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代襲相続できない!ケース別解説
相続が発生した際、多くの方が直面するのが「誰が相続人になるのか」という問題です。特に、本来相続人となるはずだった方がすでに亡くなっている、または何らかの理由で相続権を失っている場合、「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」という制度が関係してきます。この制度は、故人の意思を尊重しつつ、相続が次の世代に引き継がれるための重要な仕組みです。
しかし、代襲相続は常に発生するわけではありません。特定の状況下では、代襲相続が認められないケースも存在し、それが相続手続きをさらに複雑にすることがあります。本記事では、代襲相続ができる場合とできない場合を具体的なケース別に詳しく解説し、相続における疑問や不安を解消するためのお役立ち情報を提供します。
1.代襲相続とは?その基本的な仕組み
代襲相続とは、被相続人(亡くなった方)の本来の法定相続人が、相続開始時より前に死亡していた場合や、特定の理由で相続権を失った場合に、その法定相続人の子どもが代わりに遺産を相続する制度のことです。これにより、本来受け継がれるはずだった相続権が途切れることなく、次の世代に引き継がれます。
民法では、遺産を相続する権利を持つ法定相続人の範囲と順位が定められています。
・配偶者: 常に法定相続人となります。
・第1順位: 子。子がいない場合は孫、孫もいない場合はひ孫と、直系卑属(子孫)へと順位が移ります。
・第2順位: 父母。父母が両方ともいない場合は祖父母など、直系尊属(父母や祖父母)へと順位が移ります。
・第3順位: 兄弟姉妹。兄弟姉妹がいない場合は甥・姪へと順位が移ります。
代襲相続が発生するのは、このうち第1順位(子)と第3順位(兄弟姉妹)の法定相続人に「代襲相続の発生原因」がある場合です。
代襲相続が発生する主な原因
代襲相続は、以下の3つのいずれかの原因によって発生します。
1. 相続開始前に法定相続人が死亡している場合: 被相続人よりも先に、本来相続人となるべき子や兄弟姉妹が亡くなっているケースが最も一般的です。
2. 相続欠格(そうぞくけっかく)に該当する場合: 相続人が、被相続人や他の相続人を殺害しようとした、または遺言書を偽造・破棄・隠匿するなどの不正行為を行った場合に、法律上当然に相続権を失う制度です。この場合でも、その子孫に代襲相続が発生します。
3. 相続廃除(そうぞくはいじょ)に該当する場合: 被相続人に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行などがあった相続人の相続権を、被相続人が家庭裁判所に請求し、奪うことができる制度です。相続廃除された相続人の子孫には代襲相続が発生します。
2.代襲相続が発生しない具体的なケース
代襲相続の条件を満たさない場合や、特定の状況下では代襲相続が発生しません。以下に、代襲相続ができない主なケースを解説します。
相続放棄をした場合
相続放棄をした法定相続人の子どもは、代襲相続人にはなれません。 これは、相続放棄をすると、その人は「はじめから相続人ではなかった」とみなされるため、相続権自体が存在しないことになり、次世代に引き継がれるべき相続権がないからです。
例えば、被相続人に多額の借金があり、その子ども(法定相続人)が相続放棄を選択した場合、その子どもの子ども(被相続人の孫)は代襲相続人として借金を相続することはありません。相続放棄は原則として「自己のために相続の開始を知った日から3ヶ月以内」に家庭裁判所に申述する必要があります。
被相続人より後に相続人が死亡した場合(数次相続)
代襲相続は、相続人が被相続人よりも「先に」死亡している場合に発生します。もし、被相続人の死亡後に、相続手続きを完了する前に相続人が亡くなった場合は、代襲相続ではなく「数次相続(すうじそうぞく)」として扱われます。この場合、先に亡くなった相続人の相続人が、その相続人の権利を引き継いで遺産分割協議に参加することになります。
遺言書で指定された受取人が死亡していた場合
被相続人が遺言書を作成し、特定の人物に財産を遺贈すると指定していたにもかかわらず、その受取人が遺言者よりも先に亡くなっていた場合、その遺言書に記載された当該部分は無効となります。遺言は、遺言者が死亡した時に効力が発生するため、その時点で受取人が存在している必要があるからです。
この場合、指定された人物の子どもが代襲相続することはありません。その財産は遺言書に記載のない財産として扱われ、法定相続人全員の共有財産となるため、別途、遺産分割協議を行う必要があります。
甥・姪の子どもへの再代襲(兄弟姉妹の代襲)
前述の通り、被相続人の兄弟姉妹の代襲相続は「甥姪まで」と限定されており、甥や姪が亡くなっていたとしても、その子どもがさらに代襲相続人となる「再代襲」は認められていません。これは、関係性が遠くなりすぎるといった考慮が背景にあります。
養子縁組前に生まれた養子の子ども
養子縁組の効果は、縁組の日から生じます。したがって、養子縁組の日より前に生まれた養子の子どもは、養親との間に血族関係が生じないため、養親の直系卑属とは認められず、代襲相続の対象にはなりません。
これに対し、養子縁組の後に生まれた養子の子どもは、養親との間に法律上の血族関係が生じるため、養親の直系卑属となり、代襲相続が可能となります。
配偶者の連れ子
被相続人の配偶者は、常に法定相続人ですが、代襲相続の対象にはなりません。代襲相続は、被相続人の子どもまたは兄弟姉妹に対してのみ発生する制度だからです。
そのため、被相続人よりも先に配偶者が亡くなっていたとしても、その配偶者の連れ子(被相続人とは血縁関係がない子)が代襲相続人になることはありません。配偶者の連れ子に財産を相続させたい場合は、生前に養子縁組をするか、遺言書を作成するなどの対策が必要です。
直系尊属の相続
被相続人の父母や祖父母などの直系尊属は、代襲相続の対象ではありません。直系尊属の場合、前の世代にさかのぼって相続人が決まりますが、これは「代襲相続」とは別の考え方になります。例えば、被相続人の父母が亡くなっている場合でも、祖父母が存命であれば、祖父母が相続人となります。
3.代襲相続における相続割合と遺留分
代襲相続が発生した場合でも、代襲相続人の相続割合(法定相続分)は、本来の相続人(被代襲者)の相続分を引き継ぐ形になります。代襲相続人が複数いる場合は、被代襲者の相続分をその人数で均等に分割します。
例えば、被相続人の配偶者と長男が相続人のケースで、長男が先に亡くなり、長男の子(被相続人の孫)が2人いる場合、配偶者の相続分は1/2、長男の相続分は1/2でしたが、この1/2を2人の孫が均等に引き継ぐため、各孫の相続分は1/4ずつとなります。
代襲相続人の遺留分について
遺留分とは、法定相続人に保障されている最低限の遺産の取り分のことです。代襲相続人の遺留分は、その立場によって異なります。
• 孫(直系卑属)が代襲相続人となる場合: 遺留分が認められます。孫は、本来の相続人である子(被代襲者)が持っていた遺留分の権利を引き継ぎます。
• 甥・姪(傍系卑属)が代襲相続人となる場合: 遺留分は認められません。そもそも被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められていないため、その代襲相続人である甥姪にも遺留分は発生しません。したがって、遺言書などで甥姪が相続から外されていたとしても、遺留分侵害額請求を行うことはできません。
4.代襲相続発生時の注意点と対策
代襲相続が発生すると、通常の相続に比べて相続関係が複雑になり、手続きやトラブルのリスクが高まることがあります。
相続税への影響
代襲相続によって法定相続人の数が増える可能性があります。法定相続人の数が増えることは、相続税の計算において以下のようなメリットをもたらすことがあります。
• 基礎控除額の増加: 相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」で計算されます。代襲相続人が加わることで人数が増えれば、基礎控除額が増え、課税対象となる遺産額が減少する可能性があります。
• 非課税枠の増加: 生命保険金や死亡退職金の非課税枠も「500万円×法定相続人の人数」で計算されるため、同様に増加する可能性があります。
ただし、甥・姪が代襲相続人となった場合、相続税が2割加算される点に注意が必要です。これは、被相続人の配偶者、子ども(代襲相続人である孫を含む)、両親以外の人が財産を相続した場合に適用される制度です。
相続手続きと必要書類
代襲相続が発生しても、特別な手続きは必要ありません。しかし、遺産の名義変更(相続登記)や相続税申告などの相続手続きを進めるためには、通常の相続よりも多くの戸籍謄本などが必要となることがあります。
具体的には、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本の他に、代襲される被代襲者(本来の相続人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、そして代襲相続人全員の戸籍謄本なども必要となります。これらの書類の収集には時間がかかる場合があるため、早めに準備を始めることが重要です。
5.相続トラブルの可能性と遺言書による対策
代襲相続が発生すると、相続に関わる親族の範囲が広がり、関係性が複雑になる傾向があります。特に、普段交流のない親族(例えば、配偶者と疎遠な甥姪など)が相続人となる場合、遺産分割協議が円滑に進まず、相続トラブルに発展するリスクが高まります。
こうしたトラブルを避けるための有効な対策の一つが、生前の遺言書作成です。遺言書によって、誰にどの財産をどれだけ相続させるかを明確に指定しておくことで、法定相続人全員での遺産分割協議を不要にし、将来の紛争を防ぐことができます。
例えば、疎遠な孫や甥姪に代襲相続させたくない場合は、遺言書で被代襲者以外の相続人にすべての遺産を相続させる旨を記載することで、その意思を実現することが可能です。ただし、この際、遺留分を持つ相続人がいる場合には、その遺留分を侵害しないよう配慮が必要です。甥姪には遺留分がありませんが、孫には遺留分が認められます。
また、遺言書を作成する際には、予備的な遺言(例えば、指定した相続人が先に亡くなった場合に備えて別の受取人を指定する)を残しておくことで、遺言書の一部が無効になる事態を避けることができます。相続関係が複雑な場合は、漏れのない遺言書を作成するためにも専門家への相談を検討しましょう。
6.代襲相続の複雑さを専門家がサポート
代襲相続は、本来相続人となるべき人が相続できない場合に、その子どもが代わりに相続する重要な制度です。しかし、その発生条件、代襲相続人となる範囲、そして相続放棄や遺言書、養子縁組の状況によって、相続の取り扱いが大きく異なります。特に、相続放棄をした場合は代襲相続が発生しないこと、甥姪への代襲相続は一代限りであること、そして遺留分の有無が孫と甥姪で異なる点は、特に注意すべきポイントです。また、配偶者には代襲相続が発生しないことも理解しておく必要があります。
誰が法定相続人になるのかを正確に確定することは、すべての相続手続きの出発点であり、非常に重要です。もし相続関係が複雑で、ご自身での判断が難しいと感じる場合は、相続問題に詳しい専門家へ相談することをおすすめします。専門家は、複雑な相続関係の整理から、必要な書類の収集、遺産分割協議のサポート、相続税に関するアドバイスまで、お客様の状況に合わせた最適なサポートを提供し、円滑な相続の実現を支援してくれます。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続分の譲渡が遺産分割協議に与える影響とは?
