預貯金が少額の場合の相続手続き

「亡くなった親の通帳を見たら、残高が数万円しかなかった。こんな少額の預貯金でも、わざわざ相続手続きをしないといけないの?」——これは相続の現場でよく寄せられる質問の一つです。

確かに、相続財産が数百万円、あるいは数千万円単位であれば、司法書士や税理士など専門家に依頼してでも手続きを進めるのが一般的です。しかし、たとえ残高が数万円、十万円台だったとしても、預貯金は亡くなった時点で「相続財産」となり、金融機関の口座は原則として凍結されます。そのため、残高が少額でも「法律的には」相続手続きが必要になります。「少額だから手続きしなくてよい」という考えは、必ずしも正解とは限りません。

この記事では、特に銀行・ゆうちょ銀行など金融機関ごとに手続きの違いや相続放棄、手続きを放っておいた場合のリスクまで分かりやすく解説します。

1.銀行やゆうちょ銀行で預貯金の「簡易な相続手続き」が利用できる場合とは?

銀行やゆうちょ銀行の預貯金を相続する際、手続きを進める中で「少額の場合は簡易な手続きで済む」と耳にする方も多いでしょう。本記事では、「簡易な相続手続き」が認められるケースや手続きの流れ、その際の注意点について詳しく解説します。

1. 「簡易な相続手続き」ってどんな制度?

通常、預貯金の相続では次のようなフルセットの書類や手続きを求められます。

  • 被相続人(故人)の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 遺産分割協議書 など

しかし、預金残高自体が少額な場合や、遺産分割のトラブルが考えにくい場合などは、金融機関ごとに「簡易な相続手続き」や「少額預貯金払戻の特例」を設けており、必要書類や手順が大きく簡素化されることがあります。

2. 具体的に「簡易手続き」が適用される条件は?

ゆうちょ銀行の場合

  • 口座残高が100万円以下であることが明確な条件となっています。
  • 相続人のうち誰か一人が代表して、比較的少ない書類と手続きで払戻しが受けられます。

都市銀行や地方銀行の場合

  • 銀行ごとに上限額(たとえば30万円、50万円、100万円など)が決められている例が多いです。
  • 銀行ごとの内規や支店の判断による部分もあるため、事前の電話確認が必須です。

共通条件

  • 「簡易」とはいえ相続人全員の同意(署名又は同意書)が求められる場合が多いので、事前に揉めごとがないよう注意が必要です。
  • その金融機関に特別な「同意書」や「代表相続人選任届」など、専用の書式がある場合もあります。

3. 実際の「簡易手続き」の流れ

① 死亡の連絡・凍結

被相続人が亡くなった後、銀行やゆうちょ銀行に死亡を連絡すると口座が凍結されます。

② 必要書類の準備

  • 代表相続人の本人確認書類(運転免許証等)
  • 被相続人の死亡がわかる戸籍謄本や除籍謄本
  • 代表相続人の印鑑証明書
  • 「払戻依頼書」や「代表相続人選任届」など、金融機関指定の書類

※ 他の相続人の署名や同意、またはその写しを求められることがありますが、通常の相続に比べて必要書類は少なく済みます。

③ 払戻し・解約手続き

必要書類を提出し、金融機関の確認が終わると(書類に不備がなければ)口座が解約され、預貯金が払戻しされます。

4. 仮払い制度と複雑な場合の対応

少額とはいえ相続人間で争いが予見される場合や、他の財産と合わせて遺産分割協議が難航している場合は、たとえ少額でも簡易手続きを利用できないこともあります。

また、2019年民法改正で誕生した預貯金の仮払い制度を利用すれば、遺産分割前でも一定額(「残高の1/3×法定相続分」、かつ金融機関ごとに150万円まで)を仮で払い戻すことができます。相続人の生活維持や葬儀費用など「早急にお金が必要」な場合には非常に有効です。

