行方不明の相続人の探し方

相続が発生した際、遺産をどのように分けるかという問題は、残されたご家族にとって重要な課題となります。しかし、親族関係が複雑であったり、長年音信不通であったりする相続人、あるいは行方不明の相続人がいるケースでは、遺産分割協議の進行が困難となり、手続きが滞ってしまうことが少なくありません。

有効な遺産分割協議を成立させるためには、原則として相続人全員の同意が必須です。たとえ行方不明の相続人がいたとしても、その人を除外して他の相続人だけで協議を進め、遺産分割協議書を作成したとしても、その協議は無効となってしまいます。

本記事では、行方不明の相続人がいる場合に、どのように所在を探し、相続手続き、特に不在者財産管理人の選任や登記、そして生前の遺言書作成といった対策を通じて、この難局を乗り越えるかについて、専門的な観点から詳しく解説します。

1.相続人の所在を特定するための初期対応

相続手続きを進める上で、行方不明となっている相続人(以下「行方不明者」)の生死が確認されていない限り、その者は相続の権利を有しています。そのため、まずは行方不明者の所在を特定し、接触を試みることが最初のステップとなります。

1. 戸籍の附票を用いた住所調査

行方不明者の現在の住所を特定するためには、「戸籍の附票(こせきのふひょう)」を確認する方法が一般的です。

戸籍の附票は、本籍地の市区町村役場で管理されており、その戸籍が作成されてから現在に至るまでの住民票の異動の履歴が記録されています。他の法定相続人(配偶者や直系血族など)であれば、この戸籍の附票を請求し、現在の住所を確認できる可能性があります。

2. 住所判明後の連絡と交渉の試み

住所が判明した後は、判明した住所宛に連絡文書を送付し、相続が発生した旨や遺産分割協議が必要であることを丁寧に伝えましょう。

この際、相手の気分を害さないよう、言葉遣いを丁重にし、相続関係を示した「相続関係説明図」を同封するなど、状況を理解しやすいように配慮することが重要です。いきなり遺産分割協議書への捺印を求めたり、相続財産の詳細を手紙に書いたりすることは、トラブルの原因となる危険性があるため避けるべきです。

手紙を送付しても「転居先不明」で返送された場合や、連絡を無視される状況が続く場合には、次のステップとして家庭裁判所での法的な手続きを検討する必要があります。

2.法的手続き:不在者財産管理人選任と失踪宣告

所在調査を行っても行方不明者と連絡が取れない場合や、生死が不明な状態にある場合は、家庭裁判所での手続きを通じて相続手続きを進めることになります。行方不明となっている期間によって、取るべき手続きが異なります。

1. 不在者財産管理人の選任(行方不明期間が7年未満の場合)

行方不明者が生死不明となってから7年未満の場合(または、生存を前提として財産管理が必要な場合)には、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てます。

不在者財産管理人とは、従来の住所を去り、容易に戻る見込みのない者(不在者)の財産を管理・保存するために選任される人です。他の相続人は「利害関係人」として選任申立てを行うことができます。

選任された不在者財産管理人が、不在者に代わって遺産分割協議に参加するためには、家庭裁判所の許可(権限外行為の許可)を得ることが必須です。この制度は不在者の利益を保護するためのものであるため、遺産分割協議の内容が、不在者の法定相続分を下回るような案である場合、裁判所から許可が下りない可能性が高い点に注意が必要です。そのため、不在者が法定相続分以上の財産を取得する形で協議がまとまるのが一般的です。

不在者財産管理人の選任手続きには、申立てから数か月(約3か月~)の期間を要し、不在者の財産を管理するための予納金(管理費用)を納付しなければならない場合もあります。

2. 失踪宣告の申立て(行方不明期間が7年以上の場合)

行方不明者の生死が7年間以上明らかでない場合(普通失踪)、または特定の危難(災害や遭難など)が去ってから1年間生死不明の場合(特別失踪)は、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることができます。