相続が発生した際、遺産の分け方について相続人全員で話し合う「遺産分割協議」は、時に複雑で時間のかかる手続きとなりがちです。特に、相続人の間で意見の対立がある場合や、相続財産の種類が多岐にわたる場合などには、話し合いが難航し、大きな負担となることも少なくありません。このような状況で、相続人が自分の相続権を整理し、スムーズな解決を目指すための手段の一つとして、「相続分の譲渡」という制度があります。
この制度は、特定の相続人が自身の相続分を第三者に譲り渡すことで、遺産分割協議の参加者構成や進行に大きな影響を与える可能性があります。本記事では、相続分の譲渡が遺産分割協議にどのような影響を与えるのか、その具体的な制度内容、関連する注意点、そしてメリット・デメリットについて詳しく解説します。
1.相続分の譲渡とは? 制度の基本を理解する
相続分の譲渡とは、共同相続人が遺産全体に対して持つ割合的な持ち分(包括的な持分)を、他の相続人または第三者へ譲り渡す行為 を指します。この行為によって、自身の持つ相続権を手放したい場合や、特定の人物に遺産を引き継がせたい場合に利用されます。
1. 相続分の譲渡の対象と相手
譲渡の対象となるのは、遺産を構成する個々の財産の共有持分権ではなく、遺産全体に対する包括的な持分です。例えば、法定相続分が4分の1である相続人がその持分を譲渡する場合、特定の不動産を直接譲渡するのではなく、遺産全体に対する4分の1の割合的な権利を移転することになります。どの財産を最終的に取得するかは、譲受人が参加する遺産分割協議で決定されます。
相続分の譲渡は、他の共同相続人に対して行うことも、相続人ではない第三者に対して行うことも可能 です。譲受人の人数に制限はなく、複数の人に対して一部ずつ譲渡することもできます。例えば、生前に被相続人の介護に尽力した法定相続人ではない人物へ、感謝の気持ちとして相続分を譲渡するといったケースも考えられます。
2. 譲渡の対価と時期
譲渡には、金銭などの対価を伴う「有償譲渡」と、対価を伴わない「無償譲渡」のどちらも選択できます。
この制度を利用できる時期には重要な制約があります。相続分の譲渡は、遺産分割協議(または家庭裁判所での調停や審判)が成立する前 でなければ行うことができません。遺産分割協議が一度成立してしまうと、相続人の構成や相続分が確定するため、後から譲渡を行うと、協議をやり直す必要が生じ、大きな混乱を招く可能性があるためです。話し合いの途中や、調停・審判の手続きが進行している最中であっても、遺産分割が成立する前であれば譲渡は可能です。
2.相続分の譲渡が遺産分割協議に与える影響
相続分の譲渡が行われると、遺産分割協議の参加者が変更され、その進行に直接的な影響を与えます。
1. 譲渡人と譲受人の協議参加
相続分を譲渡した者(譲渡人)は、自身の相続権を失うため、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。これにより、相続手続きや遺産分割の話し合いから離脱できるという効果が得られます。
一方、相続分を譲り受けた者(譲受人)は、譲渡された包括的な持分を取得するため、遺産分割協議の当事者として参加する義務を負います。これは、譲受人が他の相続人ではない第三者である場合でも同様です。もし、譲受人である第三者が参加しないまま遺産分割協議が合意されたとしても、その合意は無効とされ、譲受人を含めて協議をやり直す必要が生じます。家庭裁判所での遺産分割調停や審判においても、譲渡が行われた場合は、譲受人が当事者として手続きに参加することになります。
2. 遺産分割協議の複雑化と円滑化
譲受人が他の相続人ではない第三者である場合、見ず知らずの人物が家族間のデリケートな話し合いである遺産分割協議に参加することになり、協議がまとまりにくくなる可能性があります。家族としては、プライベートな内容を家族以外に知られたくないと感じることも多いため、これがトラブルの原因となることも少なくありません。
しかし、相続分の譲渡によって参加する相続人の人数が減ることで、遺産分割協議がスムーズに進みやすくなる という側面もあります。特に、遺産を受け取る意思がない相続人が協議から抜けることで、話し合いの負担が軽減され、合意形成が促進される効果が期待できます。
3.相続分の譲渡に関する重要な注意点
相続分の譲渡は便利な制度である一方で、いくつかの重要な注意点が存在します。
1. 可分債務の支払義務は残る
相続分の譲渡を行ったとしても、被相続人が負っていた借金などの「可分債務」の支払義務から免れることはできません。可分債務とは、金銭債務のように分割して相続人に承継される債務のことで、遺産分割協議の対象とはなりません。
最高裁判所の判例(最高裁昭和34年6月19日判決)でも、可分債務は法定相続分に従って相続人に当然に分割されるとされており、相続分を譲渡したとしても、その効果は維持されます。つまり、相続債権者から借金の返済を請求された場合、譲渡人は、譲受人との間で債務の負担について合意していたとしても、債権者に対してその合意を理由に支払いを拒むことはできません。
もし被相続人に多額の借金がある場合や、相続債務を一切引き継ぎたくない場合は、相続分の譲渡ではなく、家庭裁判所での手続きを要する「相続放棄」を検討することが推奨されます。相続放棄をすれば、プラスの財産だけでなくマイナスの財産も一切相続しないことになり、相続人の地位も喪失するため、債務の支払義務もなくなります。
2. 第三者への譲渡には「相続分の取戻権」がある
相続分が他の相続人ではない第三者へ譲渡された場合、他の共同相続人は、その第三者から譲渡された相続分を取り戻す権利(相続分の取戻権)を行使することができます。これは民法第905条に規定されており、第三者が遺産分割協議に参加することで生じるであろう混乱やトラブルから、他の相続人を保護することを目的としています。
取戻権を行使する他の相続人は、譲受人が支払った価額と費用を償還する必要があります。たとえ相続分の譲渡が無償で行われた場合でも、取戻権を行使する際には、譲渡された相続分の時価相当額を提供する必要があります。譲受人は、他の相続人から取戻権を行使された場合、これを拒むことはできません。
この取戻権の行使には厳格な期間制限があり、譲渡があったことを知ってから1ヶ月以内 に行使しなければなりません。この期間は非常に短いため、注意が必要です。
3. 相続分の譲渡があった旨の「通知」
相続分の譲渡は、他の相続人の同意を得ることなく、譲渡人と譲受人の合意のみで成立します。しかし、譲渡が行われたことを他の相続人が知らないと、誰を遺産分割協議の参加者とすればよいか分からなくなり、大きな混乱を招いてしまう可能性があります。
特に、相続人ではない第三者へ相続分を譲渡した場合、他の相続人が取戻権を行使する機会を適切に与えるためにも、譲渡人から他の共同相続人全員へ、相続分の譲渡があった旨を通知することが強く推奨されます。この通知は口頭でも可能ですが、後々の紛争を避けるためにも、内容証明郵便 などの書面で送付することが一般的です。
4.相続分譲渡証明書の重要性
相続分の譲渡は、譲渡人と譲受人の合意があれば口頭でも成立しますが、その後の手続きの円滑化やトラブル防止のためには、「相続分譲渡証明書」を作成することが非常に重要 です。この書面は、「相続分の譲渡が行われたこと」を公的に証明する役割を果たします。
1. 証明書が必要となる場面
相続分譲渡証明書は、特に以下のような場面で必要となります。
- 銀行などの金融機関で、譲受人が被相続人の預貯金を引き出す際。
- 譲受人が相続した不動産の名義変更(相続登記)を行う際。
- 遺産分割調停や審判の手続きを家庭裁判所に申し立てる際や、譲渡人が遺産分割の当事者から外れるための排除決定を求める際。
これらの手続きにおいて、証明書がないと金融機関や法務局が手続きに応じてくれない、あるいは手続きが進まなくなる可能性があります。
2. 証明書の作成と記載内容
相続分譲渡証明書には、特定の決まった書式はありませんが、有効な書面として認められるためには、いくつかの重要な情報を含める必要があります。
- 被相続人の情報(氏名、生年月日、最後の住所、死亡日)。
- 譲渡人の情報(住所、氏名)。
- 譲受人の情報(住所、氏名)。
- 譲渡年月日。
- 譲渡の対象(相続分全部か一部か)と、対価の有無(有償か無償か、有償の場合は金額)。
最も重要なのは、譲渡人と譲受人の双方が書面に記名し、実印を押印すること です。両者の記名押印がなければ、合意があったと認められず、手続きが進まない原因となります。実印を押印した場合は、その実印が本人のものであることを証明するために、印鑑証明書を添付する ことが一般的です。ただし、金融機関によっては、印鑑証明書に「3ヶ月以内」や「6ヶ月以内」といった有効期限を設けている場合があるため、事前に確認が必要です。
5.相続分の譲渡のメリット・デメリット
相続分の譲渡には、状況に応じて様々なメリットとデメリットが存在します。
1. メリット
相続分の譲渡を行うことで、以下のような利点が得られます。
• 遺産分割協議がまとまりやすくなる:相続人が減ることで、話し合いのメンバーが絞られ、意見調整がしやすくなります。特に、相続にあまり関心がない相続人や、関係性の悪い相続人が譲渡によって抜けることで、協議の円滑化が期待できます。
• 特定の人に相続分を譲渡できる:他の相続人だけでなく、被相続人の生前にお世話になった人や介護に尽力した人など、本来の相続人ではない第三者にも相続分を譲り渡すことが可能です。
• 相続手続きやトラブルから離脱できる:相続分の譲渡人は相続権を失うため、煩雑な相続手続きや、他の相続人との間で発生しやすい相続トラブルに巻き込まれる必要がなくなります。時間や労力の負担を軽減し、精神的な負担からも解放されるでしょう。
• 早期に金銭等を得られる可能性がある:有償で相続分を譲渡した場合、遺産分割協議が終了する前に金銭などの対価を受け取ることが可能です。遺産分割協議は長期化するケースも多いため、早期に現金化したい場合には有効な手段となり得ます。
2. デメリット
一方で、相続分の譲渡には以下のようなデメリットやリスクも伴います。
• 負債の支払義務が残る:前述の通り、相続分の譲渡を行っても、被相続人の借金などの可分債務の支払義務は残ります。多額の借金がある場合は、相続放棄を検討すべきです。
• 税金がかかる可能性がある:譲渡の形態(有償か無償か、譲受人が相続人か第三者か)によっては、相続税や贈与税、さらには譲渡所得税などが課される場合があります。この税金に関する問題は複雑であり、事前の確認が不可欠です。
• 第三者への譲渡の場合、遺産分割協議がまとまりにくくなる:相続人以外の第三者が協議に参加することで、家族間の話し合いがしづらくなり、遺産分割が難航する可能性があります。また、他の相続人から「相続分の取戻権」を行使されるリスクもあります。
• 「特別受益」とみなされるおそれがある:特に他の相続人への無償譲渡の場合、将来、譲渡人(親など)が死亡した際に、この譲渡が無償での生前贈与、つまり「特別受益」とみなされる可能性があります。その結果、譲渡人の相続時に、他の相続人との間で遺産の公平性を巡るトラブルに発展する可能性を秘めています。
• 手続きが煩雑になる場合がある:特に、第三者に相続分を譲渡した場合の預貯金の引き出しや不動産の登記手続きは、通常よりも複雑になりがちです。金融機関や法務局は慎重な対応を取るため、追加の書類を求められたり、時間と手間がかかることが予想されます。
6.相続分の譲渡と税金について
相続分の譲渡には、税金の問題が密接に関わってきます。譲渡の形態によって、課税される税金の種類や、誰に課税されるかが大きく異なります。主な4つのパターンと課税関係は以下の通りです。
1. 無償で相続人に譲渡する場合
• 譲渡人にかかる税金:なし 譲渡人は何も財産を取得しないため、課税されません。
• 譲受人にかかる税金:相続税 譲受人は相続分を無償で受け取り、遺産を相続したとみなされるため、その増加した相続分に対して相続税が課税されます。
2. 無償で相続人以外の第三者に譲渡する場合
このパターンでは、計算上、譲渡人が一旦遺産を相続し、その後に譲受人へ贈与した とみなされます。
• 譲渡人にかかる税金:相続税 譲渡人は一旦遺産を相続したとみなされるため、相続税が発生します。
• 譲受人にかかる税金:贈与税 譲受人は譲渡人から贈与を受けたとみなされるため、贈与税が課税されます。この場合、相続税と贈与税が二重に発生する可能性があるため、特に注意が必要です。
3. 有償で相続人に譲渡する場合
• 譲渡人にかかる税金:相続税 譲渡人は相続分の譲渡によって金銭などの対価を得るため、その対価に対して相続税が課税されます。
• 譲受人にかかる税金:相続税 譲受人は相続分を受け取り、かつ対価を支払うことで、その財産を取得したとみなされます。相続した遺産から支払った対価を差し引いた金額に対して相続税が課税されます。
4. 有償で相続人以外の第三者に譲渡する場合
• 譲渡人にかかる税金:相続税(場合によっては所得税も) 譲渡人は相続分の譲渡によって金銭を得るため、相続税が課税されます。また、相続財産に不動産など譲渡所得が生じる財産が含まれていた場合は、所得税(譲渡所得)が課税される可能性もあります。
• 譲受人にかかる税金:なし(ただし例外あり) 譲受人は対価を支払って相続分を取得するため、原則として贈与税は課税されません。しかし、支払った対価が、譲渡された相続分の価額と比較して著しく低い場合は、その差額について贈与税が課税される可能性があります。
税金に関する判断は非常に専門的であり、誤った申告はトラブルにつながる可能性があるため、必ず税理士や税務署などの専門機関に相談し、事前に確認を行う ことが重要です。
7.専門家への相談の重要性
相続分の譲渡は、譲渡人と譲受人の合意があれば成立し、特別な様式は不要とされますが、その内容を明確化し、後の手続きを円滑に進めるためには、「相続分譲渡証明書」を確実に作成しておくことが重要 です。また、他の相続人への「通知」も、混乱や紛争を防ぐために欠かせない配慮となります。
相続分の譲渡をご検討の方、または遺産分割協議について何らかの懸念がある場合は、専門家にご相談いただくことで、ご自身の状況に合わせた最適な選択肢を見つけ、安心して手続きを進めることができるでしょう。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
特定空き家に指定されたらどうなる?
