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法定相続情報一覧図の概要とその活用方法
相続が発生すると、不動産の名義変更、銀行口座の解約、保険金の請求、証券の名義変更など、さまざまな相続手続きが必要になります。こうした手続きには、多くの場合、戸籍謄本や住民票、除籍謄本などの書類をそろえ、各機関に提出する必要があります。しかし、この一連の書類集めや手続きの負担は、遺族にとって非常に大きなものです。
特に、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍をすべて集め、相続人の範囲を証明するための「戸籍一式」を何部も用意しなければならない点は、多くの相続人にとって大きな壁となっています。これにより、相続手続きが遅れたり、途中で手続きを断念したりするケースも少なくありません。
このような煩雑な相続手続きを簡素化するために、近年注目されているのが「法定相続情報一覧図」です。法定相続情報一覧図は、法務局が公的に発行する「相続関係をまとめた一覧表」であり、これを利用することで、相続手続きの効率化が大きく進みます。
実際に、法定相続情報一覧図を取得しておけば、金融機関や証券会社、市区町村、税務署などの各機関で、原本戸籍をその都度提出せずに手続きが進められるようになります。これは、相続手続きを行う上での大きな時間短縮・負担軽減につながります。この記事では、「法定相続情報一覧図」についてできる限りわかりやすく解説していきます。
1.法定相続情報一覧図とは何か?
法定相続情報一覧図とは、被相続人(亡くなった方)の法定相続人が誰であるかを、戸籍に基づいて一覧にまとめた書類で、法務局が正式に認証するものです。簡単に言えば、「誰が相続人であるか」を公的に証明する図表のようなものです。
制度の概要
この制度は、法務省が平成29年(2017年)5月29日からスタートさせたもので、相続登記や金融機関での手続きの簡略化を目的としています。被相続人の出生から死亡までの戸籍、除籍、改製原戸籍等をすべて収集し、それをもとに作成した相続関係を一覧にし、法務局に申出をすることで、「法定相続情報一覧図の写し」が交付されます。
この写しは、登記簿や戸籍と同じく公的な証明書類として扱われ、以下のような手続きに活用できます。
- 不動産の相続登記(名義変更)
- 銀行口座や証券口座の解約・名義変更
- 生命保険金の請求
- 税務署や年金事務所への相続関連申告
証明内容
一覧図には、以下のような内容が記載されます:
- 被相続人の氏名・生年月日・死亡日・本籍
- 相続人の氏名・生年月日・被相続人との関係
図の形式で記載されるため、第三者にも非常に分かりやすく、金融機関等の担当者が相続関係をすぐに把握できるというメリットがあります。
法定相続情報一覧図と戸籍謄本の違い
これまでの相続手続きでは、各機関ごとに戸籍一式を提出する必要があり、コピーが使えない場面も多いため、何部も原本を取り寄せなければなりませんでした。加えて、戸籍の形式もバラバラで、見づらいことも多かったのが実情です。
一方で、法定相続情報一覧図は、戸籍に基づく内容を法務局が確認し、認証したうえで作成される「公的な相続関係図」ですので、これ1通をもってさまざまな機関での手続きを進めることができるのです。
なお、一覧図は申出人(相続人の1人)からの申し出により、無料で取得することができます。また、写しは複数部取得することができるため、各機関に同時並行で手続きを進める場合にも非常に便利です。
2.法定相続情報一覧図を取得するために必要な書類
法定相続情報一覧図を取得するには、法務局への「法定相続情報証明制度の申出」を行う必要があります。申出にはいくつかの書類を揃える必要がありますが、それらはすべて、被相続人と相続人の関係を明確に証明するためのものです。
ここでは、必要書類の一覧と、それぞれの取得方法や注意点について詳しくご紹介します。
1. 申出書(指定様式あり)
「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」は、法務局所定の様式に従って作成する必要があります。これは申出人が誰であるか、どのような内容の一覧図を保管・交付してもらいたいかを明記するものです。
様式は法務局のホームページからダウンロードできますし、司法書士に依頼した場合は代理で作成してもらえます。
2. 法定相続情報一覧図
相続人関係を示す図で、被相続人を起点とし、配偶者・子ども・兄弟姉妹など、相続人の関係がわかるように記載されます。
※注意点
この一覧図そのものには法的な効力はありませんが、法務局が内容を戸籍で確認し、「認証」されたものが正式な「法定相続情報一覧図の写し」となります。
図には以下の内容が必要です:
- 被相続人の氏名・生年月日・死亡日・本籍
- 各相続人の氏名・生年月日・続柄
3. 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡までのすべて)
被相続人の生涯にわたる戸籍をすべて取得する必要があります。これは、出生から婚姻・転籍・改製などを経た戸籍が複数に分かれている場合が多いためです。
- 除籍謄本
- 改製原戸籍
- 戸籍謄本(全部事項証明書)
これらを組み合わせて、出生から死亡までの連続した戸籍の流れを証明する必要があります。
4. 相続人全員の戸籍謄本
法定相続人が誰であるかを確認するために、すべての相続人について現在の戸籍(戸籍謄本)を取得する必要があります。
- 配偶者、子ども
- 代襲相続が発生している場合は、亡くなった相続人の出生~死亡までの戸籍、および代襲者の現在の戸籍を追加で取得する必要があります。
- 相続人が兄弟姉妹になる場合は、親や祖父母の戸籍も必要になることがあります。
5. 被相続人の住民票の除票
被相続人がどこに住んでいたかを証明するための書類で、通常は市区町村役場で取得可能です。
6. 相続人の住民票(または住所がわかる書類)
申出人の現住所を確認するための住民票、または免許証のコピーなどが必要になります。
また、相続人の住所を法定相続情報一覧図に記載する場合には、記載するすべての相続人について住民票を添付する必要があります。
こうした書類の収集は、ご自身でも可能ですが、複雑な戸籍の読み解きや、相続人の特定、記載ミスの防止などの点から、司法書士に依頼することで安心かつスムーズに進められます。
3.申請方法と手続きの流れ
法定相続情報一覧図を取得するには、法務局に対して「法定相続情報証明制度の申出」を行う必要があります。この手続きは、あくまで無料で利用できる制度ですが、書類の準備や作成には一定の手間と正確性が求められます。
ここでは、申出から一覧図を受け取るまでの流れを、ステップごとに詳しく解説します。
ステップ1:必要書類の収集
まずは上記でご紹介した書類をすべて準備します。特に注意すべき点は以下の通りです:
- 被相続人の戸籍は「出生から死亡まで」が必須
- 相続人全員の戸籍(結婚などで別戸籍になっている場合も含む)
- 被相続人の住民票の除票も必要
必要書類の準備だけで1ヶ月ほどかかることもあるため、早めの対応が肝心です。
ステップ2:法定相続情報一覧図の作成
戸籍から読み取った相続関係をもとに、法定相続情報一覧図(いわゆる家系図)を作成します。ここでは正確な関係性(配偶者・子・代襲相続人など)と、生年月日・続柄などの記載が求められます。
※図の記載内容にミスがあると法務局から再提出を求められるため要注意です。
ステップ3:申出書の作成
法務局の指定様式に従い、申出書を作成します。ここで記載する主な内容は:
- 申出人の氏名・住所
- 被相続人の氏名・本籍・死亡日
- 提出する書類の一覧
- 交付を希望する一覧図の部数
一覧図は原則として「写し(認証文付き)」で交付されます。必要に応じて複数部(例えば銀行・不動産・保険など用)を申請できます。
ステップ4:法務局への申出(窓口または郵送)
書類一式を準備できたら、法務局(被相続人の本籍地または最後の住所地などを管轄する登記所)へ提出します。提出方法は以下の2通りです。
- 窓口提出:直接持参して提出。
- 郵送提出:郵送の場合は返信用封筒・切手の同封が必要。
※管轄法務局が不明な場合は、専門家または法務局に問い合わせるとよいでしょう。
ステップ5:法務局による審査・保管・交付
法務局では、提出された戸籍類と一覧図を照合し、相続関係が正確に記載されているかを確認します。
- 問題がなければ一覧図を「法定相続情報一覧図の写し」として交付
- 問題があれば、訂正の連絡が入る(再提出が必要)
審査期間は通常1~2週間程度が目安です(混雑状況により異なります)。
ステップ6:交付された一覧図の利用
交付された一覧図は、銀行・証券会社・不動産登記・保険・税務署など、様々な相続関連手続きに利用できます。複数部用意しておけば、並行して複数の手続きを進めることが可能になり、相続事務が大幅に効率化されます。
4.実際に役立つ場面と活用事例
法定相続情報一覧図は、単なる「家系図」ではありません。相続人の関係と身分関係を法務局が証明した、極めて信頼性の高い公的資料であり、相続手続きの現場ではさまざまな場面で大きな効果を発揮します。
ここでは、実務上どのような場面で一覧図が役立つのか、具体的な事例とともに解説します。
1. 銀行・証券会社での相続手続きがスムーズに
銀行や証券会社で相続手続きを行う場合、従来は以下のような大量の書類を提出しなければなりませんでした。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍
- 相続人全員の戸籍
- 遺産分割協議書
- 印鑑証明書
- 各金融機関ごとの所定の相続書類
しかし、法定相続情報一覧図を提出することで、複数枚にわたる戸籍を提出する手間が省けるうえ、金融機関によっては「戸籍一式の原本還付」が不要になり、手続き時間の短縮や事務負担の軽減につながります。
