認知症が銀行にバレるタイミングと防止策

日本は世界でも有数の長寿国であり、2025年には高齢者の5人に1人が認知症を患うと推計されています。超高齢社会において、「認知症とお金の管理」は避けて通れない大きな課題となっています。

特に、銀行口座の管理は生活の基盤そのものであり、年金の受け取りや生活費の出金、公共料金の支払いなど、日々の生活に直結しています。しかし、本人に認知症の症状が見られるようになると、銀行が「判断能力に問題があるのではないか」と判断し、取引を制限するケースが増えています。

これは一見すると厳しい対応のように思えますが、背景には「高齢者を詐欺から守る」「本人の意思に基づかない不正な取引を防ぐ」という目的があります。その一方で、家族にとっては「生活費が引き出せない」「急な入院費を支払えない」といった深刻なトラブルに直結する可能性があります。

この記事では、認知症が銀行に「バレる」具体的なタイミングと、それを未然に防ぐための方法について詳しく解説していきます。特に、法的に有効な対策(任意代理契約・家族信託・後見制度など)を中心に、一般の方にも分かりやすく整理しています。

1.銀行が認知症に敏感な理由

銀行が認知症に対して厳しく対応するのには、いくつかの理由があります。それは単なる事務的な規制ではなく、金融機関としての社会的責任や法的な義務に基づいたものです。

1. 高齢者の金融被害を防ぐため

近年、高齢者を狙った振り込め詐欺や特殊詐欺の被害が急増しています。警察庁の統計でも、被害者の多くは高齢者層に集中しており、中には認知症の方が詐欺のターゲットにされるケースも少なくありません。
銀行員が窓口で「おかしい」と感じ取って声をかけることで、被害を未然に防いだ事例も数多く報告されています。

そのため、銀行は「少しでも判断能力に不安がある」と感じた顧客に対しては、慎重な確認を行うよう徹底しています。

2. 本人の財産を守るため

認知症が進行すると、本人が不利な契約を結んでしまったり、意図しない取引をしてしまうリスクが高まります。例えば、高額な定期預金の解約や、不要な投資商品の購入などです。
銀行が対応を誤れば、「本人の財産を守らなかった」と責任を問われる可能性もあるため、本人の意思を確認できない場合には取引を止めることがあります。

3. 金融機関としてのコンプライアンス(法令遵守)

銀行は金融商品取引法や消費者保護法の観点から、顧客に適切な対応を行う義務があります。特に、判断能力が低下した顧客と結んだ契約は無効となる可能性があり、後に法的トラブルへ発展することがあります。
こうしたリスクを避けるため、銀行は「疑わしき場合は対応を保留する」ことを原則としています。

4. 行内マニュアルの徹底

大手銀行をはじめ、多くの金融機関には「認知症が疑われる場合の対応マニュアル」が存在します。
たとえば以下のような対応が一般的です:

  • 高額出金の際は必ず複数の行員で確認
  • 同じ質問を繰り返す顧客については支店長に報告
  • 本人確認が取れない場合は家族や後見人に連絡

このように、組織全体として「認知症リスク」を管理しているのです。

銀行が認知症に敏感なのは、「本人を守るため」かつ「金融機関としての責任」という二重の理由からです。
ただし、こうした仕組みがかえって家族にとって「口座が使えない」という不便につながることもあるため、事前の対策が重要になります。

2.銀行に認知症がバレるタイミング

認知症の症状が進むと、日常生活だけでなく金融取引の場面でも「違和感」として現れることがあります。銀行においては、わずかな変化からでも認知症が疑われ、しかるべき対応が取られることがあります。では、具体的にどのような場面で「銀行に認知症がバレる」のでしょうか。

1. 窓口での会話や応対から疑われるケース

銀行員は日常的に多くの顧客と接しているため、わずかな変化にも敏感です。

  • 同じ質問を何度も繰り返す
  • 取引内容を理解できない様子が見られる
  • 必要な書類を何度も忘れる

こうした行動が重なると、「認知症の可能性がある」と判断され、行内に記録が残ることがあります。

2. 高額な出金や振込を希望したとき

特殊詐欺防止の観点から、銀行は高額取引に特に慎重です。

  • これまでの取引と明らかに異なる大きな金額を引き出そうとする
  • 説明があいまいなまま高額振込を依頼する

こうした場面では、銀行員が「本当に本人の意思か?」を確認しようと質問します。そこで不自然な受け答えをすると、認知症を疑われることになります。

3. 書類や署名の不備

契約書や払戻請求書などの記入において、次のようなケースは要注意です。

  • 字が大きく乱れている
  • 署名が以前と異なる
  • 記載内容を理解していない様子

銀行は「判断能力に疑義がある」と判断すると、取引を中止することがあります。

4. 家族や第三者からの情報提供

場合によっては、家族や介護施設から銀行に「本人は認知症の症状がある」と連絡が入ることもあります。また、地域包括支援センターやケアマネジャーから情報提供が行われることもあり、その後の取引が制限されるきっかけとなります。

銀行に認知症が「バレる」きっかけは、日常の窓口応対・高額取引・書類の不備・第三者からの情報といった身近な場面に潜んでいます。これらの兆候を銀行が確認すると、本人や家族にとって予期せぬ口座制限や手続き遅延につながる可能性があります。

3.認知症が銀行にバレるとどうなるか?

