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兄弟相続のトラブルを回避する方法

2025-08-01

1.兄弟間の相続トラブルが増えている背景

かつての日本では「長男が家を継ぐ」「兄弟は協力して親の遺産を整理する」といった価値観が根強く、相続をめぐる争いはそれほど多くありませんでした。しかし近年では、家族構成や価値観の多様化、経済状況の変化などにより、兄弟姉妹間での相続トラブルが増加傾向にあります。

特に問題になりやすいのが「遺産分割」をめぐる意見の対立です。不動産や預貯金などの財産をどう分けるかについて、兄弟それぞれが異なる希望や解釈を持ちやすく、感情の対立に発展することも少なくありません。「親の介護をしてきたのに取り分が少ない」「突然、相続放棄した兄弟がいて遺産分割協議が混乱した」「代襲相続人が登場して複雑になった」など、さまざまな事例が報告されています。

また、相続に必要な戸籍の取得や、税金の申告・支払い、名義変更など、実務面でも複雑な対応が求められるため、兄弟間で十分に情報共有ができていないと、誤解や不信感から深刻な対立に発展することもあります。

この記事では、兄弟間の相続で起こりがちなトラブルを紹介しながら、その回避方法をわかりやすく解説していきます。相続を「争族」にしないためにも、事前に知っておきたいポイントを確認しておきましょう。

2.よくある兄弟間の相続トラブル事例

兄弟姉妹間での相続トラブルは、財産の多寡にかかわらず発生します。ここでは、実際によく見られるトラブルのパターンを整理し、それぞれの背景や要因について説明します。

1. 親の介護をめぐる貢献度の不公平感

兄弟のうち一人だけが長年にわたって親の介護を担ってきたケースでは、「介護してきたのだから、他の兄弟より多く相続したい」という気持ちが生まれることがあります。しかし、法定相続分に介護の貢献は直接反映されません。これにより、「苦労したのに他と同じ取り分なのか」と不満が生じ、他の兄弟との間に亀裂が入ることもあります。

このような場合には「寄与分」という制度を利用することも検討できますが、証明が難しく、争いに発展するケースもあります。

2. 遺言書がない・遺言の内容に不満

親が遺言書を残していない場合、相続人全員での遺産分割協議が必要となりますが、全員の意見がまとまらず協議が長期化することが少なくありません。逆に、遺言書があっても内容に偏りがある場合、「なぜ兄だけに不動産が?」などと不信感を抱かれ、トラブルに発展することもあります。

自筆証書遺言に不備があり、法的に無効と判断されることで、さらに混乱が生じる例も見られます。

3. 相続放棄による意外な展開

兄弟の中で一人だけが相続放棄をしたことで、他の相続人の取り分が変動し、不満を招くことがあります。とくに借金があるケースでは、相続放棄によって残された相続人に負担が集中してしまうことも。

4. 代襲相続による新たな関係者の登場

相続人の一人が先に亡くなっており、その子(孫など)が代襲相続人として権利を持つ場合、従来の兄弟姉妹とは異なる世代が遺産分割協議に加わることになります。関係性が薄く、連絡先が分からない、そもそも相続に関心がないといった事情により、手続きが遅延・停滞する原因にもなります。

3.遺産分割協議でトラブルを回避するための工夫

遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要な手続きです。円滑に進めるためには、感情論に発展する前に、具体的な工夫を講じておくことが重要です。この章では、兄弟間でのトラブルを未然に防ぐために有効な対応策をご紹介します。

1. 初期段階での「情報共有」を徹底する

遺産分割協議を開始する前に、遺産の全容、法定相続人の範囲、相続税の見込み、遺言書の有無など、全員が同じ情報を共有することが重要です。情報に偏りがあると、不信感や不公平感を生み、協議が決裂する原因になります。

たとえば以下の情報をまとめて共有するとスムーズです:

  • 財産目録(不動産、預貯金、有価証券、借金など)
  • 被相続人の戸籍・住民票除票
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 税理士・司法書士からの意見書(可能なら)

2. 話し合いの場では「感情論」を避ける工夫

遺産分割協議が進むうちに、「あのとき面倒を見たのは自分だ」「付き合いがなかったのに相続だけ主張するのはずるい」といった感情論に発展することが多くあります。これを防ぐには、事前に議題を整理し、協議の目的を「遺産の円満な分割」に集中させる必要があります。

特に兄弟間の場合は、過去の家族関係が影響しやすいため、必要に応じて第三者(司法書士やファシリテーター)を同席させると効果的です。

3. 寄与分や特別受益は「明確な根拠」を提示する

「自分だけが介護した」「生前に多く援助してもらった」などの主張がある場合、それを協議に反映させたいと考えるのは自然なことです。しかし、感覚的な訴えではなく、客観的な証拠(介護日誌、送金記録、不動産名義の変更書類など)を用意することがトラブル回避につながります。

寄与分や特別受益は、協議の場で争いになりやすいため、第三者による意見や法的な解釈をもとに冷静に判断することが望まれます。

4. 書面による「遺産分割協議書」の作成を必ず行う

口頭での合意だけで終わらせず、必ず遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名押印することが大切です。登記や銀行手続きに使用できる正式な書類であると同時に、将来のトラブルを防ぐ「証拠」となります。

また、相続登記や金融機関への提出を見据えて、協議書の文言や構成は専門家と相談しながら慎重に行いましょう。

5. 専門家の同席や仲介を活用する

兄弟姉妹での相続協議は、どうしても感情が絡みやすく、冷静な話し合いが難しくなることがあります。こうした場合、司法書士や弁護士といった専門家に協議の立会いを依頼することで、中立的かつ法的観点からのアドバイスを得ることができ、話し合いを前に進めやすくなります。

4.相続放棄が有効なケースとその判断ポイント

相続放棄とは、法律上当然に発生する相続権を「放棄する」ことで、最初から相続人ではなかったとみなされる制度です。兄弟間の相続においても、相続財産がプラスよりもマイナス(借金など)のほうが多い場合や、遺産をめぐるトラブルに巻き込まれたくない場合など、相続放棄が有効な選択肢となるケースがあります。

ここでは、相続放棄をすべきかどうか判断するためのポイントをわかりやすく解説します。

1. 借金などの負債が遺産に含まれている場合

相続では、財産(プラスの遺産)だけでなく、借金や未納の税金(マイナスの遺産)も引き継ぐことになります。兄弟姉妹が相続人となる場面では、親の遺産がすでに長期間管理されておらず、借金や滞納金の存在が明らかになることもあります。

このような場合、相続放棄を行えば、借金の支払い義務を免れることができます。ただし、プラスの財産があるかどうかは放棄前に慎重に調査する必要があります。

2. 他の相続人との関係悪化を避けたい場合

兄弟姉妹との関係がもともと良くなかったり、遺産分割協議が争いになりそうな場合には、あえて相続放棄を選ぶことでトラブルを回避するという選択肢もあります。

相続放棄をすれば、遺産分割協議に参加する必要がなくなり、関係者とのやり取りを最小限に抑えることが可能です。ただし、特定の財産だけを放棄するということはできないため、全ての相続権を失うことになります。

3. 相続放棄の手続きと期限に注意

相続放棄は、家庭裁判所に対して「相続放棄の申述」を行うことで成立します。注意すべきは、その期限です。相続を知った日から3か月以内に申立てを行う必要があり、これを過ぎると単純承認(すべてを相続する)とみなされるおそれがあります。

万一、期限内に相続財産の内容がよく分からない場合は、「熟慮期間の伸長申立て」を行って3か月の猶予を延ばすことも可能です。

4. 相続放棄後の代襲相続や他の影響に注意

兄弟姉妹の相続では、相続放棄によって思わぬ相続関係の変化が生じることがあります。たとえば、放棄した兄弟に子(甥・姪)がいる場合でも、代襲相続は発生しません(親の相続放棄は、代襲原因ではないため)。

また、放棄によって次順位の相続人(他の兄弟やその子など)に相続が移るため、相続関係が複雑になるケースもあります。放棄の影響範囲は慎重に確認する必要があります。

5. 相続放棄後の注意点(財産を使わない・処分しない)

相続放棄を考えている場合は、「相続財産を管理・使用しないこと」が非常に重要です。たとえば、被相続人の預金を引き出して使ったり、不動産を貸したりする行為は、「単純承認」とみなされ、放棄が認められなくなる可能性があります。

また、通帳の記帳や遺品整理なども「相続人としての管理行為」にあたると疑われる可能性があるため、判断に迷う行動は事前に司法書士など専門家に相談することをおすすめします。

5.兄弟間で代襲相続が発生するケースと対応

兄弟姉妹が相続人となるケースでは、「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」が発生することがあります。代襲相続とは、本来相続人となるはずだった人が、相続開始以前に死亡している場合に、その子が代わりに相続人となる制度です。

この章では、兄弟相続における代襲相続の仕組みと注意点を、具体例を交えながら解説します。

1. 兄弟姉妹に代襲相続が認められるケースとは

代襲相続が認められるのは、民法第887条・第889条の規定によりますが、兄弟姉妹が相続人となる場合でも、その兄弟姉妹が既に死亡していた場合、その人の「子(甥・姪)」が代襲相続人として相続に参加します。

たとえば以下のようなケースです:

  • 被相続人に配偶者も子もおらず、兄弟姉妹が相続人となる場合
  • そのうちの一人の兄弟が被相続人より先に死亡していた場合
  • その兄弟に子がいた場合、その子(甥や姪)が代襲相続人となる

ただし、甥や姪がすでに死亡していても「再代襲相続」は認められない点に注意が必要です。

2. 戸籍調査がより複雑になる

代襲相続が発生すると、相続人の調査や確定作業が通常の相続よりも複雑になります。通常の相続の場合は、被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍と、相続人の現在の戸籍があれば手続きが進むことが多いです。しかし、代襲相続がある場合は、次のような追加書類が必要となります。

  • 代襲者の親(たとえば、亡くなった兄弟姉妹)の除籍謄本
  • 甥・姪(代襲者)の現在の戸籍謄本

場合によっては、複数の市区町村にまたがる戸籍の取得が必要になり、時間と手間がかかります。特に転籍を繰り返している家庭では、古い戸籍をたどることに苦労することがあります。

3. 代襲相続人との遺産分割協議の実務上の問題

代襲相続人が多数いる場合、それぞれに遺産分割協議書への署名・押印と印鑑証明書の提出が必要です。中には、長年疎遠になっている甥や姪、海外在住の代襲相続人が含まれることもあり、連絡が取れない、協議に応じないといったトラブルが発生するケースもあります。

特に、相続財産が不動産中心で売却予定がある場合、全員の同意が必要になるため、協議が難航することが少なくありません。

4. 代襲相続人が未成年の場合の注意点

代襲相続人が未成年者である場合には、法定代理人(多くは親権者)が手続に関与することになります。ただし、未成年者と親権者が利害関係を有する場合(たとえば親も相続人の場合)には、「特別代理人」の選任が必要になる場合があります。

この手続は家庭裁判所に申し立てる必要があり、事務的・時間的な負担が増すため、あらかじめ確認しておくことが重要です。

5. 遺言がある場合の代襲相続の影響

遺言がある場合、その内容によっては代襲相続人が相続できない場合もあります。たとえば、被相続人が兄弟の一人にだけ全財産を相続させるという遺言を残していた場合、その兄弟が先に亡くなっていても、その子には相続権が移らないことがあります。

これは、代襲相続は「法定相続」に適用される制度であり、「遺言による相続」には原則として適用されないからです。したがって、遺言がある場合には内容を精査し、代襲相続人の有無とその扱いを確認する必要があります。

6.兄弟間の相続で必要になる戸籍収集と注意点

兄弟姉妹が相続人となる場合、他の相続形態と比べて戸籍の収集が煩雑になりやすい点に注意が必要です。ここでは、兄弟間の相続において、どのような戸籍書類を、どこまで集める必要があるのかを具体的に解説します。

1. 兄弟相続で必要な基本的な戸籍類

兄弟姉妹が相続人となるのは、被相続人に配偶者も子もおらず、かつ親(直系尊属)もすでに亡くなっている場合です。このようなケースでは、相続人である兄弟姉妹を確定させるために、以下の戸籍が必要となります。

  • 被相続人の出生から死亡までの全戸籍(改製原戸籍・除籍謄本を含む)
  • 被相続人の両親の出生から死亡までの全戸籍(改製原戸籍・除籍謄本を含む)
  • 被相続人の兄弟姉妹の現在の戸籍謄本

2. 代襲相続がある場合の追加書類

兄弟姉妹が被相続人より先に亡くなっており、その子(甥・姪)が代襲相続人になる場合は、さらに以下の戸籍が必要になります。

  • 代襲相続人(甥・姪)の現在の戸籍謄本
  • 亡くなった兄弟姉妹(甥・姪の親)の出生から死亡までの全戸籍(改製原戸籍・除籍謄本を含む)

特に注意すべきは、代襲相続人が多数いるケースや、甥・姪が既に亡くなっている場合です。この場合、再代襲は認められないため、その人の子どもには相続権が及びませんが、確認のための戸籍は必要になります。

3. 戸籍の「つながり」を確認することが重要

兄弟相続で特に重要なのは、「被相続人と相続人とのつながりを明らかにする戸籍が揃っているか」です。

また、婚外子や養子縁組などが含まれる場合、親子関係や兄弟関係が戸籍で明確に証明されていないと、法定相続人として認められないケースもあるため注意が必要です。

7.兄弟の相続トラブルを防ぐために今できること

兄弟姉妹間の相続は、親の死後に初めて向き合う課題であることが多く、そのぶん感情的な対立や手続き上の混乱が起こりやすいものです。

こうした事態を避けるためには、被相続人が遺言書を作成しておくこと、そして相続人側も事前に関係者の把握や手続きの準備を進めておくことが重要です。また、相続税や登記などの面でも複雑な判断が求められることがあるため、相続に精通した専門家へ早めに相談することが、円満な相続の第一歩になります。

高野司法書士事務所では、兄弟間の相続における不動産の名義変更や、遺産分割協議書の作成、相続放棄の手続きなど、相続に関するご相談を幅広く承っております。横浜市青葉区をはじめ、緑区、都筑区、町田市などの近隣地域の方からも多くのご依頼をいただいております。

「兄弟で揉めない相続をしたい」「今の状況に不安がある」という方は、どうぞお気軽にご相談ください。あなたのご事情に寄り添い、最適な解決策をご提案いたします。

亡くなった方のクレジットカード解約手続き

2025-07-31

身近なキャッシュレス決済手段として利用されているクレジットカード。亡くなった方が生前に複数枚保有していたというケースも珍しくありません。しかし、相続手続きの際に意外と見落とされがちなのが、これらクレジットカードの解約です。

「もう故人は使わないのだから、そのままでも問題ないのでは?」と考えがちですが、実はクレジットカードを放置しておくことで、家族や相続人に不利益が生じるおそれがあるのです。

たとえば、以下のようなリスクがあります。

  • 未払い残高の請求:故人に残債(リボ払いや分割払いなど)がある場合、相続人がその支払い義務を負うことがあります。
  • 年会費の自動引き落とし:カードを放置しておくと、毎年自動的に年会費が請求されることがあります。
  • 不正利用のリスク:紛失や盗難に気づかず放置したカードが、第三者に悪用される可能性も否定できません。

