仲介業者選定のポイント】
- 地元の相場に詳しいか
- 過去の売却実績があるか
- 売主側に立って交渉してくれるか
媒介契約を結ぶことで、仲介業者が買い手探しや交渉を行ってくれます。
3. 売却契約と手付金の受領
買い手が見つかれば、売買契約を締結します。契約書には以下のような内容が含まれます。
- 売買価格
- 引渡し時期
- 手付金の額(通常、売買価格の5~10%)
契約締結時には手付金が支払われ、残代金は引渡し時に受け取る流れです。
4. 引渡しと登記移転
買主から残代金を受け取り、不動産を引き渡します。並行して、司法書士が所有権移転登記を行い、売却が正式に完了します。
【必要書類】
- 登記識別情報(権利証)
- 固定資産税評価証明書
- 本人確認書類(免許証など)
- 印鑑証明書
ここまでが、不動産売却に至るまでの一連の流れです。
4.相続不動産は“放置”せず、早めの判断と行動を
相続した不動産の取り扱いには、税金・登記・管理・法律・売却の可否など、さまざまな要素が複雑に絡み合います。特に以下のようなケースでは、売却を選択することが合理的であることが多いと言えます。
- 相続した不動産を使用する予定がない
- 他の相続人と共有状態になっており、活用・管理が難しい
- 固定資産税などの維持コストが重くのしかかる
- 老朽化や空き家リスクで将来の資産価値が下がりかねない
- 売却益に対して「3,000万円特別控除」が使える可能性がある
一方で、売却には譲渡所得税や登記、確定申告、名義変更などの専門的な手続きが必要となり、個人で対応するには限界があります。
相続不動産を「資産」として次世代に繋げるためにも、登記や売却の手続きに詳しい司法書士や不動産の専門家への相談を早めに行うことが重要です。
高野司法書士事務所では、横浜市青葉区・緑区・都筑区・町田市を中心に、相続に伴う不動産の名義変更や売却サポートを数多く手がけております。不動産の扱いにお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
【相続登記義務化対応】相続登記の費用相場と無料でできる対策
1.相続登記の義務化とは?
これまで相続登記は「義務」ではありませんでした。つまり、親や配偶者から不動産を相続した場合でも、登記(名義変更)をせずにそのまま放置しても、法律上の罰則はありませんでした。しかし、この曖昧さが全国的な問題を引き起こすようになりました。誰が所有しているか分からない土地や建物、いわゆる「所有者不明土地」が全国に広がり、公共事業や再開発の障害となっていたのです。
このような背景から、2024年4月1日より相続登記が義務化されました。これは、不動産を相続した場合、原則として3年以内に相続登記をしなければならないという制度です。義務を怠った場合、10万円以下の過料(罰金のようなもの)が科される可能性があります。
なぜ今、相続登記が義務化されたのか?
国土交通省の調査によれば、日本の所有者不明土地は、九州本島を上回る面積にも達しており、年々増加の一途をたどっています。相続登記をしないまま世代が交代すると、相続人の数が増えすぎて、連絡が取れない人が出たり、相続関係が複雑になったりして、もはや登記自体ができなくなってしまうケースも珍しくありません。
このような事態を防ぐため、政府は相続登記を放置することができないルールへと変更しました。
義務化の対象となるのはどんな人?
相続登記の義務化の対象になるのは、次のような方です。
- 不動産の相続人となった人(配偶者、子ども、兄弟姉妹など)
- 遺言によって不動産を取得した人
- 相続によって不動産を取得した法人(宗教法人、法人格のある団体など)
また、義務化の対象となるのは、相続が「2024年4月1日以降に発生したもの」だけではありません。過去に発生した相続についても、まだ登記がされていなければ義務の対象となるため、今まで放置していたケースでも対応が必要です。
3年以内というルールの起算点は?