空き家を所有している方や相続予定の方、または近隣に空き家があることで不安を感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「特定空き家」に指定されると、税金の増加や行政からの命令、費用負担など、知らないと損をするリスクが多く存在します。
本記事では、特定空き家の定義や指定基準、影響、対策方法、予防策までをわかりやすく解説し、安心して空き家問題に向き合える知識を提供します。
1.特定空き家とは?知っておきたい基礎知識
特定空き家とは、単なる空き家とは異なり、放置することで倒壊や衛生上の問題、景観の悪化など、周辺環境や住民に著しい悪影響を及ぼすと判断された空き家を指します。
このような空き家は、自治体によって「特定空き家等」として指定され、所有者に対して厳しい措置が取られることがあります。
特定空き家に指定されると、税金の優遇措置がなくなったり、行政からの指導や命令、最悪の場合は強制的な解体(行政代執行)などのリスクが発生します。
空き家を所有している方は、特定空き家の基礎知識をしっかり理解しておくことが重要です。
空き家と特定空き家の違い・定義を解説
「空き家」とは、居住や使用がされていない建物全般を指しますが、「特定空き家」はその中でも特に危険性や悪影響が高いと判断されたものです。
特定空き家の定義は、空家等対策特別措置法に基づき、倒壊の危険や衛生上の問題、景観の著しい悪化、周辺住民の生活環境に深刻な影響を及ぼす状態などが該当します。
単なる空き家と特定空き家では、行政の対応や所有者の責任が大きく異なるため、違いを正しく理解しておくことが大切です。
空き家 | 特定空き家 |
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居住・使用されていない建物全般 | 倒壊や衛生・景観悪化など著しい悪影響がある空き家 |
行政からの指導は基本的にない | 指導・勧告・命令・行政代執行の対象 |
特定空き家が増加する背景と問題点
近年、少子高齢化や人口減少、都市部への人口集中などの影響で、全国的に空き家が増加しています。
その中でも、管理が行き届かず放置された空き家が「特定空き家」として指定されるケースが増えています。
特定空き家が増えることで、倒壊や火災、害虫・害獣の発生、不法投棄、景観の悪化など、地域社会にさまざまな問題を引き起こします。
また、所有者が遠方に住んでいる場合や相続問題が絡むことで、適切な管理が難しくなり、問題が深刻化しやすいのも現状です。
- 倒壊や火災のリスク増加
- 害虫・害獣の発生
- 不法投棄や犯罪の温床
- 地域の景観・資産価値の低下
空家等対策の推進に関する特別措置法(特措法)とは
空家等対策の推進に関する特別措置法(特措法)は、2015年に施行された法律で、空き家問題の深刻化を受けて制定されました。
この法律により、自治体は特定空き家の調査や指定、所有者への指導・勧告・命令、さらには行政代執行による解体まで、幅広い権限を持つことになりました。
特措法の目的は、空き家の適切な管理を促進し、地域住民の安全・安心な生活環境を守ることにあります。
特定空き家に指定されると、所有者は法的な義務を負うことになるため、特措法の内容を理解しておくことが重要です。
2.特定空き家の指定基準と判断の流れ
特定空き家に指定されるかどうかは、法律や自治体のガイドラインに基づいて判断されます。
指定の基準や流れを知っておくことで、所有者は早めに対策を講じることができます。
自治体は現地調査や通報をもとに、空き家の状態を確認し、必要に応じて所有者に連絡や指導を行います。
判断の流れや基準を理解しておくことで、突然の指定や命令に慌てず対応できるようになります。
特定空き家に該当する基準と判断ポイント
特定空き家に該当するかどうかは、主に以下の4つの基準で判断されます。
1つでも該当すれば、特定空き家と認定される可能性があります。
これらのポイントを日頃からチェックし、該当しないように管理することが大切です。
- 倒壊など著しく保安上危険となるおそれがある状態
- 著しく衛生上有害となるおそれがある状態
- 著しく景観を損なっている状態
- 周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切な状態
誰が特定空き家を決める?指定の流れと関係者
特定空き家の指定は、主に市区町村の自治体が行います。
自治体は、住民からの通報や定期的な調査をもとに、空き家の現状を確認します。
必要に応じて所有者に連絡し、改善を促す指導や助言を行います。
改善が見られない場合は、勧告や命令、最終的には行政代執行に至ることもあります。
この流れの中で、所有者や相続人、近隣住民、自治体の担当部署などが関係者となります。
関係者 | 役割 |
---|---|
自治体 | 調査・指定・指導・命令・執行 |
所有者・相続人 | 管理・改善・対応 |
近隣住民 | 通報・情報提供 |
自治体による調査・通報の受付と一覧の事例
多くの自治体では、空き家に関する通報窓口を設けており、近隣住民や関係者からの情報提供を受け付けています。
通報があった場合、自治体職員が現地調査を行い、写真や状況を記録します。
調査結果をもとに、特定空き家に該当するかどうかを判断し、必要に応じて所有者に通知します。
自治体のホームページでは、特定空き家の指定事例や対応状況を一覧で公開している場合もあります。
これにより、地域全体で空き家問題への意識が高まっています。
- 通報受付窓口の設置
- 現地調査・写真記録
- 指定事例の公開
3.特定空き家に指定されるとどうなる?影響と所有者の義務
特定空き家に指定されると、所有者にはさまざまな義務や負担が発生します。
税金の優遇措置がなくなり、固定資産税が大幅に増加することもあります。
また、自治体からの指導や命令に従わない場合、罰則や行政代執行による強制解体が行われるリスクもあります。
さらに、周辺住民や地域社会への悪影響も無視できません。
特定空き家の指定による影響を正しく理解し、早めの対応を心がけましょう。
固定資産税・都市計画税など税金への影響
特定空き家に指定されると、住宅用地特例の対象から除外され、固定資産税が最大6倍に増額されるケースがあります。
都市計画税の軽減措置も適用外となるため、税負担が大きくなります。
税金の増加は所有者にとって大きなデメリットとなるため、特定空き家に指定されないよう日頃から管理を徹底しましょう。
状態 | 固定資産税 | 都市計画税 |
---|---|---|
通常の空き家 | 住宅用地特例で1/6 | 軽減措置あり |
特定空き家 | 特例除外で6倍 | 軽減措置なし |
勧告・命令・指導・助言の具体的な措置内容
特定空き家に指定されると、自治体から所有者に対して段階的な措置が取られます。
まずは助言や指導が行われ、改善が見られない場合は勧告、さらに命令へと進みます。
命令に従わない場合は、罰則や行政代執行の対象となることもあります。
これらの措置は、所有者の負担や責任を大きくするため、早期の対応が重要です。
- 助言・指導:改善のためのアドバイスや要請
- 勧告:法的根拠に基づく改善要請
- 命令:法的強制力を持つ改善命令
- 罰則・行政代執行:命令違反時の強制措置
取り組まない場合の罰則・行政代執行・代執行除却とは
命令に従わず改善が行われない場合、自治体は行政代執行を実施することができます。
これは、自治体が所有者に代わって空き家の解体や撤去を行い、その費用を所有者に請求する制度です。
また、命令違反には50万円以下の過料が科されることもあります。
行政代執行は最終手段であり、所有者にとって大きな経済的・精神的負担となるため、早めの対応が求められます。
- 行政代執行による強制解体
- 費用の全額請求
- 命令違反時の過料(50万円以下)
周辺環境・周辺住民への悪影響やリスク
特定空き家が放置されると、倒壊や火災、害虫・害獣の発生、不法侵入や犯罪の温床になるなど、周辺住民や地域社会に深刻な悪影響を及ぼします。
また、景観の悪化や資産価値の低下、地域のイメージダウンにもつながります。
こうしたリスクを防ぐためにも、空き家の適切な管理と早期対応が不可欠です。
- 倒壊・火災の危険性
- 害虫・害獣の発生
- 不法侵入・犯罪リスク
- 景観・資産価値の低下
4.特定空き家の対応・対策方法
特定空き家に指定されてしまった場合、または指定される前に、どのような対応や対策を取るべきかを知っておくことは非常に重要です。
早期対応や適切な管理、解体やリフォーム、売却・賃貸など、状況に応じた選択肢があります。
また、専門家や自治体のサポート、補助金の活用も有効です。
ここでは、特定空き家への具体的な対応策とその流れについて詳しく解説します。
早期対応が必要な理由とその流れ
特定空き家に指定される前に早期対応を行うことで、税金の増加や行政からの命令、罰則などのリスクを回避できます。
また、周辺住民とのトラブルや地域の資産価値低下も防げます。
早期対応の流れは、現状把握→専門家相談→対策実施(修繕・解体・活用など)→定期的な管理が基本です。
問題が大きくなる前に行動することが、最もコストを抑え、安心につながります。
- 現状の確認・点検
- 専門家や自治体への相談
- 修繕・解体・活用などの対策実施
- 定期的な管理・見直し
解体・リフォーム・活用などの具体的方法
特定空き家の対策としては、建物の解体やリフォーム、または新たな用途での活用が考えられます。
解体は最も確実な方法ですが、費用がかかるため補助金の活用も検討しましょう。
リフォームによって再利用や賃貸物件への転用も可能です。
また、地域のニーズに合わせてシェアハウスや店舗、コミュニティスペースとして活用する事例も増えています。
方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
解体 | リスク解消・税金対策 | 費用負担大 |
リフォーム | 資産価値向上・活用可能 | 費用・手間がかかる |
活用 | 収益化・地域貢献 | 企画・運営が必要 |
特定空き家の売却・賃貸や相続時のポイント
特定空き家は、売却や賃貸によって第三者に活用してもらう方法も有効です。
ただし、特定空き家に指定されている場合は、買い手や借り手が見つかりにくくなるため、早めの対応が重要です。
相続時には、空き家の現状や管理責任、税金の負担などをしっかり確認し、相続放棄や売却も選択肢に入れて検討しましょう。
専門家のアドバイスを受けることで、トラブルを未然に防ぐことができます。
- 売却・賃貸の際は現状説明が必須
- 相続時は管理責任や税金を確認
- 専門家のサポートを活用
専門家・自治体への相談や補助金の活用術
特定空き家の対応には、建築士や不動産会社、弁護士などの専門家の力を借りることが有効です。
また、多くの自治体では解体やリフォーム、活用に関する補助金制度を設けています。
自治体の窓口やホームページで情報を収集し、積極的に相談・申請しましょう。
専門家や自治体のサポートを受けることで、費用や手間を大幅に軽減できます。
- 建築士・不動産会社・弁護士への相談
- 自治体の補助金・助成金の活用
- 無料相談窓口の利用
5.特定空き家にならないための管理・予防のコツ
特定空き家に指定されないためには、日頃からの適切な管理と予防が不可欠です。
定期的な点検や清掃、修繕を行い、建物の劣化や周辺への悪影響を防ぎましょう。
また、空き家管理サービスやNPO法人の活用も有効です。
ここでは、特定空き家を未然に防ぐための具体的な管理・予防のコツを紹介します。
定期的な管理・点検で不全を防ぐ方法
空き家は放置すると急速に劣化が進み、特定空き家に指定されるリスクが高まります。
定期的な管理・点検を行うことで、建物の状態を良好に保ち、問題の早期発見・対応が可能です。
最低でも年に数回は現地を訪れ、屋根や外壁、窓、庭の状況を確認しましょう。
必要に応じて清掃や修繕も行い、近隣住民への配慮も忘れずに。
- 年数回の現地点検
- 屋根・外壁・窓・庭の確認
- 清掃・修繕の実施
- 近隣住民への配慮
空き家管理サービスやNPO法人の活用例
遠方に住んでいる場合や管理が難しい場合は、空き家管理サービスやNPO法人のサポートを活用しましょう。
これらのサービスでは、定期的な巡回や清掃、簡易修繕、報告書の提出などを行ってくれます。
費用はかかりますが、特定空き家への指定リスクを大幅に減らすことができます。
地域によっては自治体と連携したサービスもあるので、情報収集をおすすめします。
- 定期巡回・点検サービス
- 清掃・簡易修繕
- 報告書の提出
- 自治体やNPOとの連携
空家認定を防ぐために知っておきたい注意点
特定空き家に認定されないためには、建物の外観や衛生状態、周辺環境への配慮が重要です。
ゴミや雑草の放置、外壁や屋根の破損、窓ガラスの割れなどは、すぐに対応しましょう。
また、近隣住民からの通報がきっかけで調査が入ることも多いため、日頃から良好な関係を築くことも大切です。
定期的な管理と情報収集で、空家認定を未然に防ぎましょう。
- 外観・衛生状態の維持
- ゴミ・雑草の処理
- 破損箇所の早期修繕
- 近隣住民との良好な関係
6.今すぐ始めるべき対策
特定空き家に指定されると、税金の増加や行政からの命令、罰則、周辺環境への悪影響など、多くのリスクが発生します。
これらを防ぐためには、日頃からの適切な管理と早期対応が不可欠です。解体やリフォーム、売却・賃貸、専門家や自治体のサポート、補助金の活用など、状況に応じた対策を検討しましょう。空き家問題は他人事ではありません。今すぐできることから始め、安心して資産を守りましょう。
空き家の管理や相続でお困りの方は、高野司法書士事務所にご相談ください。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
兄弟相続のトラブルを回避する方法
1.兄弟間の相続トラブルが増えている背景
かつての日本では「長男が家を継ぐ」「兄弟は協力して親の遺産を整理する」といった価値観が根強く、相続をめぐる争いはそれほど多くありませんでした。しかし近年では、家族構成や価値観の多様化、経済状況の変化などにより、兄弟姉妹間での相続トラブルが増加傾向にあります。
特に問題になりやすいのが「遺産分割」をめぐる意見の対立です。不動産や預貯金などの財産をどう分けるかについて、兄弟それぞれが異なる希望や解釈を持ちやすく、感情の対立に発展することも少なくありません。「親の介護をしてきたのに取り分が少ない」「突然、相続放棄した兄弟がいて遺産分割協議が混乱した」「代襲相続人が登場して複雑になった」など、さまざまな事例が報告されています。
また、相続に必要な戸籍の取得や、税金の申告・支払い、名義変更など、実務面でも複雑な対応が求められるため、兄弟間で十分に情報共有ができていないと、誤解や不信感から深刻な対立に発展することもあります。
この記事では、兄弟間の相続で起こりがちなトラブルを紹介しながら、その回避方法をわかりやすく解説していきます。相続を「争族」にしないためにも、事前に知っておきたいポイントを確認しておきましょう。
2.よくある兄弟間の相続トラブル事例
兄弟姉妹間での相続トラブルは、財産の多寡にかかわらず発生します。ここでは、実際によく見られるトラブルのパターンを整理し、それぞれの背景や要因について説明します。
1. 親の介護をめぐる貢献度の不公平感
兄弟のうち一人だけが長年にわたって親の介護を担ってきたケースでは、「介護してきたのだから、他の兄弟より多く相続したい」という気持ちが生まれることがあります。しかし、法定相続分に介護の貢献は直接反映されません。これにより、「苦労したのに他と同じ取り分なのか」と不満が生じ、他の兄弟との間に亀裂が入ることもあります。
このような場合には「寄与分」という制度を利用することも検討できますが、証明が難しく、争いに発展するケースもあります。
2. 遺言書がない・遺言の内容に不満
親が遺言書を残していない場合、相続人全員での遺産分割協議が必要となりますが、全員の意見がまとまらず協議が長期化することが少なくありません。逆に、遺言書があっても内容に偏りがある場合、「なぜ兄だけに不動産が?」などと不信感を抱かれ、トラブルに発展することもあります。
自筆証書遺言に不備があり、法的に無効と判断されることで、さらに混乱が生じる例も見られます。
3. 相続放棄による意外な展開
兄弟の中で一人だけが相続放棄をしたことで、他の相続人の取り分が変動し、不満を招くことがあります。とくに借金があるケースでは、相続放棄によって残された相続人に負担が集中してしまうことも。
4. 代襲相続による新たな関係者の登場
相続人の一人が先に亡くなっており、その子(孫など)が代襲相続人として権利を持つ場合、従来の兄弟姉妹とは異なる世代が遺産分割協議に加わることになります。関係性が薄く、連絡先が分からない、そもそも相続に関心がないといった事情により、手続きが遅延・停滞する原因にもなります。
3.遺産分割協議でトラブルを回避するための工夫
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要な手続きです。円滑に進めるためには、感情論に発展する前に、具体的な工夫を講じておくことが重要です。この章では、兄弟間でのトラブルを未然に防ぐために有効な対応策をご紹介します。
1. 初期段階での「情報共有」を徹底する
遺産分割協議を開始する前に、遺産の全容、法定相続人の範囲、相続税の見込み、遺言書の有無など、全員が同じ情報を共有することが重要です。情報に偏りがあると、不信感や不公平感を生み、協議が決裂する原因になります。
たとえば以下の情報をまとめて共有するとスムーズです:
- 財産目録(不動産、預貯金、有価証券、借金など)
- 被相続人の戸籍・住民票除票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 税理士・司法書士からの意見書(可能なら)
2. 話し合いの場では「感情論」を避ける工夫
遺産分割協議が進むうちに、「あのとき面倒を見たのは自分だ」「付き合いがなかったのに相続だけ主張するのはずるい」といった感情論に発展することが多くあります。これを防ぐには、事前に議題を整理し、協議の目的を「遺産の円満な分割」に集中させる必要があります。
特に兄弟間の場合は、過去の家族関係が影響しやすいため、必要に応じて第三者(司法書士やファシリテーター)を同席させると効果的です。
3. 寄与分や特別受益は「明確な根拠」を提示する
「自分だけが介護した」「生前に多く援助してもらった」などの主張がある場合、それを協議に反映させたいと考えるのは自然なことです。しかし、感覚的な訴えではなく、客観的な証拠(介護日誌、送金記録、不動産名義の変更書類など)を用意することがトラブル回避につながります。
