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【相続】タンス預金はなぜバレる?税務署が隠し財産を見抜く5つの理由

2026-01-07

「親が亡くなり、遺品整理をしていたらタンスの奥から多額の現金が出てきた」 「銀行から引き出した現金を自宅に保管していた場合、相続税の申告は必要なの?」

相続の手続きを進める中で、こうした「タンス預金(自宅保管の現金)」の扱いに悩む方は少なくありません。中には、「銀行口座に入っているわけではないし、現金なら税務署にバレないだろう」と考えてしまう方もいらっしゃいます。

しかし、結論から申し上げますと、タンス預金は税務署に高い確率でバレます。 安易に隠してしまうと、後から「重加算税」などの重いペナルティを課されるだけでなく、相続人同士のトラブルに発展する可能性もあります。

今回は、なぜ税務署は隠し財産を見抜くことができるのか、その「5つの理由」と、タンス預金が見つかった場合の正しい対処法について、相続の専門家である司法書士の視点から解説します。

1.そもそも「タンス預金」も相続税の対象になる?

まず大前提として、タンス預金(手元現金)も立派な相続財産です。

相続税は、亡くなった方(被相続人)が保有していた「経済的価値のあるすべてのもの」に対して課税されます。預貯金、不動産、株式はもちろんのこと、自宅の金庫やタンス、仏壇の引き出しに入っていた現金も、すべて合算して申告する必要があります。

「へそくりだから」「家族も知らなかったから」という理由は通用しません。もし、これを除外して遺産分割協議を行ったり、税務申告を行ったりした場合、脱税や申告漏れとみなされるリスクがあります。

2.税務署がタンス預金を見抜く5つの理由

「現金そのものに名前は書いていないのに、なぜ税務署にバレるのか?」 多くの方が疑問に思う点ですが、日本の税務署(国税局)の調査能力は極めて高いです。彼らは現物を探すのではなく、「お金の流れ」と「データの整合性」からタンス預金の存在をあぶり出します。

ここでは、税務署がタンス預金を見抜く主な5つの手法を解説します。

1. 国税総合管理システム(KSK)によるデータ分析

税務署はKSK(国税総合管理システム)という巨大なデータベースを持っています。ここには、国民の過去の所得税の申告内容、固定資産の保有状況、支払調書などの情報が集約されています。

税務署は、亡くなった方の過去の収入から「これくらいの資産が残っているはずだ」という理論上の数値を算出します。 例えば、生涯で3億円の収入があったはずの人が、預金500万円しか申告していない場合、「差額はどこに消えたのか?(タンス預金ではないか?)」とシステムがアラートを出します。このデータとの乖離(かいり)が、調査のきっかけとなります。

2. 過去10年分の預金口座の入出金履歴

相続が発生すると、税務署は職権で金融機関に対し、被相続人の過去の取引履歴(通常過去10年分、場合によってはそれ以上)を照会することができます。

  • 亡くなる直前の多額の引き出し
  • 定期的な数十万円単位の引き出し
  • 使途が不明な出金

これらは徹底的にチェックされます。「生活費に使った」と主張しても、領収書がなかったり、生活水準と比べて金額が大きすぎたりする場合は、「手元に現金として残っている」と判断されます。

3. 相続人(家族)の預金口座の動き

調査の対象は、亡くなった本人だけではありません。配偶者や子供、孫などの口座もチェックされます。 これを「名義預金」の調査といいます。

例えば、専業主婦である妻の口座に多額の入金があったり、収入に見合わない預金額があったりする場合、「夫(被相続人)の財産を移しただけではないか」と疑われます。また、相続発生直後に相続人の口座へ急な入金があれば、タンス預金を移したことがすぐに露呈します。

4. 不動産や高級車の購入履歴

税務署は登記情報も把握しています。もし、相続税の申告額が少ないにもかかわらず、相続人が相続直後にローンを組まずに不動産を購入したり、高級車を一括払いで購入したりしていれば、「その資金源は申告していないタンス預金ではないか?」と疑われます。

5. 相続税調査官による実地調査

データ分析で「怪しい」と判断された場合、税務調査官が自宅へやってくる「実地調査」が行われます。 調査官はプロフェッショナルです。金庫の中身はもちろん、タンスの裏、床下、怪しい封筒の束、さらには家族の会話の端々から隠し財産を見つけ出します。「お父様は現金を好む方でしたか?」といった何気ない質問から、タンス預金の存在を特定していくのです。

3.バレた時の代償は大きい!ペナルティとリスク

もしタンス預金を隠して申告し、それが税務調査で発覚した場合、本来払うべき税金に加えて、重いペナルティが課せられます。

  • 過少申告加算税: 本来の税額より少なく申告していた場合の罰金。
  • 延滞税: 納付が遅れたことによる利息のような税金。
  • 重加算税: ここが最も恐ろしい点です。 「わざと隠した(仮装・隠蔽)」と判断された場合、最大40%もの重加算税が課されます。

また、税金の問題だけでなく、遺産分割協議のやり直しが必要になることも大きなリスクです。 「お兄ちゃん、実はタンス預金を隠し持っていたの?」と他の相続人にバレれば、親族間の信頼関係は崩壊し、泥沼の争いに発展しかねません。

4.タンス預金が見つかったらどうすべき?

実家の片付けなどでタンス預金が見つかった場合、以下の手順で適切に処理を行うことが、結果的に自分自身を守ることになります。

  1. 金額を正確に数える いつ、どこから、いくら出てきたかを記録し、証拠として写真を撮っておきましょう。
  2. 財産目録に記載する 預貯金や不動産と同じように、「現金」として財産目録に計上します。
  3. 遺産分割協議書に明記する 誰がその現金を相続するのかを話し合い、遺産分割協議書に「現金 〇〇円」と記載します。
  4. 正直に申告する 相続税の申告が必要な場合は、包み隠さず税理士に伝え、申告書に記載します。

5.相続手続きは「正確な財産調査」から始まります

タンス預金に限らず、株式、不動産、借金など、相続財産の全容を把握するのは非常に労力がかかる作業です。 「うっかり申告漏れをしてしまった」「後から借金が見つかって大変なことになった」という事態を防ぐためには、初期段階での正確な財産調査と、法的に有効な遺産分割協議書の作成が不可欠です。

高野司法書士事務所にお任せください

「実家から現金が出てきたけれど、どう扱えばいいかわからない」 「相続財産がどれくらいあるのか、正確に調査したい」 「後々のトラブルを防ぐために、きちんとした遺産分割協議書を作りたい」

このようにお悩みの方は、ぜひ高野司法書士事務所にご相談ください。

当事務所は、相続・遺言手続きを専門とする司法書士事務所です。 複雑な戸籍の収集から、預貯金・株式の解約手続き、不動産の名義変更、そしてもっとも重要な「遺産分割協議書」の作成まで、相続に関する手続きをトータルでサポートいたします。

タンス預金を含め、財産をどのように分けるのがご家族にとって一番円満か、法的な観点からアドバイスさせていただきます。また、相続税の申告が必要な場合は、信頼できる提携税理士をご紹介し、ワンストップで対応できる体制を整えております。

「隠す」のではなく「正しく引き継ぐ」ことが、故人の想いを大切にする一番の方法です。 無料相談も行っておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。お客様の不安を取り除き、スムーズな相続完了まで伴走いたします。

【相続】どこの証券会社かわからない…「ほふり」を使った株式調査

2025-12-20

家族が亡くなった後、遺産を整理していると「株をやっていたと聞いたことはあるが、どこの証券会社を使っていたのかさっぱりわからない」という事態に直面することがあります。かつてのような紙の株券は2009年に電子化され、現在はすべてデータで管理されているため、手がかりがないと調査は困難を極めます。

そのようなときに頼りになるのが、日本の証券決済インフラを一手に担う証券保管振替機構(通称:ほふり)です。本記事では、証券会社が不明な株式を調査するための「ほふり」への開示請求について、手続きの流れや必要書類をわかりやすく解説します。

1.証券会社がわからない…そんな時の救世主「ほふり」とは?

「ほふり」とは、証券保管振替機構の略称です。日本で唯一の振替機関として、上場企業の発行する株式や投資信託などの権利を電子的に一括管理しています。

2009年(平成21年)の株券電子化以降、上場株式はすべてデジタルデータとしてこの機構に登録されるようになりました。そのため、亡くなった方(被相続人)がどこの証券会社に口座を持っていたとしても、「ほふり」に問い合わせれば、その口座が開設されている金融機関名を特定できるという仕組みです。

近年、新NISAの普及やスマートフォン証券の台頭により、ご家族に投資状況を知られないまま証券口座を保有している方も少なくありません。そのため、相続発生時に「ほふり」への調査依頼を行うケースが実務上増えています。

2.「ほふり」への開示請求でわかること・わからないこと

調査を始める前に、まず開示請求によって何が判明し、何が判明しないのかを正しく理解しておく必要があります。

確認できる情報

  • 口座が開設されている金融機関名(証券会社や信託銀行など)の一覧
  • 口座管理機関ごとの「加入者口座コード」

確認できない情報

  • 保有している株式の銘柄名
  • 株式の保有残高や評価額
  • 過去の取引履歴
  • 非上場株式や外国株式の口座情報(原則として対象外)

つまり、「ほふり」はあくまで「どこに口座があるか」を教えてくれる窓口であり、具体的な中身については、判明した証券会社に対して個別に問い合わせる必要があります。

3.開示請求ができる人は誰?

