登記されていないことの証明書とは?

「登記されていないことの証明書」という言葉を耳にしたことがある方は、おそらくそれほど多くはないでしょう。多くの方にとっては馴染みのない書類かもしれません。しかし、この証明書は、特定の場面で非常に重要な役割を果たすため、その内容や取得方法について理解しておくことが大切です。

ここでは、一般的にはあまり知られていない「登記されていないことの証明書」の概要から、取得方法、必要な書類、そして請求時の注意点まで、詳しく解説していきます。

1.登記されていないことの証明書の概要

「登記されていないことの証明書」は、その名称から不動産登記や商業登記に関連するものと誤解されがちですが、実際には成年後見登記に関する証明書です。具体的には、対象となる方が成年被後見人、被保佐人、被補助人、または任意後見契約の本人として、法務局の後見登記等ファイルに記録されていないことを証明する書類です。

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分になった方を法的に保護し、支援するための制度です。この制度が適用されると、成年後見人などが選任され、その権限内容や任意後見契約の内容は、東京法務局後見登録課の「後見登記等ファイル」に登記され、公示されます。

この証明書が必要とされる主な理由は、後見登記等ファイルに記録されている場合、日常生活や営業活動に必要な意思能力が十分でないと見なされるため、一定の資格登録や事業・営業を行うための許認可申請が認められないことがあるからです。そのため、自身がこれらの欠格事由に該当しないことを証明するために、「登記されていないことの証明書」の提出が求められます。

また、この証明書は、成年後見等開始の申立てを行う際にも必須となります。これは、すでに後見登記等ファイルに登記されているにもかかわらず、重ねて同様の審判がされることを防ぐためです。近年では、高齢化の進展に伴い、遺産分割協議の際の判断能力の確認資料として、あるいは財産管理の場面で必要となるケースも増えています。

類似の証明書との違い

「登記されていないことの証明書」と似た書類に「(成年後見)登記事項証明書」や「市区町村発行の身分証明書」がありますが、それぞれ目的が異なります。

(成年後見)登記事項証明書:後見登記等ファイルに記録された事項、つまり成年後見人等の選任事実や権限内容を証明するものです。主に成年後見人等が自身の権限を証明する際に利用されます。

市区町村発行の身分証明書:これは、現在の成年後見制度が開始される前の「禁治産・準禁治産制度」(平成12年3月31日以前)における「登記されていないことの証明書」のようなものです。禁治産者や準禁治産者であったことは戸籍に記載されていたため、その期間の証明が必要な場合に取得します。また、破産者でないことの証明も含まれるため、後見人候補者が破産者でないことの証明や、特定の資格登録・許認可申請において提出を求められる場合があります。

現在の制度(平成12年4月1日以降)についての証明は「登記されていないことの証明書」で、それ以前の期間については「身分証明書」で証明することになります。

2.登記されていないことの証明書の請求方法

この証明書は、主に窓口での申請郵送での申請の2通りで請求が可能です。

請求できる人

請求できる人は以下の通りです。

  • 証明の対象者本人
  • 対象者の配偶者
  • 対象者の四親等内の親族
  • 上記の方から委任を受けた代理人

申請先

申請先は、窓口申請か郵送申請かによって異なります。

窓口での申請東京法務局後見登録課または全国の法務局・地方法務局の「本局」の戸籍課で申請できます。重要な点として、支局や出張所では取り扱いがありませんので注意が必要です。例えば、神奈川県内の法務局を例にとると、横浜市中区にある横浜地方法務局(本局)では窓口での請求が可能ですが、川崎支局や戸塚出張所などのその他の法務局(登記所)では取り扱いがありません。窓口申請であれば、書類に不備がなければ比較的早く、10~20分程度で取得できることが多いです。

郵送での申請: 郵送での申請の請求先は、東京法務局後見登録課のみです。他の法務局に郵送で請求しても受理されませんのでご注意ください。 郵送先は以下の通りです。 〒102-8225(または〒102-8226) 東京都千代田区九段南1丁目1番15号 九段第2合同庁舎 東京法務局 民事行政部 後見登録課 郵送の場合、郵便が到着してから証明書が送付されるまでおおむね1週間程度かかりますが、混雑状況によっては2週間以上かかることもありますので、時間に余裕を持って申請しましょう。

オンライン申請: オンラインでの請求も可能とされていますが、電子署名や特定の電子証明書が必要となり、手間や時間がかかるため、一般の方にはあまり推奨されません。特に、親族が申請する場合、戸籍謄本の電子化が進んでいないため、事実上オンライン申請はできません。

