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任意後見人になれる人は?信頼できる後見人を選ぶ
日本では高齢化が進み、将来的に認知症などによりご自身の判断能力が低下するリスクは無視できません。このような事態に備え、あらかじめ信頼できる人を選び、財産管理や生活のサポートを委任する仕組みが任意後見制度です。
任意後見制度の最大のメリットは、ご自身が元気で判断能力があるうちに、誰にどのようなサポートを任せるかを自由に決められる点にあります。しかし、ご自身の将来の生活と財産を託す任意後見人は、誰でもなれるのでしょうか?そして、数ある候補者の中から、最も信頼できる後見人を選ぶにはどうすれば良いでしょうか?
この記事では、任意後見人になれる人の範囲を具体的に列挙し、その選任プロセスや、特に重要な「信頼できる後見人」を選ぶためのポイント、そして制度にかかる費用と手続きについて、詳しく解説します。
1.任意後見制度の概要:法定後見との決定的な違い
任意後見制度は、将来の判断能力の低下に備えるための生前対策の仕組みであり、法定後見制度とは利用を開始する時期が大きく異なります。
任意後見制度とは
任意後見制度は、ご本人が十分な判断能力を有している段階で、将来の支援内容と、その支援を担う任意後見受任者(将来の任意後見人になる予定の人)を契約によって定めておく制度です。この契約を任意後見契約と呼び、必ず公正証書によって締結しなければなりません。
契約の効力は、ご本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任して初めて発生します。任意後見人(受任者が任意後見監督人選任後に就任する)は、この契約内容に基づき、ご本人の意思を尊重しながら財産管理や身上監護の事務を遂行します。
任意後見人が行う役割
任意後見人が就任後に主に行う事務は、財産管理に関する法律行為と、身上監護に関する法律行為の2つです。
1. 財産管理:ご本人の財産を適切に維持・管理する行為です。具体的には、預貯金の管理、家賃や公共料金、税金、保険料などの定期的な費用の支払い、不動産の管理や売却手続き(施設入所費用捻出のためなど)、さらにはご本人が相続人となった場合の遺産分割協議への参加などが含まれます。
2. 身上監護:ご本人の生活を安定させるための契約行為です。これには、介護サービス事業者や老人ホームなどの施設との入所契約の締結・解除、医療契約の締結、要介護認定の請求などが含まれます。
ただし、任意後見人の役割は「法律行為」に限られます。例えば、入浴や食事の介助といった事実行為(介護そのもの)や、婚姻・離婚などの身分行為、手術などの医療行為への同意は、任意後見人の職務範囲外です。
2.任意後見人になれる人・なれない人
任意後見制度の最大のメリットは、ご本人が将来の支援者を自由に選べることです。法定後見とは異なり、家庭裁判所が後見人を決めるわけではないため、信頼できる人物にご自身の将来を託すことが可能です。
任意後見人になれる人の具体的な範囲
任意後見人になるために特別な資格や職業は必要ありません。法律が定める欠格事由に該当しない限り、成人であれば誰でも受任者として任意後見契約を結ぶことができます。
具体的に任意後見人(受任者)になれる候補者は、以下の通りです。
任意後見人になれる人 | 概要と選任のメリット |
家族・親族 | 子息、兄弟姉妹、甥、姪などの親族です。既に関係性が構築されており、ご本人の生活状況や好み、意向を深く理解しているため、身上監護において細やかな配慮が期待できます。任意後見契約の約70%は家族・親族が受任者となっています。 |
友人・知人 | 信頼できる身近な人がいない場合もありますが、長年の付き合いがある友人や知人も候補者になれます。 |
法律の専門家 | 弁護士、司法書士、税理士など、法律や資産管理の専門知識を持つ第三者です。複雑な財産管理や親族間のトラブル回避を重視する場合に賢明な選択肢です。 |
福祉の専門家 | 社会福祉士などが該当します。身上監護や介護に関する専門的な知見を持つことが期待できます。 |
法人 | 個人だけでなく、法律や福祉に関わる法人を受任者として選任することも可能です。法人は永続的に存続するため、長期的なサポートの継続性という点で安心感があります。 |
任意後見人になれない欠格事由
任意後見人は、ご本人の大切な財産と生活を預かる重い責任を持つため、法律によって、以下に該当する人は任意後見人(受任者)になることができません(欠格事由)。
- 未成年者
- 破産者(復権していない場合)
- 行方不明者
- 本人に対して訴訟をしている(した)者、およびその配偶者と直系血族
- 家庭裁判所で法定代理人、保佐人、補助人を解任された者
- 不正な行為や著しい不行跡など、任意後見人の任務に適さない事由がある者
これらの欠格事由に該当する人が受任者として契約しても、後に任意後見契約の効力が発生しない場合があるため注意が必要です。
3.信頼できる後見人を選ぶためのポイント
任意後見制度で最も重要なのは、ご本人が「この人になら任せられる」と心から思える受任者を選ぶことです。特に、長期にわたるサポートを想定し、家族に依頼するか、司法書士などの専門家に依頼するかは慎重に検討すべきポイントです。
親族(家族)を後見人に選ぶ際の留意点
ご本人のことをよく知る家族は、任意後見人の候補として最も身近で、かつ報酬を請求しない(無報酬とする)ことで費用負担を抑えられるというメリットがあります。
しかし、家族を選任する際には、以下の点に留意が必要です。
1. 後見事務の継続性:家族がご本人と同世代、あるいは高齢である場合、ご本人の後見が開始する時点で、受任者も高齢化や病気により、十分な事務処理ができなくなるリスクがあります。理想的にはご本人よりも一世代下の年齢の人を選ぶことが望ましいとされています。
2. 財産管理の透明性:親族による財産の使い込みや横領といったトラブルが発生する懸念もあります。任意後見監督人による監督はありますが、財産管理の自覚と誠実さが求められます。
3. 親族間のトラブル:後見の方針や財産管理をめぐり、家族間(他の親族)で意見の対立やトラブルが生じるリスクがあります。
専門家(司法書士・弁護士など)に依頼するメリット
家族に頼れる人がいない、あるいは上記の親族リスクを避けたい場合には、司法書士や弁護士などの専門家への依頼を検討しましょう。
専門家は、後見事務を職業として行っているため、以下のようなメリットがあります。
- 煩雑な事務の適切な処理:司法書士や弁護士は、財産目録や収支報告など、家庭裁判所へ提出する複雑な書類作成や定期報告義務(手続きの一部)を適切に遂行します。
- 高い信頼性と専門性:法律の専門家は、財産の使い込みや横領のリスクが極めて低く、高い倫理観をもって職務にあたります。また、不動産の処分や遺産分割協議への参加など、専門的な知識が必要な場面でも安心です。
- トラブル回避:親族間の感情的な対立に巻き込まれることなく、中立的な立場からご本人の利益を最優先に行動できます。
法人である専門家を選ぶことは、担当者の死亡や認知症により後見事務が行えなくなるリスクを回避できるという点でも有効な手段です。
4.任意後見制度の手続きと効力発生の仕組み
任意後見制度は、契約締結と効力発生が別々の段階で行われる「二段階の手続き」を踏みます。
STEP 1:任意後見人の選定と契約内容の決定
まず、ご本人が十分な判断能力があるうちに、受任者を決定し、財産管理や身上監護についてどのようなサポートを依頼するかを具体的に話し合います。この際、将来のご自身の生活(ライフプランノート)を作成し、その内容に沿って事務を遂行してもらうよう契約書に盛り込むなど、柔軟に内容を決められるのが任意後見の大きな特徴です。
STEP 2:公正証書による任意後見契約の締結
決定した契約内容は、必ず公正証書によって締結しなければなりません。ご本人と任意後見受任者の双方が公証役場に出向いて公正証書を作成し、公証人の嘱託により、契約内容が法務局に登記されます。
この段階では、まだ任意後見契約は発効していません。ご本人が判断能力を失っていない間は、受任者は、ご本人の判断能力の状況を定期的に確認する「見守り契約」や、財産管理等委任契約といった任意後見契約を補完する契約に基づきサポートを行うことが一般的です。
