株式相続の名義変更とは?

故人の遺産に株式が含まれている場合、その後の手続きについて不安を感じる方もいるでしょう。株式の相続手続きは、預貯金や不動産とは異なる特性があり、特に名義変更は非常に重要なプロセスです。この記事では、株式相続における名義変更の具体的な手順から、税金や相続税の取り扱い、売却を検討する際の注意点、さらには非上場株式の特殊な対策まで、皆様が知っておくべき情報を網羅的に解説します。適切な手続きを進めることで、予期せぬリスクを避け、故人の大切な財産を円滑に承継できるよう、ぜひ参考にしてください。

1.株式相続における名義変更の基本と重要性

相続財産には現金、預貯金、不動産の他に株式も含まれます。故人が株式を所有していた場合、その株式を相続するためには、所有者の名義を故人から相続人へ変更する手続きが必要です。この名義変更手続きを行わないと、以下のようなさまざまな不利益が生じる可能性があります。

株主としての権利行使ができない: 配当金の受け取りや株主優待の利用、株主総会での議決権行使など、株主が持つ権利を適切に行使することができません。

売買・換金ができない: 故人名義のままでは、株式の売却や換金ができません。すぐに現金化したい場合でも、まずは名義変更の手続きが必須です。

権利の消失リスク: 長期間名義変更をせずに放置していると、最終的には株式の権利自体が完全に失われるリスクがあります。具体的には、株主の所在が5年以上不明な場合や、配当金が5年間受け取られていない場合、株式が競売にかけられたり、発行会社が買い取ったりする措置が取られることがあります。

相続税に関するペナルティ: 名義変更手続きそのものに時効はありませんが、相続税の申告・納税には期限があり、これを怠ると延滞税や加算税といったペナルティが課される可能性があります。

これらのリスクを避けるためにも、株式を相続したら速やかに名義変更手続きを進めることが大切です。

2.株式相続の名義変更に向けた準備と手順

株式を相続する際の名義変更は、まず「誰が」「どの銘柄を」「何株相続するか」を明確にすることから始まります。

1. 相続の対象となる株式の特定

故人がどの会社の株式をどれだけ保有していたかを確認する「株式の調査」が最初のステップです。

郵便物の確認: 証券会社からの取引残高報告書や株主総会招集通知、配当金に関する案内などが自宅に届いていないか確認します。

通帳の確認: 株式配当金の入金履歴から、保有している株式が判明することもあります。

証券会社への問い合わせ: 故人が取引していた証券会社が分かっている場合は、その証券会社に連絡し、残高証明書の発行を請求することで、保有株式の明細を確認できます。

証券保管振替機構(ほふり)への開示請求: 故人がどの証券会社で口座を開設していたか全く分からない場合は、「証券保管振替機構(ほふり)」に開示請求を行います。これにより、故人の株式を管理している証券会社や信託銀行等の口座管理機関が判明します。開示請求には、相続人の身分証明書のコピーや被相続人と相続人の関係を証明する書類(戸籍謄本など)が必要です。

2. 遺産分割協議の実施

相続財産に株式が含まれる場合、まず遺言書の有無を確認します。遺言書があれば原則としてその内容に従い、ない場合は、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、「誰が、どの銘柄を、いくつ相続するか」を決定する必要があります。

遺産分割協議が成立したら、その内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめ、相続人全員が署名し、実印を押印することが重要です。この遺産分割協議書は、株式の名義変更手続きの際に必要な書類となります。

3.上場株式の名義変更手続き

上場株式は証券取引所を介して取引されるため、名義変更手続きは証券会社を通じて行います。

1. 手続きの流れ

1. 証券会社への連絡: 故人が取引していた証券会社に、被相続人が死亡したことと、株式の名義変更を希望する旨を伝えます。

2. 相続人の証券口座の用意: 株式を相続する人は、自分名義の証券口座を保有している必要があります。もし故人と同じ証券会社にすでに口座があれば、その口座に移管手続きを進めます。異なる証券会社を利用していたり、口座を所有していなかったりする場合は、故人が取引していた証券会社で新たに口座を開設する必要があります。

3. 株式の移管申請: 証券会社指定の書類と必要書類を提出し、故人名義の株式を相続人の証券口座へ移管(振り替え)する手続きを行います。これにより、相続人名義で株式を管理・運用できるようになります。