また、クレジットカードにはポイントや特典、保険などの付帯サービスがついていることも多く、それらの処理も相続の一環として検討すべき重要事項です。

つまり、クレジットカードの解約は単なる「手続き」ではなく、「相続管理」の一部として正しく行うことが求められるのです。

本記事では、クレジットカード解約の具体的な流れや必要書類、注意すべき点、相続放棄や支払い義務との関係などを詳しく解説します。

1.相続とクレジットカードの関係

被相続人(亡くなった方)が契約していたクレジットカードは、死亡により自動的に「解約される」と誤解されがちですが、実際には相続人側で正式な手続きを行わなければ、契約状態がそのまま残ってしまうことが多いのが現実です。

1. クレジットカード契約は「個人契約」

クレジットカードの契約は、あくまで個人とカード会社との間で結ばれるものです。契約者が死亡した場合には、カード会社に対してその旨を連絡し、必要な手続きを経て解約処理をしてもらう必要があります。

このとき、未払い残高がある場合には、原則として相続人に支払い義務が引き継がれます(相続放棄をしない限り)。したがって、カードの利用明細や残債の有無を必ず確認しておくことが大切です。

2. 死亡後も引き落としが継続するリスク

クレジットカードには、年会費や各種サービス料が定期的に発生するものもあります。死亡後も銀行口座が凍結されるまでの間に、引き落としが行われることがあります。

また、公共料金や定期購読などをカードで支払っていた場合、それらも自動で継続されてしまう恐れがあります。

死亡した事実をカード会社に迅速に伝えない限り、こうした「無駄な引き落とし」や「請求」が続いてしまう可能性があるため注意が必要です。

3. ポイント・マイルなどの付帯サービス

クレジットカードには、利用に応じて貯まるポイントや航空会社のマイルなどの付帯サービスがあります。これらは原則として現金のような法定通貨ではないため、法的には相続財産に該当しないという考え方が一般的ですが、実際にはカード会社やマイレージプログラムごとに対応が異なります。

たとえば、航空会社のマイルについては、所定の手続きにより相続(名義変更)できる制度を設けているケースが多くあります。ANAやJALなどの国内大手航空会社では、相続人からの申請に基づき、被相続人の保有マイルを家族に移行することが可能です(所定の条件あり)。

一方、クレジットカードのポイントについては相続不可としているカード会社も少なくありません。死亡と同時に自動的に失効するケースが多いため、ポイントを有効活用するには、生前に家族カードを持ってもらうなどの工夫が必要です。

したがって、マイルやポイントが多く貯まっている場合には、利用規約や相続時の対応についてあらかじめ確認しておくことが重要です。

2.解約手続きの流れと必要書類

亡くなった方が保有していたクレジットカードは、原則として速やかに解約手続きを行う必要があります。解約を怠ると、年会費が自動で請求されたり、不正利用による損害が発生するおそれがあります。この章では、解約手続きの一般的な流れと必要書類について解説します。

1. カード会社への連絡

まず最初に行うべきは、クレジットカード会社への死亡の通知です。連絡先は、カードの裏面や公式ホームページに記載されています。多くの場合、「会員様が亡くなられた場合の連絡先」や「死亡時の専用窓口」が用意されています。

電話での連絡時に伝える主な内容:

  • 会員の氏名・生年月日
  • 会員の死亡日
  • 死亡した旨の報告
  • 相続人または手続きを行う家族の氏名・連絡先

カード会社によっては、連絡を受けた時点でカードを即時停止し、今後の利用をブロックする措置が取られます。

2. 必要書類の提出

カード会社によって多少異なりますが、解約の際に提出を求められる主な書類は以下のとおりです。

必要書類内容・取得先
死亡診断書または除籍謄本死亡を証明するために必要。市区町村役場で取得可能。
相続人であることの証明書類戸籍謄本など。法定相続人であることを確認するため。
本人確認書類(相続人)免許証、マイナンバーカード、パスポートなど。
解約申請書(所定様式)カード会社指定の解約届。公式サイトでダウンロード可能なことも。

※会社によっては、郵送での対応、または専用のフォームによる提出が求められる場合もあります。

3. 支払い残高の精算

解約手続きにあたっては、亡くなった方のカードに未払い残高があるかどうかを確認する必要があります。残高がある場合、その分の精算(支払い)が済まない限り、正式な解約はできません。

支払いについては、原則として相続人が引き継ぐことになります。ただし、相続放棄を選択すれば、債務の支払い義務は免除されます。この点は後述の「4.相続放棄との関係」で詳しく解説します。

3.解約後にやるべきこと

クレジットカードの解約手続きが完了しても、遺族としてやるべき作業はまだ残っています。解約後の確認不足により、後から思わぬ請求やトラブルが発生することもあります。この章では、解約後に確認・対応しておきたいポイントを紹介します。

1. 利用履歴と請求内容の確認

カードの利用明細やWEB明細を確認し、亡くなった後に不正な利用がされていないかをチェックすることが重要です。場合によっては、解約の連絡をする前に自動引き落としや決済が行われているケースもあります。

特に注意すべきは以下のような項目です:

  • サブスクリプション(定額課金サービス)
  • 公共料金などの継続的な支払い
  • ネットショッピングでの購入履歴
  • キャッシングやローンの利用

不正利用や不要な課金が見つかった場合には、速やかにカード会社に連絡し、停止または取り消しの申請を行いましょう。

2. 付帯サービス・ポイントの扱い

亡くなった方のカードに付帯していたサービス(旅行保険、ショッピング保険、空港ラウンジ利用など)は、解約と同時にすべて無効になります。それに伴い、クレジットカード会社が提供していたポイント(例:Tポイント、dポイント、楽天ポイントなど)も、基本的には消滅します。

ただし、一部のポイントサービスでは、相続によってポイントを引き継げる制度を設けている場合もあります。たとえば、ANAやJALのマイルは、一定の条件下で相続手続きを行うことで引き継ぐことが可能です。各カード会社・ポイント運営元に確認し、手続きを進めてください。

3. 複数枚持ちの確認

高齢の方や経営者の方などは、複数枚のクレジットカードを所持していることが少なくありません。1枚を解約しても他のカードが残っていることもあるため、亡くなった方の郵便物や通帳、引き落とし口座の履歴を確認し、見落としのないよう全カードの把握と解約を行いましょう。

4.相続放棄との関係と注意点

クレジットカードの債務は、亡くなった方が残した「負の財産(債務)」として扱われるため、相続放棄との関係は非常に重要です。特に、カードの利用残高がある場合や支払い状況が不明な場合には慎重な対応が必要です。

1. 相続放棄とクレジットカードの債務

相続放棄とは、相続人が「一切の財産(プラスの財産もマイナスの財産も)を受け取らない」ことを選択する制度です。家庭裁判所に申述し、受理されれば最初から相続人ではなかったことになります。

クレジットカードの未払い残高やキャッシング債務などもこの「マイナスの財産」に含まれます。相続放棄をすれば、こうした債務を支払う義務も免れることになります。

ただし注意が必要なのは、以下のような「相続を単純承認した」とみなされる行為をしてしまうと、相続放棄が認められなくなる可能性があるという点です。

2. 相続放棄が認められなくなる行為とは?

相続放棄をするには、原則として「被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内」に申述を行わなければなりません。しかも、その期間内であっても、次のような行為をすると、「相続を承認した」とみなされる可能性があります。

  • カード明細を精査せずに支払ってしまう
  • 相続財産の一部(預金や不動産など)を処分・引き出す

これらの行為は、相続人として財産の処分をしたとみなされる可能性があり、相続放棄が認められなくなることもあります。悪意がなかった場合でも単純承認と判断されるリスクがあるため、十分な注意が必要です。

3. 相続放棄を検討する場合の対応

クレジットカードの債務が明らかでない場合や、複数のカードがあった可能性がある場合は、まず以下の手順で対応するのが安全です。

  • すぐにカード会社への返済等を行わない
  • 亡くなった方の財産調査を進める(通帳・郵便物などを確認)
  • 法律の専門家に相談し、相続放棄するかどうかを判断
  • 相続放棄をする場合は家庭裁判所に申述

相続放棄が受理された後は、クレジットカード会社から相続人に対して支払い請求が来た場合でも、「相続放棄済み」である旨を伝えれば支払う義務はありません

5.早めの対応と専門家への相談が安心

クレジットカードは便利な反面、相続手続きにおいて見落とされやすく、残債やポイント・マイルの扱いを誤ると、相続人に思わぬ負担をかけることもあります。また、カード会社への解約連絡の遅れが原因で、遅延損害金が発生するケースや、信用情報に影響を与えるリスクも考えられます。

特に、亡くなった方が複数のカードを契約していた場合や、カードローンなどの債務が残っていた場合には、相続放棄を含めた慎重な判断が求められます。その際、書類の取り寄せや相続関係の整理など、対応すべき手続きは多岐にわたります。

こうした複雑な手続きをスムーズに進めるためには、相続に精通した専門家に相談することが非常に重要です

高野司法書士事務所では、横浜市青葉区を中心に、相続や不動産の名義変更、相続放棄など幅広い相続手続きに対応しており、多くのご相談者様から信頼をいただいております。クレジットカードの解約に関するサポートはもちろん、預貯金や不動産などを含めた相続全体のトータルサポートが可能です。

「何から手をつけていいかわからない」「カード会社への連絡が不安」という方も、どうぞお気軽にご相談ください。専門家の視点で、安心・確実な手続きをお手伝いさせていただきます

両親が続けて亡くなった場合の相続手続き

2025-07-28

相続というと「人が亡くなったときに一度きりで発生するもの」と思われがちですが、実際には、相続手続きが一度で完結しないケースも少なくありません。特に、両親が短期間のうちに相次いで亡くなった場合などには、相続の手続きが「数次相続(すうじそうぞく)」として重なって発生することになります。

たとえば、父が亡くなり、母が相続人となってその財産を相続した直後に、今度は母も亡くなったとします。この場合、父の財産の一部はすでに母に移っているため、母の相続においては「父から母に渡った財産」も再び子どもたちへと相続される対象になります。

このように、複数の相続が連続して発生する状態が「数次相続」と呼ばれますが、その手続きは非常に煩雑で、遺産分割協議書の作成や名義変更なども通常の相続よりも手間がかかります。しかも、相続人の人数が増えていくことで、協議の調整や書類収集にも多くの時間と労力がかかるのです。

本記事では、両親が続けて亡くなった場合に発生する数次相続のしくみや、遺産分割協議書の作成に関するポイント、実務上の注意点について、具体的な事例も交えながらわかりやすく解説します。相続に関する不安や悩みをお持ちの方が、今後の手続きで迷わず対応できるよう、ぜひ参考にしてください。

1.両親が相次いで亡くなった場合に起きる「数次相続」とは

「数次相続(すうじそうぞく)」とは、ある相続が完了しないうちに、相続人の一人が亡くなり、次の相続が発生することをいいます。特に高齢化が進んだ現代では、夫婦が数年以内、あるいは数ヶ月以内に続けて亡くなることは決して珍しくありません。

具体例で見る数次相続

たとえば、家族構成が以下のような場合を考えてみましょう。

  • 父(被相続人1)死亡:相続人=母と子2人(長男・長女)
  • 父の遺産:不動産、自動車、預貯金など
  • 母(被相続人2)死亡:相続人=子2人(長男・長女)

このとき、父の相続手続きを完了しないうちに母が亡くなると、「父の遺産のうち母が取得する予定だった部分」も含めて母の相続財産となり、再度、相続手続きを行う必要があります。

結果として、以下の2つの相続手続きが必要になります。

  1. 父から母・子への相続(第1次相続)
  2. 母から子への相続(第2次相続)

このような相続の連鎖が「数次相続」です。

数次相続が発生するとどうなるか?

数次相続になると、遺産分割協議書を2通作成しなければならない場合があります。また、第1次相続の遺産分割を行う時点で、第2次相続の相続人がまだ相続人として確定していない場合(例えば、母の兄弟姉妹など)は、第1次相続の遺産分割協議に参加する人が増える可能性があります。

さらに、以下のような問題も発生しやすくなります。

  • 相続人の人数が増え、協議がまとまりにくい
  • 調査しなければならない戸籍が増える
  • 相続税の計算が複雑になる
  • 登記や金融機関の手続きも2段階で必要になる

このように、両親が相次いで亡くなった場合の相続は、手続きが通常の倍以上に膨れ上がるリスクがあるのです。

2.数次相続における遺産分割協議書の作成方法と注意点

両親が続けて亡くなったケースでは、遺産分割協議書を適切に作成しないと、後々の相続登記や預貯金の解約手続きに支障をきたす可能性があります。ここでは、数次相続における遺産分割協議書の作成方法と、その際に注意すべきポイントについて解説します。

1. 協議書は原則として相続ごとに作成する

数次相続の場合、原則として相続が発生したごとに1通ずつ、別々の遺産分割協議書を作成します。

たとえば、次のような2段階の相続があった場合:

  • 第1次相続:父 → 母・長男・長女
  • 第2次相続:母 → 長男・長女

この場合は、

  • 「父の相続に関する遺産分割協議書」
  • 「母の相続に関する遺産分割協議書」

をそれぞれ作成する必要があります。

なお、実務上は2つの相続をまとめて1通の協議書で記載する遺産分割協議書を作成するケースもあります。

2. 協議の参加者(相続人)を正確に把握する

数次相続では、相続人が世代をまたいで増加することがあります。たとえば、母が父の死亡後に遺産を受け取らないまま亡くなった場合、その相続権は母の法定相続人(たとえば母の兄弟姉妹など)に相続されるため、その人たちも遺産分割協議に加わる必要があります。

相続人の調査は「戸籍謄本」や「除籍謄本」「改製原戸籍」などを取り寄せて行い、正確に関係者を把握しなければなりません。

3. 代襲相続の確認も忘れずに

父が亡くなった時点で、相続人の一人(たとえば長男)が既に死亡していた場合、その長男の子どもが「代襲相続人」となります。こうした代襲相続も数次相続と同様に発生しうるため、遺産分割協議書の作成に際しては、すべての関係者を正しく把握する必要があります。

4. 相続財産の名義人に注意

遺産分割協議書を作成する際には、相続財産の「名義人が誰であるか」を明確にします。父名義の不動産は第1次相続の対象となり、母が取得した場合、その後の第2次相続では「母名義の不動産」として再度分割の対象になります。

このように、相続財産の名義を確認せずに手続きを進めると、協議書の内容に矛盾が生じ、登記や金融機関の手続きでトラブルになる恐れがあります。

5. 協議書には印鑑証明書の添付が必要

遺産分割協議書には、協議に参加した相続人全員の署名・実印の押印が必要です。また、実印の押印があることを証明するために、市区町村で発行される「印鑑登録証明書」を添付する必要があります。これがなければ、登記や預貯金の名義変更ができません。

3.数次相続で特に注意すべき5つのポイント

数次相続は、通常の相続と比べて手続きが煩雑で、相続人の数も多くなりがちです。この章では、実務上特に注意すべきポイントを5つに絞って詳しく解説します。

1. 相続人の確定に時間がかかる

数次相続では、複数の相続が連続して発生するため、すべての相続人を特定するのに時間がかかります。特に、先に亡くなった方の相続人がさらに亡くなった場合には、その人の法定相続人(配偶者や子、場合によっては兄弟姉妹など)まで調査の対象になります。

相続関係が複雑になると、戸籍の収集範囲が広がり、数十通以上の戸籍を取り寄せる必要があるケースも珍しくありません。また、相続人の一部が海外に在住していたり、長期間音信不通だったりすると、さらに時間と労力がかかります。

2. 不動産の登記が2段階必要になることがある

たとえば、父が亡くなった際に相続登記をしないまま母も亡くなってしまった場合、相続登記は本来であれば「父→母→子」の2段階で行う必要があります。このとき、まず父から母へ相続登記をし、そのうえで母から子への相続登記を行うという流れになります。

