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遺言書がある場合の相続手続きガイド
故人が遺言書を残されていた場合、その後の相続手続きは、遺言書がない場合と比較して、故人の意思が最大限に尊重されるという特徴があります。遺言書の内容は、民法で定められた法定相続分よりも原則として優先されるため、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)を省略し、円滑に手続きを進められる可能性が高まります。
しかし、遺言書があるからといって全てが自動的に完了するわけではありません。遺言書の種類に応じた法的な手続きや、財産を実際に引き継ぐための複雑な名義変更など、適切な流れを踏む必要があります。
本記事では、法律の専門家ではない方に向けて、遺言書が見つかった際の相続手続きの具体的なステップと、知っておくべき重要な注意点について解説します。
1.遺言書がある場合の相続手続きの「流れ」(ステップ解説)
遺言書がある場合の相続手続きは、主に以下のステップで進行します。
STEP 1:遺言書の種類を確認する
遺言書は大きく分けて「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、種類によってその後の対応が異なります。
• 公正証書遺言:公証人が作成するため、検認手続きは不要です。
• 自筆証書遺言・秘密証書遺言:法務局で保管されているものを除くこれらの遺言書については、原則として家庭裁判所の検認手続きが必要となります。
【重要】 封印された自筆証書遺言や秘密証書遺言を勝手に開封することは、法律により禁止されています(違反すると過料が科される可能性あり)。
STEP 2:他の相続人へ遺言書の存在を知らせる
遺言書を発見した相続人は、その存在を他の相続人全員に速やかに通知する必要があります。遺言書の内容が自分に不利益だからといって隠匿・破棄する行為は、「相続欠格事由」に該当し、相続人としての資格を失うリスクがあるため、絶対に避けなければなりません。
STEP 3:遺言執行者の確認と手続きの実行
遺言書に「遺言執行者」が指定されている場合、その人物が遺言の内容を実現するために必要な全ての行為を行います。預貯金の払い戻しや不動産の名義変更など、煩雑な手続きは遺言執行者が中心となって進めます。相続人は遺言執行者の執行を妨げてはなりません。
指定がない場合は、相続人全員で手続きを行うか、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることができます。
STEP 4:財産の名義変更(銀行・不動産)
遺言書の有効性が確認され、検認(必要な場合)が完了したら、具体的な財産の承継手続きに移ります。
預貯金(銀行)の払い戻し・名義変更
銀行などの金融機関で故人の口座の払い戻しや名義変更を行う際は、遺言書、検認済証明書(法務局保管の自筆証書遺言と公正証書遺言の場合は不要)、亡くなった方の戸籍謄本、預金を取得する人や遺言執行者の印鑑証明書など、各金融機関が定める書類を揃えて提出します。遺言書がある場合、原則として遺言により財産を取得する人が単独で手続きできる点がメリットです。
不動産の相続登記
不動産を相続した場合は、法務局で名義を書き換える相続登記が必要です。相続登記は2024年4月1日から義務化されており、取得を知った日から3年以内に申請しないと過料が科される可能性があるため、期限には注意が必要です。
STEP 5:相続税の申告と納税
遺産総額が相続税の基礎控除額(3,000万円+法定相続人の数×600万円)を超える場合、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告と納税が必要です。遺言書がある場合でも、この申告義務は変わりません。
2.遺言書があっても「遺産分割協議」が必要になるケース
遺言書は原則優先されますが、その内容を必ずしも守る必要がないケースや、遺言書だけでは手続きが完了しないケースが存在します。
1. 相続関係者全員が同意した場合
相続関係者全員(法定相続人や遺言により財産を受け取る受遺者など)が合意すれば、遺言書の内容とは異なる遺産分割を自由に決定できます。故人の意思を尊重しつつも、現状に合わせた柔軟な分割が可能です。
全員の合意を将来の紛争防止のため明確にしておくには、遺産分割協議書を作成し、相続人全員(および受遺者等)が署名のうえ実印で押印する必要があります。
2. 遺言書に記載のない財産があった場合
遺言書に全ての財産が記載されておらず、記載漏れの財産が見つかった場合、その財産については法定相続人全員で遺産分割協議を行い、分け方を決めなければなりません。また、遺言書が具体的な財産ではなく、単に相続分の割合(例:長男に8割、次男に2割)のみを指定している場合も、どの財産を誰が取得するかを決めるために協議が必要です。
3.遺言の内容に不満がある場合の「遺留分」の主張
遺言書の内容が特定の相続人を優遇するもので、他の相続人の取り分が極端に少ない場合、「遺留分」という権利を行使することで最低限の遺産取得分を確保できる可能性があります。
1. 遺留分が認められる法定相続人
遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)に認められている権利です。遺言書によって遺留分が侵害されていた場合、侵害された相続人は、多く財産を取得した人に対して金銭の支払いを請求できます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。
2. 遺留分侵害額請求の期限
遺留分を請求できる権利には短い期限が定められています。侵害された相続人が、相続開始と遺留分侵害の事実を知ってから1年以内、または相続開始から10年を経過すると権利が時効により消滅してしまうため、迅速に行動することが不可欠です。
4.相続手続きの「不安」を「安心」に変えるサポート
遺言書がある相続手続きは、故人の意思を尊重するという大原則に従って進められますが、その過程では、遺言書の検認や不動産の名義変更手続きのほか、複雑な遺留分の算定など、専門的な知識と高い正確性が求められる作業が数多く発生します。
高野司法書士事務所は、相続・遺言手続きを専門とし、法定相続人の調査から、煩雑な手続きをワンストップで代行いたします。特に、不動産の相続登記義務化や、相続放棄の手続きなど、期限管理が重要な手続きにおいて、お客様に代わり迅速かつ正確に対応します。相続に関するどんな小さなお悩みでも、どうぞお気軽にご相談ください。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
自筆証書遺言はどう保管する?法務局利用のススメ
「遺言書は自分で簡単に書きたいけれど、本当に見つけてもらえるか不安」「紛失したり、誰かに勝手に書き換えられたりしたらどうしよう」――自筆証書遺言を作成する多くの方が、その「保管」に頭を悩ませてきました。
従来の自筆証書遺言は、手軽に作成できて費用がかからないというメリットがある反面、自宅などで保管することが多いため、紛失・破棄・隠匿・改ざん(偽造や変造)のリスクがつきものでした。さらに、相続手続きで利用する際には、原則として家庭裁判所での検認手続きが必要であり、相続人にとって大きな負担となっていました。
こうした自筆証書遺言のデメリットを解消し、その利便性を高めるために創設されたのが、法務局における自筆証書遺言書保管制度です。この制度を利用することで、遺言者の最終的な意思をより安全かつ確実に守り、後の相続手続きをスムーズに進めることが可能となりました。
1.法務局の遺言書保管制度とは?
法務局における自筆証書遺言書保管制度は、令和2年(2020年)7月10日からスタートした比較的新しい制度です。この制度は、遺言者が作成した自筆証書遺言を、法務局(遺言書保管所)が公的に預かり、画像データ化して厳重に保管するものです。
法務局に保管する大きなメリット
法務局を利用することで、従来の自筆証書遺言の持つ様々な問題点、特に保管に関するデメリットが解消されます。
1. 遺言書の紛失や改ざんのリスクがない
法務局が遺言書原本とデータ化した画像を長期間(遺言者の死亡日から50年間、情報は120年間)にわたって保管するため、自宅保管で懸念されていた紛失や、利害関係者による破棄・隠匿・改ざんの心配がなくなります。法務局による厳重な保管は、自筆証書遺言の弱点をカバーする最大の効果と言えます。
2. 家庭裁判所の検認手続きが不要になる
法務局に保管された自筆証書遺言は、公正証書遺言と同様に、家庭裁判所による検認手続きが不要となります。検認とは、遺言書の形状や内容を明確にし、偽造・変造を防止するための手続きで、通常、申立てから完了までに時間と手間がかかります。これが省略されることで、相続人は迅速に預金の解約や不動産の名義変更といった相続手続きを進めることができるようになります。
3. 遺言書の存在を確実に相続人に知らせる仕組み(通知)がある
法務局には、遺言者の死亡後に遺言書の存在を知らせる通知制度が設けられています。
• 関係遺言書保管通知:遺言者の死亡後に相続人や受遺者などが遺言書の閲覧や証明書の交付を請求した場合、法務局はその他の相続人等に対して、遺言書が保管されている事実を通知します。
• 死亡時の通知(指定者通知):遺言者があらかじめ希望し、通知対象者(最大3名)を指定しておけば、法務局が遺言者の死亡の事実を確認した際に、指定された人に対して遺言書が保管されている旨を通知してくれます。
この通知制度によって、せっかく作成した遺言書が相続人に発見されないというリスクを防ぐことができます。
4. 遺言書の形式不備による無効リスクが減る
保管の申請時、法務局の職員(遺言書保管官)が、遺言書が民法や法務省令で定められた形式的なルール(外形的な要件)を満たしているかチェックしてくれます。形式的な不備があると遺言は無効になってしまう可能性があるため、この点を確認してもらえるのは大きなメリットです。
制度利用にかかる費用
法務局での保管制度は、公正証書遺言と比べて費用が比較的安価であることも大きな魅力です。
遺言者が保管申請時に支払う費用は、遺言書1件につき3,900円です(収入印紙で納付)。これは保管手数料であり、保管期間や内容に関わらず一律です。
その他の手続きにかかる費用は以下の通りです。
| 手続き | 申請・請求できる人 | 手数料 |