不動産を相続または遺贈で取得したことを「知った日」が起算点となり、そこから3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
「知った日」とは、被相続人が亡くなり、かつ自分が不動産の所有権を取得したことを具体的に知った日を指します。
遺産分割協議による場合は、遺産分割協議が成立した日から3年以内に、その協議内容に基づく相続登記を申請する必要があります。
2.相続登記をしないとどうなる?放置によるリスクと罰則
相続登記が義務化された現在、「まだ登記しなくても大丈夫」と軽く考えていると、思わぬ不利益を被る可能性があります。ここでは、相続登記を怠った場合のリスクと、法的な罰則について詳しく見ていきましょう。
1. 10万円以下の過料が科される可能性
2024年4月1日以降、相続登記を怠ると「正当な理由がない限り」10万円以下の過料が科される可能性があります。
この「過料」は刑罰とは異なりますが、行政上のペナルティとして位置づけられ、裁判所を通じて支払いを命じられる場合があります。過料の対象となるのは、以下のようなケースです。
- 相続によって不動産を取得したにもかかわらず、3年を超えて登記しなかった
- 遺産分割協議が成立したのに、正当な理由なく登記をしなかった
- 故意に登記を先延ばしにしたり、放置したりしていた
ただし、以下のような「やむを得ない事情」がある場合には、過料が免除される可能性もあります。
- 相続人が多数で資料収集に時間がかかる
- 遺言の有効性や遺産の範囲を巡って争いがある
- 申請義務を負う相続人に重病などの事情がある
このような場合でも、事情を証明する資料の提出などが求められることがあります。
2. 相続人が増えすぎて手続きができなくなるリスク
相続登記をせずに長年放置すると、相続人が次世代、さらにその次世代へと増えていき、「数次相続」という状態になります。こうなると、遺産分割協議には何十人もの関係者の同意が必要になり、実際上協議が不可能になることもあります。
例:
- 被相続人Aが死亡(登記せず放置)
- その子Bも死亡 → 孫C・Dが相続人に
- さらに孫Cが死亡 → Cの配偶者・子がさらに登場
このように、「相続人の芋づる式増加」が発生し、登記が極めて困難になります。
3. 不動産の売却や担保設定ができない
登記がされていない不動産は、法律上の所有者が確定していない状態です。そのため、登記名義が故人のままでは、その土地や建物を売却することはできません。担保にして融資を受けることもできません。
また、相続人の一部が反対したり、連絡がつかなかったりすれば、手続きが完全にストップしてしまいます。
4. 固定資産税の請求先が変わらない
登記をしていないと、不動産の名義は故人のままですが、固定資産税の請求書は相続人の代表者に届きます。つまり、実際の登記はしないまま、税金だけは支払い続けるという状態になります。
これは一見問題なさそうですが、相続人間でのトラブルの火種になりやすく、
- 「自分は登記してないから払わない」
- 「支払いはしているけど、自分のものとは思っていない」
などといった意見の食い違いが生じ、親族間の争い(争族)に発展することもあります。
5. 所有者不明土地とみなされる恐れ
登記がされていない状態では、周囲から見ても「誰の土地か分からない」状態になります。これが長期間続くと、行政から「所有者不明土地」と認定される可能性があり、以下のような不利益を被ることもあります。
- 公共事業で土地収用の対象になる
- 管理義務を怠ったとして近隣住民から損害賠償を請求される
- 建物の老朽化・倒壊などにより行政指導が入る
3.相続登記の費用相場とは?司法書士報酬・登録免許税・実費の内訳
相続登記を進めるうえで、多くの方が気になるのが「費用はどれくらいかかるのか?」という点です。ここでは、相続登記にかかる主な費用の内訳と、それぞれの相場感について詳しく解説します。
1. 登録免許税(固定費)
登録免許税とは、相続登記を法務局に申請する際に国に納める税金です。
計算方法:
不動産の固定資産税評価額 × 0.4%
たとえば、評価額が2,000万円の土地であれば、登録免許税は 2,000万円 × 0.004 = 8万円 となります。
注意点:
- 不動産が複数ある場合は、それぞれに対して登録免許税が発生します。
- 小規模宅地等の評価減や相続税の基礎控除とは無関係で、「固定資産税評価額」をベースに計算されます。
2. 司法書士報酬(専門家への報酬)
相続登記はご自身で申請することも可能ですが、戸籍収集や書類作成、法務局とのやりとりなど専門的な知識が必要なため、多くの方が司法書士に依頼しています。
