成年後見は「一生やめられない」から解放へ!親の認知症に備える家族の新ルール

高齢のご両親を持つ世代の方々から、「もし親が認知症になってしまったら、実家の管理や預金口座の凍結はどうやって対処すればいいのか」という切実なご相談を数多くいただきます。その際の解決策として「成年後見制度」がありますが、世間では「一度使い始めると一生やめられない」「専門家に毎月高い費用を払い続けなければならない」といったネガティブなイメージが強く、利用をためらってしまうご家族が少なくありませんでした。

しかし、2026年4月、政府は成年後見制度の抜本的な見直しと、新時代の「デジタル遺言」の創設を柱とする民法等の一部改正案を閣議決定しました。順調に進めば、2028年度中にもこの新しいルールが実運用される見込みです。

この法改正は、超高齢社会の日本において、個人の尊厳を守りながら、より柔軟で使いやすい財産管理の仕組みを作る「歴史的な大転換」となります。今回は、この法改正によってご家族の負担がどう軽くなるのか、そして今からどのような準備をしておくべきかを、わかりやすく解説いたします。

1.なぜ今の成年後見制度は「使いにくい」のか?

現在、日本の認知症高齢者は約600万人に達すると言われていますが、成年後見制度の利用者は約24万人(約4%)と非常に低迷しています。なぜこれほどまでに利用率が低いのでしょうか。それには、現在の制度が抱える「3つの大きな壁」があります。

① 一度始めると一生やめられない(終身制の縛り)

現在、最も高いハードルとなっているのがこのルールです。例えば、「親の銀行口座が凍結されたから解約したい」「介護費用を作るために空き家になった実家を売却したい」といった、ただ一つの目的のために後見人を立てたとしても、その手続きが終わったからといって途中で制度をやめることはできません。本人の判断能力が回復しない限り、亡くなるまでずっと後見が続くことになります。

② 専門職への毎月の報酬負担

制度が一生続くということは、費用の負担も一生続くことを意味します。現在、後見人の約8割以上は親族ではなく、弁護士や司法書士などの専門職が選任されています。専門職が就くと、毎月2万円〜6万円程度の報酬を、親の財産から亡くなるまで支払い続けなければならず、これがご家族にとって重い負担となっています。

③ 権限が強すぎることによる「不自由さ」

現行の制度は、判断能力に応じて「後見・保佐・補助」の3つに分かれています。特に一番重い「後見」になると、後見人がすべての財産管理を行うため、本人が自分で決められること(自己決定権)が大きく奪われ、保護が行き過ぎてかえって不自由になるという国際的な批判もありました。

2.改正で成年後見はどう変わる?(3つの大改革)

こうした「使いにくさ」を解消するため、今回の改正案では以下のような画期的な見直しが行われます。

改革①:「必要な時だけ」のスポット利用が可能に!

最大のポイントは、「終身制の廃止」です。 実家の売却や遺産分割協議など、特定の目的のために制度を利用した場合、その手続きが完了して財産管理の必要性が低くなったと家庭裁判所が認めれば、途中で制度を終わらせることができるようになります。あらかじめ期間を定めた利用も検討されており、「一生の縛り」から解放され、ライフステージに合わせて必要な期間だけ利用することができるようになります。

改革②:オーダーメイド型の「補助」に一本化

これまでの「後見・保佐・補助」という硬直化した3つの枠組みが廃止され、本人の意思を最も尊重できる「補助」という仕組みに一本化されます。 一律にすべての権限を取り上げるのではなく、「この不動産の売買の手続きだけ手伝う」というように、本人の能力や生活状況に合わせて、必要な範囲にだけ限定して権限を設定する方式に変わります。これにより、ご本人が自分でできることはそのままに、本当に必要な部分だけをサポートする「真のオーダーメイド型支援」が実現します。

改革③:後見人の交代がスムーズに

これまでは、後見人に不正がない限り途中で交代させることは困難でした。しかし改正後は、状況の変化に応じて柔軟に交代できるようになります。 例えば、「最初の複雑な法的手続き(不動産売却など)は司法書士に任せ、それが終わって日常的な生活支援が中心になれば、ご家族や福祉関係者にバトンタッチする」といった合理的なリレーが可能になります。

3.もう一つの目玉「デジタル遺言」の誕生

成年後見の改革と並んで大きな話題となっているのが、「デジタル遺言(保管証書遺言)」の創設です。

これまで、自分で書く遺言(自筆証書遺言)は、財産目録などを除き原則として全文を手書きしなければならず、ご高齢の方には大きな身体的負担でした。一方、公証役場で作る遺言は確実ですが、費用や手間がかかります。

新設されるデジタル遺言は、パソコンやスマートフォンを使って電子データとして遺言を作成できます。さらに素晴らしいのは、公証役場へ出向くのが難しい方のために、ウェブ会議(ビデオ通話)を使って本人確認や内容確認ができるようになる点です。画面越しにマイナンバーカード等を提示し、遺言を読み上げることで、ご自宅にいながら安全に法的な遺言を残すことができます。データは公証役場で厳重に保管されるため、紛失や一部の相続人による改ざんのリスクも完全に防ぐことができます。


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4.AIの進化で近未来の「家族の役割」はどう変わるのか?

成年後見制度を利用する際、「月に数回専門家が来るだけで、親の本当の気持ちがわかるのだろうか?」と不安に思う方も多いかもしれません。しかし近い将来、「AIアバターによる24時間見守り」が制度を強力にサポートする時代がやってきます。

ご自宅や施設にいるAIが、毎日の何気ない会話からご本人の体調やストレス、認知機能の微妙な変化を察知します。私たち専門家は、そのデータをもとに「本当は自宅に住み続けたい」といったご本人の真の願いをより正確に汲み取れるようになり、専門家が離れている期間もAIが切れ目のない安全網(セーフティネット)として機能します。

さらに、法改正で「必要な時だけのスポット利用」が可能になることで、ご家族の役割も根本から変わります。 不動産売却や複雑な遺産分割など、高度な法律知識が必要な時だけ司法書士に任せ、それ以外の期間はAIのサポートを受けながらご家族が見守るという「上手な分業」ができるようになるのです。

これまでご家族を苦しめてきた「複雑な財産管理」や「裁判所への定期報告」という重圧から解放され、ご家族は本来の最も大切な役割である「精神的な寄り添い」や「日々の暮らしのサポート」に専念できるようになります。テクノロジーと新制度の融合が、ご家族の負担を減らし、より温かい関係を築く手助けをしてくれるはずです。

5. 将来の安心は「今」の相談から

制度が「必要な時だけ使える」ように柔軟になり、デジタル遺言が導入されたとしても、目前に発生する遺産分割協議、戸籍の収集、銀行口座の解約、そして2024年に義務化された不動産の相続登記といった「面倒な法的手続き」そのものがなくなるわけではありません。

むしろ、制度がオーダーメイド化し選択肢が増えるからこそ、「今の我が家の状況にとって、どのタイミングで、どの制度を利用するのが最適か」という戦略的な判断がこれまで以上に重要になります。

2026年の民法改正案は、「成年後見は一生やめられない」という呪縛からご家族を解放し、必要な支援をオーダーメイドで組み上げることができる希望の光です。

しかし、法改正を待つ間にも時間は過ぎていきます。大切なのは、制度の大きな転換点をきっかけに、「今のうちから最適な対策を専門家と話し合っておくこと」です。

将来の不安を先送りせず、複雑で面倒な相続手続きや、ご両親の財産管理に関するお悩みは、地域に深く根差し親身になってサポートする高野司法書士事務所へぜひお任せください。

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