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任意後見制度のデメリットと後悔しないための対策

2025-08-21

超高齢社会を迎えた日本において、認知症などにより判断能力が低下した際の財産管理や身上監護を事前に準備しておく任意後見制度の重要性が高まっています。この制度は、将来の判断能力低下に備えて、元気なうちに信頼できる人を任意後見受任者として選び、公正証書で契約を結んでおく制度です。

しかし、任意後見制度にはメリットがある一方で、デメリットやトラブルも存在します。制度を正しく理解し、後悔のない選択をするためには、これらのデメリットやトラブル事例を事前に把握しておくことが重要です。

本記事では、任意後見制度のデメリットと実際に発生しているトラブル事例について詳しく解説し、適切な対策についてもご紹介します。

1.任意後見制度の基本的な仕組み

任意後見制度は、将来の判断能力低下に備え、ご自身の意思で信頼できる人を任意後見人として指定し、財産管理や生活支援について事前に契約を結んでおく制度です。この契約は公正証書で作成することが義務付けられており、法務局に登記されます。契約の効力は、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点で初めて発生します。

任意後見人は、契約で定められた範囲内で本人の財産管理や身上監護(介護サービスの契約や医療の契約など)を行います。

2.任意後見制度の主なデメリット

任意後見制度には、以下のような複数のデメリットが存在します。これらを理解しておくことが、制度を有効に活用し、将来的な後悔を避けるために不可欠です。

1. 本人が行った契約の取消権がない

任意後見制度の最も大きなデメリットの一つが、任意後見人には取消権がないことです。

法定後見制度では、後見人等に取消権が付与されており、本人が行った不利益な契約等を取り消すことができます。しかし、任意後見人にはこの権限がありません。

これにより、以下のような問題が生じる可能性があります:

  • 本人の判断能力が低下していても、形式的に有効な契約として扱われてしまう
  • 悪質な業者による高額商品の押し売りがあっても、契約後は取り消せない
  • 詐欺的な投資話に騙されて契約してしまった場合の救済が困難

2. 開始時期の判断が困難

任意後見は、本人の判断能力が低下してから家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人が選任されることで開始されます。しかし、この「判断能力の低下」の判断が非常に困難な場合があります。

認知症の進行は段階的であり、「まだ大丈夫」「もう少し様子を見よう」と先延ばしにしているうちに、本人の判断能力がさらに低下してしまうケースがあります。逆に、早すぎる開始は本人の自己決定権を過度に制限することになりかねません。

3. 報酬の負担

任意後見が開始されると、任意後見人への報酬に加えて、任意後見監督人への報酬も発生します。この二重の報酬負担は、本人の経済状況によっては重い負担となる場合があります。

任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決定しますが、一般的に月額1万円から3万円程度とされています。任意後見人の報酬も契約で定めていた場合は、さらに負担が増えることになります。

4. 契約内容の変更が困難

公正証書で作成された任意後見契約の内容を変更するには、原則として新たな公正証書の作成が必要です。しかし、本人の判断能力が低下した後では、契約内容の変更は事実上不可能になります。後から契約に不足する項目に気づいたとしても、本人の判断能力が既に低下している場合、新たに任意後見契約を締結したり、契約内容を変更したりすることは困難です。

これにより、以下のような問題が生じる可能性があります:

  • 報酬額の見直しができない
  • 当初想定していなかった事態に柔軟に対応できない
  • 任意後見受任者の事情が変わっても、変更が困難

5. 認知症発症後は契約できない

任意後見契約を締結するには、契約者がその内容を理解し、自らの意思で合意できるだけの判断能力が必要とされます。認知症が進行し、意思能力が著しく低下してしまった場合、公正証書の作成時に公証人による意思確認で明確な意思表示が確認できなければ、契約の締結はほぼ不可能となり、制度の利用は認められません. この場合、法定後見制度の利用を検討することになります。

6. 発効した後の解約が難しい

任意後見制度は、一度任意後見監督人が選任され効力が発生すると、その終了が非常に厳しく制限されます。制度を終了するには、家庭裁判所の許可が必要であり、「正当な理由」が求められます。例えば、任意後見人が健康上の問題で任務を継続できなくなった場合などが正当な理由として考えられます. このように、一度始まった任意後見人の職務と任意後見監督人による監督は、原則として本人が亡くなるまで続くため、途中で関係が悪化した場合などに後悔する可能性があります。