報酬の目安(横浜市周辺の一般的な相場):
| 項目 | 費用相場(税込) |
|---|---|
| 相続登記基本報酬(1件) | 5万〜8万円程度 |
| 不動産1件追加ごと | 5,000円〜1万円 |
| 戸籍等の取得代行(1通) | 1,000円〜2,000円 |
| 法定相続情報一覧図作成(任意) | 1万〜3万円 |
※事務所ごとに報酬基準は異なります。報酬が明朗に表示されている司法書士事務所を選ぶのが安心です。
3. 実費(戸籍・証明書の取得など)
司法書士に依頼する場合や自分で手続きする場合でも、以下のような実費は必ず発生します。
| 内容 | 目安費用 |
|---|---|
| 戸籍謄本(1通) | 約450円 |
| 除籍謄本・改製原戸籍(1通) | 約750円 |
| 住民票・除票 | 約300円 |
| 評価証明書(1通) | 約300〜400円 |
| 登記簿謄本(登記事項証明書) | 約500円 |
| 郵送料・交通費など | 数百円〜数千円 |
相続人が多かったり、被相続人の戸籍が転籍を繰り返していた場合、戸籍の取得枚数が10通以上になることもあり、これらの実費だけで1万円以上かかることもあります。
4. 合計費用の一例
たとえば、次のようなケースの場合を想定してみます:
- 相続する不動産:土地1筆+建物1棟(評価額合計1,800万円)
- 相続人:配偶者と子ども2人
- 司法書士に依頼(法定相続情報一覧図も作成)
概算費用内訳:
| 費目 | 金額(税込) |
|---|---|
| 登録免許税 | 約72,000円(1,800万円×0.004) |
| 司法書士報酬 | 約70,000円 |
| 法定相続情報一覧図作成 | 約15,000円 |
| 戸籍・住民票・評価証明書等 | 約10,000円 |
| 合計 | 約167,000円 |
※これはあくまで一例です。実際の費用は不動産の数や内容、相続人の状況によって大きく変わります。
4.無料または低コストでできる相続登記対策
相続登記の義務化に伴い、「費用をかけずに済ませたい」「できるだけ自分でやってみたい」という方も増えています。この章では、無料またはコストを抑えて相続登記を進めるための現実的な対策を解説します。
1. 自分で手続きする(相続登記の本人申請)
相続登記は本人申請(セルフ申請)が可能です。司法書士など専門家に依頼せず、自分で書類を準備して法務局に申請します。
主な流れ:
- 戸籍類・住民票・評価証明書など必要書類を自力で収集
- 相続関係説明図(法定相続情報一覧図)を作成
- 登記申請書を作成
- 法務局に書類を提出
メリット:
- 専門家報酬がかからず、実費+登録免許税のみで済む
デメリット:
- 書類の書き方が難しい
- 登記申請が不備で却下される可能性
- 平日に役所や法務局へ何度も足を運ぶ手間
ある程度の法律知識と時間がある方にはおすすめですが、不慣れな方にはハードルが高く、結局は専門家に相談し直すケースもあります。
2. 「法定相続情報一覧図」を活用して各種手続きを効率化
相続登記に限らず、銀行・証券会社・保険・不動産の名義変更など、多数の機関に提出が必要な戸籍一式は、法定相続情報一覧図(無料)で代替できます。
ポイント:
- 取得は無料(手数料0円)
- 戸籍一式を何度もコピー・提出しなくてよくなる
- 相続登記以外の相続手続きも効率化できる
一覧図は1度申出をすれば、複数通を同時発行してもらえます。これにより、余分な戸籍の取得費用・郵送費などを削減できます。
3. 相続登記を支援する制度を活用する(地域差あり)
一部の自治体では、相続登記義務化を見据えて「無料相談窓口」や「書類作成サポート」を提供しています。
例:
- 登記申請書のひな型を配布
- 法務局による無料相談会(月1回など)
- 相続登記の助成金制度(極めて限定的)
対応の有無は地域によるため、市区町村の公式サイトや広報誌、窓口で確認するのがおすすめです。
4. 相続人間で費用を「均等負担」する工夫
費用を誰が支払うかでもめることが多いため、相続人全員で均等に負担するルールを最初に取り決めておくと、トラブル回避にもなります。
- 「登記費用は相続人3人で3等分する」
- 「立替分は遺産から清算する」
- 「不動産を相続する人が登記費用を負担する」
といった取り決めを口頭ではなく、簡単な覚書にしておくと安心です。
5. 法テラス・無料相談をうまく活用する
司法書士会・法テラス・自治体が提供する無料法律相談を利用すれば、費用をかけずに初回相談ができます。
- 司法書士会の無料相談:主に相続・登記手続きに強い