寄与分や特別受益は、協議の場で争いになりやすいため、第三者による意見や法的な解釈をもとに冷静に判断することが望まれます。
4. 書面による「遺産分割協議書」の作成を必ず行う
口頭での合意だけで終わらせず、必ず遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名押印することが大切です。登記や銀行手続きに使用できる正式な書類であると同時に、将来のトラブルを防ぐ「証拠」となります。
また、相続登記や金融機関への提出を見据えて、協議書の文言や構成は専門家と相談しながら慎重に行いましょう。
5. 専門家の同席や仲介を活用する
兄弟姉妹での相続協議は、どうしても感情が絡みやすく、冷静な話し合いが難しくなることがあります。こうした場合、司法書士や弁護士といった専門家に協議の立会いを依頼することで、中立的かつ法的観点からのアドバイスを得ることができ、話し合いを前に進めやすくなります。
4.相続放棄が有効なケースとその判断ポイント
相続放棄とは、法律上当然に発生する相続権を「放棄する」ことで、最初から相続人ではなかったとみなされる制度です。兄弟間の相続においても、相続財産がプラスよりもマイナス(借金など)のほうが多い場合や、遺産をめぐるトラブルに巻き込まれたくない場合など、相続放棄が有効な選択肢となるケースがあります。
ここでは、相続放棄をすべきかどうか判断するためのポイントをわかりやすく解説します。
1. 借金などの負債が遺産に含まれている場合
相続では、財産(プラスの遺産)だけでなく、借金や未納の税金(マイナスの遺産)も引き継ぐことになります。兄弟姉妹が相続人となる場面では、親の遺産がすでに長期間管理されておらず、借金や滞納金の存在が明らかになることもあります。
このような場合、相続放棄を行えば、借金の支払い義務を免れることができます。ただし、プラスの財産があるかどうかは放棄前に慎重に調査する必要があります。
2. 他の相続人との関係悪化を避けたい場合
兄弟姉妹との関係がもともと良くなかったり、遺産分割協議が争いになりそうな場合には、あえて相続放棄を選ぶことでトラブルを回避するという選択肢もあります。
相続放棄をすれば、遺産分割協議に参加する必要がなくなり、関係者とのやり取りを最小限に抑えることが可能です。ただし、特定の財産だけを放棄するということはできないため、全ての相続権を失うことになります。
3. 相続放棄の手続きと期限に注意
相続放棄は、家庭裁判所に対して「相続放棄の申述」を行うことで成立します。注意すべきは、その期限です。相続を知った日から3か月以内に申立てを行う必要があり、これを過ぎると単純承認(すべてを相続する)とみなされるおそれがあります。
万一、期限内に相続財産の内容がよく分からない場合は、「熟慮期間の伸長申立て」を行って3か月の猶予を延ばすことも可能です。
4. 相続放棄後の代襲相続や他の影響に注意
兄弟姉妹の相続では、相続放棄によって思わぬ相続関係の変化が生じることがあります。たとえば、放棄した兄弟に子(甥・姪)がいる場合でも、代襲相続は発生しません(親の相続放棄は、代襲原因ではないため)。
また、放棄によって次順位の相続人(他の兄弟やその子など)に相続が移るため、相続関係が複雑になるケースもあります。放棄の影響範囲は慎重に確認する必要があります。
5. 相続放棄後の注意点(財産を使わない・処分しない)
相続放棄を考えている場合は、「相続財産を管理・使用しないこと」が非常に重要です。たとえば、被相続人の預金を引き出して使ったり、不動産を貸したりする行為は、「単純承認」とみなされ、放棄が認められなくなる可能性があります。
また、通帳の記帳や遺品整理なども「相続人としての管理行為」にあたると疑われる可能性があるため、判断に迷う行動は事前に司法書士など専門家に相談することをおすすめします。
5.兄弟間で代襲相続が発生するケースと対応
兄弟姉妹が相続人となるケースでは、「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」が発生することがあります。代襲相続とは、本来相続人となるはずだった人が、相続開始以前に死亡している場合に、その子が代わりに相続人となる制度です。
この章では、兄弟相続における代襲相続の仕組みと注意点を、具体例を交えながら解説します。
1. 兄弟姉妹に代襲相続が認められるケースとは
代襲相続が認められるのは、民法第887条・第889条の規定によりますが、兄弟姉妹が相続人となる場合でも、その兄弟姉妹が既に死亡していた場合、その人の「子(甥・姪)」が代襲相続人として相続に参加します。
たとえば以下のようなケースです:
- 被相続人に配偶者も子もおらず、兄弟姉妹が相続人となる場合
- そのうちの一人の兄弟が被相続人より先に死亡していた場合
- その兄弟に子がいた場合、その子(甥や姪)が代襲相続人となる
ただし、甥や姪がすでに死亡していても「再代襲相続」は認められない点に注意が必要です。
2. 戸籍調査がより複雑になる
代襲相続が発生すると、相続人の調査や確定作業が通常の相続よりも複雑になります。通常の相続の場合は、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍と、相続人の現在の戸籍があれば手続きが進むことが多いです。しかし、代襲相続がある場合は、次のような追加書類が必要となります。
- 代襲者の親(たとえば、亡くなった兄弟姉妹)の除籍謄本
- 甥・姪(代襲者)の現在の戸籍謄本
場合によっては、複数の市区町村にまたがる戸籍の取得が必要になり、時間と手間がかかります。特に転籍を繰り返している家庭では、古い戸籍をたどることに苦労することがあります。
3. 代襲相続人との遺産分割協議の実務上の問題
代襲相続人が多数いる場合、それぞれに遺産分割協議書への署名・押印と印鑑証明書の提出が必要です。中には、長年疎遠になっている甥や姪、海外在住の代襲相続人が含まれることもあり、連絡が取れない、協議に応じないといったトラブルが発生するケースもあります。
特に、相続財産が不動産中心で売却予定がある場合、全員の同意が必要になるため、協議が難航することが少なくありません。
4. 代襲相続人が未成年の場合の注意点
代襲相続人が未成年者である場合には、法定代理人(多くは親権者)が手続に関与することになります。ただし、未成年者と親権者が利害関係を有する場合(たとえば親も相続人の場合)には、「特別代理人」の選任が必要になる場合があります。
この手続は家庭裁判所に申し立てる必要があり、事務的・時間的な負担が増すため、あらかじめ確認しておくことが重要です。
5. 遺言がある場合の代襲相続の影響
遺言がある場合、その内容によっては代襲相続人が相続できない場合もあります。たとえば、被相続人が兄弟の一人にだけ全財産を相続させるという遺言を残していた場合、その兄弟が先に亡くなっていても、その子には相続権が移らないことがあります。
これは、代襲相続は「法定相続」に適用される制度であり、「遺言による相続」には原則として適用されないからです。したがって、遺言がある場合には内容を精査し、代襲相続人の有無とその扱いを確認する必要があります。
6.兄弟間の相続で必要になる戸籍収集と注意点
兄弟姉妹が相続人となる場合、他の相続形態と比べて戸籍の収集が煩雑になりやすい点に注意が必要です。ここでは、兄弟間の相続において、どのような戸籍書類を、どこまで集める必要があるのかを具体的に解説します。
1. 兄弟相続で必要な基本的な戸籍類
兄弟姉妹が相続人となるのは、被相続人に配偶者も子もおらず、かつ親(直系尊属)もすでに亡くなっている場合です。このようなケースでは、相続人である兄弟姉妹を確定させるために、以下の戸籍が必要となります。
- 被相続人の出生から死亡までの全戸籍(改製原戸籍・除籍謄本を含む)
- 被相続人の両親の出生から死亡までの全戸籍(改製原戸籍・除籍謄本を含む)
- 被相続人の兄弟姉妹の現在の戸籍謄本
2. 代襲相続がある場合の追加書類
兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっており、その子(甥・姪)が代襲相続人になる場合は、さらに以下の戸籍が必要になります。
- 代襲相続人(甥・姪)の現在の戸籍謄本
- 亡くなった兄弟姉妹(甥・姪の親)の出生から死亡までの全戸籍(改製原戸籍・除籍謄本を含む)
特に注意すべきは、代襲相続人が多数いるケースや、甥・姪が既に亡くなっている場合です。この場合、再代襲は認められないため、その人の子どもには相続権が及びませんが、確認のための戸籍は必要になります。
3. 戸籍の「つながり」を確認することが重要
兄弟相続で特に重要なのは、「被相続人と相続人とのつながりを明らかにする戸籍が揃っているか」です。
また、婚外子や養子縁組などが含まれる場合、親子関係や兄弟関係が戸籍で明確に証明されていないと、法定相続人として認められないケースもあるため注意が必要です。
7.兄弟の相続トラブルを防ぐために今できること
兄弟姉妹間の相続は、親の死後に初めて向き合う課題であることが多く、そのぶん感情的な対立や手続き上の混乱が起こりやすいものです。
こうした事態を避けるためには、被相続人が遺言書を作成しておくこと、そして相続人側も事前に関係者の把握や手続きの準備を進めておくことが重要です。また、相続税や登記などの面でも複雑な判断が求められることがあるため、相続に精通した専門家へ早めに相談することが、円満な相続の第一歩になります。
高野司法書士事務所では、兄弟間の相続における不動産の名義変更や、遺産分割協議書の作成、相続放棄の手続きなど、相続に関するご相談を幅広く承っております。横浜市青葉区をはじめ、緑区、都筑区、町田市などの近隣地域の方からも多くのご依頼をいただいております。
「兄弟で揉めない相続をしたい」「今の状況に不安がある」という方は、どうぞお気軽にご相談ください。あなたのご事情に寄り添い、最適な解決策をご提案いたします。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
亡くなった方のクレジットカード解約手続き
身近なキャッシュレス決済手段として利用されているクレジットカード。亡くなった方が生前に複数枚保有していたというケースも珍しくありません。しかし、相続手続きの際に意外と見落とされがちなのが、これらクレジットカードの解約です。
「もう故人は使わないのだから、そのままでも問題ないのでは?」と考えがちですが、実はクレジットカードを放置しておくことで、家族や相続人に不利益が生じるおそれがあるのです。
たとえば、以下のようなリスクがあります。
- 未払い残高の請求:故人に残債(リボ払いや分割払いなど)がある場合、相続人がその支払い義務を負うことがあります。
- 年会費の自動引き落とし:カードを放置しておくと、毎年自動的に年会費が請求されることがあります。
- 不正利用のリスク:紛失や盗難に気づかず放置したカードが、第三者に悪用される可能性も否定できません。
また、クレジットカードにはポイントや特典、保険などの付帯サービスがついていることも多く、それらの処理も相続の一環として検討すべき重要事項です。
つまり、クレジットカードの解約は単なる「手続き」ではなく、「相続管理」の一部として正しく行うことが求められるのです。
本記事では、クレジットカード解約の具体的な流れや必要書類、注意すべき点、相続放棄や支払い義務との関係などを詳しく解説します。
1.相続とクレジットカードの関係
被相続人(亡くなった方)が契約していたクレジットカードは、死亡により自動的に「解約される」と誤解されがちですが、実際には相続人側で正式な手続きを行わなければ、契約状態がそのまま残ってしまうことが多いのが現実です。
1. クレジットカード契約は「個人契約」
クレジットカードの契約は、あくまで個人とカード会社との間で結ばれるものです。契約者が死亡した場合には、カード会社に対してその旨を連絡し、必要な手続きを経て解約処理をしてもらう必要があります。
このとき、未払い残高がある場合には、原則として相続人に支払い義務が引き継がれます(相続放棄をしない限り)。したがって、カードの利用明細や残債の有無を必ず確認しておくことが大切です。
2. 死亡後も引き落としが継続するリスク
クレジットカードには、年会費や各種サービス料が定期的に発生するものもあります。死亡後も銀行口座が凍結されるまでの間に、引き落としが行われることがあります。
また、公共料金や定期購読などをカードで支払っていた場合、それらも自動で継続されてしまう恐れがあります。
死亡した事実をカード会社に迅速に伝えない限り、こうした「無駄な引き落とし」や「請求」が続いてしまう可能性があるため注意が必要です。
3. ポイント・マイルなどの付帯サービス
クレジットカードには、利用に応じて貯まるポイントや航空会社のマイルなどの付帯サービスがあります。これらは原則として現金のような法定通貨ではないため、法的には相続財産に該当しないという考え方が一般的ですが、実際にはカード会社やマイレージプログラムごとに対応が異なります。
たとえば、航空会社のマイルについては、所定の手続きにより相続(名義変更)できる制度を設けているケースが多くあります。ANAやJALなどの国内大手航空会社では、相続人からの申請に基づき、被相続人の保有マイルを家族に移行することが可能です(所定の条件あり)。
一方、クレジットカードのポイントについては相続不可としているカード会社も少なくありません。死亡と同時に自動的に失効するケースが多いため、ポイントを有効活用するには、生前に家族カードを持ってもらうなどの工夫が必要です。
したがって、マイルやポイントが多く貯まっている場合には、利用規約や相続時の対応についてあらかじめ確認しておくことが重要です。
2.解約手続きの流れと必要書類
亡くなった方が保有していたクレジットカードは、原則として速やかに解約手続きを行う必要があります。解約を怠ると、年会費が自動で請求されたり、不正利用による損害が発生するおそれがあります。この章では、解約手続きの一般的な流れと必要書類について解説します。
1. カード会社への連絡
まず最初に行うべきは、クレジットカード会社への死亡の通知です。連絡先は、カードの裏面や公式ホームページに記載されています。多くの場合、「会員様が亡くなられた場合の連絡先」や「死亡時の専用窓口」が用意されています。
電話での連絡時に伝える主な内容:
- 会員の氏名・生年月日
- 会員の死亡日
- 死亡した旨の報告
- 相続人または手続きを行う家族の氏名・連絡先
カード会社によっては、連絡を受けた時点でカードを即時停止し、今後の利用をブロックする措置が取られます。
2. 必要書類の提出
カード会社によって多少異なりますが、解約の際に提出を求められる主な書類は以下のとおりです。
必要書類 | 内容・取得先 |
---|---|
死亡診断書または除籍謄本 | 死亡を証明するために必要。市区町村役場で取得可能。 |
相続人であることの証明書類 | 戸籍謄本など。法定相続人であることを確認するため。 |
本人確認書類(相続人) | 免許証、マイナンバーカード、パスポートなど。 |
解約申請書(所定様式) | カード会社指定の解約届。公式サイトでダウンロード可能なことも。 |
※会社によっては、郵送での対応、または専用のフォームによる提出が求められる場合もあります。
3. 支払い残高の精算
解約手続きにあたっては、亡くなった方のカードに未払い残高があるかどうかを確認する必要があります。残高がある場合、その分の精算(支払い)が済まない限り、正式な解約はできません。
支払いについては、原則として相続人が引き継ぐことになります。ただし、相続放棄を選択すれば、債務の支払い義務は免除されます。この点は後述の「4.相続放棄との関係」で詳しく解説します。
3.解約後にやるべきこと
クレジットカードの解約手続きが完了しても、遺族としてやるべき作業はまだ残っています。解約後の確認不足により、後から思わぬ請求やトラブルが発生することもあります。この章では、解約後に確認・対応しておきたいポイントを紹介します。
1. 利用履歴と請求内容の確認
カードの利用明細やWEB明細を確認し、亡くなった後に不正な利用がされていないかをチェックすることが重要です。場合によっては、解約の連絡をする前に自動引き落としや決済が行われているケースもあります。
特に注意すべきは以下のような項目です:
- サブスクリプション(定額課金サービス)
- 公共料金などの継続的な支払い
- ネットショッピングでの購入履歴
- キャッシングやローンの利用
不正利用や不要な課金が見つかった場合には、速やかにカード会社に連絡し、停止または取り消しの申請を行いましょう。
2. 付帯サービス・ポイントの扱い
亡くなった方のカードに付帯していたサービス(旅行保険、ショッピング保険、空港ラウンジ利用など)は、解約と同時にすべて無効になります。それに伴い、クレジットカード会社が提供していたポイント(例:Tポイント、dポイント、楽天ポイントなど)も、基本的には消滅します。
ただし、一部のポイントサービスでは、相続によってポイントを引き継げる制度を設けている場合もあります。たとえば、ANAやJALのマイルは、一定の条件下で相続手続きを行うことで引き継ぐことが可能です。各カード会社・ポイント運営元に確認し、手続きを進めてください。
3. 複数枚持ちの確認
高齢の方や経営者の方などは、複数枚のクレジットカードを所持していることが少なくありません。1枚を解約しても他のカードが残っていることもあるため、亡くなった方の郵便物や通帳、引き落とし口座の履歴を確認し、見落としのないよう全カードの把握と解約を行いましょう。
4.相続放棄との関係と注意点
クレジットカードの債務は、亡くなった方が残した「負の財産(債務)」として扱われるため、相続放棄との関係は非常に重要です。特に、カードの利用残高がある場合や支払い状況が不明な場合には慎重な対応が必要です。
1. 相続放棄とクレジットカードの債務
相続放棄とは、相続人が「一切の財産(プラスの財産もマイナスの財産も)を受け取らない」ことを選択する制度です。家庭裁判所に申述し、受理されれば最初から相続人ではなかったことになります。
クレジットカードの未払い残高やキャッシング債務などもこの「マイナスの財産」に含まれます。相続放棄をすれば、こうした債務を支払う義務も免れることになります。
ただし注意が必要なのは、以下のような「相続を単純承認した」とみなされる行為をしてしまうと、相続放棄が認められなくなる可能性があるという点です。
2. 相続放棄が認められなくなる行為とは?
