遺言書は大きく分けて自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、これらを普通方式遺言といいます。それぞれの遺言書の特徴や書き方、メリットやデメリットなどを比較してみたいと思います。
このページの目次
自筆証書遺言の特徴
自筆証書遺言とは、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自書(自分で書くこと)し、これに印を押すことにより作成します。紙とペンと印鑑があれば特別な手続きも要せずに作成できる最も利用しやすい遺言書の形式です。遺言書と聞くと、この自筆証書遺言を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
自筆証書遺言書のメリット | 自筆証書遺言書のデメリット |
・費用もかからず手軽に作成できる ・遺言の内容を秘密にできる |
・要件を満たさず無効になりやすい ・相続人間で争いになりやすい ・紛失や発見されないリスクがある ・改ざんされるおそれがある ・検認の手続きが必要 ・訂正する場合の方法が厳格 |
紙とペンと印鑑さえあればいつでもどこでも気軽に作成することが可能な自筆証書遺言ですが、法律で規定された要件を満たさずに無効になってしまうことが多いのも事実です。例えば次のような場合に自筆証書遺言は無効となってしまいます。
- 自分で自書せずに他人に代筆してもらったり、パソコンで作成したもの
- 日付を「令和○年○月○日」と記載せず、「令和○年○月吉日」と記載したもの
⇒遺言書はいつでも作り直すことが出来ます。その場合に、以前に作成した遺言書と後に作成した遺言書の内容が重複、抵触する(両立しない)場合、後に作成した遺言書の内容が有効となります。そのため、遺言書はいつ作成されたかが非常に重要なため、何月何日まで明確に記載する必要があります。
- 署名、捺印がないもの
また、第三者によるチェックが行われないため、例えば、すべての財産を相続人の一人に相続させるという不公平な内容の遺言を残してしまうと他の相続人から、「これは、親父の筆跡じゃない!」「父親がこんな遺言を残すはずない!」など争いが生じる可能性が高くなります。
また、遺言書を作成するには遺言能力が必要です。認知症がかなり進んでから作成した遺言書は、後に遺言能力が争われ遺言書が無効だと判断される可能性があります。
★自筆証書遺言に関する法律改正★
自筆証書遺言は大半の方が自宅で保管していると思います。もし、相続人が自分の死後に遺言書を見つけてくれなければ意味がありません。
その上、遺言書を紛失してしまったり相続人等が遺言書を破棄したり改ざんする可能性もあります。
そこで、令和2年7月から遺言書保管制度が始まりました。法務局で遺言書の原本を保管してもらえる制度です。
また、作成した遺言書が法律で定める要件を満たしているかを法務局で外形的にチェックしてもらえます。(遺言書の内容について有効無効を判断するものではありません。)
この制度を利用すれば、遺言書の紛失や相続人等が遺言書を破棄、改ざんすることを防ぐことが出来ます。
遺言書を作成する場合、多くのケースで財産目録も遺言書に添付します。財産目録とは、遺言者が所有する全ての財産を記載したリストのことです。
平成31年1月13日より、自筆証書遺言の財産目録はパソコンで作成することが可能となり、自筆する必要はなくなりました。
また、不動産であれば登記事項証明書の写し、預貯金であれば通帳の写しを添付することが可能となりました。ただし、パソコンで作成したり、写しを添付した場合は、その全ページに遺言者の署名と押印が必要です。
公正証書遺言の特徴
公正証書遺言とは、証人2人の立ち会いの下、公証役場に所属する公証人が遺言者から遺言の内容を聞き取りながら作成する遺言です。公証人とは法務大臣から任命された法律の専門家で、裁判官や検察官、弁護士等の経歴がある者の中から選ばれます。
公正証書遺言のメリット | 公正証書遺言のデメリット |
・無効になりにくい(公証人が関与するため) ・相続人間で争いになりにくい ・紛失や発見されないリスクがない(公証役場で保管されるため) ・改ざんされるおそれがない(公証役場で保管されるため) ・検認の手続きが不要 ・字が書けなくても作成できる |
・手間と費用がかかる ・遺言の内容を他人に知られる ・2人の証人を用意しなければならない |
遺言書にとって一番重要な役割は、不備によって遺言書が無効となることなく、遺言書に記載された通りの内容が実現されることです。この点、公正証書遺言は、紛失や改ざんされるおそれもなく、トラブルが生じにくいという利点があるといえます。
そのため、遺言書を作成される際は、公正証書遺言で作成されることをおススメしております。
秘密証書遺言の特徴
秘密証書遺言とは、自分で作成した遺言書を封筒に入れて封を施し、公証役場で内容を秘密にしたままその存在だけを証明してもらうことができる遺言です。自筆証書遺言に比べ手続きが面倒なこともあり実務上あまり利用されていません。
秘密証書遺言のメリット | 秘密証書遺言のデメリット |
・遺言の内容を秘密にできる ・あまり字が書けなくても作成できる |
・要件を満たさず無効になりやすい ・手間と費用がかかる ・紛失や発見されないリスクがある ・検認の手続きが必要 ・2人の証人を用意しなければならない |