STEP 3:任意後見監督人選任の申立て
ご本人の判断能力が実際に低下し、任意後見によるサポートが必要となった時点で、受任者やご本人の配偶者、四親等内の親族などが、ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に「任意後見監督人選任の申立て」を行います。
申立てに際しては、戸籍謄本、診断書、任意後見契約公正証書の写し、ご本人の財産に関する資料など、複数の必要書類を提出します。
STEP 4:任意後見監督人の選任と後見事務の開始
申立てを受けた家庭裁判所は、ご本人の状態や受任者の適性を総合的に評価し、任意後見監督人を選任します。任意後見監督人は、任意後見人が契約どおりに適切に職務を行っているかを監督する役割を担い、任意後見制度の必須要素です。
この任意後見監督人が選任された時点をもって、任意後見受任者は正式に任意後見人となり、後見事務がスタートします。
5.任意後見制度にかかる費用
任意後見制度の利用を検討するにあたり、初期手続きにかかる費用と、後見事務開始後に継続的に発生する報酬について、事前に把握しておくことが重要です。
契約締結時の初期費用(手続き費用)
任意後見契約を公正証書で締結する際に必要な主な費用(公証役場への支払い費用)は以下の通りです。
項目 | 目安となる費用 | 概要 |
公正証書作成の基本手数料 | 1万1,000円 | 公証人に契約書を作成してもらうための費用 |
登記嘱託手数料 | 1,400円 | 法務局への登記を公証人が嘱託するための費用 |
法務局に納付する印紙代 | 2,600円 | 登記に必要な収入印紙代 |
合計(概算) | 1万5,000円程度 | その他、書類の正本謄本の作成手数料などが加算される |
また、任意後見開始時に家庭裁判所へ「任意後見監督人選任の申立て」を行う際にも、別途手続きに関する費用として、申立手数料(収入印紙)800円分や登記手数料1,400円分、連絡用郵便切手代(3,000円~5,000円程度)などが必要になります。
継続的にかかる報酬(任意後見人・監督人)
任意後見人および任意後見監督人への報酬は、ご本人の財産から支払われます。これは継続的に発生する費用であるため、ご本人の財産状況と照らし合わせて負担可能かどうかを検討することが大切です。
任意後見人への報酬
任意後見人への報酬額は、契約の段階でご本人と受任者との話し合いにより自由に決定できます。
• 家族や友人が任意後見人となる場合:無報酬(報酬を請求しない)とするケースが多いです。
• 専門家(司法書士・弁護士など)に依頼する場合:月額3万~5万円程度が相場とされています。ただし、管理する財産の内容や事務の複雑さによって変動することがあります。
任意後見監督人への報酬
任意後見制度を利用する場合、任意後見監督人の選任は必須です。任意後見監督人は家庭裁判所が選任し、その報酬額も家庭裁判所が決定します。一般的に、弁護士や司法書士などの専門家が選任されることが多く、その報酬は毎年発生します。
• 管理財産額5,000万円以下:月額1万~2万円が目安
• 管理財産額5,000万円以上:月額2万5,000円~3万円が目安
この任意後見監督人への報酬は、任意後見制度を利用する上での継続的な費用(ランニングコスト)として認識しておく必要があります。
6.信頼できる後見人を選ぶために
任意後見制度は、ご自身の判断能力が低下する将来に備え、「自分らしい生き方」を支えてもらうために極めて有効な制度です。ご自身の意思で任意後見受任者を選べるため、家族、司法書士などの専門家、友人・知人、さらには法人まで、幅広い選択肢の中から、ご自身が最も信頼できる人物を選ぶことが可能です。
最適な後見人を選ぶためには、「信頼性」に加え、「長期的なサポートの継続性」と「後見事務を適切に遂行できる専門知識」を考慮することが重要です。特に、財産管理の複雑性や親族間の懸念がある場合には、司法書士などの専門家に依頼することが、ご本人の利益を確実に守るための賢明な選択肢となるでしょう。
任意後見契約の手続きは、公正証書作成から始まり、ご本人の判断能力低下後に家庭裁判所への申立てを経て効力が発生します。この制度の利用には、初期費用に加え、任意後見監督人への報酬といった継続的な費用が発生することも留意すべき点です。
ご自身の将来の安心のために、任意後見制度のメリット・デメリットを理解し、受任者の候補者と費用や手続きについて十分な話し合いを行い、最善の選択をすることが、ご本人の尊厳と安心を守ることにつながります。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
財産管理委任契約とは?あなたの財産を守るための基礎知識
高齢化社会が進む現代において、ご自身の老後の生活や財産の管理について不安を感じる方は少なくありません。特に、加齢や病気、事故などにより、認知症などで判断能力が低下する可能性や、身体的な不自由により財産管理が困難になる状況への関心が高まっています。
もし判断能力が不十分になった場合には成年後見制度の利用が考えられますが、判断能力はあっても、病気や怪我、あるいは高齢による身体の不調から、金融機関での手続きや公共料金の支払い、介護サービスの手配などが難しくなることがあります。
このような状況で、ご自身の財産や生活に関する事務手続きを、信頼できる人に託すための仕組みが財産管理委任契約です。この契約は、将来の生活の安心を確保するための重要な選択肢の一つです。
1.財産管理委任契約の基礎知識
財産管理委任契約とは
財産管理委任契約(任意代理契約とも呼ばれます)は、ご自身の財産の管理や療養看護に関する事務について、代理権を与える人(受任者)を選び、具体的な管理内容を決めて委任する契約です。これは民法上の委任契約に基づいています。
この契約の大きな特徴は、委任者本人の判断能力があることを前提としている点です。判断能力の低下を前提とする成年後見制度とは異なり、判断能力に問題がなければ誰でも利用でき、契約締結後すぐに効力が発生します。
委任できる内容
財産管理委任契約で委任できる内容は、大きく「財産管理」と「療養看護」の二つに分けられます。委任する内容は、公序良俗の範囲内で当事者間で自由に定めることが可能です。
【財産管理の例】
- 銀行などの金融機関での預貯金の引き出しや振り込み手続き、口座の管理。
- 定期的な収入(年金など)の受け取り、公共料金や賃貸料金、税金などの支払い代行。
- 不動産売買取引の代行(ただし、実際の手続きでは本人確認が優先される点に注意が必要です)。
【療養看護の例】
- 医療機関や介護施設への入所手続き、要介護認定の申請代行。
- 医療費や福祉サービス利用料の支払い代行。
2.あなたの財産を守るための契約のやり方と注意点
財産管理委任契約は、ご自身の生活や財産を任せる非常に重要な契約です。そのやり方や注意点について理解し、慎重に進める必要があります。
信頼できる受任者の選定と契約の「やり方」
契約を始めるには、まず受任者を選定します。多くの場合、親子や兄弟姉妹などのご家族が受任者となりますが、信頼できる専門家(司法書士や弁護士など)に依頼することも可能です。
受任者が決まったら、委任する内容について当事者間で十分に話し合い、財産管理委任契約書を作成します。契約書には、委任者と受任者の氏名・住所、契約目的、委任する財産の具体的な内容、管理方法、報酬の有無などを明確に記載します。
公正証書の活用による信頼性の確保
財産管理委任契約は、当事者間の合意があれば成立し、必ずしも公正証書で作成する必要はありません。しかし、後日のトラブルを避けるために公正証書で作成することが強く推奨されます。
公正証書にすることで、契約内容の存在と有効性が公的に証明され、紛失や改ざんのリスクを防げます。特に銀行での手続きにおいて、公正証書は高い信頼性を発揮し、手続きがスムーズに進む可能性が高まります。
契約上の注意点
1. 金融機関(銀行)の対応の確認: 財産管理委任契約の社会的な認知度がまだ十分でないため、銀行によっては、契約書があっても窓口での預金引き出しなどの代理手続きを認めていない場合があります。契約締結前に、取引のある銀行に代理手続きが可能か確認することが必須です。
