相続が発生した際、多くの方が直面するのが「まず何をすればよいのか」「誰に相談するべきなのか」という問題です。遺産の内容や相続人の状況によって、必要となる手続きや関与する専門家が異なり、「司法書士?行政書士?弁護士?税理士?銀行?」といった疑問を抱くのは、ごく自然なことです。
相続手続きには、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約、遺産分割協議書の作成、相続税の申告など、多岐にわたる手続きが含まれます。また、相続人間での意見の対立や、相続放棄、遺言書の有無、認知症の相続人がいる場合など、法的な判断が求められる場面も少なくありません。
このように複雑な相続手続きにおいて、正しい知識と適切なサポートを受けることは、スムーズな相続の第一歩となります。本記事では、相続手続きの内容に応じて、どの専門家に相談すべきかをわかりやすく解説し、それぞれの専門家の特徴や役割の違い、相談すべきタイミングについて詳しくご紹介します。
このページの目次
1.弁護士に相談すべきケース
相続手続きの中で、「争いごとが生じている」または「法的な主張・反論が必要な場面」では、弁護士のサポートが必要不可欠です。弁護士は裁判上の代理権を有し、調停・審判・訴訟などの場で依頼者の権利を守ることができます。
1. 遺産分割協議がまとまらない場合
相続人同士の関係が悪化していたり、財産の配分に納得できない相続人がいると、遺産分割協議が難航します。このような場合は、弁護士が代理人として相手と交渉したり、家庭裁判所での調停・審判などへの対応が可能です。
たとえば:
- 「長男がすべてを相続すると主張している」
- 「誰かが勝手に財産を使い込んでいた」
- 「遺産の評価額について意見が分かれている」
こういった場面では、法的知見を活かした調整が求められ、弁護士の力が非常に有効です。
2. 遺言の無効主張・遺留分侵害額請求
相続人の中には、遺言の内容に不満を抱くケースもあります。たとえば、遺言によって自分の取り分が大幅に減らされている場合、「遺留分侵害額請求」を主張することができます。
また、
- 「遺言は書かれた当時、被相続人に判断能力がなかったのでは?」
- 「誰かに書かされた可能性がある」
など、遺言の無効を主張するケースでは、裁判での立証が必要となるため、弁護士に依頼することが不可欠です。
3. 使い込みや不正行為が疑われるとき
預貯金の引き出しなど他の相続人による「使い込み」が疑われる場合、証拠収集や法的対応を進めるには弁護士のサポートが必要です。
- 「被相続人の口座から、亡くなる直前に多額の引き出しがあった」
- 「家を勝手に売却していた」
こうした問題は、親族間でも深刻な争いに発展する可能性が高く、当事者間での話し合いでは解決が困難です。第三者である弁護士が介入することで、冷静かつ法的に適正な解決を目指すことができます。
弁護士への相談は、相続人同士のトラブル・遺言の無効・遺留分請求・訴訟対応といった「対立を含む相続」において特に重要です。反対に、争いのない相続手続きにおいては、次章以降で紹介する他の専門家(司法書士・税理士・行政書士)の出番となります。
2.司法書士に相談すべきケース
司法書士は、相続手続きの中でも「登記」や「戸籍調査」、「法定相続情報一覧図の作成」、「遺産整理業務」など、書類作成・手続き代行の専門家です。相続人間に争いがない、比較的スムーズに進められるケースでは、司法書士への相談が最も適しています。
1. 相続登記(不動産の名義変更)をしたいとき
不動産を相続する際には、その不動産の名義を故人から相続人へ変更する「相続登記」が必要です。2024年4月からは相続登記が義務化されており、期限内に登記しなかった場合は過料が科される可能性があります。
司法書士は、以下のような場面で相続登記をサポートします:
- 戸籍で収集して相続関係を確認し、相続関係説明図、遺産分割協議書を作成
- 登記に必要な添付書類(評価証明書、住民票など)の収集代行
- 相続登記の申請手続きの代行
- 法定相続人が多い場合や数次相続など、複雑な相続にも対応
2. 法定相続情報一覧図を取得したいとき
複数の相続手続き(銀行、証券会社、年金など)を同時に進める場合、各所で戸籍一式を何度も提出しなければなりません。そこで便利なのが「法定相続情報一覧図」です。司法書士は、戸籍の収集から一覧図の作成、法務局への申出まで一括して代行できます。
- 戸籍の調査・収集が面倒
- 代襲相続や養子縁組など複雑な関係がある
- 遺産の分配前にまず手続きを進めたい
こうしたとき、司法書士の専門知識が役立ちます。