3.トラブル事例に学ぶ

事例1:任意後見受任者の背任行為

概要 長年信頼していた友人を任意後見受任者として契約を締結していた70代女性のケース。判断能力の低下により任意後見が開始された後、任意後見人となった友人が本人の預金を私的に流用していることが発覚しました。

問題点

  • 任意後見監督人による監督が不十分だった
  • 本人の親族が遠方に住んでおり、状況把握が遅れた
  • 財産管理について具体的な制限を設けていなかった

教訓 任意後見受任者の選定は慎重に行い、監督体制についても十分に検討する必要があります。また、定期的な財産状況の報告体制を整備することが重要です。

事例2:家族間の対立

概要 80代男性が長男を任意後見受任者として契約を締結。後に任意後見が開始されたところ、他の兄弟から「長男だけが優遇されている」との不満が出て、家族間で深刻な対立が発生したケース。

問題点

  • 契約締結時に家族全体での話し合いが不十分だった
  • 他の相続人への説明と理解が得られていなかった
  • 任意後見受任者の権限範囲が曖昧だった

教訓 任意後見契約の締結にあたっては、家族全体での十分な話し合いと合意形成が必要です。また、契約内容について関係者全員が正しく理解することが重要です。

事例3:取消権がないことによる被害

概要 認知症の初期段階にある75歳女性が、訪問販売で高額な健康食品を購入する契約を締結。その後、任意後見契約に基づき任意後見が開始されたが、任意後見人には民法上の「取消権」が認められていないため、既に締結されていた不当な契約を取り消すことができなかったケース。

問題点

  • 任意後見開始のタイミングが遅く、契約締結後になってしまった
  • 任意後見人には取消権がなく、契約の取消しは家庭裁判所で法定後見(保佐・後見)に切り替えない限り困難であることへの理解不足
  • 本人を守るための見守り・日常的な支援体制が不十分だった

教訓 任意後見制度は本人の希望を尊重できる一方で、取消権がないという限界があることを理解しておく必要があります。判断能力の低下が見え始めたら早めに任意後見を発効させること、必要に応じて法定後見への移行も検討すること、また地域や家族による見守り体制を充実させることが重要です。

事例4:報酬をめぐるトラブル

概要 親族を任意後見受任者として無償の契約を締結していたケース。任意後見開始後、受任者から「思った以上に負担が重い」として報酬の請求がなされ、家族間でトラブルとなった事例。

問題点

  • 任意後見人の業務内容について十分な検討がなされていなかった
  • 報酬について事前の取り決めが曖昧だった
  • 業務の負担について現実的な見積もりができていなかった

教訓 たとえ親族間であっても、報酬については明確に取り決めておくことが重要です。また、任意後見人の業務内容と負担について現実的に検討することが必要です。

4.トラブルを避けるための対策

1. 慎重な任意後見受任者の選定

任意後見受任者の選定は、制度の成功を左右する最も重要な要素です。以下の点を考慮して選定することが重要です:

  • 信頼関係:長期間にわたって信頼できる人物であること
  • 能力:財産管理や身上監護に必要な能力を有していること
  • 継続性:長期間にわたって職務を継続できること
  • 利害関係:本人と利害が対立する可能性が低いこと

2. 複数の任意後見受任者の検討

一人の任意後見受任者に全てを委ねるのではなく、以下のような方法も検討しましょう:

  • 複数人による共同受任
  • 専門家と親族の組み合わせ

3. 契約内容の詳細な検討

公正証書作成前に、以下の点について詳細に検討し、明確に定めておくことが重要です:

  • 任意後見人の権限の範囲
  • 報酬の有無と金額
  • 財産管理の方法
  • 身上監護の内容
  • 定期報告の方法

4. 家族全体での合意形成

任意後見契約は本人の意思により締結するものですが、将来的なトラブルを避けるためには、家族全体での理解と合意を得ておくことが重要です。

5. 専門家の活用

司法書士や弁護士などの専門家に相談し、以下の支援を受けることを検討しましょう:

  • 制度の詳細な説明
  • 契約内容の検討
  • 公正証書作成の支援

6. 定期的な見直し

任意後見契約締結後も、定期的に以下の点を見直すことが重要です:

  • 財産状況の変化
  • 任意後見受任者の状況
  • 本人の健康状態
  • 家族関係の変化

5.任意後見制度と他制度の併用による対策

任意後見制度のデメリットを補い、より包括的な対策を講じるためには、他の制度との併用を検討することが有効です。

1. 家族信託との併用

家族信託は、本人の判断能力が低下する前に信託契約を結び、信頼できる家族に特定の財産管理を任せる仕組みです. 家族信託は財産管理の迅速性と柔軟性に優れており、任意後見制度では難しいとされる積極的な資産運用や、家庭裁判所の許可なしでの不動産売却も可能な場合があります.。また、任意後見監督人のような公的な監督が原則として不要であるため、月々のランニングコストを抑えられるというメリットもあります。

しかし、家族信託はあくまで財産管理が目的であり、本人の生活や介護サービスのアレンジといった身上監護の機能は持っていません.。そこで、身上監護に強みを持つ任意後見制度と、財産管理の柔軟性に優れる家族信託を併用することで、両者のメリットを活かした万全な体制を築くことが可能です。

2. 財産管理委任契約・見守り契約

任意後見契約は、公正証書作成後も本人の判断能力が低下し、任意後見監督人が選任されるまでは効力が生じません。この「空白期間」の支援をカバーするために、「財産管理委任契約(任意代理契約)」や「見守り契約」を同時に締結することが有効です.

財産管理委任契約: 判断能力があるうちから、財産管理や身上監護に関する事務手続きを特定の人物に委任する契約です.

見守り契約: 任意後見契約締結後から効力発生までの間、定期的な訪問や電話で本人とコミュニケーションを取り、判断能力の変化に気づきやすくするための契約です.

3. 死後事務委任契約

任意後見制度は本人の死亡と同時に終了するため、葬儀や埋葬、遺品整理といった死後の事務処理は任意後見人の職務範囲外です. これを補完するためには、「死後事務委任契約」を別途締結しておくことが必要です.。これにより、ご自身の意思に沿った形で死後の事務を信頼できる人に託すことができます。

6.専門家へご相談ください

任意後見制度は、ご自身の意思を尊重し、将来の不安に備えるための強力な選択肢です。公正証書による契約と登記を通じて、任意後見受任者をご自身で指名し、支援内容を自由に設計できるという大きなメリットがあります。

しかし、取消権がないこと、任意後見監督人への報酬を含む費用負担、そして一度開始すると解約が難しいことなど、多くのデメリットも存在します。これらのデメリットを理解せず制度を利用すると、将来的なトラブルや後悔に繋がる可能性があります。

最適な対策は、ご自身の状況や希望を十分に考慮し、任意後見制度の持つ強みと弱みを理解した上で、必要に応じて家族信託や「見守り契約」「財産管理委任契約」「死後事務委任契約」といった他の制度を組み合わせることです。

ご自身にとってどのような対策が最も適しているか、また具体的な手続きや契約内容について不明な点があれば、専門家への相談を検討することをお勧めします.。専門家は、ご家族の状況に応じた最適なプランを提案し、将来の安心をサポートしてくれるでしょう。

登記されていないことの証明書とは?

2025-08-11

「登記されていないことの証明書」という言葉を耳にしたことがある方は、おそらくそれほど多くはないでしょう。多くの方にとっては馴染みのない書類かもしれません。しかし、この証明書は、特定の場面で非常に重要な役割を果たすため、その内容や取得方法について理解しておくことが大切です。

ここでは、一般的にはあまり知られていない「登記されていないことの証明書」の概要から、取得方法、必要な書類、そして請求時の注意点まで、詳しく解説していきます。

1.登記されていないことの証明書の概要

「登記されていないことの証明書」は、その名称から不動産登記や商業登記に関連するものと誤解されがちですが、実際には成年後見登記に関する証明書です。具体的には、対象となる方が成年被後見人、被保佐人、被補助人、または任意後見契約の本人として、法務局の後見登記等ファイルに記録されていないことを証明する書類です。

成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分になった方を法的に保護し、支援するための制度です。この制度が適用されると、成年後見人などが選任され、その権限内容や任意後見契約の内容は、東京法務局後見登録課の「後見登記等ファイル」に登記され、公示されます。

この証明書が必要とされる主な理由は、後見登記等ファイルに記録されている場合、日常生活や営業活動に必要な意思能力が十分でないと見なされるため、一定の資格登録や事業・営業を行うための許認可申請が認められないことがあるからです。そのため、自身がこれらの欠格事由に該当しないことを証明するために、「登記されていないことの証明書」の提出が求められます。