2. 監督機関の不在と不正のリスク: この契約は民間契約であるため、任意後見制度のような公的な監督機関が存在しません。そのため、受任者による財産の使い込みや横領のリスクが伴います。このリスクを軽減するために、親子間で契約する場合でも、契約の履行状況を定期的にチェックする第三者の監督人を設けるなど、不正防止策を講じることが重要です。
3. 取消権がない: 法定後見制度と異なり、受任者には取消権がありません。委任者本人が詐欺的な契約を締結してしまった場合でも、受任者がそれを一方的に取り消すことはできないため、注意が必要です。
3.認知症対策としての任意後見契約との連携
財産管理委任契約は本人の判断能力があることが前提であるため、認知症が進行し判断能力が低下した時点で、原則として効力を失います。
将来、認知症などで判断能力が低下した場合に備えて、財産管理委任契約と任意後見契約を同時に締結する「移行型」の利用が一般的です。
このやり方では、元気なうちは財産管理委任契約でサポートを受け、認知症により判断能力が低下した時点で、任意後見契約に移行します。任意後見契約が発効すると、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任され、任意後見人の職務を監督するため、財産管理の安全性が高まります。
任意後見契約は公正証書による作成が法律で義務付けられています。
4.財産管理委任契約にかかる「費用」
財産管理委任契約の「費用」は、受任者を誰にするかによって大きく異なります。
受任者が親子などご家族である場合、通常、報酬は発生しません。
一方で、専門家(司法書士、弁護士など)に受任者となってもらう場合や、契約書作成のサポートを依頼する場合には、費用が必要です。
【専門家に依頼した場合の費用の目安(一般的な相場)】
- 相談料: 1回あたり5,000円程度。
- 契約書作成費: 8万円程度。
- 月額報酬(財産管理業務): 1万〜5万円程度(管理する財産や業務内容により変動)。
【公正証書作成にかかる費用】
契約を公正証書で作成する場合、公証役場に支払う実費として1万5,000円〜2万円程度、また専門家に手続きを依頼する場合は別途報酬が加算されます。
5.ご不明点はご相談ください
財産管理委任契約は利便性が高い一方で、使い方を誤ると大きな損害を生むリスクも指摘されています。特に、受任者による不正防止のために、委任する範囲の検討や、第三者の監督人を置くなどの工夫が重要です。
ご自身の状況に合わせた最適な生前対策を講じ、費用対効果や将来のリスク対応を万全にするためには、専門的な知識が不可欠です。司法書士、弁護士、行政書士といった法律の専門家は、契約内容が適切であるかどうかの助言、契約書の作成サポート、さらには任意後見契約との連携 など、幅広いサポートを提供できます。ご自身の財産と老後の安心を守るため、まずは専門家にご相談いただき、万全の備えを整えることを強くおすすめします。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
認知症が銀行にバレるタイミングと防止策
日本は世界でも有数の長寿国であり、2025年には高齢者の5人に1人が認知症を患うと推計されています。超高齢社会において、「認知症とお金の管理」は避けて通れない大きな課題となっています。
特に、銀行口座の管理は生活の基盤そのものであり、年金の受け取りや生活費の出金、公共料金の支払いなど、日々の生活に直結しています。しかし、本人に認知症の症状が見られるようになると、銀行が「判断能力に問題があるのではないか」と判断し、取引を制限するケースが増えています。
これは一見すると厳しい対応のように思えますが、背景には「高齢者を詐欺から守る」「本人の意思に基づかない不正な取引を防ぐ」という目的があります。その一方で、家族にとっては「生活費が引き出せない」「急な入院費を支払えない」といった深刻なトラブルに直結する可能性があります。
この記事では、認知症が銀行に「バレる」具体的なタイミングと、それを未然に防ぐための方法について詳しく解説していきます。特に、法的に有効な対策(任意代理契約・家族信託・後見制度など)を中心に、一般の方にも分かりやすく整理しています。
1.銀行が認知症に敏感な理由
銀行が認知症に対して厳しく対応するのには、いくつかの理由があります。それは単なる事務的な規制ではなく、金融機関としての社会的責任や法的な義務に基づいたものです。
1. 高齢者の金融被害を防ぐため
近年、高齢者を狙った振り込め詐欺や特殊詐欺の被害が急増しています。警察庁の統計でも、被害者の多くは高齢者層に集中しており、中には認知症の方が詐欺のターゲットにされるケースも少なくありません。
銀行員が窓口で「おかしい」と感じ取って声をかけることで、被害を未然に防いだ事例も数多く報告されています。
そのため、銀行は「少しでも判断能力に不安がある」と感じた顧客に対しては、慎重な確認を行うよう徹底しています。
2. 本人の財産を守るため
認知症が進行すると、本人が不利な契約を結んでしまったり、意図しない取引をしてしまうリスクが高まります。例えば、高額な定期預金の解約や、不要な投資商品の購入などです。
銀行が対応を誤れば、「本人の財産を守らなかった」と責任を問われる可能性もあるため、本人の意思を確認できない場合には取引を止めることがあります。
3. 金融機関としてのコンプライアンス(法令遵守)
銀行は金融商品取引法や消費者保護法の観点から、顧客に適切な対応を行う義務があります。特に、判断能力が低下した顧客と結んだ契約は無効となる可能性があり、後に法的トラブルへ発展することがあります。
こうしたリスクを避けるため、銀行は「疑わしき場合は対応を保留する」ことを原則としています。
4. 行内マニュアルの徹底
大手銀行をはじめ、多くの金融機関には「認知症が疑われる場合の対応マニュアル」が存在します。
たとえば以下のような対応が一般的です:
- 高額出金の際は必ず複数の行員で確認
- 同じ質問を繰り返す顧客については支店長に報告
- 本人確認が取れない場合は家族や後見人に連絡
このように、組織全体として「認知症リスク」を管理しているのです。
銀行が認知症に敏感なのは、「本人を守るため」かつ「金融機関としての責任」という二重の理由からです。
ただし、こうした仕組みがかえって家族にとって「口座が使えない」という不便につながることもあるため、事前の対策が重要になります。
2.銀行に認知症がバレるタイミング
認知症の症状が進むと、日常生活だけでなく金融取引の場面でも「違和感」として現れることがあります。銀行においては、わずかな変化からでも認知症が疑われ、しかるべき対応が取られることがあります。では、具体的にどのような場面で「銀行に認知症がバレる」のでしょうか。
1. 窓口での会話や応対から疑われるケース
銀行員は日常的に多くの顧客と接しているため、わずかな変化にも敏感です。
- 同じ質問を何度も繰り返す
- 取引内容を理解できない様子が見られる
- 必要な書類を何度も忘れる
こうした行動が重なると、「認知症の可能性がある」と判断され、行内に記録が残ることがあります。
2. 高額な出金や振込を希望したとき
特殊詐欺防止の観点から、銀行は高額取引に特に慎重です。
- これまでの取引と明らかに異なる大きな金額を引き出そうとする
- 説明があいまいなまま高額振込を依頼する
こうした場面では、銀行員が「本当に本人の意思か?」を確認しようと質問します。そこで不自然な受け答えをすると、認知症を疑われることになります。
3. 書類や署名の不備
契約書や払戻請求書などの記入において、次のようなケースは要注意です。
- 字が大きく乱れている
- 署名が以前と異なる
- 記載内容を理解していない様子
銀行は「判断能力に疑義がある」と判断すると、取引を中止することがあります。
4. 家族や第三者からの情報提供
場合によっては、家族や介護施設から銀行に「本人は認知症の症状がある」と連絡が入ることもあります。また、地域包括支援センターやケアマネジャーから情報提供が行われることもあり、その後の取引が制限されるきっかけとなります。
銀行に認知症が「バレる」きっかけは、日常の窓口応対・高額取引・書類の不備・第三者からの情報といった身近な場面に潜んでいます。これらの兆候を銀行が確認すると、本人や家族にとって予期せぬ口座制限や手続き遅延につながる可能性があります。
3.認知症が銀行にバレるとどうなるか?