3. 相続放棄の申述書を作成して家庭裁判所に提出したいとき
相続人が負債を背負うことを回避するために選択する「相続放棄」は、家庭裁判所への申立てが必要です。司法書士は、必要書類の収集と申述書の作成をサポートします。
- 申立書の書き方がわからない
- 戸籍が複雑で自分では揃えられない
- 提出期限(原則3ヶ月)を過ぎそうで不安
このような方には、司法書士への早期相談が安心です。
4. 銀行口座や証券口座の解約・名義変更手続き
相続に伴う金融資産の承継業務(遺産整理業務)にも対応できます。高齢の相続人や忙しいご家族に代わって、以下のような業務を一括でサポートできます:
- 銀行預金の相続手続き
- 証券会社とのやりとり
- 相続財産目録の作成
これにより、ご家族は安心して一任することができます。
5. 行方不明の相続人や認知症の相続人がいるケースの初期対応
相続人の中に認知症の方がいる、あるいは行方不明者がいる場合でも、司法書士は状況に応じて以下の手続きをサポートします。
- 成年後見制度の活用に関するアドバイス
- 不在者財産管理人の選任手続きの書類作成
- 相続関係が複雑な場合の調整・助言
弁護士による訴訟まで発展する前の段階で、司法書士が初期対応を行うことで、スムーズに手続きを進めることが可能になります。
このように、司法書士は「争いがない相続手続き」において、幅広く実務を担うことができます。費用面でも比較的リーズナブルであり、相続登記や書類作成、調査業務に関しては最も身近で頼れる専門家です。
3.税理士に相談すべきケース
相続手続きにおいて「税金」に関する問題が発生する場面では、税理士の力が不可欠です。特に相続税の申告が必要なケースや、生前贈与・相続対策を行う際には、税務の専門家である税理士に相談することで、大きな損失を防ぐことができます。
1. 相続税の申告が必要なケース
相続税には基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)があり、それを超える遺産を相続する場合は、原則として被相続人の死亡から10か月以内に相続税の申告と納税を行わなければなりません。
税理士に相談すべき具体例:
- 相続財産の評価額が基礎控除を上回る可能性がある
- 現金以外の財産(不動産・有価証券)が多く、評価が難しい
- 納税資金の準備が困難で物納・延納を検討している
税理士は、不動産の評価額の適正化や節税のための特例適用(小規模宅地の特例、配偶者控除など)を判断し、最も有利な形で申告を行います。
2. 生前贈与を活用した相続対策をしたいとき
将来の相続税負担を見越して生前贈与を行う際、税務上の知識が欠かせません。暦年贈与や相続時精算課税制度の選択など、制度によって贈与税や相続税に与える影響が大きく異なるため、税理士のアドバイスが重要です。
- 毎年の贈与額の管理
- 不動産や非上場株式の贈与に伴う評価
- 2024年の税制改正(生前贈与加算期間の延長など)への対応
こうした生前対策を行うなら、相続に詳しい税理士と連携して、中長期的な視点でプランニングを進めるのが賢明です。
3. 相続人間で公平に分けたいが税負担が偏る場合
遺産を公平に分けたいと思っても、財産の中身によっては相続人ごとに税負担が大きく異なることがあります。
例えば、
- 不動産を取得した相続人にだけ高額な相続税が発生
- 金融資産はすぐに使えるが、土地や建物は納税資金の準備が難しい
こうした問題を避けるには、税理士の試算に基づいて相続財産の分割を設計する必要があります。
4. 二次相続まで考慮した節税対策をしたいとき
一次相続では配偶者の税額軽減が使えるため、税金がゼロまたは少額で済むケースも多くあります。しかし、配偶者が死亡した後に発生する二次相続では、配偶者控除が使えず、税負担が跳ね上がるケースがあります。
このため、一次相続と二次相続を通算して最も節税効果の高い分割方法を提案できるのが、経験豊富な税理士の役割です。
税理士は、財産評価・税額の試算・申告書の作成など、税務に関わるあらゆる業務を担う専門家です。相続税の有無に関わらず、財産の全体像を把握しておきたい場合や、将来の備えとして早めに対策を取りたい方は、相続に強い税理士への相談が大変有効です。
当事務所では、相続に特化した信頼できる税理士と提携しており、ご希望に応じてご紹介が可能です。
4.行政書士に相談すべきケース
行政書士は、官公署に提出する書類の作成や、権利義務・事実証明に関する文書の作成を専門とする国家資格者です。相続においても、一定の範囲で相談・手続きを行うことが可能です。
