遺言書があっても相続登記申請を急ぐべき理由

横浜市青葉区の青葉台にある高野司法書士事務所でございます。今回は、遺言書があっても相続登記申請を急ぐべき理由についてご説明したいと思います。

相続法の改正について

突然ですが、ここでクイズです。

被相続人: 父

相続人: 長男 二男

父が残した遺言書の内容: 私の所有する自宅不動産は長男に相続させる

上記のケースで、二男はAからお金を借りていました。Aは二男の債権者です。長男が自宅不動産の相続登記をする前に、借金をしていた二男の債権者Aが法定相続分(長男2分の1、二男2分の1)で相続したとする登記を申請してしまいました。

この場合、長男は、自分が自宅不動産の所有権すべてを相続したとAに主張することができるでしょうか。

答えは「No」です。しかし、以前は相続登記をしなくても自宅不動産は自分のものだと主張することができました。

どういうことかと言うと、令和元年(2019年)7月1日の改正相続法の施行により、遺言により法定相続分より多くの財産を相続した場合、登記、登録などの対抗要件を備えないと、第三者に対抗できなくなりました。法定相続分より多くの財産を取得した相続人は、他人に権利を奪われる可能性がありますので要注意です。

下記が改正された条文になります。

(共同相続における権利の承継の対抗要件)
第899条の2 相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。
 
2 前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

改正法の趣旨

なぜ、このような改正がされたのかというとAのような遺言の内容を知らない第三者を保護するためです。Aとしては、父に相続が発生したら二男が当然、法定相続分である自宅不動産の持分2分の1を相続するだろうから、二男が借金を返済できなくても、二男の不動産持分2分の1を差し押さえて、その売却代金から回収できると考えるでしょう。遺言の存在によって、Aの期待は一方的に裏切られてしまいます。

改正前

遺言があれば、相続登記をせずしてAのような債権者(第三者)に対して自分(二男)が所有者であることを主張できました。そのため、Aとしては、二男の持分を差し押さえてもその差し押さえは無効という結果になってしまいます。

改正後

遺言があっても、相続登記をしなければAのような債権者(第三者)に対して、自分(二男)の法定相続分を超える部分については、自分がその不動産の所有者であることを主張することができません。そのため、Aが先に二男の持分を差し押さえて売却換価することができます。

相続人の間では、改正前でも改正後でも登記なくして対抗することが可能です。すなわち、長男は二男に対して、自分が自宅不動産すべてを相続したと主張することが可能です。

対策は?

長男として対策方法はあるでしょうか。法定相続分を超えた部分につき、先に登記をした方が勝ちということになりますので、速やかに相続登記をすることが何より重要です。また、自筆証書遺言は、相続発生後に家庭裁判所での検認という手続きが必要になり、検認後相続登記の申請までに一定の時間がかかってしまいます。生前から遺言書作成などに関われるのであれば、検認の手続きが不要な公正証書遺言で作成してもらうことも検討すべきかと思います。

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