相続した不動産を売却すべきケース

親や祖父母などの遺産として不動産を相続した場合、「その不動産をこのまま保有すべきか」「いっそ売却すべきか」と悩まれる方は少なくありません。相続した不動産は、たとえそこに住む予定がなくても「故人の思いがこもっている」「いずれ子どもに残したい」といった感情的な理由や、「将来値上がりするかもしれない」という期待などから、すぐに売却に踏み切れないこともあるでしょう。

しかし、相続した不動産には、維持費・固定資産税・老朽化による修繕義務といった「目に見えないコスト」がかかり続けます。特に空き家のまま放置していると、倒壊や雑草・害虫被害など近隣への迷惑にもつながり、自治体から行政指導を受けることもあります。さらに、2024年4月からは「相続登記の義務化」が施行され、放置していると10万円以下の過料の対象になる可能性もあります。

また、不動産を売却する場合には、譲渡所得税不動産取得税確定申告などの税務的な知識も必要になり、専門的な判断が求められます。

この記事では、「相続した不動産を売却すべきケースとはどんな場合か?」をはじめ、売却に伴う名義変更(相続登記)や税金のポイント(3,000万円控除など)、売却後の確定申告など、相続不動産の売却を検討している方が押さえておくべき情報を網羅的に解説していきます。

1.相続した不動産を売却すべき典型的なケース

不動産を相続したからといって、必ずしもそれを保有し続けることが最善とは限りません。実際には、売却したほうが経済的・法的に合理的なケースが多く存在します。ここでは、相続した不動産を売却すべき典型的なケースを4つ紹介します。

1. 誰も住む予定がない空き家の場合

被相続人が住んでいた住宅を相続したものの、自分や家族がそこに住む予定がなく、賃貸にも出さないまま空き家状態で放置されるケースは非常に多いです。
空き家のまま放置していると、次のようなリスクが発生します。

  • 固定資産税・都市計画税などの維持費が毎年発生する
  • 建物が老朽化して倒壊などの危険が生じる
  • 雑草・害虫被害・不法侵入などにより近隣トラブルに発展
  • 行政から「特定空き家」に指定されると固定資産税の優遇がなくなる

このような場合、売却によって資産を現金化し、維持コストや管理の負担から解放される方が得策といえるでしょう。

2. 相続人が複数いて不動産を共有している場合

相続人が複数いる場合、不動産を「共有」名義で相続することがあります。しかし、共有名義の不動産は以下のような問題を引き起こすことが少なくありません。

  • 長期の賃貸借・売却などにすべての共有者の同意が必要になる
  • 相続人間で意見が分かれると不動産の有効活用が困難
  • 将来的に相続が繰り返され、共有者が増え続け土地の利用・管理が困難になったり、意思決定が難しくなったりする

こうしたトラブルを未然に防ぐために、不動産を売却して現金化し、代金を法定相続分に応じて分配する「換価分割」も有効な手段です。

3. 相続税の納税資金が必要な場合

基礎控除額を超える場合、相続税が発生することがあります。現金で相続税を納めることが難しい場合には、不動産を売却して納税資金に充てるという選択肢があります。

  • 相続税の納付期限は相続開始(被相続人の死亡)から10か月以内
  • 納税のための「物納」や「延納」には厳格な条件がある

不動産を早めに売却して現金化すれば、納税準備に余裕が生まれます。

4. 利用価値がなく老朽化が進んでいる場合

古い建物で修繕費がかかる、または土地が狭小で再建築も困難な物件などは、保有していても資産価値が下がり続ける可能性があります。加えて、管理費・保険料・固定資産税などの支出がかさみ、「負動産(ふどうさん)」となることも。

売却によって資産としての価値を回収し、他の有効な資産運用に充てるのも合理的な選択です。

2.不動産売却にかかる税金と「3,000万円特別控除」

不動産を相続した後に売却すると、売却益(譲渡所得)が発生した場合に税金がかかります。ここでは、代表的な「譲渡所得税」や「不動産取得税」、そして節税に有効な「3,000万円特別控除」など、売却時に関係する税金について詳しく説明します。

1. 譲渡所得税とは?

