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相続放棄は代襲相続に影響する?しない?

2025-11-16

近年、高齢化に伴い相続に関する悩みや疑問が増加しています。中でも、「相続放棄」と「代襲相続」が関わるケースはトラブルになるリスクもあるため、正確な理解が不可欠です。

特に、被相続人(亡くなった方)に多額の借金などの負債があった場合、法定相続人(本来相続する人)が相続放棄を検討しますが、「放棄をしたら、その負債が子どもや孫に代襲相続されてしまうのではないか」という不安を抱く方は少なくありません。

この疑問に対する結論は、「相続放棄をしても、その子どもや孫に代襲相続は発生しない」 です。

本記事では、相続放棄と代襲相続の基本的な仕組みから、両者の関係性、そして相続放棄をした後に相続権がどこまで移るのかについて、法律を専門としない方にも分かりやすいように詳しく解説します。

1.代襲相続とは:相続権の承継ルール

代襲相続(だいしゅうそうぞく)とは、本来相続人となるべき人が、相続開始以前に死亡していたり、法律によって相続権を失っていたりする場合に、その人の子どもが代わりに相続人となる制度です。代わりに相続する人を代襲相続人、代襲される人を被代襲者と呼びます。

代襲相続が発生する原因(代襲原因)は、主に次の3つのケースに限定されています。

1. 本来の相続人が被相続人の死亡以前に死亡したとき

2. 本来の相続人が相続欠格(法律上の重大な不正行為)に該当したとき

3. 本来の相続人が相続廃除(被相続人の意思により相続権を剥奪された)をされたとき

代襲相続人となる範囲

代襲相続が発生する範囲は、誰の相続権を代襲するかによって異なります。

1. 被相続人の子ども(第1順位の相続人)を代襲する場合 被相続人の子(被代襲者)が死亡等により相続権を失った場合、その子であるが代襲相続人となります。さらに、そのも死亡している場合は、ひ孫(玄孫)へと、子孫が続く限り代襲相続がどこまでも続きます(再代襲)。

2. 被相続人の兄弟姉妹(第3順位の相続人)を代襲する場合 被相続人に子や直系尊属(父母や祖父母)がいない場合、兄弟姉妹が相続人となります。その兄弟姉妹が死亡等により相続権を失った場合、その子であるが代襲相続人となります。ただし、兄弟姉妹の代襲相続は一代限りであり、の子ども(再代襲相続人)には相続権は移りません。

2.相続放棄の基本と代襲相続への影響

相続放棄とは、相続人が自分の意思により、被相続人の財産と権利義務の一切を相続しないことにする制度です。借金などのマイナスの財産を相続したくない場合や、相続争いに巻き込まれたくない場合に有効な手続きです。

相続放棄と代襲相続の明確な違い

相続放棄をすると、その相続人は法律上、「初めから相続人ではなかったもの」として扱われます

代襲相続は、被代襲者が相続権を「失った」場合や「死亡」した場合に発生しますが、相続放棄は相続権自体が発生しないという考え方になるため、代襲相続は発生しません。

したがって、親が借金があるからと相続放棄をしたとしても、その子()や、兄弟姉妹が放棄した際のに代襲相続が発生し、借金が引き継がれることはないのでご安心ください

相続放棄の例外的な注意点:二重の相続

相続放棄の効力は、あくまで放棄した特定の被相続人の相続に関してのみ及びます。そのため、相続が発生する順番によっては、代襲相続の対象になることがあります。

例えば、孫(D)が父(B)の相続を放棄したとしましょう。その後、祖父(A)が亡くなりましたが、父(B)はすでに亡くなっていたため、孫(D)は祖父(A)の代襲相続人となりました。