大切な個人情報を扱うため、誰でも請求できるわけではありません。相続において請求が認められているのは、主に以下の方々です。

1. 法定相続人(亡くなった方の配偶者や子供など)

2. 法定相続人の法定代理人(親権者や成年後見人など)

3. 法定相続人から委任を受けた任意代理人(司法書士や行政書士など)

4. 遺言執行者(遺言書で指定された人)

内縁のパートナーや、相続権のない親族は直接請求することができないため注意が必要です。

4.手続きの具体的な流れ

「ほふり」への調査は、すべて郵送で行います。窓口での受付や、電話・メールによる回答は一切行われていません。

ステップ1:必要書類の準備

まず、機構のホームページから「登録済加入者情報開示請求書」をダウンロードし、必要事項を記入します。あわせて、相続関係を証明する書類を揃えます。

ステップ2:書類の郵送

準備した書類を、東京都中央区にある「証券保管振替機構 開示請求事務センター」へ郵送します。重要書類が含まれるため、書留やレターパックなどの記録が残る方法が推奨されます。

ステップ3:結果の受取と費用の支払い

書類に不備がなければ、通常3週間から1ヶ月程度で結果が届きます。結果は「代金引換郵便(簡易書留)」で送られてくるため、その際に郵便局員へ手数料を支払って受け取ります。

5.開示請求に必要な書類(相続人が請求する場合)

手続きには多くの必要書類が必要です。2023年2月以降、多くの確認書類が「原本不可・すべてコピー」での提出に変更されました。原本を郵送しても返却されないため、必ずコピーを準備してください。

主な必要書類は以下の通りです。

開示請求書(機構指定の様式。氏名・住所ごとに作成)

請求者(相続人)の本人確認書類のコピー(運転免許証、マイナンバーカード表面など)

被相続人と請求者の関係を示す書類

  • 法定相続情報一覧図の写し(これがあれば戸籍は不要。手数料も安くなります)
  • または、被相続人の死亡と相続関係がわかる「戸籍謄本等」のコピー

被相続人の住所確認書類のコピー(住民票の除票、戸籍の附票、証券会社からの郵便物など)

6.調査にかかる費用

開示請求には手数料がかかります。

基本料金:1件につき 6,050円(税込)

• 割引制度:法定相続情報一覧図を提出すると、1,100円割引(4,950円)になります。

• 追加料金:複数の住所や旧姓で調査を希望する場合、2件目以降は1件あたり1,100円が加算されます。

例えば、現住所と1つ前の住所の両方で調べたい場合は、計7,150円が必要です。なお、調査の結果「該当なし」だった場合でも、費用は発生します。

7.ここが盲点!「信託銀行の特別口座」とは?

「ほふり」から届いた結果通知書に、見慣れない「信託銀行」の名前が記載されていることがあります。これは「特別口座」と呼ばれ、株券電子化の際に証券会社に預けていなかった株式を、会社側が仮の口座として用意したものです。

特に、単元未満株(端株)と呼ばれる100株に満たない端数の株は、この特別口座で管理されていることが非常に多いです。この場合、証券会社からの案内が届かないため家族が気づきにくく、「ほふり」の調査で初めて判明することも珍しくありません。

8.調査結果が出た後のステップ

「ほふり」の調査はあくまで「スタートライン」です。口座のある証券会社が判明したら、次は以下の手続きを進めます。

1. 各証券会社へ連絡:名義人が亡くなったことを伝え、相続用の書類一式を請求します。

2. 残高証明書の取得:亡くなった当日の保有銘柄や時価評価額を確認するために必要です。

3. 相続用口座の開設:株式をそのまま引き継ぐ場合、相続人自身の証券口座が必要です。

4. 名義変更(移管):必要書類を提出し、被相続人の口座から相続人の口座へ株式を移します。

9.確実な遺産調査で、安心できる相続手続きを

株式の相続手続きは、まず「どこの証券会社か」を特定することから始まります。手がかりがなくても「ほふり」の開示請求を活用すれば、道筋が見えてきます。ただし、書類の不備による差し戻しや、判明した後の複数の金融機関とのやり取りは、精神的にも時間的にも大きな負担となります。

「仕事が忙しくて平日に動けない」「戸籍集めが複雑で挫折しそう」「とにかく漏れなく正確に調査したい」 そんな時は、相続手続きの専門家である司法書士への相談を検討してみてください。

高野司法書士事務所は、相続・遺言手続きを専門とする事務所として、これまで多くの株式調査・名義変更をサポートしてまいりました。 面倒な「ほふり」への開示請求から、戸籍の収集、判明した証券会社とのやり取り、そして不動産の相続登記(名義変更)まで、相続手続きをワンストップでまるごと代行いたします。

誰も住まない実家…空き家放置が招くリスク

2025-12-13

親の家を相続したものの、遠方に住んでいる、忙しい、または「いつか使うかもしれない」といった理由で、実家をそのまま放置している方は少なくありません。しかし、この「とりあえず放置する」という選択こそが、将来的に大きな金銭的・法的リスクを招く最大の原因となります。思い出の詰まった大切な実家は、適切に対処しなければ、やがて「負動産」へと姿を変えてしまうのです。

この記事では、空き家を放置することで所有者が直面する深刻なリスクを分かりやすく解説し、そのリスクを回避するために今すぐ取るべき具体的な行動についてご説明します。

1.日本の空き家問題の現状と背景

現在、日本の空き家問題は深刻化の一途をたどっています。総務省の調査によると、2023年時点で全国の空き家総数は約900万戸にのぼり、これは全住宅の約13.8%と過去最高を更新しました。これは、日本の住宅のおよそ7戸に1戸が空き家であることを意味します。

空き家が増える背景には、少子高齢化と人口の都市集中という社会構造の変化があります。子が都市部で生活基盤を築いているため、親が亡くなっても実家に戻る必要がなく、空き家のまま放置されるケースが増加しています。また、相続が発生した際、兄弟姉妹の間で活用方針について話し合いがまとまらず、不動産が「塩漬け」状態になってしまうことも、放置が続く大きな要因です。

2.空き家放置が招く3つの深刻なリスク

管理されていない空き家は、所有者自身だけでなく、地域社会全体に多くの悪影響を及ぼします。リスクは「安全」「経済」「法務」の3つの側面から考える必要があります。

1. 倒壊・犯罪につながる「安全リスク」

① 老朽化による倒壊・破損と損害賠償責任

人が住まなくなった家は換気や清掃が行われず、湿気やカビにより建物の劣化が想像以上に早いスピードで進みます。特に木造住宅は、湿気や雨漏り、シロアリの被害を受けやすく、柱や基礎の耐久性が急速に低下します。 老朽化した建物が地震や台風などの自然災害で倒壊したり、屋根材や外壁が飛散したりして、隣家や通行人に被害を与えた場合、所有者は民法上の損害賠償責任を問われる可能性があります。管理不備が原因と見なされると、数千万円から数億円といった高額な賠償金を請求されるケースも想定されます。

② 衛生環境の悪化と近隣トラブル

放置された建物や庭には雑草が伸び放題となり、ネズミ、ハクビシン、ハチ、ゴキブリといった害虫や害獣の格好の住処となります。これらの生物が繁殖すると、悪臭や衛生上の問題が発生し、近隣住民の生活環境に深刻な悪影響を与えます。雑草や庭木が隣地に越境し、苦情やトラブルの原因になることも頻繁に発生します。

放火・不法侵入など犯罪の温床に

人の出入りがない空き家は、不法投棄や不法侵入、放火といった犯罪のターゲットにされやすい傾向があります。特に敷地内にゴミや枯れ草が放置されていると、火災のリスクがさらに高まります。空き家が犯罪者の拠点に使われるなど、地域の治安悪化につながり、近隣住民に多大な不安を与えることになります。

2. 資産を蝕む「経済リスク」

固定資産税が最大6倍になる恐れ

住宅が建っている土地には、固定資産税が軽減される「住宅用地の特例」が適用されています。しかし、空き家の管理が不十分であると自治体から「特定空き家」に指定され、改善の「勧告」を受けると、この優遇措置が解除されてしまいます。 その結果、土地にかかる固定資産税は更地と同等の扱いとなり、税額が最大6倍に跳ね上がる可能性があります。この税負担の増加は、所有者にとって最も直接的で深刻な経済的リスクです。

⑤ 資産価値の急激な下落と維持費用の負担

空き家を放置し老朽化が進むと、売却しようとしても「再利用に多額の費用がかかる」と判断され、買い手がつきにくくなります。結果として、大切な資産が「負の遺産」に変わってしまうリスクがあります。さらに、売却や活用ができなくても、所有し続ける限り、固定資産税のほかに、火災保険料、定期的な清掃、草刈り、簡単な修繕など、年間で数十万円に及ぶ維持費用が継続的に発生します。

3. 将来を閉ざす「法務リスク」

特定空き家指定による強制措置と過料

倒壊のおそれがある、衛生上有害である、景観を著しく損ねているなどの状態にある空き家は、市町村により「特定空き家等」に指定されることがあります。 特定空き家等に指定された後、改善のための「命令」にも従わない場合には、50万円以下の過料が科される可能性があります。さらに、状況が改善されないときは、自治体が建物の除却などを行う「行政代執行」が実施され、その費用は全額、所有者に請求されることになります。

相続登記を怠ることによる権利関係の複雑化

空き家問題の根本には、所有者が亡くなった後に相続登記を行わないまま放置されるという問題があります。2024年4月からは相続登記が義務化されており、相続の開始を知った日から3年以内に登記を行わない場合、10万円以下の過料の対象となります。 さらに、登記簿上の名義が亡くなった方のままだと、その不動産の売却や解体といった法的な手続きが一切できなくなります。時間が経つと相続人が次々と亡くなり、権利者がネズミ算式に増えていく(数次相続)ため、将来的に売却や活用をしたくても、共有者全員の合意を得ることが極めて困難になります。

3.リスクを回避するための実践的アクションプラン

空き家が「負動産」と化してしまうのを防ぐには、先送りせずに早期の行動が不可欠です。

1. 【最重要】親が元気なうちに家族で話し合う

相続が始まってからでは、親の意向が分からず、兄弟姉妹の間で「売却するのか」「賃貸に出すのか」「誰かが住むのか」といった点について意見が対立し、トラブル(いわゆる「争族」)に発展することがあります。そのため、親が元気なうちに、将来の不動産の扱いについて家族で話し合っておくことが重要な生前対策となります。

2. 空き家を処分・活用する4つの選択肢

将来利用する予定がない場合は、以下の選択肢を検討しましょう。

  • 売却して現金化する(最もシンプル): 実家を売却し現金化すれば、固定資産税や管理の負担から完全に解放され、売却益を公平に分割できます。築年数が浅く、劣化が進む前に市場価値を査定して売却することが、資産価値を守るカギです。老朽化物件や早期に手放したい場合は、不動産買取業者に直接売却する「買取」も有効な手段です。
  • 賃貸に出して収益化する: リフォームを行って賃貸物件として活用すれば、家賃収入を得ながら、人が住むことで建物の劣化を防ぐことができます。賃貸需要が見込めるエリアであれば、維持費の負担を家賃収入で賄うことが可能です。
  • 適切に管理して維持する: 将来的に利用予定がある場合や、すぐに方針を決められない場合は、適切な管理を続けることが必須です。定期的な換気、清掃、草刈りを行い、建物の劣化を抑え、特定空き家に指定されるリスクを回避できます。遠方に住んでいる場合は、専門の空き家管理サービスを利用することも有効です。
  • 解体して更地にする: 建物の老朽化が激しい場合は、解体して更地として売却する方が買い手がつきやすい場合があります。ただし、解体費用がかかることと、解体した翌年から固定資産税の軽減措置が解除され、税負担が増加する点には注意が必要です。

