Archive for the ‘代襲相続’ Category
代襲相続できない!ケース別解説
相続が発生した際、多くの方が直面するのが「誰が相続人になるのか」という問題です。特に、本来相続人となるはずだった方がすでに亡くなっている、または何らかの理由で相続権を失っている場合、「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」という制度が関係してきます。この制度は、故人の意思を尊重しつつ、相続が次の世代に引き継がれるための重要な仕組みです。
しかし、代襲相続は常に発生するわけではありません。特定の状況下では、代襲相続が認められないケースも存在し、それが相続手続きをさらに複雑にすることがあります。本記事では、代襲相続ができる場合とできない場合を具体的なケース別に詳しく解説し、相続における疑問や不安を解消するためのお役立ち情報を提供します。
1.代襲相続とは?その基本的な仕組み
代襲相続とは、被相続人(亡くなった方)の本来の法定相続人が、相続開始時より前に死亡していた場合や、特定の理由で相続権を失った場合に、その法定相続人の子どもが代わりに遺産を相続する制度のことです。これにより、本来受け継がれるはずだった相続権が途切れることなく、次の世代に引き継がれます。
民法では、遺産を相続する権利を持つ法定相続人の範囲と順位が定められています。
・配偶者: 常に法定相続人となります。
・第1順位: 子。子がいない場合は孫、孫もいない場合はひ孫と、直系卑属(子孫)へと順位が移ります。
・第2順位: 父母。父母が両方ともいない場合は祖父母など、直系尊属(父母や祖父母)へと順位が移ります。
・第3順位: 兄弟姉妹。兄弟姉妹がいない場合は甥・姪へと順位が移ります。
代襲相続が発生するのは、このうち第1順位(子)と第3順位(兄弟姉妹)の法定相続人に「代襲相続の発生原因」がある場合です。
代襲相続が発生する主な原因
代襲相続は、以下の3つのいずれかの原因によって発生します。
1. 相続開始前に法定相続人が死亡している場合: 被相続人よりも先に、本来相続人となるべき子や兄弟姉妹が亡くなっているケースが最も一般的です。
2. 相続欠格(そうぞくけっかく)に該当する場合: 相続人が、被相続人や他の相続人を殺害しようとした、または遺言書を偽造・破棄・隠匿するなどの不正行為を行った場合に、法律上当然に相続権を失う制度です。この場合でも、その子孫に代襲相続が発生します。
3. 相続廃除(そうぞくはいじょ)に該当する場合: 被相続人に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行などがあった相続人の相続権を、被相続人が家庭裁判所に請求し、奪うことができる制度です。相続廃除された相続人の子孫には代襲相続が発生します。
2.代襲相続が発生しない具体的なケース
代襲相続の条件を満たさない場合や、特定の状況下では代襲相続が発生しません。以下に、代襲相続ができない主なケースを解説します。
相続放棄をした場合
相続放棄をした法定相続人の子どもは、代襲相続人にはなれません。 これは、相続放棄をすると、その人は「はじめから相続人ではなかった」とみなされるため、相続権自体が存在しないことになり、次世代に引き継がれるべき相続権がないからです。
例えば、被相続人に多額の借金があり、その子ども(法定相続人)が相続放棄を選択した場合、その子どもの子ども(被相続人の孫)は代襲相続人として借金を相続することはありません。相続放棄は原則として「自己のために相続の開始を知った日から3ヶ月以内」に家庭裁判所に申述する必要があります。
被相続人より後に相続人が死亡した場合(数次相続)
代襲相続は、相続人が被相続人よりも「先に」死亡している場合に発生します。もし、被相続人の死亡後に、相続手続きを完了する前に相続人が亡くなった場合は、代襲相続ではなく「数次相続(すうじそうぞく)」として扱われます。この場合、先に亡くなった相続人の相続人が、その相続人の権利を引き継いで遺産分割協議に参加することになります。
遺言書で指定された受取人が死亡していた場合
被相続人が遺言書を作成し、特定の人物に財産を遺贈すると指定していたにもかかわらず、その受取人が遺言者よりも先に亡くなっていた場合、その遺言書に記載された当該部分は無効となります。遺言は、遺言者が死亡した時に効力が発生するため、その時点で受取人が存在している必要があるからです。
この場合、指定された人物の子どもが代襲相続することはありません。その財産は遺言書に記載のない財産として扱われ、法定相続人全員の共有財産となるため、別途、遺産分割協議を行う必要があります。
甥・姪の子どもへの再代襲(兄弟姉妹の代襲)
前述の通り、被相続人の兄弟姉妹の代襲相続は「甥姪まで」と限定されており、甥や姪が亡くなっていたとしても、その子どもがさらに代襲相続人となる「再代襲」は認められていません。これは、関係性が遠くなりすぎるといった考慮が背景にあります。
養子縁組前に生まれた養子の子ども
養子縁組の効果は、縁組の日から生じます。したがって、養子縁組の日より前に生まれた養子の子どもは、養親との間に血族関係が生じないため、養親の直系卑属とは認められず、代襲相続の対象にはなりません。
これに対し、養子縁組の後に生まれた養子の子どもは、養親との間に法律上の血族関係が生じるため、養親の直系卑属となり、代襲相続が可能となります。
配偶者の連れ子
被相続人の配偶者は、常に法定相続人ですが、代襲相続の対象にはなりません。代襲相続は、被相続人の子どもまたは兄弟姉妹に対してのみ発生する制度だからです。
そのため、被相続人よりも先に配偶者が亡くなっていたとしても、その配偶者の連れ子(被相続人とは血縁関係がない子)が代襲相続人になることはありません。配偶者の連れ子に財産を相続させたい場合は、生前に養子縁組をするか、遺言書を作成するなどの対策が必要です。