- 弁護士会・法テラスの相談:借金問題や相続トラブルも含め対応
- 市民相談窓口(役所):相談日や予約方法に注意
「どこに相談すればいいかわからない」という方は、まず無料相談で全体像を把握し、その後必要な範囲だけ専門家に依頼するという使い方も可能です。
5.相続登記をするために必要な書類と手続きの流れ
相続登記を正しく進めるためには、必要書類を揃え、法務局へ適切な申請を行う必要があります。この章では、相続登記に必要な書類の一覧とその取得方法、具体的な手続きの流れについてわかりやすく解説します。
1. 相続登記に必要な書類一覧
以下は、一般的な「法定相続による単純承継登記」の場合に必要な書類です。
① 被相続人に関する書類
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 改製原戸籍、除籍謄本、全部事項証明書などを含めて、連続性のあるものをすべて取得する必要があります。
- 住民票の除票(または戸籍の附票)
- 被相続人の最終住所を確認するために使用します。
② 相続人に関する書類
- 相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人との関係を証明するための書類です。
- 代襲相続が発生している場合は、被代襲者の出生~死亡までの戸籍、代襲者の現在戸籍も必要になります。
- 相続人の住民票
- 不動産の登記名義人となる人物の住所を記載する際に必要です。
③ 不動産に関する書類
- 固定資産評価証明書(課税明細書でも可)※登記申請する年度のもの
- 相続登記の登録免許税の算出に必要です。
- 不動産所在地の市区町村役場で取得します。
④ その他の書類
- 遺産分割協議書(協議による分割の場合)
- 相続人全員が署名・押印(実印)し、印鑑証明書を添付します。
- 登記申請書
- 法務局へ提出する書類で、所定の様式に基づき作成します。
- 代理人に依頼する場合は委任状
2. 手続きの流れ
実際の相続登記は以下のような流れで進みます。
ステップ1:必要書類の収集
戸籍や住民票、固定資産評価証明書など、上記の書類を漏れなく揃えます。
ステップ2:遺産分割協議の実施(協議が必要な場合)
相続人全員で不動産を誰が相続するか話し合い、「遺産分割協議書」を作成します。印鑑証明書の添付も忘れずに行います。
ステップ3:登記申請書の作成
登記内容(相続人の情報、不動産の所在など)を記載した「登記申請書」を作成します。誤字や記載漏れがあると補正や却下の原因になるため注意が必要です。
ステップ4:法務局へ申請
不動産所在地を管轄する法務局へ申請書一式を提出します。窓口申請・郵送申請のほか、司法書士を通じてオンライン申請も可能です。
ステップ5:登記完了・登記識別情報の受領
法務局での審査が完了すると、登記識別情報(権利証)が発行され、正式に登記が完了します。
相続登記は一見すると単純な作業に見えますが、戸籍の取得が難航したり、代襲相続が絡んだり、協議がまとまらなかったりするケースも多々あります。
6.司法書士に依頼するメリット
司法書士に依頼することで、以下のようなサポートを受けることができます。
- 戸籍・住民票・評価証明書などの収集代行
- ご自身で行うと非常に時間がかかる戸籍収集も、プロが迅速に対応。
- 遺産分割協議書の作成
- 法的に有効な協議書を作成。記載ミスによるトラブルを未然に防ぎます。
- 登記申請書の作成と代理提出
- 煩雑な登記書類を正確に作成し、オンラインまたは法務局に代理提出。
- 法定相続情報一覧図の作成・取得
- 相続手続き全般に活用できる一覧図の取得もワンストップで対応。
- 税理士や弁護士との連携
- 相続税や争いのリスクがある場合も、他士業と連携して総合対応。
「何から始めればよいかわからない」「放置してしまっている不動産がある」
そんなときは、一人で悩まずにお気軽にご相談ください。
高野司法書士事務所では、相続登記に関する初回相談を無料で承っております。
横浜市青葉区を拠点に、都筑区・緑区・町田市などの地域からも多くのご相談をいただいており、複雑な相続案件にも多数対応してきた実績があります。
登記義務化により、相続登記はもはや任意の手続きではなく、法的な責務となりました。今後の不動産管理や相続対策において不要なリスクを回避するためにも、早期の対応が求められます。この機会に、適切な手続きを確実に行うための第一歩を踏み出すことを強くおすすめいたします。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続人申告登記の概要について
横浜市青葉区の青葉台にある高野司法書士事務所でございます。