2. 必要書類

上場株式の名義変更に必要な書類は、証券会社によって異なる場合がありますが、一般的には以下のものが求められます。

  • 株式名義書換請求書
  • 取引口座引き継ぎの念書(証券会社所定の用紙)
  • 相続人全員の同意書(証券会社所定の用紙)
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
  • 相続人の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書

4.非上場株式の名義変更手続き

非上場株式は証券取引所に上場されていないため、売買は一般的に行われず、名義変更手続きも上場株式とは異なります。

1. 手続きの流れ

1. 発行会社への直接連絡: 株式を発行している会社に直接連絡し、被相続人が死亡したことと、名義変更を希望する旨を伝えます。

2. 必要書類の確認と提出: 発行会社から名義変更に必要な書類を確認し、指示に従って準備・提出します。手続き方法や必要書類は会社ごとに異なるため、事前にしっかり確認することが重要です。

3. 株主名簿の書換: 発行会社にて株主名簿の記載変更が行われ、名義変更が完了します。

2. 非上場株式特有の注意点

譲渡制限付株式: 非上場株式には、譲渡に会社の承認を必要とする「譲渡制限付株式」であることが多くあります。相続人が株式を承継した場合でも、会社側が定款に定めがあれば、株主総会の特別決議を経て相続人に株式の売渡請求を行うことができる場合があります。この場合、買取金額が余剰金の分配可能額を超えないことなどの要件を満たす必要があります。

株主名簿の管理状況: 企業によっては株主名簿がきちんと作成・管理されていないなど、手続きが複雑化するケースも存在します。

5.株式の評価額と相続税の算出

株式も他の相続財産と同様に、相続税の対象となります。相続税は、被相続人の全財産の合計額が基礎控除額(「3,000万円+法定相続人の数×600万円」)を超える場合に発生します。この相続税を計算する上で、株式の正確な評価額を知ることが不可欠です。

1. 上場株式の評価方法

上場株式の評価額は、原則として被相続人が亡くなった日の終値が基準となります。しかし、株価は常に変動するため、以下の4つのうち最も低い価格を選んで相続税申告時の株価とすることができます。

  • 相続開始日(死亡日)の終値
  • 相続開始日を含む月の毎日の最終価格の平均額
  • 相続開始日の前月の毎日の最終価格の平均額
  • 相続開始日の前々月の毎日の最終価格の平均額

これらの株価は、インターネットの専門サイトや日本取引所グループのサイトで調べることができます。また、故人が所有していた証券会社に残高等の証明書の発行を依頼し、これらの4種類の価格での評価額を確認することも可能です。

2. 非上場株式の評価方法

非上場株式の評価は上場株式よりも複雑であり、その計算方法には複数の種類があります。発行会社の規模(大会社、中会社、小会社)や、その会社の経営状況、配当、純資産価額など、さまざまな要素を考慮して評価されます。主な評価方法は以下の通りです。

純資産価額方式: 会社を廃業すると仮定した場合に、株主一人あたりに分配される金額を基準に株価を算出する方法です。小会社の評価に主に用いられます。

類似業種比準方式: 類似する業種の上場会社の株価を基準に、評価対象会社の配当金額、利益金額、純資産価額の3つの要素で比較して評価する方法です。大会社の評価に主に用いられます。

配当還元方式: 会社の配当を基準にして評価する方法です。同族株主以外が相続人のケースなどに用いられます。

併用方式: 純資産価額方式と類似業種比準方式を組み合わせて評価する方法で、中会社に適用されます。

これらの評価方法は専門的な知識を要するため、非上場株式を相続した場合は、税理士などの専門家に相談することを強く推奨します。

6.相続した株式の売却と税金

相続した株式は、そのまま保有するだけでなく、売却して現金化することも可能です。

1. 株式の分割方法

株式の分割方法には、主に以下の二つがあります。

換価分割(売却・換金し現金で分割): 故人の株式を代表相続人の証券口座へ移管した後、売却・換金し、その代金を相続人全員で均等に分割する方法です。この場合、売却時の時価で売却し、税金などが控除されるときは、税金引き後の代金を分割すると良いでしょう。遺産分割協議書には、換価分割する旨と売却代金の分配方法を明記します。