ただし、父の財産を一度すべて母が相続し、さらにその母の財産を子が単独で相続するという形であれば、「父→子」の登記を1回の申請でまとめて行うことが可能です。これを「中間省略登記」と言い、法務局はこのようなケースにおいて、連続した相続であればまとめて1件での登記申請を認めています。

3. 遺産分割協議が複雑になりやすい

相続人が増えると、それだけ利害関係も複雑になります。数次相続では、「父の遺産の分割」「母の遺産の分割」と、相続対象となる財産も複数あるため、どの財産を誰がどの相続として取得するか、明確にしなければなりません。

また、遺産の内容が不動産や金融資産など多岐にわたる場合、誰が何をどのように取得するかをめぐって、相続人同士の意見が分かれることもあります。このような状況を避けるには、できる限り早い段階で話し合いを始め、必要に応じて司法書士や税理士などの専門家に相談することが有効です。

4. 遺産の評価時点が異なる

数次相続では、相続税の申告において、それぞれの相続時点で財産評価を行う必要があります。たとえば、父の相続が令和元年に発生し、母の相続が令和6年に発生した場合、それぞれの財産はその相続時点の時価で評価されることになります。

不動産や株式などの資産は、数年の間に大きく価値が変動することもあり、評価を誤ると後の税務調査で追徴課税を受けるリスクもあります。そのため、税務上の適正な評価が求められ、税理士などの専門家との連携が不可欠です。

また、このように短期間に連続して相続が発生した場合には、「数次相続控除)」の適用が検討できます。これは、最初の相続で納めた相続税について、次の相続で一定の条件を満たすことで一部を控除できる制度です。具体的には、最初の相続から10年以内に次の相続が発生し、かつ最初の相続で相続税を納付していた場合、次の相続でその負担が二重にならないように一部相続税を軽減できる仕組みです。

5. 遺言書の有無によって対応が大きく変わる

もし両親のどちらか、または両方が遺言書を残していた場合、遺産の分け方や相続人の構成が大きく変わる可能性があります。たとえば、「父の遺産はすべて母に相続させる」という遺言がある場合、父の相続分については遺言が優先されるため、その後の母の相続にすべての遺産が引き継がれることになります。

逆に、遺言がない場合や内容に不備がある場合は、法定相続分に従って分割する必要があるため、遺産分割協議が不可欠になります。遺言書の存在や内容は、数次相続の全体設計に関わる重要な要素です。

4.数次相続を円滑に進めるための実務ポイント

数次相続の手続きをスムーズに進めるには、いくつかの実務的なポイントを押さえることが大切です。

1. 相続人の関係図(家系図)を早い段階で作成する

相続手続きの第一歩は、相続人の把握から始まります。数次相続の場合、「父→母→子」と相続関係が複雑になるため、家系図を用いて関係性を可視化することが非常に有効です。

また、戸籍の収集もこの図に基づいて行うことで、漏れなく、効率よく作業を進めることができます。

2. 相続財産目録を丁寧に作成する

父と母の遺産を明確に区別し、それぞれの相続に応じた財産を把握する必要があります。預貯金、不動産、有価証券、自動車、借入金などを一つひとつリスト化し、どちらの相続で取得したかを明記すると、後の遺産分割協議や登記手続きがスムーズに進みます。

財産目録は、将来的なトラブルを防ぐための証拠資料にもなります。相続税の申告が必要なケースでは、評価額を含めた財産目録を作成し、税理士と連携することも重要です。

3. 遺産分割協議書は1つにまとめる?2つに分ける?

父母の遺産を同時に処理する際、遺産分割協議書を「1通でまとめて作成する」か「2通に分けて作成する」かは、状況に応じて選択することになります。

1通でまとめるメリット:

  • 相続人の署名押印が1回で済む。
  • 実務負担が少ない。

2通に分けるメリット:

  • 父と母の財産を明確に区別でき、将来的な証明に便利。
  • 税務処理上の整理がしやすい。

相続財産の内容や相続人間の合意状況、手続き先の要件などを踏まえて判断すると良いでしょう。

5.数次相続を放置しないために

両親が相次いで亡くなった場合に発生する「数次相続」は、通常の相続よりも手続きが複雑になり、相続人にかかる負担も大きくなります。戸籍の収集、財産の確認、遺産分割協議書の作成、不動産や預貯金の名義変更など、やるべきことは多岐にわたります。

特に注意が必要なのは、「とりあえず手続きを後回しにしておく」という判断です。相続人が増え続けることで協議がまとまりづらくなり、不動産の処分や金融資産の引き出しも困難になるリスクがあります。また、相続税の申告期限(10か月)を過ぎてしまえば、加算税や延滞税の対象にもなりかねません。

したがって、数次相続が発生した場合には、できるだけ早期に全体像を整理し、相続人全員が納得できる形で遺産の分割や名義変更を進めることが大切です。

そのためには、相続に精通した専門家に相談し、法的に正確かつ実務的に効率のよい方法を選択することが重要です。戸籍の収集から名義変更の手続きまでをワンストップで対応できる司法書士に相談することで、精神的な負担も軽減され、スムーズな解決へとつながります。

相続手続きでお困りの方は、高野司法書士事務所へご相談ください。当事務所では、横浜市青葉区を中心に、緑区・都筑区・町田市など周辺地域からも多数のご相談をいただいております。数次相続や複雑な相続手続きにも対応可能です。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

相続放棄をしたが生命保険金を受け取りたい時の注意点

2025-07-27

相続放棄をすると、故人の財産も負債も全て受け継がないことになります。しかし「相続放棄しても生命保険金は受け取れるの?」という疑問は多くの方が抱くテーマです。さらに「生命保険金が債権者に差し押さえられるのでは?」という心配もよく寄せられます。ここでは、“生命保険金の受け取り可否”“差し押えの対象にならない場合・なる場合”“相続税や手続きの注意点”について、司法書士の視点で詳しく解説します。

1. 相続放棄しても生命保険金は受け取れる?

相続放棄をしても、「保険金の受取人」として指定されているならば、死亡保険金は原則として受け取れます。これは、保険契約上の受取人の権利は受取人の固有財産とみなされ、被相続人の財産(相続財産)とは区別されるためです

【例】

  • 被保険者:父
  • 受取人:子(あなた)
    →あなたが相続放棄していても、生命保険金は受け取ることができます。

受取人が「被相続人」となっている場合

  • 受取人が「被相続人」自身になってる場合(例:医療保険の入院給付金や解約返戻金など)は保険金が相続財産になり、相続放棄した人は受け取れません。

受取人が特に指定されておらず『法定相続人』とされている場合

  • 生命保険の受取人が特定の名前ではなく「法定相続人」と指定されているときは、被保険者(亡くなった方)が亡くなった時点で法定相続人にあたる人が、保険金を受け取る権利を持つことになります。たとえその後に相続放棄をしたとしても、死亡時点で法定相続人であったなら、その人には保険金を受け取る権利があり、これは「相続財産」ではなく「その人自身の財産(受取人固有の財産)」として扱われます。

契約内容や保険会社の約款も合わせて必ずご確認ください

2.差し押さえリスクは?相続放棄後の生命保険金の安全性

生命保険金は原則、あなたの固有財産となるため、被相続人の借金を理由に差し押さえられることはありません

  • 相続放棄によって、あなたは故人の債務を法的に引き継がないため、債権者(例:消費者金融等)は「放棄した相続人」の保険金を差し押さえることはできないのです。

例外・注意点(被相続人の「解約返戻金」等)

  • 生命保険契約の「解約返戻金」や、受取人が被相続人になっている契約などは、相続財産扱いとなる場合があり、その場合は差し押えの対象となることがあります
  • 生命保険契約の内容を必ず確認しておきましょう。

3.生命保険金の税金と受取の注意点

相続税の対象!非課税枠もあり

  • 相続放棄した方が生命保険金を受け取った場合も相続税の課税対象になります
  • 非課税枠:「500万円×法定相続人の数」までは非課税です。例えば相続人2人なら1,000万円まで非課税枠となります。(実際に保険金を受け取った相続放棄者自身は、この非課税枠を自分に適用することはできません。
  • 満額を超える生命保険金には相続税がかかるので、受け取り後の申告漏れに注意しましょう。

所得税・贈与税となるパターン

  • 生命保険金の受取が所得税の対象となるのは、契約者と受取人が同一人物の場合です。この場合、受取保険金から払込保険料と50万円を差し引いた金額の半分が一時所得として課税されます。
  • 贈与税が課税されるのは、契約者(保険料負担者)と受取人が異なる場合です。例えば、夫が契約者として妻に保険をかけ、妻が亡くなった際に夫以外の人(子供など)が死亡保険金を受け取る場合でも、夫から子供への贈与として贈与税の対象となります。

4.高野司法書士事務所からのアドバイス

生命保険金の受取人としてあなたが指定されている場合、たとえ相続放棄をしていたとしても、原則として問題なく保険金を受け取ることができます。これは、生命保険金が「受取人固有の財産」とされ、相続財産とは区別されるためです。

また、相続放棄の理由が「被相続人に多額の借金があったため」であっても、債権者がこの保険金を差し押さえることはできません。あなた個人の財産である以上、被相続人の債務の返済にはあてられないのです。

ただし、契約内容や受取人の指定が曖昧な場合には、受け取れないこともありますし、相続税や贈与税の課税対象となるケースもあります。また、あなた自身に債務がある場合には、せっかく受け取った保険金が差し押さえられる可能性もゼロではありません。

生命保険金を確実に、そして安全に受け取るためには、税務や法律に関する正確な知識と適切な対応が必要です。少しでも不安や疑問を感じたら、どうぞお気軽に高野司法書士事務所までご相談ください。相続の専門家として、あなたにとって最善の方法を一緒に考え、手続きを丁寧にサポートいたします。

預貯金が少額の場合の相続手続き

2025-07-26

「亡くなった親の通帳を見たら、残高が数万円しかなかった。こんな少額の預貯金でも、わざわざ相続手続きをしないといけないの?」——これは相続の現場でよく寄せられる質問の一つです。

確かに、相続財産が数百万円、あるいは数千万円単位であれば、司法書士や税理士など専門家に依頼してでも手続きを進めるのが一般的です。しかし、たとえ残高が数万円、十万円台だったとしても、預貯金は亡くなった時点で「相続財産」となり、金融機関の口座は原則として凍結されます。そのため、残高が少額でも「法律的には」相続手続きが必要になります。「少額だから手続きしなくてよい」という考えは、必ずしも正解とは限りません。

この記事では、特に銀行・ゆうちょ銀行など金融機関ごとに手続きの違いや相続放棄、手続きを放っておいた場合のリスクまで分かりやすく解説します。

1.銀行やゆうちょ銀行で預貯金の「簡易な相続手続き」が利用できる場合とは?

銀行やゆうちょ銀行の預貯金を相続する際、手続きを進める中で「少額の場合は簡易な手続きで済む」と耳にする方も多いでしょう。本記事では、「簡易な相続手続き」が認められるケースや手続きの流れ、その際の注意点について詳しく解説します。

1. 「簡易な相続手続き」ってどんな制度?

通常、預貯金の相続では次のようなフルセットの書類や手続きを求められます。

  • 被相続人(故人)の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 遺産分割協議書 など

しかし、預金残高自体が少額な場合や、遺産分割のトラブルが考えにくい場合などは、金融機関ごとに「簡易な相続手続き」や「少額預貯金払戻の特例」を設けており、必要書類や手順が大きく簡素化されることがあります。

2. 具体的に「簡易手続き」が適用される条件は?

ゆうちょ銀行の場合

  • 口座残高が100万円以下であることが明確な条件となっています。
  • 相続人のうち誰か一人が代表して、比較的少ない書類と手続きで払戻しが受けられます。

都市銀行や地方銀行の場合

  • 銀行ごとに上限額(たとえば30万円、50万円、100万円など)が決められている例が多いです。
  • 銀行ごとの内規や支店の判断による部分もあるため、事前の電話確認が必須です。

共通条件

  • 「簡易」とはいえ相続人全員の同意(署名又は同意書)が求められる場合が多いので、事前に揉めごとがないよう注意が必要です。
  • その金融機関に特別な「同意書」や「代表相続人選任届」など、専用の書式がある場合もあります。

3. 実際の「簡易手続き」の流れ

① 死亡の連絡・凍結

被相続人が亡くなった後、銀行やゆうちょ銀行に死亡を連絡すると口座が凍結されます。

② 必要書類の準備

  • 代表相続人の本人確認書類(運転免許証等)
  • 被相続人の死亡がわかる戸籍謄本や除籍謄本
  • 代表相続人の印鑑証明書
  • 「払戻依頼書」や「代表相続人選任届」など、金融機関指定の書類

※ 他の相続人の署名や同意、またはその写しを求められることがありますが、通常の相続に比べて必要書類は少なく済みます。

③ 払戻し・解約手続き

必要書類を提出し、金融機関の確認が終わると(書類に不備がなければ)口座が解約され、預貯金が払戻しされます。

4. 仮払い制度と複雑な場合の対応

少額とはいえ相続人間で争いが予見される場合や、他の財産と合わせて遺産分割協議が難航している場合は、たとえ少額でも簡易手続きを利用できないこともあります。

また、2019年民法改正で誕生した預貯金の仮払い制度を利用すれば、遺産分割前でも一定額(「残高の1/3×法定相続分」、かつ金融機関ごとに150万円まで)を仮で払い戻すことができます。相続人の生活維持や葬儀費用など「早急にお金が必要」な場合には非常に有効です。

5. 注意点とトラブル防止

  • 「簡易手続き」であっても、払戻金を後から相続人間で均等配分したり、合意の証拠(同意書など)を残しておくと安心です。
  • 相続放棄を検討している相続人が払戻しに関わると「単純承認」とみなされ放棄できなくなる場合があるので注意しましょう。
  • 金融機関と十分なコミュニケーションを取り、条件や必要書類が自分のケースにどう当てはまるか、必ず事前確認を。銀行ホームページや窓口で詳細なフロー説明が受けられます。

銀行やゆうちょ銀行の預貯金が少額の場合、「簡易な相続手続き」が活用できれば、本来の煩雑な相続手続きと比べてかなり手間と時間を省略できます。特にゆうちょ銀行なら「100万円以下」、他行も独自上限額が設定されているケースが多いので、手続き前に電話や窓口で「少額預貯金の簡便な相続手続きは利用できますか?」と尋ねるのがベストです。

2.相続放棄を検討すべきケースと注意点

預貯金の金額が少額であっても、故人に借金や保証債務がある可能性がある場合は注意が必要です。特に、公共料金や税金の滞納、クレジットカードの残債、連帯保証など、被相続人の生活状況によっては、相続によってマイナスの財産を引き継いでしまうおそれがあります。

このような場合には、「相続放棄」を選択することで、借金などの負担から免れることができます。相続放棄は、被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。期限を過ぎてしまうと、原則として放棄が認められなくなるため、早めの判断が重要です。

ただし、口座から預金を引き出したりする行為は“単純承認”とみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。相続放棄を検討している場合は、一切の相続財産に手を付けず、速やかに専門家へ相談するようにしましょう。

3.預貯金の相続手続きを放置した場合のリスク・デメリット

預貯金の相続手続きを放置すると、表面上は特に罰則がないように感じがちですが、実際にはリスクやデメリットが存在します。

まず、銀行やゆうちょ銀行の預貯金も「債権」として扱われるため、相続人が払い戻しを請求せずに放置すると、権利が時効によって消滅する危険性があります。民法上、通常は「権利を行使できると知った時から5年」、あるいは「権利を行使できる時から10年」放置すると、預金の払い戻し請求権が消滅時効にかかることになります。特に会社の預金、信用金庫の預金などでは10年とされることもありますが、商法の適用で一般的な銀行預金は5年で時効となることが多いです