さて、来月4月1日より、相続登記が申請義務化されますが、新しい制度である「相続人申告登記」の内容についてご説明したいと思います。
まず、相続登記の申請義務化のルールについて確認しておきましょう。
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・基本的義務(不動産登記法第76条の2第1項) 相続や遺贈により不動産を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない。
・遺産分割成立時の追加的義務(不動産登記法第76条の2第2項、第76条の3第4項) 遺産分割によって、不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、遺産分割協議の内容に即した相続登記を申請する義務を負う。 |
上記を踏まえ、相続登記の申請義務化に伴う具体的な対応は以下のようになります。
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【ケース1】 相続開始後3年以内に遺産分割協議が成立しなかった場合 ➡①3年以内に相続人申告登記の申出または法定相続分での相続登記の申請を行う。 ➡①の後、遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議成立日から3年以内に、遺産分割協議の内容に即した相続登記の申請を行う。 ➡①の後、遺産分割協議が成立しなければ、それ以上の登記申請義務は生じない。 |
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【ケース2】 相続開始後3年以内に遺産分割協議が成立した場合 ➡①3年以内に遺産分割協議の内容に即した相続登記の申請を行う。 ➡①が難しい場合等は、3年以内に相続人申告登記の申出または法定相続分での相続登記の申請を行い、遺産分割協議成立日から3年以内に、遺産分割協議の内容に即した相続登記の申請を行う。 |
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【ケース3】 遺言書があった場合 ➡①遺言によって不動産の所有権を取得した相続人が取得を知った日から3年以内に遺言の内容に即した相続登記の申請を行う。 ➡①が難しい場合等は、3年以内に相続人申告登記の申出または法定相続分での相続登記の申請を行う。 |
被相続人が遺言書を残していたというケースを除いては、3年以内に遺産分割協議を成立させ、その内容の相続登記を申請することを目指していくことになろうかと思います。しかし、実際のケースでは3年以内に遺産分割協議がまとまりそうにないという場合も多いでしょう。
そのような場合にひとまず「相続人申告登記」を行うか、「法定相続分による相続登記」を申請するかどちらかを選択することになります。
ただし、この場合は、第76条の2第1項の基本的義務を果たしたことにはなりますが、遺産分割協議が成立した場合は、その成立から3年以内の追加的義務も履行する必要が生じます。
では、「相続人申告登記」とはどのような制度なのでしょうか。その特徴をみてみましょう。
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【相続人申告登記】 相続人が申請義務を簡易に履行することができるようにするため新たに設けられた登記です。 ①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、②自らがその相続人である旨を申請義務の履行期間内に登記官に対して申し出ることで、申請義務を履行したものとみなします。 ➡相続人が複数存在する場合でも特定の相続人が単独で申し出ることが可能(他の相続人の分も含めて代理申出することも可能) ➡オンラインでの申出も可能(押印・電子署名が不要) ➡法定相続人の範囲及び法定相続分の割合の確定が不要 ➡添付書面は、申出をする相続人自身が被相続人(所有権の登記名義人)の相続人であることが分かる当該相続人の戸籍謄本を提出することで足りる |
先ほどもご説明したとおり、3年以内の遺産分割協議の成立が難しい場合は、「相続人申告登記」または「法定相続分による相続登記」を申請することになりますが、「法定相続分による相続登記」は法定相続人の範囲や法定相続分の割合の確定(登記記録に公示されるため)が必要となり、被相続人の出生から死亡に至る一連の戸籍(除籍)謄本等の収集も必須となり、登記申請にあたって手続的な負担がどうしても大きくなってしまいます。
