高齢化社会が進む現代において、ご自身の老後の生活や財産の管理について不安を感じる方は少なくありません。特に、加齢や病気、事故などにより、認知症などで判断能力が低下する可能性や、身体的な不自由により財産管理が困難になる状況への関心が高まっています。
もし判断能力が不十分になった場合には成年後見制度の利用が考えられますが、判断能力はあっても、病気や怪我、あるいは高齢による身体の不調から、金融機関での手続きや公共料金の支払い、介護サービスの手配などが難しくなることがあります。
このような状況で、ご自身の財産や生活に関する事務手続きを、信頼できる人に託すための仕組みが財産管理委任契約です。この契約は、将来の生活の安心を確保するための重要な選択肢の一つです。
このページの目次
1.財産管理委任契約の基礎知識
財産管理委任契約とは
財産管理委任契約(任意代理契約とも呼ばれます)は、ご自身の財産の管理や療養看護に関する事務について、代理権を与える人(受任者)を選び、具体的な管理内容を決めて委任する契約です。これは民法上の委任契約に基づいています。
この契約の大きな特徴は、委任者本人の判断能力があることを前提としている点です。判断能力の低下を前提とする成年後見制度とは異なり、判断能力に問題がなければ誰でも利用でき、契約締結後すぐに効力が発生します。
委任できる内容
財産管理委任契約で委任できる内容は、大きく「財産管理」と「療養看護」の二つに分けられます。委任する内容は、公序良俗の範囲内で当事者間で自由に定めることが可能です。
【財産管理の例】
- 銀行などの金融機関での預貯金の引き出しや振り込み手続き、口座の管理。
- 定期的な収入(年金など)の受け取り、公共料金や賃貸料金、税金などの支払い代行。
- 不動産売買取引の代行(ただし、実際の手続きでは本人確認が優先される点に注意が必要です)。
【療養看護の例】
- 医療機関や介護施設への入所手続き、要介護認定の申請代行。
- 医療費や福祉サービス利用料の支払い代行。
2.あなたの財産を守るための契約のやり方と注意点
財産管理委任契約は、ご自身の生活や財産を任せる非常に重要な契約です。そのやり方や注意点について理解し、慎重に進める必要があります。
信頼できる受任者の選定と契約の「やり方」
契約を始めるには、まず受任者を選定します。多くの場合、親子や兄弟姉妹などのご家族が受任者となりますが、信頼できる専門家(司法書士や弁護士など)に依頼することも可能です。
受任者が決まったら、委任する内容について当事者間で十分に話し合い、財産管理委任契約書を作成します。契約書には、委任者と受任者の氏名・住所、契約目的、委任する財産の具体的な内容、管理方法、報酬の有無などを明確に記載します。
公正証書の活用による信頼性の確保
財産管理委任契約は、当事者間の合意があれば成立し、必ずしも公正証書で作成する必要はありません。しかし、後日のトラブルを避けるために公正証書で作成することが強く推奨されます。
公正証書にすることで、契約内容の存在と有効性が公的に証明され、紛失や改ざんのリスクを防げます。特に銀行での手続きにおいて、公正証書は高い信頼性を発揮し、手続きがスムーズに進む可能性が高まります。
契約上の注意点
1. 金融機関(銀行)の対応の確認: 財産管理委任契約の社会的な認知度がまだ十分でないため、銀行によっては、契約書があっても窓口での預金引き出しなどの代理手続きを認めていない場合があります。契約締結前に、取引のある銀行に代理手続きが可能か確認することが必須です。
2. 監督機関の不在と不正のリスク: この契約は民間契約であるため、任意後見制度のような公的な監督機関が存在しません。そのため、受任者による財産の使い込みや横領のリスクが伴います。このリスクを軽減するために、親子間で契約する場合でも、契約の履行状況を定期的にチェックする第三者の監督人を設けるなど、不正防止策を講じることが重要です。
3. 取消権がない: 法定後見制度と異なり、受任者には取消権がありません。委任者本人が詐欺的な契約を締結してしまった場合でも、受任者がそれを一方的に取り消すことはできないため、注意が必要です。
3.認知症対策としての任意後見契約との連携
財産管理委任契約は本人の判断能力があることが前提であるため、認知症が進行し判断能力が低下した時点で、原則として効力を失います。
将来、認知症などで判断能力が低下した場合に備えて、財産管理委任契約と任意後見契約を同時に締結する「移行型」の利用が一般的です。
このやり方では、元気なうちは財産管理委任契約でサポートを受け、認知症により判断能力が低下した時点で、任意後見契約に移行します。任意後見契約が発効すると、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任され、任意後見人の職務を監督するため、財産管理の安全性が高まります。
任意後見契約は公正証書による作成が法律で義務付けられています。
4.財産管理委任契約にかかる「費用」
財産管理委任契約の「費用」は、受任者を誰にするかによって大きく異なります。
受任者が親子などご家族である場合、通常、報酬は発生しません。
一方で、専門家(司法書士、弁護士など)に受任者となってもらう場合や、契約書作成のサポートを依頼する場合には、費用が必要です。
【専門家に依頼した場合の費用の目安(一般的な相場)】
- 相談料: 1回あたり5,000円程度。
- 契約書作成費: 8万円程度。
- 月額報酬(財産管理業務): 1万〜5万円程度(管理する財産や業務内容により変動)。
【公正証書作成にかかる費用】
契約を公正証書で作成する場合、公証役場に支払う実費として1万5,000円〜2万円程度、また専門家に手続きを依頼する場合は別途報酬が加算されます。
5.ご不明点はご相談ください
財産管理委任契約は利便性が高い一方で、使い方を誤ると大きな損害を生むリスクも指摘されています。特に、受任者による不正防止のために、委任する範囲の検討や、第三者の監督人を置くなどの工夫が重要です。
ご自身の状況に合わせた最適な生前対策を講じ、費用対効果や将来のリスク対応を万全にするためには、専門的な知識が不可欠です。司法書士、弁護士、行政書士といった法律の専門家は、契約内容が適切であるかどうかの助言、契約書の作成サポート、さらには任意後見契約との連携 など、幅広いサポートを提供できます。ご自身の財産と老後の安心を守るため、まずは専門家にご相談いただき、万全の備えを整えることを強くおすすめします。

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