また、この証明書は、成年後見等開始の申立てを行う際にも必須となります。これは、すでに後見登記等ファイルに登記されているにもかかわらず、重ねて同様の審判がされることを防ぐためです。近年では、高齢化の進展に伴い、遺産分割協議の際の判断能力の確認資料として、あるいは財産管理の場面で必要となるケースも増えています。

類似の証明書との違い

「登記されていないことの証明書」と似た書類に「(成年後見)登記事項証明書」や「市区町村発行の身分証明書」がありますが、それぞれ目的が異なります。

(成年後見)登記事項証明書:後見登記等ファイルに記録された事項、つまり成年後見人等の選任事実や権限内容を証明するものです。主に成年後見人等が自身の権限を証明する際に利用されます。

市区町村発行の身分証明書:これは、現在の成年後見制度が開始される前の「禁治産・準禁治産制度」(平成12年3月31日以前)における「登記されていないことの証明書」のようなものです。禁治産者や準禁治産者であったことは戸籍に記載されていたため、その期間の証明が必要な場合に取得します。また、破産者でないことの証明も含まれるため、後見人候補者が破産者でないことの証明や、特定の資格登録・許認可申請において提出を求められる場合があります。

現在の制度(平成12年4月1日以降)についての証明は「登記されていないことの証明書」で、それ以前の期間については「身分証明書」で証明することになります。

2.登記されていないことの証明書の請求方法

この証明書は、主に窓口での申請郵送での申請の2通りで請求が可能です。

請求できる人

請求できる人は以下の通りです。

  • 証明の対象者本人
  • 対象者の配偶者
  • 対象者の四親等内の親族
  • 上記の方から委任を受けた代理人

申請先

申請先は、窓口申請か郵送申請かによって異なります。

窓口での申請東京法務局後見登録課または全国の法務局・地方法務局の「本局」の戸籍課で申請できます。重要な点として、支局や出張所では取り扱いがありませんので注意が必要です。例えば、神奈川県内の法務局を例にとると、横浜市中区にある横浜地方法務局(本局)では窓口での請求が可能ですが、川崎支局や戸塚出張所などのその他の法務局(登記所)では取り扱いがありません。窓口申請であれば、書類に不備がなければ比較的早く、10~20分程度で取得できることが多いです。

郵送での申請: 郵送での申請の請求先は、東京法務局後見登録課のみです。他の法務局に郵送で請求しても受理されませんのでご注意ください。 郵送先は以下の通りです。 〒102-8225(または〒102-8226) 東京都千代田区九段南1丁目1番15号 九段第2合同庁舎 東京法務局 民事行政部 後見登録課 郵送の場合、郵便が到着してから証明書が送付されるまでおおむね1週間程度かかりますが、混雑状況によっては2週間以上かかることもありますので、時間に余裕を持って申請しましょう。

オンライン申請: オンラインでの請求も可能とされていますが、電子署名や特定の電子証明書が必要となり、手間や時間がかかるため、一般の方にはあまり推奨されません。特に、親族が申請する場合、戸籍謄本の電子化が進んでいないため、事実上オンライン申請はできません。

請求に必要な書類

請求する人によって必要書類が異なります。

本人または親族による請求の場合

  • 申請書:法務局のホームページからダウンロードできるほか、窓口でも入手可能です。記載例も参考にし、証明を受ける方の氏名や住所、本籍は戸籍や住民票の通りに、点画をはっきりとした楷書で正確に記入しましょう。
  • 請求者の本人確認書類:運転免許証、健康保険証、パスポート、マイナンバーカードなど。郵送申請の場合はコピーを同封します。
  • 証明の対象者との関係を証明する戸籍謄本等(配偶者や親族による請求の場合のみ):配偶者や四親等内の親族であることを証明するため、戸籍謄抄本や住民票などの提出が必要です。

有効期限:提出時点で発行から3か月以内のものが求められます。ただし、除籍謄抄本や改製原戸籍謄抄本が必要な場合は、発行後3か月以内のものでなくても問題ありません。
原本還付:提出した戸籍謄本などの原本は、申請と同時に原本還付の手続きを行えば返却してもらうことが可能です。これにより、後に成年後見等の申立てで再度必要になる際に利用できます。