銀行に「認知症の疑いがある」と判断されると、その後の取引に大きな影響が出ることがあります。金融機関としては、本人を守る責任があるため、場合によっては厳しい制限がかかることもあります。ここでは、実際に起こり得る対応を整理します。
1. 口座の利用制限・凍結
認知症が疑われた場合、銀行は取引を一時停止したり、一定の手続を保留したりすることがあります。特に以下のようなケースでは「口座凍結」と同様の扱いになる可能性があります。
- 高額出金を希望した場合
- 定期預金の解約や投資商品の解約を申し出た場合
- 署名や本人確認が不十分と判断された場合
これにより、生活費や医療費をすぐに引き出せない状況になることもあります。
2. 家族や代理人の確認を求められる
銀行員が認知症の疑いを感じると、家族に連絡が入ることがあります。場合によっては「代理人を立ててください」「成年後見人が必要です」と案内されることもあります。
つまり、家族や専門家の関与が必須になる段階に入るということです。
3. 成年後見制度の利用を求められる
特に財産管理や契約行為に関する取引では、「後見人がいなければ対応できない」と銀行が判断することがあります。この場合、家庭裁判所に成年後見制度の申立てを行い、後見人を選任してもらう必要があります。
成年後見制度は本人の財産を守るために有効ですが、手続きが複雑で時間もかかるため、突然必要になると家族が大きな負担を抱えることになります。
4. その他の影響
- 金融機関内部で「要注意顧客」として情報共有されることがある
- 他の金融機関や証券会社でも取引が制限される可能性がある
- 新しい契約(不動産の売買や信託契約など)が進められなくなる
認知症が銀行にバレると、生活資金の引き出しや契約行為がスムーズにできなくなるリスクがあります。本人を守るための制度である一方、家族にとっては突然の制限に戸惑うケースが多く見られます。だからこそ、事前の備えが欠かせません。
4.認知症による銀行トラブルを防ぐ方法
認知症が銀行にバレてから対応しようとすると、すでに口座が利用制限されていたり、成年後見制度を申し立てる必要が生じたりと、大きな負担になります。そこで重要なのは、「元気なうちから備えておくこと」 です。ここでは実際に有効とされる主な方法を紹介します。
1. 家族信託の活用
近年注目されているのが「家族信託」です。財産を信頼できる家族に託すことで、認知症になっても預金や不動産の管理を続けられます。
- 銀行口座の凍結を防げる
- 遺産承継の仕組みも同時に整えられる
- 柔軟に運用できる
ただし契約書の内容によっては使いづらくなることもあるため、専門家による設計が重要です。
2. 任意後見契約を結んでおく
「将来の備え」として有効なのが任意後見契約です。
- 本人が元気なうちに「任意後見人」を選任しておく
- 判断能力が低下したときに契約が発効し、後見人が財産管理を行う
銀行取引だけでなく、不動産契約や介護契約にも対応できる点がメリットです。
3. 成年後見制度を利用する
すでに認知症が進んでいる場合は、家庭裁判所に申し立てを行い、成年後見人を選任してもらう方法が現実的です。
- 法律に基づいて後見人が代理するため、銀行も安心して手続きに応じる
- 裁判所が監督するため、財産の不正利用リスクが低い
ただし、手続きが煩雑で費用もかかり、制度の柔軟性は低いです。
4. 早めの財産・デジタル資産の整理
銀行トラブルを避けるには、日常的な準備も欠かせません。
- 不要な口座は解約して集約しておく
- 通帳や印鑑を一か所にまとめておく
- ネット銀行や証券口座のパスワードを整理しておく
- 定期的に家族に資産状況を共有しておく
これらを行っておくことで、認知症になったときの混乱を大幅に減らせます。
銀行に認知症がバレてから対応するのではなく、早めの契約・制度利用・資産整理が最大の防止策です。特に「家族信託」や「任意後見契約」は将来を見据えた柔軟な対策として有効です。
5.トラブルになる前に早めのご相談を
認知症が銀行に「バレる」タイミングは、日常の窓口での会話や高額出金の申し出、書類の不備、さらには家族や第三者からの情報提供など、思いのほか身近な場面に潜んでいます。銀行が厳しく対応する背景には、顧客の財産を守るという正当な理由がありますが、実際には生活資金が引き出せなくなる、相続や契約手続きが滞るといった家族への大きな負担につながるケースも少なくありません。
こうしたトラブルを未然に防ぐためには、家族信託、任意後見契約といった法的手段を活用し、元気なうちから準備を整えておくことが不可欠です。また、口座の集約やデジタル資産の整理といった日常的な対策も欠かせません。
認知症と銀行口座の問題は、決して他人事ではありません。ご自身やご家族の将来を見据えて、今からできる備えを始めてみませんか。
高野司法書士事務所では、横浜市青葉区を中心に、緑区・都筑区・町田市など近隣地域の皆さまから、相続や家族信託、後見制度に関するご相談を数多くいただいております。認知症による銀行トラブルを防ぎたい方、早めに安心できる仕組みを整えたい方は、ぜひ一度ご相談ください。お一人おひとりの状況に合わせた最適な対策をご提案いたします。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
任意後見制度のデメリットと後悔しないための対策
超高齢社会を迎えた日本において、認知症などにより判断能力が低下した際の財産管理や身上監護を事前に準備しておく任意後見制度の重要性が高まっています。この制度は、将来の判断能力低下に備えて、元気なうちに信頼できる人を任意後見受任者として選び、公正証書で契約を結んでおく制度です。
しかし、任意後見制度にはメリットがある一方で、デメリットやトラブルも存在します。制度を正しく理解し、後悔のない選択をするためには、これらのデメリットやトラブル事例を事前に把握しておくことが重要です。
本記事では、任意後見制度のデメリットと実際に発生しているトラブル事例について詳しく解説し、適切な対策についてもご紹介します。
1.任意後見制度の基本的な仕組み
任意後見制度は、将来の判断能力低下に備え、ご自身の意思で信頼できる人を任意後見人として指定し、財産管理や生活支援について事前に契約を結んでおく制度です。この契約は公正証書で作成することが義務付けられており、法務局に登記されます。契約の効力は、本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時点で初めて発生します。
任意後見人は、契約で定められた範囲内で本人の財産管理や身上監護(介護サービスの契約や医療の契約など)を行います。
2.任意後見制度の主なデメリット
任意後見制度には、以下のような複数のデメリットが存在します。これらを理解しておくことが、制度を有効に活用し、将来的な後悔を避けるために不可欠です。
1. 本人が行った契約の取消権がない
任意後見制度の最も大きなデメリットの一つが、任意後見人には取消権がないことです。
法定後見制度では、後見人等に取消権が付与されており、本人が行った不利益な契約等を取り消すことができます。しかし、任意後見人にはこの権限がありません。
これにより、以下のような問題が生じる可能性があります:
- 本人の判断能力が低下していても、形式的に有効な契約として扱われてしまう
- 悪質な業者による高額商品の押し売りがあっても、契約後は取り消せない
- 詐欺的な投資話に騙されて契約してしまった場合の救済が困難
2. 開始時期の判断が困難
任意後見は、本人の判断能力が低下してから家庭裁判所に申し立てを行い、任意後見監督人が選任されることで開始されます。しかし、この「判断能力の低下」の判断が非常に困難な場合があります。