| 遺言書の保管申請 | 遺言者 | 3,900円/1件 |
| 遺言書の閲覧請求(モニター) | 遺言者、死亡後は相続人等も | 1,400円/1回 |
| 遺言書情報証明書(写し)の交付請求 | 死亡後の相続人等 | 1,400円/1通 |
| 遺言書保管事実証明書の交付請求 | 死亡後の相続人等 | 800円/1通 |
なお、遺言書の保管の申請を撤回したり、住所等の変更を届け出たりする際には、手数料はかかりません。
2.法務局保管制度の注意点とデメリット
多くのメリットがある一方で、法務局の保管制度を利用する際には、いくつかの注意点(デメリット)も理解しておく必要があります。
1. 遺言者本人が法務局に出頭する必要がある
保管制度を利用するための申請手続きは、必ず遺言者本人が、事前に予約した上で、法務局(遺言書保管所)へ出向いて行わなければなりません。代理人による申請や郵送による申請は認められていません。そのため、病気や怪我などで法務局へ行くことが困難な場合は、事実上、この制度を利用できません。
2. 遺言書の内容に関するチェックは受けられない
法務局の職員は、遺言書の形式的な要件は確認しますが、遺言書の内容について、法的な有効性や、遺留分侵害など相続争いの種となる要素がないかといった実質的な審査やアドバイスは一切行いません。遺言の内容については遺言者の自己責任となり、内容に矛盾や間違いがあった場合、後に遺言を執行する際に問題が発生するリスクは残されています。
3. 遺言書の様式に細かいルールがある
保管制度を利用する場合、遺言書の様式等について、法務省令で定められた所定のルールを守って作成する必要があります。通常の自筆証書遺言とは異なり、以下の条件があります。
• 全文の自書が必要:財産目録を除き、遺言書の全文、日付、氏名は遺言者が自書(手書き)しなければなりません。
• 用紙のサイズと様式:A4サイズの片面のみに記載し、所定の余白を確保する必要があります。
• 無封で提出:遺言書は封筒に入れず、封印されていない状態で提出しなければなりません。
• 綴じ合わせない:複数ページある場合でも、ホチキスなどで綴じないでバラバラのまま提出します。
これらの様式ルールを満たさない場合、法務局に保管してもらえません。
3.保管制度利用の流れと必要書類
遺言書を法務局に保管してもらうまでの一般的な流れと、必要書類を確認しておきましょう。
1. 遺言書の作成と申請先の決定
まず、定められた様式や要件に従って自筆証書遺言を作成します。その上で、申請する法務局(遺言書保管所)を以下のいずれかから選択します。
- 遺言者の住所地を管轄する法務局
- 遺言者の本籍地を管轄する法務局
- 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局
2. 申請書の準備と予約
法務局のホームページなどから「保管申請書」を入手し、必要事項を記入します。この際、通知を希望する場合は、「死亡時の通知の対象者欄」に、指定する人の情報を記載します。
申請は事前予約制です。法務局の手続き案内予約サービス専用HP、電話、または窓口で予約を行います。
3. 法務局での申請手続き
予約した日時に、遺言者本人が必要書類と費用(手数料3,900円分の収入印紙)を持参して法務局に出頭します。
【保管申請に必要な主な書類】(必要書類)
1. 自筆証書遺言書(無封、ホチキス止めをしないもの)
2. 保管申請書
3. 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなどの顔写真付きの公的証明書)
4. 本籍と戸籍の筆頭者の記載がある住民票の写し等
5. 3,900円分の収入印紙(保管手数料として)
6. (遺言書が外国語で作成された場合)日本語による翻訳文
申請が完了すると、遺言者の氏名や保管番号が記載された保管証が交付され、大切に保管することになります。
4.公正証書遺言との比較:確実性を高める選択肢
法務局保管制度は自筆証書遺言の欠点を補いますが、遺言の作成方法には、公証人が作成する公正証書遺言という、確実性が高い方法もあります。
法務局保管制度と公正証書遺言は、どちらも検認手続きが不要であり、遺言の執行を速やかに行えるという点で共通しています。
しかし、公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が遺言の内容を整理し、有効性を慎重にチェックします。そのため、遺言書の内容に矛盾や法的な不備が生じるリスクが極めて低く、遺言の実現の確実性においては公正証書遺言が優勢であると言えます。
| 項目 | 自筆証書遺言(法務局保管) | 公正証書遺言 |
| 作成時のチェック | 形式要件のみ | 内容・形式双方(公証人・証人) |
| 遺言者出頭 | 必須(代理不可) | 原則公証役場へ。出張も可能 |
| 費用 | 保管申請費用3,900円 | 財産額に応じて変動(数万円以上) |
| 遺言者本人が手書きする部分 | 財産目録以外すべて | 署名のみ(病気等で困難な場合は代筆も可) |
| 死後の通知 | あり(指定者通知) | なし |
費用を抑えたい、または通知による確実な遺言の存在の伝達を重視するなら法務局保管制度が有利です。一方、遺言者が病気などで動けない場合 や、内容面での法的有効性を最大限に担保したい場合は、費用はかかっても公正証書遺言を選ぶ方が確実です。
この制度を賢く利用することで、手軽な自筆証書遺言の利点を活かしつつ、遺言者の「想い」を大切なご家族に確実に届けることができるでしょう。
5.相続・遺言手続きの専門家へご相談ください
自筆証書遺言の法務局保管制度は便利な一方、遺言書の内容の有効性や、相続税対策など、専門的な検討が必要な領域については、法務局ではサポートを受けることができません。遺言が有効であっても、その内容が原因で家族間に争いが生まれてしまっては、元も子もありません。
私たち高野司法書士事務所は、相続・遺言手続きを専門としており、お客様の状況に合わせた最適な遺言書作成と保管方法をご提案いたします。
遺言書を作成する際の形式的な不備を防ぐことはもちろん、遺留分を考慮した内容となっているか、財産が漏れなく記載されているか、さらには、ご家族が円滑に手続きを進められるよう、法的・実務的な視点から遺言内容をチェックいたします。
「法務局に預けたいけれど、書き方に不安がある」「公正証書遺言とどちらが良いか迷っている」「相続手続きが面倒そうで何から手を付けていいか分からない」—–そうしたお悩みは、経験豊富な専門家にご相談ください。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続人がいない場合の遺産はどうなる?
近年、生涯独身の方の増加や少子高齢化の進展に伴い、亡くなった方に法定の相続人が一人もいない「相続人不存在」のケースが増加しています。身寄りがなく、亡くなった後に遺産が宙に浮いた状態になってしまうという問題は、社会的な課題となりつつあります。
「もし自分に相続人がいなかったら、財産は全て国に取られてしまうのだろうか?」 「お世話になった人や団体に財産を残したいけれど、どうすればよいのだろうか?」
このような不安を抱える方も少なくありません。実際に、相続人不存在によって最終的に国庫に帰属する遺産の額は、年々増加傾向にあるとされています。
本記事では、相続人不存在とはどのような状況を指すのか、遺された財産は最終的にどこへ行くのか、そして、ご自身の意思を反映させるために生前にできる相続対策(特に遺言書の作成)について、法律を専門としない方にも分かりやすく徹底的に解説します。
1.相続人不存在とは?その定義と3つのパターン
相続人不存在とは、民法が定める「法定相続人」に該当する人が、亡くなった方(被相続人)の死亡時に一人もいない状態を指します。
法定相続人とは、法律によって定められた相続権を持つ人で、その範囲と順位は以下の通りです。
配偶者:常に相続人となる。
第1順位:子(子が亡くなっていれば孫、ひ孫などの直系卑属)。
第2順位:父母(父母が亡くなっていれば祖父母などの直系尊属)。
第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていれば甥姪)。
この法定相続人(および代襲相続人)が誰もいない場合に相続人不存在となります。なお、いとこや叔父叔母、甥姪の子どもなどは法定相続人ではありません。
相続人不存在になる具体的なケースは、主に次の3つのパターンが考えられます。
(1) 家族構成的に法定相続人がいないケース
被相続人が独身で子どもがおらず、両親などの直系尊属も兄弟姉妹(および甥姪)も既に亡くなっている、いわゆる「天涯孤独」の状態です。
(2) 法定相続人全員が相続放棄したケース
戸籍上は相続人がいるものの、その全員が家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、それが受理された場合です。相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったものとみなされます。被相続人に多額の借金(負債)があった場合に、借金を引き継がないために全員で放棄するケースが多く見られます。
(3) 相続欠格・相続廃除により相続権を失ったケース
法定相続人に相続の意思があっても、被相続人に対して重大な不正行為や虐待行為があった場合、「相続欠格」や「相続廃除」によって相続権を失うことがあります。この結果、他に相続人がいなければ相続人不存在となります。ただし、欠格や廃除の場合、第1順位や第3順位では代襲相続が認められるため、その子(孫など)が相続人になる可能性があります。
誤解されやすい「相続人がいない」ケース
相続人が行方不明または音信不通である場合は、その人が法律上の相続人である限り、相続人不存在とは扱われません。一方、内縁の配偶者は法律上の相続人ではないため、他に法定相続人がいなければ相続人不存在として扱われます。
• 行方不明の場合:戸籍から抹消されていない限り、法律上は相続人が「いる」ものとして扱われます。遺産分割を進めるためには、不在者財産管理人の選任や失踪宣告の手続きが必要です。
• 内縁の配偶者:法律上の婚姻関係がないため、内縁の配偶者には法定相続権はありません。財産を確実に残すには、遺言書を作成するか、後述の特別縁故者として財産分与を求める必要があります。
2.相続人不存在の場合、遺産はどこへ行く?