委任を受けた代理人による請求の場合

  • 申請書:本人や親族による請求の場合と同様です.
  • 代理人の本人確認書類:郵送の場合はコピーを同封します。
  • 証明の対象者との関係を証明する戸籍謄本等(配偶者や親族から委任された代理人の場合のみ):本人と委任者(請求者)の関係を証明する戸籍謄抄本が必要です。こちらも原本還付が可能です。
  • 委任状:本人または親族等から委任を受けたことを証明するために必要です。委任状は手書きで作成でき、法務局のホームページに書式や記載例が公開されています。
  • 返送用封筒:郵送申請の場合、返送先を明記し、切手を貼付した返信用封筒を忘れずに同封します。レターパックなど記録される郵便を利用するとより安心です。

委任状には押印が不要です。
法人が代理人となる場合は、代表者資格証明書(発行から3か月以内)が必要ですが、申請書に会社法人等番号を記載することで提出を省略できます。
なお、委任状は証明書のためだけに作成される書類であるため、原本還付はできません。

請求にかかる費用

発行手数料:証明書1通につき300円です。この手数料は、申請用紙の所定の場所に収入印紙を貼り付けて納めます。収入印紙は郵便局や法務局などで購入できます。コンビニでは200円印紙のみの取り扱いが多いですが、複数枚貼り付けて合計300円にすることも可能です。

• その他、親族等による請求の場合には戸籍謄本等の発行手数料(1通につき450円)や、郵送による請求の場合には往復の郵便料金(切手代)が別途必要になります。

請求の際の注意点

「登記されていないことの証明書」を請求する際には、いくつかの注意点があります。

戸籍謄本等の有効期限:本人以外の親族が請求する場合に添付する戸籍謄本等は、提出時点で発行から3か月以内のものでなければなりません(ただし、除籍謄抄本や改製原戸籍謄抄本は期限がありません)。期限切れのものを提出すると再提出となり、手続きに余計な時間がかかるため、発行日を必ず確認しましょう。

添付書類の原本還付処理:戸籍謄本等の原本提出が必要な場合、原則として提出された書類は返却されませんが、請求と同時に原本還付の手続きを行えば返却してもらえます。原本還付を希望する場合は、返却してもらいたい書類のコピーを取り、「この写しは原本と相違ありません」と記載し、請求者の氏名を署名(または記名)し、必要に応じて押印(認印可)の上、各ページに契印(複数枚にわたる場合)をして原本と一緒に提出します。

申請書の証明事項欄のチェック間違い:申請書には証明事項をチェックする欄が4つほど並んでいます。成年後見等の申立てを行う場合は、必ず「成年被後見人,被保佐人,被補助人,任意後見契約の本人とする記録がない。」の箇所(上から3番目のチェックボックス)にチェックを入れてください。これは、任意後見契約がある場合、原則として任意後見が優先されるため、その有無についても証明する必要があるからです。

証明書の有効期限とその後の手続き:取得した証明書自体に有効期限の記載はありませんが、提出先によっては「発行から3か月以内」など、一定期間内に発行されたものを求められる場合があります。そのため、証明書を取得したら、その後の成年後見開始申立てなどの手続きを早めに進めることをお勧めします.

3.専門家へのご相談をおすすめします

「登記されていないことの証明書」の請求・取得手続き自体は、この記事を参考にすればご自身でも十分可能ですが、その後の成年後見申立てなどの手続きは、多くの方にとって複雑で時間のかかるものです。特に、書類の不備があったり、郵送でのやり取りで時間がかかったりすると、必要な手続きが滞ってしまう可能性があります.

ご自身で申立てを行うのが難しいと感じる方、あるいは迅速な手続きが必要でご自身では時間を取れない方は、証明書の取得も含めて、司法書士などの専門家にご相談されることをおすすめします。専門家は、煩雑な書類作成や手続きの代理をサポートし、皆様の負担を軽減することができます。

ご不明な点やご不安な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

成年後見制度の解説:大切なご家族の未来を守るために

2025-07-07

超高齢化社会が進む現代において、ご家族が認知症や精神上の障がいなどにより判断能力が低下し、ご自身での財産管理や契約、医療・介護に関する意思決定が困難になるケースが増えています。このような状況に直面した際、ご本人の権利や財産を守り、安心して生活を送るための法的な支援が必要となります。そこで重要な役割を果たすのが「成年後見制度」です。