認知症の進行は段階的であり、「まだ大丈夫」「もう少し様子を見よう」と先延ばしにしているうちに、本人の判断能力がさらに低下してしまうケースがあります。逆に、早すぎる開始は本人の自己決定権を過度に制限することになりかねません。
3. 報酬の負担
任意後見が開始されると、任意後見人への報酬に加えて、任意後見監督人への報酬も発生します。この二重の報酬負担は、本人の経済状況によっては重い負担となる場合があります。
任意後見監督人の報酬は家庭裁判所が決定しますが、一般的に月額1万円から3万円程度とされています。任意後見人の報酬も契約で定めていた場合は、さらに負担が増えることになります。
4. 契約内容の変更が困難
公正証書で作成された任意後見契約の内容を変更するには、原則として新たな公正証書の作成が必要です。しかし、本人の判断能力が低下した後では、契約内容の変更は事実上不可能になります。後から契約に不足する項目に気づいたとしても、本人の判断能力が既に低下している場合、新たに任意後見契約を締結したり、契約内容を変更したりすることは困難です。
これにより、以下のような問題が生じる可能性があります:
- 報酬額の見直しができない
- 当初想定していなかった事態に柔軟に対応できない
- 任意後見受任者の事情が変わっても、変更が困難
5. 認知症発症後は契約できない
任意後見契約を締結するには、契約者がその内容を理解し、自らの意思で合意できるだけの判断能力が必要とされます。認知症が進行し、意思能力が著しく低下してしまった場合、公正証書の作成時に公証人による意思確認で明確な意思表示が確認できなければ、契約の締結はほぼ不可能となり、制度の利用は認められません. この場合、法定後見制度の利用を検討することになります。
6. 発効した後の解約が難しい
任意後見制度は、一度任意後見監督人が選任され効力が発生すると、その終了が非常に厳しく制限されます。制度を終了するには、家庭裁判所の許可が必要であり、「正当な理由」が求められます。例えば、任意後見人が健康上の問題で任務を継続できなくなった場合などが正当な理由として考えられます. このように、一度始まった任意後見人の職務と任意後見監督人による監督は、原則として本人が亡くなるまで続くため、途中で関係が悪化した場合などに後悔する可能性があります。
3.トラブル事例に学ぶ
事例1:任意後見受任者の背任行為
概要 長年信頼していた友人を任意後見受任者として契約を締結していた70代女性のケース。判断能力の低下により任意後見が開始された後、任意後見人となった友人が本人の預金を私的に流用していることが発覚しました。
問題点
- 任意後見監督人による監督が不十分だった
- 本人の親族が遠方に住んでおり、状況把握が遅れた
- 財産管理について具体的な制限を設けていなかった
教訓 任意後見受任者の選定は慎重に行い、監督体制についても十分に検討する必要があります。また、定期的な財産状況の報告体制を整備することが重要です。
事例2:家族間の対立
概要 80代男性が長男を任意後見受任者として契約を締結。後に任意後見が開始されたところ、他の兄弟から「長男だけが優遇されている」との不満が出て、家族間で深刻な対立が発生したケース。
問題点
- 契約締結時に家族全体での話し合いが不十分だった
- 他の相続人への説明と理解が得られていなかった
- 任意後見受任者の権限範囲が曖昧だった
教訓 任意後見契約の締結にあたっては、家族全体での十分な話し合いと合意形成が必要です。また、契約内容について関係者全員が正しく理解することが重要です。
事例3:取消権がないことによる被害
概要 認知症の初期段階にある75歳女性が、訪問販売で高額な健康食品を購入する契約を締結。その後、任意後見契約に基づき任意後見が開始されたが、任意後見人には民法上の「取消権」が認められていないため、既に締結されていた不当な契約を取り消すことができなかったケース。
問題点
- 任意後見開始のタイミングが遅く、契約締結後になってしまった
- 任意後見人には取消権がなく、契約の取消しは家庭裁判所で法定後見(保佐・後見)に切り替えない限り困難であることへの理解不足
- 本人を守るための見守り・日常的な支援体制が不十分だった
教訓 任意後見制度は本人の希望を尊重できる一方で、取消権がないという限界があることを理解しておく必要があります。判断能力の低下が見え始めたら早めに任意後見を発効させること、必要に応じて法定後見への移行も検討すること、また地域や家族による見守り体制を充実させることが重要です。
事例4:報酬をめぐるトラブル
概要 親族を任意後見受任者として無償の契約を締結していたケース。任意後見開始後、受任者から「思った以上に負担が重い」として報酬の請求がなされ、家族間でトラブルとなった事例。
問題点
- 任意後見人の業務内容について十分な検討がなされていなかった
- 報酬について事前の取り決めが曖昧だった
- 業務の負担について現実的な見積もりができていなかった
教訓 たとえ親族間であっても、報酬については明確に取り決めておくことが重要です。また、任意後見人の業務内容と負担について現実的に検討することが必要です。
4.トラブルを避けるための対策
1. 慎重な任意後見受任者の選定
任意後見受任者の選定は、制度の成功を左右する最も重要な要素です。以下の点を考慮して選定することが重要です:
- 信頼関係:長期間にわたって信頼できる人物であること
- 能力:財産管理や身上監護に必要な能力を有していること
- 継続性:長期間にわたって職務を継続できること
- 利害関係:本人と利害が対立する可能性が低いこと
2. 複数の任意後見受任者の検討
一人の任意後見受任者に全てを委ねるのではなく、以下のような方法も検討しましょう:
- 複数人による共同受任
- 専門家と親族の組み合わせ
3. 契約内容の詳細な検討
公正証書作成前に、以下の点について詳細に検討し、明確に定めておくことが重要です:
- 任意後見人の権限の範囲
- 報酬の有無と金額
- 財産管理の方法
- 身上監護の内容
- 定期報告の方法
4. 家族全体での合意形成
任意後見契約は本人の意思により締結するものですが、将来的なトラブルを避けるためには、家族全体での理解と合意を得ておくことが重要です。
5. 専門家の活用
司法書士や弁護士などの専門家に相談し、以下の支援を受けることを検討しましょう:
- 制度の詳細な説明
- 契約内容の検討
- 公正証書作成の支援
6. 定期的な見直し
任意後見契約締結後も、定期的に以下の点を見直すことが重要です:
- 財産状況の変化
- 任意後見受任者の状況
- 本人の健康状態
- 家族関係の変化
5.任意後見制度と他制度の併用による対策
任意後見制度のデメリットを補い、より包括的な対策を講じるためには、他の制度との併用を検討することが有効です。
1. 家族信託との併用
家族信託は、本人の判断能力が低下する前に信託契約を結び、信頼できる家族に特定の財産管理を任せる仕組みです. 家族信託は財産管理の迅速性と柔軟性に優れており、任意後見制度では難しいとされる積極的な資産運用や、家庭裁判所の許可なしでの不動産売却も可能な場合があります.。また、任意後見監督人のような公的な監督が原則として不要であるため、月々のランニングコストを抑えられるというメリットもあります。
しかし、家族信託はあくまで財産管理が目的であり、本人の生活や介護サービスのアレンジといった身上監護の機能は持っていません.。そこで、身上監護に強みを持つ任意後見制度と、財産管理の柔軟性に優れる家族信託を併用することで、両者のメリットを活かした万全な体制を築くことが可能です。
2. 財産管理委任契約・見守り契約
任意後見契約は、公正証書作成後も本人の判断能力が低下し、任意後見監督人が選任されるまでは効力が生じません。この「空白期間」の支援をカバーするために、「財産管理委任契約(任意代理契約)」や「見守り契約」を同時に締結することが有効です.