相続人不存在の状態が確定した場合、遺産はすぐに国のものになるわけではなく、以下の優先順位に従って清算・処分されていきます。
(1) 遺言書で指定された人(受遺者)や債権者
まず、遺言書が残されていれば、そこに指定された人や団体(受遺者)に財産が渡されます。遺言書は法定相続人がいない場合でも、被相続人の意思を実現する上で非常に強力な手段です。
また、被相続人に対して金銭を貸していた人や、未払いの家賃などの支払いを受ける権利を持つ債権者がいる場合は、遺産から支払いがなされます。
(2) 特別縁故者への財産分与
債権者や受遺者への支払い・遺贈を終えてもなお財産が残っている場合、次に財産を受け取る可能性があるのが「特別縁故者」です。
特別縁故者とは、被相続人と特別に緊密な関係にあったと家庭裁判所に認められた人や団体を指します。例としては、内縁の配偶者、事実上の養子、生前に献身的に療養看護に努めた人などが挙げられます。
特別縁故者が財産を受け取るためには、相続人不存在が確定してから3か月以内に、家庭裁判所に「財産分与の申立て」を行う必要があります。家庭裁判所は、故人との関係性や貢献度などを総合的に考慮し、分与の可否や金額を決定します。
なお、特別縁故者への財産分与は、遺贈とみなされ相続税の課税対象となり、原則として2割加算の対象となります。
(3) 最終的な国庫帰属
上記(1)と(2)の手続きを経てもなお残った財産、あるいは遺言書も特別縁故者も存在しない場合は、その残余財産は最終的に国庫に帰属し、国のものとなります(民法959条)。2022年度の段階で国庫に帰属した金額は768億円にのぼるとされており、このケースは増加傾向にあります。
3.相続人不存在の場合の複雑な手続きの流れ
相続人不存在となった場合、遺産は勝手に処分できず、法的な清算手続きを進めるために、家庭裁判所に相続財産清算人(令和5年4月1日以前は「相続財産管理人」)の選任を申し立てる必要があります。
この申立ては、被相続人の債権者や受遺者、特別縁故者などの利害関係人、または検察官が行います。相続財産清算人には、通常、弁護士や司法書士などの専門家が選任され、中立的な立場で財産の調査・管理・清算を担います。
(1) 相続財産清算人の選任と公告
家庭裁判所が相続財産清算人を選任すると、その旨と、相続人がいる場合に名乗り出るよう求める「相続人捜索の公告」を官報で行います。この公告期間は6か月以上と定められています。
(2) 債権者・受遺者の申出の公告
上記と並行して、相続財産清算人は、債権者や受遺者に対して、2か月以上の期間を定めて請求を申し出るよう公告します。期間満了後、申出のあった債権者や受遺者には、遺産から支払いや遺贈が行われます。
(3) 相続人不存在の確定と財産分与
相続財産清算人の選任後、家庭裁判所による相続人捜索の公告期間(6か月以上)が満了し、相続人が現れなかった場合、相続人不存在が確定します。
法改正(令和5年4月1日施行)前は、各公告を段階的に行う必要があったため、確定までに最低10ヶ月以上を要していました。しかし、改正後は相続財産清算人の選任公告、債権者・受遺者の申出の公告、相続人捜索の公告の3つの公告を同時期に並行して行うことができるようになったため、相続人不存在が確定するまでの期間は最短6ヶ月に短縮されました。
確定後3か月以内に特別縁故者から申立てがあれば、家庭裁判所の審判を経て財産が分与されます。
(4) 国庫帰属と期間・費用
相続人不存在の確定自体は最短6ヶ月で可能となりましたが、その後の特別縁故者への財産分与申立て期間(3ヶ月以内)を経る必要があり、さらに債権者への弁済や不動産などの財産処分の手続きにかかる期間も含めると、この一連の清算手続き全体が完了し、最終的に国庫に帰属するまでには、依然として最低でも10ヶ月以上かかることが一般的です。
また、相続財産清算人の報酬や公告費用などを賄うための予納金(数十万円から100万円程度)を、申立人が家庭裁判所に納める必要があるケースもあります。これは、残された関係者にとって経済的・時間的に大きな負担となります。
4.知っておきたい相続人不存在の注意点
不動産の共有者と特別縁故者の優先順位
もし亡くなった方が共有不動産の持分を持っていた場合、民法には相続人がいないときその持分は他の共有者に帰属する旨の規定がありますが、最高裁判所の判断により、特別縁故者への財産分与が共有者への帰属よりも優先されます。つまり、特別縁故者が財産を分与された後に残った持分があれば、それが他の共有者に帰属するという順番になります。
遺産の勝手な処分は禁止
相続人不存在のケースで、親族や知人であっても、遺された財産(家財、預貯金、不動産など)を勝手に処分したり、解約したりすることは許されません。すべての財産は相続財産清算人が管理・清算する対象となります。
5.大切な財産を活かすための生前対策
相続人不存在の場合、手続きは複雑で時間がかかり、最終的に財産が国庫に帰属してしまうリスクがあります。
自分の意思を反映させ、残された方々の負担を減らすためには、生前対策が不可欠です。
(1) 遺言書の作成で遺産の行き先を明確に
最も確実で重要な対策は、遺言書を作成しておくことです。
遺言書があれば、法定相続人がいない場合でも、財産の承継先を自由に指定し、意図しない国庫帰属を避けることができます。例えば、内縁の配偶者やお世話になった人へ財産を遺贈したり、社会貢献のために特定の団体に寄付したりする、といった意思を実現できます。
遺言書があれば、相続財産清算人の選任手続きが不要になり、残された関係者の負担が大きく軽減されます。
特に、形式不備や紛失のリスクが低い公正証書遺言を作成し、遺言書の内容を確実に実現させる遺言執行者(司法書士などの専門家を指定可能)を決めておくことが推奨されます。
(2) その他の生前対策
• 死後事務委任契約:葬儀の手配や行政手続き、医療費の精算など、ご逝去後の事務処理を第三者に委任する契約です。相続人不存在の場合には、財産管理とは別に、これらの事務を担う人がいないため、遺言書と併せて検討することが重要です。
• 生前贈与:生きている間に財産を贈与する方法です。贈与者は財産の使い道を見届けることができ、贈与を受けた側も確実に財産を取得できます。
6.専門家からのメッセージ
相続人不存在の問題や、大切な方へ確実に財産を引き継ぐための遺言書作成は、多くの方にとって初めて直面する複雑な課題です。
私たち高野司法書士事務所は、相続・遺言手続きを専門としており、お客様一人ひとりの想いを実現し、未来に不安を残さないためのサポートを提供しています。
相続人不存在の懸念がある方には、公正証書遺言の作成を全面的に支援いたします。法的に有効で、ご依頼者様の明確な意思が反映された遺言書を作成し、大切な財産が意図しない形で国庫に帰属してしまうことを防ぎます。
相続や遺言に関するご不安、疑問がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。あなたの想いを未来へつなぐお手伝いを、責任をもって務めさせていただきます。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続放棄は代襲相続に影響する?しない?
近年、高齢化に伴い相続に関する悩みや疑問が増加しています。中でも、「相続放棄」と「代襲相続」が関わるケースはトラブルになるリスクもあるため、正確な理解が不可欠です。
特に、被相続人(亡くなった方)に多額の借金などの負債があった場合、法定相続人(本来相続する人)が相続放棄を検討しますが、「放棄をしたら、その負債が子どもや孫に代襲相続されてしまうのではないか」という不安を抱く方は少なくありません。
この疑問に対する結論は、「相続放棄をしても、その子どもや孫に代襲相続は発生しない」 です。
本記事では、相続放棄と代襲相続の基本的な仕組みから、両者の関係性、そして相続放棄をした後に相続権がどこまで移るのかについて、法律を専門としない方にも分かりやすいように詳しく解説します。
1.代襲相続とは:相続権の承継ルール
代襲相続(だいしゅうそうぞく)とは、本来相続人となるべき人が、相続開始以前に死亡していたり、法律によって相続権を失っていたりする場合に、その人の子どもが代わりに相続人となる制度です。代わりに相続する人を代襲相続人、代襲される人を被代襲者と呼びます。
代襲相続が発生する原因(代襲原因)は、主に次の3つのケースに限定されています。
1. 本来の相続人が被相続人の死亡以前に死亡したとき。
2. 本来の相続人が相続欠格(法律上の重大な不正行為)に該当したとき。
3. 本来の相続人が相続廃除(被相続人の意思により相続権を剥奪された)をされたとき。
代襲相続人となる範囲
代襲相続が発生する範囲は、誰の相続権を代襲するかによって異なります。
1. 被相続人の子ども(第1順位の相続人)を代襲する場合 被相続人の子(被代襲者)が死亡等により相続権を失った場合、その子である孫が代襲相続人となります。さらに、その孫も死亡している場合は、ひ孫(玄孫)へと、子孫が続く限り代襲相続がどこまでも続きます(再代襲)。
2. 被相続人の兄弟姉妹(第3順位の相続人)を代襲する場合 被相続人に子や直系尊属(父母や祖父母)がいない場合、兄弟姉妹が相続人となります。その兄弟や姉妹が死亡等により相続権を失った場合、その子である甥や姪が代襲相続人となります。ただし、兄弟姉妹の代襲相続は一代限りであり、甥・姪の子ども(再代襲相続人)には相続権は移りません。
2.相続放棄の基本と代襲相続への影響
相続放棄とは、相続人が自分の意思により、被相続人の財産と権利義務の一切を相続しないことにする制度です。借金などのマイナスの財産を相続したくない場合や、相続争いに巻き込まれたくない場合に有効な手続きです。
相続放棄と代襲相続の明確な違い
相続放棄をすると、その相続人は法律上、「初めから相続人ではなかったもの」として扱われます。
代襲相続は、被代襲者が相続権を「失った」場合や「死亡」した場合に発生しますが、相続放棄は相続権自体が発生しないという考え方になるため、代襲相続は発生しません。
したがって、親が借金があるからと相続放棄をしたとしても、その子(孫)や、兄弟姉妹が放棄した際の甥・姪に代襲相続が発生し、借金が引き継がれることはないのでご安心ください。
相続放棄の例外的な注意点:二重の相続
相続放棄の効力は、あくまで放棄した特定の被相続人の相続に関してのみ及びます。そのため、相続が発生する順番によっては、代襲相続の対象になることがあります。
例えば、孫(D)が父(B)の相続を放棄したとしましょう。その後、祖父(A)が亡くなりましたが、父(B)はすでに亡くなっていたため、孫(D)は祖父(A)の代襲相続人となりました。
この場合、孫(D)は父(B)の相続を放棄していても、祖父(A)の代襲相続人となることが可能です。
もし、祖父(A)の財産に借金が含まれており、孫(D)がその借金も相続したくない場合は、祖父(A)の相続について改めて相続放棄の手続きをする必要があります。
相続放棄は被相続人ごとに判断されるため、「父の相続を放棄したから、祖父の相続も自動的に放棄される」ということはありません。
3.相続放棄によって相続権が移る流れ
相続放棄が行われると、その放棄をした人は最初から相続人ではなかったとみなされるため、相続権は次の順位の法定相続人に移ります。
相続の順位は以下の通りです(配偶者は常に相続人)。
1. 第1順位:被相続人の子ども(代襲相続人としての孫なども含む)
2. 第2順位:被相続人の直系尊属(父母、祖父母など)
3. 第3順位:被相続人の兄弟姉妹(代襲相続人としての甥、姪も含む)
パターン別の相続権の移行先
| 放棄した人 | 次に相続権を持つ人 |
| 第1順位(子どもや孫)が全員放棄した場合 | 第2順位(父母や祖父母などの直系尊属)に移ります。配偶者は第2順位と共同相続人になります。 |
| 第1順位と第2順位が全員放棄した場合 | 第3順位(兄弟姉妹や甥・姪)に移ります。配偶者は第3順位と共同相続人になります。 |
| すべての血族相続人(第1, 2, 3順位)が全員放棄した場合 | 配偶者がいる場合は配偶者が単独で相続します。配偶者もいない場合は、相続人がいなくなり、最終的に財産は国庫に帰属する可能性があります。 |
次順位の相続人への連絡の重要性
相続放棄により相続権が次順位の親族(兄弟姉妹や甥・姪など)に移ったとしても、家庭裁判所から次順位の相続人へ、相続放棄があった旨の連絡は原則としていきません。
もし被相続人に借金が多い場合、次順位の相続人は突然債権者からの督促状が届いて初めて自分が相続人になったことを知り、大きな混乱や親族間のトラブルにつながる可能性があります。
このようなトラブルを避けるためにも、相続放棄をした人は、次に相続人となる可能性のある親族に対して、自ら連絡をして事実を伝えておくことが望ましいです。
4.まとめ
- 相続人が自らの意思で相続放棄をした場合、その子ども(孫や甥・姪)に代襲相続は発生しません。
- 代襲相続が発生するのは、被相続人の死亡、相続欠格、相続廃除の3つの代襲原因がある場合に限られます。
- 相続放棄をすると、相続権は次順位の法定相続人(直系尊属や兄弟姉妹)に移るケースがあります。
- 次順位の相続人への影響を防ぐため、相続放棄の事実を自ら連絡することが、親族間のトラブル回避につながります。
- 代襲相続人(孫や甥・姪)になった場合でも、通常の相続人と同じく相続放棄は可能です。
もし判断に迷われたり、手続きに不安を感じたりした場合は、期限(3カ月)が迫る前に専門家に相談することが、迅速かつ確実な解決への最善策となります。
高野司法書士事務所は、相続・遺言手続きを専門としており、お客様の抱える複雑な問題を円満に解決するための豊富な経験とノウハウを有しています。
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神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
遺贈と相続って何が違うの?