現物分割(銘柄のまま分割): 故人の上場株式が複数ある場合などに、売却・換金せず、銘柄のまま複数の相続人で分割する方法です。誰がどの銘柄をいくつ相続するかを事前に決定し、証券会社に申し出ます。一度銘柄を保有すると、その後の分割内容を変更することはできないため注意が必要です。

遺産分割協議で特定の相続人が株式を相続した場合、その相続人は他の相続人の同意を得ることなく、自身の判断で自由に株式を売却できます。

2. 株式売却時の譲渡所得税

相続した株式を売却して利益が出た場合、「譲渡所得税」が課税されます。この税金は、売却した相続人が確定申告をして納税する必要があります。

譲渡所得の計算: 株式の譲渡所得は「売却金額-売却手数料-取得費」で計算されます。取得費とは、故人がその株式を取得した際の金額です。故人の取得費が不明な場合は、売却代金の5%を取得費とすることができますが、この場合、売却益の95%が課税対象となり、高額な所得税金がかかる可能性があります。

特定口座(源泉徴収あり)の利用: 代表相続人の証券口座を「特定口座、源泉徴収あり」にしておけば、売却で利益が出ても原則として確定申告は不要です。しかし、それ以外の口座であったり、特定口座で保管できない銘柄を売却したりして利益が出た場合は、代表相続人の所得として確定申告が必要になることがあるため注意が必要です。

相続税の取得費加算の特例: 相続税の申告期限から3年以内(相続開始から3年10ヶ月以内)に株式を売却した場合、支払った相続税の一部を株式の取得費に加算できる特例があります。この特例を利用することで、譲渡所得税金を軽減できるため、積極的に活用を検討しましょう。

7.名義変更を怠った場合のリスク

前述の通り、株式の名義変更をしないまま放置することは、多くのリスクを伴います。特に以下の点には注意が必要です。

1. 確定申告の必要性と準確定申告

準確定申告: 被相続人が亡くなる前に株式の売買をしていた場合、亡くなってから4ヶ月以内に「準確定申告」(被相続人の所得税金の確定申告)が必要になることがあります。故人の証券口座が「特定口座(源泉徴収あり)」であれば、源泉徴収が自動的に行われるため準確定申告は不要ですが、一般口座で売却益があり申告が未完了の場合は必要です。

相続税の申告期限: 株式の相続自体に名義変更の期限はありませんが、相続税の申告と納税は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内と決まっています。この期限を過ぎると、延滞税、無申告加算税、過少申告加算税といった追徴税金が発生する可能性があります。相続税の申告を怠った場合の時効は通常5年ですが、故意に脱税を目論んでいた場合は7年となります。

2. 株主の権利喪失リスク

名義変更を放置すると、最終的に株式の権利が失われる可能性があります。 株主の所在が不明な状態が5年間続くと、「所在不明株主」として扱われ、株式が競売にかけられたり、発行会社に買い取られたりすることがあります。また、非上場株式では、事業承継の観点から、一定の要件を満たせば「所在不明株主の株式の競売及び売却に関する特例」が適用され、5年が1年に短縮される場合もあります。

3. 配当金や株主優待の受け取り不可

名義変更が完了するまでは、株主名簿に故人の名前が記載されたままとなり、配当金や株主優待などの特典を受け取ることができません。未受領の配当金には時効が設けられており、通常3年から5年と会社によって異なります。この期限を過ぎると、配当金を受け取る権利も失われてしまうため、早期の名義変更が重要です。

8.株式相続の手続きは専門家への相談が安心

株式の相続手続きは、その性質や評価方法の複雑さから、専門的な知識と時間が必要となる場面が多くあります。特に非上場株式の評価や、複数の税金が絡む相続税対策、そして3年以内売却による特例の活用などは、専門家の助言なしに進めるのは困難でしょう。

相続専門の税理士や司法書士は、株式の調査から評価額の算出、遺産分割協議書の作成、名義変更手続き、相続税申告、さらには売却非上場株式対策に関するアドバイスまで、一貫してサポートを提供できます。複雑な手続きを円滑に進め、相続税の負担を最大限に軽減し、予期せぬトラブルを避けるためにも、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

keyboard_arrow_up

0455077744 問い合わせバナー 無料相談について