1. 遺産分割協議書や遺言書、相続関係説明図などの書類作成を専門家に依頼したい場合
相続の内容が複雑でなく、書類の作成や収集だけを依頼したい、あるいはその作成の補助を受けたいときは行政書士が適しています。
2. 預貯金・有価証券・自動車などの名義変更や金融機関手続きをまとめて任せたい場合
遺産に不動産が含まれず、主に金融資産や動産が中心の場合、名義変更や解約などの事務手続きも行政書士が代行可能です(不動産登記は司法書士のみが担当)。
3. 被相続人が許認可の必要な事業などを営んでおり、相続に伴う行政手続きや届出、変更申請が必要な場合
農地、酒販、建設業など、事業・許認可に関する行政への届出や手続きが必要な時は、行政書士が制度上の手続き全般をサポートできます。
一方で、行政書士は法律トラブルの調整や代理行為、登記申請、税務申告などには対応できません。そのため、相続人間で意見が対立していたり、相続財産に不動産や多額の金融資産が含まれる場合などは、司法書士や税理士などと連携しながら進める必要があります。
5.銀行に相談する場合の特徴と注意点
相続に関連して銀行を訪れるのは、被相続人の預貯金がある場合や、銀行が提供する相続関連サービスを利用したいと考えるときです。銀行は「相続手続きの窓口」として機能することがありますが、他の士業とは異なり、法的手続きの代理や調整を行うことはできません。そのため、銀行に相談する場合には、その役割や限界を正しく理解しておく必要があります。
1. 相続手続きサポートサービス
一部の銀行では、相続手続きをサポートする有料の「相続代行サービス」「相続手続きパック」を提供しています。これらは提携する司法書士・税理士・行政書士などの士業に手続きを外注し、ワンストップで手続きを完了させるサービスです。
【メリット】
- 一括で対応してくれるため、時間や手間を軽減できる
- 信頼感のある銀行経由で依頼できる
【デメリット】
- 費用が割高になる傾向がある(仲介手数料が含まれる)
- 提携先の専門家を選べず、個別対応の柔軟性に欠ける
- 必ずしも相続に強い専門家が対応するとは限らない
2. 銀行は「窓口」であり「専門家」ではない
銀行員は、法律や税務の専門家ではありません。そのため、遺産分割のアドバイスを求めたり、相続放棄・登記・税務申告といった判断を仰いでも、対応はできず、専門家への相談を勧められるだけとなる場合が大半です。
また、銀行によっては、提出された書類の審査に非常に厳しく、少しの不備でも受理されないことがあるため、事前に専門家にチェックしてもらうことが望ましいです。
3. 銀行の遺言信託サービスについて
多くの大手銀行では、「遺言信託サービス」という名称で、遺言書の作成や保管、そして死後の遺言執行までを含むサービスを提供しています。これは、公正証書遺言の作成を銀行が提携する司法書士や弁護士とともにサポートし、遺言内容の実現までを一貫して担うというものです。
【主なサービス内容】
- 公正証書遺言作成の支援
- 遺言書の銀行金庫での保管
- 被相続人の死亡後、遺言内容に従って相続手続きを執行(遺言執行者として就任)
【利用メリット】
- 銀行が関与することで安心感がある
- 専門家との連携が取れているため、一定の信頼性がある
- 書類の保管場所が明確になる
【注意点】
- 費用が非常に高額になる傾向がある
- 初期費用(遺言書作成サポート料):10~30万円前後
- 保管料:毎年数千~1万円程度
- 遺言執行報酬:遺産総額の1.5~3%前後(例:5,000万円の遺産なら75万円〜150万円)
遺言信託サービスの費用体系は銀行ごとに異なりますが、「安心と手間の軽減」の代わりに、高額な手数料を支払うことになる点は十分に検討すべきポイントです。
また、実際の遺言執行時には別途、提携する専門家への報酬も加算されることが多く、最終的なコストが予想以上にかさむという声も少なくありません。
このように、銀行の提供するサービスは便利ではあるものの、「費用対効果」や「柔軟性の低さ」には注意が必要です。必要に応じて、地元の司法書士や税理士に直接相談した方が、より柔軟かつ低コストで対応できる場合も多いことを念頭に置いておくとよいでしょう。
6.相続手続きの相談先を選ぶ際のポイントと注意点
相続手続きは、財産の種類や相続人の状況、相続税の有無などによって複雑さが大きく異なります。そのため、「誰に相談するのが適切か」を正しく判断することが、円滑かつ的確な相続手続きへの第一歩になります。
ここでは、相続手続きの相談先を選ぶ際に押さえておくべきポイントと、よくある失敗例について解説します。
1. 依頼先を誤るとどうなるか?