2. 不動産の相続登記(名義変更)に活用
相続によって土地や建物を取得した場合は、相続登記(名義変更)が必要です。この手続きでも、法定相続情報一覧図が使えます。
通常の登記申請では、添付書類として戸籍謄本一式が必要ですが、一覧図を使えばそれらの代用となり、法務局でもスムーズに受理されます。
登記官にとっても読みやすく、ミスの防止にもつながり、複雑な相続関係を簡潔に説明できる一覧図の効力が際立ちます。
3. 税務署への相続税申告にも有効
相続税の申告では、法定相続人の構成や続柄を証明する資料として戸籍謄本一式の提出が求められますが、一覧図を提出すれば代替資料として利用可能です。
また、税理士に申告業務を依頼する際にも、法定相続情報一覧図を渡すことで、相続関係の説明が一目で伝わり、スムーズな手続き進行に寄与します。
4. 遺産分割協議前の相続人の確定に活用
被相続人に複数の婚姻歴や子どもがいた場合など、相続人が誰なのか分かりにくいケースもあります。こうした場合、一覧図を先に取得しておくことで、相続人全員の構成を確認できる資料として活用できます。
特に、将来的に相続人の誰かが認知症を患ってしまったり、所在不明になる可能性がある場合、早めの一覧図作成は「トラブル予防の第一歩」にもなります。
5. 複数の手続きを同時進行できる
遺産分割が済んでいない状態でも、法定相続情報一覧図は取得可能です。このため、たとえば不動産の名義変更手続きを進めつつ、銀行手続きや生命保険の請求を並行して進めるなど、相続事務の同時進行が可能になります。
煩雑で長期化しがちな相続手続きにおいて、手間と時間を減らすことができるのは、一覧図を使う最大の利点のひとつです。
6. 家族への説明資料としても有効
「相続関係が複雑で、家族に説明しづらい」というケースは少なくありません。法定相続情報一覧図があれば、第三者にもわかりやすく、誤解を避けた説明が可能です。
これにより、家族間の不要な誤解や感情的な対立を避けることにもつながります。
5.よくある質問とその回答(Q&A)
法定相続情報一覧図は便利な制度ですが、初めて耳にする方や、制度を利用したことがない方にとっては、不明点や不安も多いかもしれません。ここでは、実際によく寄せられる質問とその回答をまとめました。
Q1. 法定相続情報一覧図はどこで申請できますか?
A1. ①亡くなった方の本籍地、②亡くなった方の最後の住所地、③申出人の住所地、④亡くなった方名義の不動産の所在地、のいずれかを管轄する法務局で申請することができます。郵送での申請も可能ですが、提出書類に不備があると差し戻されるため、心配な方は司法書士などの専門家に相談すると安心です。
Q2. 一覧図は誰でも取得できますか?
A2. 申請できるのは、被相続人の法定相続人、またはその代理人(司法書士・弁護士など)に限られます。他人が勝手に申請することはできません。
Q3. 法定相続情報一覧図は何枚までもらえますか?
A3. 一回の申出につき複数枚の交付が可能です。たとえば、銀行・法務局・税務署など、それぞれに提出する場合、用途に応じた枚数を事前に申請しておくとよいでしょう。追加で交付を希望する場合も、一覧図の写しが保管されている間であれば、再交付申請が可能です。
Q4. 遺産分割協議が済んでいない段階でも申請できますか?
A4. はい、できます。法定相続情報一覧図は、あくまで法定相続分に基づいた相続関係を証明する資料であるため、遺産分割協議の有無にかかわらず取得可能です。むしろ、相続人の構成確認のために先に一覧図を取得しておくのが有効な場合もあります。
Q5. 遺言書がある場合でも一覧図は使えますか?
A5. 遺言書があっても、遺言執行者が手続きを進めるための資料として一覧図を使うことは可能です。ただし、相続人以外へ遺贈する内容の遺言などの場合は、一覧図がそのまま相続関係の証明には使えないこともあるため、専門家の確認をおすすめします。
Q6. 一覧図を使えば、すべての相続手続きが簡単になりますか?
A6. 一覧図は非常に有用な資料ですが、遺産分割協議書や印鑑証明などの提出は依然として必要なケースが多いです。また、提出先によって対応が異なる場合もあるため、事前に確認することが重要です。
Q7. 法定相続情報一覧図を使うときの注意点は?
A7. 法定相続情報一覧図は非常に便利な制度ですが、以下のような注意点があります。
① 数次相続が発生している場合
一次相続(A→B)手続中に相続人Bが死亡し、その遺産分割前にさらに次(Cが相続)という複数の相続が連鎖したケースを数次相続といいます。
法定相続情報一覧図は被相続人ごとに1通作成が原則で、数次相続が発生した場合は、各被相続人ごとに個別の一覧図が必要となるため、一枚の一覧図でまとめて表現することはできません。
一次相続・二次相続の全体像を整理したうえで、それぞれの相続時点ごとの法定相続人を確定し、個別の一覧図を作成します。
数次相続の場合、各相続の申出人情報や代襲・再代襲関係にも注意が必要です。
② 相続放棄した相続人がいる場合
相続放棄は基本的に戸籍に記載されず、法定相続情報一覧図にも反映されません。よって、放棄した相続人も、法定相続人として一覧図に記載されます。
そのため、実際の相続手続きでは法定相続情報一覧図に加えて、「相続放棄申述受理証明書」等で別途放棄の事実を証明する必要があります。
第1順位相続人全員が相続放棄した場合、実際には第2、第3順位(例えば親や兄弟姉妹)が相続人となるが、制度上はそのまま一覧図に記載されないケースもあり、手続きの現場で混乱が生じやすい点に留意が必要です。
③ 推定相続人が廃除されている場合
廃除された相続人(例:推定相続人が被相続人との関係で廃除裁判により相続権を失った場合)は、戸籍に廃除の旨が記載されるため、法定相続情報一覧図には記載されません。
廃除が確定する前(裁判手続き中など)は、一覧図上では通常どおり相続人として記載されます。決定後は、あらためて廃除後の内容で再申出が必要です。
廃除された相続人に子がいる場合、その子は代襲相続人として記載されますが、「被代襲者」としての表記は注意が必要です。記載内容に誤りがあると訂正手続きとなります。
④ 実際の遺産分割とは異なる内容になることもある
法定相続情報一覧図は「法定相続分に基づく相続関係」を記載するものであり、実際の遺産分割協議の内容や遺言の内容は反映されません。
そのため、一覧図に記載された内容だけで、金融機関や不動産登記などの各種手続きが完了するとは限らず、別途、遺産分割協議書や遺言書の写し等が必要になるケースが多くあります。
6.当事務所のサポート体制について
法定相続情報一覧図は、手続きの簡略化や一括対応を可能にする非常に便利な制度です。しかし、申請には戸籍の収集や相続関係の正確な把握が不可欠であり、誤った内容で申請してしまうと、後々の登記や預金解約手続きに支障をきたすリスクもあります。
当事務所では、横浜市青葉区を中心に、緑区・都筑区・町田市など近隣エリアの方から多数のご相談をいただいており、法定相続情報一覧図の申出や相続登記・預金解約・遺産整理まで、トータルでの相続手続き支援を行っております。
初回相談は無料で、平日夜間・土日祝のご相談にも柔軟に対応いたします。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続放棄を検討するなら「やってはいけないこと」
相続手続きの中でも「相続放棄」は、ご自身に不利益が及ぶことを避けるための重要な選択肢の一つです。特に、被相続人が多額の借金を抱えていた場合、財産を一切受け取らないことでその責任を免れることができます。しかし、この「相続放棄」には厳格なルールが定められており、手続きの進め方を誤ると、知らぬ間に「相続したもの」とみなされてしまう危険があります。
例えば、「少しくらいなら」と故人の預金を使ったり、遺品を勝手に処分してしまったりしただけで、相続放棄が認められなくなるケースもあります。独自の判断で行動してしまうと、取り返しのつかない事態に発展しかねません。
本記事では、相続放棄を検討している方が絶対に避けるべき行動=“やってはいけないこと”を中心に、知っておくべき重要なポイントを詳しく解説します。
1.相続放棄の基本的な考え方と重要な期限
まず、相続放棄とは、故人のプラスの財産(預貯金、不動産など)だけでなく、マイナスの財産(借金、未払金など)も含め、一切の財産を承継しないという法的な手続きです。相続放棄が認められれば、最初から相続人ではなかったものとして扱われます。
この手続きには、非常に重要な期限が定められています。原則として、自身が相続人になったことを知った日(通常は故人の死亡日)から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。この3ヶ月という期間は「熟慮期間」と呼ばれ、故人の財産状況を調査し、相続放棄をするべきか否かを慎重に検討するための期間です。もしこの期間内に相続放棄の手続きを完了しないと、特別な事情がない限り、故人の財産をすべて相続する「単純承認」をしたとみなされてしまう可能性があります。
この3ヶ月の熟慮期間は、想像以上に短く感じられるかもしれません。特に、故人の財産が複雑であったり、遠方に住む相続人がいたりする場合には、財産調査や他の相続人との連絡に時間を要することがあります。もし3ヶ月以内に判断が難しい場合は、家庭裁判所に申し立てて期間の延長を申請することも可能です。
2.やってはいけない行動①:相続財産に手を付ける
相続放棄を検討している場合に、最も注意しなければならないのが、相続財産に手を付けてしまうことです。法律上は、相続財産を処分したり使用したりする行為(法定単純承認)を行うと、相続放棄ができなくなる可能性があります。
■ 「相続財産に手を付ける」とは何を指す?
