不動産の購入を検討したり、親から土地や建物を引き継ぐ「相続」の手続きを進めたりしていると、登記簿謄本に「仮登記(かりとうき)」という言葉が記載されているのを目にすることがあります。 日常では馴染みのない言葉ですが、仮登記の仕組みを正しく理解していないと、最悪の場合、手に入れた不動産の所有権を失ってしまうといった重大なトラブルに巻き込まれるおそれもあります。
本記事では、仮登記の基本的な意味や本登記との違い、知っておくべきメリット・デメリット、登記簿に仮登記を見つけた際の注意点まで、分かりやすく解説します。
このページの目次
1.仮登記とは?その基本的な意味と役割
不動産登記は、土地や建物の持ち主やどのような権利が設定されているかを公に示すための制度です。その中で「仮登記」とは、将来行われる予定の本登記(正式な登記)の順位をあらかじめ確保しておくための予備的な登記手続きを指します。
登記の鉄則は「早い者勝ち」
日本の不動産登記制度には、「先に登記をした者が、その後に登記をした者に優先する」というルールがあります。 例えば、ある土地の売主が、同じ土地を二人の買主に二重に売却してしまった場合、実際にその土地を自分のものだと主張できるのは、先に法務局で登記手続きを完了させた人になります。
しかし、実際の取引では、売買契約から引き渡しまでに時間が空いたり、必要な書類がすぐに揃わなかったりすることがあります。この「本登記をしたくても、今すぐには手続きができない期間」に、他人に先を越されてしまうリスクを防ぐために用意されたのが仮登記です。
最大の効果は「順位をキープすること」
仮登記自体には、第三者に自分の権利を直接主張できるような強い効力(対抗力)はありません。 しかし、仮登記をしておけば、後日無事に本登記へ移行した際に、その本登記の効力が発生する順位が、「仮登記を行った時点」にまで遡って認められるという強力な効果が得られます。これを、仮登記の「順位保全の効力(順位保全効)」と呼びます。
2.仮登記と本登記の決定的な違い
仮登記と本登記の主な違いを整理しました。
- 目的と役割
- 仮登記: 将来行う本登記の順位をあらかじめキープする
- 本登記: 不動産の権利関係の変動を最終的に確定させ、公に示す
- 申請の条件
- 仮登記: 本登記に必要な書類や要件が一部不足していても申請可能
- 本登記: すべての法律上の要件を満たし、証明書類が完全に揃っていることが必須
- 第三者への対抗力
- 仮登記: なし(自分が所有者だと他人に主張できない)
- 本登記: あり(自分が正当な権利者であることを誰に対しても主張できる)
- 順位保全の効力
- 仮登記: あり(本登記へ移行した際に、仮登記の日付が優先順位の基準になる)
- 本登記: なし
- 登録免許税
- 仮登記: 本登記に比べて非常に安く抑えられている
- 本登記: 法律で定められた本登記の税率が適用される
このように、仮登記はあくまで「本登記を行うための準備・キープ」の位置づけであり、所有権などの権利を他人に完全に主張するためには、最終的に必ず本登記へ移行させる必要があります
3. 仮登記には2つの種類がある!「1号」と「2号」の違い
仮登記は、その原因や申請する理由によって、法律上「1号仮登記」と「2号仮登記」の2つに分類されます。
① 1号仮登記(手続き上の不備を補うもの)
すでに当事者間で「所有権が移転した」「抵当権を設定した」といった実体的な権利の動きが生じているにもかかわらず、登記申請に必要な書類が不足している場合に行う登記です。 例えば、登記に必要な権利証(登記識別情報)を紛失してしまった場合などが該当します。契約そのものは完了しているけれど、提出書類が足りないという場合に、とりあえず順位を確保するために利用します。
② 2号仮登記(将来の請求権を保全するもの)
現時点ではまだ権利の動きそのものは発生していないものの、将来的にその権利を動かすことを請求できる権利(請求権)が発生している場合に行う登記です。 代表例は「売買の予約」です。「将来、ある条件を満たしたらこの不動産を買い取ります」という予約契約を交わした際、将来的に買い取る権利が他人に横取りされないよう、あらかじめ仮登記をつけておきます。
4.どのような場面で仮登記が必要になる?