そのため、無理に「法定相続分による相続登記」を選択せずに、相続人にとって、より簡易に手続きできる「相続人申告登記」を申請し、とりあえずの基本的義務を履行しておけることは相続人にとって大きなメリットであると思います。
なお、相続人申告登記は、次のように付記登記で登記されることになります。
| 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項) | |||
| 順位番号 | 登記の目的 | 受付年月日・受付番号 | 権利者その他の事項 |
| 1 | 所有権移転 | 平成●年●月●日第●号 |
原因 平成●年●月●日売買 所有者 ●市●町●番地 甲野太郎 |
| 付記1号 | 相続人申告 | 令和●年●月●日第●号 |
原因 令和●年●月●日申出 相続開始年月日 令和●年●月●日 甲野太郎の相続人として申出があった者 ●市●町●番地 乙野次郎 |

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
遺言書があっても相続登記申請を急ぐべき理由
横浜市青葉区の青葉台にある高野司法書士事務所でございます。今回は、遺言書があっても相続登記申請を急ぐべき理由についてご説明したいと思います。
相続法の改正について
突然ですが、ここでクイズです。
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被相続人: 父 相続人: 長男 二男 父が残した遺言書の内容: 私の所有する自宅不動産は長男に相続させる |
上記のケースで、二男はAからお金を借りていました。Aは二男の債権者です。長男が自宅不動産の相続登記をする前に、借金をしていた二男の債権者Aが法定相続分(長男2分の1、二男2分の1)で相続したとする登記を申請してしまいました。
この場合、長男は、自分が自宅不動産の所有権すべてを相続したとAに主張することができるでしょうか。
答えは「No」です。しかし、以前は相続登記をしなくても自宅不動産は自分のものだと主張することができました。
どういうことかと言うと、令和元年(2019年)7月1日の改正相続法の施行により、遺言により法定相続分より多くの財産を相続した場合、登記、登録などの対抗要件を備えないと、第三者に対抗できなくなりました。法定相続分より多くの財産を取得した相続人は、他人に権利を奪われる可能性がありますので要注意です。
下記が改正された条文になります。
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(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。
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改正法の趣旨
なぜ、このような改正がされたのかというとAのような遺言の内容を知らない第三者を保護するためです。Aとしては、父に相続が発生したら二男が当然、法定相続分である自宅不動産の持分2分の1を相続するだろうから、二男が借金を返済できなくても、二男の不動産持分2分の1を差し押さえて、その売却代金から回収できると考えるでしょう。遺言の存在によって、Aの期待は一方的に裏切られてしまいます。
改正前
遺言があれば、相続登記をせずしてAのような債権者(第三者)に対して自分(二男)が所有者であることを主張できました。そのため、Aとしては、二男の持分を差し押さえてもその差し押さえは無効という結果になってしまいます。
改正後
遺言があっても、相続登記をしなければAのような債権者(第三者)に対して、自分(二男)の法定相続分を超える部分については、自分がその不動産の所有者であることを主張することができません。そのため、Aが先に二男の持分を差し押さえて売却換価することができます。
相続人の間では、改正前でも改正後でも登記なくして対抗することが可能です。すなわち、長男は二男に対して、自分が自宅不動産すべてを相続したと主張することが可能です。
対策は?
長男として対策方法はあるでしょうか。法定相続分を超えた部分につき、先に登記をした方が勝ちということになりますので、速やかに相続登記をすることが何より重要です。また、自筆証書遺言は、相続発生後に家庭裁判所での検認という手続きが必要になり、検認後相続登記の申請までに一定の時間がかかってしまいます。生前から遺言書作成などに関われるのであれば、検認の手続きが不要な公正証書遺言で作成してもらうことも検討すべきかと思います。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