この場合、孫(D)は父(B)の相続を放棄していても、祖父(A)の代襲相続人となることが可能です。

もし、祖父(A)の財産に借金が含まれており、孫(D)がその借金も相続したくない場合は、祖父(A)の相続について改めて相続放棄の手続きをする必要があります。

相続放棄は被相続人ごとに判断されるため、「父の相続を放棄したから、祖父の相続も自動的に放棄される」ということはありません。

3.相続放棄によって相続権が移る流れ

相続放棄が行われると、その放棄をした人は最初から相続人ではなかったとみなされるため、相続権は次の順位の法定相続人に移ります。

相続の順位は以下の通りです(配偶者は常に相続人)。

1. 第1順位:被相続人の子ども(代襲相続人としてのなども含む)

2. 第2順位:被相続人の直系尊属(父母、祖父母など)

3. 第3順位:被相続人の兄弟姉妹(代襲相続人としてのも含む)

パターン別の相続権の移行先

放棄した人次に相続権を持つ人
第1順位(子どもや)が全員放棄した場合第2順位(父母や祖父母などの直系尊属)に移ります。配偶者は第2順位と共同相続人になります。
第1順位と第2順位が全員放棄した場合第3順位(兄弟姉妹)に移ります。配偶者は第3順位と共同相続人になります。
すべての血族相続人(第1, 2, 3順位)が全員放棄した場合配偶者がいる場合は配偶者が単独で相続します。配偶者もいない場合は、相続人がいなくなり、最終的に財産は国庫に帰属する可能性があります。

次順位の相続人への連絡の重要性

相続放棄により相続権が次順位の親族(兄弟姉妹など)に移ったとしても、家庭裁判所から次順位の相続人へ、相続放棄があった旨の連絡は原則としていきません。

もし被相続人に借金が多い場合、次順位の相続人は突然債権者からの督促状が届いて初めて自分が相続人になったことを知り、大きな混乱や親族間のトラブルにつながる可能性があります。

このようなトラブルを避けるためにも、相続放棄をした人は、次に相続人となる可能性のある親族に対して、自ら連絡をして事実を伝えておくことが望ましいです。

4.まとめ

  1. 相続人が自らの意思で相続放棄をした場合、その子ども(孫や甥・姪)に代襲相続は発生しません
  2. 代襲相続が発生するのは、被相続人の死亡、相続欠格、相続廃除の3つの代襲原因がある場合に限られます。
  3. 相続放棄をすると、相続権は次順位の法定相続人(直系尊属や兄弟姉妹)に移るケースがあります
  4. 次順位の相続人への影響を防ぐため、相続放棄の事実を自ら連絡することが、親族間のトラブル回避につながります。
  5. 代襲相続人()になった場合でも、通常の相続人と同じく相続放棄は可能です。

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相続放棄申述受理証明書の取得方法とその活用

2025-10-17

相続放棄は、被相続人(亡くなった方)の負債を含めた財産を一切引き継がないための重要な手続きです。この相続放棄が家庭裁判所に受理されたことを公的に証明する書類が、「相続放棄申述受理証明書」です。

本記事では、この証明書が必要となる具体的なケースや、申請書の入手方法、書き方、本人以外による取得手順、再発行の方法など、証明書を取得するための詳細な手順を解説します。

1.相続放棄申述受理証明書とは?通知書との違い

相続放棄申述受理証明書は、相続放棄の申述が家庭裁判所に認められた事実を公的に証明するための書類です。この書類は、相続放棄の事実を第三者(債権者や他の相続人など)に示し、自己が相続人ではないことを対外的に明らかにするために利用されます。

相続放棄が受理されると、家庭裁判所から自動的に「相続放棄申述受理通知書」が申述人(相続放棄をした本人)に送付されますが、この通知書と証明書には以下のような違いがあります。

比較項目相続放棄申述受理証明書相続放棄申述受理通知書
書類の目的公的な証明(第三者への提示)受理の通知(申述人へのお知らせ)
交付方法家庭裁判所への申請が必要受理後に自動的に郵送される
取得できる人申述人本人 および 利害関係人申述人本人のみ
取得費用1通につき150円(収入印紙)無料
再発行の可否再発行が可能再発行は不可