相続放棄をするには、原則として「被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内」に申述を行わなければなりません。しかも、その期間内であっても、次のような行為をすると、「相続を承認した」とみなされる可能性があります。
- カード明細を精査せずに支払ってしまう
- 相続財産の一部(預金や不動産など)を処分・引き出す
これらの行為は、相続人として財産の処分をしたとみなされる可能性があり、相続放棄が認められなくなることもあります。悪意がなかった場合でも単純承認と判断されるリスクがあるため、十分な注意が必要です。
3. 相続放棄を検討する場合の対応
クレジットカードの債務が明らかでない場合や、複数のカードがあった可能性がある場合は、まず以下の手順で対応するのが安全です。
- すぐにカード会社への返済等を行わない
- 亡くなった方の財産調査を進める(通帳・郵便物などを確認)
- 法律の専門家に相談し、相続放棄するかどうかを判断
- 相続放棄をする場合は家庭裁判所に申述
相続放棄が受理された後は、クレジットカード会社から相続人に対して支払い請求が来た場合でも、「相続放棄済み」である旨を伝えれば支払う義務はありません。
5.早めの対応と専門家への相談が安心
クレジットカードは便利な反面、相続手続きにおいて見落とされやすく、残債やポイント・マイルの扱いを誤ると、相続人に思わぬ負担をかけることもあります。また、カード会社への解約連絡の遅れが原因で、遅延損害金が発生するケースや、信用情報に影響を与えるリスクも考えられます。
特に、亡くなった方が複数のカードを契約していた場合や、カードローンなどの債務が残っていた場合には、相続放棄を含めた慎重な判断が求められます。その際、書類の取り寄せや相続関係の整理など、対応すべき手続きは多岐にわたります。
こうした複雑な手続きをスムーズに進めるためには、相続に精通した専門家に相談することが非常に重要です。
高野司法書士事務所では、横浜市青葉区を中心に、相続や不動産の名義変更、相続放棄など幅広い相続手続きに対応しており、多くのご相談者様から信頼をいただいております。クレジットカードの解約に関するサポートはもちろん、預貯金や不動産などを含めた相続全体のトータルサポートが可能です。
「何から手をつけていいかわからない」「カード会社への連絡が不安」という方も、どうぞお気軽にご相談ください。専門家の視点で、安心・確実な手続きをお手伝いさせていただきます。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
両親が続けて亡くなった場合の相続手続き
相続というと「人が亡くなったときに一度きりで発生するもの」と思われがちですが、実際には、相続手続きが一度で完結しないケースも少なくありません。特に、両親が短期間のうちに相次いで亡くなった場合などには、相続の手続きが「数次相続(すうじそうぞく)」として重なって発生することになります。
たとえば、父が亡くなり、母が相続人となってその財産を相続した直後に、今度は母も亡くなったとします。この場合、父の財産の一部はすでに母に移っているため、母の相続においては「父から母に渡った財産」も再び子どもたちへと相続される対象になります。
このように、複数の相続が連続して発生する状態が「数次相続」と呼ばれますが、その手続きは非常に煩雑で、遺産分割協議書の作成や名義変更なども通常の相続よりも手間がかかります。しかも、相続人の人数が増えていくことで、協議の調整や書類収集にも多くの時間と労力がかかるのです。
本記事では、両親が続けて亡くなった場合に発生する数次相続のしくみや、遺産分割協議書の作成に関するポイント、実務上の注意点について、具体的な事例も交えながらわかりやすく解説します。相続に関する不安や悩みをお持ちの方が、今後の手続きで迷わず対応できるよう、ぜひ参考にしてください。
1.両親が相次いで亡くなった場合に起きる「数次相続」とは
「数次相続(すうじそうぞく)」とは、ある相続が完了しないうちに、相続人の一人が亡くなり、次の相続が発生することをいいます。特に高齢化が進んだ現代では、夫婦が数年以内、あるいは数ヶ月以内に続けて亡くなることは決して珍しくありません。
具体例で見る数次相続
たとえば、家族構成が以下のような場合を考えてみましょう。
- 父(被相続人1)死亡:相続人=母と子2人(長男・長女)
- 父の遺産:不動産、自動車、預貯金など
- 母(被相続人2)死亡:相続人=子2人(長男・長女)
このとき、父の相続手続きを完了しないうちに母が亡くなると、「父の遺産のうち母が取得する予定だった部分」も含めて母の相続財産となり、再度、相続手続きを行う必要があります。
結果として、以下の2つの相続手続きが必要になります。
- 父から母・子への相続(第1次相続)
- 母から子への相続(第2次相続)
このような相続の連鎖が「数次相続」です。
数次相続が発生するとどうなるか?
数次相続になると、遺産分割協議書を2通作成しなければならない場合があります。また、第1次相続の遺産分割を行う時点で、第2次相続の相続人がまだ相続人として確定していない場合(例えば、母の兄弟姉妹など)は、第1次相続の遺産分割協議に参加する人が増える可能性があります。
さらに、以下のような問題も発生しやすくなります。
- 相続人の人数が増え、協議がまとまりにくい
- 調査しなければならない戸籍が増える
- 相続税の計算が複雑になる
- 登記や金融機関の手続きも2段階で必要になる
このように、両親が相次いで亡くなった場合の相続は、手続きが通常の倍以上に膨れ上がるリスクがあるのです。
2.数次相続における遺産分割協議書の作成方法と注意点
両親が続けて亡くなったケースでは、遺産分割協議書を適切に作成しないと、後々の相続登記や預貯金の解約手続きに支障をきたす可能性があります。ここでは、数次相続における遺産分割協議書の作成方法と、その際に注意すべきポイントについて解説します。
1. 協議書は原則として相続ごとに作成する
数次相続の場合、原則として相続が発生したごとに1通ずつ、別々の遺産分割協議書を作成します。
たとえば、次のような2段階の相続があった場合:
- 第1次相続:父 → 母・長男・長女
- 第2次相続:母 → 長男・長女
この場合は、
- 「父の相続に関する遺産分割協議書」
- 「母の相続に関する遺産分割協議書」
をそれぞれ作成する必要があります。
なお、実務上は2つの相続をまとめて1通の協議書で記載する遺産分割協議書を作成するケースもあります。
2. 協議の参加者(相続人)を正確に把握する
数次相続では、相続人が世代をまたいで増加することがあります。たとえば、母が父の死亡後に遺産を受け取らないまま亡くなった場合、その相続権は母の法定相続人(たとえば母の兄弟姉妹など)に相続されるため、その人たちも遺産分割協議に加わる必要があります。
相続人の調査は「戸籍謄本」や「除籍謄本」「改製原戸籍」などを取り寄せて行い、正確に関係者を把握しなければなりません。
3. 代襲相続の確認も忘れずに
父が亡くなった時点で、相続人の一人(たとえば長男)が既に死亡していた場合、その長男の子どもが「代襲相続人」となります。こうした代襲相続も数次相続と同様に発生しうるため、遺産分割協議書の作成に際しては、すべての関係者を正しく把握する必要があります。
4. 相続財産の名義人に注意
遺産分割協議書を作成する際には、相続財産の「名義人が誰であるか」を明確にします。父名義の不動産は第1次相続の対象となり、母が取得した場合、その後の第2次相続では「母名義の不動産」として再度分割の対象になります。
このように、相続財産の名義を確認せずに手続きを進めると、協議書の内容に矛盾が生じ、登記や金融機関の手続きでトラブルになる恐れがあります。
5. 協議書には印鑑証明書の添付が必要
遺産分割協議書には、協議に参加した相続人全員の署名・実印の押印が必要です。また、実印の押印があることを証明するために、市区町村で発行される「印鑑登録証明書」を添付する必要があります。これがなければ、登記や預貯金の名義変更ができません。
3.数次相続で特に注意すべき5つのポイント
数次相続は、通常の相続と比べて手続きが煩雑で、相続人の数も多くなりがちです。この章では、実務上特に注意すべきポイントを5つに絞って詳しく解説します。
1. 相続人の確定に時間がかかる
数次相続では、複数の相続が連続して発生するため、すべての相続人を特定するのに時間がかかります。特に、先に亡くなった方の相続人がさらに亡くなった場合には、その人の法定相続人(配偶者や子、場合によっては兄弟姉妹など)まで調査の対象になります。
相続関係が複雑になると、戸籍の収集範囲が広がり、数十通以上の戸籍を取り寄せる必要があるケースも珍しくありません。また、相続人の一部が海外に在住していたり、長期間音信不通だったりすると、さらに時間と労力がかかります。
2. 不動産の登記が2段階必要になることがある
たとえば、父が亡くなった際に相続登記をしないまま母も亡くなってしまった場合、相続登記は本来であれば「父→母→子」の2段階で行う必要があります。このとき、まず父から母へ相続登記をし、そのうえで母から子への相続登記を行うという流れになります。
ただし、父の財産を一度すべて母が相続し、さらにその母の財産を子が単独で相続するという形であれば、「父→子」の登記を1回の申請でまとめて行うことが可能です。これを「中間省略登記」と言い、法務局はこのようなケースにおいて、連続した相続であればまとめて1件での登記申請を認めています。
3. 遺産分割協議が複雑になりやすい
相続人が増えると、それだけ利害関係も複雑になります。数次相続では、「父の遺産の分割」「母の遺産の分割」と、相続対象となる財産も複数あるため、どの財産を誰がどの相続として取得するか、明確にしなければなりません。
また、遺産の内容が不動産や金融資産など多岐にわたる場合、誰が何をどのように取得するかをめぐって、相続人同士の意見が分かれることもあります。このような状況を避けるには、できる限り早い段階で話し合いを始め、必要に応じて司法書士や税理士などの専門家に相談することが有効です。
4. 遺産の評価時点が異なる
数次相続では、相続税の申告において、それぞれの相続時点で財産評価を行う必要があります。たとえば、父の相続が令和元年に発生し、母の相続が令和6年に発生した場合、それぞれの財産はその相続時点の時価で評価されることになります。
不動産や株式などの資産は、数年の間に大きく価値が変動することもあり、評価を誤ると後の税務調査で追徴課税を受けるリスクもあります。そのため、税務上の適正な評価が求められ、税理士などの専門家との連携が不可欠です。
また、このように短期間に連続して相続が発生した場合には、「数次相続控除)」の適用が検討できます。これは、最初の相続で納めた相続税について、次の相続で一定の条件を満たすことで一部を控除できる制度です。具体的には、最初の相続から10年以内に次の相続が発生し、かつ最初の相続で相続税を納付していた場合、次の相続でその負担が二重にならないように一部相続税を軽減できる仕組みです。
5. 遺言書の有無によって対応が大きく変わる
もし両親のどちらか、または両方が遺言書を残していた場合、遺産の分け方や相続人の構成が大きく変わる可能性があります。たとえば、「父の遺産はすべて母に相続させる」という遺言がある場合、父の相続分については遺言が優先されるため、その後の母の相続にすべての遺産が引き継がれることになります。
逆に、遺言がない場合や内容に不備がある場合は、法定相続分に従って分割する必要があるため、遺産分割協議が不可欠になります。遺言書の存在や内容は、数次相続の全体設計に関わる重要な要素です。
4.数次相続を円滑に進めるための実務ポイント
数次相続の手続きをスムーズに進めるには、いくつかの実務的なポイントを押さえることが大切です。
1. 相続人の関係図(家系図)を早い段階で作成する
相続手続きの第一歩は、相続人の把握から始まります。数次相続の場合、「父→母→子」と相続関係が複雑になるため、家系図を用いて関係性を可視化することが非常に有効です。
また、戸籍の収集もこの図に基づいて行うことで、漏れなく、効率よく作業を進めることができます。
2. 相続財産目録を丁寧に作成する
父と母の遺産を明確に区別し、それぞれの相続に応じた財産を把握する必要があります。預貯金、不動産、有価証券、自動車、借入金などを一つひとつリスト化し、どちらの相続で取得したかを明記すると、後の遺産分割協議や登記手続きがスムーズに進みます。
財産目録は、将来的なトラブルを防ぐための証拠資料にもなります。相続税の申告が必要なケースでは、評価額を含めた財産目録を作成し、税理士と連携することも重要です。
3. 遺産分割協議書は1つにまとめる?2つに分ける?