• 財産管理委任契約: 判断能力があるうちから、財産管理や身上監護に関する事務手続きを特定の人物に委任する契約です.
• 見守り契約: 任意後見契約締結後から効力発生までの間、定期的な訪問や電話で本人とコミュニケーションを取り、判断能力の変化に気づきやすくするための契約です.
3. 死後事務委任契約
任意後見制度は本人の死亡と同時に終了するため、葬儀や埋葬、遺品整理といった死後の事務処理は任意後見人の職務範囲外です. これを補完するためには、「死後事務委任契約」を別途締結しておくことが必要です.。これにより、ご自身の意思に沿った形で死後の事務を信頼できる人に託すことができます。
6.専門家へご相談ください
任意後見制度は、ご自身の意思を尊重し、将来の不安に備えるための強力な選択肢です。公正証書による契約と登記を通じて、任意後見受任者をご自身で指名し、支援内容を自由に設計できるという大きなメリットがあります。
しかし、取消権がないこと、任意後見監督人への報酬を含む費用負担、そして一度開始すると解約が難しいことなど、多くのデメリットも存在します。これらのデメリットを理解せず制度を利用すると、将来的なトラブルや後悔に繋がる可能性があります。
最適な対策は、ご自身の状況や希望を十分に考慮し、任意後見制度の持つ強みと弱みを理解した上で、必要に応じて家族信託や「見守り契約」「財産管理委任契約」「死後事務委任契約」といった他の制度を組み合わせることです。
ご自身にとってどのような対策が最も適しているか、また具体的な手続きや契約内容について不明な点があれば、専門家への相談を検討することをお勧めします.。専門家は、ご家族の状況に応じた最適なプランを提案し、将来の安心をサポートしてくれるでしょう。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
登記されていないことの証明書とは?
「登記されていないことの証明書」という言葉を耳にしたことがある方は、おそらくそれほど多くはないでしょう。多くの方にとっては馴染みのない書類かもしれません。しかし、この証明書は、特定の場面で非常に重要な役割を果たすため、その内容や取得方法について理解しておくことが大切です。
ここでは、一般的にはあまり知られていない「登記されていないことの証明書」の概要から、取得方法、必要な書類、そして請求時の注意点まで、詳しく解説していきます。
1.登記されていないことの証明書の概要
「登記されていないことの証明書」は、その名称から不動産登記や商業登記に関連するものと誤解されがちですが、実際には成年後見登記に関する証明書です。具体的には、対象となる方が成年被後見人、被保佐人、被補助人、または任意後見契約の本人として、法務局の後見登記等ファイルに記録されていないことを証明する書類です。
成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分になった方を法的に保護し、支援するための制度です。この制度が適用されると、成年後見人などが選任され、その権限内容や任意後見契約の内容は、東京法務局後見登録課の「後見登記等ファイル」に登記され、公示されます。
この証明書が必要とされる主な理由は、後見登記等ファイルに記録されている場合、日常生活や営業活動に必要な意思能力が十分でないと見なされるため、一定の資格登録や事業・営業を行うための許認可申請が認められないことがあるからです。そのため、自身がこれらの欠格事由に該当しないことを証明するために、「登記されていないことの証明書」の提出が求められます。
また、この証明書は、成年後見等開始の申立てを行う際にも必須となります。これは、すでに後見登記等ファイルに登記されているにもかかわらず、重ねて同様の審判がされることを防ぐためです。近年では、高齢化の進展に伴い、遺産分割協議の際の判断能力の確認資料として、あるいは財産管理の場面で必要となるケースも増えています。
類似の証明書との違い
「登記されていないことの証明書」と似た書類に「(成年後見)登記事項証明書」や「市区町村発行の身分証明書」がありますが、それぞれ目的が異なります。
• (成年後見)登記事項証明書:後見登記等ファイルに記録された事項、つまり成年後見人等の選任事実や権限内容を証明するものです。主に成年後見人等が自身の権限を証明する際に利用されます。
• 市区町村発行の身分証明書:これは、現在の成年後見制度が開始される前の「禁治産・準禁治産制度」(平成12年3月31日以前)における「登記されていないことの証明書」のようなものです。禁治産者や準禁治産者であったことは戸籍に記載されていたため、その期間の証明が必要な場合に取得します。また、破産者でないことの証明も含まれるため、後見人候補者が破産者でないことの証明や、特定の資格登録・許認可申請において提出を求められる場合があります。
現在の制度(平成12年4月1日以降)についての証明は「登記されていないことの証明書」で、それ以前の期間については「身分証明書」で証明することになります。
2.登記されていないことの証明書の請求方法
この証明書は、主に窓口での申請と郵送での申請の2通りで請求が可能です。
請求できる人
請求できる人は以下の通りです。
- 証明の対象者本人
- 対象者の配偶者
- 対象者の四親等内の親族
- 上記の方から委任を受けた代理人
申請先
申請先は、窓口申請か郵送申請かによって異なります。
• 窓口での申請: 東京法務局後見登録課のほか全国にある法務局・地方法務局の「本局」に設置された戸籍課で受け付けています。なお、支局や出張所では取り扱っていない点に注意が必要です。例えば、神奈川県内の法務局では、横浜地方法務局(本局)でのみ窓口請求が可能です。(他の〇〇支局や〇〇出張所などの法務局では取得できません)。窓口申請であれば、書類が整っていればその場で処理が進み、概ね10~20分ほどで交付されるケースが一般的です。
• 郵送での申請: 郵送での申請の請求先は、東京法務局後見登録課のみです。他の法務局に郵送で請求しても受理されませんのでご注意ください。 郵送先は以下の通りです。 〒102-8225(または〒102-8226) 東京都千代田区九段南1丁目1番15号 九段第2合同庁舎 東京法務局 民事行政部 後見登録課 郵送の場合、郵便が到着してから証明書が送付されるまでおおむね1週間程度かかりますが、混雑状況によっては2週間以上かかることもありますので、時間に余裕を持って申請しましょう。
• オンライン申請: オンラインでの請求も可能とされていますが、電子署名や特定の電子証明書が必要となり、手間や時間がかかるため、一般の方にはあまり推奨されません。特に、親族が申請する場合、戸籍謄本の電子化が進んでいないため、事実上オンライン申請はできません。
請求に必要な書類
請求する人によって必要書類が異なります。
• 本人または親族による請求の場合:
- 申請書:法務局のホームページからダウンロードできるほか、窓口でも入手可能です。記載例も参考にし、証明を受ける方の氏名や住所、本籍は戸籍や住民票の通りに、点画をはっきりとした楷書で正確に記入しましょう。
- 請求者の本人確認書類:運転免許証、健康保険証、パスポート、マイナンバーカードなど。郵送申請の場合はコピーを同封します。
- 証明の対象者との関係を証明する戸籍謄本等(配偶者や親族による請求の場合のみ):配偶者や四親等内の親族であることを証明するため、戸籍謄抄本や住民票などの提出が必要です。
有効期限:提出時点で発行から3か月以内のものが求められます。ただし、除籍謄抄本や改製原戸籍謄抄本が必要な場合は、発行後3か月以内のものでなくても問題ありません。
原本還付:提出した戸籍謄本などの原本は、申請と同時に原本還付の手続きを行えば返却してもらうことが可能です。これにより、後に成年後見等の申立てで再度必要になる際に利用できます。
• 委任を受けた代理人による請求の場合:
- 申請書:本人や親族による請求の場合と同様です.