「遺贈」と「相続」は、どちらも亡くなった方の財産を特定の人に引き継がせるという意味合いで使われますが、法律上の性質や手続き、そして税金面において決定的な違いがあります。
特に、遺言書を作成する際にこの二つの言葉を誤って使用すると、受け取る側が不利益を被ったり、手続きが複雑になったりする可能性があります。
この記事では、法律を専門としない方にもわかりやすく、遺贈と相続の基本的な違いから、手続き上の注意点、そして相続税に関する重要な留意点までを詳しく解説します。大切な財産をご自身の意志通りに、そして円滑に次世代へ引き継ぐための参考にしてください。
1.相続と遺贈の基本的な違い
相続と遺贈の最も大きな違いは、「誰が財産を受け取るのか」という財産を受け取る相手の範囲です。
1. 相続は法定相続人が対象
「相続」とは、民法で定められた法定相続人(配偶者、子、父母、兄弟姉妹など)が、亡くなった方(被相続人)の財産を包括的に承継することを指します。
相続においては、財産の権利だけでなく、借金などの負債(マイナスの財産)も原則として承継されます。遺言書がない場合でも、法定相続人が法律で定められた相続分に従って財産を引き継ぐことが可能です。
遺言書で法定相続人に対して財産を引き継がせる場合、「相続させる」という文言が使われます。この「相続させる」という表現は、遺産分割の方法を指定する法的意味合いを持ちます。
2. 遺贈は誰にでも財産を譲れる
「遺贈(いぞう)」とは、亡くなった方(遺言者)が遺言書によって、財産の一部または全てを無償で譲ることを意味します。遺贈を受ける人や団体を受遺者(じゅいしゃ)と呼びます。
遺贈の最大のポイントは、法定相続人以外の人や法人・団体にも財産を譲渡できる点です。
例えば、婚姻関係がない内縁の配偶者、養子縁組をしていない連れ子、法定相続人ではない孫や子の配偶者(長男の妻など)、あるいは、お世話になった友人、NPO法人、学校、地方自治体などに財産を遺したい場合に利用されます。
また、遺言書で法定相続人に対して財産を引き継がせる場合にも、「遺贈する」という言葉を使うことは可能です。ただし、後述する手続き上の煩雑さから、相続人に対しては「相続させる」という表現を使うことが推奨されています。遺贈は、法的には財産の無償譲渡とみなされます。
2.遺贈の2つの種類:包括遺贈と特定遺贈
遺贈には、財産の渡し方によって「包括遺贈(ほうかついぞう)」と「特定遺贈(とくていいぞう)」の2種類があります。この違いは、負債の承継や手続きに大きく影響するため、非常に重要です。
1. 包括遺贈(割合を指定する方法)
包括遺贈とは、遺産の全体または(遺産全体に対して)割合を指定して財産を譲る方法です。例として、「全財産の半分(2分の1)をAに遺贈する」といった指定が該当します。
包括受遺者は、その割合に応じて相続人と同一の権利と義務を持つことになります。したがって、借金やローンなどの負債(マイナスの財産)も割合に応じて承継する必要があるため、注意が必要です。
また、包括遺贈の場合、受遺者は他の相続人に交じって遺産分割協議に参加し、具体的にどの財産を取得するかを決める必要があります。
2. 特定遺贈(特定の財産を指定する方法)
特定遺贈とは、遺産の中から特定の財産を指定して譲る方法です。例として、「〇〇銀行の預金100万円をBさんに遺贈する」「甲土地をC団体に遺贈する」といった指定が該当します。
特定遺贈では、指定された財産のみを取得するため、原則として負債を引き継ぐ必要はありません。そのため、福祉団体やNPO法人など、法人が遺贈を受け入れる場合は、リスクを抑えられる特定遺贈として受け入れるケースがほとんどです。
3.手続き上の大きな違い(不動産登記を中心に)
遺贈と相続では、特に不動産(土地や建物)の名義変更を行う際の不動産登記手続きにおいて大きな違いが生じます。
1. 相続人に「相続させる」場合
遺言書で法定相続人に「相続させる」と記載されている場合、その財産を取得する相続人は単独で相続登記(所有権移転登記)を申請することができます。これにより、他の相続人全員の協力や署名・押印、印鑑証明書が不要となり、手続きをスムーズに進められます。
2. 相続人に「遺贈する」場合
かつては、相続人に「遺贈する」と記載されている場合、受遺者である相続人が単独で登記をすることができず、他の相続人全員との共同で手続きを進める必要がありました。しかし、令和5年4月1日の不動産登記法改正により、相続人に対する遺贈であれば、受遺者である相続人が単独で登記申請を行うことが可能になりました。
3. 相続人以外に「遺贈する」場合
遺言書で相続人ではない第三者や団体に「遺贈する」と記載されている場合は、原則として、受遺者(財産を取得する人)と法定相続人全員が共同で登記申請を行う必要があります。
ただし、遺言書で遺言執行者が指定されている場合は、受遺者と遺言執行者が共同で登記申請を行うことができます。このため、相続人以外へ遺贈する場合は、トラブルや手続きの煩雑さを避けるために、遺言執行者を指定しておくことが推奨されます。
4. 農地や借地権の承継
特定の権利を承継する際にも、相続と遺贈では違いがあります。
• 農地取得:農地を取得する際、通常は農業委員会(市町村に設置されている行政委員会)の許可が必要ですが、相続人が相続または遺言(相続させる/遺贈するのどちらでも)で取得する場合、許可は不要です。ただし、相続人以外への特定遺贈の場合は、原則として農業委員会の許可が必要となります。
• 借地権・借家権:借地権や借家権を承継する場合、地主や大家(賃貸人)の承諾が必要です。しかし、「相続させる遺言」による承継の場合は、包括的な権利承継とみなされるため、賃貸人の承諾は不要です。一方、遺贈の場合は、原則として賃貸人の承諾が必要となり、承諾料を請求されることもあります。
4.相続税と遺贈:税制面での注意点
遺贈も相続も、亡くなった方の財産を原因として財産を取得するため、原則として相続税の課税対象となります。ただし、遺贈の場合、特に受遺者が法定相続人以外であると、税制面で不利になる点がいくつかあります。
1. 基礎控除額の計算における違い
相続税には非課税枠である基礎控除が設けられています。基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」という計算式で算出されます。
この計算において、遺贈によって財産を受け取った人(受遺者)が法定相続人ではない場合、その受遺者は「法定相続人の数」には含まれません。
法定相続人以外の受遺者がいる場合、財産を受け取る人数が増えても基礎控除額は増えないため、結果的に課税対象となる遺産総額が大きくなる可能性があります。
2. 相続税の2割加算
遺贈によって財産を取得した人が、亡くなった方の配偶者や一親等の血族(子や父母)および代襲相続人となった孫以外である場合、その人が納めるべき相続税額が2割加算されます。
この2割加算は、祖父母や兄弟姉妹が相続人となる場合にも適用されます。例えば、長男の配偶者(お嫁さん)や、法定相続人ではないお孫さん、お世話になった友人などが遺贈を受けた場合、相続税が2割増しになるため、受遺者の税負担が大きくなることに注意が必要です。
3. その他の税金負担(不動産関連)
不動産を遺贈する場合、相続と比較して税負担が増加する可能性があります。
• 不動産取得税:相続で不動産を取得した場合は非課税ですが、相続人ではない人への特定遺贈によって不動産を取得した場合、地方税である不動産取得税が課税されます。
• 登録免許税:不動産の名義変更(登記)にかかる登録免許税の税率も異なります。相続の場合や法定相続人への遺贈の場合、不動産評価額の0.4%ですが、法定相続人以外への遺贈の場合、税率は2.0%と高くなります。
5.遺贈と相続放棄:負債を避けるための選択肢
包括遺贈の場合、受遺者は負債も承継するリスクがあるため、財産の受け取りを拒否する相続放棄(または遺贈の放棄)の選択肢も重要になります。
1. 包括遺贈の放棄
包括遺贈の受遺者は相続人と同じ権利義務を持つため、遺贈を放棄したい場合は、包括遺贈があったことを知った日から3か月以内に、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して遺贈放棄の申述書を提出しなければなりません。
この3か月の期間を過ぎてしまうと、原則として遺贈を承認したものとみなされます。負債が多い場合に包括遺贈を放棄することは、受遺者にとってのリスク回避手段となります。
2. 特定遺贈の放棄
特定遺贈の場合、財産を受け取らない意思を、遺言執行者や他の相続人などの遺贈義務者に対して意思表示すればよく、家庭裁判所での手続き(相続放棄の申述)は不要です。また、原則として放棄の期限も定められていません。ただし、利害関係者から催告を受けた場合、指定期間内に回答しないと承認したものとみなされるため、速やかな意思表示が求められます。
6.トラブルを避けるための最重要ポイント
遺贈は自由度の高い制度ですが、遺言者が亡くなった後に親族間で「争族」を招かないよう、細心の注意を払う必要があります。
1. 遺留分への配慮
遺留分とは、亡くなった方の兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者、子、父母など)に、法律上最低限保障されている遺産の取得分のことです。
遺言書の内容がこの遺留分を侵害している場合でも、その遺言自体が無効になるわけではありません。しかし、遺留分を侵害された相続人(遺留分権利者)は、遺贈を受けた受遺者に対して遺留分侵害額請求(金銭の請求)を行うことができます。これにより、受遺者と相続人の間でトラブルが発生し、遺言者の意思が完全に実現されない可能性があります。
トラブルを避けるためには、遺言書を作成する際に、遺留分権利者に遺留分相当額を相続させるなど、遺留分を侵害しないよう十分配慮することが重要です。
2. 遺言執行者の指定
遺贈を行う場合、遺言書の内容を確実に実行するために、遺言執行者を指定しておくことが強く推奨されます。
遺言執行者は、相続人全員の代理人として、遺贈された財産の登記や名義変更、預貯金の引き出しなどの手続きを単独で行う権限と義務を持ちます。遺言執行者を指定することで、相続人や受遺者の負担を軽減し、手続きの円滑化を図ることができます。