父母の遺産を同時に処理する際、遺産分割協議書を「1通でまとめて作成する」か「2通に分けて作成する」かは、状況に応じて選択することになります。
1通でまとめるメリット:
- 相続人の署名押印が1回で済む。
- 実務負担が少ない。
2通に分けるメリット:
- 父と母の財産を明確に区別でき、将来的な証明に便利。
- 税務処理上の整理がしやすい。
相続財産の内容や相続人間の合意状況、手続き先の要件などを踏まえて判断すると良いでしょう。
5.数次相続を放置しないために
両親が相次いで亡くなった場合に発生する「数次相続」は、通常の相続よりも手続きが複雑になり、相続人にかかる負担も大きくなります。戸籍の収集、財産の確認、遺産分割協議書の作成、不動産や預貯金の名義変更など、やるべきことは多岐にわたります。
特に注意が必要なのは、「とりあえず手続きを後回しにしておく」という判断です。相続人が増え続けることで協議がまとまりづらくなり、不動産の処分や金融資産の引き出しも困難になるリスクがあります。また、相続税の申告期限(10か月)を過ぎてしまえば、加算税や延滞税の対象にもなりかねません。
したがって、数次相続が発生した場合には、できるだけ早期に全体像を整理し、相続人全員が納得できる形で遺産の分割や名義変更を進めることが大切です。
そのためには、相続に精通した専門家に相談し、法的に正確かつ実務的に効率のよい方法を選択することが重要です。戸籍の収集から名義変更の手続きまでをワンストップで対応できる司法書士に相談することで、精神的な負担も軽減され、スムーズな解決へとつながります。
相続手続きでお困りの方は、高野司法書士事務所へご相談ください。当事務所では、横浜市青葉区を中心に、緑区・都筑区・町田市など周辺地域からも多数のご相談をいただいております。数次相続や複雑な相続手続きにも対応可能です。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続放棄をしたが生命保険金を受け取りたい時の注意点
相続放棄をすると、故人の財産も負債も全て受け継がないことになります。しかし「相続放棄しても生命保険金は受け取れるの?」という疑問は多くの方が抱くテーマです。さらに「生命保険金が債権者に差し押さえられるのでは?」という心配もよく寄せられます。ここでは、“生命保険金の受け取り可否”“差し押えの対象にならない場合・なる場合”“相続税や手続きの注意点”について、司法書士の視点で詳しく解説します。
1. 相続放棄しても生命保険金は受け取れる?
相続放棄をしても、「保険金の受取人」として指定されているならば、死亡保険金は原則として受け取れます。これは、保険契約上の受取人の権利は受取人の固有財産とみなされ、被相続人の財産(相続財産)とは区別されるためです。
【例】
- 被保険者:父
- 受取人:子(あなた)
→あなたが相続放棄していても、生命保険金は受け取ることができます。
受取人が「被相続人」となっている場合
受取人が特に指定されておらず『法定相続人』とされている場合
- 生命保険の受取人が特定の名前ではなく「法定相続人」と指定されているときは、被保険者(亡くなった方)が亡くなった時点で法定相続人にあたる人が、保険金を受け取る権利を持つことになります。たとえその後に相続放棄をしたとしても、死亡時点で法定相続人であったなら、その人には保険金を受け取る権利があり、これは「相続財産」ではなく「その人自身の財産(受取人固有の財産)」として扱われます。
2.差し押さえリスクは?相続放棄後の生命保険金の安全性
生命保険金は原則、あなたの固有財産となるため、被相続人の借金を理由に差し押さえられることはありません。
- 相続放棄によって、あなたは故人の債務を法的に引き継がないため、債権者(例:消費者金融等)は「放棄した相続人」の保険金を差し押さえることはできないのです。
例外・注意点(被相続人の「解約返戻金」等)
3.生命保険金の税金と受取の注意点
相続税の対象!非課税枠もあり
- 相続放棄した方が生命保険金を受け取った場合も相続税の課税対象になります。
- 非課税枠:「500万円×法定相続人の数」までは非課税です。例えば相続人2人なら1,000万円まで非課税枠となります。(実際に保険金を受け取った相続放棄者自身は、この非課税枠を自分に適用することはできません。)
- 満額を超える生命保険金には相続税がかかるので、受け取り後の申告漏れに注意しましょう。
所得税・贈与税となるパターン
- 生命保険金の受取が所得税の対象となるのは、契約者と受取人が同一人物の場合です。この場合、受取保険金から払込保険料と50万円を差し引いた金額の半分が一時所得として課税されます。
- 贈与税が課税されるのは、契約者(保険料負担者)と受取人が異なる場合です。例えば、夫が契約者として妻に保険をかけ、妻が亡くなった際に夫以外の人(子供など)が死亡保険金を受け取る場合でも、夫から子供への贈与として贈与税の対象となります。
4.高野司法書士事務所からのアドバイス
生命保険金の受取人としてあなたが指定されている場合、たとえ相続放棄をしていたとしても、原則として問題なく保険金を受け取ることができます。これは、生命保険金が「受取人固有の財産」とされ、相続財産とは区別されるためです。
また、相続放棄の理由が「被相続人に多額の借金があったため」であっても、債権者がこの保険金を差し押さえることはできません。あなた個人の財産である以上、被相続人の債務の返済にはあてられないのです。
ただし、契約内容や受取人の指定が曖昧な場合には、受け取れないこともありますし、相続税や贈与税の課税対象となるケースもあります。また、あなた自身に債務がある場合には、せっかく受け取った保険金が差し押さえられる可能性もゼロではありません。
生命保険金を確実に、そして安全に受け取るためには、税務や法律に関する正確な知識と適切な対応が必要です。少しでも不安や疑問を感じたら、どうぞお気軽に高野司法書士事務所までご相談ください。相続の専門家として、あなたにとって最善の方法を一緒に考え、手続きを丁寧にサポートいたします。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
預貯金が少額の場合の相続手続き
「亡くなった親の通帳を見たら、残高が数万円しかなかった。こんな少額の預貯金でも、わざわざ相続手続きをしないといけないの?」——これは相続の現場でよく寄せられる質問の一つです。
確かに、相続財産が数百万円、あるいは数千万円単位であれば、司法書士や税理士など専門家に依頼してでも手続きを進めるのが一般的です。しかし、たとえ残高が数万円、十万円台だったとしても、預貯金は亡くなった時点で「相続財産」となり、金融機関の口座は原則として凍結されます。そのため、残高が少額でも「法律的には」相続手続きが必要になります。「少額だから手続きしなくてよい」という考えは、必ずしも正解とは限りません。
この記事では、特に銀行・ゆうちょ銀行など金融機関ごとに手続きの違いや相続放棄、手続きを放っておいた場合のリスクまで分かりやすく解説します。
1.銀行やゆうちょ銀行で預貯金の「簡易な相続手続き」が利用できる場合とは?
銀行やゆうちょ銀行の預貯金を相続する際、手続きを進める中で「少額の場合は簡易な手続きで済む」と耳にする方も多いでしょう。本記事では、「簡易な相続手続き」が認められるケースや手続きの流れ、その際の注意点について詳しく解説します。
1. 「簡易な相続手続き」ってどんな制度?
通常、預貯金の相続では次のようなフルセットの書類や手続きを求められます。
- 被相続人(故人)の出生から死亡までの戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
- 遺産分割協議書 など
しかし、預金残高自体が少額な場合や、遺産分割のトラブルが考えにくい場合などは、金融機関ごとに「簡易な相続手続き」や「少額預貯金払戻の特例」を設けており、必要書類や手順が大きく簡素化されることがあります。
2. 具体的に「簡易手続き」が適用される条件は?
ゆうちょ銀行の場合
- 口座残高が100万円以下であることが明確な条件となっています。
- 相続人のうち誰か一人が代表して、比較的少ない書類と手続きで払戻しが受けられます。
都市銀行や地方銀行の場合
- 銀行ごとに上限額(たとえば30万円、50万円、100万円など)が決められている例が多いです。
- 銀行ごとの内規や支店の判断による部分もあるため、事前の電話確認が必須です。
共通条件
- 「簡易」とはいえ相続人全員の同意(署名又は同意書)が求められる場合が多いので、事前に揉めごとがないよう注意が必要です。
- その金融機関に特別な「同意書」や「代表相続人選任届」など、専用の書式がある場合もあります。
3. 実際の「簡易手続き」の流れ
① 死亡の連絡・凍結
被相続人が亡くなった後、銀行やゆうちょ銀行に死亡を連絡すると口座が凍結されます。
② 必要書類の準備
- 代表相続人の本人確認書類(運転免許証等)
- 被相続人の死亡がわかる戸籍謄本や除籍謄本
- 代表相続人の印鑑証明書
- 「払戻依頼書」や「代表相続人選任届」など、金融機関指定の書類
※ 他の相続人の署名や同意、またはその写しを求められることがありますが、通常の相続に比べて必要書類は少なく済みます。
③ 払戻し・解約手続き
必要書類を提出し、金融機関の確認が終わると(書類に不備がなければ)口座が解約され、預貯金が払戻しされます。
4. 仮払い制度と複雑な場合の対応
少額とはいえ相続人間で争いが予見される場合や、他の財産と合わせて遺産分割協議が難航している場合は、たとえ少額でも簡易手続きを利用できないこともあります。
また、2019年民法改正で誕生した預貯金の仮払い制度を利用すれば、遺産分割前でも一定額(「残高の1/3×法定相続分」、かつ金融機関ごとに150万円まで)を仮で払い戻すことができます。相続人の生活維持や葬儀費用など「早急にお金が必要」な場合には非常に有効です。
5. 注意点とトラブル防止
- 「簡易手続き」であっても、払戻金を後から相続人間で均等配分したり、合意の証拠(同意書など)を残しておくと安心です。
- 相続放棄を検討している相続人が払戻しに関わると「単純承認」とみなされ放棄できなくなる場合があるので注意しましょう。
- 金融機関と十分なコミュニケーションを取り、条件や必要書類が自分のケースにどう当てはまるか、必ず事前確認を。銀行ホームページや窓口で詳細なフロー説明が受けられます。
銀行やゆうちょ銀行の預貯金が少額の場合、「簡易な相続手続き」が活用できれば、本来の煩雑な相続手続きと比べてかなり手間と時間を省略できます。特にゆうちょ銀行なら「100万円以下」、他行も独自上限額が設定されているケースが多いので、手続き前に電話や窓口で「少額預貯金の簡便な相続手続きは利用できますか?」と尋ねるのがベストです。
2.相続放棄を検討すべきケースと注意点
預貯金の金額が少額であっても、故人に借金や保証債務がある可能性がある場合は注意が必要です。特に、公共料金や税金の滞納、クレジットカードの残債、連帯保証など、被相続人の生活状況によっては、相続によってマイナスの財産を引き継いでしまうおそれがあります。
このような場合には、「相続放棄」を選択することで、借金などの負担から免れることができます。相続放棄は、被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。期限を過ぎてしまうと、原則として放棄が認められなくなるため、早めの判断が重要です。
ただし、口座から預金を引き出したりする行為は“単純承認”とみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。相続放棄を検討している場合は、一切の相続財産に手を付けず、速やかに専門家へ相談するようにしましょう。
3.預貯金の相続手続きを放置した場合のリスク・デメリット
預貯金の相続手続きを放置すると、表面上は特に罰則がないように感じがちですが、実際にはリスクやデメリットが存在します。
まず、銀行やゆうちょ銀行の預貯金も「債権」として扱われるため、相続人が払い戻しを請求せずに放置すると、権利が時効によって消滅する危険性があります。民法上、通常は「権利を行使できると知った時から5年」、あるいは「権利を行使できる時から10年」放置すると、預金の払い戻し請求権が消滅時効にかかることになります。特に会社の預金、信用金庫の預金などでは10年とされることもありますが、商法の適用で一般的な銀行預金は5年で時効となることが多いです。
この時効を超えると、法的には銀行が払い戻しを拒否できる状態になるため、せっかくの預貯金が「なかったもの」となってしまうリスクが出てきます。実務上は、10年を超えても手続きを進めれば支払いに応じてくれる場合もありますが、銀行の判断で断られた場合、異議を唱えることができなくなる恐れがあります。
また、近年は「休眠預金等活用法」の施行により、10年以上取引がないまま放置された口座は、残高が国(預金保険機構)に移され、払い戻し手続きが非常に煩雑になります。いざ必要になった時に払い戻しができない、または手続自体が大きな負担になる可能性があります。
さらに、預貯金以外にも相続登記(不動産名義変更)や株式の名義書換を怠ることで、不動産の権利関係が複雑になったり、株式の所有権を失う、相続人が増え続けて分割協議が困難になるなど将来的な遺産トラブルの温床にもなります。
実際、「今は困っていないから」「残高が少ないから」と先延ばしにしてしまったことで、いざ必要な時に複雑な調査や多数の書類が求められて解決に膨大な労力がかかったり、ようやく調停や訴訟でしか解決できない状態に陥ることも珍しくありません。
4.相続手続きにお困りの方へ
少額の預貯金でも「面倒」「後回し」はNGです。高野司法書士事務所では、銀行・ゆうちょ銀行・仮払い制度・簡易手続き・相続放棄に関するすべてのご相談を無料で受付しています。東急田園都市線青葉台駅から徒歩6分とアクセスも良好です。
「相続手続きは何から始めてよいか分からない」「永く放置してしまった」「遠方からでも簡単に済ませたい」とお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。司法書士が親身にサポートし、安心かつスピーディな対応をお約束します。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続した不動産を売却すべきケース