3. 相続が発生したら「権利関係」を整理する

相続が発生した場合には、まず相続登記を進め、不動産の名義を相続人へ変更することが重要です。
相続人が複数いる場合で意見がまとまらないときは、遺言書の有無を確認したうえで、遺産分割協議を行い、誰がどの財産を相続するのかを明確にする必要があります。

4.相続・遺言手続きでお悩みの方へ

当事務所は、相続手続きおよび遺言書作成を専門とする司法書士事務所です。横浜市青葉区を中心に、地域に密着したサポートを行っております。

空き家問題の根本的な解決は、まず不動産の権利関係を正確に整理することから始まります。当事務所では、戸籍の収集から相続登記の申請、相続人全員の合意形成(遺産分割協議)のサポートまで、法律専門家でなければ対応が難しい煩雑な手続きを一括して代行いたします。

また、当事務所は空き家問題解決のハブ(拠点)として、不動産会社など各分野の専門家と連携した体制を整えております。そのため、不動産の売却活用を含めた最適な出口戦略についても、安心してご相談いただくことが可能です。

さらに、ご家族の将来の安心円満な相続を実現するためには、親御様が元気なうちに行う公正証書遺言の作成や、家族信託の活用といった生前対策極めて重要です。

ご相談は初回無料で承っております。大切なご実家を「負の遺産」にしないためにも、まずは一度、専門家へご相談ください。その一歩が、将来のご家族の安心と笑顔につながります。

除籍謄本の取り方マニュアル

2025-12-09

遺産相続の手続きを進める際、多くの方が初めて耳にするのが「除籍謄本(じょせきとうほん)」という書類かもしれません。除籍謄本は、故人(被相続人)の法定相続人が誰であるかを確定するために非常に重要な公的書類です。

この書類の収集は相続手続きの最初のステップでありながら、手間や時間がかかることが多く、不慣れな方にとっては複雑に感じられるかもしれません。

ここでは、除籍謄本とは何か、戸籍謄本との違い、そしてスムーズに取得するための具体的な方法を分かりやすく解説します。

1.除籍謄本の基礎知識:戸籍謄本との違い

除籍謄本は、その戸籍に記載されていた人が婚姻、転籍、または死亡などの理由によって全員いなくなった事実を証明する書類です。戸籍から全員がいなくなり、その戸籍が閉鎖された状態を「除籍」と呼びます。

戸籍謄本との違い

除籍謄本とよく似た書類に、戸籍謄本があります。この二つの主な違いは、戸籍内に現在も存命の人が残っているかどうかです。

戸籍謄本:現在も有効な戸籍であり、存命の人が一人でも残っている全員分の情報が記載された書類です。

除籍謄本:戸籍に記載されていた全員が抜けて、誰もいなくなった状態を証明する書類です。

相続手続きの実務上、亡くなった方(被相続人)の死亡の事実が記載されている戸籍(誰もいなくなり除籍となったものだけでなく、まだ存命の家族が残っている戸籍に死亡の記載がされている場合も含む)を広義的に「除籍謄本」と呼ぶこともあります。しかし、正式には全員がいなくなった戸籍が除籍謄本です。

なお、戸籍の情報が電子化されている自治体では、「除籍謄本」の代わりに「除籍全部事項証明書」という名称で交付されますが、記載内容や法的な効力は同じであり、相続手続きではどちらも問題なく使用できます。

2.除籍謄本が必要になる場面

除籍謄本は、ほぼすべての相続手続きにおいて必要とされます。

最も重要なのは、法定相続人を確定するための調査です。相続手続きを正確に進めるためには、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍の記録(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍謄本など)を連続性をもって収集する必要があります。この連続した戸籍の束を集める過程で、婚姻や転籍、死亡により閉鎖された過去の除籍謄本が欠かせません。

具体的には、以下のような場面で除籍謄本が必要になります。

  • 不動産の名義変更(相続登記)
  • 銀行預金の解約や名義変更
  • 生命保険金の請求
  • 相続税の申告

3.除籍謄本の取得方法:どこで取れるか

除籍謄本は、戸籍があった本籍地を管轄する市区町村役場で取得が可能です。

どこで取れる?本籍地以外での取得と広域交付

原則として、除籍謄本を取得できるのは、故人の本籍地のある市役所です。

故人が転籍(本籍地の移動)や結婚を繰り返していると、出生から死亡までに複数の本籍地があることが多く、その都度、それぞれの役所に請求する必要があります。

しかし、2024年3月以降、戸籍法の改正により「広域交付制度」が導入されました。これにより、請求できる人の範囲は限定されますが、本籍地以外の全国各地の市区町村役場の窓口でも、除籍謄本を一括で取得できるようになりました。

この広域交付を利用できるのは、本人、その配偶者、直系尊属(父母、祖父母など)、直系卑属(子、孫など)に限られます。兄弟姉妹や代理人は広域交付を利用できません。

取れる人(請求できる人)

除籍謄本には個人の重要な身分事項が記載されているため、誰でも自由に取得できるわけではありません

原則として、除籍謄本を取得できる人は以下の通りです。

1. 除籍謄本に記載されている人(故人)の配偶者

2. 除籍謄本に記載されている人の直系尊属(父母や祖父母など)または直系卑属(子どもや孫など)。

3. 上記の人々から委任状で依頼を受けた代理人(弁護士、司法書士などの専門家を含む)。

4. 正当な理由がある第三者(自己の権利行使や義務履行のために必要な場合など。例:債権者が相続人を確認する場合)。

兄弟姉妹など、直系にあたらない傍系の親族が相続人として請求する場合は、自身が相続人であることを証明する戸籍謄本類を提示する必要があります。

窓口または郵送での請求方法

除籍謄本を取得する方法は、主に窓口での申請郵送での請求の2種類です。

1. 窓口での申請

(1)本籍地の役所で請求する場合
請求書に記入し、本人確認書類、親族関係を証明できる書類、および手数料(1通750円)を提出します。即日で受け取れる点が最大のメリットですが、平日の開庁時間内に役所へ出向く必要があります。

(2)広域交付制度を利用する場合
本籍地以外の役所でも請求できる制度です。本人確認書類と手数料(1通750円)を提出します。即日交付される場合もありますが、役所によっては後日交付となることがあります。

2. 郵送での請求本籍地が遠方で役所へ行くのが難しい場合に有効な方法です。必要書類(請求書、本人確認書類の写し、親族関係を証明する書類、返信用封筒、手数料750円分の定額小為替など)を本籍地の役所に郵送します。郵送の場合は、申請から手元に届くまでに1〜2週間程度かかることがデメリットです。手数料は、郵便局で購入できる定額小為替で支払うのが一般的です。

コンビニ交付については、現在のところ除籍謄本は対象外であり、役所または郵送での申請が必要です。

4.除籍謄本を取得する際の注意点

スムーズに相続手続きを進めるために、いくつか知っておくべき注意点があります。

死亡直後は取得できない

人が死亡し、役所に死亡届が提出されても、戸籍に死亡の事実が反映されるまでには、通常1週間から10日程度の事務処理時間がかかります。そのため、亡くなった直後に除籍謄本を申請しても、まだ情報が反映されておらず、取得できない可能性が高いです。死亡届を提出してから10日ほど経過した後に申請するのが確実とされています。

出生から死亡までの連続性を確認

相続人調査においては、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本類をすべて漏れなく集めることが不可欠です。結婚や転籍、法改正などで戸籍が変わるたびに過去の記録(改製原戸籍や除籍謄本)が必要になります。

一つでも書類に漏れがあると法定相続人を確定できず、相続手続きを進められない可能性があります。古い戸籍を遡る際は、前の戸籍の「従前戸籍」の記載を確認しながら、途切れなく書類を集めることが大切です。

古い除籍謄本の判読の難しさ

古い時代に作成された除籍謄本には、手書きで記載されていたり、旧字体や毛筆が使われていたりすることが多く、一般の方が正確に読み解くのは難しい場合があります。

特に相続人調査では、記載内容を正確に理解して次の戸籍の請求先を判断する必要があるため、判読に不安がある場合は、専門家に確認を依頼することが安心です。

5.相続手続きは専門家への依頼が安心

相続手続きの第一歩である戸籍の収集は、見た目以上に複雑で時間を要します。特に、被相続人様の出生から死亡に至るまでの連続した戸籍を途切れなく集め、その内容を正確に読み解く作業は、専門家でなければ困難を極めるケースも少なくありません。

私たち高野司法書士事務所は、相続・遺言手続きを専門としており、お客様が抱える煩雑な手続きの負担を軽減し、円滑で確実な相続の実現をサポートいたします。

戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍の収集・読み解きはもちろん、その後の遺産分割協議書の作成、不動産の名義変更(相続登記)まで、相続手続き全般をワンストップで代行することが可能です。

「どこから手を付けて良いかわからない」「仕事が忙しく、役所に行く時間がない」「古い戸籍の字が読めない」といったお悩みをお持ちであれば、ぜひ一度ご相談ください。相続の専門家が、お客様の不安に寄り添い、確かな知識と経験で全力でサポートさせていただきます。

遺言書がある場合の相続手続きガイド

2025-12-01

故人が遺言書を残されていた場合、その後の相続手続きは、遺言書がない場合と比較して、故人の意思が最大限に尊重されるという特徴があります。遺言書の内容は、民法で定められた法定相続分よりも原則として優先されるため、相続人同士の話し合い(遺産分割協議)を省略し、円滑に手続きを進められる可能性が高まります。

しかし、遺言書があるからといって全てが自動的に完了するわけではありません。遺言書の種類に応じた法的な手続きや、財産を実際に引き継ぐための複雑な名義変更など、適切な流れを踏む必要があります。

本記事では、法律の専門家ではない方に向けて、遺言書が見つかった際の相続手続きの具体的なステップと、知っておくべき重要な注意点について解説します。

1.遺言書がある場合の相続手続きの「流れ」(ステップ解説)