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相続や遺贈に関する手続きは、非常に専門性が高く、一般の方がご自身で全てを円滑に進めるのは難しいのが現状です。
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未登記建物の相続手続きガイド
亡くなった方が所有していた実家や建物について、相続手続きを進める中で「未登記建物」であることが判明し、困惑されるケースは少なくありません。未登記建物とは、法務局に正式に登記(登録)されていない建物のことを指し、通常の不動産相続よりも複雑な手続きが必要となります。
未登記のまま放置すると、将来的な売却や活用が難しくなるだけでなく、法律上の義務違反となるリスクも伴います。
ここでは、法律の専門家ではない方にも分かりやすいよう、未登記建物の定義から、放置するリスク、そして名義変更を含む具体的な相続手続きの流れについて詳しく解説します。
1.未登記建物とは?その存在と確認方法
未登記建物とは、文字通り登記がされていない建物です。具体的には、建物の大きさや構造といった物理的な情報が記載される登記簿の「表題部」の登記がない建物を指します。
不動産登記法により、建物を新築したり、表題登記がない建物の所有権を取得したりした場合、取得日から1か月以内に表題登記を申請することが義務付けられています。しかし、実際には、住宅ローンを利用しなかった場合や、登記手続きを失念したまま所有者が亡くなってしまった場合など、さまざまな理由で未登記のまま残されている建物が存在します。
未登記建物かどうかを確認する方法
相続した建物が未登記かどうかを確認する最も手軽な方法は、固定資産税納税通知書に同封されている課税明細書を確認することです。
- 家屋番号の記載:登記済みの建物には「家屋番号」が記載されていますが、未登記建物の場合、この家屋番号が空欄または「未登記家屋」といった記載になっている可能性が高いです。
- 登記事項証明書の請求:法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を請求し、取得できなければその建物は未登記であると判断できます。
なお、未登記建物であっても、固定資産税は課税されます。これは、法務局の登記簿とは別に、市区町村が独自の台帳(名寄帳など)で所有者を把握し、その情報をもとに課税しているためです。固定資産税を支払っているからといって、登記されているとは限らない点に注意が必要です。
2.未登記建物を放置するリスクとデメリット
未登記建物を相続したにもかかわらず、登記手続きをせずにそのまま放置すると、多くの重大なデメリットが発生します。
法律上の義務違反と過料のリスク
まず、表題登記の申請は法律上の義務です。所有権を取得した日から1か月以内に申請を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
また、2024年4月1日からは相続登記が義務化されましたが、未登記建物自体は、権利部に所有権の登記名義人がいないため、相続登記義務化の直接的な対象外とされています。しかし、表題登記の申請義務は元々存在しており、今後は国や自治体が未登記不動産の所有者を特定しようとする動きが強まる可能性もゼロではありません。
所有権の主張ができない
登記は他人に所有権を主張するための重要な手段です。登記がない状態では、自分がその建物の真の所有者であることを法的に証明できず、第三者に対して権利を主張できません。
例えば、万が一、自分の知らない間に他者名義で登記されてしまった場合や、建物を建てている土地(底地)が売却された場合などには、所有権を失ったり、新しい土地所有者からの立ち退き要求を拒否できなくなるリスクがあります。
売却や融資が困難になる
未登記建物は、売却や活用が極めて難しいという大きなデメリットがあります。
1. 融資を受けられない:住宅ローンを組む際には、購入する不動産に抵当権を設定して担保とするのが一般的です。しかし、未登記の建物には抵当権を設定できないため、金融機関から融資を受けることができません。
2. 売却が困難:買主は、所有権が公的に証明されていない未登記物件の取引に慎重になります。また、売却する際にも、買主名義で所有権移転登記を行う前に、まず売主名義で表題登記と所有権保存登記を行う必要があるため、手続きが複雑化し、売却のタイミングを逃すリスクがあります。
相続税や固定資産税で損をするリスク
税金面でもデメリットが生じます。未登記建物が存在すると、土地にかかる固定資産税の軽減措置(住宅用地の特例)が適用されず、本来よりも高い固定資産税を支払っている可能性があります。
また、自治体の現地調査などで未登記の存在が判明した場合、これまで支払われていなかった過去分の固定資産税をまとめて請求されるリスクもあります。
さらに、相続税の申告が必要な場合、未登記建物であっても相続財産に含まれるため、その相続税評価額を算出しなければなりません。未登記のため正確な情報が不足している場合、専門家による測量や鑑定が必要となり、手続きが煩雑化する可能性があります。
将来の相続手続きの複雑化
未登記のまま所有者が亡くなり放置しておくと、時間の経過とともに相続人が増え続け、いざ登記をしようとした際に、複雑な相続人調査や遺産分割協議が必要になり、手続きが極めて困難になるリスクがあります。
3.未登記建物を相続した際の手続きの流れ
未登記建物を相続した場合、通常の名義変更(所有権移転登記)とは異なり、まず建物の存在を公的に記録する表題登記から始める必要があります。手続きは以下の流れで進めます。
Step 1: 遺産分割協議書の作成と相続人の決定
未登記建物であっても、財産的価値があるため、相続財産として遺産分割の対象となります。相続人が複数いる場合は、まず遺産分割協議を行い、誰がその建物を相続するのかを決定し、相続人全員の合意を得る必要があります。
遺産分割協議書への記載方法の注意点
登記済みの建物と違い、未登記建物には登記簿謄本が存在しないため、遺産分割協議書に建物を特定する情報を記載する際には特別な注意が必要です。
遺産分割協議書には、未登記である旨を明記し、固定資産評価証明書や名寄帳に記載されている建物の所在地、種類、構造、床面積などの情報を引用して特定します。これにより、相続人全員の合意内容を文書として明確に残します。
Step 2: 表題登記の申請(建物の公的な記録)
表題登記は、未登記建物の相続手続きにおける最初の必須ステップです。表題登記を行うことで、建物の所在地、家屋番号、構造、床面積、所有者の住所氏名など、建物の物理的な情報が登記簿の「表題部」に記録され、新たな登記簿が作成されます。
専門家と必要書類
表題登記は、建物の測量や図面作成(建物図面、各階平面図)が必要となるため、土地家屋調査士に依頼して代行してもらうのが一般的です。費用は建物の規模や構造、地域によりますが、土地家屋調査士への報酬として8万円から15万円程度が目安とされています。
申請には、登記申請書のほか、建物の図面、建築確認済証、検査済証、工事完了引渡証明書、固定資産評価証明書、そして遺産分割協議書を含む相続に関する資料(戸籍謄本、住民票など)が必要となります。古い建物の場合、これらの書類が紛失していることが多いため、専門家への早期相談が推奨されます。
Step 3: 所有権保存登記の申請(名義変更の準備)
表題登記が完了し、建物の存在が公的に認められたら、次に建物の所有者を明確にするために所有権保存登記を申請します。これは登記簿の「権利部(甲区)」に所有者情報を記録する手続きです。
所有権保存登記は法律上の義務ではありませんが、これを行うことで所有権を公的に公示し、第三者に対して権利を主張できるようになります。法律上、被相続人名義でも相続人名義でも登記が可能ですが、相続人名義で登記するのが実務上一般的です。
専門家と費用(登録免許税)
所有権保存登記の手続きは、申請書の記入など専門的な知識が必要となるため、司法書士に依頼するのが一般的です。司法書士への報酬は、2万円から6万円程度が目安です。
また、この登記には登録免許税が発生します。登録免許税の額は、不動産の評価額(固定資産評価額)に税率(0.4%)をかけた金額が基本となります。
登録免許税=不動産の評価額×0.4%
4.未登記建物を解体する場合の注意点
相続した未登記建物が老朽化しており、解体する予定がある場合は、表題登記や所有権保存登記をあえて行う必要はありません。建物を取り壊せば、その建物に権利は発生しなくなるからです。
ただし、解体後も市区町村の課税台帳には情報が残ってしまうため、固定資産税が課税され続けないよう、解体後は必ず役場(資産税課など)に「家屋滅失届出書」を提出しなければなりません。この届出を怠ると、固定資産税の負担が続くことになります。
5.早期対応と専門家への相談の重要性
未登記建物を相続することは、通常の相続手続きに加えて、表題登記と所有権保存登記という2段階の作業が必要となり、非常に複雑で手間がかかります。特に、相続登記の義務化が進む現代において、未登記のまま放置すれば、過料のリスクや所有権を主張できないといった深刻なデメリットが生じます。
また、遺産分割協議書の作成においても、未登記建物の特定には専門的な知識が必要であり、相続税の計算においても、建物の評価が難しくなることがあります。
名義変更を確実に行い、将来的なトラブルや税金のリスクを避けるためには、未登記建物が判明した時点で速やかに、土地家屋調査士や司法書士といった専門家に相談し、適切な手続きを進めることが最善の策といえるでしょう。

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相続登記の登録免許税の計算方法
相続が発生し、亡くなった方が所有されていた不動産を承継する場合、相続登記(正式名称:相続による所有権移転登記) の手続きが必須となります。この手続きは、不動産の所有権を公的に証明するために不可欠ですが、申請時には登録免許税という税金が課されます。
2024年4月1日からは相続登記が義務化され、不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請を行わないと、10万円以下の過料が科される可能性があるため、迅速かつ正確な手続きが求められます。