家庭裁判所で相続放棄が正式に受理されるまでは、被相続人の財産に触れることは極力避ける必要があります。具体的には、次のような行動が危険です。
- 被相続人の預金を引き出す
- 自宅や土地を売却・賃貸する
- 故人名義の車を処分・売却する
- 相続財産を使って債務を返済する
- 家の中を勝手に片づける・処分する
これらの行動は、財産の「処分」や「使用」とみなされ、法律上は相続を承認したとされる恐れがあります。一部の財産だけでも手を出してしまうと、相続放棄ができなくなるリスクがあるのです。
■ 危険なケース:親名義の口座から葬儀費用を引き出す
よくあるのが、「葬儀費用を立て替えるつもりで、故人の預金口座からお金を引き出した」というケースです。この行動が相続財産の使用とみなされる可能性があり、相続放棄が認められないことがあります。
ただし、家庭裁判所の実務上、葬儀費用を一時的に立て替えるために最低限の引き出しを行っただけで、かつ他の財産に手を出していないような場合には、放棄が認められることもあります。とはいえ、判断は非常に微妙で、ケースバイケースです。
3.やってはいけない行動②:相続人であることを前提に行動する
相続放棄を希望していても、「自分が相続人であることを前提にした行動」を取ってしまうと、相続を承認したものとみなされることがあります。このような行動は「法定単純承認」と呼ばれ、相続放棄の効力が認められなくなる重大なリスクを伴います。
■ 単純承認とみなされる典型例
以下のような行動は、裁判所から相続を承認したと判断される可能性があります。
- 被相続人の債権者に対して返済を申し出た
- 故人宛に届いた請求書に対して支払いを行った
- 役所や保険会社などで「私は相続人です」と名乗った
- 家庭裁判所に放棄を申し出る前に遺産分割協議に参加した
これらはいずれも、「自分が相続人としての権利や義務を引き受ける意思がある」と解釈されてしまう可能性があります。つまり、行動そのものが「相続するつもりがある」と判断されるわけです。
■ よくある誤解:「形式的な手続きだから大丈夫」は危険
「念のため役所に届け出をしただけ」「遺産分割協議書にサインしたが内容は見ていない」などといった言い訳は、通用しない可能性があります。家庭裁判所は、客観的な行動に基づいて判断を下すため注意が必要です。
たとえば、「家の固定資産税を払ってしまった」といった行動すら、相続人としての管理行為とみなされることもあります。
■ 「何もしない」ことが最大の防御
相続放棄を検討している場合は、まず何もしないことが一番安全です。相続人であることを前提とする行為は一切控え、速やかに家庭裁判所への申述手続きを進めましょう。
そして、少しでも判断に迷う場合には、司法書士などの専門家に相談し、今後どのように行動すべきかを確認することが重要です。
4.よくある相続放棄の失敗例とその回避策
相続放棄は、「申述さえすればOK」と思われがちですが、一歩間違えると重大なトラブルに発展することも珍しくありません。この章では、実際に起きがちな失敗例を取り上げ、それを防ぐための対処法をご紹介します。
■ 失敗例1:放棄したつもりが、単純承認とみなされた
相続放棄をする前に、
- 相続財産である預金を一部使ってしまった
- 被相続人の所有する自動車や不動産の売却を進めてしまった
- 借金取りの催促に「支払います」と応じてしまった
といった行動をとった場合、家庭裁判所に正式な申述をしていなくても「相続を承認した」と見なされるおそれがあります。これを「単純承認」といいます(民法921条)。
一度でも承認したとみなされると、その後に放棄を申し出ても認められない可能性が高くなります。
【回避策】
相続放棄を検討している段階では、被相続人の財産に手を付けないことが鉄則です。借金の支払いにも応じず、第三者からの連絡には「専門家に相談中です」と対応しましょう。
■ 失敗例2:不要な財産の処分による承認扱い
「ただのゴミだと思って捨てた家具」「家の片づけで処分した書類」などが、実は資産価値のあるものであった場合も、単純承認に該当することがあります。
たとえば、故人のタンスを粗大ごみに出した際に、中に貴金属や現金が含まれていた、というようなケースでは、“相続財産の処分”と見なされる可能性があります。
【回避策】
放棄を検討している場合、相続財産かどうか分からないものは勝手に動かさず、まずは専門家に相談してください。「形見分け」や「片づけ」も慎重に。
■ 失敗例3:相続人の一部のみが放棄したことによる争い
兄弟姉妹の中で一人だけが相続放棄をした結果、残った相続人に借金の負担が集中してしまい、家族間のトラブルに発展することがあります。
【回避策】
放棄を検討している場合は、他の相続人とも情報共有を行い、全体での方針を整えることが大切です。場合によっては、一括して放棄の申述を行うなど、連携した対応が望ましいでしょう。
■ 失敗例4:家庭裁判所への提出書類の不備で却下
相続放棄の申述は、申立書のほかに戸籍謄本や住民票など多くの添付書類が必要です。
特に、被相続人と申述人の親子関係が複雑な場合には、複数の戸籍を収集する必要があり、準備に時間を要します。
【回避策】
必要書類のチェックはできるだけ早い段階で行うこと。相続関係が複雑な場合は、専門家に依頼してスピーディーに整えてもらうのが安全です。
5.相続放棄は慎重かつ確実な対応が求められます
相続放棄は、亡くなった方の借金や不要な財産を引き継がずに済む有効な手段です。しかし、その手続きには期限の厳守や行動の制限、専門的な判断が求められる場面が多く、誤った対応をしてしまうと、思わぬ法的責任を負ってしまうリスクがあります。
特に次のようなポイントは、多くの方が誤解しやすく、トラブルにつながりやすい注意点です。
- 「何もしなければ相続放棄したことになる」という思い込み
- 故人の遺品整理や不動産の管理を無意識に行ってしまう
- 放棄の意思表示を口頭だけで済ませる
- 放棄の意思があっても、家庭裁判所に申述しないまま期限が過ぎる
- 相続人が複数いる中で、情報共有を怠る
これらの点を踏まえ、相続放棄を検討されている場合は、「自分が相続人かどうか」「相続財産に何が含まれているのか」「放棄が最適かどうか」などを、客観的に判断し、的確に行動することが重要です。
当事務所では、相続放棄の可否判断から家庭裁判所への申述サポートまで、丁寧に対応しております。横浜市青葉区を中心に、緑区・都筑区・町田市など近隣エリアからのご相談も多数いただいております。
「相続放棄を考えているけど、どうすればいいか分からない」「すでに財産に手を付けてしまったかもしれない」といったお悩みがある方も、お一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。状況に応じた最適な手続き方法をご提案し、トラブルのない相続をサポートいたします。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続手続きを放置して後悔したケース
相続手続きは、大切な方を亡くされた後に直面する、避けては通れない重要なプロセスです。しかし、その複雑さや精神的な負担から、つい手続きを「後回し」にしてしまう方も少なくありません。その結果、様々な問題が発生し、後々「あの時、もっと早くやっておけばよかった」と後悔するケースも存在します。
今回は、相続手続きを放置することで生じる可能性のある落とし穴と、それらを未然に防ぐための対処法について詳しく解説します。
1.相続手続きを放置すると何が起きるのか?