遺言書がある場合の相続手続きは、主に以下のステップで進行します。

STEP 1:遺言書の種類を確認する

遺言書は大きく分けて「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、種類によってその後の対応が異なります。

公正証書遺言:公証人が作成するため、検認手続きは不要です。

自筆証書遺言・秘密証書遺言:法務局で保管されているものを除くこれらの遺言書については、原則として家庭裁判所の検認手続きが必要となります。

【重要】 封印された自筆証書遺言や秘密証書遺言を勝手に開封することは、法律により禁止されています(違反すると過料が科される可能性あり)。

STEP 2:他の相続人へ遺言書の存在を知らせる

遺言書を発見した相続人は、その存在を他の相続人全員に速やかに通知する必要があります。遺言書の内容が自分に不利益だからといって隠匿・破棄する行為は、「相続欠格事由」に該当し、相続人としての資格を失うリスクがあるため、絶対に避けなければなりません。

STEP 3:遺言執行者の確認と手続きの実行

遺言書に「遺言執行者」が指定されている場合、その人物が遺言の内容を実現するために必要な全ての行為を行います。預貯金の払い戻しや不動産の名義変更など、煩雑な手続きは遺言執行者が中心となって進めます。相続人は遺言執行者の執行を妨げてはなりません。

指定がない場合は、相続人全員で手続きを行うか、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てることができます。

STEP 4:財産の名義変更(銀行・不動産)

遺言書の有効性が確認され、検認(必要な場合)が完了したら、具体的な財産の承継手続きに移ります。

預貯金(銀行)の払い戻し・名義変更

銀行などの金融機関で故人の口座の払い戻しや名義変更を行う際は、遺言書、検認済証明書(法務局保管の自筆証書遺言と公正証書遺言の場合は不要)、亡くなった方の戸籍謄本、預金を取得する人や遺言執行者の印鑑証明書など、各金融機関が定める書類を揃えて提出します。遺言書がある場合、原則として遺言により財産を取得する人が単独で手続きできる点がメリットです。

不動産の相続登記

不動産を相続した場合は、法務局で名義を書き換える相続登記が必要です。相続登記は2024年4月1日から義務化されており、取得を知った日から3年以内に申請しないと過料が科される可能性があるため、期限には注意が必要です。

STEP 5:相続税の申告と納税

遺産総額が相続税の基礎控除額(3,000万円+法定相続人の数×600万円)を超える場合、亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告と納税が必要です。遺言書がある場合でも、この申告義務は変わりません。

2.遺言書があっても「遺産分割協議」が必要になるケース

遺言書は原則優先されますが、その内容を必ずしも守る必要がないケースや、遺言書だけでは手続きが完了しないケースが存在します。

1. 相続関係者全員が同意した場合

相続関係者全員(法定相続人や遺言により財産を受け取る受遺者など)が合意すれば、遺言書の内容とは異なる遺産分割を自由に決定できます。故人の意思を尊重しつつも、現状に合わせた柔軟な分割が可能です。

全員の合意を将来の紛争防止のため明確にしておくには、遺産分割協議書を作成し、相続人全員(および受遺者等)が署名のうえ実印で押印する必要があります。

2. 遺言書に記載のない財産があった場合

遺言書に全ての財産が記載されておらず、記載漏れの財産が見つかった場合、その財産については法定相続人全員で遺産分割協議を行い、分け方を決めなければなりません。また、遺言書が具体的な財産ではなく、単に相続分の割合(例:長男に8割、次男に2割)のみを指定している場合も、どの財産を誰が取得するかを決めるために協議が必要です。

3.遺言の内容に不満がある場合の「遺留分」の主張

遺言書の内容が特定の相続人を優遇するもので、他の相続人の取り分が極端に少ない場合、「遺留分」という権利を行使することで最低限の遺産取得分を確保できる可能性があります。

1. 遺留分が認められる法定相続人

遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、直系尊属)に認められている権利です。遺言書によって遺留分が侵害されていた場合、侵害された相続人は、多く財産を取得した人に対して金銭の支払いを請求できます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。

2. 遺留分侵害額請求の期限

遺留分を請求できる権利には短い期限が定められています。侵害された相続人が、相続開始と遺留分侵害の事実を知ってから1年以内、または相続開始から10年を経過すると権利が時効により消滅してしまうため、迅速に行動することが不可欠です。

4.相続手続きの「不安」を「安心」に変えるサポート

遺言書がある相続手続きは、故人の意思を尊重するという大原則に従って進められますが、その過程では、遺言書の検認不動産の名義変更手続きのほか、複雑な遺留分の算定など、専門的な知識と高い正確性が求められる作業が数多く発生します。

高野司法書士事務所は、相続・遺言手続きを専門とし、法定相続人の調査から、煩雑な手続きをワンストップで代行いたします。特に、不動産の相続登記義務化や、相続放棄の手続きなど、期限管理が重要な手続きにおいて、お客様に代わり迅速かつ正確に対応します。相続に関するどんな小さなお悩みでも、どうぞお気軽にご相談ください。

相続人がいない場合の遺産はどうなる?

2025-11-21

近年、生涯独身の方の増加や少子高齢化の進展に伴い、亡くなった方に法定の相続人が一人もいない「相続人不存在」のケースが増加しています。身寄りがなく、亡くなった後に遺産が宙に浮いた状態になってしまうという問題は、社会的な課題となりつつあります。

「もし自分に相続人がいなかったら、財産は全て国に取られてしまうのだろうか?」 「お世話になった人や団体に財産を残したいけれど、どうすればよいのだろうか?」

このような不安を抱える方も少なくありません。実際に、相続人不存在によって最終的に国庫に帰属する遺産の額は、年々増加傾向にあるとされています。

本記事では、相続人不存在とはどのような状況を指すのか、遺された財産は最終的にどこへ行くのか、そして、ご自身の意思を反映させるために生前にできる相続対策(特に遺言書の作成)について、法律を専門としない方にも分かりやすく徹底的に解説します。

1.相続人不存在とは?その定義と3つのパターン

相続人不存在とは、民法が定める「法定相続人」に該当する人が、亡くなった方(被相続人)の死亡時に一人もいない状態を指します。

法定相続人とは、法律によって定められた相続権を持つ人で、その範囲と順位は以下の通りです。

配偶者:常に相続人となる。

第1順位:子(子が亡くなっていれば孫、ひ孫などの直系卑属)。

第2順位:父母(父母が亡くなっていれば祖父母などの直系尊属)。

第3順位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が亡くなっていれば甥姪)。

この法定相続人(および代襲相続人)が誰もいない場合に相続人不存在となります。なお、いとこや叔父叔母、甥姪の子どもなどは法定相続人ではありません。

相続人不存在になる具体的なケースは、主に次の3つのパターンが考えられます。

(1) 家族構成的に法定相続人がいないケース

被相続人が独身で子どもがおらず、両親などの直系尊属も兄弟姉妹(および甥姪)も既に亡くなっている、いわゆる「天涯孤独」の状態です。

(2) 法定相続人全員が相続放棄したケース

戸籍上は相続人がいるものの、その全員が家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、それが受理された場合です。相続放棄をすると、その人は初めから相続人ではなかったものとみなされます。被相続人に多額の借金(負債)があった場合に、借金を引き継がないために全員で放棄するケースが多く見られます。

(3) 相続欠格・相続廃除により相続権を失ったケース

法定相続人に相続の意思があっても、被相続人に対して重大な不正行為や虐待行為があった場合、「相続欠格」や「相続廃除」によって相続権を失うことがあります。この結果、他に相続人がいなければ相続人不存在となります。ただし、欠格や廃除の場合、第1順位や第3順位では代襲相続が認められるため、その子(孫など)が相続人になる可能性があります。

誤解されやすい「相続人がいない」ケース

相続人が行方不明または音信不通である場合は、その人が法律上の相続人である限り、相続人不存在とは扱われません。一方、内縁の配偶者は法律上の相続人ではないため、他に法定相続人がいなければ相続人不存在として扱われます。

行方不明の場合:戸籍から抹消されていない限り、法律上は相続人が「いる」ものとして扱われます。遺産分割を進めるためには、不在者財産管理人の選任や失踪宣告の手続きが必要です。

内縁の配偶者:法律上の婚姻関係がないため、内縁の配偶者には法定相続権はありません。財産を確実に残すには、遺言書を作成するか、後述の特別縁故者として財産分与を求める必要があります。

2.相続人不存在の場合、遺産はどこへ行く?

相続人不存在の状態が確定した場合、遺産はすぐに国のものになるわけではなく、以下の優先順位に従って清算・処分されていきます。

(1) 遺言書で指定された人(受遺者)や債権者

まず、遺言書が残されていれば、そこに指定された人や団体(受遺者)に財産が渡されます。遺言書は法定相続人がいない場合でも、被相続人の意思を実現する上で非常に強力な手段です。

また、被相続人に対して金銭を貸していた人や、未払いの家賃などの支払いを受ける権利を持つ債権者がいる場合は、遺産から支払いがなされます。

(2) 特別縁故者への財産分与

債権者受遺者への支払い・遺贈を終えてもなお財産が残っている場合、次に財産を受け取る可能性があるのが「特別縁故者」です。

特別縁故者とは、被相続人と特別に緊密な関係にあったと家庭裁判所に認められた人や団体を指します。例としては、内縁の配偶者、事実上の養子、生前に献身的に療養看護に努めた人などが挙げられます。

特別縁故者が財産を受け取るためには、相続人不存在が確定してから3か月以内に、家庭裁判所に「財産分与の申立て」を行う必要があります。家庭裁判所は、故人との関係性や貢献度などを総合的に考慮し、分与の可否や金額を決定します。

なお、特別縁故者への財産分与は、遺贈とみなされ相続税の課税対象となり、原則として2割加算の対象となります。

(3) 最終的な国庫帰属

上記(1)と(2)の手続きを経てもなお残った財産、あるいは遺言書特別縁故者も存在しない場合は、その残余財産は最終的に国庫に帰属し、国のものとなります(民法959条)。2022年度の段階で国庫に帰属した金額は768億円にのぼるとされており、このケースは増加傾向にあります。