相続登記などの手続きにおいて、以前は証明書が必要でしたが、現在では証明書と同等の内容が記載されている通知書も使用が認められる場合があります。しかし、提出先によっては証明書を要求される場合もあるため、事前にどちらの書類が必要かを確認することが推奨されます。

2.相続放棄申述受理証明書が必要となる主な場面

相続放棄申述受理証明書は、主に以下のような状況で必要とされます。

1. 債権者からの請求に対応するとき

被相続人(亡くなった方)が多額の負債を抱えていた場合、相続放棄をした事実が債権者に自動的に知らされるわけではありません。そのため、債権者から借金の支払い請求がなされることがあり、その際に自身が相続人ではないことを証明するために証明書が必要となります。多くの場合、通知書のコピーで対応できますが、債権者によっては証明書の提出を求められることがあります。

2. 不動産の相続登記を行うとき

被相続人が所有していた不動産の名義を変更する際、他の相続人の中に相続放棄をした人がいる場合、その放棄を証明するために証明書を法務局に提出する必要があります。

3. 金融機関での手続き(預貯金の解約など)

被相続人の預貯金口座の解約や名義変更の手続きを金融機関で行う際、相続放棄をした相続人がいる場合、金融機関から証明書の提出を求められることがあります。金融機関によって必要書類が異なるため、事前の確認が重要です。

4. 相続放棄申述受理通知書を紛失した場合

通知書は再発行ができないため、紛失してしまった場合や原本を複数枚提出する必要がある場合、それに代わる公的書類として証明書を取得することになります。

3.証明書の申請方法と書き方

証明書を取得するためには、相続放棄の申述が受理された家庭裁判所(被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所)に交付申請を行います。申請は、裁判所の窓口に直接提出する方法と、郵送で行う方法があります。

1. 申請書とダウンロード

交付申請には「相続放棄申述受理証明申請書」が必要です。 この申請書は、通常、相続放棄申述受理通知書に同封されています。もし紛失した場合は、管轄の家庭裁判所の窓口で受け取るか、裁判所のホームページからダウンロードして印刷することも可能です。

2. 申請書の書き方と事件番号

申請書に必要事項を記入する際、特に重要なのが「事件番号」です。事件番号は、裁判所が相続放棄の申述を管理するために付与する番号で、「相続放棄申述受理通知書」に記載されています。

申請書には、申請者の氏名、電話番号、必要な通数などを記載し、交付手数料として1通につき150円分の収入印紙を所定欄に貼り付けて提出します。

3. 申述人本人が申請する場合の必要書類

相続放棄をした本人が交付を請求する場合、主に以下の書類が必要です。

  • 相続放棄申述受理証明申請書(収入印紙150円×必要通数分を貼付)
  • 申述人の本人確認書類(運転免許証、健康保険証など。郵送の場合は写し)
  • 相続放棄申述受理通知書(郵送請求の場合は不要、または写しでよい場合がある)
  • 認印
  • 返信用封筒と切手(郵送請求の場合のみ)

※申述時の氏名や住所が変更されている場合は、氏名・住所のつながりが分かる戸籍謄本や住民票などの書類が追加で必要になります。

4.本人以外(利害関係人)による取得方法

相続放棄申述受理証明書は、申述人本人だけでく、他の相続人や債権者などの利害関係人も交付を申請し、取得することができます。利害関係人とは、共同相続人、次順位相続人、相続債権者、受遺者などが該当します。

1. 本人以外が申請する場合の必要書類

本人以外が申請する場合、上記の書類に加えて、「利害関係があることを証する書類」を提出する必要があります。

相続人として申請する場合: 申述人との相続関係がわかる戸籍謄本類(被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本や除籍謄本、申請者の戸籍謄本など)。