- 代理人の本人確認書類:郵送の場合はコピーを同封します。
- 証明の対象者との関係を証明する戸籍謄本等(配偶者や親族から委任された代理人の場合のみ):本人と委任者(請求者)の関係を証明する戸籍謄抄本が必要です。こちらも原本還付が可能です。
- 委任状:本人または親族等から委任を受けたことを証明するために必要です。委任状は手書きで作成でき、法務局のホームページに書式や記載例が公開されています。
- 返送用封筒:郵送申請の場合、返送先を明記し、切手を貼付した返信用封筒を忘れずに同封します。レターパックなど記録される郵便を利用するとより安心です。
委任状には押印が不要です。
法人が代理人となる場合は、代表者資格証明書(発行から3か月以内)が必要ですが、申請書に会社法人等番号を記載することで提出を省略できます。
なお、委任状は証明書のためだけに作成される書類であるため、原本還付はできません。
請求にかかる費用
• 発行手数料:証明書1通につき300円です。この手数料は、申請用紙の所定の場所に収入印紙を貼り付けて納めます。収入印紙は郵便局や法務局などで購入できます。コンビニでは200円印紙のみの取り扱いが多いですが、複数枚貼り付けて合計300円にすることも可能です。
• その他、親族等による請求の場合には戸籍謄本等の発行手数料(1通につき450円)や、郵送による請求の場合には往復の郵便料金(切手代)が別途必要になります。
請求の際の注意点
「登記されていないことの証明書」を請求する際には、いくつかの注意点があります。
• 戸籍謄本等の有効期限:本人以外の親族が請求する場合に添付する戸籍謄本等は、提出時点で発行から3か月以内のものでなければなりません(ただし、除籍謄抄本や改製原戸籍謄抄本は期限がありません)。期限切れのものを提出すると再提出となり、手続きに余計な時間がかかるため、発行日を必ず確認しましょう。
• 添付書類の原本還付処理:戸籍謄本等の原本提出が必要な場合、原則として提出された書類は返却されませんが、請求と同時に原本還付の手続きを行えば返却してもらえます。原本還付を希望する場合は、返却してもらいたい書類のコピーを取り、「この写しは原本と相違ありません」と記載し、請求者の氏名を署名(または記名)し、必要に応じて押印(認印可)の上、各ページに契印(複数枚にわたる場合)をして原本と一緒に提出します。
• 申請書の証明事項欄のチェック間違い:申請書には証明事項をチェックする欄が4つほど並んでいます。成年後見等の申立てを行う場合は、必ず「成年被後見人,被保佐人,被補助人,任意後見契約の本人とする記録がない。」の箇所(上から3番目のチェックボックス)にチェックを入れてください。これは、任意後見契約がある場合、原則として任意後見が優先されるため、その有無についても証明する必要があるからです。
• 証明書の有効期限とその後の手続き:取得した証明書自体に有効期限の記載はありませんが、提出先によっては「発行から3か月以内」など、一定期間内に発行されたものを求められる場合があります。そのため、証明書を取得したら、その後の成年後見開始申立てなどの手続きを早めに進めることをお勧めします.
3.専門家へのご相談をおすすめします
「登記されていないことの証明書」の請求・取得手続き自体は、この記事を参考にすればご自身でも十分可能ですが、その後の成年後見申立てなどの手続きは、多くの方にとって複雑で時間のかかるものです。特に、書類の不備があったり、郵送でのやり取りで時間がかかったりすると、必要な手続きが滞ってしまう可能性があります.