3.相続人不存在の場合の複雑な手続きの流れ

相続人不存在となった場合、遺産は勝手に処分できず、法的な清算手続きを進めるために、家庭裁判所に相続財産清算人(令和5年4月1日以前は「相続財産管理人」)の選任を申し立てる必要があります。

この申立ては、被相続人の債権者受遺者特別縁故者などの利害関係人、または検察官が行います。相続財産清算人には、通常、弁護士や司法書士などの専門家が選任され、中立的な立場で財産の調査・管理・清算を担います。

(1) 相続財産清算人の選任と公告

家庭裁判所が相続財産清算人を選任すると、その旨と、相続人がいる場合に名乗り出るよう求める「相続人捜索の公告」を官報で行います。この公告期間は6か月以上と定められています。

(2) 債権者・受遺者の申出の公告

上記と並行して、相続財産清算人は、債権者受遺者に対して、2か月以上の期間を定めて請求を申し出るよう公告します。期間満了後、申出のあった債権者受遺者には、遺産から支払いや遺贈が行われます。

(3) 相続人不存在の確定と財産分与

相続財産清算人の選任後、家庭裁判所による相続人捜索の公告期間(6か月以上)が満了し、相続人が現れなかった場合、相続人不存在が確定します。

法改正(令和5年4月1日施行)前は、各公告を段階的に行う必要があったため、確定までに最低10ヶ月以上を要していました。しかし、改正後は相続財産清算人の選任公告、債権者・受遺者の申出の公告、相続人捜索の公告3つの公告を同時期に並行して行うことができるようになったため、相続人不存在が確定するまでの期間最短6ヶ月に短縮されました。

確定後3か月以内特別縁故者から申立てがあれば、家庭裁判所の審判を経て財産が分与されます。

(4) 国庫帰属と期間・費用

相続人不存在の確定自体は最短6ヶ月で可能となりましたが、その後の特別縁故者への財産分与申立て期間(3ヶ月以内)を経る必要があり、さらに債権者への弁済や不動産などの財産処分の手続きにかかる期間も含めると、この一連の清算手続き全体が完了し、最終的に国庫に帰属するまでには、依然として最低でも10ヶ月以上かかることが一般的です。

また、相続財産清算人の報酬や公告費用などを賄うための予納金(数十万円から100万円程度)を、申立人が家庭裁判所に納める必要があるケースもあります。これは、残された関係者にとって経済的・時間的に大きな負担となります。

4.知っておきたい相続人不存在の注意点

不動産の共有者と特別縁故者の優先順位

もし亡くなった方が共有不動産の持分を持っていた場合、民法には相続人がいないときその持分は他の共有者に帰属する旨の規定がありますが、最高裁判所の判断により、特別縁故者への財産分与が共有者への帰属よりも優先されます。つまり、特別縁故者が財産を分与された後に残った持分があれば、それが他の共有者に帰属するという順番になります。

遺産の勝手な処分は禁止

相続人不存在のケースで、親族や知人であっても、遺された財産(家財、預貯金、不動産など)を勝手に処分したり、解約したりすることは許されません。すべての財産は相続財産清算人が管理・清算する対象となります。

5.大切な財産を活かすための生前対策

相続人不存在の場合、手続きは複雑で時間がかかり、最終的に財産が国庫に帰属してしまうリスクがあります。

自分の意思を反映させ、残された方々の負担を減らすためには、生前対策が不可欠です。

(1) 遺言書の作成で遺産の行き先を明確に

最も確実で重要な対策は、遺言書を作成しておくことです。

遺言書があれば、法定相続人がいない場合でも、財産の承継先を自由に指定し、意図しない国庫帰属を避けることができます。例えば、内縁の配偶者お世話になった人へ財産を遺贈したり、社会貢献のために特定の団体に寄付したりする、といった意思を実現できます。

遺言書があれば、相続財産清算人の選任手続きが不要になり、残された関係者の負担が大きく軽減されます。

特に、形式不備や紛失のリスクが低い公正証書遺言を作成し、遺言書の内容を確実に実現させる遺言執行者(司法書士などの専門家を指定可能)を決めておくことが推奨されます。

(2) その他の生前対策

死後事務委任契約:葬儀の手配や行政手続き、医療費の精算など、ご逝去後の事務処理を第三者に委任する契約です。相続人不存在の場合には、財産管理とは別に、これらの事務を担う人がいないため、遺言書と併せて検討することが重要です。

生前贈与:生きている間に財産を贈与する方法です。贈与者は財産の使い道を見届けることができ、贈与を受けた側も確実に財産を取得できます。

6.専門家からのメッセージ

相続人不存在の問題や、大切な方へ確実に財産を引き継ぐための遺言書作成は、多くの方にとって初めて直面する複雑な課題です。

私たち高野司法書士事務所は、相続・遺言手続きを専門としており、お客様一人ひとりの想いを実現し、未来に不安を残さないためのサポートを提供しています。

相続人不存在の懸念がある方には、公正証書遺言の作成を全面的に支援いたします。法的に有効で、ご依頼者様の明確な意思が反映された遺言書を作成し、大切な財産が意図しない形で国庫に帰属してしまうことを防ぎます。

相続遺言に関するご不安、疑問がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。あなたの想いを未来へつなぐお手伝いを、責任をもって務めさせていただきます。

遺贈と相続って何が違うの?

2025-11-13

「遺贈」と「相続」は、どちらも亡くなった方の財産を特定の人に引き継がせるという意味合いで使われますが、法律上の性質や手続き、そして税金面において決定的な違いがあります。

特に、遺言書を作成する際にこの二つの言葉を誤って使用すると、受け取る側が不利益を被ったり、手続きが複雑になったりする可能性があります。

この記事では、法律を専門としない方にもわかりやすく、遺贈と相続の基本的な違いから、手続き上の注意点、そして相続税に関する重要な留意点までを詳しく解説します。大切な財産をご自身の意志通りに、そして円滑に次世代へ引き継ぐための参考にしてください。

1.相続と遺贈の基本的な違い

相続と遺贈の最も大きな違いは、「誰が財産を受け取るのか」という財産を受け取る相手の範囲です。

1. 相続は法定相続人が対象

「相続」とは、民法で定められた法定相続人(配偶者、子、父母、兄弟姉妹など)が、亡くなった方(被相続人)の財産を包括的に承継することを指します。

相続においては、財産の権利だけでなく、借金などの負債(マイナスの財産)も原則として承継されます。遺言書がない場合でも、法定相続人が法律で定められた相続分に従って財産を引き継ぐことが可能です。

遺言書で法定相続人に対して財産を引き継がせる場合、「相続させる」という文言が使われます。この「相続させる」という表現は、遺産分割の方法を指定する法的意味合いを持ちます。

2. 遺贈は誰にでも財産を譲れる

「遺贈(いぞう)」とは、亡くなった方(遺言者)が遺言書によって、財産の一部または全てを無償で譲ることを意味します。遺贈を受ける人や団体を受遺者(じゅいしゃ)と呼びます。

遺贈の最大のポイントは、法定相続人以外の人や法人・団体にも財産を譲渡できる点です。

例えば、婚姻関係がない内縁の配偶者、養子縁組をしていない連れ子、法定相続人ではない孫や子の配偶者(長男の妻など)、あるいは、お世話になった友人、NPO法人、学校、地方自治体などに財産を遺したい場合に利用されます。

また、遺言書で法定相続人に対して財産を引き継がせる場合にも、「遺贈する」という言葉を使うことは可能です。ただし、後述する手続き上の煩雑さから、相続人に対しては「相続させる」という表現を使うことが推奨されています。遺贈は、法的には財産の無償譲渡とみなされます。

2.遺贈の2つの種類:包括遺贈と特定遺贈

遺贈には、財産の渡し方によって「包括遺贈(ほうかついぞう)」と「特定遺贈(とくていいぞう)」の2種類があります。この違いは、負債の承継や手続きに大きく影響するため、非常に重要です。

1. 包括遺贈(割合を指定する方法)

包括遺贈とは、遺産の全体または(遺産全体に対して)割合を指定して財産を譲る方法です。例として、「全財産の半分(2分の1)をAに遺贈する」といった指定が該当します。

包括受遺者は、その割合に応じて相続人と同一の権利と義務を持つことになります。したがって、借金やローンなどの負債(マイナスの財産)も割合に応じて承継する必要があるため、注意が必要です。

また、包括遺贈の場合、受遺者は他の相続人に交じって遺産分割協議に参加し、具体的にどの財産を取得するかを決める必要があります。

2. 特定遺贈(特定の財産を指定する方法)

特定遺贈とは、遺産の中から特定の財産を指定して譲る方法です。例として、「〇〇銀行の預金100万円をBさんに遺贈する」「甲土地をC団体に遺贈する」といった指定が該当します。

特定遺贈では、指定された財産のみを取得するため、原則として負債を引き継ぐ必要はありません。そのため、福祉団体やNPO法人など、法人が遺贈を受け入れる場合は、リスクを抑えられる特定遺贈として受け入れるケースがほとんどです。

3.手続き上の大きな違い(不動産登記を中心に)

遺贈と相続では、特に不動産(土地や建物)の名義変更を行う際の不動産登記手続きにおいて大きな違いが生じます。

1. 相続人に「相続させる」場合

遺言書で法定相続人に「相続させる」と記載されている場合、その財産を取得する相続人は単独で相続登記(所有権移転登記)を申請することができます。これにより、他の相続人全員の協力や署名・押印、印鑑証明書が不要となり、手続きをスムーズに進められます

2. 相続人に「遺贈する」場合

かつては、相続人に「遺贈する」と記載されている場合、受遺者である相続人が単独で登記をすることができず、他の相続人全員との共同で手続きを進める必要がありました。しかし、令和5年4月1日の不動産登記法改正により、相続人に対する遺贈であれば、受遺者である相続人が単独で登記申請を行うことが可能になりました

3. 相続人以外に「遺贈する」場合

遺言書で相続人ではない第三者や団体に「遺贈する」と記載されている場合は、原則として、受遺者(財産を取得する人)と法定相続人全員が共同で登記申請を行う必要があります。

ただし、遺言書で遺言執行者が指定されている場合は、受遺者と遺言執行者が共同で登記申請を行うことができます。このため、相続人以外へ遺贈する場合は、トラブルや手続きの煩雑さを避けるために、遺言執行者を指定しておくことが推奨されます

