相続手続きにおいて、法定相続人の中に「行方不明者」がいる場合、手続きは非常に複雑になります。なぜなら、相続は原則として相続人全員の同意に基づいて進めなければならず、一人でも協議に参加できない相続人がいると、遺産分割協議が成立しないためです。このような状況を放置しておくと、不動産の名義変更ができない、預貯金が引き出せないなど、日常生活に大きな支障をきたすこともあります。この記事では、行方不明者が相続人にいる場合の具体的な対応策について、わかりやすく解説します。
このページの目次
1. 行方不明の相続人がいる場合の基本的な対応方針
相続人の一人が行方不明である場合、まずその所在を調査することが基本です。住民票の履歴や戸籍の附票を確認し、過去の住所地をたどることで手がかりが得られる場合もあります。できる限りの調査を尽くしてもなお、行方不明の相続人の居場所が判明しない場合や、連絡が取れない状態が続く場合には、法的な手続きを検討する必要があります。
・不在者財産管理人の選任
・失踪宣告の申立て
2. 不在者財産管理人の選任による解決方法
行方不明者が現実には生存している可能性がある場合、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申立てることが一般的です。これは民法第25条に基づき、不在者(所在が知れず、長期間音信不通の者)の財産を管理する者を裁判所が選任する制度です。この制度を利用すると、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加し、代理人として同意することが可能となります。ただし、不在者財産管理人が財産を処分する場合(遺産分割などを含む)は、家庭裁判所の許可を得る必要があるため、申立ての際には具体的な分割案を用意しておくとスムーズです。
3. 失踪宣告による対応(特別失踪・普通失踪)
行方不明の期間が長期にわたり、生死さえ不明な場合には、「失踪宣告」を検討することになります。失踪宣告には「普通失踪」と「特別失踪」の2種類があります。
・普通失踪:音信不通の状態が7年以上続いた場合に申立て可能。
・特別失踪:戦争、震災、事故などの危難に遭遇してから1年以上経過した場合に申立て可能。
失踪宣告が認められると、その人は法律上「死亡した」とみなされるため、その方の相続手続きも行うことが可能になります。ただし、後に生存が判明した場合には法的な影響も大きく、慎重な判断が求められます。
失踪宣告がされた場合、いつ死亡したとみなされるか
- 普通失踪の場合:家庭裁判所が失踪宣告をした日ではなく、音信不通の状態が始まってから7年が経過した日に死亡したとみなされます。
- 特別失踪の場合:災害や事故などの危難が去った時に死亡したとみなされます。
たとえば、大規模な地震発生後に所在不明となり、1年以上経って特別失踪の宣告が出された場合、その地震が発生した日が「死亡日」として扱われます。これにより、相続開始時点が特定され、相続分の確定や遺産分割の基準にも大きく関係してきます。
4. 行方不明者の相続分を除いた遺産分割はできる?
行方不明の相続人を除いて他の相続人だけで遺産分割を進めることは原則として認められません。全員の同意が必要だからです。
しかし、不在者財産管理人を選任し、家庭裁判所の許可を得て協議を行えば、行方不明者に代わって協議に参加することができます。
また、失踪宣告が出れば、その人は死亡したと見なされるため、相続人としての地位を失い、代わりに次順位の相続人が登場することになります。
5. ケース別で見る実務対応のポイント
【ケース1】兄弟姉妹のうち一人が数十年音信不通である
⇒ まずは戸籍・附票をたどって所在調査。そのうえで不在者財産管理人の申立て。
【ケース2】相続開始時点ですでに失踪から7年以上が経過している
⇒ 家庭裁判所へ普通失踪の申立てを検討。失踪宣告が認められれば相続人の扱いは不要に。
【ケース3】相続人の一人が認知症・施設入所中など連絡不能
⇒ 行方不明とは異なり、後見人の選任が必要。成年後見制度の利用を検討。
6. 専門家への相談が確実な一歩
相続人に行方不明者がいるケースでは、通常の相続手続きが行えず、家庭裁判所を介した法的対応が不可欠になります。特に、不在者財産管理人の選任や失踪宣告の申立てなどは、専門的な書類作成と手続きが必要となるため、一般の方が独力で進めるのは難しいのが実情です。
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