相続は、故人の財産だけでなく、負債も含めて次の世代に引き継ぐ大切なプロセスです。この手続きを適切に進めないと、以下のような金銭的、法的、そして精神的な問題が発生し、かえって大きな負担となることがあります。特に、相続財産や相続人の確定、遺産分割、相続税の申告など、多岐にわたる手続きにはそれぞれ重要な意味があり、無視できない期限も存在します。
後悔につながる具体的なケース
相続手続きの放置が原因で起こりがちな具体的な後悔のケースを見ていきましょう。
金銭的な負担とトラブル
手続きの遅れは、予期せぬ金銭的な損失や負担を招くことがあります。
故人の預貯金が凍結されるリスク
金融機関は預金者の死亡を知ると、その口座を凍結します。これにより、葬儀費用など故人の死後の急な出費が必要な場合でも、原則として自由に預金を引き出せなくなります。遺産分割協議が成立していない状況で、一部の相続人が他の相続人の了解なしに預金を引き出した場合、刑事責任に問われる可能性は低いとされていますが、後に不正な引き出しと疑われ、返還請求や損害賠償請求といった民事トラブルに発展する可能性があり、注意が必要です。また、使途を明確に説明できない場合や、引き出しの事実を隠していた場合も、他の相続人からの不信感を生み、トラブルが拡大する原因となり得ます。
多額の税金負担
相続税の申告には原則として「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」という厳格な期限があります。相続手続きを放置し、期限内に申告を行わなかった場合、延滞税や加算税といったペナルティが発生する可能性があります。
また、期限内に適切な申告をしなかったことにより、本来適用できたはずの各種特例(例:小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減など)を使えず、結果として多額の相続税を負担することになるケースも少なくありません。税務署は「知らなかった」「忙しかった」といった事情では原則として猶予を認めてくれません。
相続税の納税資金が不足するおそれ
相続税の納税は基本的に「現金一括払い」が原則です。相続手続きを放置しているうちに、預貯金口座が凍結されて引き出せず、現金が用意できないという状況に陥ることもあります。相続税の「物納制度(不動産等での納税)」を利用するためにも、期限内に適切な手続きを進める必要があり、放置は命取りになりかねません。
手続きの煩雑化と法的な問題
手続きを放置すると、時間の経過とともにさらに複雑化し、法的な問題に直面することもあります。
不動産の名義変更(相続登記)の義務化
2024年4月1日からは、不動産の相続登記が義務化されました。これを怠ると、過料が科される可能性があるだけでなく、将来的に不動産の売却や担保設定ができなくなるなど、活用が著しく制限されることになります。長期間放置された不動産は、相続人がさらに増え、名義変更が非常に困難になるケースも少なくありません。
相続人の確定の困難化
相続人の調査には、故人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本を取り寄せる必要があります。時間が経つと、戸籍の収集自体が複雑になり、相続人が増えることで全員の同意を得ることが難しくなります。
海外在住の相続人がいる場合の課題
相続人の中に海外に居住している方がいる場合、遺産分割協議には相続人全員の参加と同意が大前提となります。しかし、時差や距離の問題で話し合いの機会を設けるのが困難となることがあります。また、海外在住者には日本の印鑑証明書や住民票がないため、代わりに現地の日本領事館などで「署名証明書(サイン証明)」や「在留証明書」を取得する必要があります。これらの書類の手配にも時間と手間がかかり、手続きが滞る原因となります。日本国籍を有していない相続人がいる場合は、さらに手続きが複雑になることもあります。
親族間の争いと精神的負担
相続手続きの遅延によって、親族間の争いの火種となることは最も避けたい事態です。
遺産分割協議の難航
相続人全員が合意しなければ遺産分割協議は成立せず、一人でも参加しない、または同意しない相続人がいれば手続きを進めることができません。話し合いが長引くと、お互いへの不満や不信感が募り、「争続」と呼ばれる深刻な家族間の争いへと発展するケースは珍しくありません。特に不動産など分割しにくい財産がある場合、争いの原因になりやすいでしょう。
相続放棄の機会喪失
被相続人に借金などの負債があった場合、相続放棄を選択することでその支払いを免れることができますが、原則として相続開始を知った日から3ヶ月以内という厳格な期限があります。この期間内に財産調査や手続きを行わないと、意図せず借金も相続してしまい、後で後悔することになります。一部の相続人が故人の預金を引き出すことで、法定単純承認とみなされ相続放棄ができなくなる可能性もあります。
2.なぜ相続手続きは放置されがちなのか?
多くの方が相続手続きを放置してしまう背景には、以下のような理由が挙げられます。
手続きの複雑さや専門知識の不足
相続は多岐にわたる法律や税金の知識が必要とされ、一般の方には非常に難解に感じられます。
忙しさや時間的な制約
仕事や育児などで忙しく、煩雑な手続きに時間を割くことが難しいケースが多いです。
精神的な負担
大切な人を亡くしたばかりで、精神的に手続きを進める余裕がないと感じることもあります。
どこから手をつけてよいかわからない
3.後悔しないための早期の行動を
何から始めるべきか、誰に相談すべきか分からず、行動に移せない方も少なくありません。
相続手続きは、放置してしまうことで金銭的な損失や家族間のトラブル、複雑な法的リスクを招く恐れがあります。「まだ大丈夫」と先延ばしにせず、早めの対応が何よりも大切です。高野司法書士事務所では、相続手続き全般にわたり丁寧かつ迅速にサポートいたします。東急田園都市線・青葉台駅から徒歩6分とアクセスも良好です。初回相談は無料ですので、不安や疑問があればお気軽にご相談ください。大切なご家族の想いを、円満なかたちで未来へつなぐお手伝いをいたします。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
相続人が海外在住の場合の相続手続きと注意点
近年、仕事や結婚、留学などで海外に居住する日本人が増加しており、それに伴い、相続人の中に海外在住の方が含まれるケースも珍しくなくなってきました。相続が発生した際、海外に居住する相続人であっても、被相続人の財産を相続することは可能です。
しかし、日本に居住している相続人が行う手続きとは異なる点や、特有の注意点が存在します。本記事では、海外在住の相続人がいる場合の相続手続きの進め方、必要書類、そして特に留意すべき点について詳しく解説します。
1.相続手続きの基本的な流れ
被相続人が亡くなり相続が開始された際、遺言書が存在しない場合、被相続人の遺産を相続する権利を持つすべての相続人が集まり、遺産の分割方法について話し合う「遺産分割協議」を行う必要があります。この協議は、相続人全員の参加と内容への同意が大前提であり、たとえ一人でも参加しない相続人がいた場合、その協議は無効とされてしまうため注意が必要です。
遺産分割協議が無事にまとまったら、後々のトラブルを防ぐために、遺産の分割方法を明記した「遺産分割協議書」という書面を作成し、相続人全員が署名し実印を押印するのが一般的です。
2.海外在住の相続人における遺産分割時の必要書類と取得方法
相続人の中に海外居住者がいる場合でも、相続手続きの基本的な流れに大きな違いはありませんが、日本に住所登録をしておらず海外に居住している相続人には、実印と印鑑証明書がないという点が大きな相違点となります。そのため、これらの書類に代わる証明書を準備する必要があります。
署名証明書(サイン証明書)
日本の印鑑証明書に代わるものとして、本人の署名および拇印が確かに領事の面前でなされたことを証明する「署名証明書」を、現地の日本大使館や領事館などの在外公館で発行してもらう必要があります。多くの場合、遺産分割協議書を直接在外公館に持参し、領事の目の前で署名することで、その署名が本人のものであると証明してもらいます。一時的に日本に帰国している場合は、日本の公証役場で同様のサイン証明書を取得することも可能です。このサイン証明は、日本における印鑑証明書と同様の公的な証明書類として扱われます。署名証明書には2種類あるため、事前に金融機関や法務局など、提出先でどちらの形式が必要か確認しておくと良いでしょう。また、遺産分割協議書以外にも署名押印が必要な書類がある場合、別途署名証明書が必要になる可能性もあります。
在留証明書
遺産分割協議の結果、不動産を相続する場合には住民票が必要になりますが、海外在住者には住民票が発行されない国が大半です。そのため、住民票に代わる「在留証明書」の発行が必要となります。在留証明書は、署名証明書と同様に現地の在外公館で発行されます。発行には、日本国籍を有していること、現地に既に3か月以上滞在し住所が公文書などで明らかになっていること、そして発行手数料の支払いが必要です。パスポートに加え、賃貸契約書や公共料金の請求書など、滞在期間と居住地がわかる書類を持参する必要があります。不動産の相続登記手続きを行う際には住所を証明する書面が必要となるため、日本に一時帰国する前に、海外の居住地における在外公館で「在留証明書」を予め取得しておくことが望ましいとされています.