実務において、仮登記はどのようなシーンでよく活用されるのでしょうか。代表的なケースを紹介します。
① 農地を売買するとき(農地法の規制対策)
農地は、所有権移転に農業委員会や都道府県知事などの「許可」を得なければならず、許可が下りるまでは正式な売買の効力が発生しません。 この「許可待ち」の期間中に売主が別の第三者に二重で農地を売ってしまうリスクを防ぐため、「将来、許可が得られたら所有権を移転する」という条件付きの契約を交わし、2号仮登記をしておく手法がよく用いられます。
② 建築中のマンションや建売住宅を購入するとき
新築の分譲マンションや建売住宅の契約を結ぶ場合、建物が完成していない段階では、所有権を移転する本登記をすることはできません。この契約成立から完成・引き渡しまでの期間、売主の倒産や二重譲渡のリスクから買主の権利を守るために活用されます。
③ 金銭の貸し借りで「抵当権」を設定するとき
お金を貸す際、担保として不動産に「抵当権(ていとうけん)」を設定することが一般的です。しかし、とりあえず担保の順位だけを最優先でキープしておきたいといったケースでは、本登記ではなく「抵当権設定仮登記」が行われることがあります。
④ 登録免許税を節約したいとき
不動産の登記を申請する際には、国に「登録免許税(とうろくめんきょぜい)」という税金を納める必要があります。本登記と仮登記では、この登録免許税の額に大きな差があります。
例えば、売買による所有権移転の登記を行う場合、本登記では不動産の固定資産税評価額の2.0%(軽減措置がある場合は1.5%)が課税されるのに対し、仮登記であれば1.0%(本登記の半分、またはそれ以下)で済みます。 さらに、抵当権を設定する場合、本登記では債権金額の0.4%(例えば1,000万円の借り入れなら4万円)の税金がかかりますが、仮登記であれば不動産1個につきわずか1,000円で済みます。
このように、実質的な担保や取引の確保は行いつつ、コストを大幅に節約するための手段として、あえて仮登記のまま留めておくという選択がなされることもあります。
5.仮登記のメリット・デメリット
不動産取引で仮登記を利用する際の、メリットとデメリットを整理しておきましょう。
メリット
- 少ない負担で将来の優先順位をキープできる 登録免許税が本登記に比べて非常に安いため、低コストで安全な権利保全措置を講じることができます。
- 要件が未整備でも迅速に登記できる 「書類が足りない」「国の許可待ち」といった不安定な状態であっても、すぐに登記簿に自分の名前や請求権を記載することができ、不測の事態から身を守ることができます。
- 相手が協力しない場合に単独で申請できる場合もある 売主の承諾書や裁判所の命令(仮処分命令)などを得られれば、買主が単独で迅速に申請手続きを進められます 。
デメリット
- 第三者に対する対抗力がない 仮登記はあくまで「予約」に過ぎないため、仮登記のまま放置している状態では、第三者に対して「私が所有者です」と対抗することはできません。
- 本登記へ移行する際に「第三者の承諾」が必要になる 仮登記の後、正式に本登記へ移行しようとしたとき、その間に別の第三者が登記簿に入り込んでいる場合があります 。この場合、本登記を申請するためには、その第三者の承諾を得なければならないという非常に高いハードルがあります。 当然、第三者が素直に承諾してくれることは滅多にないため、その場合は承諾を求めるための裁判(訴訟)を起こして勝訴判決を得る必要があり、膨大な手間と時間、費用が発生してしまいます。
- 最終的な費用負担が二重になる 仮登記を申請するときに登録免許税や司法書士の報酬を支払い、さらに後日、本登記へ移行させる際にも、再び本登記用の登録免許税や手続き費用が発生するため、トータルの出費が二重に重なることになります。
6. 不動産の取引・相続で「仮登記」を見つけた際の注意点
もし、購入を検討している物件や、親から引き継いだ実家などの土地・建物の登記簿を調べたときに、知らない誰かの「所有権移転仮登記」や「抵当権設定仮登記」が入っていたら、どのような点に注意すればよいでしょうか。
仮登記付きの不動産を購入するのは極めて危険!
登記簿に「仮登記」が残っている不動産を購入し、自分名義の所有権移転(本登記)を完了させたとしても、決して安心はできません。 仮に、大昔にその仮登記を入れた人が突然現れて「仮登記に基づき本登記にする手続き」を行った場合、後からされたあなたの本登記は、法務局の判断によって職権で完全に抹消されてしまいます。
つまり、購入した不動産も、支払ったお金も戻ってこないという最悪の結末を迎えるおそれがあるのです。 そのため、仮登記が残った状態の不動産は、銀行も融資をしてくれませんし、一般的には取引されることはありません。必ず売主に依頼して、「契約前に仮登記を完全に抹消してもらう」ことが絶対の条件となります。
相続した不動産に大昔の仮登記が残っている場合
「親が亡くなって実家の土地を相続したところ、昭和の時代に設定された、全く知らない個人の仮登記が入ったまま放置されていた」というトラブル相談が、実は非常に多く寄せられています。
借金を完済したにもかかわらず、手続きを忘れてそのまま何十年も放置されていたり、売買の予約をしたけれど途中で話が立ち消えになり、登記だけが残ってしまったりするケースです。 仮登記は放置していても勝手に消えることはありません。また、仮登記を消すためには、登記義務者(仮登記の名義人)の協力が必要になります。
しかし、大昔の登記の場合、その名義人がすでに亡くなっていたり、行方が分からなくなっていたりすることがほとんどです。その場合、名義人の相続人を一人ずつ調べ上げて協力を求めるか、あるいは「10年の時効(予約完結権や債権の時効消滅)」を理由に、裁判手続き(訴訟)を通じて強制的に抹消登記を行う必要があります。
こうした手続きは極めて複雑で、戸籍の収集から訴状の作成、裁判所への申し立てなど、一般の方がご自身で進めるのはほぼ不可能です。
7.不動産の相続手続きは「高野司法書士事務所」へ
不動産を相続した際には、亡くなった方から相続人への名義変更だけでなく、登記簿の内容を確認し、今後の売却や活用に支障となる事項がないかを確認することも大切です。
長年にわたり名義変更がされていなかった不動産では、相続関係が複雑になっていたり、すでに返済を終えた抵当権や古い仮登記などが残っていたりすることがあります。こうした登記がある場合には、相続登記とあわせて、その内容や今後必要となる手続きを整理しておくことで、不動産を次の世代へ円滑に引き継ぐことができます。
高野司法書士事務所では、戸籍の収集、相続人の確認、遺産分割協議書の作成、相続登記の申請まで、不動産の相続に必要な手続きを一貫してサポートしています。また、相続する不動産の登記簿に古い抵当権や仮登記などが残っている場合には、相続手続きとの関係を確認したうえで、必要に応じて対応方法をご案内いたします。
- 「実家の名義が何代も前のままになっている」
- 「相続した不動産を売却したいが、何から始めればよいか分からない」
- 「預貯金なども含め、相続手続きをまとめて相談したい」
このような場合には、どうぞ高野司法書士事務所までご相談ください。ご家族の状況や今後のご希望を丁寧にお伺いし、大切な不動産を安心して引き継ぐための手続きをサポートいたします。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