本記事では、相続登記をスムーズに進めるために、登録免許税の基本的な計算方法から、正確な税額を導くための具体的な手順、適用される免税措置、そして納付方法までを詳しく解説します。
1.登録免許税とは:相続登記に必要な税金の基礎知識
登録免許税は、不動産や会社、資格などに関する登記・登録といった行政サービスに対して課される国税です。相続登記の場合、その税額は、対象となる不動産の価格(課税標準額)に一定の税率をかけて算出されます。
相続や遺贈によって不動産を取得した場合は、登録免許税の税率は0.4%が適用されるのが一般的です。ただし、遺贈によって相続人以外の人が不動産を取得した場合は、税率が2.0%となります。
登録免許税の計算式は以下の通りです。
登録免許税額 = 課税標準額 × 税率
この計算を正確に行うことが、適正な納税、ひいてはスムーズな相続登記の鍵となります。
2.登録免許税の「課税標準額」を確定する手順
登録免許税の計算の基礎となる課税標準額は、不動産の固定資産税評価額を基に算出されます。課税標準額を確定するためには、次のステップを踏みます。
1. 固定資産税評価額の確認と課税明細書の見方
まず、課税標準額の基となる不動産の固定資産税評価額を調べる必要があります。この情報は、主に以下の書類で確認できます。
- 固定資産税・都市計画税 課税明細書
- 固定資産評価証明書
課税明細書は、通常、毎年4月から6月頃に不動産の所有者宛に送付される固定資産税の納税通知書に同封されています。
課税明細書の「見方」で注意すべき点
課税明細書や固定資産評価証明書を確認する際、登録免許税の計算基準となるのは「価格」または「評価額」と表記されている箇所です。
書類上には、「固定資産税課税標準額」という名称の金額も記載されていますが、これは固定資産税などを計算するための基準であり、登録免許税の算定基準とは異なりますので、絶対に混同しないように注意しましょう。
また、計算に使用する評価額は、登記を申請する日が属する年度(4月1日~翌年3月31日)の最新のものを使用しなければなりません。
2. 課税標準額の計算ルール
複数の不動産がある場合
相続登記を一つの申請書で複数の不動産について行う場合(例:土地と建物、または複数筆の土地)、それぞれのすべての固定資産税評価額を合算します。
合算した合計額について、1,000円未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てます。この切り捨てを行った金額が、登録免許税の課税標準額となります。
共有持分を相続する場合
亡くなった方が不動産の一部(共有持分)を所有していた場合、不動産全体の固定資産税評価額に、移転する持分の割合をかけて、相続する持分の評価額を算出し、その後1,000円未満の切り捨てを行います。
3. 特殊な不動産の場合の評価額
マンション(敷地権付き区分建物)
マンションを相続する場合、建物(専有部分)の評価額に加えて、土地(敷地部分)の評価額も考慮します。敷地部分の評価額は、マンション全体の土地の評価額に、敷地権割合をかけて算出し、建物と合算します。
非課税の土地(私道など)
私道や公衆用道路など、固定資産税が非課税となっている土地であっても、相続登記を行う際には登録免許税が課税されます。これらの非課税地の評価額が固定資産評価証明書に記載されていない場合、近隣の宅地(近傍宅地)の単価を基に評価額を算出します。公衆用道路の場合、近傍宅地の1㎡あたりの価額に地積と30%を乗じて計算するのが一般的です。
3.最終的な税額の算出と端数処理
課税標準額に税率(相続人の場合は0.4%)をかけた後、最終的な税額を確定するために再度端数処理が必要です。
算出した金額に100円未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てます。 また、計算結果が1,000円未満となった場合でも、登録免許税の最低額は1,000円と定められています。
4.相続登記の登録免許税の免税措置
長期間放置された相続登記の解消を促すため、現在、土地に限り登録免許税が免除される免税措置が設けられています。この措置は令和9年3月31日までに登記申請を行った場合に適用されます。
1. 免税措置が適用される2つのケース
以下の2つの要件を満たす土地の相続登記が免税措置の対象となります。
① 相続登記をしないまま亡くなった場合(数次相続)
相続人が相続により土地を取得したにもかかわらず、その相続登記を行わないまま死亡した場合、その亡くなった個人の名義とするための相続登記については、登録免許税が免除されます。これは、数次相続が発生した場合の、中間省略登記が可能でない場合の一次相続登記の負担を軽減するものです。
② 土地の価額が100万円以下の場合
相続によって取得した土地の固定資産税評価額(価額)が100万円以下であるときは、登録免許税が免除されます。この基準は、令和4年度の税制改正で10万円から100万円に引き上げられ、適用対象が全国に拡大されました。
2. 免税措置を受けるための手続き
免税措置の適用を受けるためには、法務局に提出する登記申請書に、その根拠となる法令の条項を必ず記載しなければなりません。
• 数次相続の場合:「租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税」。
• 価額100万円以下の場合:「租税特別措置法第84条の2の3第2項により非課税」。
この記載が漏れると、免税措置は適用されませんので、細心の注意が必要です。
5.登録免許税の納付方法
登録免許税は、相続登記の申請を行う際に納付します。納付方法は主に以下の3種類です。
1. 収入印紙による納付
実務上、最も一般的な納付方法です。郵便局などで購入した収入印紙を、登記申請書に添付する別紙に貼り付けて提出します。高額な場合でもこの方法が利用されることが多いです。
2. 現金による納付
現金で納付する場合、法務局の窓口では直接支払いができないため、金融機関または税務署で納付手続きを行います。納付後、交付された領収証書を登記申請書に添付して提出します。
3. キャッシュレス(オンライン)納付
オンラインで登記申請を行う場合は、インターネットバンキングやモバイルバンキング、ATMを利用して電子納付が可能です。これにより、自宅などから申請から納付までの手続きを完了できます。
6.司法書士へのご相談をおすすめいたします
登録免許税の計算は、複数の不動産や特殊な評価が必要な場合、また課税明細書と登記簿の情報の相違がある場合の見方の判断など、専門的な知識が必要とされる場面が多くあります。正確かつスムーズに手続きを完了させたい、複雑な計算や書類の準備に不安があるという場合は、ぜひ専門家にご相談ください。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
遺言書に残す「付言」とは?あなたの想いを伝える方法
遺言書を作成する際、財産の分け方だけでなく、ご家族への想いや感謝の気持ちを伝えたいとお考えの方は多いのではないでしょうか。そんな想いを形にするのが「付言(ふげん)」です。今回は、遺言書における付言の役割や書き方、具体的な例文についてご説明します。
1.付言とは何か
付言とは、遺言書の末尾に記載する、法的効力を持たない自由なメッセージのことです。財産の分配方法や相続人の指定といった法的な事項とは異なり、遺言者の想いや考え、家族への感謝の言葉などを自由に表現できる部分となります。
法的拘束力はありませんが、遺言者の真意や財産分配の理由を説明することで、相続人同士のトラブルを防ぐ効果が期待できます。また、残されたご家族にとって、故人の想いを知ることができる大切な部分となるのです。
2.付言を書くメリット
相続トラブルの予防
遺産分割の内容について、なぜそのような配分にしたのか理由を説明することで、相続人の理解を得やすくなります。特に、法定相続分と異なる分配をする場合や、特定の相続人に多くの財産を残す場合には、その理由を付言で説明しておくことで、不公平感を和らげる効果があります。
家族への想いを伝える
日頃は照れくさくて言えない感謝の気持ちや、家族への願いを伝えることができます。付言は、あなたの最後のラブレターとも言えるでしょう。
相続人以外へのメッセージ
法定相続人ではない方への感謝の言葉や、お世話になった方へのメッセージを残すこともできます。
3.付言の書き方のポイント
1. 前向きな表現を心がける
できるだけ前向きで温かい表現を使い、家族の絆を深めるような内容にしましょう。批判的な言葉や否定的な表現は避けることをおすすめします。
2. 配分の理由を丁寧に説明する
特定の相続人に多く財産を残す場合は、その理由を具体的に説明することで、他の相続人の理解を得やすくなります。「長男には事業を継いでもらうため」「長女には介護をしてもらったことへの感謝として」など、客観的な理由を記載しましょう。
3. 感謝の気持ちを具体的に
「ありがとう」だけでなく、何に対して感謝しているのか具体的に書くことで、より想いが伝わります。
4. 将来への希望を込める
残された家族に対して、幸せを願う気持ちや、仲良く暮らしてほしいという願いを伝えましょう。
4.付言の例文
例文1:家族への感謝を伝える場合
「妻の花子へ。長年にわたり、私を支えてくれて本当にありがとう。あなたと過ごした日々は、私の人生で最も幸せな時間でした。これからは、自分のために時間を使い、健康で楽しい毎日を送ってください。子どもたちへ。立派に成長してくれて、父として誇りに思っています。これからもお母さんを大切にし、兄弟仲良く助け合って生きていってください。皆の幸せを心から願っています。」
例文2:財産分配の理由を説明する場合
「長男の太郎には、先代から続く家業を継いでもらうため、自宅と事業用資産を相続させることにしました。長女の美咲には、これまで私たち夫婦の介護に献身的に尽くしてくれたことへの感謝の気持ちとして、預貯金を多めに相続させます。次男の健一は既に独立して事業で成功しているため、今回の配分としましたが、お前の頑張りを誇りに思っています。この分配方法に兄弟で理解し合い、これからも互いに助け合って生きていってください。」
例文3:シンプルに想いを伝える場合