相続証明書(海外の国籍を有する場合)
相続人の中に、日本の国籍を放棄し、外国籍を取得した方がいる場合、日本の戸籍謄本を取得することができません。この場合、出生証明書、婚姻証明書、死亡証明書など、その国の公的な証明書が日本の戸籍謄本の代わりとして「相続証明書」に該当することがあります。被相続人が日本国籍であれば、たとえ相続人が外国籍であっても日本の法律(民法)に基づいて相続手続きが行われます。
3.海外在住者の遺産分割・相続手続きにおける注意点
相続人の中に海外在住の方がいる場合、遺産分割や相続手続きを進める上でいくつかの注意点があります。
書類の準備とやりとりに時間がかかる
海外在住者との相続手続きでは、書類のやり取りが郵送を中心に行われるため、国内相続人同士の手続きよりも時間がかかる傾向にあります。遺産分割協議書の署名・証明書の取得・送付、場合によっては追加書類の取り寄せなど、1往復に1〜2週間以上かかることも珍しくありません。
また、書類の不備や翻訳の問題があれば、再送や補足説明が求められることもあります。速達や国際宅配便を利用しても、現地の郵便事情や通関手続きの影響で遅延するリスクがあるため、早めの準備と余裕のあるスケジュール設定が重要です。
特に不動産の相続登記や金融機関の手続きなどでは、書類の提出期限が設けられることがあるため、司法書士など専門家に相談しながら確実に進めることが望まれます。
翻訳や認証が必要なケースがある
海外で発行された書類(例:サイン証明、公証書、戸籍に準ずる書類など)を日本の法務局や金融機関に提出する場合、原則として日本語訳を添付する必要があります。この翻訳は、一般的には本人または第三者(司法書士・翻訳会社など)が行い、内容の正確性を保証するため署名を添えるのが通常です。
さらに、現地の公証制度による文書を使用する場合は、アポスティーユ認証または日本領事館による領事認証が必要になるケースも多く、事前の確認が欠かせません。国によってはアポスティーユ制度に加盟しておらず、手続きが煩雑になることもあります。
翻訳や認証が不十分な場合、手続きが差し戻されたり、受理されなかったりする恐れがあるため、手続きに不慣れな方が独力で進めることはリスクが大きいと言えるでしょう。専門家のチェックを受けながら進めることで、スムーズかつ確実な対応が可能になります。
日本の相続税申告が必要となる
日本の被相続人から遺産を受け取った場合、海外に在住している相続人であっても日本の相続税が課税され、税務申告が必要となります。原則として、被相続人が保有していた財産は、日本国内の財産だけでなく、海外の財産も課税対象となります。ただし、被相続人と相続人の双方が10年以上海外に在住している場合、被相続人の日本国内の財産のみが課税対象となり、海外の財産は対象外となります。
4.専門家への相談の勧め
相続人に海外在住者が含まれている場合、相続手続きは国内のケースと比べて煩雑になりやすく、書類の準備や各種手続きに時間がかかることも少なくありません。法的な要件の確認や相続人同士の調整には、専門的な知識と経験が必要です。
こうした状況でも、相続に詳しい専門家に相談することで、必要な手続きを的確かつ円滑に進めることができます。当事務所では、ご相談者様のご事情を丁寧に伺い、最適な方法をご提案するとともに、必要に応じて税理士や弁護士など他の専門家と連携しながら、安心して相続手続きを進められるよう総合的にサポートしています。
横浜市青葉区をはじめ、緑区・都筑区・町田市など周辺エリアで相続に関するお困りごとがございましたら、お気軽にご相談ください。初回相談も承っております。

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相続人に行方不明者がいる場合の相続手続き
相続手続きにおいて、法定相続人の中に「行方不明者」がいる場合、手続きは非常に複雑になります。なぜなら、相続は原則として相続人全員の同意に基づいて進めなければならず、一人でも協議に参加できない相続人がいると、遺産分割協議が成立しないためです。このような状況を放置しておくと、不動産の名義変更ができない、預貯金が引き出せないなど、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。この記事では、行方不明者が相続人にいる場合の具体的な対応策について、わかりやすく解説します。
1. 行方不明の相続人がいる場合の基本的な対応方針
相続人の一人が行方不明である場合、まずその所在を調査することが基本です。住民票の履歴や戸籍の附票を確認し、過去の住所地をたどることで手がかりが得られる場合もあります。できる限りの調査を尽くしてもなお、行方不明の相続人の居場所が判明しない場合や、連絡が取れない状態が続く場合には、法的な手続きを検討する必要があります。
・不在者財産管理人の選任
・失踪宣告の申立て
2. 不在者財産管理人の選任による解決方法
行方不明者が現実には生存している可能性がある場合、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申立てることが一般的です。これは民法第25条に基づき、不在者(所在が知れず、長期間音信不通の者)の財産を管理する者を裁判所が選任する制度です。この制度を利用すると、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加し、代理人として同意することが可能となります。ただし、不在者財産管理人が財産を処分する場合(遺産分割などを含む)は、家庭裁判所の許可を得る必要があるため、申立ての際には具体的な分割案を用意しておくとスムーズです。
3. 失踪宣告による対応(特別失踪・普通失踪)
行方不明の期間が長期にわたり、生死さえ不明な場合には、「失踪宣告」を検討することになります。失踪宣告には「普通失踪」と「特別失踪」の2種類があります。
・普通失踪:音信不通の状態が7年以上続いた場合に申立て可能。
・特別失踪:戦争、震災、事故などの危難に遭遇してから1年以上経過した場合に申立て可能。
失踪宣告が認められると、その人は法律上「死亡した」とみなされるため、その方の相続手続きも行うことが可能になります。ただし、後に生存が判明した場合には法的な影響も大きく、慎重な判断が求められます。
失踪宣告がされた場合、いつ死亡したとみなされるか
- 普通失踪の場合:家庭裁判所が失踪宣告をした日ではなく、音信不通の状態が始まってから7年が経過した日に死亡したとみなされます。
- 特別失踪の場合:災害や事故などの危難が去った時に死亡したとみなされます。
たとえば、大規模な地震発生後に所在不明となり、1年以上経って特別失踪の宣告が出された場合、その地震が発生した日が「死亡日」として扱われます。これにより、相続開始時点が特定され、相続分の確定や遺産分割の基準にも大きく関係してきます。
4. 行方不明者の相続分を除いた遺産分割はできる?
