相続放棄は、被相続人(亡くなった方)の負債を含めた財産を一切引き継がないための重要な手続きです。この相続放棄が家庭裁判所に受理されたことを公的に証明する書類が、「相続放棄申述受理証明書」です。
本記事では、この証明書が必要となる具体的なケースや、申請書の入手方法、書き方、本人以外による取得手順、再発行の方法など、証明書を取得するための詳細な手順を解説します。
このページの目次
1.相続放棄申述受理証明書とは?通知書との違い
相続放棄申述受理証明書は、相続放棄の申述が家庭裁判所に認められた事実を公的に証明するための書類です。この書類は、相続放棄の事実を第三者(債権者や他の相続人など)に示し、自己が相続人ではないことを対外的に明らかにするために利用されます。
相続放棄が受理されると、家庭裁判所から自動的に「相続放棄申述受理通知書」が申述人(相続放棄をした本人)に送付されますが、この通知書と証明書には以下のような違いがあります。
比較項目 | 相続放棄申述受理証明書 | 相続放棄申述受理通知書 |
書類の目的 | 公的な証明(第三者への提示) | 受理の通知(申述人へのお知らせ) |
交付方法 | 家庭裁判所への申請が必要 | 受理後に自動的に郵送される |
取得できる人 | 申述人本人 および 利害関係人 | 申述人本人のみ |
取得費用 | 1通につき150円(収入印紙) | 無料 |
再発行の可否 | 再発行が可能 | 再発行は不可 |
相続登記などの手続きにおいて、以前は証明書が必要でしたが、現在では証明書と同等の内容が記載されている通知書も使用が認められる場合があります。しかし、提出先によっては証明書を要求される場合もあるため、事前にどちらの書類が必要かを確認することが推奨されます。
2.相続放棄申述受理証明書が必要となる主な場面
相続放棄申述受理証明書は、主に以下のような状況で必要とされます。
1. 債権者からの請求に対応するとき
被相続人(亡くなった方)が多額の負債を抱えていた場合、相続放棄をした事実が債権者に自動的に知らされるわけではありません。そのため、債権者から借金の支払い請求がなされることがあり、その際に自身が相続人ではないことを証明するために証明書が必要となります。多くの場合、通知書のコピーで対応できますが、債権者によっては証明書の提出を求められることがあります。
2. 不動産の相続登記を行うとき
被相続人が所有していた不動産の名義を変更する際、他の相続人の中に相続放棄をした人がいる場合、その放棄を証明するために証明書を法務局に提出する必要があります。
3. 金融機関での手続き(預貯金の解約など)
被相続人の預貯金口座の解約や名義変更の手続きを金融機関で行う際、相続放棄をした相続人がいる場合、金融機関から証明書の提出を求められることがあります。金融機関によって必要書類が異なるため、事前の確認が重要です。
4. 相続放棄申述受理通知書を紛失した場合
通知書は再発行ができないため、紛失してしまった場合や原本を複数枚提出する必要がある場合、それに代わる公的書類として証明書を取得することになります。
3.証明書の申請方法と書き方
証明書を取得するためには、相続放棄の申述が受理された家庭裁判所(被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所)に交付申請を行います。申請は、裁判所の窓口に直接提出する方法と、郵送で行う方法があります。
1. 申請書とダウンロード
交付申請には「相続放棄申述受理証明申請書」が必要です。 この申請書は、通常、相続放棄申述受理通知書に同封されています。もし紛失した場合は、管轄の家庭裁判所の窓口で受け取るか、裁判所のホームページからダウンロードして印刷することも可能です。
2. 申請書の書き方と事件番号
申請書に必要事項を記入する際、特に重要なのが「事件番号」です。事件番号は、裁判所が相続放棄の申述を管理するために付与する番号で、「相続放棄申述受理通知書」に記載されています。
申請書には、申請者の氏名、電話番号、必要な通数などを記載し、交付手数料として1通につき150円分の収入印紙を所定欄に貼り付けて提出します。
3. 申述人本人が申請する場合の必要書類
相続放棄をした本人が交付を請求する場合、主に以下の書類が必要です。
- 相続放棄申述受理証明申請書(収入印紙150円×必要通数分を貼付)
- 申述人の本人確認書類(運転免許証、健康保険証など。郵送の場合は写し)
- 相続放棄申述受理通知書(郵送請求の場合は不要、または写しでよい場合がある)
- 認印
- 返信用封筒と切手(郵送請求の場合のみ)
※申述時の氏名や住所が変更されている場合は、氏名・住所のつながりが分かる戸籍謄本や住民票などの書類が追加で必要になります。
4.本人以外(利害関係人)による取得方法
相続放棄申述受理証明書は、申述人本人だけでく、他の相続人や債権者などの利害関係人も交付を申請し、取得することができます。利害関係人とは、共同相続人、次順位相続人、相続債権者、受遺者などが該当します。
1. 本人以外が申請する場合の必要書類
本人以外が申請する場合、上記の書類に加えて、「利害関係があることを証する書類」を提出する必要があります。
• 相続人として申請する場合: 申述人との相続関係がわかる戸籍謄本類(被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本や除籍謄本、申請者の戸籍謄本など)。
• 債権者として申請する場合: 債権者であることを証明する資料(金銭消費貸借契約書、ローン契約書など)。法人の場合は法人の資格証明書なども必要です。
※利害関係人が申請する際は、個別の状況によって必要な書類が大きく異なる可能性があるため、事前に申請先の家庭裁判所に確認することが強く推奨されます。
2. 事件番号の照会
本人以外の利害関係人が申請する場合や、申述人本人が通知書を紛失し事件番号が不明な場合、証明書の申請に先立って、家庭裁判所に「相続放棄・限定承認の申述の有無についての照会」を行い、事件番号や受理年月日を確認する必要があります。この照会手続きは無料で、照会申請書と必要添付書類を提出して行います。
5.相続放棄申述受理証明書の再発行と注意点
1. 再発行は何度でも可能
相続放棄申述受理証明書は、申請すれば何度でも再発行を受けることが可能です。もし証明書を紛失してしまっても、特別な手続きは必要なく、再度交付申請を行えば取得できます。
ただし、再発行の際にも、1通あたり150円の交付手数料(収入印紙)が必要です。
2. 交付申請の期限と保管期間
相続放棄に関する裁判所の書類の保存期間は30年間と定められています。したがって、申述から30年が経過すると、記録が破棄され、証明書の再発行ができなくなる可能性があります。通常、債権の時効は5年〜10年であるため、30年後に証明書が必要になるケースは稀ですが、必要な場合は早めに申請することが推奨されます。
6.お困りの場合は専門家へご相談を
相続放棄申述受理証明書は、相続放棄を公的に証明し、第三者との関係を明確にするために不可欠な書類です。通知書とは異なり、この証明書は申請書を提出し、手数料を納めることで交付されます。
申述人本人以外(利害関係人)も取得可能ですが、その場合は利害関係を証明する書類が必要です。また、再発行は何度でも可能ですが、その都度申請が必要です。申請書の書式は家庭裁判所のホームページからダウンロードでき、書き方としては、通知書に記載されている「事件番号」の記入が重要となります。
相続放棄の手続きや証明書の取得に不安がある場合は、専門家にご相談されることをお勧めいたします。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。