この時効を超えると、法的には銀行が払い戻しを拒否できる状態になるため、せっかくの預貯金が「なかったもの」となってしまうリスクが出てきます。実務上は、10年を超えても手続きを進めれば支払いに応じてくれる場合もありますが、銀行の判断で断られた場合、異議を唱えることができなくなる恐れがあります

また、近年は「休眠預金等活用法」の施行により、10年以上取引がないまま放置された口座は、残高が国(預金保険機構)に移され、払い戻し手続きが非常に煩雑になります。いざ必要になった時に払い戻しができない、または手続自体が大きな負担になる可能性があります。

さらに、預貯金以外にも相続登記(不動産名義変更)や株式の名義書換を怠ることで、不動産の権利関係が複雑になったり、株式の所有権を失う、相続人が増え続けて分割協議が困難になるなど将来的な遺産トラブルの温床にもなります

実際、「今は困っていないから」「残高が少ないから」と先延ばしにしてしまったことで、いざ必要な時に複雑な調査や多数の書類が求められて解決に膨大な労力がかかったり、ようやく調停や訴訟でしか解決できない状態に陥ることも珍しくありません

4.相続手続きにお困りの方へ

少額の預貯金でも「面倒」「後回し」はNGです。高野司法書士事務所では、銀行・ゆうちょ銀行・仮払い制度・簡易手続き・相続放棄に関するすべてのご相談を無料で受付しています。東急田園都市線青葉台駅から徒歩6分とアクセスも良好です。

「相続手続きは何から始めてよいか分からない」「永く放置してしまった」「遠方からでも簡単に済ませたい」とお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。司法書士が親身にサポートし、安心かつスピーディな対応をお約束します。

相続した不動産を売却すべきケース

2025-07-25

親や祖父母などの遺産として不動産を相続した場合、「その不動産をこのまま保有すべきか」「いっそ売却すべきか」と悩まれる方は少なくありません。相続した不動産は、たとえそこに住む予定がなくても「故人の思いがこもっている」「いずれ子どもに残したい」といった感情的な理由や、「将来値上がりするかもしれない」という期待などから、すぐに売却に踏み切れないこともあるでしょう。

しかし、相続した不動産には、維持費・固定資産税・老朽化による修繕義務といった「目に見えないコスト」がかかり続けます。特に空き家のまま放置していると、倒壊や雑草・害虫被害など近隣への迷惑にもつながり、自治体から行政指導を受けることもあります。さらに、2024年4月からは「相続登記の義務化」が施行され、放置していると10万円以下の過料の対象になる可能性もあります。

また、不動産を売却する場合には、譲渡所得税不動産取得税確定申告などの税務的な知識も必要になり、専門的な判断が求められます。

この記事では、「相続した不動産を売却すべきケースとはどんな場合か?」をはじめ、売却に伴う名義変更(相続登記)や税金のポイント(3,000万円控除など)、売却後の確定申告など、相続不動産の売却を検討している方が押さえておくべき情報を網羅的に解説していきます。

1.相続した不動産を売却すべき典型的なケース

不動産を相続したからといって、必ずしもそれを保有し続けることが最善とは限りません。実際には、売却したほうが経済的・法的に合理的なケースが多く存在します。ここでは、相続した不動産を売却すべき典型的なケースを4つ紹介します。

1. 誰も住む予定がない空き家の場合

被相続人が住んでいた住宅を相続したものの、自分や家族がそこに住む予定がなく、賃貸にも出さないまま空き家状態で放置されるケースは非常に多いです。
空き家のまま放置していると、次のようなリスクが発生します。

  • 固定資産税・都市計画税などの維持費が毎年発生する
  • 建物が老朽化して倒壊などの危険が生じる
  • 雑草・害虫被害・不法侵入などにより近隣トラブルに発展
  • 行政から「特定空き家」に指定されると固定資産税の優遇がなくなる

このような場合、売却によって資産を現金化し、維持コストや管理の負担から解放される方が得策といえるでしょう。

2. 相続人が複数いて不動産を共有している場合

相続人が複数いる場合、不動産を「共有」名義で相続することがあります。しかし、共有名義の不動産は以下のような問題を引き起こすことが少なくありません。

  • 長期の賃貸借・売却などにすべての共有者の同意が必要になる
  • 相続人間で意見が分かれると不動産の有効活用が困難
  • 将来的に相続が繰り返され、共有者が増え続け土地の利用・管理が困難になったり、意思決定が難しくなったりする

こうしたトラブルを未然に防ぐために、不動産を売却して現金化し、代金を法定相続分に応じて分配する「換価分割」も有効な手段です。

3. 相続税の納税資金が必要な場合

基礎控除額を超える場合、相続税が発生することがあります。現金で相続税を納めることが難しい場合には、不動産を売却して納税資金に充てるという選択肢があります。

  • 相続税の納付期限は相続開始(被相続人の死亡)から10か月以内
  • 納税のための「物納」や「延納」には厳格な条件がある

不動産を早めに売却して現金化すれば、納税準備に余裕が生まれます。

4. 利用価値がなく老朽化が進んでいる場合

古い建物で修繕費がかかる、または土地が狭小で再建築も困難な物件などは、保有していても資産価値が下がり続ける可能性があります。加えて、管理費・保険料・固定資産税などの支出がかさみ、「負動産(ふどうさん)」となることも。

売却によって資産としての価値を回収し、他の有効な資産運用に充てるのも合理的な選択です。

2.不動産売却にかかる税金と「3,000万円特別控除」

不動産を相続した後に売却すると、売却益(譲渡所得)が発生した場合に税金がかかります。ここでは、代表的な「譲渡所得税」や「不動産取得税」、そして節税に有効な「3,000万円特別控除」など、売却時に関係する税金について詳しく説明します。

1. 譲渡所得税とは?

譲渡所得税は、不動産を売って得た利益(譲渡所得)に対して課税される税金です。譲渡所得は、以下の計算式で求められます:

譲渡所得 = 売却価格 -(取得費 + 譲渡費用)

  • 取得費: 被相続人がその不動産を取得した際の購入金額や取得時の諸費用
  • 譲渡費用: 売却にかかった仲介手数料、登記費用など

※相続の場合、被相続人の取得費を引き継ぎます。

2. 短期・長期譲渡の区分

譲渡所得税率は、所有期間によって異なります。

  • 長期譲渡(所有期間5年超): 約20%(所得税15%+住民税5%)
  • 短期譲渡(所有期間5年以下): 約39%(所得税30%+住民税9%)

※相続による取得の場合は、被相続人の取得時期から計算するため、多くの場合「長期譲渡」に該当します。

3. 3,000万円特別控除の適用条件

相続した不動産が被相続人の「居住用財産(自宅)」であった場合、一定の条件を満たすと3,000万円の特別控除が受けられます。

適用の主な要件:(詳細は税務署または税理士にご確認ください)

  • 被相続人が死亡時点でその家に住んでいた
  • 相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売却すること
  • 売却した相手が親族など一定の関係者でないこと など

この控除が適用されると、譲渡所得から3,000万円が差し引かれるため、課税額が大きく軽減される可能性があります。

3,000万円特別控除の適用を受けるには、翌年の2月16日〜3月15日の間に確定申告を行う必要があります。控除を適用して税金がゼロになった場合でも、確定申告必要です。

4. 相続税と譲渡所得税の関係

相続税を納付している場合、譲渡所得の計算上、その相続税の一部を「取得費に加算」できる特例もあります(取得費加算の特例)。この特例により、譲渡所得が減り、結果として譲渡所得税が軽減されるケースがあります。

ただし、この特例は令和5年度の税制改正により要件が一部見直されており、最新情報に注意する必要があります。

5. 不動産取得税

相続によって取得した不動産には、原則として不動産取得税は課されません。これは、不動産取得税が不動産の購入や贈与、建築等による「取得」に課税される地方税である一方、相続は被相続人の死亡に伴う所有権移転であり、取得者の意思によるものではないため課税対象外とされているためです

ただし、贈与や売買による取得の場合は、不動産取得税が課税されます

3.相続不動産を売却するまでの手続きと流れ

相続した不動産を売却するには、いくつかの重要なステップがあります。適切な順序で進めないと、売却契約を結べなかったり、思わぬトラブルが発生するおそれもあります。この章では、不動産売却に至るまでの流れを詳しくご紹介します。

1. 相続登記(名義変更)

まずは、被相続人の名義から相続人名義へと登記(名義変更)を行う必要があります。
相続登記が完了していない状態では、不動産を売却することはできません。

【ポイント】

  • 登記のためには、遺産分割協議書・戸籍謄本・固定資産評価証明書などの書類が必要
  • 2024年4月から相続登記が義務化されており、3年以内に登記を行わないと過料の対象(10万円以下)になる

司法書士に依頼すれば、煩雑な手続きや書類収集も含めて一括で対応してもらえます。

2. 不動産の査定と仲介業者の選定

登記が完了したら、不動産会社に査定を依頼して市場価値を把握します。査定は複数社に依頼し、信頼できる仲介業者を選びましょう。

【仲介業者選定のポイント】

  • 地元の相場に詳しいか
  • 過去の売却実績があるか
  • 売主側に立って交渉してくれるか

媒介契約を結ぶことで、仲介業者が買い手探しや交渉を行ってくれます。

3. 売却契約と手付金の受領

買い手が見つかれば、売買契約を締結します。契約書には以下のような内容が含まれます。

  • 売買価格
  • 引渡し時期
  • 手付金の額(通常、売買価格の5~10%)

契約締結時には手付金が支払われ、残代金は引渡し時に受け取る流れです。

4. 引渡しと登記移転

買主から残代金を受け取り、不動産を引き渡します。並行して、司法書士が所有権移転登記を行い、売却が正式に完了します。

【必要書類】

  • 登記識別情報(権利証)
  • 固定資産税評価証明書
  • 本人確認書類(免許証など)
  • 印鑑証明書

ここまでが、不動産売却に至るまでの一連の流れです。

4.相続不動産は“放置”せず、早めの判断と行動を

相続した不動産の取り扱いには、税金・登記・管理・法律・売却の可否など、さまざまな要素が複雑に絡み合います。特に以下のようなケースでは、売却を選択することが合理的であることが多いと言えます。

  • 相続した不動産を使用する予定がない
  • 他の相続人と共有状態になっており、活用・管理が難しい
  • 固定資産税などの維持コストが重くのしかかる
  • 老朽化や空き家リスクで将来の資産価値が下がりかねない
  • 売却益に対して「3,000万円特別控除」が使える可能性がある

一方で、売却には譲渡所得税や登記、確定申告、名義変更などの専門的な手続きが必要となり、個人で対応するには限界があります。

相続不動産を「資産」として次世代に繋げるためにも、登記や売却の手続きに詳しい司法書士や不動産の専門家への相談を早めに行うことが重要です。

高野司法書士事務所では、横浜市青葉区・緑区・都筑区・町田市を中心に、相続に伴う不動産の名義変更や売却サポートを数多く手がけております。不動産の扱いにお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

相続手続きは誰に相談すべきか? 弁護士・司法書士・行政書士・税理士・銀行の違いと選び方

2025-07-24

相続が発生した際、多くの方が直面するのが「まず何をすればよいのか」「誰に相談するべきなのか」という問題です。遺産の内容や相続人の状況によって、必要となる手続きや関与する専門家が異なり、「司法書士?行政書士?弁護士?税理士?銀行?」といった疑問を抱くのは、ごく自然なことです。

相続手続きには、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約、遺産分割協議書の作成、相続税の申告など、多岐にわたる手続きが含まれます。また、相続人間での意見の対立や、相続放棄、遺言書の有無、認知症の相続人がいる場合など、法的な判断が求められる場面も少なくありません。

このように複雑な相続手続きにおいて、正しい知識と適切なサポートを受けることは、スムーズな相続の第一歩となります。本記事では、相続手続きの内容に応じて、どの専門家に相談すべきかをわかりやすく解説し、それぞれの専門家の特徴や役割の違い、相談すべきタイミングについて詳しくご紹介します。

1.弁護士に相談すべきケース

相続手続きの中で、「争いごとが生じている」または「法的な主張・反論が必要な場面」では、弁護士のサポートが必要不可欠です。弁護士は裁判上の代理権を有し、調停・審判・訴訟などの場で依頼者の権利を守ることができます。

1. 遺産分割協議がまとまらない場合

相続人同士の関係が悪化していたり、財産の配分に納得できない相続人がいると、遺産分割協議が難航します。このような場合は、弁護士が代理人として相手と交渉したり、家庭裁判所での調停・審判などへの対応が可能です。

たとえば:

  • 「長男がすべてを相続すると主張している」
  • 「誰かが勝手に財産を使い込んでいた」
  • 「遺産の評価額について意見が分かれている」

こういった場面では、法的知見を活かした調整が求められ、弁護士の力が非常に有効です。

2. 遺言の無効主張・遺留分侵害額請求

相続人の中には、遺言の内容に不満を抱くケースもあります。たとえば、遺言によって自分の取り分が大幅に減らされている場合、「遺留分侵害額請求」を主張することができます。

また、

  • 「遺言は書かれた当時、被相続人に判断能力がなかったのでは?」
  • 「誰かに書かされた可能性がある」

など、遺言の無効を主張するケースでは、裁判での立証が必要となるため、弁護士に依頼することが不可欠です。

3. 使い込みや不正行為が疑われるとき

預貯金の引き出しなど他の相続人による「使い込み」が疑われる場合、証拠収集や法的対応を進めるには弁護士のサポートが必要です。

  • 「被相続人の口座から、亡くなる直前に多額の引き出しがあった」
  • 「家を勝手に売却していた」

こうした問題は、親族間でも深刻な争いに発展する可能性が高く、当事者間での話し合いでは解決が困難です。第三者である弁護士が介入することで、冷静かつ法的に適正な解決を目指すことができます。

弁護士への相談は、相続人同士のトラブル・遺言の無効・遺留分請求・訴訟対応といった「対立を含む相続」において特に重要です。反対に、争いのない相続手続きにおいては、次章以降で紹介する他の専門家(司法書士・税理士・行政書士)の出番となります。

2.司法書士に相談すべきケース

司法書士は、相続手続きの中でも「登記」や「戸籍調査」、「法定相続情報一覧図の作成」、「遺産整理業務」など、書類作成・手続き代行の専門家です。相続人間に争いがない、比較的スムーズに進められるケースでは、司法書士への相談が最も適しています。

1. 相続登記(不動産の名義変更)をしたいとき

不動産を相続する際には、その不動産の名義を故人から相続人へ変更する「相続登記」が必要です。2024年4月からは相続登記が義務化されており、期限内に登記しなかった場合は過料が科される可能性があります。

司法書士は、以下のような場面で相続登記をサポートします:

  • 戸籍で収集して相続関係を確認し、相続関係説明図、遺産分割協議書を作成
  • 登記に必要な添付書類(評価証明書、住民票など)の収集代行
  • 相続登記の申請手続きの代行
  • 法定相続人が多い場合や数次相続など、複雑な相続にも対応

2. 法定相続情報一覧図を取得したいとき

複数の相続手続き(銀行、証券会社、年金など)を同時に進める場合、各所で戸籍一式を何度も提出しなければなりません。そこで便利なのが「法定相続情報一覧図」です。司法書士は、戸籍の収集から一覧図の作成、法務局への申出まで一括して代行できます。