行方不明の相続人を除いて他の相続人だけで遺産分割を進めることは原則として認められません。全員の同意が必要だからです。
しかし、不在者財産管理人を選任し、家庭裁判所の許可を得て協議を行えば、行方不明者に代わって協議に参加することができます。
また、失踪宣告が出れば、その人は死亡したと見なされるため、相続人としての地位を失い、代わりに次順位の相続人が登場することになります。
5. ケース別で見る実務対応のポイント
【ケース1】兄弟姉妹のうち一人が数十年音信不通である
⇒ まずは戸籍・附票をたどって所在調査。そのうえで不在者財産管理人の申立て。
【ケース2】相続開始時点ですでに失踪から7年以上が経過している
⇒ 家庭裁判所へ普通失踪の申立てを検討。失踪宣告が認められれば相続人の扱いは不要に。
【ケース3】相続人の一人が認知症・施設入所中など連絡不能
⇒ 行方不明とは異なり、後見人の選任が必要。成年後見制度の利用を検討。
6. 専門家への相談が確実な一歩
相続人に行方不明者がいるケースでは、通常の相続手続きが行えず、家庭裁判所を介した法的対応が不可欠になります。特に、不在者財産管理人の選任や失踪宣告の申立てなどは、専門的な書類作成と手続きが必要となるため、一般の方が独力で進めるのは難しいのが実情です。
お困りごとがあれば、横浜市青葉区の高野司法書士事務所までお気軽にご相談ください。司法書士がお客様の状況を丁寧に伺い、最適な解決策をご提案いたします。

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相続財産の調査方法その2(不動産、生命保険、負債)
前回ご説明した現金、預貯金、株式・有価証券以外の主要な相続財産である不動産、生命保険、そして負債について、具体的な調査方法とその重要性について詳しくご説明します。
1. 不動産
不動産の有無を調べるには、まず毎年送られてくる固定資産税課税明細書を確認するのが一般的な方法です。この明細書には、故人が所有する不動産の一覧が記載されており、不動産調査の手がかりとなります。もし課税明細書が見当たらない場合や、固定資産税が非課税の不動産、あるいは共有名義の不動産(代表者以外には明細書が送付されないことがあります)の有無を確認したい場合は、注意が必要です。
不動産の調査において非常に有用なのが名寄帳(なよせちょう)です。名寄帳とは、特定の市町村内に故人が所有するすべての不動産(土地や家屋)について、その所有状況が一覧で記載された帳簿のことです。固定資産税を課税するために市町村が作成しているもので、故人がその市町村内にどのような不動産を所有しているかを網羅的に確認する際に役立ちます。これも、不動産が所在する市区町村役場で取得可能です。
しかし、名寄帳も万能ではありません。その限界も理解しておく必要があります。
• 特定の市町村内の情報のみ:名寄帳はあくまで発行している市区町村内の不動産情報しか記載されていません。故人が他の市町村にも不動産を所有していた場合、その情報は名寄帳には載っていないため、それぞれの市町村で個別に名寄帳や固定資産評価証明書を取得する必要があります。
• 課税対象外の不動産:固定資産税が課税されないような、極めて小さな私道や里道などの不動産は、名寄帳に記載されない場合や、記載されていても評価額が0円となっていることがあります。
• 直近の取得不動産:固定資産税の課税情報は1月1日時点の状況に基づいて作成されるため、故人がその年の1月2日以降に新たに取得した不動産については、その年の名寄帳には反映されていません。
相続財産に不動産が含まれる場合、「権利証」(登記済権利証または登記識別情報通知)を確認することも重要です。これは不動産の所有者であることを示す重要書類であり、登記簿上の名義人が被相続人であるかどうかを確認する手がかりとなります。特に複数の不動産を所有していた可能性がある場合、権利証を確認することで、見落としていた不動産の存在に気づくことがあります。また、権利証には固定資産税が課税されない物件(私道や山林など)も含まれている可能性があり、課税明細書だけでは把握できない不動産を確認できる点も大きなメリットです。相続登記の際にも、権利証があると手続きがスムーズに進む場合があるため、保管状況を必ず確認しておきましょう。
これらの点を踏まえ、不動産の調査は、様々な角度から、複数の情報を総合的に見て行うことが重要です。
2. 生命保険
生命保険契約は、故人が保険料を支払っていた場合、契約内容や受取人によっては相続財産として扱われることがあります。これを「みなし相続財産」と呼びます。生命保険の調査は、故人の自宅に保管されている保険証券や保険会社からの通知、契約更新の案内などがないかを探すことから始めます。故人が複数の保険に加入していた可能性もあるため、注意深く確認することが重要です。
もし保険証券などが見つからない場合でも、2021年4月からは、日本生命保険協会が運営する「生命保険契約照会制度」を利用して、故人が生命保険に加入していたかどうかを調べることが可能です。この制度を利用することで、故人が契約していた可能性のある生命保険会社を一括で照会することができます。
3. 負債(借金など)
故人に借金がある可能性を調べることは、相続放棄を検討する上で非常に重要です。主な調査方法としては、信用情報機関への開示請求が挙げられます。個人の信用情報を取り扱う機関として、全国銀行個人信用情報センター、株式会社シー・アイ・シー(CIC)、株式会社日本信用情報機構(JICC)などがあります。これらの機関に故人の信用情報を請求することで、金融機関からの借入履歴やクレジットカードの利用状況などを確認できます。郵送で手続きが可能ですので、各団体のウェブサイトを確認すると良いでしょう。
ただし、個人間の貸し借りや、金融業者ではない法人からの借入などは、信用情報機関に情報が登録されないため、これらの負債は故人の残した書類や手帳、人間関係などから地道に調べていくしか方法がありません。そのため、相続開始後すぐに故人の書類を破棄することは避けるべきです。また、故人が他人の保証人になっていた場合、その保証債務も相続の対象となる可能性があるため、特に注意が必要です。保証債務の有無が疑われる場合は、故人の人間関係や残された資料を詳しく調査することが大切です。
専門家への相談が最も確実な方法です
相続に関する手続きは複雑で、期限管理や書類収集、登記や税務など多岐にわたります。誤った判断や遅延が後々トラブルを招く可能性もあるため、不安を感じたら早い段階で専門家へ相談することをおすすめします。
東急田園都市線「青葉台駅」近くの高野司法書士事務所では、相続手続きや相続財産調査のご相談を初回無料で承っております。平日夜間や土日祝日のご予約も可能で、お忙しい方でもご安心いただけます。また、オンライン相談(Zoom等)や出張対応も柔軟に行っておりますので、横浜市青葉区・緑区・都筑区周辺にお住まいの方だけでなく、遠方のご家族様もぜひお気軽にご相談ください。

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相続財産の調査方法その1(現金、預貯金、株式、有価証券)
相続手続きの中で、特に重要かつ最初に手をつけるべきなのが、「相続財産の調査」です。この調査は、故人(被相続人)が遺したプラスの財産だけでなく、借金などのマイナスの財産も含め、すべての遺産を正確に把握し、その価値を適正に評価するプロセスを指します。
相続財産調査がなぜこれほど大切なのでしょうか。その後の相続手続き、特に遺産の分割方法の選択や、相続放棄・限定承認の判断、さらには相続税の申告に大きく影響するからです。例えば、もし調査が不正確だったり漏れがあったりすると、後になって新たな財産や負債が発覚し、相続人同士の予期せぬトラブルにつながる可能性があります。また、相続放棄や限定承認を検討する場合、原則として故人の死亡を知った日から3ヶ月以内という短い期間で家庭裁判所に申し立てを行う必要があるため、この期間内に正確な財産状況を把握することが不可欠です。
ここでは、現金、預貯金、株式、有価証券といった相続財産について、種類ごとに具体的な調査方法と、その後の手続きを円滑に進めるためのポイントをご紹介します。
1. 現金の調査方法
自宅に保管されていた現金(いわゆるタンス預金など)は、金融機関の記録に残らないため、発見が難しい場合があります。故人の自宅や貴重品が保管されていた場所を丹念に探し、メモや家計簿などの記録がないか確認することが重要です。これらは、正式な記録とは異なりますが、財産の全体像を把握する上で役立つことがあります。
2. 預貯金の調査方法
故人が利用していた預貯金口座を特定することから始めます。
• 利用金融機関の特定: まず、故人の自宅に保管されていた通帳、キャッシュカード、金融機関からの郵便物(通知書、ダイレクトメールなど)を探し、取引があった可能性のある金融機関を洗い出します。通帳を発行していないインターネット銀行の口座や、紛失した通帳の口座も考慮に入れるべきです。
• 残高証明書の発行依頼: 特定した金融機関には、故人の死亡日時点での残高証明書の発行を依頼します。この手続きは、相続人のうちの一人からでも請求可能ですが、故人の死亡が記録された戸籍謄本(除籍謄本)や、請求者が相続人であることを証明する戸籍謄本など、必要な書類が金融機関によって異なるため、事前に確認することが望ましいです。
• 取引履歴の確認: 残高証明書と合わせて、過去の取引履歴の開示も依頼しましょう。通帳への記帳や取引明細を見ることで、定期的にお金が引き出されていた先や入金元が分かり、新たな財産(例えば貸金庫の利用料支払い履歴から貸金庫の存在が判明するケース)や負債の手がかりとなることがあります。
