相続人申告登記の概要について

横浜市青葉区の青葉台にある高野司法書士事務所でございます。

さて、来月4月1日より、相続登記が申請義務化されますが、新しい制度である「相続人申告登記」の内容についてご説明したいと思います。

まず、相続登記の申請義務化のルールについて確認しておきましょう。

・基本的義務(不動産登記法第76条の2第1項)

相続や遺贈により不動産を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければならない。

 

・遺産分割成立時の追加的義務(不動産登記法第76条の2第2項、第76条の3第4項)

遺産分割によって、不動産を取得した相続人は、遺産分割が成立した日から3年以内に、遺産分割協議の内容に即した相続登記を申請する義務を負う。

上記を踏まえ、相続登記の申請義務化に伴う具体的な対応は以下のようになります。

【ケース1】 相続開始後3年以内に遺産分割協議が成立しなかった場合

➡①3年以内に相続人申告登記の申出または法定相続分での相続登記の申請を行う。

➡①の後、遺産分割協議が成立したら、遺産分割協議成立日から3年以内に、遺産分割協議の内容に即した相続登記の申請を行う。

➡①の後、遺産分割協議が成立しなければ、それ以上の登記申請義務は生じない。

【ケース2】 相続開始後3年以内に遺産分割協議が成立した場合

➡①3年以内に遺産分割協議の内容に即した相続登記の申請を行う。

➡①が難しい場合等は、3年以内に相続人申告登記の申出または法定相続分での相続登記の申請を行い、遺産分割協議成立日から3年以内に、遺産分割協議の内容に即した相続登記の申請を行う。

【ケース3】 遺言書があった場合

➡①遺言によって不動産の所有権を取得した相続人が取得を知った日から3年以内に遺言の内容に即した相続登記の申請を行う。

➡①が難しい場合等は、3年以内に相続人申告登記の申出または法定相続分での相続登記の申請を行う。

被相続人が遺言書を残していたというケースを除いては、3年以内に遺産分割協議を成立させ、その内容の相続登記を申請することを目指していくことになろうかと思います。しかし、実際のケースでは3年以内に遺産分割協議がまとまりそうにないという場合も多いでしょう。

そのような場合にひとまず「相続人申告登記」を行うか、「法定相続分による相続登記」を申請するかどちらかを選択することになります。

ただし、この場合は、第76条の2第1項の基本的義務を果たしたことにはなりますが、遺産分割協議が成立した場合は、その成立から3年以内の追加的義務も履行する必要が生じます。

では、「相続人申告登記」とはどのような制度なのでしょうか。その特徴をみてみましょう。

【相続人申告登記】

相続人が申請義務を簡易に履行することができるようにするため新たに設けられた登記です。

①所有権の登記名義人について相続が開始した旨と、②自らがその相続人である旨を申請義務の履行期間内に登記官に対して申し出ることで、申請義務を履行したものとみなします。

➡相続人が複数存在する場合でも特定の相続人が単独で申し出ることが可能(他の相続人の分も含めて代理申出することも可能)

➡オンラインでの申出も可能(押印・電子署名が不要)

➡法定相続人の範囲及び法定相続分の割合の確定が不要

➡添付書面は、申出をする相続人自身が被相続人(所有権の登記名義人)の相続人であることが分かる当該相続人の戸籍謄本を提出することで足りる

先ほどもご説明したとおり、3年以内の遺産分割協議の成立が難しい場合は、「相続人申告登記」または「法定相続分による相続登記」を申請することになりますが、「法定相続分による相続登記」は法定相続人の範囲や法定相続分の割合の確定(登記記録に公示されるため)が必要となり、被相続人の出生から死亡に至る一連の戸籍(除籍)謄本等の収集も必須となり、登記申請にあたって手続的な負担がどうしても大きくなってしまいます。

そのため、無理に「法定相続分による相続登記」を選択せずに、相続人にとって、より簡易に手続きできる「相続人申告登記」を申請し、とりあえずの基本的義務を履行しておけることは相続人にとって大きなメリットであると思います。

なお、相続人申告登記は、次のように付記登記で登記されることになります。

 権 利 部(甲区) (所有権に関する事項)
 順位番号  登記の目的 受付年月日・受付番号  権利者その他の事項
 1  所有権移転 平成●年●月●日第●号

原因 平成●年●月●日売買

所有者 ●市●町●番地

甲野太郎

 付記1号  相続人申告 令和●年●月●日第●号

原因 令和●年●月●日申出

相続開始年月日 令和●年●月●日

甲野太郎の相続人として申出があった者

●市●町●番地

乙野次郎

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