死後事務委任契約の費用相場と注意点

少子高齢化や核家族化が進む現代において、ご自身の死後の手続きに不安を感じる方が増加しています。人が亡くなると、病院や施設への支払い、役所への届け出、そしてご自身の希望する葬儀やお墓の手配など、さまざまな事務手続きが必要となりますが、これらを頼める家族や親族がいない、あるいは迷惑をかけたくないという方も少なくありません。

こうした不安を解消する有効な手段として注目されているのが、「死後事務委任契約」です。これは、ご本人が生存中に、ご自身の死後に発生する各種事務手続きを、信頼できる個人や法人などの第三者(受任者)に委託する契約です。この契約により、ご自身の最期の意向を確実に実現させ、残された方々の精神的・物理的負担を軽減することが可能になります。

本記事では、死後事務委任契約の具体的な内容、特に費用相場の内訳と支払い方法、そして契約を検討するうえで知っておくべき重要な注意点について、詳しく解説します。

1.死後事務委任契約で依頼できること・できないこと

死後事務委任契約は、ご自身の死後に必要な手続きの代理権を第三者に委任する契約であり、委任者と受任者の合意に基づいて成立し、法的な拘束力が発生します。

1. 死後事務委任契約で依頼できる主な内容

依頼できる事務の範囲は非常に幅広く、ご自身の希望や状況に合わせて、すべての事務を委任することも、一部の事務のみを依頼することも可能です。

  1. 葬儀・埋葬・供養に関する手続き: ご遺体の引き取り、火葬、納骨、永代供養の手配と執行。葬儀の規模や形式について、生前の希望を反映できます。
  2. 行政関係の手続き: 健康保険証や年金受給資格の抹消手続きなど、行政機関への届出。
  3. 契約の解約と清算: 医療費、入院費、公共料金、賃貸借契約、クレジットカードなどの解約や精算。
  4. 居宅の清掃・家財の処分: 居住していた部屋や施設の清掃、遺品整理、家財の処分や売却の手配。
  5. デジタル遺品の整理: SNSアカウントの削除やデジタルデータの消去、有料ウェブサービスの解約。
  6. その他: 親族や関係者への死亡通知の連絡、残されたペットの引継ぎ先の指定など。

2. 死後事務委任契約ではできないこと

死後事務委任契約は当事者間の合意に基づき契約内容を自由に定められる「私法上の契約」ですが、法律上、委任者には権限が及ばない事項があり、死後事務委任契約ではできないこととして、主に以下の3点が挙げられます。

  1. 相続や身分関係に関する事項: 誰にどの財産を相続させるか、遺産分割方法の指定、子の認知、遺言執行者の指定など、相続財産の分配や身分に関する事項はできません。これらの希望を確実に実現するためには、遺言書を作成し、遺言執行者を指定する必要があります。
  2. 委任者の財産の処分: 受任者は、委任者の銀行口座の解約(預金の払い戻し)や不動産の売却など、個人の財産を処分する権限を持ちません。財産の処分を伴う手続き(預金の払い戻しを含む)は、遺言書で指定された遺言執行者などがその権限を持ちます。
  3. 生前におこなうべき手続き: 委任者が存命中の財産管理や、介護や医療の契約などの身上監護は対象外です。生前のサポートが必要な場合は、「任意後見制度」や「家族信託」などの他の制度を併用して検討する必要があります。

死後事務を確実に履行しつつ、財産の承継もスムーズに行うためには、死後事務委任契約と遺言書をセットで作成することが非常に重要です。

2.死後事務委任契約の費用相場と内訳

死後事務委任契約にかかる費用は、依頼内容や依頼先によって幅がありますが、一般的に「契約関連費用」「受任者への報酬」「預託金」の3つの内訳で構成され、トータルで50万円から200万円程度(預託金の額による)が目安となることが多いです。

1. 契約関連費用(公正証書費用など)

契約を締結し、文書化するために必要な費用です。

契約書作成料

専門家に契約書の作成を依頼する場合の報酬は、一般的に数万円から30万円程度が相場とされています。専門家は、ご依頼者の意向を正確に反映し、法的に有効な文書を作成するサポートを行います。

公正証書作成手数料

死後事務委任契約は、後日のトラブル防止や契約の確実性を担保するために、公証役場で公正証書として作成することが強く推奨されます。

公正証書作成にかかる公証人への手数料は、基本料金が1万1,000円程度です。

• その他、謄本の交付手数料などの実費が発生します。 公正証書を作成しておけば、契約書を紛失した場合でも再発行が可能であり、契約内容の改ざんを防ぐ効果もあります。

2. 受任者への報酬

実際に死後事務を遂行する受任者に支払う対価です。専門家や民間事業者へ依頼する場合、基本報酬として20万円から50万円、あるいはトータルで50万円から100万円程度が相場とされています。