  • 戸籍の調査・収集が面倒
  • 代襲相続や養子縁組など複雑な関係がある
  • 遺産の分配前にまず手続きを進めたい

こうしたとき、司法書士の専門知識が役立ちます。

3. 相続放棄の申述書を作成して家庭裁判所に提出したいとき

相続人が負債を背負うことを回避するために選択する「相続放棄」は、家庭裁判所への申立てが必要です。司法書士は、必要書類の収集と申述書の作成をサポートします。

  • 申立書の書き方がわからない
  • 戸籍が複雑で自分では揃えられない
  • 提出期限(原則3ヶ月)を過ぎそうで不安

このような方には、司法書士への早期相談が安心です。

4. 銀行口座や証券口座の解約・名義変更手続き

相続に伴う金融資産の承継業務(遺産整理業務)にも対応できます。高齢の相続人や忙しいご家族に代わって、以下のような業務を一括でサポートできます:

  • 銀行預金の相続手続き
  • 証券会社とのやりとり
  • 相続財産目録の作成

これにより、ご家族は安心して一任することができます。

5. 行方不明の相続人や認知症の相続人がいるケースの初期対応

相続人の中に認知症の方がいる、あるいは行方不明者がいる場合でも、司法書士は状況に応じて以下の手続きをサポートします。

  • 成年後見制度の活用に関するアドバイス
  • 不在者財産管理人の選任手続きの書類作成
  • 相続関係が複雑な場合の調整・助言

弁護士による訴訟まで発展する前の段階で、司法書士が初期対応を行うことで、スムーズに手続きを進めることが可能になります。

このように、司法書士は「争いがない相続手続き」において、幅広く実務を担うことができます。費用面でも比較的リーズナブルであり、相続登記や書類作成、調査業務に関しては最も身近で頼れる専門家です。

3.税理士に相談すべきケース

相続手続きにおいて「税金」に関する問題が発生する場面では、税理士の力が不可欠です。特に相続税の申告が必要なケースや、生前贈与・相続対策を行う際には、税務の専門家である税理士に相談することで、大きな損失を防ぐことができます。

1. 相続税の申告が必要なケース

相続税には基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)があり、それを超える遺産を相続する場合は、原則として被相続人の死亡から10か月以内に相続税の申告と納税を行わなければなりません。

税理士に相談すべき具体例:

  • 相続財産の評価額が基礎控除を上回る可能性がある
  • 現金以外の財産(不動産・有価証券)が多く、評価が難しい
  • 納税資金の準備が困難で物納・延納を検討している

税理士は、不動産の評価額の適正化や節税のための特例適用(小規模宅地の特例、配偶者控除など)を判断し、最も有利な形で申告を行います。

2. 生前贈与を活用した相続対策をしたいとき

将来の相続税負担を見越して生前贈与を行う際、税務上の知識が欠かせません。暦年贈与や相続時精算課税制度の選択など、制度によって贈与税や相続税に与える影響が大きく異なるため、税理士のアドバイスが重要です。

  • 毎年の贈与額の管理
  • 不動産や非上場株式の贈与に伴う評価
  • 2024年の税制改正(生前贈与加算期間の延長など)への対応

こうした生前対策を行うなら、相続に詳しい税理士と連携して、中長期的な視点でプランニングを進めるのが賢明です。

3. 相続人間で公平に分けたいが税負担が偏る場合

遺産を公平に分けたいと思っても、財産の中身によっては相続人ごとに税負担が大きく異なることがあります。

例えば、

  • 不動産を取得した相続人にだけ高額な相続税が発生
  • 金融資産はすぐに使えるが、土地や建物は納税資金の準備が難しい

こうした問題を避けるには、税理士の試算に基づいて相続財産の分割を設計する必要があります。

4. 二次相続まで考慮した節税対策をしたいとき

一次相続では配偶者の税額軽減が使えるため、税金がゼロまたは少額で済むケースも多くあります。しかし、配偶者が死亡した後に発生する二次相続では、配偶者控除が使えず、税負担が跳ね上がるケースがあります。

このため、一次相続と二次相続を通算して最も節税効果の高い分割方法を提案できるのが、経験豊富な税理士の役割です。

税理士は、財産評価・税額の試算・申告書の作成など、税務に関わるあらゆる業務を担う専門家です。相続税の有無に関わらず、財産の全体像を把握しておきたい場合や、将来の備えとして早めに対策を取りたい方は、相続に強い税理士への相談が大変有効です。

当事務所では、相続に特化した信頼できる税理士と提携しており、ご希望に応じてご紹介が可能です。

4.行政書士に相談すべきケース

行政書士は、官公署に提出する書類の作成や、権利義務・事実証明に関する文書の作成を専門とする国家資格者です。相続においても、一定の範囲で相談・手続きを行うことが可能です。

1. 遺産分割協議書や遺言書、相続関係説明図などの書類作成を専門家に依頼したい場合

相続の内容が複雑でなく、書類の作成や収集だけを依頼したい、あるいはその作成の補助を受けたいときは行政書士が適しています

2. 預貯金・有価証券・自動車などの名義変更や金融機関手続きをまとめて任せたい場合

遺産に不動産が含まれず、主に金融資産や動産が中心の場合、名義変更や解約などの事務手続きも行政書士が代行可能です(不動産登記は司法書士のみが担当)

3. 被相続人が許認可の必要な事業などを営んでおり、相続に伴う行政手続きや届出、変更申請が必要な場合

農地、酒販、建設業など、事業・許認可に関する行政への届出や手続きが必要な時は、行政書士が制度上の手続き全般をサポートできます

一方で、行政書士は法律トラブルの調整や代理行為、登記申請、税務申告などには対応できません。そのため、相続人間で意見が対立していたり、相続財産に不動産や多額の金融資産が含まれる場合などは、司法書士や税理士などと連携しながら進める必要があります。

5.銀行に相談する場合の特徴と注意点

相続に関連して銀行を訪れるのは、被相続人の預貯金がある場合や、銀行が提供する相続関連サービスを利用したいと考えるときです。銀行は「相続手続きの窓口」として機能することがありますが、他の士業とは異なり、法的手続きの代理や調整を行うことはできません。そのため、銀行に相談する場合には、その役割や限界を正しく理解しておく必要があります。

1. 相続手続きサポートサービス

一部の銀行では、相続手続きをサポートする有料の「相続代行サービス」「相続手続きパック」を提供しています。これらは提携する司法書士・税理士・行政書士などの士業に手続きを外注し、ワンストップで手続きを完了させるサービスです。

【メリット】

  • 一括で対応してくれるため、時間や手間を軽減できる
  • 信頼感のある銀行経由で依頼できる

【デメリット】

  • 費用が割高になる傾向がある(仲介手数料が含まれる)
  • 提携先の専門家を選べず、個別対応の柔軟性に欠ける
  • 必ずしも相続に強い専門家が対応するとは限らない

2. 銀行は「窓口」であり「専門家」ではない

銀行員は、法律や税務の専門家ではありません。そのため、遺産分割のアドバイスを求めたり、相続放棄・登記・税務申告といった判断を仰いでも、対応はできず、専門家への相談を勧められるだけとなる場合が大半です。

また、銀行によっては、提出された書類の審査に非常に厳しく、少しの不備でも受理されないことがあるため、事前に専門家にチェックしてもらうことが望ましいです。

3. 銀行の遺言信託サービスについて

多くの大手銀行では、「遺言信託サービス」という名称で、遺言書の作成や保管、そして死後の遺言執行までを含むサービスを提供しています。これは、公正証書遺言の作成を銀行が提携する司法書士や弁護士とともにサポートし、遺言内容の実現までを一貫して担うというものです。

【主なサービス内容】

  • 公正証書遺言作成の支援
  • 遺言書の銀行金庫での保管
  • 被相続人の死亡後、遺言内容に従って相続手続きを執行(遺言執行者として就任)

【利用メリット】

  • 銀行が関与することで安心感がある
  • 専門家との連携が取れているため、一定の信頼性がある
  • 書類の保管場所が明確になる

【注意点】

  • 費用が非常に高額になる傾向がある
    • 初期費用(遺言書作成サポート料):10~30万円前後
    • 保管料:毎年数千~1万円程度
    • 遺言執行報酬:遺産総額の1.5~3%前後(例:5,000万円の遺産なら75万円〜150万円)

遺言信託サービスの費用体系は銀行ごとに異なりますが、「安心と手間の軽減」の代わりに、高額な手数料を支払うことになる点は十分に検討すべきポイントです。

また、実際の遺言執行時には別途、提携する専門家への報酬も加算されることが多く、最終的なコストが予想以上にかさむという声も少なくありません。

このように、銀行の提供するサービスは便利ではあるものの、「費用対効果」や「柔軟性の低さ」には注意が必要です。必要に応じて、地元の司法書士や税理士に直接相談した方が、より柔軟かつ低コストで対応できる場合も多いことを念頭に置いておくとよいでしょう。

6.相続手続きの相談先を選ぶ際のポイントと注意点

相続手続きは、財産の種類や相続人の状況、相続税の有無などによって複雑さが大きく異なります。そのため、「誰に相談するのが適切か」を正しく判断することが、円滑かつ的確な相続手続きへの第一歩になります。

ここでは、相続手続きの相談先を選ぶ際に押さえておくべきポイントと、よくある失敗例について解説します。

1. 依頼先を誤るとどうなるか?

相続手続きは専門性が高く、対応できる業務範囲が各士業(司法書士・税理士・行政書士・弁護士)や機関(銀行など)によって異なります。そのため、適切でない専門家に依頼すると、以下のような問題が起こることがあります。

  • 業務範囲外のことは対応できず、別の専門家を再度探す必要がある
  • 書類の再提出や重複作業で時間・手間・費用がかさむ
  • 必要以上の高額な費用を請求される(例:銀行の遺言執行手数料など)

このようなトラブルを防ぐためにも、事前に相続手続きの全体像を把握し、自分のケースに合った専門家を選ぶことが重要です。

2. 相続の全体像を把握することが出発点

相談先を選ぶ前に、まずは以下のような情報を整理しておきましょう。

  • 遺産の主な内容(不動産・預貯金・株式・負債など)
  • 相続人の構成(配偶者・子ども・兄弟姉妹など)
  • 遺言書の有無(自筆・公正証書など)
  • 納税の可能性(相続税の発生が見込まれるか)
  • 家族間の関係性(トラブルの有無、疎遠な相続人の存在など)

こうした情報をもとに、どの専門家が最適かを判断することができます。

3. ワンストップ対応できる窓口が理想

最近では、相続に強い司法書士や税理士の中には、複数の専門家と連携してワンストップで対応する事務所も増えています。たとえば、以下のような対応が可能なケースがあります。

  • 不動産の相続登記 → 司法書士
  • 預貯金の解約 → 司法書士または行政書士
  • 相続税申告 → 税理士
  • 家族間の争い対応 → 弁護士
  • 不動産売却・換価 → 宅建士や提携不動産会社

つまり、信頼できる窓口をひとつ設けることで、複数の専門家と無駄なく連携できるという点が、大きなメリットとなります。

4. 相談先を選ぶ際のチェックポイント

以下のような点を確認すると、相談先選びの失敗を防ぐことができます。

チェックポイント確認内容
① 得意分野相続登記、相続税、遺言など、扱っている業務の実績があるか
② 費用の明確性相談料、報酬などが明朗かどうか
③ ワンストップ対応他士業との連携体制が整っているか
④ 地域密着性地元の事情や役所、法務局の運用に詳しいか
⑤ 説明のわかりやすさ専門用語を避け、丁寧に説明してくれるか

たとえば、初回相談時に「相続登記と税務申告のどちらも必要になる可能性があるのですが…」という質問をした際、必要な手続きを整理して説明し、他の専門家と連携する姿勢を見せるかどうかがひとつの判断材料になります。

5. よくある誤解と注意点

相続手続きに関するよくある誤解として、次のようなものがあります。

  • 「とりあえず銀行に相談すればすべてやってくれる」
    → 実際には、銀行は手続きを代行せず、遺言信託など高額なサービスを勧めることもあります
  • 「弁護士に頼まないと法的に無効になる」
    → 相続登記や銀行手続きは司法書士や行政書士でも対応可能です。争いがなければ弁護士に依頼しなくても良いケースも。
  • 「市役所に相談すれば全部教えてくれる」
    → 市役所は基本的に制度の概要説明のみで、実務的な支援や申請書作成は行いません

7.相続手続きの相談は信頼できる専門家へ

相続手続きは、故人の意思や遺産の内容、相続人の状況によって多様な対応が求められます。特に、手続きが煩雑になりがちな不動産の名義変更や銀行口座の解約、相続税の申告、さらには遺言書の取り扱いや相続放棄といった場面では、それぞれ専門的な判断が必要になります。

誰に相談するかによって、手続きの正確さやスムーズさ、さらには費用や精神的負担にも大きな差が生じます。

  • 書類の不備でやり直しになる
  • 間違った判断で余計な税金を支払うことになる
  • 家族間のトラブルを招く可能性がある

こうしたリスクを避けるためには、相続手続きに精通した信頼できる専門家に早めに相談することが何よりも重要です。

司法書士は、相続登記や預貯金の手続き、遺言書の検認サポート、相続放棄の申述など、実務に直結する手続きを幅広くサポートできる立場にあります。また、必要に応じて弁護士・税理士・行政書士と連携し、ワンストップで対応する体制を整えている事務所も少なくありません。

「何から手をつけてよいかわからない」「誰に相談すべきかわからない」という方こそ、まずは一度、相続に強い司法書士にご相談されることをおすすめします。

当事務所では、横浜市青葉区を拠点に、緑区・都筑区・町田市など近隣地域の方々から多くのご相談をいただいております。状況を丁寧にお伺いし、必要な手続きや優先順位をわかりやすくご案内いたします。

相続手続きでお困りの方は、お気軽にご相談ください。初回相談も承っております。

遺言書は作成するべき?そのメリットとデメリット

2025-07-22

相続に関するトラブルを未然に防ぐための手段として、遺言書の作成が注目されています。高齢化の進展により、財産の承継に対する関心が高まる一方で、実際に遺言書を準備している方はそれほど多くありません。この記事では、遺言書についてその基本的な説明、そのメリットとデメリットについて、分かりやすく解説します。

1.遺言書とは

遺言書とは、自分が亡くなった後に財産をどのように分配するか、誰に何を相続させるかを明記する文書です。民法に定められた手続きに従って作成することで、法的な効力を持ちます。遺言は被相続人の最終意思として尊重され、相続人の間で争いを避ける手段として極めて重要です。

遺言書の種類

日本の法律では、主に以下の3つの形式の遺言書が認められています。

  1. 自筆証書遺言
     本人が全文、日付、氏名を自書して作成する最も手軽な形式です。2020年から法務局での保管制度も始まり、紛失や改ざんのリスクを低減できるようになりました。
  2. 公正証書遺言
     公証人の関与のもと、公証役場で作成される遺言書です。法的な不備が起こりにくく、原本も公証役場に保管されるため、安全性・確実性が高いとされています。
  3. 秘密証書遺言
     内容を秘密にしたまま、公証人に存在だけを確認してもらう形式ですが、現在は利用されることが少なくなっています。

遺言書の法的効力

適法な形式で作成された遺言書は、法定相続分に優先して効力を持ちます。たとえば「長男にすべての財産を相続させる」といった指定がある場合、他の相続人の同意がなくても、その内容が尊重されるのが原則です(ただし遺留分に関する配慮が必要です)。

