相続が発生し、亡くなった方が所有されていた不動産を承継する場合、相続登記(正式名称:相続による所有権移転登記) の手続きが必須となります。この手続きは、不動産の所有権を公的に証明するために不可欠ですが、申請時には登録免許税という税金が課されます。
2024年4月1日からは相続登記が義務化され、不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請を行わないと、10万円以下の過料が科される可能性があるため、迅速かつ正確な手続きが求められます。
本記事では、相続登記をスムーズに進めるために、登録免許税の基本的な計算方法から、正確な税額を導くための具体的な手順、適用される免税措置、そして納付方法までを詳しく解説します。
このページの目次
1.登録免許税とは:相続登記に必要な税金の基礎知識
登録免許税は、不動産や会社、資格などに関する登記・登録といった行政サービスに対して課される国税です。相続登記の場合、その税額は、対象となる不動産の価格(課税標準額)に一定の税率をかけて算出されます。
相続や遺贈によって不動産を取得した場合は、登録免許税の税率は0.4%が適用されるのが一般的です。ただし、遺贈によって相続人以外の人が不動産を取得した場合は、税率が2.0%となります。
登録免許税の計算式は以下の通りです。
登録免許税額 = 課税標準額 × 税率
この計算を正確に行うことが、適正な納税、ひいてはスムーズな相続登記の鍵となります。
2.登録免許税の「課税標準額」を確定する手順
登録免許税の計算の基礎となる課税標準額は、不動産の固定資産税評価額を基に算出されます。課税標準額を確定するためには、次のステップを踏みます。
1. 固定資産税評価額の確認と課税明細書の見方
まず、課税標準額の基となる不動産の固定資産税評価額を調べる必要があります。この情報は、主に以下の書類で確認できます。
- 固定資産税・都市計画税 課税明細書
- 固定資産評価証明書
課税明細書は、通常、毎年4月から6月頃に不動産の所有者宛に送付される固定資産税の納税通知書に同封されています。
課税明細書の「見方」で注意すべき点
課税明細書や固定資産評価証明書を確認する際、登録免許税の計算基準となるのは「価格」または「評価額」と表記されている箇所です。
書類上には、「固定資産税課税標準額」という名称の金額も記載されていますが、これは固定資産税などを計算するための基準であり、登録免許税の算定基準とは異なりますので、絶対に混同しないように注意しましょう。
また、計算に使用する評価額は、登記を申請する日が属する年度(4月1日~翌年3月31日)の最新のものを使用しなければなりません。
2. 課税標準額の計算ルール
複数の不動産がある場合
相続登記を一つの申請書で複数の不動産について行う場合(例:土地と建物、または複数筆の土地)、それぞれのすべての固定資産税評価額を合算します。
合算した合計額について、1,000円未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てます。この切り捨てを行った金額が、登録免許税の課税標準額となります。
共有持分を相続する場合
亡くなった方が不動産の一部(共有持分)を所有していた場合、不動産全体の固定資産税評価額に、移転する持分の割合をかけて、相続する持分の評価額を算出し、その後1,000円未満の切り捨てを行います。
3. 特殊な不動産の場合の評価額
マンション(敷地権付き区分建物)
マンションを相続する場合、建物(専有部分)の評価額に加えて、土地(敷地部分)の評価額も考慮します。敷地部分の評価額は、マンション全体の土地の評価額に、敷地権割合をかけて算出し、建物と合算します。
非課税の土地(私道など)
私道や公衆用道路など、固定資産税が非課税となっている土地であっても、相続登記を行う際には登録免許税が課税されます。これらの非課税地の評価額が固定資産評価証明書に記載されていない場合、近隣の宅地(近傍宅地)の単価を基に評価額を算出します。公衆用道路の場合、近傍宅地の1㎡あたりの価額に地積と30%を乗じて計算するのが一般的です。
3.最終的な税額の算出と端数処理
課税標準額に税率(相続人の場合は0.4%)をかけた後、最終的な税額を確定するために再度端数処理が必要です。
算出した金額に100円未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てます。 また、計算結果が1,000円未満となった場合でも、登録免許税の最低額は1,000円と定められています。
4.相続登記の登録免許税の免税措置
長期間放置された相続登記の解消を促すため、現在、土地に限り登録免許税が免除される免税措置が設けられています。この措置は令和9年3月31日までに登記申請を行った場合に適用されます。
1. 免税措置が適用される2つのケース
以下の2つの要件を満たす土地の相続登記が免税措置の対象となります。
① 相続登記をしないまま亡くなった場合(数次相続)
相続人が相続により土地を取得したにもかかわらず、その相続登記を行わないまま死亡した場合、その亡くなった個人の名義とするための相続登記については、登録免許税が免除されます。これは、数次相続が発生した場合の、中間省略登記が可能でない場合の一次相続登記の負担を軽減するものです。
② 土地の価額が100万円以下の場合
相続によって取得した土地の固定資産税評価額(価額)が100万円以下であるときは、登録免許税が免除されます。この基準は、令和4年度の税制改正で10万円から100万円に引き上げられ、適用対象が全国に拡大されました。
2. 免税措置を受けるための手続き
免税措置の適用を受けるためには、法務局に提出する登記申請書に、その根拠となる法令の条項を必ず記載しなければなりません。
• 数次相続の場合:「租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税」。
• 価額100万円以下の場合:「租税特別措置法第84条の2の3第2項により非課税」。
この記載が漏れると、免税措置は適用されませんので、細心の注意が必要です。
5.登録免許税の納付方法
登録免許税は、相続登記の申請を行う際に納付します。納付方法は主に以下の3種類です。
1. 収入印紙による納付
実務上、最も一般的な納付方法です。郵便局などで購入した収入印紙を、登記申請書に添付する別紙に貼り付けて提出します。高額な場合でもこの方法が利用されることが多いです。
2. 現金による納付
現金で納付する場合、法務局の窓口では直接支払いができないため、金融機関または税務署で納付手続きを行います。納付後、交付された領収証書を登記申請書に添付して提出します。
3. キャッシュレス(オンライン)納付
オンラインで登記申請を行う場合は、インターネットバンキングやモバイルバンキング、ATMを利用して電子納付が可能です。これにより、自宅などから申請から納付までの手続きを完了できます。
6.司法書士へのご相談をおすすめいたします
登録免許税の計算は、複数の不動産や特殊な評価が必要な場合、また課税明細書と登記簿の情報の相違がある場合の見方の判断など、専門的な知識が必要とされる場面が多くあります。正確かつスムーズに手続きを完了させたい、複雑な計算や書類の準備に不安があるという場合は、ぜひ専門家にご相談ください。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