親や祖父母などの遺産として不動産を相続した場合、「その不動産をこのまま保有すべきか」「いっそ売却すべきか」と悩まれる方は少なくありません。相続した不動産は、たとえそこに住む予定がなくても「故人の思いがこもっている」「いずれ子どもに残したい」といった感情的な理由や、「将来値上がりするかもしれない」という期待などから、すぐに売却に踏み切れないこともあるでしょう。
しかし、相続した不動産には、維持費・固定資産税・老朽化による修繕義務といった「目に見えないコスト」がかかり続けます。特に空き家のまま放置していると、倒壊や雑草・害虫被害など近隣への迷惑にもつながり、自治体から行政指導を受けることもあります。さらに、2024年4月からは「相続登記の義務化」が施行され、放置していると10万円以下の過料の対象になる可能性もあります。
また、不動産を売却する場合には、譲渡所得税や不動産取得税、確定申告などの税務的な知識も必要になり、専門的な判断が求められます。
この記事では、「相続した不動産を売却すべきケースとはどんな場合か?」をはじめ、売却に伴う名義変更(相続登記)や税金のポイント(3,000万円控除など)、売却後の確定申告など、相続不動産の売却を検討している方が押さえておくべき情報を網羅的に解説していきます。
1.相続した不動産を売却すべき典型的なケース
不動産を相続したからといって、必ずしもそれを保有し続けることが最善とは限りません。実際には、売却したほうが経済的・法的に合理的なケースが多く存在します。ここでは、相続した不動産を売却すべき典型的なケースを4つ紹介します。
1. 誰も住む予定がない空き家の場合
被相続人が住んでいた住宅を相続したものの、自分や家族がそこに住む予定がなく、賃貸にも出さないまま空き家状態で放置されるケースは非常に多いです。
空き家のまま放置していると、次のようなリスクが発生します。
- 固定資産税・都市計画税などの維持費が毎年発生する
- 建物が老朽化して倒壊などの危険が生じる
- 雑草・害虫被害・不法侵入などにより近隣トラブルに発展
- 行政から「特定空き家」に指定されると固定資産税の優遇がなくなる
このような場合、売却によって資産を現金化し、維持コストや管理の負担から解放される方が得策といえるでしょう。
2. 相続人が複数いて不動産を共有している場合
相続人が複数いる場合、不動産を「共有」名義で相続することがあります。しかし、共有名義の不動産は以下のような問題を引き起こすことが少なくありません。
- 長期の賃貸借・売却などにすべての共有者の同意が必要になる
- 相続人間で意見が分かれると不動産の有効活用が困難
- 将来的に相続が繰り返され、共有者が増え続け土地の利用・管理が困難になったり、意思決定が難しくなったりする
こうしたトラブルを未然に防ぐために、不動産を売却して現金化し、代金を法定相続分に応じて分配する「換価分割」も有効な手段です。
3. 相続税の納税資金が必要な場合
基礎控除額を超える場合、相続税が発生することがあります。現金で相続税を納めることが難しい場合には、不動産を売却して納税資金に充てるという選択肢があります。
- 相続税の納付期限は相続開始(被相続人の死亡)から10か月以内
- 納税のための「物納」や「延納」には厳格な条件がある
不動産を早めに売却して現金化すれば、納税準備に余裕が生まれます。
4. 利用価値がなく老朽化が進んでいる場合
古い建物で修繕費がかかる、または土地が狭小で再建築も困難な物件などは、保有していても資産価値が下がり続ける可能性があります。加えて、管理費・保険料・固定資産税などの支出がかさみ、「負動産(ふどうさん)」となることも。
売却によって資産としての価値を回収し、他の有効な資産運用に充てるのも合理的な選択です。
2.不動産売却にかかる税金と「3,000万円特別控除」
不動産を相続した後に売却すると、売却益(譲渡所得)が発生した場合に税金がかかります。ここでは、代表的な「譲渡所得税」や「不動産取得税」、そして節税に有効な「3,000万円特別控除」など、売却時に関係する税金について詳しく説明します。
1. 譲渡所得税とは?
譲渡所得税は、不動産を売って得た利益(譲渡所得)に対して課税される税金です。譲渡所得は、以下の計算式で求められます:
譲渡所得 = 売却価格 -(取得費 + 譲渡費用)
- 取得費: 被相続人がその不動産を取得した際の購入金額や取得時の諸費用
- 譲渡費用: 売却にかかった仲介手数料、登記費用など
※相続の場合、被相続人の取得費を引き継ぎます。
2. 短期・長期譲渡の区分
譲渡所得税率は、所有期間によって異なります。
- 長期譲渡(所有期間5年超): 約20%(所得税15%+住民税5%)
- 短期譲渡(所有期間5年以下): 約39%(所得税30%+住民税9%)
※相続による取得の場合は、被相続人の取得時期から計算するため、多くの場合「長期譲渡」に該当します。
3. 3,000万円特別控除の適用条件
相続した不動産が被相続人の「居住用財産(自宅)」であった場合、一定の条件を満たすと3,000万円の特別控除が受けられます。
適用の主な要件:(詳細は税務署または税理士にご確認ください)
- 被相続人が死亡時点でその家に住んでいた
- 相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売却すること
- 売却した相手が親族など一定の関係者でないこと など
この控除が適用されると、譲渡所得から3,000万円が差し引かれるため、課税額が大きく軽減される可能性があります。
3,000万円特別控除の適用を受けるには、翌年の2月16日〜3月15日の間に確定申告を行う必要があります。控除を適用して税金がゼロになった場合でも、確定申告が必要です。
4. 相続税と譲渡所得税の関係
相続税を納付している場合、譲渡所得の計算上、その相続税の一部を「取得費に加算」できる特例もあります(取得費加算の特例)。この特例により、譲渡所得が減り、結果として譲渡所得税が軽減されるケースがあります。
ただし、この特例は令和5年度の税制改正により要件が一部見直されており、最新情報に注意する必要があります。
5. 不動産取得税
相続によって取得した不動産には、原則として不動産取得税は課されません。これは、不動産取得税が不動産の購入や贈与、建築等による「取得」に課税される地方税である一方、相続は被相続人の死亡に伴う所有権移転であり、取得者の意思によるものではないため課税対象外とされているためです。
ただし、贈与や売買による取得の場合は、不動産取得税が課税されます。
3.相続不動産を売却するまでの手続きと流れ
相続した不動産を売却するには、いくつかの重要なステップがあります。適切な順序で進めないと、売却契約を結べなかったり、思わぬトラブルが発生するおそれもあります。この章では、不動産売却に至るまでの流れを詳しくご紹介します。
1. 相続登記(名義変更)
まずは、被相続人の名義から相続人名義へと登記(名義変更)を行う必要があります。
相続登記が完了していない状態では、不動産を売却することはできません。
【ポイント】
- 登記のためには、遺産分割協議書・戸籍謄本・固定資産評価証明書などの書類が必要
- 2024年4月から相続登記が義務化されており、3年以内に登記を行わないと過料の対象(10万円以下)になる
司法書士に依頼すれば、煩雑な手続きや書類収集も含めて一括で対応してもらえます。
2. 不動産の査定と仲介業者の選定
登記が完了したら、不動産会社に査定を依頼して市場価値を把握します。査定は複数社に依頼し、信頼できる仲介業者を選びましょう。
【仲介業者選定のポイント】
- 地元の相場に詳しいか
- 過去の売却実績があるか
- 売主側に立って交渉してくれるか
媒介契約を結ぶことで、仲介業者が買い手探しや交渉を行ってくれます。
3. 売却契約と手付金の受領
買い手が見つかれば、売買契約を締結します。契約書には以下のような内容が含まれます。
- 売買価格
- 引渡し時期
- 手付金の額(通常、売買価格の5~10%)
契約締結時には手付金が支払われ、残代金は引渡し時に受け取る流れです。
4. 引渡しと登記移転
買主から残代金を受け取り、不動産を引き渡します。並行して、司法書士が所有権移転登記を行い、売却が正式に完了します。
【必要書類】
- 登記識別情報(権利証)
- 固定資産税評価証明書
- 本人確認書類(免許証など)
- 印鑑証明書
ここまでが、不動産売却に至るまでの一連の流れです。
4.相続不動産は“放置”せず、早めの判断と行動を
相続した不動産の取り扱いには、税金・登記・管理・法律・売却の可否など、さまざまな要素が複雑に絡み合います。特に以下のようなケースでは、売却を選択することが合理的であることが多いと言えます。
- 相続した不動産を使用する予定がない
- 他の相続人と共有状態になっており、活用・管理が難しい
- 固定資産税などの維持コストが重くのしかかる
- 老朽化や空き家リスクで将来の資産価値が下がりかねない
- 売却益に対して「3,000万円特別控除」が使える可能性がある
一方で、売却には譲渡所得税や登記、確定申告、名義変更などの専門的な手続きが必要となり、個人で対応するには限界があります。
相続不動産を「資産」として次世代に繋げるためにも、登記や売却の手続きに詳しい司法書士や不動産の専門家への相談を早めに行うことが重要です。
高野司法書士事務所では、横浜市青葉区・緑区・都筑区・町田市を中心に、相続に伴う不動産の名義変更や売却サポートを数多く手がけております。不動産の扱いにお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続手続きは誰に相談すべきか? 弁護士・司法書士・行政書士・税理士・銀行の違いと選び方
相続が発生した際、多くの方が直面するのが「まず何をすればよいのか」「誰に相談するべきなのか」という問題です。遺産の内容や相続人の状況によって、必要となる手続きや関与する専門家が異なり、「司法書士?行政書士?弁護士?税理士?銀行?」といった疑問を抱くのは、ごく自然なことです。
相続手続きには、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約、遺産分割協議書の作成、相続税の申告など、多岐にわたる手続きが含まれます。また、相続人間での意見の対立や、相続放棄、遺言書の有無、認知症の相続人がいる場合など、法的な判断が求められる場面も少なくありません。
このように複雑な相続手続きにおいて、正しい知識と適切なサポートを受けることは、スムーズな相続の第一歩となります。本記事では、相続手続きの内容に応じて、どの専門家に相談すべきかをわかりやすく解説し、それぞれの専門家の特徴や役割の違い、相談すべきタイミングについて詳しくご紹介します。
1.弁護士に相談すべきケース
相続手続きの中で、「争いごとが生じている」または「法的な主張・反論が必要な場面」では、弁護士のサポートが必要不可欠です。弁護士は裁判上の代理権を有し、調停・審判・訴訟などの場で依頼者の権利を守ることができます。
1. 遺産分割協議がまとまらない場合
相続人同士の関係が悪化していたり、財産の配分に納得できない相続人がいると、遺産分割協議が難航します。このような場合は、弁護士が代理人として相手と交渉したり、家庭裁判所での調停・審判などへの対応が可能です。
たとえば:
- 「長男がすべてを相続すると主張している」
- 「誰かが勝手に財産を使い込んでいた」
- 「遺産の評価額について意見が分かれている」
こういった場面では、法的知見を活かした調整が求められ、弁護士の力が非常に有効です。
2. 遺言の無効主張・遺留分侵害額請求
相続人の中には、遺言の内容に不満を抱くケースもあります。たとえば、遺言によって自分の取り分が大幅に減らされている場合、「遺留分侵害額請求」を主張することができます。
また、
- 「遺言は書かれた当時、被相続人に判断能力がなかったのでは?」
- 「誰かに書かされた可能性がある」
など、遺言の無効を主張するケースでは、裁判での立証が必要となるため、弁護士に依頼することが不可欠です。
3. 使い込みや不正行為が疑われるとき
預貯金の引き出しなど他の相続人による「使い込み」が疑われる場合、証拠収集や法的対応を進めるには弁護士のサポートが必要です。
- 「被相続人の口座から、亡くなる直前に多額の引き出しがあった」
- 「家を勝手に売却していた」
こうした問題は、親族間でも深刻な争いに発展する可能性が高く、当事者間での話し合いでは解決が困難です。第三者である弁護士が介入することで、冷静かつ法的に適正な解決を目指すことができます。
弁護士への相談は、相続人同士のトラブル・遺言の無効・遺留分請求・訴訟対応といった「対立を含む相続」において特に重要です。反対に、争いのない相続手続きにおいては、次章以降で紹介する他の専門家(司法書士・税理士・行政書士)の出番となります。
2.司法書士に相談すべきケース
司法書士は、相続手続きの中でも「登記」や「戸籍調査」、「法定相続情報一覧図の作成」、「遺産整理業務」など、書類作成・手続き代行の専門家です。相続人間に争いがない、比較的スムーズに進められるケースでは、司法書士への相談が最も適しています。
1. 相続登記(不動産の名義変更)をしたいとき
不動産を相続する際には、その不動産の名義を故人から相続人へ変更する「相続登記」が必要です。2024年4月からは相続登記が義務化されており、期限内に登記しなかった場合は過料が科される可能性があります。
司法書士は、以下のような場面で相続登記をサポートします:
- 戸籍で収集して相続関係を確認し、相続関係説明図、遺産分割協議書を作成
- 登記に必要な添付書類(評価証明書、住民票など)の収集代行
- 相続登記の申請手続きの代行
- 法定相続人が多い場合や数次相続など、複雑な相続にも対応
2. 法定相続情報一覧図を取得したいとき
複数の相続手続き(銀行、証券会社、年金など)を同時に進める場合、各所で戸籍一式を何度も提出しなければなりません。そこで便利なのが「法定相続情報一覧図」です。司法書士は、戸籍の収集から一覧図の作成、法務局への申出まで一括して代行できます。
