近年、高齢化に伴い相続に関する悩みや疑問が増加しています。中でも、「相続放棄」と「代襲相続」が関わるケースはトラブルになるリスクもあるため、正確な理解が不可欠です。
特に、被相続人(亡くなった方)に多額の借金などの負債があった場合、法定相続人(本来相続する人)が相続放棄を検討しますが、「放棄をしたら、その負債が子どもや孫に代襲相続されてしまうのではないか」という不安を抱く方は少なくありません。
この疑問に対する結論は、「相続放棄をしても、その子どもや孫に代襲相続は発生しない」 です。
本記事では、相続放棄と代襲相続の基本的な仕組みから、両者の関係性、そして相続放棄をした後に相続権がどこまで移るのかについて、法律を専門としない方にも分かりやすいように詳しく解説します。
このページの目次
1.代襲相続とは:相続権の承継ルール
代襲相続(だいしゅうそうぞく)とは、本来相続人となるべき人が、相続開始以前に死亡していたり、法律によって相続権を失っていたりする場合に、その人の子どもが代わりに相続人となる制度です。代わりに相続する人を代襲相続人、代襲される人を被代襲者と呼びます。
代襲相続が発生する原因(代襲原因)は、主に次の3つのケースに限定されています。
1. 本来の相続人が被相続人の死亡以前に死亡したとき。
2. 本来の相続人が相続欠格(法律上の重大な不正行為)に該当したとき。
3. 本来の相続人が相続廃除(被相続人の意思により相続権を剥奪された)をされたとき。
代襲相続人となる範囲
代襲相続が発生する範囲は、誰の相続権を代襲するかによって異なります。
1. 被相続人の子ども(第1順位の相続人)を代襲する場合 被相続人の子(被代襲者)が死亡等により相続権を失った場合、その子である孫が代襲相続人となります。さらに、その孫も死亡している場合は、ひ孫(玄孫)へと、子孫が続く限り代襲相続がどこまでも続きます(再代襲)。
2. 被相続人の兄弟姉妹(第3順位の相続人)を代襲する場合 被相続人に子や直系尊属(父母や祖父母)がいない場合、兄弟姉妹が相続人となります。その兄弟や姉妹が死亡等により相続権を失った場合、その子である甥や姪が代襲相続人となります。ただし、兄弟姉妹の代襲相続は一代限りであり、甥・姪の子ども(再代襲相続人)には相続権は移りません。
2.相続放棄の基本と代襲相続への影響
相続放棄とは、相続人が自分の意思により、被相続人の財産と権利義務の一切を相続しないことにする制度です。借金などのマイナスの財産を相続したくない場合や、相続争いに巻き込まれたくない場合に有効な手続きです。
相続放棄と代襲相続の明確な違い
相続放棄をすると、その相続人は法律上、「初めから相続人ではなかったもの」として扱われます。
代襲相続は、被代襲者が相続権を「失った」場合や「死亡」した場合に発生しますが、相続放棄は相続権自体が発生しないという考え方になるため、代襲相続は発生しません。
したがって、親が借金があるからと相続放棄をしたとしても、その子(孫)や、兄弟姉妹が放棄した際の甥・姪に代襲相続が発生し、借金が引き継がれることはないのでご安心ください。
相続放棄の例外的な注意点:二重の相続
相続放棄の効力は、あくまで放棄した特定の被相続人の相続に関してのみ及びます。そのため、相続が発生する順番によっては、代襲相続の対象になることがあります。
例えば、孫(D)が父(B)の相続を放棄したとしましょう。その後、祖父(A)が亡くなりましたが、父(B)はすでに亡くなっていたため、孫(D)は祖父(A)の代襲相続人となりました。
この場合、孫(D)は父(B)の相続を放棄していても、祖父(A)の代襲相続人となることが可能です。
もし、祖父(A)の財産に借金が含まれており、孫(D)がその借金も相続したくない場合は、祖父(A)の相続について改めて相続放棄の手続きをする必要があります。
相続放棄は被相続人ごとに判断されるため、「父の相続を放棄したから、祖父の相続も自動的に放棄される」ということはありません。
3.相続放棄によって相続権が移る流れ
相続放棄が行われると、その放棄をした人は最初から相続人ではなかったとみなされるため、相続権は次の順位の法定相続人に移ります。
相続の順位は以下の通りです(配偶者は常に相続人)。
1. 第1順位:被相続人の子ども(代襲相続人としての孫なども含む)
2. 第2順位:被相続人の直系尊属(父母、祖父母など)
3. 第3順位:被相続人の兄弟姉妹(代襲相続人としての甥、姪も含む)
パターン別の相続権の移行先
| 放棄した人 | 次に相続権を持つ人 |
| 第1順位(子どもや孫)が全員放棄した場合 | 第2順位(父母や祖父母などの直系尊属)に移ります。配偶者は第2順位と共同相続人になります。 |
| 第1順位と第2順位が全員放棄した場合 | 第3順位(兄弟姉妹や甥・姪)に移ります。配偶者は第3順位と共同相続人になります。 |
| すべての血族相続人(第1, 2, 3順位)が全員放棄した場合 | 配偶者がいる場合は配偶者が単独で相続します。配偶者もいない場合は、相続人がいなくなり、最終的に財産は国庫に帰属する可能性があります。 |
次順位の相続人への連絡の重要性
相続放棄により相続権が次順位の親族(兄弟姉妹や甥・姪など)に移ったとしても、家庭裁判所から次順位の相続人へ、相続放棄があった旨の連絡は原則としていきません。
もし被相続人に借金が多い場合、次順位の相続人は突然債権者からの督促状が届いて初めて自分が相続人になったことを知り、大きな混乱や親族間のトラブルにつながる可能性があります。
このようなトラブルを避けるためにも、相続放棄をした人は、次に相続人となる可能性のある親族に対して、自ら連絡をして事実を伝えておくことが望ましいです。
4.まとめ
- 相続人が自らの意思で相続放棄をした場合、その子ども(孫や甥・姪)に代襲相続は発生しません。
- 代襲相続が発生するのは、被相続人の死亡、相続欠格、相続廃除の3つの代襲原因がある場合に限られます。
- 相続放棄をすると、相続権は次順位の法定相続人(直系尊属や兄弟姉妹)に移るケースがあります。
- 次順位の相続人への影響を防ぐため、相続放棄の事実を自ら連絡することが、親族間のトラブル回避につながります。
- 代襲相続人(孫や甥・姪)になった場合でも、通常の相続人と同じく相続放棄は可能です。
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