4. 農地や借地権の承継

特定の権利を承継する際にも、相続と遺贈では違いがあります。

農地取得:農地を取得する際、通常は農業委員会(市町村に設置されている行政委員会)の許可が必要ですが、相続人が相続または遺言(相続させる/遺贈するのどちらでも)で取得する場合、許可は不要です。ただし、相続人以外への特定遺贈の場合は、原則として農業委員会の許可が必要となります。

借地権・借家権:借地権や借家権を承継する場合、地主や大家(賃貸人)の承諾が必要です。しかし、「相続させる遺言」による承継の場合は、包括的な権利承継とみなされるため、賃貸人の承諾は不要です。一方、遺贈の場合は、原則として賃貸人の承諾が必要となり、承諾料を請求されることもあります。

4.相続税と遺贈:税制面での注意点

遺贈も相続も、亡くなった方の財産を原因として財産を取得するため、原則として相続税の課税対象となります。ただし、遺贈の場合、特に受遺者が法定相続人以外であると、税制面で不利になる点がいくつかあります。

1. 基礎控除額の計算における違い

相続税には非課税枠である基礎控除が設けられています。基礎控除額は、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」という計算式で算出されます。

この計算において、遺贈によって財産を受け取った人(受遺者)が法定相続人ではない場合、その受遺者は「法定相続人の数」には含まれません

法定相続人以外の受遺者がいる場合、財産を受け取る人数が増えても基礎控除額は増えないため、結果的に課税対象となる遺産総額が大きくなる可能性があります。

2. 相続税の2割加算

遺贈によって財産を取得した人が、亡くなった方の配偶者や一親等の血族(子や父母)および代襲相続人となった孫以外である場合、その人が納めるべき相続税額が2割加算されます。

この2割加算は、祖父母や兄弟姉妹が相続人となる場合にも適用されます。例えば、長男の配偶者(お嫁さん)や、法定相続人ではないお孫さん、お世話になった友人などが遺贈を受けた場合、相続税が2割増しになるため、受遺者の税負担が大きくなることに注意が必要です。

3. その他の税金負担(不動産関連)

不動産を遺贈する場合、相続と比較して税負担が増加する可能性があります。

不動産取得税:相続で不動産を取得した場合は非課税ですが、相続人ではない人への特定遺贈によって不動産を取得した場合、地方税である不動産取得税が課税されます。

登録免許税:不動産の名義変更(登記)にかかる登録免許税の税率も異なります。相続の場合や法定相続人への遺贈の場合、不動産評価額の0.4%ですが、法定相続人以外への遺贈の場合、税率は2.0%と高くなります

5.遺贈と相続放棄:負債を避けるための選択肢

包括遺贈の場合、受遺者は負債も承継するリスクがあるため、財産の受け取りを拒否する相続放棄(または遺贈の放棄)の選択肢も重要になります。

1. 包括遺贈の放棄

包括遺贈の受遺者は相続人と同じ権利義務を持つため、遺贈を放棄したい場合は、包括遺贈があったことを知った日から3か月以内に、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して遺贈放棄の申述書を提出しなければなりません。

この3か月の期間を過ぎてしまうと、原則として遺贈を承認したものとみなされます。負債が多い場合に包括遺贈を放棄することは、受遺者にとってのリスク回避手段となります。

2. 特定遺贈の放棄

特定遺贈の場合、財産を受け取らない意思を、遺言執行者や他の相続人などの遺贈義務者に対して意思表示すればよく、家庭裁判所での手続き(相続放棄の申述)は不要です。また、原則として放棄の期限も定められていません。ただし、利害関係者から催告を受けた場合、指定期間内に回答しないと承認したものとみなされるため、速やかな意思表示が求められます。

6.トラブルを避けるための最重要ポイント

遺贈は自由度の高い制度ですが、遺言者が亡くなった後に親族間で「争族」を招かないよう、細心の注意を払う必要があります。

1. 遺留分への配慮

遺留分とは、亡くなった方の兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者、子、父母など)に、法律上最低限保障されている遺産の取得分のことです。

遺言書の内容がこの遺留分を侵害している場合でも、その遺言自体が無効になるわけではありません。しかし、遺留分を侵害された相続人(遺留分権利者)は、遺贈を受けた受遺者に対して遺留分侵害額請求(金銭の請求)を行うことができます。これにより、受遺者と相続人の間でトラブルが発生し、遺言者の意思が完全に実現されない可能性があります。

トラブルを避けるためには、遺言書を作成する際に、遺留分権利者に遺留分相当額を相続させるなど、遺留分を侵害しないよう十分配慮することが重要です。

2. 遺言執行者の指定

遺贈を行う場合、遺言書の内容を確実に実行するために、遺言執行者を指定しておくことが強く推奨されます。

遺言執行者は、相続人全員の代理人として、遺贈された財産の登記や名義変更、預貯金の引き出しなどの手続きを単独で行う権限と義務を持ちます。遺言執行者を指定することで、相続人や受遺者の負担を軽減し、手続きの円滑化を図ることができます。

7.相続・遺言手続きでお悩みなら高野司法書士事務所へ

相続や遺贈に関する手続きは、非常に専門性が高く、一般の方がご自身で全てを円滑に進めるのは難しいのが現状です。

高野司法書士事務所は、相続・遺言手続きを専門としており、お客様の想いを汲み取り、法的に有効かつ将来のトラブルを未然に防ぐための遺言書作成サポートを得意としております。

煩雑な手続きをすべて代行:不動産の名義変更(相続登記)、遺言執行者のサポート、複雑な戸籍収集など、専門知識が必要な手続きを一貫してサポートいたします。

トラブル回避の設計:遺留分を考慮した遺言内容の設計や、相続人への説明方法など、長年の経験に基づいた円満な承継を実現するためのアドバイスを提供します。

確実な遺言の実現公正証書遺言の作成支援を推奨し、お客様の遺言の意思を法的に最も確実な形で実現できるよう尽力します。

「自分の想いを確実に残したい」「家族間の争いを避けたい」「遺言の手続きで何をすべきか分からない」といった不安をお持ちであれば、ぜひ一度、高野司法書士事務所にご相談ください。私たちは、お客様の大切な財産と想いを未来へつなぐお手伝いをさせていただきます。

未登記建物の相続手続きガイド

2025-11-09

亡くなった方が所有していた実家や建物について、相続手続きを進める中で「未登記建物」であることが判明し、困惑されるケースは少なくありません。未登記建物とは、法務局に正式に登記(登録)されていない建物のことを指し、通常の不動産相続よりも複雑な手続きが必要となります。

未登記のまま放置すると、将来的な売却や活用が難しくなるだけでなく、法律上の義務違反となるリスクも伴います。

ここでは、法律の専門家ではない方にも分かりやすいよう、未登記建物の定義から、放置するリスク、そして名義変更を含む具体的な相続手続きの流れについて詳しく解説します。

1.未登記建物とは?その存在と確認方法

未登記建物とは、文字通り登記がされていない建物です。具体的には、建物の大きさや構造といった物理的な情報が記載される登記簿の「表題部」の登記がない建物を指します。

不動産登記法により、建物を新築したり、表題登記がない建物の所有権を取得したりした場合、取得日から1か月以内表題登記を申請することが義務付けられています。しかし、実際には、住宅ローンを利用しなかった場合や、登記手続きを失念したまま所有者が亡くなってしまった場合など、さまざまな理由で未登記のまま残されている建物が存在します。

未登記建物かどうかを確認する方法

相続した建物が未登記かどうかを確認する最も手軽な方法は、固定資産税納税通知書に同封されている課税明細書を確認することです。

  • 家屋番号の記載:登記済みの建物には「家屋番号」が記載されていますが、未登記建物の場合、この家屋番号が空欄または「未登記家屋」といった記載になっている可能性が高いです。
  • 登記事項証明書の請求:法務局で登記事項証明書(登記簿謄本)を請求し、取得できなければその建物は未登記であると判断できます。

なお、未登記建物であっても、固定資産税は課税されます。これは、法務局の登記簿とは別に、市区町村が独自の台帳(名寄帳など)で所有者を把握し、その情報をもとに課税しているためです。固定資産税を支払っているからといって、登記されているとは限らない点に注意が必要です。

2.未登記建物を放置するリスクデメリット

未登記建物を相続したにもかかわらず、登記手続きをせずにそのまま放置すると、多くの重大なデメリットが発生します。

法律上の義務違反と過料のリスク

まず、表題登記の申請は法律上の義務です。所有権を取得した日から1か月以内に申請を怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。

また、2024年4月1日からは相続登記が義務化されましたが、未登記建物自体は、権利部に所有権の登記名義人がいないため、相続登記義務化の直接的な対象外とされています。しかし、表題登記の申請義務は元々存在しており、今後は国や自治体が未登記不動産の所有者を特定しようとする動きが強まる可能性もゼロではありません。

所有権の主張ができない

登記は他人に所有権を主張するための重要な手段です。登記がない状態では、自分がその建物の真の所有者であることを法的に証明できず、第三者に対して権利を主張できません

例えば、万が一、自分の知らない間に他者名義で登記されてしまった場合や、建物を建てている土地(底地)が売却された場合などには、所有権を失ったり、新しい土地所有者からの立ち退き要求を拒否できなくなるリスクがあります。

売却や融資が困難になる

未登記建物は、売却や活用が極めて難しいという大きなデメリットがあります。

1. 融資を受けられない:住宅ローンを組む際には、購入する不動産に抵当権を設定して担保とするのが一般的です。しかし、未登記の建物には抵当権を設定できないため、金融機関から融資を受けることができません。

2. 売却が困難:買主は、所有権が公的に証明されていない未登記物件の取引に慎重になります。また、売却する際にも、買主名義で所有権移転登記を行う前に、まず売主名義で表題登記と所有権保存登記を行う必要があるため、手続きが複雑化し、売却のタイミングを逃すリスクがあります。

相続税や固定資産税で損をするリスク

税金面でもデメリットが生じます。未登記建物が存在すると、土地にかかる固定資産税の軽減措置(住宅用地の特例)が適用されず、本来よりも高い固定資産税を支払っている可能性があります。

また、自治体の現地調査などで未登記の存在が判明した場合、これまで支払われていなかった過去分の固定資産税をまとめて請求されるリスクもあります。

さらに、相続税の申告が必要な場合、未登記建物であっても相続財産に含まれるため、その相続税評価額を算出しなければなりません。未登記のため正確な情報が不足している場合、専門家による測量や鑑定が必要となり、手続きが煩雑化する可能性があります。