報酬は案件ごとに細かく設定されることが一般的で、例えば、遺体の引取りや葬儀社との打ち合わせ、埋葬・納骨の代行といった手続きごとに費用が定められている場合があります。遺言執行者がいる場合、役割の重複は無駄なコストにつながるため、契約時に役割分担を明確にすることが費用を抑えるポイントの一つです。

3. 預託金(実費)の相場と重要性

預託金とは、葬儀費用、納骨費用、医療費の清算、遺品整理など、死後事務の実費として生前に受任者に預けておく資金です。

相場: 一般的な相場は100万円から200万円程度とされています。

目的: 委任者が亡くなった直後は、相続手続きが完了するまで原則として故人の財産(相続財産)を使用できないため、この間に受任者が費用を立て替える必要がないようにするために預けておきます。

預託金の清算: 手続き完了後、預託金の残金は相続財産として相続人に返還されます。

3.死後事務委任契約にかかる費用の支払い方法

死後事務委任契約の費用(報酬や実費)の支払い方法は、主に以下の3つが考えられます。

1. 預託金で支払う(預託金清算方式) 契約時にまとまった金額を代理人(受任者)に預けておき、死後にその預託金から費用を精算する方法です。費用不足のリスクが低く、手続きをスムーズに進められるという大きなメリットがあります。

2. 遺産から支払う(遺産清算方式) 死後事務委任契約と同時に遺言書を作成し、受任者を遺言執行者に指定することで、故人の遺産から死後事務の費用を清算する方式です。この方式の最大のメリットは、契約時に高額な預託金を事前に支払う必要がない点です。ただし、費用を遺産から捻出するためには、遺言執行者の権限が必要となります。

3. 生命保険金で清算する 生命保険を利用し、保険金を死後事務の費用に充てる方法です。この方法は、初期の出費を抑えられる反面、保険金の受取人を法人や専門家に直接指定できないケースが多い点や、親族との調整が必要となる点に注意が必要です。

4.死後事務委任契約の検討を特におすすめしたい方

死後事務委任契約は、ご自身の死後の手続きを確実に実行したい場合に非常に有効な手段であり、特に以下のような状況にある方は、積極的に検討すべきです。

  1. おひとりさま: 独身の方や、配偶者や子どもがいない方など、亡くなった後の手続きを担ってくれる身近な人がいない場合
  2. 家族や親族に負担をかけたくない人: 親族が高齢である、あるいは遠方に住んでいるなど、煩雑な事務手続きの負担を軽減したいと考える場合。
  3. 家族と疎遠な人: 家族と関係が悪く、死後事務に関わってほしくないと希望する場合。
  4. 内縁の夫婦や同性カップル: 法律上の婚姻関係がないパートナーは法定相続人ではないため、パートナーに死後事務を任せるために契約を結ぶ必要があります。
  5. 特定のエンディングを希望する人: 葬儀の内容や納骨先(散骨や樹木葬など)について強い希望がある場合、その遺志を確実に実現させるために有用です。

5.契約締結時に知っておくべき重要な注意点

死後事務委任契約を円滑かつ確実に履行するために、契約締結時には以下の点に十分注意する必要があります。

1. 意思能力の欠如による契約無効リスク

死後事務委任契約を締結する際には、委任者が判断能力(意思能力)を有していることが必須条件です。認知症などにより意思能力がないと判断された場合、契約自体が無効となる可能性があります。ご自身の意思を反映した契約を結ぶためにも、検討を始めたら、できるだけ早い段階で行動に移すことが求められます。

2. 親族とのトラブル回避のための連携

死後事務委任契約は委任者と受任者の二者間で締結されますが、契約の存在を知らない親族との間でトラブルになるケースが少なくありません。手続きを円滑に進め、後の紛争を防ぐためにも、事前に契約内容や依頼先について親族に説明し、理解を得ておくことが望ましいです。

3. 預託金の適切な管理の確認

預託金を預ける方式を選択する場合、受任者による使い込みや、依頼先の倒産による預託金の返還不能といったトラブルを回避するための対策が不可欠です。契約前に、預託金が事業者の運営資金と区別され、安全に管理されているか、また契約書に預託金の返還に関する規定が明確に明記されているかを必ず確認しましょう

4. 契約を有効にするための特約の必要性

民法上、委任契約は委任者の死亡により終了すると定められています。死後事務委任契約を有効にするためには、この規定にかかわらず、「委任者の死亡によっても契約を終了させない」旨の特約を契約書に明記しておくことが不可欠です。

6.困ったときはご相談ください

死後事務委任契約は、できないことがあるため、遺言書や任意後見契約といった他の制度と組み合わせて検討することが、さらに万全な備えとなります。特に相続財産の分配や処分を希望する場合は、遺言執行者の選任とセットで検討する必要があります。

ご自身の状況に最適な契約内容や費用について検討し、安心して最期を迎えるための準備を進めましょう。

死後事務委任契約に関するご相談や、ご自身の状況に合わせた最適なプランの作成については、ぜひ専門的な知識を持つ当事務所にご相談ください。

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