5. 注意点とトラブル防止

  • 「簡易手続き」であっても、払戻金を後から相続人間で均等配分したり、合意の証拠(同意書など)を残しておくと安心です。
  • 相続放棄を検討している相続人が払戻しに関わると「単純承認」とみなされ放棄できなくなる場合があるので注意しましょう。
  • 金融機関と十分なコミュニケーションを取り、条件や必要書類が自分のケースにどう当てはまるか、必ず事前確認を。銀行ホームページや窓口で詳細なフロー説明が受けられます。

銀行やゆうちょ銀行の預貯金が少額の場合、「簡易な相続手続き」が活用できれば、本来の煩雑な相続手続きと比べてかなり手間と時間を省略できます。特にゆうちょ銀行なら「100万円以下」、他行も独自上限額が設定されているケースが多いので、手続き前に電話や窓口で「少額預貯金の簡便な相続手続きは利用できますか?」と尋ねるのがベストです。

2.相続放棄を検討すべきケースと注意点

預貯金の金額が少額であっても、故人に借金や保証債務がある可能性がある場合は注意が必要です。特に、公共料金や税金の滞納、クレジットカードの残債、連帯保証など、被相続人の生活状況によっては、相続によってマイナスの財産を引き継いでしまうおそれがあります。

このような場合には、「相続放棄」を選択することで、借金などの負担から免れることができます。相続放棄は、被相続人が亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申述する必要があります。期限を過ぎてしまうと、原則として放棄が認められなくなるため、早めの判断が重要です。

ただし、口座から預金を引き出したりする行為は“単純承認”とみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。相続放棄を検討している場合は、一切の相続財産に手を付けず、速やかに専門家へ相談するようにしましょう。

3.預貯金の相続手続きを放置した場合のリスク・デメリット

預貯金の相続手続きを放置すると、表面上は特に罰則がないように感じがちですが、実際にはリスクやデメリットが存在します。

まず、銀行やゆうちょ銀行の預貯金も「債権」として扱われるため、相続人が払い戻しを請求せずに放置すると、権利が時効によって消滅する危険性があります。民法上、通常は「権利を行使できると知った時から5年」、あるいは「権利を行使できる時から10年」放置すると、預金の払い戻し請求権が消滅時効にかかることになります。特に会社の預金、信用金庫の預金などでは10年とされることもありますが、商法の適用で一般的な銀行預金は5年で時効となることが多いです

この時効を超えると、法的には銀行が払い戻しを拒否できる状態になるため、せっかくの預貯金が「なかったもの」となってしまうリスクが出てきます。実務上は、10年を超えても手続きを進めれば支払いに応じてくれる場合もありますが、銀行の判断で断られた場合、異議を唱えることができなくなる恐れがあります

また、近年は「休眠預金等活用法」の施行により、10年以上取引がないまま放置された口座は、残高が国(預金保険機構)に移され、払い戻し手続きが非常に煩雑になります。いざ必要になった時に払い戻しができない、または手続自体が大きな負担になる可能性があります。

さらに、預貯金以外にも相続登記(不動産名義変更)や株式の名義書換を怠ることで、不動産の権利関係が複雑になったり、株式の所有権を失う、相続人が増え続けて分割協議が困難になるなど将来的な遺産トラブルの温床にもなります

実際、「今は困っていないから」「残高が少ないから」と先延ばしにしてしまったことで、いざ必要な時に複雑な調査や多数の書類が求められて解決に膨大な労力がかかったり、ようやく調停や訴訟でしか解決できない状態に陥ることも珍しくありません

4.相続手続きにお困りの方へ

少額の預貯金でも「面倒」「後回し」はNGです。高野司法書士事務所では、銀行・ゆうちょ銀行・仮払い制度・簡易手続き・相続放棄に関するすべてのご相談を無料で受付しています。東急田園都市線青葉台駅から徒歩6分とアクセスも良好です。

「相続手続きは何から始めてよいか分からない」「永く放置してしまった」「遠方からでも簡単に済ませたい」とお悩みの方は、お気軽にお問い合わせください。司法書士が親身にサポートし、安心かつスピーディな対応をお約束します。

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