2.遺言書を作成するメリット

遺言書の作成には一定の手間と費用がかかりますが、それを上回る数多くのメリットがあります。特に、相続をめぐるトラブルを防ぐ「最も有効な手段」として、多くの専門家が遺言書の作成を推奨しています。ここでは、遺言書を作成することによって得られる具体的な利点を整理してみましょう。

1. 相続争いを未然に防げる

遺言書を作成する最大の目的は、「争族(そうぞく)」の予防です。
遺言がなければ、相続人全員で遺産分割協議を行わなければならず、意見が合わなければ手続きが滞ってしまいます。兄弟間で口論や絶縁に至る例も少なくありません。

遺言書があれば、被相続人の意思が明確に示されており、法律的にも強く保護されます。これにより、相続人間の無用な争いを避けることができます。

2. 特定の人に財産を確実に渡せる

遺言書を活用すれば、法定相続人でない人や団体にも財産を遺すことが可能です。

例:

  • 長年介護をしてくれた長女に多めの財産を遺したい
  • 内縁の配偶者に財産を遺したい
  • お世話になった知人や福祉団体に寄付したい

これらの希望は、遺言書でなければ実現できません。法定相続だけでは対応できない思いを形にすることが可能です。

3. 不動産の分配方針を明示できる

遺言書がない場合、不動産は原則として相続人全員の共有になります。これにより「誰が管理するのか」「売却するかどうか」で対立が生じやすくなります。

一方、遺言書があれば「長男に自宅を相続させる」などと明記でき、不動産の取り扱いが明確になり、トラブルを防止できます。

4. 相続手続きがスムーズに進む

遺言書があることで、遺産分割協議を省略して相続登記や銀行手続きを進めることができます。
特に不動産や金融資産が複数ある場合、遺言書によって「誰が、何を、どのように受け取るか」が明確になっていれば、相続手続きの負担が大幅に軽減されます。

5. 家族への思いや感謝を伝えられる

法的効力のある内容に加えて、遺言書には「付言事項(ふげんじこう)」として、ご家族への感謝や思いを綴ることができます。

「ありがとう」「これからも仲良く暮らしてほしい」といったメッセージは、残された家族にとって心の支えになることがあります。単なる財産の分配ではなく、「想いを託す手紙」としての役割も果たすのが遺言書です。

3.遺言書を作成する際のデメリットと注意点

遺言書には多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットや注意点も存在します。遺言書の内容によっては、かえって相続人同士の対立を招く可能性があるため、作成にあたっては十分な配慮と専門家のサポートが必要です。ここでは遺言書作成における主なリスクや誤解されがちな点について詳しくご紹介します。

1. 不適切な内容だと無効になる可能性がある

遺言書は法的に厳格な形式が求められます。たとえば自筆証書遺言であれば、全文・日付・署名を自筆で書かなければならず、パソコンで作成したものや日付が曖昧なものは無効になります。

また、「長男にすべての財産を相続させる」とだけ書いても、遺留分を侵害していれば法的トラブルが生じることも。内容や書き方に誤りがあると、せっかくの遺言が無効となる可能性があるため、注意が必要です。

2. 遺留分による争いが起こることがある

法定相続人には「遺留分」と呼ばれる最低限の取り分が法律で保証されています。たとえば、配偶者や子どもをすべて排除して第三者に全財産を遺すような遺言を作成すると、遺留分を侵害された相続人が「遺留分侵害額請求」を行う可能性があります。

これは民法で認められた正当な請求であり、たとえ遺言書が有効であっても、相続人間の争いを完全に防ぐことはできない点に注意が必要です。

3. 内容の変更や取り消しの手間がかかる

遺言書は何度でも書き直すことができますが、変更のたびに法的な形式を整える必要があり、負担に感じる方もいらっしゃいます。

特に毎回公正証書遺言を利用する場合は、変更・撤回のたびに公証人役場での手続きが必要で、その都度費用も発生します。「内容を変えるかもしれないから」と作成をためらう方もいます。

4. 相続人の感情を傷つける可能性がある

内容によっては、遺言書が相続人の感情的な衝突の引き金となることもあります。

たとえば「長女だけに財産を遺す」という内容に他の兄弟が不満を抱き、「差別された」と感じることで、感情的な対立が生じる可能性があります。これは相続の争いを防ぐはずの遺言書が、かえって「争族」を引き起こしてしまう典型例です。

5. 保管や発見されないリスクがある(特に自筆証書遺言)

自筆証書遺言の場合、誰にも知られずに作成され、相続人がその存在を知らないまま手続きを進めてしまうことがあります。結果的に遺言書の存在に気づかれず遺言の内容が実現されないケースも。

こうした事態を防ぐため、2020年からは自筆証書遺言を法務局で保管する制度も始まりましたが、それでも確実に見つけてもらうための対策が必要です。

4.遺言書の種類と選び方

遺言書にはいくつかの形式があり、それぞれ作成方法や効力、保管・運用において異なる特徴を持っています。ここでは代表的な3種類の遺言書について、それぞれの特徴やメリット・デメリットを整理し、自分にとって最適な遺言書の形式を選ぶためのポイントをご紹介します。

1. 自筆証書遺言

概要:
全文を自書(手書き)で作成し、署名・押印をした遺言書です。2020年の法改正により、財産目録についてはパソコン作成や通帳のコピーの添付も認められるようになりました。

メリット:

  • 費用をかけずに自分で作成できる。
  • 誰にも知られずに作れるため、プライバシーが保たれる。
  • 思い立った時にすぐに書ける。

デメリット:

  • 法的要件を満たしていないと無効になる恐れがある。
  • 紛失や改ざん、隠匿のリスクがある。
  • 家庭裁判所の「検認」が必要(相続手続きに時間がかかる)。

おすすめする方:

  • 費用をかけたくない方
  • 比較的シンプルな財産と相続関係の方
  • 手軽に意思を残したい方

2. 公正証書遺言

概要:
公証人が遺言者から内容を聞き取り、公証人が文書を作成して公証役場で公証する遺言書です。原本は公証役場で保管されます。

メリット:

  • 公証人が関与するため、形式的な不備による無効リスクがない。
  • 原本が公証役場に保管されるため、紛失・改ざんの心配がない。
  • 家庭裁判所の検認手続きが不要で、すぐに相続手続きに使える。

デメリット:

  • 作成に費用がかかる(内容や財産額により異なる)。
  • 証人2名の立会いが必要。
  • 公証役場に出向く必要がある(出張対応も可能)。

おすすめする方:

  • 相続財産が多い方や不動産がある方
  • 相続関係が複雑な方
  • 確実な法的効力を求める方
  • トラブル防止を第一に考える方

3. 秘密証書遺言

概要:
内容を他人に知られたくない場合に用いられる形式。遺言書を封印し、公証役場で公証人と証人の前でその存在を証明してもらう方法です。

メリット:

  • 内容を誰にも知られずに遺言を残すことができる。
  • 手書きでなくてもよい(パソコン等で作成可能)。

デメリット:

  • 公証人が内容を確認しないため、法的不備があっても気づかれない。
  • 家庭裁判所の検認が必要。
  • 実務ではあまり利用されていない。

おすすめする方:

  • 秘密を厳重に保ちたいが、公証役場で証明はしておきたい方

4. 選び方のポイント

遺言書の種類を選ぶ際は、次のようなポイントを考慮してください。

  • 法的な有効性を最優先したいか?
    → 公正証書遺言がおすすめ
  • 費用をかけずに作成したいか?
    → 自筆証書遺言がおすすめ(法務局での保管制度と併用)
  • 遺言の存在や内容を秘密にしたいか?
    → 秘密証書遺言の選択も一案

また、近年では「自筆証書遺言書保管制度」(法務局での保管)を利用することで、紛失や改ざんのリスクを避け、かつ検認手続きも不要になるメリットがあります。

5.遺言書の作成手順と保管方法

遺言書を作成する際には、単に思いつくまま書けばよいというわけではありません。形式に則った正しい作成方法を理解し、相続人や関係者にとっても分かりやすく、トラブルになりにくい内容であることが重要です。この章では、遺言書作成の基本的なステップと、作成後の保管・活用の方法について解説します。

1. 作成前に整理すべきこと

① 財産の内容を把握する
まずは、自分の財産の全体像を把握することが大切です。預貯金、不動産、有価証券、生命保険、借入金など、プラスの財産もマイナスの財産も整理しておきましょう。

② 相続人の確認
誰が法定相続人となるかを確認します。戸籍謄本を取り寄せておくと、漏れがなく確実です。

③ 分け方のイメージを考える
「長男に不動産を残したい」「配偶者に生活費の確保を」「世話をしてくれた子に多めに」など、気持ちと公平感のバランスを考慮することが重要です。

2. 遺言書の作成ステップ

① 種類の選定(自筆 or 公正証書など)
前章で紹介したそれぞれのメリット・デメリットを踏まえて、自分に合った形式を選びましょう。

② 内容の検討
遺言書に記載すべき代表的な事項は以下の通りです:

  • 誰にどの財産を相続・遺贈するか
  • 遺言執行者の指定(推奨)
  • 付言事項(家族への思いなど)

③ 作成
自筆証書遺言の場合は、必ず全文を自分で書き、日付・署名・押印を忘れずに。
公正証書遺言の場合は、公証役場に相談のうえ予約を取り、必要書類を準備して作成します。

3. 作成後の保管と管理

① 自筆証書遺言の保管
自宅保管の場合は、火災や紛失、第三者による隠匿などのリスクがあります。
近年では、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を活用することで、以下のメリットが得られます:

  • 検認不要(すぐに相続手続きが可能)
  • 紛失・改ざんのリスクなし
  • 相続人による閲覧が可能(遺言者の死後に限る)

② 公正証書遺言の保管
原本は公証役場で保管され、正本と謄本を本人が持ちます。公証人連合会のデータベースで全国の公証役場から検索可能です。

4. 定期的な見直しも重要

一度作成した遺言書も、状況の変化(例:家族構成の変化、財産の増減、相続税法の改正など)によって、内容の見直しが必要になる場合があります。
また、古い遺言書と新しい遺言書の内容が矛盾する場合、日付の新しいものが優先されるため、内容を明確に記しておくことが望ましいです。

6.遺言書作成をためらう理由とその対策

遺言書は、相続を円満に進めるために非常に有効な手段ですが、実際には「遺言を作ろう」と考えながらも、そのまま手を付けないまま時間が過ぎてしまうケースが少なくありません。ここでは、多くの人が遺言書の作成をためらう主な理由と、それを乗り越えるための具体的な対策をご紹介します。

1. 「まだ元気だから大丈夫」と思っている

もっとも多い理由の一つが、「まだ自分は元気だから、今すぐ遺言書を作る必要はない」という考え方です。確かに健康なうちは深刻に考えにくいものですが、万が一、急な事故や病気によって意思表示ができなくなった場合、遺言書がないことで家族が混乱し、争いに発展することもあります。

対策:
遺言書は「死の準備」ではなく、「家族への思いやりの表明」です。早めに作成しておけば、将来的に気持ちや状況が変わったときに書き直すこともできます。元気なうちにこそ、冷静に判断しやすく、家族とも相談しながら準備ができます。

2. 何から始めたらよいかわからない

遺言書には自筆証書、公正証書、秘密証書などの種類があり、それぞれ手続きや費用、リスクが異なります。そのため、「調べるのが面倒」「自分には無理そう」と感じて、行動に移せない方も多くいらっしゃいます。

対策:
司法書士などの専門家に相談することで、どの方法が自分に合っているかを簡単に把握できます。また、必要な財産目録や家系図の作成もサポートを受けることでスムーズに進められます。「一人で抱え込まないこと」が何よりの解決策です。

3. 誰に何を遺すか決めきれない

「公平にしたい」「一部の家族と疎遠」「感情的に難しい事情がある」など、財産の分け方を決めることに悩み、結局作成が進まないという方も多く見られます。

対策:
遺言書は、最終的に納得のいく内容にするまで何度でも修正できます。はじめは「仮の案」でも構いません。専門家に相談しながら考えを整理していくことで、最終的に自分らしい遺言を完成させることができます。

4. 家族に遺言のことをどう伝えるか不安

「遺言を書くと、かえって家族が不安がるのではないか」「自分の考えを理解してもらえないのではないか」といった懸念も、遺言作成を躊躇する原因になります。

対策:
公正証書遺言の場合は、公証人が関与するため内容に誤解が生じにくく、トラブル予防にもなります。また、付言事項(自由記載欄)を活用して「なぜこのような内容にしたのか」「家族への感謝の気持ち」などを記しておくと、遺されたご家族の心理的な負担を軽減することができます。

5. 費用がかかりそうで躊躇する

「遺言なんてお金持ちの人がやること」と思っている方もいます。また、公正証書遺言にそれなりの費用がかかることを知って、ためらう方もいます。

対策:
確かに一定の費用はかかりますが、相続トラブルが起こった場合にかかる弁護士費用や裁判費用、家族間の関係悪化などに比べれば、遺言作成にかかる費用は決して高くはありません。「この程度の出費で家族の平穏が守れる」と考えれば、将来への安心材料になります。

6. 「財産が少ないから必要ないと思っている」

「遺産があまりないから遺言なんて必要ない」と思われる方も多いですが、実は相続で揉めるケースの多くは“少額の遺産”の家庭です。例えば、自宅や預貯金だけでも相続人が複数いれば争いの種になることも。

対策:
金額の多寡ではなく、「誰が・何を・どう相続するか」を明確にすることが重要です。特に不動産がある場合、名義変更や共有の問題でトラブルになりやすいため、明確な遺言で方向性を示しておくと安心です。

7. 「手続きが面倒そう」

遺言書の作成には一定の手間がかかりますが、正しく作れば将来の手続きが大幅に簡略化されます。特に公正証書遺言を利用すれば、形式ミスによる無効リスクも低減します。

対策:
「今少し手間をかけることで、将来の家族の手間を減らす」と考えるのがポイントです。また、司法書士などに依頼すれば、作成から保管方法の選択までワンストップで支援を受けられます。

7.遺言書が“ある”場合と“ない”場合の比較事例

遺言書の有無は、相続発生後の手続きや相続人同士の関係に大きな影響を与えます。この章では、実際に起こりうるケースをもとに、遺言書がある場合とない場合でどのような違いがあるのかを具体的に見ていきましょう。

ケース1:長男と次男が不仲な場合

遺言書がある場合:
父親が「長男には自宅、次男には預貯金を全額相続させる」という内容の公正証書遺言を作成していたことで、相続開始後はそれに従って手続きが行われた。相続人間の協議は不要で、手続きは迅速かつ円満に完了。

遺言書がない場合:
法定相続に基づき遺産分割協議が必要となったが、自宅を誰が相続するかで長男と次男が対立。協議がまとまらず、不動産の名義変更も預貯金の解約も長期にわたって滞る。最終的に調停に発展し、精神的・経済的コストがかさんだ。

ケース2:内縁の妻がいた場合

遺言書がある場合:
夫が「内縁の妻に○○銀行の預金を遺贈する」と記載した公正証書遺言を遺していた。これにより、内縁の妻は相続人ではないが、遺贈によって財産を受け取ることができた。

遺言書がない場合:
内縁の妻は法定相続人ではないため、一切の財産を相続できず、夫の子どもたちとの関係も悪化。生活基盤も失った。

ケース3:障がいのある子どもがいた場合

遺言書がある場合:
両親が、長男には生活資金として多めに預貯金を相続させ、他の子どもたちには不動産を分け与えるという内容の遺言を作成。長男が将来的に生活に困らないよう配慮した内容で、他の相続人も合意済みだったため、相続手続きは円満に終了。

