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成年後見制度の解説:大切なご家族の未来を守るために

2025-07-07

超高齢化社会が進む現代において、ご家族が認知症や精神上の障がいなどにより判断能力が低下し、ご自身での財産管理や契約、医療・介護に関する意思決定が困難になるケースが増えています。このような状況に直面した際、ご本人の権利や財産を守り、安心して生活を送るための法的な支援が必要となります。そこで重要な役割を果たすのが「成年後見制度」です。

相続手続きにおいても、被相続人(亡くなった方)が認知症を患っていた場合や、相続人の中に判断能力が不十分な方がいる場合など、特別な対応が必要となることがあります。このような状況では、遺産分割協議を進めること自体が困難になったり、銀行預貯金の解約や不動産の名義変更(相続登記)などの手続きが滞る原因となります。

成年後見制度は、判断能力が不十分な方を法的に保護し、支援するための仕組みであり、ご本人の生活と財産を守る上で不可欠な制度です。

1.成年後見制度の目的

成年後見制度の最も重要な目的は、判断能力が不十分な方の権利と財産を法的に保護し、その生活を支援することにあります。具体的には、以下のような支援を行います。

財産管理:預貯金や不動産、株式などの財産を適切に管理し、ご本人の生活費や医療費、介護費用などに充当します。ご本人が不利益な契約を結んでしまわないよう保護する役割も担います。

身上保護:医療・介護サービスに関する契約の締結や、施設への入所契約、日常的な買い物など、ご本人の生活に関わる様々な法律行為を行います。ただし、医療行為への同意や、事実上の介護行為などは身上保護の範囲外となります。

この制度により、判断能力が低下したご本人が不当な契約の被害に遭ったり、財産を失ったりするリスクから守られます。

2.成年後見制度の種類:法定後見制度と任意後見制度の違い

法定後見制度(後見・保佐・補助)

法定後見制度は、既に判断能力が不十分な状態にある方のために利用される制度です。ご本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。

後見:判断能力がほとんどない方に適用されます。家庭裁判所が「成年後見人」を選任し、成年後見人はご本人の財産管理や法律行為をすべて代理し、ご本人が行った不適切な法律行為を取り消すことができます。

保佐:判断能力が著しく不十分な方に適用されます。家庭裁判所が「保佐人」を選任し、保佐人は重要な法律行為について同意権や取消権を持ち、特定の法律行為について代理権を持つこともあります。

補助:判断能力が不十分な方に適用されます。家庭裁判所が「補助人」を選任し、補助人は特定の法律行為について同意権や代理権を持つことがあります。

この制度は、ご本人やその親族などの申立てに基づいて家庭裁判所が審判を行い、後見人等を選任します。家庭裁判所がご本人の状況や親族関係などを考慮し、最も適任と思われる人物を後見人等として選びます。

任意後見制度

任意後見制度は、ご本人がまだ十分な判断能力を持っているうちに、将来、判断能力が低下した場合に備えて準備する制度です。ご自身で信頼できる人(任意後見人)を選び、どのような支援をしてほしいか、どのような財産管理をしてほしいかなどを事前に契約(任意後見契約)で定めておきます。

特徴:ご本人の意思が最大限に尊重される点が大きな特徴です。将来の不安を解消し、ご自身の希望通りの支援を受けられるようにするための「生前対策」として非常に有効です。

手続き:任意後見契約は公正証書で作成することが義務付けられています。これにより、契約内容の信頼性が担保されます。ご本人の判断能力が低下した際に、任意後見契約の効力が発生し、任意後見人が支援を開始します。

当事務所のような司法書士事務所では、「任意後見契約公正証書の作成方法」に関するご相談やサポートも提供しており、生前対策として重要な選択肢となります。

法定後見と任意後見の比較法定後見制度任意後見制度
利用開始時期判断能力が不十分になった後判断能力があるうちに契約、能力低下後に開始
後見人の選任家庭裁判所が選任本人が自由に選任
柔軟性家庭裁判所の監督下で運用比較的本人の希望を反映しやすい
申立て・契約の主体本人・配偶者・親族・市区町村長など本人のみ
監督体制家庭裁判所が監督任意後見監督人が監督(家庭裁判所が選任)

3.成年後見制度のメリット・デメリット

成年後見制度には、ご本人とご家族にとって多くのメリットがある一方で、いくつかの考慮すべき点もあります。

【メリット】

ご本人の財産が守られる:成年後見人が選任されることで、判断能力が不十分なご本人の財産が適切に管理され、詐欺や悪質な商取引などから保護されます。

医療・介護契約などがスムーズに行える:ご本人が自分で契約を結べない場合でも、成年後見人が代理して必要な医療・介護サービスに関する契約を締結できるため、適切なケアを受けられるようになります。