• 口座凍結への対応: 金融機関は、預金者の死亡を知るとその口座を凍結し、出金や振り込みができなくなります。凍結された預金を引き出すには、遺言書による指定、仮払い制度の利用、または遺産分割協議書(あるいは調停・審判書)に基づいて手続きを行う必要があります。また、相続人全員の協力が得られれば、金融機関所定の書式に署名捺印することで引き出しが可能になる場合もあります。
3. 株式・有価証券の調査方法
故人が所有していた株式、投資信託、債券などの有価証券も相続財産に含まれます。
• 証券会社の特定: まず、故人の自宅に保管されていた取引報告書、残高報告書、あるいは株券などの書類がないかを確認します。最近では多くの書類が電子交付されているため、紙の郵送物が届かないケースもあります。故人の生前の会話や行動、手帳のメモなどから、取引があった可能性のある証券会社を絞り込むことが重要です。
• 証券保管振替機構(ほふり)への照会: 2004年(平成16年)の商法改正により、株券は原則として発行されなくなり、株式等の情報は「証券保管振替機構(通称:ほふり)」という機関で一元的に管理されるようになりました。特定の証券会社が不明な場合でも、この証券保管振替機構に対して開示請求を行うことで、故人が保有していた株式や証券の情報を確認できる場合があります。これにより、故人が取引していた証券会社を特定する手がかりを得られることがあります。
• 各証券会社への問い合わせ: 特定できた証券会社、または証券保管振替機構から判明した証券会社には、故人名義の口座の有無や死亡日時点での残高について問い合わせを行い、残高証明書や取引履歴などの発行を依頼します。
• その他の有価証券: 株式や投資信託以外にも、仮想通貨、ゴルフ会員権なども相続財産となり得るため、これらの有無も合わせて調査対象とすべきです。貸金庫の有無も確認し、中に有価証券や貴金属がないか確認することが重要です。
相続財産調査は専門家への依頼がスムーズ
相続財産調査は、上記の通り多岐にわたるため、ご自身で全て行うには多大な時間と労力、そして専門知識を要します。特に、期限が迫っている場合や、財産の種類が多岐にわたる場合は、精神的・肉体的負担も大きくなります。
このような場合、相続に強い専門家に依頼することが非常に有効です。司法書士は、戸籍謄本の収集による相続人の確定から始まり、財産目録の作成、不動産の名義変更(相続登記)、銀行や証券口座の解約手続きなど、相続財産調査からその後の手続きまでを一貫してサポートすることができます。また、相続人間での紛争が予想される場合は弁護士と、相続税の申告が必要な場合は税理士と連携するなど、幅広いネットワークを活かしたワンストップサービスを提供することで、お客様の負担を大幅に軽減することが可能です。
相続財産調査やその他の相続手続きでお困りの方は、横浜市青葉区の高野司法書士事務所までお気軽にご相談ください。当事務所では、初回のご相談を無料で承っており、平日夜間や土日祝日のご相談にも対応可能です(要事前予約)。お客様の状況に合わせた最適な解決策を、司法書士が責任を持って、分かりやすく丁寧にご案内いたします。

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相続税の基本知識
相続税とは、相続により財産を受け継ぐ際に課税される税金です。相続が発生した場合、亡くなった方の遺産が相続人に引き継がれますが、引き継がれた財産に対して一定の税率が課されることになります。相続税は、日本の税法に基づき、受け継いだ遺産の価値に応じて税額が決定され、申告と納税が必要です。
相続税が課税される対象と範囲
相続税が課税されるのは、相続財産です。相続財産には以下が含まれます:
- 現金、預貯金
- 不動産(土地、建物)
- 株式、投資信託などの金融資産
- 自動車、宝石、骨董品などの動産
- 生命保険金(受取人が相続人の場合)
相続財産に含まれないもの
- 債務(借金など):相続人は遺産と共に被相続人の債務も相続しますが、相続税の計算においては債務も控除の対象となります。
- 不法行為に基づく損害賠償金:相続税の課税対象には含まれません。
相続税の課税対象となる財産の評価方法
相続税の計算は、相続財産の評価額に基づいて行われます。しかし、財産の種類によって評価方法が異なり、特に不動産や株式の評価は複雑です。
- 不動産の評価方法
不動産は、相続税法で定められた基準に従って評価されます。例えば、土地の評価額は「路線価」を基準に算出されることが多く、これはその土地が位置する道路の価値をもとに決められます。家屋の評価は、固定資産税評価額を参考にします。 - 株式の評価方法
上場株式は、通常その時点の市場価格で評価されます。一方、非上場株式は評価方法が異なり、企業の業績や資産状況を基に計算されます。特に、非上場株式の評価には専門的な知識が必要なため、評価額を正確に計算するためには専門家のアドバイスを受けることが重要です。 - 現金や預貯金の評価
現金や預貯金は、そのままの額面通りに評価されます。これらは他の財産と異なり、評価方法に迷うことなく、相続税の計算に含めることができます。 - 動産(自動車、宝石、骨董品など)の評価方法
動産の評価は、主に市場価格や査定額に基づいて行われます。例えば、宝石や美術品などは、専門家による鑑定が行われ、その価格が評価額として使われます。
相続税の計算方法
相続税の計算は、大きく分けて以下のステップで行います。
- 遺産総額の算出
まず、故人が残したすべての財産(現金、不動産、株式、預貯金など)を評価し、その総額を算出します。財産の評価方法は、種類によって異なります。 - 基礎控除の適用
相続税には基礎控除という、相続財産から差し引くことができる額があります。基礎控除額は、相続人の人数によって決まるので、まずこの控除を遺産総額から引きます。基礎控除後の残額が課税対象となります。
基礎控除額=3,000万円+600万円×相続人の数
- 課税遺産総額の計算
基礎控除を差し引いた後の金額が、実際に課税される遺産額です。この金額に相続税の税率を適用して、最終的な税額を算出します。 - 相続税の分割
課税対象の遺産が複数の相続人に分割される場合、各相続人の相続分に応じて税額が配分されます。配分された税額をそれぞれが支払います。
この流れで、相続税が計算されます。
相続税の申告と納税
相続税の申告は、相続が発生してから10ヶ月以内に行う必要があります。申告期限を守らないと、延滞税や加算税が課せられる可能性があります。
申告方法
相続税の申告書は、所轄税務署に提出します。申告書には、相続財産の詳細や相続人の情報、評価額などを記入する必要があります。また、相続財産の証明となる書類を添付することが求められます。
納税方法
納税は、通常現金で行われますが、一定の条件を満たす場合は物納(不動産などを納税の代わりに提供)や延納(分割納税)を選ぶことができます。
相続税の軽減措置
相続税にはいくつかの軽減措置が設けられています。代表的なものは以下です:
- 小規模宅地等の特例
自宅や事業用土地に対して、一定の条件を満たすと評価額が減額されます。これにより、税負担を軽減することができます。 - 配偶者控除
配偶者が相続する財産には、1億6000万円まで控除が適用されるため、配偶者が相続する際の税負担を軽減できます。 - 生命保険金の特例
生命保険金が相続人に支払われる場合、一定額までは非課税となる特例があります。 - 未成年者控除や障害者控除
未成年者や障害者が相続人となった場合、その相続税が控除される特例があります。
相続税の節税対策
相続税を節税するための方法としては、以下のような対策が有効です:
- 生前贈与
生前に財産を贈与することで、相続財産を減らすことができます。贈与税がかかりますが、贈与税には基礎控除があるため、それをうまく活用することで相続税の負担を軽減できます。 - 不動産の評価額を下げる
不動産の評価額を減らすための方法として、土地の利用方法や建物の活用方法を見直すことが考えられます。 - 生命保険の活用
生命保険の死亡保険金を利用することで、相続税を軽減することができます。保険金は非課税枠があり、うまく活用することで負担を減らすことができます。
まとめ
相続税は、相続人が故人の財産を受け継ぐ際に発生する税金です。相続財産の評価額に基づいて税額が決まり、基礎控除を差し引いた後の金額に税率が適用されます。相続税の申告は10ヶ月以内に行う必要があり、適切な対策を講じることが求められます。生前贈与や不動産の評価額の調整など、相続税の節税対策を行うことで、相続税の負担を軽減することが可能です。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
成年後見制度の解説:大切なご家族の未来を守るために
超高齢化社会が進む現代において、ご家族が認知症や精神上の障がいなどにより判断能力が低下し、ご自身での財産管理や契約、医療・介護に関する意思決定が困難になるケースが増えています。このような状況に直面した際、ご本人の権利や財産を守り、安心して生活を送るための法的な支援が必要となります。そこで重要な役割を果たすのが「成年後見制度」です。
相続手続きにおいても、被相続人(亡くなった方)が認知症を患っていた場合や、相続人の中に判断能力が不十分な方がいる場合など、特別な対応が必要となることがあります。このような状況では、遺産分割協議を進めること自体が困難になったり、銀行預貯金の解約や不動産の名義変更(相続登記)などの手続きが滞る原因となります。