将来の相続手続きの複雑化

未登記のまま所有者が亡くなり放置しておくと、時間の経過とともに相続人が増え続け、いざ登記をしようとした際に、複雑な相続人調査遺産分割協議が必要になり、手続きが極めて困難になるリスクがあります。

3.未登記建物を相続した際の手続きの流れ

未登記建物を相続した場合、通常の名義変更(所有権移転登記)とは異なり、まず建物の存在を公的に記録する表題登記から始める必要があります。手続きは以下の流れで進めます。

Step 1: 遺産分割協議書の作成と相続人の決定

未登記建物であっても、財産的価値があるため、相続財産として遺産分割の対象となります。相続人が複数いる場合は、まず遺産分割協議を行い、誰がその建物を相続するのかを決定し、相続人全員の合意を得る必要があります。

遺産分割協議書への記載方法の注意点

登記済みの建物と違い、未登記建物には登記簿謄本が存在しないため、遺産分割協議書に建物を特定する情報を記載する際には特別な注意が必要です。

遺産分割協議書には、未登記である旨を明記し、固定資産評価証明書名寄帳に記載されている建物の所在地、種類、構造、床面積などの情報を引用して特定します。これにより、相続人全員の合意内容を文書として明確に残します。

Step 2: 表題登記の申請(建物の公的な記録)

表題登記は、未登記建物の相続手続きにおける最初の必須ステップです。表題登記を行うことで、建物の所在地、家屋番号、構造、床面積、所有者の住所氏名など、建物の物理的な情報が登記簿の「表題部」に記録され、新たな登記簿が作成されます。

専門家と必要書類

表題登記は、建物の測量や図面作成(建物図面、各階平面図)が必要となるため、土地家屋調査士に依頼して代行してもらうのが一般的です。費用は建物の規模や構造、地域によりますが、土地家屋調査士への報酬として8万円から15万円程度が目安とされています。

申請には、登記申請書のほか、建物の図面、建築確認済証、検査済証、工事完了引渡証明書、固定資産評価証明書、そして遺産分割協議書を含む相続に関する資料(戸籍謄本、住民票など)が必要となります。古い建物の場合、これらの書類が紛失していることが多いため、専門家への早期相談が推奨されます。

Step 3: 所有権保存登記の申請(名義変更の準備)

表題登記が完了し、建物の存在が公的に認められたら、次に建物の所有者を明確にするために所有権保存登記を申請します。これは登記簿の「権利部(甲区)」に所有者情報を記録する手続きです。

所有権保存登記は法律上の義務ではありませんが、これを行うことで所有権を公的に公示し、第三者に対して権利を主張できるようになります。法律上、被相続人名義でも相続人名義でも登記が可能ですが、相続人名義で登記するのが実務上一般的です。

専門家と費用(登録免許税)

所有権保存登記の手続きは、申請書の記入など専門的な知識が必要となるため、司法書士に依頼するのが一般的です。司法書士への報酬は、2万円から6万円程度が目安です。

また、この登記には登録免許税が発生します。登録免許税の額は、不動産の評価額(固定資産評価額)に税率(0.4%)をかけた金額が基本となります。

登録免許税=不動産の評価額×0.4%

4.未登記建物を解体する場合の注意点

相続した未登記建物が老朽化しており、解体する予定がある場合は、表題登記所有権保存登記をあえて行う必要はありません。建物を取り壊せば、その建物に権利は発生しなくなるからです。

ただし、解体後も市区町村の課税台帳には情報が残ってしまうため、固定資産税が課税され続けないよう、解体後は必ず役場(資産税課など)に「家屋滅失届出書」を提出しなければなりません。この届出を怠ると、固定資産税の負担が続くことになります。

5.早期対応と専門家への相談の重要性

未登記建物を相続することは、通常の相続手続きに加えて、表題登記所有権保存登記という2段階の作業が必要となり、非常に複雑で手間がかかります。特に、相続登記の義務化が進む現代において、未登記のまま放置すれば、過料のリスク所有権を主張できないといった深刻なデメリットが生じます。

また、遺産分割協議書の作成においても、未登記建物の特定には専門的な知識が必要であり、相続税の計算においても、建物の評価が難しくなることがあります。

名義変更を確実に行い、将来的なトラブルや税金のリスクを避けるためには、未登記建物が判明した時点で速やかに、土地家屋調査士や司法書士といった専門家に相談し、適切な手続きを進めることが最善の策といえるでしょう。

相続登記の登録免許税の計算方法

2025-11-08

相続が発生し、亡くなった方が所有されていた不動産を承継する場合、相続登記(正式名称:相続による所有権移転登記) の手続きが必須となります。この手続きは、不動産の所有権を公的に証明するために不可欠ですが、申請時には登録免許税という税金が課されます。

2024年4月1日からは相続登記が義務化され、不動産を取得したことを知った日から3年以内に登記申請を行わないと、10万円以下の過料が科される可能性があるため、迅速かつ正確な手続きが求められます。

本記事では、相続登記をスムーズに進めるために、登録免許税の基本的な計算方法から、正確な税額を導くための具体的な手順、適用される免税措置、そして納付方法までを詳しく解説します。

1.登録免許税とは:相続登記に必要な税金の基礎知識

登録免許税は、不動産や会社、資格などに関する登記・登録といった行政サービスに対して課される国税です。相続登記の場合、その税額は、対象となる不動産の価格(課税標準額)に一定の税率をかけて算出されます。

相続や遺贈によって不動産を取得した場合は、登録免許税の税率は0.4%が適用されるのが一般的です。ただし、遺贈によって相続人以外の人が不動産を取得した場合は、税率が2.0%となります。

登録免許税の計算式は以下の通りです。

登録免許税額 = 課税標準額 × 税率

この計算を正確に行うことが、適正な納税、ひいてはスムーズな相続登記の鍵となります。

2.登録免許税の「課税標準額」を確定する手順

登録免許税の計算の基礎となる課税標準額は、不動産の固定資産税評価額を基に算出されます。課税標準額を確定するためには、次のステップを踏みます。

1. 固定資産税評価額の確認と課税明細書の見方

まず、課税標準額の基となる不動産の固定資産税評価額を調べる必要があります。この情報は、主に以下の書類で確認できます。

  1. 固定資産税・都市計画税 課税明細書
  2. 固定資産評価証明書

課税明細書は、通常、毎年4月から6月頃に不動産の所有者宛に送付される固定資産税の納税通知書に同封されています。

課税明細書の「見方」で注意すべき点

課税明細書や固定資産評価証明書を確認する際、登録免許税の計算基準となるのは「価格」または「評価額」と表記されている箇所です

書類上には、「固定資産税課税標準額」という名称の金額も記載されていますが、これは固定資産税などを計算するための基準であり、登録免許税の算定基準とは異なりますので、絶対に混同しないように注意しましょう。

また、計算に使用する評価額は、登記を申請する日が属する年度(4月1日~翌年3月31日)の最新のものを使用しなければなりません。

2. 課税標準額の計算ルール

複数の不動産がある場合

相続登記を一つの申請書で複数の不動産について行う場合(例:土地と建物、または複数筆の土地)、それぞれのすべての固定資産税評価額を合算します。

合算した合計額について、1,000円未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てます。この切り捨てを行った金額が、登録免許税の課税標準額となります。

共有持分を相続する場合

亡くなった方が不動産の一部(共有持分)を所有していた場合、不動産全体の固定資産税評価額に、移転する持分の割合をかけて、相続する持分の評価額を算出し、その後1,000円未満の切り捨てを行います。

3. 特殊な不動産の場合の評価額

マンション(敷地権付き区分建物)

マンションを相続する場合、建物(専有部分)の評価額に加えて、土地(敷地部分)の評価額も考慮します。敷地部分の評価額は、マンション全体の土地の評価額に、敷地権割合をかけて算出し、建物と合算します。

非課税の土地(私道など)

私道や公衆用道路など、固定資産税が非課税となっている土地であっても、相続登記を行う際には登録免許税が課税されます。これらの非課税地の評価額が固定資産評価証明書に記載されていない場合、近隣の宅地(近傍宅地)の単価を基に評価額を算出します。公衆用道路の場合、近傍宅地の1㎡あたりの価額に地積と30%を乗じて計算するのが一般的です。

3.最終的な税額の算出と端数処理

課税標準額に税率(相続人の場合は0.4%)をかけた後、最終的な税額を確定するために再度端数処理が必要です。

算出した金額に100円未満の端数がある場合は、その端数を切り捨てます。 また、計算結果が1,000円未満となった場合でも、登録免許税の最低額は1,000円と定められています。

4.相続登記の登録免許税の免税措置

長期間放置された相続登記の解消を促すため、現在、土地に限り登録免許税が免除される免税措置が設けられています。この措置は令和9年3月31日までに登記申請を行った場合に適用されます。

1. 免税措置が適用される2つのケース

以下の2つの要件を満たす土地の相続登記が免税措置の対象となります。

① 相続登記をしないまま亡くなった場合(数次相続)

相続人が相続により土地を取得したにもかかわらず、その相続登記を行わないまま死亡した場合、その亡くなった個人の名義とするための相続登記については、登録免許税が免除されます。これは、数次相続が発生した場合の、中間省略登記が可能でない場合の一次相続登記の負担を軽減するものです。

② 土地の価額が100万円以下の場合

相続によって取得した土地の固定資産税評価額(価額)が100万円以下であるときは、登録免許税が免除されます。この基準は、令和4年度の税制改正で10万円から100万円に引き上げられ、適用対象が全国に拡大されました。

2. 免税措置を受けるための手続き

免税措置の適用を受けるためには、法務局に提出する登記申請書に、その根拠となる法令の条項を必ず記載しなければなりません。

• 数次相続の場合:「租税特別措置法第84条の2の3第1項により非課税」。

• 価額100万円以下の場合:「租税特別措置法第84条の2の3第2項により非課税」。

この記載が漏れると、免税措置は適用されませんので、細心の注意が必要です。

5.登録免許税の納付方法

登録免許税は、相続登記の申請を行う際に納付します。納付方法は主に以下の3種類です。

1. 収入印紙による納付

実務上、最も一般的な納付方法です。郵便局などで購入した収入印紙を、登記申請書に添付する別紙に貼り付けて提出します。高額な場合でもこの方法が利用されることが多いです。

2. 現金による納付

現金で納付する場合、法務局の窓口では直接支払いができないため、金融機関または税務署で納付手続きを行います。納付後、交付された領収証書を登記申請書に添付して提出します。

3. キャッシュレス(オンライン)納付

オンラインで登記申請を行う場合は、インターネットバンキングやモバイルバンキング、ATMを利用して電子納付が可能です。これにより、自宅などから申請から納付までの手続きを完了できます。

6.司法書士へのご相談をおすすめいたします

登録免許税の計算は、複数の不動産や特殊な評価が必要な場合、また課税明細書と登記簿の情報の相違がある場合の見方の判断など、専門的な知識が必要とされる場面が多くあります。正確かつスムーズに手続きを完了させたい、複雑な計算や書類の準備に不安があるという場合は、ぜひ専門家にご相談ください。

亡くなった親の預金、どう引き出す?