相続手続きにおいても、被相続人(亡くなった方)が認知症を患っていた場合や、相続人の中に判断能力が不十分な方がいる場合など、特別な対応が必要となることがあります。このような状況では、遺産分割協議を進めること自体が困難になったり、銀行預貯金の解約や不動産の名義変更(相続登記)などの手続きが滞る原因となります。

成年後見制度は、判断能力が不十分な方を法的に保護し、支援するための仕組みであり、ご本人の生活と財産を守る上で不可欠な制度です。

1.成年後見制度の目的

成年後見制度の最も重要な目的は、判断能力が不十分な方の権利と財産を法的に保護し、その生活を支援することにあります。具体的には、以下のような支援を行います。

財産管理:預貯金や不動産、株式などの財産を適切に管理し、ご本人の生活費や医療費、介護費用などに充当します。ご本人が不利益な契約を結んでしまわないよう保護する役割も担います。

身上保護:医療・介護サービスに関する契約の締結や、施設への入所契約、日常的な買い物など、ご本人の生活に関わる様々な法律行為を行います。ただし、医療行為への同意や、事実上の介護行為などは身上保護の範囲外となります。

この制度により、判断能力が低下したご本人が不当な契約の被害に遭ったり、財産を失ったりするリスクから守られます。

2.成年後見制度の種類:法定後見制度と任意後見制度の違い

法定後見制度(後見・保佐・補助)

法定後見制度は、既に判断能力が不十分な状態にある方のために利用される制度です。ご本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。

後見:判断能力がほとんどない方に適用されます。家庭裁判所が「成年後見人」を選任し、成年後見人はご本人の財産管理や法律行為をすべて代理し、ご本人が行った不適切な法律行為を取り消すことができます。

保佐:判断能力が著しく不十分な方に適用されます。家庭裁判所が「保佐人」を選任し、保佐人は重要な法律行為について同意権や取消権を持ち、特定の法律行為について代理権を持つこともあります。

補助:判断能力が不十分な方に適用されます。家庭裁判所が「補助人」を選任し、補助人は特定の法律行為について同意権や代理権を持つことがあります。

この制度は、ご本人やその親族などの申立てに基づいて家庭裁判所が審判を行い、後見人等を選任します。家庭裁判所がご本人の状況や親族関係などを考慮し、最も適任と思われる人物を後見人等として選びます。

任意後見制度

任意後見制度は、ご本人がまだ十分な判断能力を持っているうちに、将来、判断能力が低下した場合に備えて準備する制度です。ご自身で信頼できる人(任意後見人)を選び、どのような支援をしてほしいか、どのような財産管理をしてほしいかなどを事前に契約(任意後見契約)で定めておきます。

特徴:ご本人の意思が最大限に尊重される点が大きな特徴です。将来の不安を解消し、ご自身の希望通りの支援を受けられるようにするための「生前対策」として非常に有効です。

手続き:任意後見契約は公正証書で作成することが義務付けられています。これにより、契約内容の信頼性が担保されます。ご本人の判断能力が低下した際に、任意後見契約の効力が発生し、任意後見人が支援を開始します。

当事務所のような司法書士事務所では、「任意後見契約公正証書の作成方法」に関するご相談やサポートも提供しており、生前対策として重要な選択肢となります。

法定後見と任意後見の比較法定後見制度任意後見制度
利用開始時期判断能力が不十分になった後判断能力があるうちに契約、能力低下後に開始
後見人の選任家庭裁判所が選任本人が自由に選任
柔軟性家庭裁判所の監督下で運用比較的本人の希望を反映しやすい
申立て・契約の主体本人・配偶者・親族・市区町村長など本人のみ
監督体制家庭裁判所が監督任意後見監督人が監督(家庭裁判所が選任)

3.成年後見制度のメリット・デメリット

成年後見制度には、ご本人とご家族にとって多くのメリットがある一方で、いくつかの考慮すべき点もあります。

【メリット】

ご本人の財産が守られる:成年後見人が選任されることで、判断能力が不十分なご本人の財産が適切に管理され、詐欺や悪質な商取引などから保護されます。

医療・介護契約などがスムーズに行える:ご本人が自分で契約を結べない場合でも、成年後見人が代理して必要な医療・介護サービスに関する契約を締結できるため、適切なケアを受けられるようになります。