債権者として申請する場合: 債権者であることを証明する資料(金銭消費貸借契約書、ローン契約書など)。法人の場合は法人の資格証明書なども必要です。

※利害関係人が申請する際は、個別の状況によって必要な書類が大きく異なる可能性があるため、事前に申請先の家庭裁判所に確認することが強く推奨されます。

2. 事件番号の照会

本人以外の利害関係人が申請する場合や、申述人本人が通知書を紛失し事件番号が不明な場合、証明書の申請に先立って、家庭裁判所に「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会」を行い、事件番号や受理年月日を確認する必要があります。この照会手続きは無料で、照会申請書と必要添付書類を提出して行います。

5.相続放棄申述受理証明書の再発行と注意点

1. 再発行は何度でも可能

相続放棄申述受理証明書は、申請すれば何度でも再発行を受けることが可能です。もし証明書を紛失してしまっても、特別な手続きは必要なく、再度交付申請を行えば取得できます。

ただし、再発行の際にも、1通あたり150円の交付手数料(収入印紙)が必要です。

2. 交付申請の期限と保管期間

相続放棄に関する裁判所の書類の保存期間は30年間と定められています。したがって、申述から30年が経過すると、記録が破棄され、証明書の再発行ができなくなる可能性があります。通常、債権の時効は5年〜10年であるため、30年後に証明書が必要になるケースは稀ですが、必要な場合は早めに申請することが推奨されます。

6.お困りの場合は専門家へご相談を

相続放棄申述受理証明書は、相続放棄を公的に証明し、第三者との関係を明確にするために不可欠な書類です。通知書とは異なり、この証明書は申請書を提出し、手数料を納めることで交付されます。

申述人本人以外(利害関係人)も取得可能ですが、その場合は利害関係を証明する書類が必要です。また、再発行は何度でも可能ですが、その都度申請が必要です。申請書の書式は家庭裁判所のホームページからダウンロードでき、書き方としては、通知書に記載されている「事件番号」の記入が重要となります。

相続放棄の手続きや証明書の取得に不安がある場合は、専門家にご相談されることをお勧めいたします。

相続放棄をしたが生命保険金を受け取りたい時の注意点

2025-07-27

相続放棄をすると、故人の財産も負債も全て受け継がないことになります。しかし「相続放棄しても生命保険金は受け取れるの?」という疑問は多くの方が抱くテーマです。さらに「生命保険金が債権者に差し押さえられるのでは?」という心配もよく寄せられます。ここでは、“生命保険金の受け取り可否”“差し押えの対象にならない場合・なる場合”“相続税や手続きの注意点”について、司法書士の視点で詳しく解説します。

1. 相続放棄しても生命保険金は受け取れる?

相続放棄をしても、「保険金の受取人」として指定されているならば、死亡保険金は原則として受け取れます。これは、保険契約上の受取人の権利は受取人の固有財産とみなされ、被相続人の財産(相続財産)とは区別されるためです

【例】

  • 被保険者:父
  • 受取人:子(あなた)
    →あなたが相続放棄していても、生命保険金は受け取ることができます。

受取人が「被相続人」となっている場合

  • 受取人が「被相続人」自身になってる場合(例:医療保険の入院給付金や解約返戻金など)は保険金が相続財産になり、相続放棄した人は受け取れません。

受取人が特に指定されておらず『法定相続人』とされている場合

  • 生命保険の受取人が特定の名前ではなく「法定相続人」と指定されているときは、被保険者(亡くなった方)が亡くなった時点で法定相続人にあたる人が、保険金を受け取る権利を持つことになります。たとえその後に相続放棄をしたとしても、死亡時点で法定相続人であったなら、その人には保険金を受け取る権利があり、これは「相続財産」ではなく「その人自身の財産(受取人固有の財産)」として扱われます。

契約内容や保険会社の約款も合わせて必ずご確認ください

2.差し押さえリスクは?相続放棄後の生命保険金の安全性

生命保険金は原則、あなたの固有財産となるため、被相続人の借金を理由に差し押さえられることはありません

  • 相続放棄によって、あなたは故人の債務を法的に引き継がないため、債権者(例:消費者金融等)は「放棄した相続人」の保険金を差し押さえることはできないのです。

例外・注意点(被相続人の「解約返戻金」等)