遺言書がない場合:
全員が法定相続分で財産を取得することになり、障がいのある長男には十分な生活資金が残らなかった。

これらの事例からわかるとおり、遺言書の有無は「相続手続きのスムーズさ」と「家族間のトラブル回避」の両面に大きな違いをもたらします。

8.遺言書は「備え」から「安心」へ

遺言書は、単なる「財産の分け方の指示」ではなく、遺されるご家族にとっての「安心」そのものです。
相続を巡るトラブルは、家族関係に深い傷を残すことがあります。遺言書があれば、ご自身の想いや希望を形にし、残された家族に迷いのない相続を実現することができます。

一方で、遺言書の作成には、法律上のルールや手続きの正確性が求められます。不備があると、せっかくの遺言も無効となり、かえってトラブルの原因になることもあるため、専門家のサポートを受けることが非常に大切です。

高野司法書士事務所では、相続・遺言に関する豊富な実務経験をもとに、初めての方でも安心してご相談いただける体制を整えております。横浜市青葉区を中心に、緑区・都筑区・町田市などからも多数のご相談をいただいており、公正証書遺言や自筆証書遺言の作成支援はもちろん、家庭の状況に応じた最適なご提案をいたします。

将来の不安を「いま」の行動で解消し、安心して人生を歩んでいけるよう、遺言書の作成を前向きにご検討ください。
ご相談は随時承っておりますので、どうぞお気軽にご連絡ください。

相続時精算課税制度のメリット・デメリット(2024年改正のポイント)

2025-07-21

相続対策や生前贈与を検討する際に、必ずといってよいほど耳にするのが「相続時精算課税制度」という言葉です。この制度は、60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫への贈与について、2,500万円までの贈与であれば贈与税を非課税とし、相続時に精算するという特別な税制措置です。

通常の贈与では、年間110万円を超えると贈与税が発生しますが、相続時精算課税制度を選択することで、より大きな金額を非課税で贈与できるメリットがあります。その一方で、この制度を一度選択すると、「暦年課税(年間110万円非課税)」には戻れないなどの注意点も多く、使い方を誤ると後々の相続税計算に不利になることもあります。

また、2024年の税制改正により、制度の柔軟性が増す一方で、適用判断がより難しくなったという側面もあります。この記事では、制度の基本から、2024年改正の影響、具体的な活用方法、注意点までをわかりやすく解説し、相続対策としてこの制度を取り入れるべきかどうかを考える手助けとなる情報を提供します。

1.制度の仕組みと適用対象

相続時精算課税制度は、将来の相続を見越して、生前のうちにまとまった財産を子や孫に贈与したいと考える方に向けた特例制度です。その根底にあるのは、「生前に渡した財産については、いったん贈与税を軽くしておき、最終的には相続時に精算しましょう」という考え方です。

■ 制度の基本的な仕組み

相続時精算課税制度の概要は以下のとおりです。

内容詳細
適用対象者(贈与者)60歳以上の父母または祖父母
適用対象者(受贈者)18歳以上の子または孫(贈与年の1月1日時点)
非課税限度額2,500万円(贈与総額で)
超過分の税率一律20%の贈与税が課税
精算方法贈与時に非課税枠を適用し、相続時に相続財産として合算(相続税で清算)
申告義務贈与年の翌年3月15日までに「相続時精算課税選択届出書」と申告書を税務署に提出

この制度を一度選択すると、同じ贈与者からの贈与については今後すべて相続時精算課税が適用され、暦年課税(年間110万円の非課税枠)には戻れなくなります。この「不可逆性」が制度の大きな特徴であり、慎重な判断が求められる理由のひとつです。

■ 制度を利用した贈与の具体例

例えば、70歳の父親が30歳の息子に対して、現金2,500万円を一括で贈与した場合を考えてみましょう。

  • 相続時精算課税制度を適用すれば、この贈与に対して贈与税はゼロ
  • ただし、その父が亡くなった際には、過去に贈与した2,500万円を遺産総額に合算して相続税を計算します。
  • 結果として、生前贈与を早めに行うことで、資産移転のタイミングを自由に設計できるという利点があります。

2.相続時精算課税制度の主なメリット

相続時精算課税制度は、特に資産家や生前贈与を積極的に検討している方にとって、非常に有効な制度です。この章では、制度を利用することで得られる主なメリットを詳しく解説します。

1. まとまった額の贈与が非課税で可能

相続時精算課税制度では、2,500万円までの贈与が非課税となります。通常の暦年課税制度では、年間110万円までしか非課税にならないため、短期間でまとまった財産を子や孫に移転したい場合には、大きな節税効果を期待できます。

また、この2,500万円の非課税枠は一人の受贈者につき適用されるため、複数の子どもや孫に対してそれぞれ非課税枠を活用することも可能です。

2. 将来の相続対策として活用できる

高齢になってからの相続よりも、早期に資産を移転することで、相続人の生活設計に役立てることができます。たとえば、住宅購入資金や教育資金、開業資金など、子や孫のライフイベントに応じて柔軟に資金援助が可能です。

また、早期に贈与を行うことで、将来的な財産増加(不動産価格や株価の上昇など)に伴う相続税リスクを抑える効果もあります。

3. 不動産や株式など、将来的な値上がりが予想される財産の移転に有利

特に、値上がりが見込まれる不動産や株式などを、相続時精算課税を使って評価額が低いうちに贈与しておくことで、将来の相続時に課税対象として再評価される際の影響を軽減できます。

なお、相続時の評価は「贈与時の時価」で固定されるため、贈与後に資産が値上がりしても、それが相続税額に反映されない点は大きなメリットです。

4. 贈与した財産を生前に確実に渡すことができる

相続では、すべての相続人に法定相続分の権利があるため、遺産分割協議の際に争いが生じることがあります。相続時精算課税制度を活用することで、生前に特定の相続人に財産を明確に移転できるため、後々の「争族」リスクを回避する効果が期待できます。

5. 教育資金や住宅取得資金の特例と併用できる場合がある

相続時精算課税制度は、一定の条件のもとで、教育資金の一括贈与や住宅取得資金の非課税制度と併用可能です。これにより、より大きな資金を、税負担を抑えつつ移転できる柔軟性があります。

たとえば、住宅取得等資金贈与の特例と併用し、相続時精算課税を選択することで、将来のマイホーム取得に向けた強力な支援が可能です。

3.相続時精算課税制度のデメリットと注意点

相続時精算課税制度には多くのメリットがある一方で、利用にあたっては慎重な判断が必要です。一度選択すると変更できない制度であるため、以下のデメリットや注意点を理解したうえで活用することが重要です。

1. 一度選択すると暦年課税制度に戻せない

この制度は「選択制」であり、申請によって適用を受けることができますが、一度選択すると、その後は一生にわたって暦年課税制度に戻すことはできません。

つまり、毎年110万円までの非課税枠を活用した暦年贈与による節税は、今後利用できなくなるということです。

2. 贈与税がかからなくても、相続税の負担が重くなることがある

相続時精算課税制度では、2,500万円までの贈与が非課税となりますが、贈与財産はすべて相続時に「相続財産」として合算されて課税対象となります。

そのため、制度利用によって相続財産が増加し、結果的に相続税の総額が増えるケースもあります。節税目的でこの制度を使う場合は、相続時の税負担もシミュレーションすることが欠かせません。

3. 相続税対策にならないケースもある

贈与財産が不動産や株式などで、その後の価格が下落してしまった場合でも、相続時には贈与時の評価額で課税されるため、実際の価値よりも高い課税額となってしまうおそれがあります。

つまり、贈与後に資産が値下がりした場合、「時価よりも高く評価されて税金を多く払う」という逆転現象が生じるリスクがあるのです。

4. 小規模宅地等の特例など、一部の相続税軽減措置が受けられないことも

相続税の計算では、「小規模宅地等の特例」などの軽減措置が用意されていますが、この特例は生前贈与された財産には適用されないため、相続時精算課税制度によって自宅や賃貸物件を贈与してしまうと、将来的に本来受けられたはずの特例が使えず、結果として税負担が増加する可能性があります。

不動産の贈与を検討している場合は、必ず特例の適用可否を確認しましょう。

5. 申告手続きが煩雑で、税理士のサポートが必要になることも

相続時精算課税制度を利用するには、贈与税の申告が必要です。

また、相続が発生した際には、それまでの贈与をすべて相続財産として計上し、相続税の申告書に反映させなければなりません。そのため、制度を適切に活用するには税理士など専門家の継続的なサポートがほぼ不可欠です。

4.2024年税制改正に伴う変更点と影響

2024年に実施された税制改正は、生前贈与をめぐる制度設計に大きな影響を与えました。相続時精算課税制度も例外ではなく、今回の改正をきっかけに、これまで敬遠されがちだったこの制度が、より使いやすく、選択肢として現実的な制度へと変貌を遂げつつあります。

以下では、2024年の主な改正内容とその影響について詳しく解説します。

1. 相続時精算課税制度における「年110万円の非課税枠」の創設

これまで、相続時精算課税制度を利用した贈与は、2,500万円まで非課税だが、1円でも超えると全額が課税対象となり、また暦年課税のような毎年の非課税枠(110万円)は使えないという特徴がありました。

しかし、2024年の改正により、次の点が大きく変わりました:

年110万円までの贈与については申告不要で非課税扱いに。

これにより、相続時精算課税制度を選択しても、毎年少額の贈与については非課税枠を活用できるようになったのです。

この変更は、「今すぐ多額の贈与は考えていないが、将来の相続に備えて少しずつ資産を移転しておきたい」と考える家庭にとって非常に有効です。

2. 暦年課税制度にも見直しが入った

同じ2024年改正で、暦年課税制度にも変更がありました。これまでは「相続前3年以内の贈与は相続財産に加算される」というルールでしたが、これが「7年以内」に延長されました。

これにより、長期的な贈与計画に制限がかかるようになったため、税務上の選択肢として相続時精算課税制度を検討する人が増える可能性があります。

3. 実務上の影響と対応の必要性

今回の改正によって、相続時精算課税制度は暦年課税と併用できる部分を持つ柔軟な制度へと変わりましたが、どちらが有利かは家族構成・資産内容・相続時期の見通しなどによって大きく異なります。

特に、不動産を贈与したい場合や、後に相続が発生したときの税負担まで見据える必要があるため、制度改正の内容をふまえた専門的な判断が欠かせません。

4. 改正の恩恵を最大限に受けるためには

制度改正によって可能性が広がったとはいえ、すべての人にとって有利になるとは限りません。

適切な活用のためには、以下のような対策が必要です:

  • 相続税の試算とシミュレーションを行う
  • 不動産や株式などの資産ごとに贈与方法を検討する
  • 他の相続人とのバランスにも配慮する
  • 必要に応じて、税理士や司法書士などと連携して対策を練る

特に、新たに110万円の非課税枠が設けられたことで、「少額贈与+制度の活用」という柔軟な戦略が可能になった点は、非常に重要なポイントです。

5.相続時精算課税制度の利用に向いている人・向いていない人

相続時精算課税制度は、特定の条件に当てはまる方には非常に有効ですが、すべての方にとって最適な制度とは限りません。ここでは、制度を積極的に活用すべき「向いている人」と、慎重な判断が求められる「向いていない人」の特徴について解説します。

1. 向いている人の特徴

(1)相続税が発生する可能性が高い人

将来的に相続税が課税される見込みがある家庭では、早めに資産を移転することで節税対策を講じることができます。特に、不動産や株式など、将来的に値上がりが見込まれる資産を早期に贈与することで、その評価額を抑える効果が期待できます。

(2)不動産を早めに引き継がせたい人

親が高齢となり、子どもに自宅や賃貸物件などを早めに管理・活用させたいケースでは、贈与による名義変更が必要となるため、相続時精算課税制度を使えば、2,500万円まで非課税で贈与が可能です。しかも、2024年改正で110万円の年次非課税枠も使えるようになり、より柔軟な対応が可能となりました。

(3)相続人が一人である場合

相続人が一人しかいない場合、将来的な遺産分割のトラブルが起こりにくいため、大きな財産を一括で贈与しても安心です。特に、親子間で信頼関係が厚く、「早めに財産を譲りたい」「子が家業を継ぐ予定」といったケースでは、制度の活用価値が高まります。

2. 向いていない人の特徴

(1)相続税が発生しない家庭

もともと相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)以下の財産しかない場合、無理に制度を使うと逆に手間やコストが増えてしまう恐れがあります。申告義務が毎年発生するなど、煩雑な手続きに見合った効果が得られにくいため注意が必要です。

(2)相続人が複数いて関係が複雑な場合

複数の相続人がいて、特定の人だけに生前贈与を行うと、相続時に「特別受益」としてトラブルの火種になることがあります。公平な資産配分が困難な家庭では、かえって紛争を招く恐れがあるため、慎重に判断すべきです。

(3)将来の資産状況や家族関係に不安がある人

相続時精算課税制度を選択すると、同じ贈与者からの贈与については暦年課税に戻すことができません(制度の変更不可)。将来、状況が変わって別の方法に切り替えたくてもできなくなるリスクがあります。そのため、家族関係が流動的だったり、相続財産の見通しが不透明な場合には向いていないといえるでしょう。

6.相続時精算課税制度を利用する際の具体的な流れ

相続時精算課税制度は、「贈与税の特例」として非常に強力な制度ですが、利用には所定の手続きが必要です。この章では、制度を実際に利用する際のステップを時系列に沿って解説します。

1. 贈与者・受贈者の要件確認

まず制度の利用には、贈与者が60歳以上の父母または祖父母であること、受贈者が18歳以上の子または孫であること(2023年4月以降の基準)が必要です。

2. 贈与の意思確認と贈与契約書の作成

制度を利用するためには、まず贈与を実行する必要があります。

  • 贈与財産の種類や評価額を確認
  • 贈与契約書(書面)を作成
  • 財産の移転(例:預金の振込や不動産の名義変更など)

※贈与契約書の作成は法的トラブルを防ぐうえでも重要です。

3. 相続時精算課税の届出

贈与を受けた年の翌年3月15日までに、所轄の税務署に「相続時精算課税選択届出書」を提出します。初回に限り提出が必要で、以後は提出不要です。

同時に、「贈与税の申告書」も提出する必要があります。

必要書類:

  • 相続時精算課税選択届出書
  • 贈与税の申告書
  • 贈与契約書の写し
  • 財産の評価明細書 など

※翌年以降も年間110万円を超える贈与があった場合は、贈与税の確定申告が必要となります。

※一度この制度を選択すると、撤回はできません。

4. 贈与税の納税(必要な場合)

2,500万円を超えた分の贈与については、20%の税率で贈与税を納付します。

例:3,000万円を贈与 →
3,000万円-2,500万円=500万円
→ 500万円×20%=100万円が贈与税

※納税期限は贈与を受けた翌年3月15日まで。

5. 相続発生時の手続き(精算)

贈与者が亡くなり相続が発生した時点で、「贈与財産」を含めて相続税を計算します。

  • 贈与分は「贈与時の評価額」で相続財産に加算
  • 相続税の総額を算出
  • 既に納付した贈与税額は相続税額から控除可
  • 贈与税の方が多かった場合は還付されることもある

このように、相続時精算課税制度の利用には贈与時・申告時・相続時と段階的な手続きが伴います。ミスや漏れがあると、税務署から修正を求められたり、加算税が課される可能性もあるため、専門家に相談することが非常に重要です。

7.専門家と一緒に、最適な資産承継計画を

相続時精算課税制度は、賢く使えば大きな節税効果をもたらし、また親子間の信頼関係に基づいたスムーズな資産承継を実現するための有力な手段です。しかし、その一方で「制度をよく理解せずに利用してしまったことでかえって不利になってしまった」という失敗例も少なくありません。

当事務所では、相続・贈与に精通した司法書士が、生前贈与から相続発生後までを一貫してサポートいたします。また、提携する相続税専門の税理士と連携することで、税務面も含めたトータルなご提案が可能です。

「この制度を使うべきかどうか分からない」「贈与と相続、どちらが得か判断がつかない」といったお悩みがある方は、ぜひ一度ご相談ください。横浜市青葉区を中心に、都筑区・緑区・町田市など近隣地域の皆様からも多数のご相談をいただいております。

【相続登記義務化対応】相続登記の費用相場と無料でできる対策

2025-07-19

1.相続登記の義務化とは?