ご自身で申立てを行うのが難しいと感じる方、あるいは迅速な手続きが必要でご自身では時間を取れない方は、証明書の取得も含めて、司法書士などの専門家にご相談されることをおすすめします。専門家は、煩雑な書類作成や手続きの代理をサポートし、皆様の負担を軽減することができます。
ご不明な点やご不安な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
成年後見制度の解説:大切なご家族の未来を守るために
超高齢化社会が進む現代において、ご家族が認知症や精神上の障がいなどにより判断能力が低下し、ご自身での財産管理や契約、医療・介護に関する意思決定が困難になるケースが増えています。このような状況に直面した際、ご本人の権利や財産を守り、安心して生活を送るための法的な支援が必要となります。そこで重要な役割を果たすのが「成年後見制度」です。
相続手続きにおいても、被相続人(亡くなった方)が認知症を患っていた場合や、相続人の中に判断能力が不十分な方がいる場合など、特別な対応が必要となることがあります。このような状況では、遺産分割協議を進めること自体が困難になったり、銀行預貯金の解約や不動産の名義変更(相続登記)などの手続きが滞る原因となります。
成年後見制度は、判断能力が不十分な方を法的に保護し、支援するための仕組みであり、ご本人の生活と財産を守る上で不可欠な制度です。
1.成年後見制度の目的
成年後見制度の最も重要な目的は、判断能力が不十分な方の権利と財産を法的に保護し、その生活を支援することにあります。具体的には、以下のような支援を行います。
財産管理:預貯金や不動産、株式などの財産を適切に管理し、ご本人の生活費や医療費、介護費用などに充当します。ご本人が不利益な契約を結んでしまわないよう保護する役割も担います。
身上保護:医療・介護サービスに関する契約の締結や、施設への入所契約、日常的な買い物など、ご本人の生活に関わる様々な法律行為を行います。ただし、医療行為への同意や、事実上の介護行為などは身上保護の範囲外となります。
この制度により、判断能力が低下したご本人が不当な契約の被害に遭ったり、財産を失ったりするリスクから守られます。
2.成年後見制度の種類:法定後見制度と任意後見制度の違い
法定後見制度(後見・保佐・補助)
法定後見制度は、既に判断能力が不十分な状態にある方のために利用される制度です。ご本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。
後見:判断能力がほとんどない方に適用されます。家庭裁判所が「成年後見人」を選任し、成年後見人はご本人の財産管理や法律行為をすべて代理し、ご本人が行った不適切な法律行為を取り消すことができます。
保佐:判断能力が著しく不十分な方に適用されます。家庭裁判所が「保佐人」を選任し、保佐人は重要な法律行為について同意権や取消権を持ち、特定の法律行為について代理権を持つこともあります。
補助:判断能力が不十分な方に適用されます。家庭裁判所が「補助人」を選任し、補助人は特定の法律行為について同意権や代理権を持つことがあります。
この制度は、ご本人やその親族などの申立てに基づいて家庭裁判所が審判を行い、後見人等を選任します。家庭裁判所がご本人の状況や親族関係などを考慮し、最も適任と思われる人物を後見人等として選びます。
任意後見制度
任意後見制度は、ご本人がまだ十分な判断能力を持っているうちに、将来、判断能力が低下した場合に備えて準備する制度です。ご自身で信頼できる人(任意後見人)を選び、どのような支援をしてほしいか、どのような財産管理をしてほしいかなどを事前に契約(任意後見契約)で定めておきます。
特徴:ご本人の意思が最大限に尊重される点が大きな特徴です。将来の不安を解消し、ご自身の希望通りの支援を受けられるようにするための「生前対策」として非常に有効です。
手続き:任意後見契約は公正証書で作成することが義務付けられています。これにより、契約内容の信頼性が担保されます。ご本人の判断能力が低下した際に、任意後見契約の効力が発生し、任意後見人が支援を開始します。
当事務所のような司法書士事務所では、「任意後見契約公正証書の作成方法」に関するご相談やサポートも提供しており、生前対策として重要な選択肢となります。
法定後見と任意後見の比較 | 法定後見制度 | 任意後見制度 |
利用開始時期 | 判断能力が不十分になった後 | 判断能力があるうちに契約、能力低下後に開始 |
後見人の選任 | 家庭裁判所が選任 | 本人が自由に選任 |
柔軟性 | 家庭裁判所の監督下で運用 | 比較的本人の希望を反映しやすい |
申立て・契約の主体 | 本人・配偶者・親族・市区町村長など | 本人のみ |
監督体制 | 家庭裁判所が監督 | 任意後見監督人が監督(家庭裁判所が選任) |
3.成年後見制度のメリット・デメリット
成年後見制度には、ご本人とご家族にとって多くのメリットがある一方で、いくつかの考慮すべき点もあります。
【メリット】
ご本人の財産が守られる:成年後見人が選任されることで、判断能力が不十分なご本人の財産が適切に管理され、詐欺や悪質な商取引などから保護されます。
医療・介護契約などがスムーズに行える:ご本人が自分で契約を結べない場合でも、成年後見人が代理して必要な医療・介護サービスに関する契約を締結できるため、適切なケアを受けられるようになります。
家族間のトラブル回避:特に法定後見制度の場合、家庭裁判所が後見人を選任し、その職務を監督するため、親族間で財産管理を巡る争いが発生するリスクを軽減できます。また、認知症の相続人がいる場合の遺産分割協議や銀行手続きも、後見人が代理することで法的に有効に進めることが可能になります。
計画的な生前対策:任意後見制度を利用すれば、ご本人が元気なうちに将来の不安を解消し、ご自身の希望に沿った形で財産管理や生活支援の準備を進めることができます。
【デメリット・考慮すべき点】
手続きの複雑さと費用:成年後見制度の利用には、家庭裁判所への申立てや必要書類の準備など、複雑な手続きが伴います。また、専門家を後見人として選任した場合や申立てを依頼した場合、費用が発生します。
家庭裁判所の監督:法定後見制度の場合、選任された後見人は定期的に家庭裁判所へ業務報告を行う義務があり、柔軟性に欠けると感じる場合もあります。
選任の柔軟性の制約:法定後見では、必ずしも申立てた希望通りの人物が後見人に選任されるとは限りません。家庭裁判所がご本人の利益を最優先して判断します。
財産の自由な運用が制限される:成年後見制度は「本人の財産を保護する」ための制度であるため、リスクのある投資や相続税対策のための贈与、不動産売却などを柔軟に行うことは困難です。後見人には本人の利益を守る義務があり、保守的な管理が求められます。
専門家によるサポートの必要性:制度の利用にあたっては、法的な知識が求められることが多く、ご自身だけで手続きを進めるには大きな負担が伴う可能性があります。複雑な手続きのため、専門家のアドバイスとサポートがあると安心です。
4.相続手続きにおける成年後見制度の役割
相続が発生した際、相続人の中に認知症などで判断能力が不十分な方がいると、遺産分割協議や各種手続きが通常の方法では進められなくなります。このようなケースにおいて、成年後見制度は重要な役割を果たします。
【遺産分割協議への対応】
相続手続きを進めるには、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、合意を得る必要があります。しかし、判断能力が不十分な相続人がいる場合、そのまま協議に参加させることはできません。この場合、成年後見人がその相続人の代理人として協議に参加し、意思決定を行うことができます。
成年後見人は、ご本人にとって不利益とならないよう、適切に協議を進める責任を負っています。
【銀行預金の解約・払い戻し】
被相続人の死亡により銀行口座が凍結された場合、相続人全員の合意がなければ預金の解約や払い戻しを受けることはできません。相続人の中に判断能力が不十分な方が含まれている場合、その方が単独で手続きを行うことはできません。
このような場合も、成年後見人が代理人として手続きを行うことにより、他の相続人と協力して必要な相続手続きを進めることが可能になります。
【不動産の名義変更(相続登記)】
相続によって取得した不動産については、名義変更の登記(相続登記)を行う必要があります。
しかし、相続人の一人が認知症などで登記申請に必要な書類に署名・押印できない場合、そのままでは登記手続きを進めることができません。このような場面でも、成年後見人が後見人として必要書類に署名・押印し、登記申請を行うことで、円滑な手続きが可能となります。
【注意点】
成年後見人が代理で遺産分割協議や相続手続きを行う場合、家庭裁判所への相談や許可が必要となることがあります。特に、特定の相続人に有利または不利となるような分割内容については、後見人の判断のみでは決定できないことがあります。
また、被後見人の利益を最優先に考える必要があるため、後見人自身も相続人であり利害関係がある場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を求めることもあります。
このように、成年後見制度は、判断能力が不十分な相続人の権利を守りつつ、相続手続きを円滑に進めるための重要な法的枠組みです。
5.さいごに
成年後見制度は、ご本人やご家族の生活と財産を守るための大切な制度です。しかし、制度の種類や手続きの内容は複雑で、どのようなケースでどの制度を選べばよいのか判断に迷う方も少なくありません。また、申立てや必要書類の準備などに時間と労力がかかるため、ご自身だけで対応しようとすると大きな負担となる場合があります。
当事務所では、成年後見制度に関するご相談を多数お受けしています。ご家族の状況やご希望を丁寧に伺いながら、最適な制度のご提案から申立て手続きまで一貫してサポートいたします。
「手続きが難しそうで不安」「後見制度について詳しく知りたい」「認知症対策として備えておきたい」など、どのようなお悩みでもお気軽にご相談ください。司法書士が分かりやすく丁寧にご説明し、安心して制度を利用できるよう全力でサポートいたします。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。