家族間のトラブル回避:特に法定後見制度の場合、家庭裁判所が後見人を選任し、その職務を監督するため、親族間で財産管理を巡る争いが発生するリスクを軽減できます。また、認知症の相続人がいる場合の遺産分割協議や銀行手続きも、後見人が代理することで法的に有効に進めることが可能になります。

計画的な生前対策:任意後見制度を利用すれば、ご本人が元気なうちに将来の不安を解消し、ご自身の希望に沿った形で財産管理や生活支援の準備を進めることができます。

【デメリット・考慮すべき点】

手続きの複雑さと費用:成年後見制度の利用には、家庭裁判所への申立てや必要書類の準備など、複雑な手続きが伴います。また、専門家を後見人として選任した場合や申立てを依頼した場合、費用が発生します。

家庭裁判所の監督:法定後見制度の場合、選任された後見人は定期的に家庭裁判所へ業務報告を行う義務があり、柔軟性に欠けると感じる場合もあります。

選任の柔軟性の制約:法定後見では、必ずしも申立てた希望通りの人物が後見人に選任されるとは限りません。家庭裁判所がご本人の利益を最優先して判断します。

財産の自由な運用が制限される:成年後見制度は「本人の財産を保護する」ための制度であるため、リスクのある投資や相続税対策のための贈与、不動産売却などを柔軟に行うことは困難です。後見人には本人の利益を守る義務があり、保守的な管理が求められます。

専門家によるサポートの必要性:制度の利用にあたっては、法的な知識が求められることが多く、ご自身だけで手続きを進めるには大きな負担が伴う可能性があります。複雑な手続きのため、専門家のアドバイスとサポートがあると安心です。

4.相続手続きにおける成年後見制度の役割

相続が発生した際、相続人の中に認知症などで判断能力が不十分な方がいると、遺産分割協議や各種手続きが通常の方法では進められなくなります。このようなケースにおいて、成年後見制度は重要な役割を果たします。

【遺産分割協議への対応】

相続手続きを進めるには、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、合意を得る必要があります。しかし、判断能力が不十分な相続人がいる場合、そのまま協議に参加させることはできません。この場合、成年後見人がその相続人の代理人として協議に参加し、意思決定を行うことができます。

成年後見人は、ご本人にとって不利益とならないよう、適切に協議を進める責任を負っています。

【銀行預金の解約・払い戻し】

被相続人の死亡により銀行口座が凍結された場合、相続人全員の合意がなければ預金の解約や払い戻しを受けることはできません。相続人の中に判断能力が不十分な方が含まれている場合、その方が単独で手続きを行うことはできません。

このような場合も、成年後見人が代理人として手続きを行うことにより、他の相続人と協力して必要な相続手続きを進めることが可能になります。

【不動産の名義変更(相続登記)】

相続によって取得した不動産については、名義変更の登記(相続登記)を行う必要があります。

しかし、相続人の一人が認知症などで登記申請に必要な書類に署名・押印できない場合、そのままでは登記手続きを進めることができません。このような場面でも、成年後見人が後見人として必要書類に署名・押印し、登記申請を行うことで、円滑な手続きが可能となります。

【注意点】

成年後見人が代理で遺産分割協議や相続手続きを行う場合、家庭裁判所への相談や許可が必要となることがあります。特に、特定の相続人に有利または不利となるような分割内容については、後見人の判断のみでは決定できないことがあります。

また、被後見人の利益を最優先に考える必要があるため、後見人自身も相続人であり利害関係がある場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を求めることもあります。

このように、成年後見制度は、判断能力が不十分な相続人の権利を守りつつ、相続手続きを円滑に進めるための重要な法的枠組みです。

5.さいごに

成年後見制度は、ご本人やご家族の生活と財産を守るための大切な制度です。しかし、制度の種類や手続きの内容は複雑で、どのようなケースでどの制度を選べばよいのか判断に迷う方も少なくありません。また、申立てや必要書類の準備などに時間と労力がかかるため、ご自身だけで対応しようとすると大きな負担となる場合があります。

当事務所では、成年後見制度に関するご相談を多数お受けしています。ご家族の状況やご希望を丁寧に伺いながら、最適な制度のご提案から申立て手続きまで一貫してサポートいたします。

「手続きが難しそうで不安」「後見制度について詳しく知りたい」「認知症対策として備えておきたい」など、どのようなお悩みでもお気軽にご相談ください。司法書士が分かりやすく丁寧にご説明し、安心して制度を利用できるよう全力でサポートいたします。

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