これまで相続登記は「義務」ではありませんでした。つまり、親や配偶者から不動産を相続した場合でも、登記(名義変更)をせずにそのまま放置しても、法律上の罰則はありませんでした。しかし、この曖昧さが全国的な問題を引き起こすようになりました。誰が所有しているか分からない土地や建物、いわゆる「所有者不明土地」が全国に広がり、公共事業や再開発の障害となっていたのです。

このような背景から、2024年4月1日より相続登記が義務化されました。これは、不動産を相続した場合、原則として3年以内に相続登記をしなければならないという制度です。義務を怠った場合、10万円以下の過料(罰金のようなもの)が科される可能性があります。

なぜ今、相続登記が義務化されたのか?

国土交通省の調査によれば、日本の所有者不明土地は、九州本島を上回る面積にも達しており、年々増加の一途をたどっています。相続登記をしないまま世代が交代すると、相続人の数が増えすぎて、連絡が取れない人が出たり、相続関係が複雑になったりして、もはや登記自体ができなくなってしまうケースも珍しくありません。

このような事態を防ぐため、政府は相続登記を放置することができないルールへと変更しました。

義務化の対象となるのはどんな人?

相続登記の義務化の対象になるのは、次のような方です。

  • 不動産の相続人となった人(配偶者、子ども、兄弟姉妹など)
  • 遺言によって不動産を取得した人
  • 相続によって不動産を取得した法人(宗教法人、法人格のある団体など)

また、義務化の対象となるのは、相続が「2024年4月1日以降に発生したもの」だけではありません。過去に発生した相続についても、まだ登記がされていなければ義務の対象となるため、今まで放置していたケースでも対応が必要です。

3年以内というルールの起算点は?

不動産を相続または遺贈で取得したことを「知った日」が起算点となり、そこから3年以内に相続登記の申請をしなければなりません

「知った日」とは、被相続人が亡くなり、かつ自分が不動産の所有権を取得したことを具体的に知った日を指します。

遺産分割協議による場合は、遺産分割協議が成立した日から3年以内に、その協議内容に基づく相続登記を申請する必要があります

2.相続登記をしないとどうなる?放置によるリスクと罰則

相続登記が義務化された現在、「まだ登記しなくても大丈夫」と軽く考えていると、思わぬ不利益を被る可能性があります。ここでは、相続登記を怠った場合のリスクと、法的な罰則について詳しく見ていきましょう。

1. 10万円以下の過料が科される可能性

2024年4月1日以降、相続登記を怠ると「正当な理由がない限り」10万円以下の過料が科される可能性があります。

この「過料」は刑罰とは異なりますが、行政上のペナルティとして位置づけられ、裁判所を通じて支払いを命じられる場合があります。過料の対象となるのは、以下のようなケースです。

  • 相続によって不動産を取得したにもかかわらず、3年を超えて登記しなかった
  • 遺産分割協議が成立したのに、正当な理由なく登記をしなかった
  • 故意に登記を先延ばしにしたり、放置したりしていた

ただし、以下のような「やむを得ない事情」がある場合には、過料が免除される可能性もあります。

  • 相続人が多数で資料収集に時間がかかる
  • 遺言の有効性や遺産の範囲を巡って争いがある
  • 申請義務を負う相続人に重病などの事情がある

このような場合でも、事情を証明する資料の提出などが求められることがあります。

2. 相続人が増えすぎて手続きができなくなるリスク

相続登記をせずに長年放置すると、相続人が次世代、さらにその次世代へと増えていき、「数次相続」という状態になります。こうなると、遺産分割協議には何十人もの関係者の同意が必要になり、実際上協議が不可能になることもあります。

例:

  • 被相続人Aが死亡(登記せず放置)
  • その子Bも死亡 → 孫C・Dが相続人に
  • さらに孫Cが死亡 → Cの配偶者・子がさらに登場

このように、「相続人の芋づる式増加」が発生し、登記が極めて困難になります。

3. 不動産の売却や担保設定ができない

登記がされていない不動産は、法律上の所有者が確定していない状態です。そのため、登記名義が故人のままでは、その土地や建物を売却することはできません。担保にして融資を受けることもできません。

また、相続人の一部が反対したり、連絡がつかなかったりすれば、手続きが完全にストップしてしまいます。

4. 固定資産税の請求先が変わらない

登記をしていないと、不動産の名義は故人のままですが、固定資産税の請求書は相続人の代表者に届きます。つまり、実際の登記はしないまま、税金だけは支払い続けるという状態になります。

これは一見問題なさそうですが、相続人間でのトラブルの火種になりやすく、

  • 「自分は登記してないから払わない」
  • 「支払いはしているけど、自分のものとは思っていない」

などといった意見の食い違いが生じ、親族間の争い(争族)に発展することもあります。

5. 所有者不明土地とみなされる恐れ

登記がされていない状態では、周囲から見ても「誰の土地か分からない」状態になります。これが長期間続くと、行政から「所有者不明土地」と認定される可能性があり、以下のような不利益を被ることもあります。

  • 公共事業で土地収用の対象になる
  • 管理義務を怠ったとして近隣住民から損害賠償を請求される
  • 建物の老朽化・倒壊などにより行政指導が入る

3.相続登記の費用相場とは?司法書士報酬・登録免許税・実費の内訳

相続登記を進めるうえで、多くの方が気になるのが「費用はどれくらいかかるのか?」という点です。ここでは、相続登記にかかる主な費用の内訳と、それぞれの相場感について詳しく解説します。

1. 登録免許税(固定費)

登録免許税とは、相続登記を法務局に申請する際に国に納める税金です。

計算方法:

不動産の固定資産税評価額 × 0.4%

たとえば、評価額が2,000万円の土地であれば、登録免許税は 2,000万円 × 0.004 = 8万円 となります。

注意点:

  • 不動産が複数ある場合は、それぞれに対して登録免許税が発生します。
  • 小規模宅地等の評価減や相続税の基礎控除とは無関係で、「固定資産税評価額」をベースに計算されます。

2. 司法書士報酬(専門家への報酬)

相続登記はご自身で申請することも可能ですが、戸籍収集や書類作成、法務局とのやりとりなど専門的な知識が必要なため、多くの方が司法書士に依頼しています。

報酬の目安(横浜市周辺の一般的な相場):

項目費用相場(税込)
相続登記基本報酬(1件)5万〜8万円程度
不動産1件追加ごと5,000円〜1万円
戸籍等の取得代行(1通)1,000円〜2,000円
法定相続情報一覧図作成(任意)1万〜3万円

※事務所ごとに報酬基準は異なります。報酬が明朗に表示されている司法書士事務所を選ぶのが安心です。

3. 実費(戸籍・証明書の取得など)

司法書士に依頼する場合や自分で手続きする場合でも、以下のような実費は必ず発生します。

内容目安費用
戸籍謄本(1通)約450円
除籍謄本・改製原戸籍(1通)約750円
住民票・除票約300円
評価証明書(1通)約300〜400円
登記簿謄本(登記事項証明書)約500円
郵送料・交通費など数百円〜数千円

相続人が多かったり、被相続人の戸籍が転籍を繰り返していた場合、戸籍の取得枚数が10通以上になることもあり、これらの実費だけで1万円以上かかることもあります。

4. 合計費用の一例

たとえば、次のようなケースの場合を想定してみます:

  • 相続する不動産:土地1筆+建物1棟(評価額合計1,800万円)
  • 相続人:配偶者と子ども2人
  • 司法書士に依頼(法定相続情報一覧図も作成)

概算費用内訳:

費目金額(税込)
登録免許税約72,000円(1,800万円×0.004)
司法書士報酬約70,000円
法定相続情報一覧図作成約15,000円
戸籍・住民票・評価証明書等約10,000円
合計約167,000円

※これはあくまで一例です。実際の費用は不動産の数や内容、相続人の状況によって大きく変わります。

4.無料または低コストでできる相続登記対策

相続登記の義務化に伴い、「費用をかけずに済ませたい」「できるだけ自分でやってみたい」という方も増えています。この章では、無料またはコストを抑えて相続登記を進めるための現実的な対策を解説します。

1. 自分で手続きする(相続登記の本人申請)

相続登記は本人申請(セルフ申請)が可能です。司法書士など専門家に依頼せず、自分で書類を準備して法務局に申請します。

主な流れ:

  1. 戸籍類・住民票・評価証明書など必要書類を自力で収集
  2. 相続関係説明図(法定相続情報一覧図)を作成
  3. 登記申請書を作成
  4. 法務局に書類を提出

メリット:

  • 専門家報酬がかからず、実費+登録免許税のみで済む

デメリット:

  • 書類の書き方が難しい
  • 登記申請が不備で却下される可能性
  • 平日に役所や法務局へ何度も足を運ぶ手間

ある程度の法律知識と時間がある方にはおすすめですが、不慣れな方にはハードルが高く、結局は専門家に相談し直すケースもあります。

2. 「法定相続情報一覧図」を活用して各種手続きを効率化

相続登記に限らず、銀行・証券会社・保険・不動産の名義変更など、多数の機関に提出が必要な戸籍一式は、法定相続情報一覧図(無料)で代替できます。

ポイント:

  • 取得は無料(手数料0円)
  • 戸籍一式を何度もコピー・提出しなくてよくなる
  • 相続登記以外の相続手続きも効率化できる

一覧図は1度申出をすれば、複数通を同時発行してもらえます。これにより、余分な戸籍の取得費用・郵送費などを削減できます。

3. 相続登記を支援する制度を活用する(地域差あり)

一部の自治体では、相続登記義務化を見据えて「無料相談窓口」や「書類作成サポート」を提供しています。

例:

  • 登記申請書のひな型を配布
  • 法務局による無料相談会(月1回など)
  • 相続登記の助成金制度(極めて限定的)

対応の有無は地域によるため、市区町村の公式サイトや広報誌、窓口で確認するのがおすすめです。

4. 相続人間で費用を「均等負担」する工夫

費用を誰が支払うかでもめることが多いため、相続人全員で均等に負担するルールを最初に取り決めておくと、トラブル回避にもなります。

  • 「登記費用は相続人3人で3等分する」
  • 「立替分は遺産から清算する」
  • 「不動産を相続する人が登記費用を負担する」

といった取り決めを口頭ではなく、簡単な覚書にしておくと安心です。

5. 法テラス・無料相談をうまく活用する

司法書士会・法テラス・自治体が提供する無料法律相談を利用すれば、費用をかけずに初回相談ができます。

  • 司法書士会の無料相談:主に相続・登記手続きに強い
  • 弁護士会・法テラスの相談:借金問題や相続トラブルも含め対応
  • 市民相談窓口(役所):相談日や予約方法に注意

「どこに相談すればいいかわからない」という方は、まず無料相談で全体像を把握し、その後必要な範囲だけ専門家に依頼するという使い方も可能です。

5.相続登記をするために必要な書類と手続きの流れ

相続登記を正しく進めるためには、必要書類を揃え、法務局へ適切な申請を行う必要があります。この章では、相続登記に必要な書類の一覧とその取得方法、具体的な手続きの流れについてわかりやすく解説します。

1. 相続登記に必要な書類一覧

以下は、一般的な「法定相続による単純承継登記」の場合に必要な書類です。

① 被相続人に関する書類

  1. 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
    • 改製原戸籍、除籍謄本、全部事項証明書などを含めて、連続性のあるものをすべて取得する必要があります。
  2. 住民票の除票(または戸籍の附票)
    • 被相続人の最終住所を確認するために使用します。

② 相続人に関する書類

  1. 相続人全員の戸籍謄本
    • 被相続人との関係を証明するための書類です。
    • 代襲相続が発生している場合は、被代襲者の出生~死亡までの戸籍、代襲者の現在戸籍も必要になります。
  2. 相続人の住民票
    • 不動産の登記名義人となる人物の住所を記載する際に必要です。

③ 不動産に関する書類

  1. 固定資産評価証明書(課税明細書でも可)※登記申請する年度のもの
    1. 相続登記の登録免許税の算出に必要です。
    2. 不動産所在地の市区町村役場で取得します。

④ その他の書類

  1. 遺産分割協議書(協議による分割の場合)
    • 相続人全員が署名・押印(実印)し、印鑑証明書を添付します。
  2. 登記申請書
    • 法務局へ提出する書類で、所定の様式に基づき作成します。
  3. 代理人に依頼する場合は委任状

2. 手続きの流れ

実際の相続登記は以下のような流れで進みます。

ステップ1:必要書類の収集

戸籍や住民票、固定資産評価証明書など、上記の書類を漏れなく揃えます。

ステップ2:遺産分割協議の実施(協議が必要な場合)

相続人全員で不動産を誰が相続するか話し合い、「遺産分割協議書」を作成します。印鑑証明書の添付も忘れずに行います。

ステップ3:登記申請書の作成

登記内容(相続人の情報、不動産の所在など)を記載した「登記申請書」を作成します。誤字や記載漏れがあると補正や却下の原因になるため注意が必要です。

ステップ4:法務局へ申請

不動産所在地を管轄する法務局へ申請書一式を提出します。窓口申請・郵送申請のほか、司法書士を通じてオンライン申請も可能です。

ステップ5:登記完了・登記識別情報の受領

法務局での審査が完了すると、登記識別情報(権利証)が発行され、正式に登記が完了します。

相続登記は一見すると単純な作業に見えますが、戸籍の取得が難航したり、代襲相続が絡んだり、協議がまとまらなかったりするケースも多々あります

6.司法書士に依頼するメリット

司法書士に依頼することで、以下のようなサポートを受けることができます。

  1. 戸籍・住民票・評価証明書などの収集代行
    • ご自身で行うと非常に時間がかかる戸籍収集も、プロが迅速に対応。
  2. 遺産分割協議書の作成
    • 法的に有効な協議書を作成。記載ミスによるトラブルを未然に防ぎます。
  3. 登記申請書の作成と代理提出
    • 煩雑な登記書類を正確に作成し、オンラインまたは法務局に代理提出。
  4. 法定相続情報一覧図の作成・取得
    • 相続手続き全般に活用できる一覧図の取得もワンストップで対応。
  5. 税理士や弁護士との連携
    • 相続税や争いのリスクがある場合も、他士業と連携して総合対応。

「何から始めればよいかわからない」「放置してしまっている不動産がある」
そんなときは、一人で悩まずにお気軽にご相談ください。

高野司法書士事務所では、相続登記に関する初回相談を無料で承っております。
横浜市青葉区を拠点に、都筑区・緑区・町田市などの地域からも多くのご相談をいただいており、複雑な相続案件にも多数対応してきた実績があります。

登記義務化により、相続登記はもはや任意の手続きではなく、法的な責務となりました。今後の不動産管理や相続対策において不要なリスクを回避するためにも、早期の対応が求められます。この機会に、適切な手続きを確実に行うための第一歩を踏み出すことを強くおすすめいたします。

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