2025-10-29

「親が亡くなったが、葬儀費用や当面の生活費をどう工面したらよいのだろうか」—このような状況で、故人名義の預貯金口座に頼りたいと考えるのは自然なことです。しかし、故人の銀行口座は、死亡の事実が金融機関に伝わった時点で原則として凍結され、自由に引き出しができなくなります。

この凍結を解除し、預金を引き出すためには、法律に基づいた相続手続きを行う必要があります。本記事では、故人の預貯金を引き出すための具体的な方法、急ぎで資金が必要な場合の仮払い制度の活用、そして相続トラブルを未然に防ぐための注意点について、分かりやすく解説します。

1.故人の預貯金口座の現状:なぜ口座凍結されるのか

誰かが亡くなると、その人名義の預金は遺産となり、相続人全員の共有財産となります。金融機関が口座名義人の死亡を知ると、遺産が確定するまでの間、財産の保全と相続人同士の不正な引き出しを防ぐ目的で、直ちに口座を凍結します。

凍結された口座からは、キャッシュカードや通帳を使った預金の引き出しはもちろん、振り込み公共料金などの自動引き落としもできなくなります。

銀行が死亡の事実を知るタイミング

金融機関が名義人の死亡を知るきっかけの多くは、相続人や親族からの連絡です。死亡届を役所に提出しても、その情報が金融機関に自動的に共有されることはありません。しかし、新聞の訃報や葬儀の情報などをきっかけに、銀行が死亡の事実を把握し、遺族に確認した上で凍結措置を取ることもあります。

2.凍結前(死亡直後)の引き出しと潜在的リスク

故人の死亡後であっても、金融機関がまだ死亡の事実を把握しておらず、口座が凍結されていない状態であれば、キャッシュカードと暗証番号を使って預金を引き出すことは物理的には可能です。しかし、この行為には重大なリスクが伴います。

トラブルを避けるための鉄則:事前共有と記録

故人名義の預金は、遺産分割が完了するまでは相続人全員の共有財産です。たとえ葬儀費用などやむを得ない目的であっても、他の相続人に無断で預金を引き出すと、後に「使い込みではないか」と疑われ、相続トラブルに発展する可能性が非常に高くなります。

トラブルを回避するためには、以下の2点を徹底することが極めて重要です。

  • 他の相続人全員に事前に(もしくは直後に)引き出しの事実と目的を共有する
  • 引き出した金額を証明できる領収書や明細書を必ず残し、使用使途を明確にする

相続放棄ができなくなるリスク(単純承認)

最も注意すべきリスクの一つが単純承認とみなされることです。故人に多額の借金(マイナスの財産)があった場合、相続人は相続放棄を選択できますが、預金の一部を「自分のために」使ってしまうと、単純承認が成立し、負債を含めた全ての財産を相続せざるを得なくなります。

葬儀費用などの支払いは問題視されにくいとされる一方で、個人的な用途に使ったと判断されると危険です。借金の有無が不明な場合は、安易に預金に手を付けず、正式な手続きを踏むべきです。

3.口座凍結後に預金を引き出す3つの方法

口座が凍結された後、預金を引き出すには、主に「正式な相続手続き」「遺産分割前の払戻し制度」「家庭裁判所の仮処分」の3つの方法があります。

1. 原則的な方法:正式な相続手続きによる払い戻し

最も確実な方法は、遺産分割を確定させ、銀行に対して凍結解除と払い戻し(解約)を依頼する手続きです。

手続きの3ステップ

一般的な銀行の相続手続きは、以下のステップで進められます。

1. ステップ1:金融機関への連絡と必要書類の確認 故人が口座を持っていた金融機関に連絡し、相続手続きを開始したい旨を伝えます。銀行側から必要な書類の一覧や所定の届出用紙が案内されます。

2. ステップ2:必要書類の収集と提出 相続の状況に応じた書類を収集し、銀行所定の書類に記入・捺印(相続人全員の実印が必要な場合が多い)の上、提出します。

3. ステップ3:口座の解約・払い戻し 提出された書類に基づき、銀行側で審査が行われます。手続き完了までには通常2週間~1ヶ月程度かかるとされています。

相続状況別の必要書類

必要な書類は、遺言書の有無遺産分割協議が成立しているかどうかによって大きく異なります。

相続パターン主な必要書類根拠となる書類
遺言書がある場合被相続人の戸籍謄本、遺言書(原本)、検認済証明書(公正証書遺言等以外)、預金を受け取る相続人の印鑑証明書遺言書
遺言書はないが遺産分割協議書がある場合被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、相続人全員の印鑑証明書遺産分割協議書
遺言書も遺産分割協議書もない場合(法定相続分での分割など)上記の戸籍謄本一式、相続人全員の印鑑証明書、金融機関所定の相続関係届出書など相続人全員の協力

特に、戸籍謄本は故人の出生から死亡までの連続したものが必要とされることが多く、収集に時間がかかるため、早めに準備を始めることが重要です。

2. 急ぎの場合に便利:遺産分割前の払戻し制度

葬儀費用や当面の生活費など、緊急で資金が必要な場合は、2019年の相続法改正で新設された「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」(仮払い制度)の活用が有効です。

この制度を利用すれば、遺産分割協議が完了する前でも、相続人単独で故人の預金の一部を引き出すことが可能です。

払戻しの上限額

金融機関の窓口で手続きを行う場合、引き出せる金額には以下の上限が設けられています。

  1. 引き出し上限額相続開始時の預金残高 × 1/3 × 払い戻しを行う相続人の法定相続分
  2. 金融機関ごとの上限:上記計算結果が150万円を超える場合でも、1金融機関あたり150万円が上限となります。
  • 例:預金残高600万円、法定相続人:配偶者と子2人(法定相続分がそれぞれ1/2、1/4)の場合
  • 配偶者:600万円 × 1/3 × 1/2 = 100万円
  • 子(1人あたり):600万円 × 1/3 × 1/4 = 50万円

必要書類(仮払い制度利用時)

この制度を利用する場合の主な必要書類は、以下の通りです。

  1. 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
  2. 相続人全員の戸籍謄本
  3. 払戻しを希望する相続人の印鑑証明書

3. 高額な資金が必要な場合:家庭裁判所の仮処分

上記の払戻し制度の上限額(150万円)を超えて、緊急でまとまった資金が必要な場合は、家庭裁判所の保全処分(預貯金債権の仮分割の仮処分)を利用する方法があります。

この手続きは、遺産分割の調停や審判が家庭裁判所に申し立てられていることが前提となります。裁判所が払戻しの必要性(債務の弁済や相続人の生活費の支弁など)を認め、他の相続人の利益を害さないと判断した場合、一定の金額の引き出しが許可されます。

4.相続放棄を検討している場合の注意点

故人に借金などのマイナス財産が多い可能性がある場合、相続放棄を検討することが重要です。

相続放棄を検討しているにもかかわらず、故人の預金に手を付けてしまうと、単純承認とみなされ、相続放棄ができなくなるリスクがあります。

預金残高が少ない場合であっても、手続きの手間を考慮して、あえて口座凍結を解除せずに放置しておくという選択肢もあります。

• 相続財産に手を付けたかどうかは、預金をおろした目的や使途によって判断されますが、トラブルを防ぐためにも、相続放棄や限定承認を視野に入れている場合は一切預金に触れないことが賢明です。

相続放棄や限定承認は、自己のために相続があったことを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があり、期限が定められています。

5.生前からできるトラブル回避のための準備

亡くなった後の預金引き出し手続きをスムーズに行い、残された家族の負担を軽減するためには、親が元気なうちに生前対策を講じることが非常に有効です。

1. 銀行口座の一覧表作成と整理

親がどの金融機関に口座を持っているか、残高はどの程度かという情報を一覧表にして把握しておくと、相続発生後の財産調査の負担が大幅に軽減されます。

また、複数の銀行に口座が分散していると、それぞれの銀行で手続きが必要となり、遺族の手続きの労力が大きくなります。可能な限り口座を統一・集約しておくことも、手続きを効率化するための有効な対策です。

2. 遺言書の作成を促す

遺言書が残されていれば、預貯金を含む財産の分配方法が明確になるため、遺産分割協議が不要になる、または大幅に短縮され、口座の凍結解除もスムーズになります。

遺言書がない場合、遺産分割協議書の作成が必要となり、相続人同士の話し合いが長引いたり、家族間の軋轢を生んだりする原因となりかねません。トラブルの未然防止のためにも、遺言書の作成は非常に有効な手段です。

6.まずは当事務所へご相談ください

親が亡くなった際の預貯金を引き出すプロセスは、まず故人の口座が凍結されることから始まります。この凍結を解除し、正式に預金を引き出すには、遺言書遺産分割協議書の有無に応じた複雑な相続手続きと、戸籍謄本などの多くの必要書類の収集が必要です。

緊急で資金が必要な場合は、遺産分割前の払戻し制度を利用すれば、1金融機関あたり150万円を上限として、相続人単独で預金の一部を引き出すことができます。

いずれの方法を選択するにしても、他の相続人との情報共有と、使途を証明するための領収書や明細の保管を徹底し、相続トラブル単純承認のリスクを避けることが何よりも重要です。

相続手続きは専門的な知識を要し、収集すべき書類や手続きの期限など、複雑な要素が多く含まれます。お客様の状況に合わせた最適な手続きを選択し、円滑な相続を実現するため、判断に迷うことがあれば、まずは当事務所にご相談ください。

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