「家族みんなへ。私は幸せな人生を送ることができました。それは、あなたたちがいてくれたからです。心から感謝しています。これからも、家族みんなが健康で幸せに暮らせることを祈っています。喧嘩することもあるでしょうが、最後は必ず仲直りして、支え合ってください。本当にありがとう。」
例文4:相続人以外へのメッセージを含める場合
「相続人である子どもたちへ。遺産の分配については遺言書に記載した通りです。お母さんを最後まで大切にしてください。また、長年お世話になった友人の山田さんには、法的な相続はできませんが、私の蔵書を形見として受け取っていただければ幸いです。家族みんなが幸せに暮らすことが、私の一番の願いです。
5.付言を書く際の注意点
法的効力はない
付言には法的拘束力がありません。「○○には財産を渡さないでほしい」といった内容を付言に書いても、遺言書の本文で相続人として指定されていれば、その効力が優先されます。法的に効力を持たせたい事項は、必ず遺言書の本文に記載する必要があります。
誤解を招く表現は避ける
曖昧な表現や、解釈によって複数の意味に取れる表現は避けましょう。明確で分かりやすい言葉を選ぶことが大切です。
特定の人を傷つける内容は避ける
批判や悪口、特定の相続人を貶めるような内容は、かえって家族間のトラブルを招く原因となります。どうしても伝えたいことがある場合でも、表現には十分配慮しましょう。
公正証書遺言でも付言は書ける
自筆証書遺言だけでなく、公正証書遺言でも付言を記載することができます。公証人に作成してもらう際に、付言も含めて口述すれば、遺言書に盛り込んでもらえます。
付言は、法的効力はないものの、遺言者の想いを家族に伝え、相続トラブルを未然に防ぐ重要な役割を果たします。財産の分配理由を説明したり、家族への感謝や愛情を表現したりすることで、円満な相続の実現につながります。
遺言書は、単なる財産分配の書類ではなく、あなたの人生の集大成とも言える大切な文書です。付言を通じて、ご家族への想いをしっかりと伝えることで、より意味のある遺言書となるでしょう。
6.遺言書作成は高野司法書士事務所にお任せください
遺言書の作成には、法的要件を満たすことはもちろん、ご家族の状況に応じた適切な内容にすることが重要です。付言の書き方一つで、ご家族の受け止め方も大きく変わってきます。
高野司法書士事務所では、遺言書作成の豊富な経験を活かし、お客様のご希望やご家族の状況を丁寧にお伺いしながら、最適な遺言書作成をサポートいたします。付言の文面についても、想いが伝わる表現になるようアドバイスさせていただきます。
初回相談は無料ですので、遺言書の作成をお考えの方は、ぜひお気軽に高野司法書士事務所までご相談ください。あなたの大切な想いを、確実にご家族に届けるお手伝いをさせていただきます。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
亡くなった親の預金、どう引き出す?
「親が亡くなったが、葬儀費用や当面の生活費をどう工面したらよいのだろうか」—このような状況で、故人名義の預貯金口座に頼りたいと考えるのは自然なことです。しかし、故人の銀行口座は、死亡の事実が金融機関に伝わった時点で原則として凍結され、自由に引き出しができなくなります。
この凍結を解除し、預金を引き出すためには、法律に基づいた相続手続きを行う必要があります。本記事では、故人の預貯金を引き出すための具体的な方法、急ぎで資金が必要な場合の仮払い制度の活用、そして相続トラブルを未然に防ぐための注意点について、分かりやすく解説します。
1.故人の預貯金口座の現状:なぜ口座凍結されるのか
誰かが亡くなると、その人名義の預金は遺産となり、相続人全員の共有財産となります。金融機関が口座名義人の死亡を知ると、遺産が確定するまでの間、財産の保全と相続人同士の不正な引き出しを防ぐ目的で、直ちに口座を凍結します。
凍結された口座からは、キャッシュカードや通帳を使った預金の引き出しはもちろん、振り込みや公共料金などの自動引き落としもできなくなります。
銀行が死亡の事実を知るタイミング
金融機関が名義人の死亡を知るきっかけの多くは、相続人や親族からの連絡です。死亡届を役所に提出しても、その情報が金融機関に自動的に共有されることはありません。しかし、新聞の訃報や葬儀の情報などをきっかけに、銀行が死亡の事実を把握し、遺族に確認した上で凍結措置を取ることもあります。
2.凍結前(死亡直後)の引き出しと潜在的リスク
故人の死亡後であっても、金融機関がまだ死亡の事実を把握しておらず、口座が凍結されていない状態であれば、キャッシュカードと暗証番号を使って預金を引き出すことは物理的には可能です。しかし、この行為には重大なリスクが伴います。
トラブルを避けるための鉄則:事前共有と記録
故人名義の預金は、遺産分割が完了するまでは相続人全員の共有財産です。たとえ葬儀費用などやむを得ない目的であっても、他の相続人に無断で預金を引き出すと、後に「使い込みではないか」と疑われ、相続トラブルに発展する可能性が非常に高くなります。
トラブルを回避するためには、以下の2点を徹底することが極めて重要です。
- 他の相続人全員に事前に(もしくは直後に)引き出しの事実と目的を共有する。
- 引き出した金額を証明できる領収書や明細書を必ず残し、使用使途を明確にする。
相続放棄ができなくなるリスク(単純承認)
最も注意すべきリスクの一つが単純承認とみなされることです。故人に多額の借金(マイナスの財産)があった場合、相続人は相続放棄を選択できますが、預金の一部を「自分のために」使ってしまうと、単純承認が成立し、負債を含めた全ての財産を相続せざるを得なくなります。
葬儀費用などの支払いは問題視されにくいとされる一方で、個人的な用途に使ったと判断されると危険です。借金の有無が不明な場合は、安易に預金に手を付けず、正式な手続きを踏むべきです。
3.口座凍結後に預金を引き出す3つの方法
口座が凍結された後、預金を引き出すには、主に「正式な相続手続き」「遺産分割前の払戻し制度」「家庭裁判所の仮処分」の3つの方法があります。
1. 原則的な方法:正式な相続手続きによる払い戻し
最も確実な方法は、遺産分割を確定させ、銀行に対して凍結解除と払い戻し(解約)を依頼する手続きです。
手続きの3ステップ
一般的な銀行の相続手続きは、以下のステップで進められます。
1. ステップ1:金融機関への連絡と必要書類の確認 故人が口座を持っていた金融機関に連絡し、相続手続きを開始したい旨を伝えます。銀行側から必要な書類の一覧や所定の届出用紙が案内されます。
2. ステップ2:必要書類の収集と提出 相続の状況に応じた書類を収集し、銀行所定の書類に記入・捺印(相続人全員の実印が必要な場合が多い)の上、提出します。
3. ステップ3:口座の解約・払い戻し 提出された書類に基づき、銀行側で審査が行われます。手続き完了までには通常2週間~1ヶ月程度かかるとされています。
相続状況別の必要書類
必要な書類は、遺言書の有無や遺産分割協議が成立しているかどうかによって大きく異なります。
| 相続パターン | 主な必要書類 | 根拠となる書類 |
| 遺言書がある場合 | 被相続人の戸籍謄本、遺言書(原本)、検認済証明書(公正証書遺言等以外)、預金を受け取る相続人の印鑑証明書 | 遺言書 |
| 遺言書はないが遺産分割協議書がある場合 | 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書 | 遺産分割協議書 |
| 遺言書も遺産分割協議書もない場合(法定相続分での分割など) | 上記の戸籍謄本一式、相続人全員の印鑑証明書、金融機関所定の相続関係届出書など | 相続人全員の協力 |
特に、戸籍謄本は故人の出生から死亡までの連続したものが必要とされることが多く、収集に時間がかかるため、早めに準備を始めることが重要です。
2. 急ぎの場合に便利:遺産分割前の払戻し制度
葬儀費用や当面の生活費など、緊急で資金が必要な場合は、2019年の相続法改正で新設された「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」(仮払い制度)の活用が有効です。
この制度を利用すれば、遺産分割協議が完了する前でも、相続人単独で故人の預金の一部を引き出すことが可能です。
払戻しの上限額
金融機関の窓口で手続きを行う場合、引き出せる金額には以下の上限が設けられています。
- 引き出し上限額:相続開始時の預金残高 × 1/3 × 払い戻しを行う相続人の法定相続分
- 金融機関ごとの上限:上記計算結果が150万円を超える場合でも、1金融機関あたり150万円が上限となります。
- 例:預金残高600万円、法定相続人:配偶者と子2人(法定相続分がそれぞれ1/2、1/4)の場合
- 配偶者:600万円 × 1/3 × 1/2 = 100万円
- 子(1人あたり):600万円 × 1/3 × 1/4 = 50万円
必要書類(仮払い制度利用時)
この制度を利用する場合の主な必要書類は、以下の通りです。
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 払戻しを希望する相続人の印鑑証明書
3. 高額な資金が必要な場合:家庭裁判所の仮処分
上記の払戻し制度の上限額(150万円)を超えて、緊急でまとまった資金が必要な場合は、家庭裁判所の保全処分(預貯金債権の仮分割の仮処分)を利用する方法があります。
この手続きは、遺産分割の調停や審判が家庭裁判所に申し立てられていることが前提となります。裁判所が払戻しの必要性(債務の弁済や相続人の生活費の支弁など)を認め、他の相続人の利益を害さないと判断した場合、一定の金額の引き出しが許可されます。
4.相続放棄を検討している場合の注意点
故人に借金などのマイナス財産が多い可能性がある場合、相続放棄を検討することが重要です。
相続放棄を検討しているにもかかわらず、故人の預金に手を付けてしまうと、単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなるリスクがあります。
• 預金残高が少ない場合であっても、手続きの手間を考慮して、あえて口座凍結を解除せずに放置しておくという選択肢もあります。
• 相続財産に手を付けたかどうかは、預金をおろした目的や使途によって判断されますが、トラブルを防ぐためにも、相続放棄や限定承認を視野に入れている場合は一切預金に触れないことが賢明です。