譲渡所得税は、不動産を売って得た利益(譲渡所得)に対して課税される税金です。譲渡所得は、以下の計算式で求められます:

譲渡所得 = 売却価格 -(取得費 + 譲渡費用)

  • 取得費: 被相続人がその不動産を取得した際の購入金額や取得時の諸費用
  • 譲渡費用: 売却にかかった仲介手数料、登記費用など

※相続の場合、被相続人の取得費を引き継ぎます。

2. 短期・長期譲渡の区分

譲渡所得税率は、所有期間によって異なります。

  • 長期譲渡(所有期間5年超): 約20%(所得税15%+住民税5%)
  • 短期譲渡(所有期間5年以下): 約39%(所得税30%+住民税9%)

※相続による取得の場合は、被相続人の取得時期から計算するため、多くの場合「長期譲渡」に該当します。

3. 3,000万円特別控除の適用条件

相続した不動産が被相続人の「居住用財産(自宅)」であった場合、一定の条件を満たすと3,000万円の特別控除が受けられます。

適用の主な要件:(詳細は税務署または税理士にご確認ください)

  • 被相続人が死亡時点でその家に住んでいた
  • 相続開始から3年を経過する年の12月31日までに売却すること
  • 売却した相手が親族など一定の関係者でないこと など

この控除が適用されると、譲渡所得から3,000万円が差し引かれるため、課税額が大きく軽減される可能性があります。

3,000万円特別控除の適用を受けるには、翌年の2月16日〜3月15日の間に確定申告を行う必要があります。控除を適用して税金がゼロになった場合でも、確定申告必要です。

4. 相続税と譲渡所得税の関係

相続税を納付している場合、譲渡所得の計算上、その相続税の一部を「取得費に加算」できる特例もあります(取得費加算の特例)。この特例により、譲渡所得が減り、結果として譲渡所得税が軽減されるケースがあります。

ただし、この特例は令和5年度の税制改正により要件が一部見直されており、最新情報に注意する必要があります。

5. 不動産取得税

相続によって取得した不動産には、原則として不動産取得税は課されません。これは、不動産取得税が不動産の購入や贈与、建築等による「取得」に課税される地方税である一方、相続は被相続人の死亡に伴う所有権移転であり、取得者の意思によるものではないため課税対象外とされているためです

ただし、贈与や売買による取得の場合は、不動産取得税が課税されます

3.相続不動産を売却するまでの手続きと流れ

相続した不動産を売却するには、いくつかの重要なステップがあります。適切な順序で進めないと、売却契約を結べなかったり、思わぬトラブルが発生するおそれもあります。この章では、不動産売却に至るまでの流れを詳しくご紹介します。

1. 相続登記(名義変更)

まずは、被相続人の名義から相続人名義へと登記(名義変更)を行う必要があります。
相続登記が完了していない状態では、不動産を売却することはできません。

【ポイント】

  • 登記のためには、遺産分割協議書・戸籍謄本・固定資産評価証明書などの書類が必要
  • 2024年4月から相続登記が義務化されており、3年以内に登記を行わないと過料の対象(10万円以下)になる

司法書士に依頼すれば、煩雑な手続きや書類収集も含めて一括で対応してもらえます。

2. 不動産の査定と仲介業者の選定

登記が完了したら、不動産会社に査定を依頼して市場価値を把握します。査定は複数社に依頼し、信頼できる仲介業者を選びましょう。

【仲介業者選定のポイント】

  • 地元の相場に詳しいか
  • 過去の売却実績があるか
  • 売主側に立って交渉してくれるか

媒介契約を結ぶことで、仲介業者が買い手探しや交渉を行ってくれます。

3. 売却契約と手付金の受領

買い手が見つかれば、売買契約を締結します。契約書には以下のような内容が含まれます。

  • 売買価格
  • 引渡し時期
  • 手付金の額(通常、売買価格の5~10%)

契約締結時には手付金が支払われ、残代金は引渡し時に受け取る流れです。

4. 引渡しと登記移転

買主から残代金を受け取り、不動産を引き渡します。並行して、司法書士が所有権移転登記を行い、売却が正式に完了します。

【必要書類】

  • 登記識別情報(権利証)
  • 固定資産税評価証明書
  • 本人確認書類(免許証など)
  • 印鑑証明書

ここまでが、不動産売却に至るまでの一連の流れです。

4.相続不動産は“放置”せず、早めの判断と行動を

相続した不動産の取り扱いには、税金・登記・管理・法律・売却の可否など、さまざまな要素が複雑に絡み合います。特に以下のようなケースでは、売却を選択することが合理的であることが多いと言えます。

  • 相続した不動産を使用する予定がない
  • 他の相続人と共有状態になっており、活用・管理が難しい
  • 固定資産税などの維持コストが重くのしかかる
  • 老朽化や空き家リスクで将来の資産価値が下がりかねない
  • 売却益に対して「3,000万円特別控除」が使える可能性がある

一方で、売却には譲渡所得税や登記、確定申告、名義変更などの専門的な手続きが必要となり、個人で対応するには限界があります。

相続不動産を「資産」として次世代に繋げるためにも、登記や売却の手続きに詳しい司法書士や不動産の専門家への相談を早めに行うことが重要です。

高野司法書士事務所では、横浜市青葉区・緑区・都筑区・町田市を中心に、相続に伴う不動産の名義変更や売却サポートを数多く手がけております。不動産の扱いにお悩みの方は、お気軽にご相談ください。

keyboard_arrow_up

0455077744 問い合わせバナー 無料相談について