請求に必要な書類

請求する人によって必要書類が異なります。

本人または親族による請求の場合

  • 申請書:法務局のホームページからダウンロードできるほか、窓口でも入手可能です。記載例も参考にし、証明を受ける方の氏名や住所、本籍は戸籍や住民票の通りに、点画をはっきりとした楷書で正確に記入しましょう。
  • 請求者の本人確認書類:運転免許証、健康保険証、パスポート、マイナンバーカードなど。郵送申請の場合はコピーを同封します。
  • 証明の対象者との関係を証明する戸籍謄本等(配偶者や親族による請求の場合のみ):配偶者や四親等内の親族であることを証明するため、戸籍謄抄本や住民票などの提出が必要です。

有効期限:提出時点で発行から3か月以内のものが求められます。ただし、除籍謄抄本や改製原戸籍謄抄本が必要な場合は、発行後3か月以内のものでなくても問題ありません。
原本還付:提出した戸籍謄本などの原本は、申請と同時に原本還付の手続きを行えば返却してもらうことが可能です。これにより、後に成年後見等の申立てで再度必要になる際に利用できます。

委任を受けた代理人による請求の場合

  • 申請書:本人や親族による請求の場合と同様です.
  • 代理人の本人確認書類:郵送の場合はコピーを同封します。
  • 証明の対象者との関係を証明する戸籍謄本等(配偶者や親族から委任された代理人の場合のみ):本人と委任者(請求者)の関係を証明する戸籍謄抄本が必要です。こちらも原本還付が可能です。
  • 委任状:本人または親族等から委任を受けたことを証明するために必要です。委任状は手書きで作成でき、法務局のホームページに書式や記載例が公開されています。
  • 返送用封筒:郵送申請の場合、返送先を明記し、切手を貼付した返信用封筒を忘れずに同封します。レターパックなど記録される郵便を利用するとより安心です。

委任状には押印が不要です。
法人が代理人となる場合は、代表者資格証明書(発行から3か月以内)が必要ですが、申請書に会社法人等番号を記載することで提出を省略できます。
なお、委任状は証明書のためだけに作成される書類であるため、原本還付はできません。

請求にかかる費用

発行手数料:証明書1通につき300円です。この手数料は、申請用紙の所定の場所に収入印紙を貼り付けて納めます。収入印紙は郵便局や法務局などで購入できます。コンビニでは200円印紙のみの取り扱いが多いですが、複数枚貼り付けて合計300円にすることも可能です。

• その他、親族等による請求の場合には戸籍謄本等の発行手数料(1通につき450円)や、郵送による請求の場合には往復の郵便料金(切手代)が別途必要になります。

請求の際の注意点

「登記されていないことの証明書」を請求する際には、いくつかの注意点があります。

戸籍謄本等の有効期限:本人以外の親族が請求する場合に添付する戸籍謄本等は、提出時点で発行から3か月以内のものでなければなりません(ただし、除籍謄抄本や改製原戸籍謄抄本は期限がありません)。期限切れのものを提出すると再提出となり、手続きに余計な時間がかかるため、発行日を必ず確認しましょう。

添付書類の原本還付処理:戸籍謄本等の原本提出が必要な場合、原則として提出された書類は返却されませんが、請求と同時に原本還付の手続きを行えば返却してもらえます。原本還付を希望する場合は、返却してもらいたい書類のコピーを取り、「この写しは原本と相違ありません」と記載し、請求者の氏名を署名(または記名)し、必要に応じて押印(認印可)の上、各ページに契印(複数枚にわたる場合)をして原本と一緒に提出します。

申請書の証明事項欄のチェック間違い:申請書には証明事項をチェックする欄が4つほど並んでいます。成年後見等の申立てを行う場合は、必ず「成年被後見人,被保佐人,被補助人,任意後見契約の本人とする記録がない。」の箇所(上から3番目のチェックボックス)にチェックを入れてください。これは、任意後見契約がある場合、原則として任意後見が優先されるため、その有無についても証明する必要があるからです。

証明書の有効期限とその後の手続き:取得した証明書自体に有効期限の記載はありませんが、提出先によっては「発行から3か月以内」など、一定期間内に発行されたものを求められる場合があります。そのため、証明書を取得したら、その後の成年後見開始申立てなどの手続きを早めに進めることをお勧めします.

3.専門家へのご相談をおすすめします

「登記されていないことの証明書」の請求・取得手続き自体は、この記事を参考にすればご自身でも十分可能ですが、その後の成年後見申立てなどの手続きは、多くの方にとって複雑で時間のかかるものです。特に、書類の不備があったり、郵送でのやり取りで時間がかかったりすると、必要な手続きが滞ってしまう可能性があります.

ご自身で申立てを行うのが難しいと感じる方、あるいは迅速な手続きが必要でご自身では時間を取れない方は、証明書の取得も含めて、司法書士などの専門家にご相談されることをおすすめします。専門家は、煩雑な書類作成や手続きの代理をサポートし、皆様の負担を軽減することができます。

ご不明な点やご不安な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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