- 戸籍の調査・収集が面倒
- 代襲相続や養子縁組など複雑な関係がある
- 遺産の分配前にまず手続きを進めたい
こうしたとき、司法書士の専門知識が役立ちます。
3. 相続放棄の申述書を作成して家庭裁判所に提出したいとき
相続人が負債を背負うことを回避するために選択する「相続放棄」は、家庭裁判所への申立てが必要です。司法書士は、必要書類の収集と申述書の作成をサポートします。
- 申立書の書き方がわからない
- 戸籍が複雑で自分では揃えられない
- 提出期限(原則3ヶ月)を過ぎそうで不安
このような方には、司法書士への早期相談が安心です。
4. 銀行口座や証券口座の解約・名義変更手続き
相続に伴う金融資産の承継業務(遺産整理業務)にも対応できます。高齢の相続人や忙しいご家族に代わって、以下のような業務を一括でサポートできます:
- 銀行預金の相続手続き
- 証券会社とのやりとり
- 相続財産目録の作成
これにより、ご家族は安心して一任することができます。
5. 行方不明の相続人や認知症の相続人がいるケースの初期対応
相続人の中に認知症の方がいる、あるいは行方不明者がいる場合でも、司法書士は状況に応じて以下の手続きをサポートします。
- 成年後見制度の活用に関するアドバイス
- 不在者財産管理人の選任手続きの書類作成
- 相続関係が複雑な場合の調整・助言
弁護士による訴訟まで発展する前の段階で、司法書士が初期対応を行うことで、スムーズに手続きを進めることが可能になります。
このように、司法書士は「争いがない相続手続き」において、幅広く実務を担うことができます。費用面でも比較的リーズナブルであり、相続登記や書類作成、調査業務に関しては最も身近で頼れる専門家です。
3.税理士に相談すべきケース
相続手続きにおいて「税金」に関する問題が発生する場面では、税理士の力が不可欠です。特に相続税の申告が必要なケースや、生前贈与・相続対策を行う際には、税務の専門家である税理士に相談することで、大きな損失を防ぐことができます。
1. 相続税の申告が必要なケース
相続税には基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)があり、それを超える遺産を相続する場合は、原則として被相続人の死亡から10か月以内に相続税の申告と納税を行わなければなりません。
税理士に相談すべき具体例:
- 相続財産の評価額が基礎控除を上回る可能性がある
- 現金以外の財産(不動産・有価証券)が多く、評価が難しい
- 納税資金の準備が困難で物納・延納を検討している
税理士は、不動産の評価額の適正化や節税のための特例適用(小規模宅地の特例、配偶者控除など)を判断し、最も有利な形で申告を行います。
2. 生前贈与を活用した相続対策をしたいとき
将来の相続税負担を見越して生前贈与を行う際、税務上の知識が欠かせません。暦年贈与や相続時精算課税制度の選択など、制度によって贈与税や相続税に与える影響が大きく異なるため、税理士のアドバイスが重要です。
- 毎年の贈与額の管理
- 不動産や非上場株式の贈与に伴う評価
- 2024年の税制改正(生前贈与加算期間の延長など)への対応
こうした生前対策を行うなら、相続に詳しい税理士と連携して、中長期的な視点でプランニングを進めるのが賢明です。
3. 相続人間で公平に分けたいが税負担が偏る場合
遺産を公平に分けたいと思っても、財産の中身によっては相続人ごとに税負担が大きく異なることがあります。
例えば、
- 不動産を取得した相続人にだけ高額な相続税が発生
- 金融資産はすぐに使えるが、土地や建物は納税資金の準備が難しい
こうした問題を避けるには、税理士の試算に基づいて相続財産の分割を設計する必要があります。
4. 二次相続まで考慮した節税対策をしたいとき
一次相続では配偶者の税額軽減が使えるため、税金がゼロまたは少額で済むケースも多くあります。しかし、配偶者が死亡した後に発生する二次相続では、配偶者控除が使えず、税負担が跳ね上がるケースがあります。
このため、一次相続と二次相続を通算して最も節税効果の高い分割方法を提案できるのが、経験豊富な税理士の役割です。
税理士は、財産評価・税額の試算・申告書の作成など、税務に関わるあらゆる業務を担う専門家です。相続税の有無に関わらず、財産の全体像を把握しておきたい場合や、将来の備えとして早めに対策を取りたい方は、相続に強い税理士への相談が大変有効です。
当事務所では、相続に特化した信頼できる税理士と提携しており、ご希望に応じてご紹介が可能です。
4.行政書士に相談すべきケース
行政書士は、官公署に提出する書類の作成や、権利義務・事実証明に関する文書の作成を専門とする国家資格者です。相続においても、一定の範囲で相談・手続きを行うことが可能です。
1. 遺産分割協議書や遺言書、相続関係説明図などの書類作成を専門家に依頼したい場合
相続の内容が複雑でなく、書類の作成や収集だけを依頼したい、あるいはその作成の補助を受けたいときは行政書士が適しています。
2. 預貯金・有価証券・自動車などの名義変更や金融機関手続きをまとめて任せたい場合
遺産に不動産が含まれず、主に金融資産や動産が中心の場合、名義変更や解約などの事務手続きも行政書士が代行可能です(不動産登記は司法書士のみが担当)。
3. 被相続人が許認可の必要な事業などを営んでおり、相続に伴う行政手続きや届出、変更申請が必要な場合
農地、酒販、建設業など、事業・許認可に関する行政への届出や手続きが必要な時は、行政書士が制度上の手続き全般をサポートできます。
一方で、行政書士は法律トラブルの調整や代理行為、登記申請、税務申告などには対応できません。そのため、相続人間で意見が対立していたり、相続財産に不動産や多額の金融資産が含まれる場合などは、司法書士や税理士などと連携しながら進める必要があります。
5.銀行に相談する場合の特徴と注意点
相続に関連して銀行を訪れるのは、被相続人の預貯金がある場合や、銀行が提供する相続関連サービスを利用したいと考えるときです。銀行は「相続手続きの窓口」として機能することがありますが、他の士業とは異なり、法的手続きの代理や調整を行うことはできません。そのため、銀行に相談する場合には、その役割や限界を正しく理解しておく必要があります。
1. 相続手続きサポートサービス
一部の銀行では、相続手続きをサポートする有料の「相続代行サービス」「相続手続きパック」を提供しています。これらは提携する司法書士・税理士・行政書士などの士業に手続きを外注し、ワンストップで手続きを完了させるサービスです。
【メリット】
- 一括で対応してくれるため、時間や手間を軽減できる
- 信頼感のある銀行経由で依頼できる
【デメリット】
- 費用が割高になる傾向がある(仲介手数料が含まれる)
- 提携先の専門家を選べず、個別対応の柔軟性に欠ける
- 必ずしも相続に強い専門家が対応するとは限らない
2. 銀行は「窓口」であり「専門家」ではない
銀行員は、法律や税務の専門家ではありません。そのため、遺産分割のアドバイスを求めたり、相続放棄・登記・税務申告といった判断を仰いでも、対応はできず、専門家への相談を勧められるだけとなる場合が大半です。
また、銀行によっては、提出された書類の審査に非常に厳しく、少しの不備でも受理されないことがあるため、事前に専門家にチェックしてもらうことが望ましいです。
3. 銀行の遺言信託サービスについて
多くの大手銀行では、「遺言信託サービス」という名称で、遺言書の作成や保管、そして死後の遺言執行までを含むサービスを提供しています。これは、公正証書遺言の作成を銀行が提携する司法書士や弁護士とともにサポートし、遺言内容の実現までを一貫して担うというものです。
【主なサービス内容】
- 公正証書遺言作成の支援
- 遺言書の銀行金庫での保管
- 被相続人の死亡後、遺言内容に従って相続手続きを執行(遺言執行者として就任)
【利用メリット】
- 銀行が関与することで安心感がある
- 専門家との連携が取れているため、一定の信頼性がある
- 書類の保管場所が明確になる
【注意点】
- 費用が非常に高額になる傾向がある
- 初期費用(遺言書作成サポート料):10~30万円前後
- 保管料:毎年数千~1万円程度
- 遺言執行報酬:遺産総額の1.5~3%前後(例:5,000万円の遺産なら75万円〜150万円)
遺言信託サービスの費用体系は銀行ごとに異なりますが、「安心と手間の軽減」の代わりに、高額な手数料を支払うことになる点は十分に検討すべきポイントです。
また、実際の遺言執行時には別途、提携する専門家への報酬も加算されることが多く、最終的なコストが予想以上にかさむという声も少なくありません。
このように、銀行の提供するサービスは便利ではあるものの、「費用対効果」や「柔軟性の低さ」には注意が必要です。必要に応じて、地元の司法書士や税理士に直接相談した方が、より柔軟かつ低コストで対応できる場合も多いことを念頭に置いておくとよいでしょう。
6.相続手続きの相談先を選ぶ際のポイントと注意点
相続手続きは、財産の種類や相続人の状況、相続税の有無などによって複雑さが大きく異なります。そのため、「誰に相談するのが適切か」を正しく判断することが、円滑かつ的確な相続手続きへの第一歩になります。
ここでは、相続手続きの相談先を選ぶ際に押さえておくべきポイントと、よくある失敗例について解説します。
1. 依頼先を誤るとどうなるか?
相続手続きは専門性が高く、対応できる業務範囲が各士業(司法書士・税理士・行政書士・弁護士)や機関(銀行など)によって異なります。そのため、適切でない専門家に依頼すると、以下のような問題が起こることがあります。
- 業務範囲外のことは対応できず、別の専門家を再度探す必要がある
- 書類の再提出や重複作業で時間・手間・費用がかさむ
- 必要以上の高額な費用を請求される(例:銀行の遺言執行手数料など)
このようなトラブルを防ぐためにも、事前に相続手続きの全体像を把握し、自分のケースに合った専門家を選ぶことが重要です。
2. 相続の全体像を把握することが出発点
相談先を選ぶ前に、まずは以下のような情報を整理しておきましょう。
- 遺産の主な内容(不動産・預貯金・株式・負債など)
- 相続人の構成(配偶者・子ども・兄弟姉妹など)
- 遺言書の有無(自筆・公正証書など)
- 納税の可能性(相続税の発生が見込まれるか)
- 家族間の関係性(トラブルの有無、疎遠な相続人の存在など)
こうした情報をもとに、どの専門家が最適かを判断することができます。
3. ワンストップ対応できる窓口が理想
最近では、相続に強い司法書士や税理士の中には、複数の専門家と連携してワンストップで対応する事務所も増えています。たとえば、以下のような対応が可能なケースがあります。
- 不動産の相続登記 → 司法書士
- 預貯金の解約 → 司法書士または行政書士
- 相続税申告 → 税理士
- 家族間の争い対応 → 弁護士
- 不動産売却・換価 → 宅建士や提携不動産会社
つまり、信頼できる窓口をひとつ設けることで、複数の専門家と無駄なく連携できるという点が、大きなメリットとなります。
4. 相談先を選ぶ際のチェックポイント
以下のような点を確認すると、相談先選びの失敗を防ぐことができます。
チェックポイント | 確認内容 |
---|---|
① 得意分野 | 相続登記、相続税、遺言など、扱っている業務の実績があるか |
② 費用の明確性 | 相談料、報酬などが明朗かどうか |
③ ワンストップ対応 | 他士業との連携体制が整っているか |
④ 地域密着性 | 地元の事情や役所、法務局の運用に詳しいか |
⑤ 説明のわかりやすさ | 専門用語を避け、丁寧に説明してくれるか |
たとえば、初回相談時に「相続登記と税務申告のどちらも必要になる可能性があるのですが…」という質問をした際、必要な手続きを整理して説明し、他の専門家と連携する姿勢を見せるかどうかがひとつの判断材料になります。
5. よくある誤解と注意点
相続手続きに関するよくある誤解として、次のようなものがあります。
- 「とりあえず銀行に相談すればすべてやってくれる」
→ 実際には、銀行は手続きを代行せず、遺言信託など高額なサービスを勧めることもあります。 - 「弁護士に頼まないと法的に無効になる」
→ 相続登記や銀行手続きは司法書士や行政書士でも対応可能です。争いがなければ弁護士に依頼しなくても良いケースも。 - 「市役所に相談すれば全部教えてくれる」
→ 市役所は基本的に制度の概要説明のみで、実務的な支援や申請書作成は行いません。
7.相続手続きの相談は信頼できる専門家へ
相続手続きは、故人の意思や遺産の内容、相続人の状況によって多様な対応が求められます。特に、手続きが煩雑になりがちな不動産の名義変更や銀行口座の解約、相続税の申告、さらには遺言書の取り扱いや相続放棄といった場面では、それぞれ専門的な判断が必要になります。
誰に相談するかによって、手続きの正確さやスムーズさ、さらには費用や精神的負担にも大きな差が生じます。
- 書類の不備でやり直しになる
- 間違った判断で余計な税金を支払うことになる
- 家族間のトラブルを招く可能性がある
こうしたリスクを避けるためには、相続手続きに精通した信頼できる専門家に早めに相談することが何よりも重要です。
司法書士は、相続登記や預貯金の手続き、遺言書の検認サポート、相続放棄の申述など、実務に直結する手続きを幅広くサポートできる立場にあります。また、必要に応じて弁護士・税理士・行政書士と連携し、ワンストップで対応する体制を整えている事務所も少なくありません。
「何から手をつけてよいかわからない」「誰に相談すべきかわからない」という方こそ、まずは一度、相続に強い司法書士にご相談されることをおすすめします。
当事務所では、横浜市青葉区を拠点に、緑区・都筑区・町田市など近隣地域の方々から多くのご相談をいただいております。状況を丁寧にお伺いし、必要な手続きや優先順位をわかりやすくご案内いたします。
相続手続きでお困りの方は、お気軽にご相談ください。初回相談も承っております。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。