銀行に「認知症の疑いがある」と判断されると、その後の取引に大きな影響が出ることがあります。金融機関としては、本人を守る責任があるため、場合によっては厳しい制限がかかることもあります。ここでは、実際に起こり得る対応を整理します。

1. 口座の利用制限・凍結

認知症が疑われた場合、銀行は取引を一時停止したり、一定の手続を保留したりすることがあります。特に以下のようなケースでは「口座凍結」と同様の扱いになる可能性があります。

  • 高額出金を希望した場合
  • 定期預金の解約や投資商品の解約を申し出た場合
  • 署名や本人確認が不十分と判断された場合

これにより、生活費や医療費をすぐに引き出せない状況になることもあります。

2. 家族や代理人の確認を求められる

銀行員が認知症の疑いを感じると、家族に連絡が入ることがあります。場合によっては「代理人を立ててください」「成年後見人が必要です」と案内されることもあります。

つまり、家族や専門家の関与が必須になる段階に入るということです。

3. 成年後見制度の利用を求められる

特に財産管理や契約行為に関する取引では、「後見人がいなければ対応できない」と銀行が判断することがあります。この場合、家庭裁判所に成年後見制度の申立てを行い、後見人を選任してもらう必要があります。

成年後見制度は本人の財産を守るために有効ですが、手続きが複雑で時間もかかるため、突然必要になると家族が大きな負担を抱えることになります。

4. その他の影響

  • 金融機関内部で「要注意顧客」として情報共有されることがある
  • 他の金融機関や証券会社でも取引が制限される可能性がある
  • 新しい契約(不動産の売買や信託契約など)が進められなくなる

認知症が銀行にバレると、生活資金の引き出しや契約行為がスムーズにできなくなるリスクがあります。本人を守るための制度である一方、家族にとっては突然の制限に戸惑うケースが多く見られます。だからこそ、事前の備えが欠かせません。

4.認知症による銀行トラブルを防ぐ方法

認知症が銀行にバレてから対応しようとすると、すでに口座が利用制限されていたり、成年後見制度を申し立てる必要が生じたりと、大きな負担になります。そこで重要なのは、「元気なうちから備えておくこと」 です。ここでは実際に有効とされる主な方法を紹介します。

1. 家族信託の活用

近年注目されているのが「家族信託」です。財産を信頼できる家族に託すことで、認知症になっても預金や不動産の管理を続けられます。

  • 銀行口座の凍結を防げる
  • 遺産承継の仕組みも同時に整えられる
  • 柔軟に運用できる

ただし契約書の内容によっては使いづらくなることもあるため、専門家による設計が重要です。

2. 任意後見契約を結んでおく

「将来の備え」として有効なのが任意後見契約です。

  • 本人が元気なうちに「任意後見人」を選任しておく
  • 判断能力が低下したときに契約が発効し、後見人が財産管理を行う

銀行取引だけでなく、不動産契約や介護契約にも対応できる点がメリットです。

3. 成年後見制度を利用する

すでに認知症が進んでいる場合は、家庭裁判所に申し立てを行い、成年後見人を選任してもらう方法が現実的です。

  • 法律に基づいて後見人が代理するため、銀行も安心して手続きに応じる
  • 裁判所が監督するため、財産の不正利用リスクが低い

ただし、手続きが煩雑で費用もかかり、制度の柔軟性は低いです。

4. 早めの財産・デジタル資産の整理

銀行トラブルを避けるには、日常的な準備も欠かせません。

  • 不要な口座は解約して集約しておく
  • 通帳や印鑑を一か所にまとめておく
  • ネット銀行や証券口座のパスワードを整理しておく
  • 定期的に家族に資産状況を共有しておく

これらを行っておくことで、認知症になったときの混乱を大幅に減らせます。

銀行に認知症がバレてから対応するのではなく、早めの契約・制度利用・資産整理が最大の防止策です。特に「家族信託」や「任意後見契約」は将来を見据えた柔軟な対策として有効です。

5.トラブルになる前に早めのご相談を

認知症が銀行に「バレる」タイミングは、日常の窓口での会話や高額出金の申し出、書類の不備、さらには家族や第三者からの情報提供など、思いのほか身近な場面に潜んでいます。銀行が厳しく対応する背景には、顧客の財産を守るという正当な理由がありますが、実際には生活資金が引き出せなくなる、相続や契約手続きが滞るといった家族への大きな負担につながるケースも少なくありません。

こうしたトラブルを未然に防ぐためには、家族信託、任意後見契約といった法的手段を活用し、元気なうちから準備を整えておくことが不可欠です。また、口座の集約やデジタル資産の整理といった日常的な対策も欠かせません。

認知症と銀行口座の問題は、決して他人事ではありません。ご自身やご家族の将来を見据えて、今からできる備えを始めてみませんか。

高野司法書士事務所では、横浜市青葉区を中心に、緑区・都筑区・町田市など近隣地域の皆さまから、相続や家族信託、後見制度に関するご相談を数多くいただいております。認知症による銀行トラブルを防ぎたい方、早めに安心できる仕組みを整えたい方は、ぜひ一度ご相談ください。お一人おひとりの状況に合わせた最適な対策をご提案いたします。

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