  • 生命保険契約の「解約返戻金」や、受取人が被相続人になっている契約などは、相続財産扱いとなる場合があり、その場合は差し押えの対象となることがあります
  • 生命保険契約の内容を必ず確認しておきましょう。

3.生命保険金の税金と受取の注意点

相続税の対象!非課税枠もあり

  • 相続放棄した方が生命保険金を受け取った場合も相続税の課税対象になります
  • 非課税枠:「500万円×法定相続人の数」までは非課税です。例えば相続人2人なら1,000万円まで非課税枠となります。(実際に保険金を受け取った相続放棄者自身は、この非課税枠を自分に適用することはできません。
  • 満額を超える生命保険金には相続税がかかるので、受け取り後の申告漏れに注意しましょう。

所得税・贈与税となるパターン

  • 生命保険金の受取が所得税の対象となるのは、契約者と受取人が同一人物の場合です。この場合、受取保険金から払込保険料と50万円を差し引いた金額の半分が一時所得として課税されます。
  • 贈与税が課税されるのは、契約者(保険料負担者)と受取人が異なる場合です。例えば、夫が契約者として妻に保険をかけ、妻が亡くなった際に夫以外の人(子供など)が死亡保険金を受け取る場合でも、夫から子供への贈与として贈与税の対象となります。

4.高野司法書士事務所からのアドバイス

生命保険金の受取人としてあなたが指定されている場合、たとえ相続放棄をしていたとしても、原則として問題なく保険金を受け取ることができます。これは、生命保険金が「受取人固有の財産」とされ、相続財産とは区別されるためです。

また、相続放棄の理由が「被相続人に多額の借金があったため」であっても、債権者がこの保険金を差し押さえることはできません。あなた個人の財産である以上、被相続人の債務の返済にはあてられないのです。

ただし、契約内容や受取人の指定が曖昧な場合には、受け取れないこともありますし、相続税や贈与税の課税対象となるケースもあります。また、あなた自身に債務がある場合には、せっかく受け取った保険金が差し押さえられる可能性もゼロではありません。

生命保険金を確実に、そして安全に受け取るためには、税務や法律に関する正確な知識と適切な対応が必要です。少しでも不安や疑問を感じたら、どうぞお気軽に高野司法書士事務所までご相談ください。相続の専門家として、あなたにとって最善の方法を一緒に考え、手続きを丁寧にサポートいたします。

相続放棄を検討するなら「やってはいけないこと」

2025-07-18

相続手続きの中でも「相続放棄」は、ご自身に不利益が及ぶことを避けるための重要な選択肢の一つです。特に、被相続人が多額の借金を抱えていた場合、財産を一切受け取らないことでその責任を免れることができます。しかし、この「相続放棄」には厳格なルールが定められており、手続きの進め方を誤ると、知らぬ間に「相続したもの」とみなされてしまう危険があります。

例えば、「少しくらいなら」と故人の預金を使ったり、遺品を勝手に処分してしまったりしただけで、相続放棄が認められなくなるケースもあります。独自の判断で行動してしまうと、取り返しのつかない事態に発展しかねません。

本記事では、相続放棄を検討している方が絶対に避けるべき行動=“やってはいけないこと”を中心に、知っておくべき重要なポイントを詳しく解説します。

1.相続放棄の基本的な考え方と重要な期限

まず、相続放棄とは、故人のプラスの財産(預貯金、不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金、未払金など)も含め、一切の財産を承継しないという法的な手続きです。相続放棄が認められれば、最初から相続人ではなかったものとして扱われます。