相続放棄や限定承認は、自己のために相続があったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があり、期限が定められています。
5.生前からできるトラブル回避のための準備
亡くなった後の預金引き出し手続きをスムーズに行い、残された家族の負担を軽減するためには、親が元気なうちに生前対策を講じることが非常に有効です。
1. 銀行口座の一覧表作成と整理
親がどの金融機関に口座を持っているか、残高はどの程度かという情報を一覧表にして把握しておくと、相続発生後の財産調査の負担が大幅に軽減されます。
また、複数の銀行に口座が分散していると、それぞれの銀行で手続きが必要となり、遺族の手続きの労力が大きくなります。可能な限り口座を統一・集約しておくことも、手続きを効率化するための有効な対策です。
2. 遺言書の作成を促す
遺言書が残されていれば、預貯金を含む財産の分配方法が明確になるため、遺産分割協議が不要になる、または大幅に短縮され、口座の凍結解除もスムーズになります。
遺言書がない場合、遺産分割協議書の作成が必要となり、相続人同士の話し合いが長引いたり、家族間の軋轢を生んだりする原因となりかねません。トラブルの未然防止のためにも、遺言書の作成は非常に有効な手段です。
6.まずは当事務所へご相談ください
親が亡くなった際の預貯金を引き出すプロセスは、まず故人の口座が凍結されることから始まります。この凍結を解除し、正式に預金を引き出すには、遺言書や遺産分割協議書の有無に応じた複雑な相続手続きと、戸籍謄本などの多くの必要書類の収集が必要です。
緊急で資金が必要な場合は、遺産分割前の払戻し制度を利用すれば、1金融機関あたり150万円を上限として、相続人単独で預金の一部を引き出すことができます。
いずれの方法を選択するにしても、他の相続人との情報共有と、使途を証明するための領収書や明細の保管を徹底し、相続トラブルや単純承認のリスクを避けることが何よりも重要です。
相続手続きは専門的な知識を要し、収集すべき書類や手続きの期限など、複雑な要素が多く含まれます。お客様の状況に合わせた最適な手続きを選択し、円滑な相続を実現するため、判断に迷うことがあれば、まずは当事務所にご相談ください。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続放棄申述受理証明書の取得方法とその活用
相続放棄は、被相続人(亡くなった方)の負債を含めた財産を一切引き継がないための重要な手続きです。この相続放棄が家庭裁判所に受理されたことを公的に証明する書類が、「相続放棄申述受理証明書」です。
本記事では、この証明書が必要となる具体的なケースや、申請書の入手方法、書き方、本人以外による取得手順、再発行の方法など、証明書を取得するための詳細な手順を解説します。
1.相続放棄申述受理証明書とは?通知書との違い
相続放棄申述受理証明書は、相続放棄の申述が家庭裁判所に認められた事実を公的に証明するための書類です。この書類は、相続放棄の事実を第三者(債権者や他の相続人など)に示し、自己が相続人ではないことを対外的に明らかにするために利用されます。
相続放棄が受理されると、家庭裁判所から自動的に「相続放棄申述受理通知書」が申述人(相続放棄をした本人)に送付されますが、この通知書と証明書には以下のような違いがあります。
| 比較項目 | 相続放棄申述受理証明書 | 相続放棄申述受理通知書 |
| 書類の目的 | 公的な証明(第三者への提示) | 受理の通知(申述人へのお知らせ) |
| 交付方法 | 家庭裁判所への申請が必要 | 受理後に自動的に郵送される |
| 取得できる人 | 申述人本人 および 利害関係人 | 申述人本人のみ |
| 取得費用 | 1通につき150円(収入印紙) | 無料 |
| 再発行の可否 | 再発行が可能 | 再発行は不可 |
相続登記などの手続きにおいて、以前は証明書が必要でしたが、現在では証明書と同等の内容が記載されている通知書も使用が認められる場合があります。しかし、提出先によっては証明書を要求される場合もあるため、事前にどちらの書類が必要かを確認することが推奨されます。
2.相続放棄申述受理証明書が必要となる主な場面
相続放棄申述受理証明書は、主に以下のような状況で必要とされます。
1. 債権者からの請求に対応するとき
被相続人(亡くなった方)が多額の負債を抱えていた場合、相続放棄をした事実が債権者に自動的に知らされるわけではありません。そのため、債権者から借金の支払い請求がなされることがあり、その際に自身が相続人ではないことを証明するために証明書が必要となります。多くの場合、通知書のコピーで対応できますが、債権者によっては証明書の提出を求められることがあります。
2. 不動産の相続登記を行うとき
被相続人が所有していた不動産の名義を変更する際、他の相続人の中に相続放棄をした人がいる場合、その放棄を証明するために証明書を法務局に提出する必要があります。
3. 金融機関での手続き(預貯金の解約など)
被相続人の預貯金口座の解約や名義変更の手続きを金融機関で行う際、相続放棄をした相続人がいる場合、金融機関から証明書の提出を求められることがあります。金融機関によって必要書類が異なるため、事前の確認が重要です。
4. 相続放棄申述受理通知書を紛失した場合
通知書は再発行ができないため、紛失してしまった場合や原本を複数枚提出する必要がある場合、それに代わる公的書類として証明書を取得することになります。
3.証明書の申請方法と書き方
証明書を取得するためには、相続放棄の申述が受理された家庭裁判所(被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所)に交付申請を行います。申請は、裁判所の窓口に直接提出する方法と、郵送で行う方法があります。
1. 申請書とダウンロード
交付申請には「相続放棄申述受理証明申請書」が必要です。 この申請書は、通常、相続放棄申述受理通知書に同封されています。もし紛失した場合は、管轄の家庭裁判所の窓口で受け取るか、裁判所のホームページからダウンロードして印刷することも可能です。
2. 申請書の書き方と事件番号
申請書に必要事項を記入する際、特に重要なのが「事件番号」です。事件番号は、裁判所が相続放棄の申述を管理するために付与する番号で、「相続放棄申述受理通知書」に記載されています。
申請書には、申請者の氏名、電話番号、必要な通数などを記載し、交付手数料として1通につき150円分の収入印紙を所定欄に貼り付けて提出します。
3. 申述人本人が申請する場合の必要書類
相続放棄をした本人が交付を請求する場合、主に以下の書類が必要です。
- 相続放棄申述受理証明申請書(収入印紙150円×必要通数分を貼付)
- 申述人の本人確認書類(運転免許証、健康保険証など。郵送の場合は写し)
- 相続放棄申述受理通知書(郵送請求の場合は不要、または写しでよい場合がある)
- 認印
- 返信用封筒と切手(郵送請求の場合のみ)
※申述時の氏名や住所が変更されている場合は、氏名・住所のつながりが分かる戸籍謄本や住民票などの書類が追加で必要になります。
4.本人以外(利害関係人)による取得方法
相続放棄申述受理証明書は、申述人本人だけでく、他の相続人や債権者などの利害関係人も交付を申請し、取得することができます。利害関係人とは、共同相続人、次順位相続人、相続債権者、受遺者などが該当します。
1. 本人以外が申請する場合の必要書類
本人以外が申請する場合、上記の書類に加えて、「利害関係があることを証する書類」を提出する必要があります。
• 相続人として申請する場合: 申述人との相続関係がわかる戸籍謄本類(被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本や除籍謄本、申請者の戸籍謄本など)。
• 債権者として申請する場合: 債権者であることを証明する資料(金銭消費貸借契約書、ローン契約書など)。法人の場合は法人の資格証明書なども必要です。
※利害関係人が申請する際は、個別の状況によって必要な書類が大きく異なる可能性があるため、事前に申請先の家庭裁判所に確認することが強く推奨されます。
2. 事件番号の照会
本人以外の利害関係人が申請する場合や、申述人本人が通知書を紛失し事件番号が不明な場合、証明書の申請に先立って、家庭裁判所に「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会」を行い、事件番号や受理年月日を確認する必要があります。この照会手続きは無料で、照会申請書と必要添付書類を提出して行います。
5.相続放棄申述受理証明書の再発行と注意点
1. 再発行は何度でも可能
相続放棄申述受理証明書は、申請すれば何度でも再発行を受けることが可能です。もし証明書を紛失してしまっても、特別な手続きは必要なく、再度交付申請を行えば取得できます。
ただし、再発行の際にも、1通あたり150円の交付手数料(収入印紙)が必要です。
2. 交付申請の期限と保管期間
相続放棄に関する裁判所の書類の保存期間は30年間と定められています。したがって、申述から30年が経過すると、記録が破棄され、証明書の再発行ができなくなる可能性があります。通常、債権の時効は5年〜10年であるため、30年後に証明書が必要になるケースは稀ですが、必要な場合は早めに申請することが推奨されます。
6.お困りの場合は専門家へご相談を
相続放棄申述受理証明書は、相続放棄を公的に証明し、第三者との関係を明確にするために不可欠な書類です。通知書とは異なり、この証明書は申請書を提出し、手数料を納めることで交付されます。
申述人本人以外(利害関係人)も取得可能ですが、その場合は利害関係を証明する書類が必要です。また、再発行は何度でも可能ですが、その都度申請が必要です。申請書の書式は家庭裁判所のホームページからダウンロードでき、書き方としては、通知書に記載されている「事件番号」の記入が重要となります。
相続放棄の手続きや証明書の取得に不安がある場合は、専門家にご相談されることをお勧めいたします。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