直系尊属の相続
被相続人の父母や祖父母などの直系尊属は、代襲相続の対象ではありません。直系尊属の場合、前の世代にさかのぼって相続人が決まりますが、これは「代襲相続」とは別の考え方になります。例えば、被相続人の父母が亡くなっている場合でも、祖父母が存命であれば、祖父母が相続人となります。
3.代襲相続における相続割合と遺留分
代襲相続が発生した場合でも、代襲相続人の相続割合(法定相続分)は、本来の相続人(被代襲者)の相続分を引き継ぐ形になります。代襲相続人が複数いる場合は、被代襲者の相続分をその人数で均等に分割します。
例えば、被相続人の配偶者と長男が相続人のケースで、長男が先に亡くなり、長男の子(被相続人の孫)が2人いる場合、配偶者の相続分は1/2、長男の相続分は1/2でしたが、この1/2を2人の孫が均等に引き継ぐため、各孫の相続分は1/4ずつとなります。
代襲相続人の遺留分について
遺留分とは、法定相続人に保障されている最低限の遺産の取り分のことです。代襲相続人の遺留分は、その立場によって異なります。
• 孫(直系卑属)が代襲相続人となる場合: 遺留分が認められます。孫は、本来の相続人である子(被代襲者)が持っていた遺留分の権利を引き継ぎます。
• 甥・姪(傍系卑属)が代襲相続人となる場合: 遺留分は認められません。そもそも被相続人の兄弟姉妹には遺留分が認められていないため、その代襲相続人である甥姪にも遺留分は発生しません。したがって、遺言書などで甥姪が相続から外されていたとしても、遺留分侵害額請求を行うことはできません。
4.代襲相続発生時の注意点と対策
代襲相続が発生すると、通常の相続に比べて相続関係が複雑になり、手続きやトラブルのリスクが高まることがあります。
相続税への影響
代襲相続によって法定相続人の数が増える可能性があります。法定相続人の数が増えることは、相続税の計算において以下のようなメリットをもたらすことがあります。
• 基礎控除額の増加: 相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」で計算されます。代襲相続人が加わることで人数が増えれば、基礎控除額が増え、課税対象となる遺産額が減少する可能性があります。
• 非課税枠の増加: 生命保険金や死亡退職金の非課税枠も「500万円×法定相続人の人数」で計算されるため、同様に増加する可能性があります。
ただし、甥・姪が代襲相続人となった場合、相続税が2割加算される点に注意が必要です。これは、被相続人の配偶者、子ども(代襲相続人である孫を含む)、両親以外の人が財産を相続した場合に適用される制度です。
相続手続きと必要書類
代襲相続が発生しても、特別な手続きは必要ありません。しかし、遺産の名義変更(相続登記)や相続税申告などの相続手続きを進めるためには、通常の相続よりも多くの戸籍謄本などが必要となることがあります。
具体的には、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本の他に、代襲される被代襲者(本来の相続人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、そして代襲相続人全員の戸籍謄本なども必要となります。これらの書類の収集には時間がかかる場合があるため、早めに準備を始めることが重要です。
5.相続トラブルの可能性と遺言書による対策
代襲相続が発生すると、相続に関わる親族の範囲が広がり、関係性が複雑になる傾向があります。特に、普段交流のない親族(例えば、配偶者と疎遠な甥姪など)が相続人となる場合、遺産分割協議が円滑に進まず、相続トラブルに発展するリスクが高まります。
こうしたトラブルを避けるための有効な対策の一つが、生前の遺言書作成です。遺言書によって、誰にどの財産をどれだけ相続させるかを明確に指定しておくことで、法定相続人全員での遺産分割協議を不要にし、将来の紛争を防ぐことができます。
例えば、疎遠な孫や甥姪に代襲相続させたくない場合は、遺言書で被代襲者以外の相続人にすべての遺産を相続させる旨を記載することで、その意思を実現することが可能です。ただし、この際、遺留分を持つ相続人がいる場合には、その遺留分を侵害しないよう配慮が必要です。甥姪には遺留分がありませんが、孫には遺留分が認められます。
また、遺言書を作成する際には、予備的な遺言(例えば、指定した相続人が先に亡くなった場合に備えて別の受取人を指定する)を残しておくことで、遺言書の一部が無効になる事態を避けることができます。相続関係が複雑な場合は、漏れのない遺言書を作成するためにも専門家への相談を検討しましょう。
6.代襲相続の複雑さを専門家がサポート
代襲相続は、本来相続人となるべき人が相続できない場合に、その子どもが代わりに相続する重要な制度です。しかし、その発生条件、代襲相続人となる範囲、そして相続放棄や遺言書、養子縁組の状況によって、相続の取り扱いが大きく異なります。特に、相続放棄をした場合は代襲相続が発生しないこと、甥姪への代襲相続は一代限りであること、そして遺留分の有無が孫と甥姪で異なる点は、特に注意すべきポイントです。また、配偶者には代襲相続が発生しないことも理解しておく必要があります。
誰が法定相続人になるのかを正確に確定することは、すべての相続手続きの出発点であり、非常に重要です。もし相続関係が複雑で、ご自身での判断が難しいと感じる場合は、相続問題に詳しい専門家へ相談することをおすすめします。専門家は、複雑な相続関係の整理から、必要な書類の収集、遺産分割協議のサポート、相続税に関するアドバイスまで、お客様の状況に合わせた最適なサポートを提供し、円滑な相続の実現を支援してくれます。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。