家族間のトラブル回避:特に法定後見制度の場合、家庭裁判所が後見人を選任し、その職務を監督するため、親族間で財産管理を巡る争いが発生するリスクを軽減できます。また、認知症の相続人がいる場合の遺産分割協議や銀行手続きも、後見人が代理することで法的に有効に進めることが可能になります。

計画的な生前対策:任意後見制度を利用すれば、ご本人が元気なうちに将来の不安を解消し、ご自身の希望に沿った形で財産管理や生活支援の準備を進めることができます。

【デメリット・考慮すべき点】

手続きの複雑さと費用:成年後見制度の利用には、家庭裁判所への申立てや必要書類の準備など、複雑な手続きが伴います。また、専門家を後見人として選任した場合や申立てを依頼した場合、費用が発生します。

家庭裁判所の監督:法定後見制度の場合、選任された後見人は定期的に家庭裁判所へ業務報告を行う義務があり、柔軟性に欠けると感じる場合もあります。

選任の柔軟性の制約:法定後見では、必ずしも申立てた希望通りの人物が後見人に選任されるとは限りません。家庭裁判所がご本人の利益を最優先して判断します。

財産の自由な運用が制限される:成年後見制度は「本人の財産を保護する」ための制度であるため、リスクのある投資や相続税対策のための贈与、不動産売却などを柔軟に行うことは困難です。後見人には本人の利益を守る義務があり、保守的な管理が求められます。

専門家によるサポートの必要性:制度の利用にあたっては、法的な知識が求められることが多く、ご自身だけで手続きを進めるには大きな負担が伴う可能性があります。複雑な手続きのため、専門家のアドバイスとサポートがあると安心です。

4.相続手続きにおける成年後見制度の役割

相続が発生した際、相続人の中に認知症などで判断能力が不十分な方がいると、遺産分割協議や各種手続きが通常の方法では進められなくなります。このようなケースにおいて、成年後見制度は重要な役割を果たします。

【遺産分割協議への対応】

相続手続きを進めるには、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、合意を得る必要があります。しかし、判断能力が不十分な相続人がいる場合、そのまま協議に参加させることはできません。この場合、成年後見人がその相続人の代理人として協議に参加し、意思決定を行うことができます。

成年後見人は、ご本人にとって不利益とならないよう、適切に協議を進める責任を負っています。

【銀行預金の解約・払い戻し】

被相続人の死亡により銀行口座が凍結された場合、相続人全員の合意がなければ預金の解約や払い戻しを受けることはできません。相続人の中に判断能力が不十分な方が含まれている場合、その方が単独で手続きを行うことはできません。

このような場合も、成年後見人が代理人として手続きを行うことにより、他の相続人と協力して必要な相続手続きを進めることが可能になります。

【不動産の名義変更(相続登記)】

相続によって取得した不動産については、名義変更の登記(相続登記)を行う必要があります。

しかし、相続人の一人が認知症などで登記申請に必要な書類に署名・押印できない場合、そのままでは登記手続きを進めることができません。このような場面でも、成年後見人が後見人として必要書類に署名・押印し、登記申請を行うことで、円滑な手続きが可能となります。

【注意点】

成年後見人が代理で遺産分割協議や相続手続きを行う場合、家庭裁判所への相談や許可が必要となることがあります。特に、特定の相続人に有利または不利となるような分割内容については、後見人の判断のみでは決定できないことがあります。

また、被後見人の利益を最優先に考える必要があるため、後見人自身も相続人であり利害関係がある場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を求めることもあります。

このように、成年後見制度は、判断能力が不十分な相続人の権利を守りつつ、相続手続きを円滑に進めるための重要な法的枠組みです。

5.さいごに

成年後見制度は、ご本人やご家族の生活と財産を守るための大切な制度です。しかし、制度の種類や手続きの内容は複雑で、どのようなケースでどの制度を選べばよいのか判断に迷う方も少なくありません。また、申立てや必要書類の準備などに時間と労力がかかるため、ご自身だけで対応しようとすると大きな負担となる場合があります。

当事務所では、成年後見制度に関するご相談を多数お受けしています。ご家族の状況やご希望を丁寧に伺いながら、最適な制度のご提案から申立て手続きまで一貫してサポートいたします。

「手続きが難しそうで不安」「後見制度について詳しく知りたい」「認知症対策として備えておきたい」など、どのようなお悩みでもお気軽にご相談ください。司法書士が分かりやすく丁寧にご説明し、安心して制度を利用できるよう全力でサポートいたします。

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