家族が亡くなった後、遺産を整理していると「株をやっていたと聞いたことはあるが、どこの証券会社を使っていたのかさっぱりわからない」という事態に直面することがあります。かつてのような紙の株券は2009年に電子化され、現在はすべてデータで管理されているため、手がかりがないと調査は困難を極めます。
そのようなときに頼りになるのが、日本の証券決済インフラを一手に担う証券保管振替機構(通称:ほふり)です。本記事では、証券会社が不明な株式を調査するための「ほふり」への開示請求について、手続きの流れや必要書類をわかりやすく解説します。
このページの目次
1.証券会社がわからない…そんな時の救世主「ほふり」とは?
「ほふり」とは、証券保管振替機構の略称です。日本で唯一の振替機関として、上場企業の発行する株式や投資信託などの権利を電子的に一括管理しています。
2009年(平成21年)の株券電子化以降、上場株式はすべてデジタルデータとしてこの機構に登録されるようになりました。そのため、亡くなった方(被相続人)がどこの証券会社に口座を持っていたとしても、「ほふり」に問い合わせれば、その口座が開設されている金融機関名を特定できるという仕組みです。
近年、新NISAの普及やスマートフォン証券の台頭により、ご家族に投資状況を知られないまま証券口座を保有している方も少なくありません。そのため、相続発生時に「ほふり」への調査依頼を行うケースが実務上増えています。
2.「ほふり」への開示請求でわかること・わからないこと
調査を始める前に、まず開示請求によって何が判明し、何が判明しないのかを正しく理解しておく必要があります。
確認できる情報
- 口座が開設されている金融機関名(証券会社や信託銀行など)の一覧
- 口座管理機関ごとの「加入者口座コード」
確認できない情報
- 保有している株式の銘柄名
- 株式の保有残高や評価額
- 過去の取引履歴
- 非上場株式や外国株式の口座情報(原則として対象外)
つまり、「ほふり」はあくまで「どこに口座があるか」を教えてくれる窓口であり、具体的な中身については、判明した証券会社に対して個別に問い合わせる必要があります。
3.開示請求ができる人は誰?
大切な個人情報を扱うため、誰でも請求できるわけではありません。相続において請求が認められているのは、主に以下の方々です。
1. 法定相続人(亡くなった方の配偶者や子供など)
2. 法定相続人の法定代理人(親権者や成年後見人など)
3. 法定相続人から委任を受けた任意代理人(司法書士や行政書士など)
4. 遺言執行者(遺言書で指定された人)
内縁のパートナーや、相続権のない親族は直接請求することができないため注意が必要です。
4.手続きの具体的な流れ
「ほふり」への調査は、すべて郵送で行います。窓口での受付や、電話・メールによる回答は一切行われていません。
ステップ1:必要書類の準備
まず、機構のホームページから「登録済加入者情報開示請求書」をダウンロードし、必要事項を記入します。あわせて、相続関係を証明する書類を揃えます。
ステップ2:書類の郵送
準備した書類を、東京都中央区にある「証券保管振替機構 開示請求事務センター」へ郵送します。重要書類が含まれるため、書留やレターパックなどの記録が残る方法が推奨されます。
ステップ3:結果の受取と費用の支払い
書類に不備がなければ、通常3週間から1ヶ月程度で結果が届きます。結果は「代金引換郵便(簡易書留)」で送られてくるため、その際に郵便局員へ手数料を支払って受け取ります。
5.開示請求に必要な書類(相続人が請求する場合)
手続きには多くの必要書類が必要です。2023年2月以降、多くの確認書類が「原本不可・すべてコピー」での提出に変更されました。原本を郵送しても返却されないため、必ずコピーを準備してください。
主な必要書類は以下の通りです。
• 開示請求書(機構指定の様式。氏名・住所ごとに作成)
• 請求者(相続人)の本人確認書類のコピー(運転免許証、マイナンバーカード表面など)
• 被相続人と請求者の関係を示す書類
- 法定相続情報一覧図の写し(これがあれば戸籍は不要。手数料も安くなります)
- または、被相続人の死亡と相続関係がわかる「戸籍謄本等」のコピー
• 被相続人の住所確認書類のコピー(住民票の除票、戸籍の附票、証券会社からの郵便物など)
6.調査にかかる費用
開示請求には手数料がかかります。
• 基本料金:1件につき 6,050円(税込)
• 割引制度:法定相続情報一覧図を提出すると、1,100円割引(4,950円)になります。
• 追加料金:複数の住所や旧姓で調査を希望する場合、2件目以降は1件あたり1,100円が加算されます。
例えば、現住所と1つ前の住所の両方で調べたい場合は、計7,150円が必要です。なお、調査の結果「該当なし」だった場合でも、費用は発生します。
7.ここが盲点!「信託銀行の特別口座」とは?
「ほふり」から届いた結果通知書に、見慣れない「信託銀行」の名前が記載されていることがあります。これは「特別口座」と呼ばれ、株券電子化の際に証券会社に預けていなかった株式を、会社側が仮の口座として用意したものです。
特に、単元未満株(端株)と呼ばれる100株に満たない端数の株は、この特別口座で管理されていることが非常に多いです。この場合、証券会社からの案内が届かないため家族が気づきにくく、「ほふり」の調査で初めて判明することも珍しくありません。
8.調査結果が出た後のステップ
「ほふり」の調査はあくまで「スタートライン」です。口座のある証券会社が判明したら、次は以下の手続きを進めます。
1. 各証券会社へ連絡:名義人が亡くなったことを伝え、相続用の書類一式を請求します。
2. 残高証明書の取得:亡くなった当日の保有銘柄や時価評価額を確認するために必要です。
3. 相続用口座の開設:株式をそのまま引き継ぐ場合、相続人自身の証券口座が必要です。
4. 名義変更(移管):必要書類を提出し、被相続人の口座から相続人の口座へ株式を移します。
9.確実な遺産調査で、安心できる相続手続きを
株式の相続手続きは、まず「どこの証券会社か」を特定することから始まります。手がかりがなくても「ほふり」の開示請求を活用すれば、道筋が見えてきます。ただし、書類の不備による差し戻しや、判明した後の複数の金融機関とのやり取りは、精神的にも時間的にも大きな負担となります。
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