失踪宣告が認められると、その行方不明者は法律上死亡したものとみなされます。これにより、その者を除いた相続人だけで遺産分割協議を進めることが可能になります。ただし、失踪者が被相続人の死亡前に死亡したとみなされた場合、失踪者に子がいれば、その子が代襲相続人として協議に参加することになります。

失踪宣告の手続きには、調査や官報公告などが必要で、審判が確定するまでに通常1年以上の期間がかかることが多く、相続税の申告期限(10ヶ月以内)に間に合わない可能性があるため、緊急で手続きを進めたい場合は、不在者財産管理人の選任がより現実的な選択肢となることが多いです。

3.不動産の登記手続きにおける注意点

相続財産に不動産が含まれる場合、遺産分割協議が成立しなければ、特定の相続人が単独で所有権を得る相続登記(名義変更)を行うことは原則としてできません。

1. 遺産分割協議後の登記申請

行方不明者がいる状況で登記を行うためには、以下の方法で有効な遺産分割協議を成立させる必要があります。

1. 不在者財産管理人が家庭裁判所の許可を得て遺産分割協議に参加し、協議が成立した後、その結果に基づき登記を申請する。

2. 失踪宣告により行方不明者が死亡したものとみなされた後、残りの相続人または代襲相続人等で協議を行い、その結果に基づき登記を申請する。

2. 遺産分割協議なしで登記が可能なケース

遺産分割協議を行わずとも登記申請ができるケースが二つあります。

1. 法定相続分どおりに登記する場合: 行方不明者も含めた法定相続人全員の共有名義として、法定相続分どおりに登記を行うことは可能です。この登記は、共有物の保存行為とみなされるため、他の相続人のうち誰か一人が代表して申請することができます。 しかし、この方法で登記をしたとしても、不動産を売却するなど処分行為を行う際には、行方不明者を含む共有者全員の同意が必要となるため、問題の根本的な解決にはなりません。

2. 遺言書がある場合: 生前に作成された遺言書で不動産の取得者が指定されている場合、遺産分割協議を経る必要がないため、行方不明者がいる状況でも、遺言書に基づき指定された取得者が単独で相続登記を申請することができます。

4.生前対策:遺言書によるトラブルの回避

将来の相続において、行方不明となる可能性のある相続人(疎遠な親族など)がいる場合、被相続人が生前に遺言書を作成しておくことが、残された相続人の手続き負担を大幅に軽減する最も確実な対策です。

1. 遺言書の法的効果

遺言書を作成し、財産の分配方法を明確に定めておけば、相続発生後、行方不明者がいても不在者財産管理人の選任や失踪宣告といった複雑な裁判所の手続きを基本的に回避できます。遺言書の内容に従って、不動産の登記を含め、相続手続きを迅速に進めることが可能になります。

2. 遺言執行者の指定

遺言書の中で「遺言執行者」を指定しておくことで、手続きはさらに円滑になります。遺言執行者は、遺言書の内容を実現するために必要な手続きを行う権限を持ち、行方不明の相続人がいたとしても、遺言書に従って不動産の登記などの手続きを進められます。遺言執行者は、不正を疑われるリスクを避けるため、親族以外の弁護士や司法書士などの専門家を指定することが推奨されます。

5.円滑な相続手続きのために専門家にご相談を

行方不明者の所在調査から始まり、不在者財産管理人の選任、失踪宣告の申立てといった裁判所での手続きは、法的な知識を必要とし、複雑で時間を要します。特に不動産の登記が関係する場合は、法的な選択肢を誤ると将来的なトラブルの原因となりかねません。

相続人が行方不明という特殊な状況下では、迅速かつ正確な手続きが必要です。どの法的手段を選択すべきか、また具体的な手続きをどのように進めるべきかお悩みの場合は、専門家である弁護士や司法書士にご相談いただくことで、お客様の状況に応じた最善の解決策を導き出し、相続問題を解決へと導くことが可能です。

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