この手続きには、非常に重要な期限が定められています。原則として、自身が相続人になったことを知った日(通常は故人の死亡日)から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。この3ヶ月という期間は「熟慮期間」と呼ばれ、故人の財産状況を調査し、相続放棄をするべきか否かを慎重に検討するための期間です。もしこの期間内に相続放棄の手続きを完了しないと、特別な事情がない限り、故人の財産をすべて相続する「単純承認」をしたとみなされてしまう可能性があります。

この3ヶ月の熟慮期間は、想像以上に短く感じられるかもしれません。特に、故人の財産が複雑であったり、遠方に住む相続人がいたりする場合には、財産調査や他の相続人との連絡に時間を要することがあります。もし3ヶ月以内に判断が難しい場合は、家庭裁判所に申し立てて期間の延長を申請することも可能です。

2.やってはいけない行動①:相続財産に手を付ける

相続放棄を検討している場合に、最も注意しなければならないのが、相続財産に手を付けてしまうことです。法律上は、相続財産を処分したり使用したりする行為(法定単純承認)を行うと、相続放棄ができなくなる可能性があります。

■ 「相続財産に手を付ける」とは何を指す?

家庭裁判所で相続放棄が正式に受理されるまでは、被相続人の財産に触れることは極力避ける必要があります。具体的には、次のような行動が危険です。

  • 被相続人の預金を引き出す
  • 自宅や土地を売却・賃貸する
  • 故人名義の車を処分・売却する
  • 相続財産を使って債務を返済する
  • 家の中を勝手に片づける・処分する

これらの行動は、財産の「処分」や「使用」とみなされ、法律上は相続を承認したとされる恐れがあります。一部の財産だけでも手を出してしまうと、相続放棄ができなくなるリスクがあるのです。

■ 危険なケース:親名義の口座から葬儀費用を引き出す

よくあるのが、「葬儀費用を立て替えるつもりで、故人の預金口座からお金を引き出した」というケースです。この行動が相続財産の使用とみなされる可能性があり、相続放棄が認められないことがあります

ただし、家庭裁判所の実務上、葬儀費用を一時的に立て替えるために最低限の引き出しを行っただけで、かつ他の財産に手を出していないような場合には、放棄が認められることもあります。とはいえ、判断は非常に微妙で、ケースバイケースです。

3.やってはいけない行動②:相続人であることを前提に行動する

相続放棄を希望していても、「自分が相続人であることを前提にした行動」を取ってしまうと、相続を承認したものとみなされることがあります。このような行動は「法定単純承認」と呼ばれ、相続放棄の効力が認められなくなる重大なリスクを伴います。

■ 単純承認とみなされる典型例

以下のような行動は、裁判所から相続を承認したと判断される可能性があります。

  • 被相続人の債権者に対して返済を申し出た
  • 故人宛に届いた請求書に対して支払いを行った
  • 役所や保険会社などで「私は相続人です」と名乗った
  • 家庭裁判所に放棄を申し出る前に遺産分割協議に参加した

これらはいずれも、「自分が相続人としての権利や義務を引き受ける意思がある」と解釈されてしまう可能性があります。つまり、行動そのものが「相続するつもりがある」と判断されるわけです。

■ よくある誤解:「形式的な手続きだから大丈夫」は危険

「念のため役所に届け出をしただけ」「遺産分割協議書にサインしたが内容は見ていない」などといった言い訳は、通用しない可能性があります。家庭裁判所は、客観的な行動に基づいて判断を下すため注意が必要です。

たとえば、「家の固定資産税を払ってしまった」といった行動すら、相続人としての管理行為とみなされることもあります。

■ 「何もしない」ことが最大の防御

相続放棄を検討している場合は、まず何もしないことが一番安全です。相続人であることを前提とする行為は一切控え、速やかに家庭裁判所への申述手続きを進めましょう。

そして、少しでも判断に迷う場合には、司法書士などの専門家に相談し、今後どのように行動すべきかを確認することが重要です。

4.よくある相続放棄の失敗例とその回避策

相続放棄は、「申述さえすればOK」と思われがちですが、一歩間違えると重大なトラブルに発展することも珍しくありません。この章では、実際に起きがちな失敗例を取り上げ、それを防ぐための対処法をご紹介します。