成年後見制度は、判断能力が不十分な方を法的に保護し、支援するための仕組みであり、ご本人の生活と財産を守る上で不可欠な制度です。
1.成年後見制度の目的
成年後見制度の最も重要な目的は、判断能力が不十分な方の権利と財産を法的に保護し、その生活を支援することにあります。具体的には、以下のような支援を行います。
財産管理:預貯金や不動産、株式などの財産を適切に管理し、ご本人の生活費や医療費、介護費用などに充当します。ご本人が不利益な契約を結んでしまわないよう保護する役割も担います。
身上保護:医療・介護サービスに関する契約の締結や、施設への入所契約、日常的な買い物など、ご本人の生活に関わる様々な法律行為を行います。ただし、医療行為への同意や、事実上の介護行為などは身上保護の範囲外となります。
この制度により、判断能力が低下したご本人が不当な契約の被害に遭ったり、財産を失ったりするリスクから守られます。
2.成年後見制度の種類:法定後見制度と任意後見制度の違い
法定後見制度(後見・保佐・補助)
法定後見制度は、既に判断能力が不十分な状態にある方のために利用される制度です。ご本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。
後見:判断能力がほとんどない方に適用されます。家庭裁判所が「成年後見人」を選任し、成年後見人はご本人の財産管理や法律行為をすべて代理し、ご本人が行った不適切な法律行為を取り消すことができます。
保佐:判断能力が著しく不十分な方に適用されます。家庭裁判所が「保佐人」を選任し、保佐人は重要な法律行為について同意権や取消権を持ち、特定の法律行為について代理権を持つこともあります。
補助:判断能力が不十分な方に適用されます。家庭裁判所が「補助人」を選任し、補助人は特定の法律行為について同意権や代理権を持つことがあります。
この制度は、ご本人やその親族などの申立てに基づいて家庭裁判所が審判を行い、後見人等を選任します。家庭裁判所がご本人の状況や親族関係などを考慮し、最も適任と思われる人物を後見人等として選びます。
任意後見制度
任意後見制度は、ご本人がまだ十分な判断能力を持っているうちに、将来、判断能力が低下した場合に備えて準備する制度です。ご自身で信頼できる人(任意後見人)を選び、どのような支援をしてほしいか、どのような財産管理をしてほしいかなどを事前に契約(任意後見契約)で定めておきます。
特徴:ご本人の意思が最大限に尊重される点が大きな特徴です。将来の不安を解消し、ご自身の希望通りの支援を受けられるようにするための「生前対策」として非常に有効です。
手続き:任意後見契約は公正証書で作成することが義務付けられています。これにより、契約内容の信頼性が担保されます。ご本人の判断能力が低下した際に、任意後見契約の効力が発生し、任意後見人が支援を開始します。
当事務所のような司法書士事務所では、「任意後見契約公正証書の作成方法」に関するご相談やサポートも提供しており、生前対策として重要な選択肢となります。
法定後見と任意後見の比較 | 法定後見制度 | 任意後見制度 |
利用開始時期 | 判断能力が不十分になった後 | 判断能力があるうちに契約、能力低下後に開始 |
後見人の選任 | 家庭裁判所が選任 | 本人が自由に選任 |
柔軟性 | 家庭裁判所の監督下で運用 | 比較的本人の希望を反映しやすい |
申立て・契約の主体 | 本人・配偶者・親族・市区町村長など | 本人のみ |
監督体制 | 家庭裁判所が監督 | 任意後見監督人が監督(家庭裁判所が選任) |
3.成年後見制度のメリット・デメリット
成年後見制度には、ご本人とご家族にとって多くのメリットがある一方で、いくつかの考慮すべき点もあります。
【メリット】
ご本人の財産が守られる:成年後見人が選任されることで、判断能力が不十分なご本人の財産が適切に管理され、詐欺や悪質な商取引などから保護されます。
医療・介護契約などがスムーズに行える:ご本人が自分で契約を結べない場合でも、成年後見人が代理して必要な医療・介護サービスに関する契約を締結できるため、適切なケアを受けられるようになります。
家族間のトラブル回避:特に法定後見制度の場合、家庭裁判所が後見人を選任し、その職務を監督するため、親族間で財産管理を巡る争いが発生するリスクを軽減できます。また、認知症の相続人がいる場合の遺産分割協議や銀行手続きも、後見人が代理することで法的に有効に進めることが可能になります。
計画的な生前対策:任意後見制度を利用すれば、ご本人が元気なうちに将来の不安を解消し、ご自身の希望に沿った形で財産管理や生活支援の準備を進めることができます。
【デメリット・考慮すべき点】
手続きの複雑さと費用:成年後見制度の利用には、家庭裁判所への申立てや必要書類の準備など、複雑な手続きが伴います。また、専門家を後見人として選任した場合や申立てを依頼した場合、費用が発生します。
家庭裁判所の監督:法定後見制度の場合、選任された後見人は定期的に家庭裁判所へ業務報告を行う義務があり、柔軟性に欠けると感じる場合もあります。
選任の柔軟性の制約:法定後見では、必ずしも申立てた希望通りの人物が後見人に選任されるとは限りません。家庭裁判所がご本人の利益を最優先して判断します。
財産の自由な運用が制限される:成年後見制度は「本人の財産を保護する」ための制度であるため、リスクのある投資や相続税対策のための贈与、不動産売却などを柔軟に行うことは困難です。後見人には本人の利益を守る義務があり、保守的な管理が求められます。
専門家によるサポートの必要性:制度の利用にあたっては、法的な知識が求められることが多く、ご自身だけで手続きを進めるには大きな負担が伴う可能性があります。複雑な手続きのため、専門家のアドバイスとサポートがあると安心です。
4.相続手続きにおける成年後見制度の役割
相続が発生した際、相続人の中に認知症などで判断能力が不十分な方がいると、遺産分割協議や各種手続きが通常の方法では進められなくなります。このようなケースにおいて、成年後見制度は重要な役割を果たします。
【遺産分割協議への対応】
相続手続きを進めるには、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、合意を得る必要があります。しかし、判断能力が不十分な相続人がいる場合、そのまま協議に参加させることはできません。この場合、成年後見人がその相続人の代理人として協議に参加し、意思決定を行うことができます。
成年後見人は、ご本人にとって不利益とならないよう、適切に協議を進める責任を負っています。
【銀行預金の解約・払い戻し】
被相続人の死亡により銀行口座が凍結された場合、相続人全員の合意がなければ預金の解約や払い戻しを受けることはできません。相続人の中に判断能力が不十分な方が含まれている場合、その方が単独で手続きを行うことはできません。
このような場合も、成年後見人が代理人として手続きを行うことにより、他の相続人と協力して必要な相続手続きを進めることが可能になります。
【不動産の名義変更(相続登記)】
相続によって取得した不動産については、名義変更の登記(相続登記)を行う必要があります。
しかし、相続人の一人が認知症などで登記申請に必要な書類に署名・押印できない場合、そのままでは登記手続きを進めることができません。このような場面でも、成年後見人が後見人として必要書類に署名・押印し、登記申請を行うことで、円滑な手続きが可能となります。
【注意点】
成年後見人が代理で遺産分割協議や相続手続きを行う場合、家庭裁判所への相談や許可が必要となることがあります。特に、特定の相続人に有利または不利となるような分割内容については、後見人の判断のみでは決定できないことがあります。
また、被後見人の利益を最優先に考える必要があるため、後見人自身も相続人であり利害関係がある場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を求めることもあります。
このように、成年後見制度は、判断能力が不十分な相続人の権利を守りつつ、相続手続きを円滑に進めるための重要な法的枠組みです。
5.さいごに
成年後見制度は、ご本人やご家族の生活と財産を守るための大切な制度です。しかし、制度の種類や手続きの内容は複雑で、どのようなケースでどの制度を選べばよいのか判断に迷う方も少なくありません。また、申立てや必要書類の準備などに時間と労力がかかるため、ご自身だけで対応しようとすると大きな負担となる場合があります。
当事務所では、成年後見制度に関するご相談を多数お受けしています。ご家族の状況やご希望を丁寧に伺いながら、最適な制度のご提案から申立て手続きまで一貫してサポートいたします。
「手続きが難しそうで不安」「後見制度について詳しく知りたい」「認知症対策として備えておきたい」など、どのようなお悩みでもお気軽にご相談ください。司法書士が分かりやすく丁寧にご説明し、安心して制度を利用できるよう全力でサポートいたします。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。
年末年始休業のお知らせ
平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
誠に勝手ながら、当事務所では以下の期間を年末年始休業とさせていただきます。
令和6年12月28日(土)~令和7年1月5日(日)
ご迷惑をおかけいたしますが、ご理解のほどよろしくお願い申し上げます。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。