相続手続きは専門性が高く、対応できる業務範囲が各士業(司法書士・税理士・行政書士・弁護士)や機関(銀行など)によって異なります。そのため、適切でない専門家に依頼すると、以下のような問題が起こることがあります。
- 業務範囲外のことは対応できず、別の専門家を再度探す必要がある
- 書類の再提出や重複作業で時間・手間・費用がかさむ
- 必要以上の高額な費用を請求される(例:銀行の遺言執行手数料など)
このようなトラブルを防ぐためにも、事前に相続手続きの全体像を把握し、自分のケースに合った専門家を選ぶことが重要です。
2. 相続の全体像を把握することが出発点
相談先を選ぶ前に、まずは以下のような情報を整理しておきましょう。
- 遺産の主な内容(不動産・預貯金・株式・負債など)
- 相続人の構成(配偶者・子ども・兄弟姉妹など)
- 遺言書の有無(自筆・公正証書など)
- 納税の可能性(相続税の発生が見込まれるか)
- 家族間の関係性(トラブルの有無、疎遠な相続人の存在など)
こうした情報をもとに、どの専門家が最適かを判断することができます。
3. ワンストップ対応できる窓口が理想
最近では、相続に強い司法書士や税理士の中には、複数の専門家と連携してワンストップで対応する事務所も増えています。たとえば、以下のような対応が可能なケースがあります。
- 不動産の相続登記 → 司法書士
- 預貯金の解約 → 司法書士または行政書士
- 相続税申告 → 税理士
- 家族間の争い対応 → 弁護士
- 不動産売却・換価 → 宅建士や提携不動産会社
つまり、信頼できる窓口をひとつ設けることで、複数の専門家と無駄なく連携できるという点が、大きなメリットとなります。
4. 相談先を選ぶ際のチェックポイント
以下のような点を確認すると、相談先選びの失敗を防ぐことができます。
チェックポイント | 確認内容 |
---|---|
① 得意分野 | 相続登記、相続税、遺言など、扱っている業務の実績があるか |
② 費用の明確性 | 相談料、報酬などが明朗かどうか |
③ ワンストップ対応 | 他士業との連携体制が整っているか |
④ 地域密着性 | 地元の事情や役所、法務局の運用に詳しいか |
⑤ 説明のわかりやすさ | 専門用語を避け、丁寧に説明してくれるか |
たとえば、初回相談時に「相続登記と税務申告のどちらも必要になる可能性があるのですが…」という質問をした際、必要な手続きを整理して説明し、他の専門家と連携する姿勢を見せるかどうかがひとつの判断材料になります。
5. よくある誤解と注意点
相続手続きに関するよくある誤解として、次のようなものがあります。
- 「とりあえず銀行に相談すればすべてやってくれる」
→ 実際には、銀行は手続きを代行せず、遺言信託など高額なサービスを勧めることもあります。 - 「弁護士に頼まないと法的に無効になる」
→ 相続登記や銀行手続きは司法書士や行政書士でも対応可能です。争いがなければ弁護士に依頼しなくても良いケースも。 - 「市役所に相談すれば全部教えてくれる」
→ 市役所は基本的に制度の概要説明のみで、実務的な支援や申請書作成は行いません。
7.相続手続きの相談は信頼できる専門家へ
相続手続きは、故人の意思や遺産の内容、相続人の状況によって多様な対応が求められます。特に、手続きが煩雑になりがちな不動産の名義変更や銀行口座の解約、相続税の申告、さらには遺言書の取り扱いや相続放棄といった場面では、それぞれ専門的な判断が必要になります。
誰に相談するかによって、手続きの正確さやスムーズさ、さらには費用や精神的負担にも大きな差が生じます。
- 書類の不備でやり直しになる
- 間違った判断で余計な税金を支払うことになる
- 家族間のトラブルを招く可能性がある
こうしたリスクを避けるためには、相続手続きに精通した信頼できる専門家に早めに相談することが何よりも重要です。
司法書士は、相続登記や預貯金の手続き、遺言書の検認サポート、相続放棄の申述など、実務に直結する手続きを幅広くサポートできる立場にあります。また、必要に応じて弁護士・税理士・行政書士と連携し、ワンストップで対応する体制を整えている事務所も少なくありません。
「何から手をつけてよいかわからない」「誰に相談すべきかわからない」という方こそ、まずは一度、相続に強い司法書士にご相談されることをおすすめします。
当事務所では、横浜市青葉区を拠点に、緑区・都筑区・町田市など近隣地域の方々から多くのご相談をいただいております。状況を丁寧にお伺いし、必要な手続きや優先順位をわかりやすくご案内いたします。
相続手続きでお困りの方は、お気軽にご相談ください。初回相談も承っております。