■ 失敗例1:放棄したつもりが、単純承認とみなされた

相続放棄をする前に、

  • 相続財産である預金を一部使ってしまった
  • 被相続人の所有する自動車や不動産の売却を進めてしまった
  • 借金取りの催促に「支払います」と応じてしまった

といった行動をとった場合、家庭裁判所に正式な申述をしていなくても「相続を承認した」と見なされるおそれがあります。これを「単純承認」といいます(民法921条)。

一度でも承認したとみなされると、その後に放棄を申し出ても認められない可能性が高くなります。

【回避策】
相続放棄を検討している段階では、被相続人の財産に手を付けないことが鉄則です。借金の支払いにも応じず、第三者からの連絡には「専門家に相談中です」と対応しましょう。


■ 失敗例2:不要な財産の処分による承認扱い

「ただのゴミだと思って捨てた家具」「家の片づけで処分した書類」などが、実は資産価値のあるものであった場合も、単純承認に該当することがあります。

たとえば、故人のタンスを粗大ごみに出した際に、中に貴金属や現金が含まれていた、というようなケースでは、“相続財産の処分”と見なされる可能性があります。

【回避策】
放棄を検討している場合、相続財産かどうか分からないものは勝手に動かさず、まずは専門家に相談してください。「形見分け」や「片づけ」も慎重に。


■ 失敗例3:相続人の一部のみが放棄したことによる争い

兄弟姉妹の中で一人だけが相続放棄をした結果、残った相続人に借金の負担が集中してしまい、家族間のトラブルに発展することがあります。

【回避策】
放棄を検討している場合は、他の相続人とも情報共有を行い、全体での方針を整えることが大切です。場合によっては、一括して放棄の申述を行うなど、連携した対応が望ましいでしょう。


■ 失敗例4:家庭裁判所への提出書類の不備で却下

相続放棄の申述は、申立書のほかに戸籍謄本や住民票など多くの添付書類が必要です。

特に、被相続人と申述人の親子関係が複雑な場合には、複数の戸籍を収集する必要があり、準備に時間を要します。

【回避策】
必要書類のチェックはできるだけ早い段階で行うこと。相続関係が複雑な場合は、専門家に依頼してスピーディーに整えてもらうのが安全です。

5.相続放棄は慎重かつ確実な対応が求められます

相続放棄は、亡くなった方の借金や不要な財産を引き継がずに済む有効な手段です。しかし、その手続きには期限の厳守行動の制限専門的な判断が求められる場面が多く、誤った対応をしてしまうと、思わぬ法的責任を負ってしまうリスクがあります。

特に次のようなポイントは、多くの方が誤解しやすく、トラブルにつながりやすい注意点です。

  • 「何もしなければ相続放棄したことになる」という思い込み
  • 故人の遺品整理や不動産の管理を無意識に行ってしまう
  • 放棄の意思表示を口頭だけで済ませる
  • 放棄の意思があっても、家庭裁判所に申述しないまま期限が過ぎる
  • 相続人が複数いる中で、情報共有を怠る

これらの点を踏まえ、相続放棄を検討されている場合は、「自分が相続人かどうか」「相続財産に何が含まれているのか」「放棄が最適かどうか」などを、客観的に判断し、的確に行動することが重要です。

当事務所では、相続放棄の可否判断から家庭裁判所への申述サポートまで、丁寧に対応しております。横浜市青葉区を中心に、緑区・都筑区・町田市など近隣エリアからのご相談も多数いただいております。

「相続放棄を考えているけど、どうすればいいか分からない」「すでに財産に手を付けてしまったかもしれない」といったお悩みがある方も、お一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。状況に応じた最適な手続き方法をご提案し、トラブルのない相続をサポートいたします。

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