住宅ローンや事業資金の借入金を全額返済すると、担保として不動産に設定されていた抵当権を抹消できる状態になります。この抵当権抹消登記は法務局で行う手続きであり、登記簿上から担保設定の記載を消すことで、不動産の売却や追加融資をスムーズに行えるようになるメリットがあります。
ローンを完済しても、抵当権は自動的に消えるわけではありません。抹消するためには、所有者自身が法務局で申請手続きを行う必要があります。将来、不動産を売却したり新たな融資を受けたりする際には、抵当権抹消登記が完了していることが前提となります。もし手続きを放置したままにすると、後々の手続きが煩雑になり、スムーズに進められないといったデメリットが生じる可能性があります。
本記事では、抵当権抹消登記の基本的な流れ、必要な必要書類、費用、そして専門家である司法書士に依頼すべきケースについて解説します。
このページの目次
1.抵当権抹消手続きの基本的な流れ
抵当権抹消登記は、一般的に次の3つのステップで進められます。
1. 債務の完済と必要書類の受領
住宅ローンを完済すると、債権者である銀行などの金融機関から、抵当権抹消登記に必要な書類が交付されます。金融機関が登記手続きを代行してくれるわけではないため、完済後に送付されてくる書類の内容を速やかに確認することが重要です。
2. 必要書類の準備と申請書の作成
銀行から受け取った書類に加えて、抵当権抹消登記申請書など、自身で用意する必要書類を揃えます。
2-1. 金融機関から交付される主な書類
金融機関からは、ローン完済後10日前後を目安に郵送で以下の書類が届くことが多いです。
- 登記原因証明情報:借入金を完済し、抵当権を解除したことを証明する書類です。銀行によっては「抵当権解除証書」「弁済証書」「抵当権放棄証書」など、名称が異なる場合があります。
- 登記識別情報(または登記済証):抵当権設定時に発行された書類で、所有権の権利を証明する「権利証」とは異なりますが、登記手続きに必要な情報です。
- 委任状:本来、抵当権抹消は債権者(銀行)と所有者が共同で申請するものですが、所有者単独で手続きを行うために、銀行から所有者への委任を示す書類が必要です。
- 金融機関の資格証明書または会社法人等番号:銀行が法人として実在することを証明する登記事項証明書などです。2015年(平成27年)以降は、申請書に会社法人等番号を記載することで、この書面の添付を省略できます。
2-2. 所有者自身が用意する主な書類
所有者自身が用意する必要書類のメインは、抵当権抹消登記申請書です。 また、登記簿上の住所や氏名が現在の情報と異なる場合は、前提として住所変更登記や氏名変更登記が必要となり、そのために住民票や戸籍の附票、戸籍謄本などを追加で用意する必要があります。
3.登記申請書の作成と法務局への提出
抵当権抹消登記申請書は、法務局の公式サイトから書式をダウンロードして作成できます。
3-1. 申請書の主な記載事項
申請書には以下の内容を正確に記載する必要があります。
- 登記の目的:抹消する抵当権の順位番号を記載します。
- 原因:抵当権が消滅した日付(ローン完済日など)と原因(弁済または解除など)を記載します。
- 登記権利者:不動産の所有者の住所・氏名を記載します。
- 登記義務者:銀行などの金融機関の本店や商号、代表者名、会社法人等番号を記載します。
- 不動産の表示:抵当権抹消の対象となる不動産を、登記事項証明書の内容通りに記載します。
- 登録免許税:納付する登録免許税の総額を記載します。
- 連絡先の電話番号:法務局の担当者から連絡が来る場合に備え、平日の日中に連絡が取れる電話番号を記載します。不備があった場合、この連絡先に連絡が入り、法務局に出向いて補正(修正)作業を行う必要があります。
3-2. 申請方法
申請書と必要書類が揃ったら、不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。提出は窓口への持参、郵送、またはオンライン申請(電子文書の場合)が可能です。
2.抵当権抹消にかかる主な費用
抵当権抹消登記にかかる費用は、主に以下の3点です。
1. 登録免許税: 登記を行うことに対して課される税金で、原則として不動産1個につき1,000円です。土地と建物がある一般的な一戸建ての場合、合計で2,000円となります。登録免許税は、収入印紙を購入し、申請書に貼り付けて納付します。
2. 登記情報関連の「費用」: 事前に登記情報を確認するための費用や、登記完了後に抹消を確認するための登記事項証明書の取得費用がかかります。事前調査費用は1件あたり331円~361円程度、登記事項証明書の取得費用は1件あたり490円~600円程度です。
3. 雑費用: 郵送で申請や書類の受け取りを行う場合の郵送料や切手代などがかかります。また、銀行によっては書類発行(解除証書など)に手数料を指定する場合があります。
3.「司法書士」に頼むべきか?判断のポイント
抵当権抹消登記は、必要書類が全て揃っていて、複雑な事情がなければ、申請書を作成し、個人で申請することも可能です。この場合、司法書士に支払う報酬(費用)を節約できるのがメリットです。
しかし、以下のようなケースでは、正確性と迅速性を確保するため、登記の専門家である司法書士に依頼することが無難です。
1. 司法書士に依頼すべき主なケース
• 書類の紛失や不備がある場合:銀行から受領した書類を紛失したり、書類の記載内容に不備があったりすると、手続きが煩雑になり、時間がかかります。特に登記識別情報(権利証)は再発行ができないため、「事前通知制度」の利用や司法書士による「本人確認情報制度」の利用が必要となります。
• 不動産の売却を控えている場合:不動産売却の決済日までに確実に抵当権を抹消する必要があるため、迅速かつ正確な手続きが求められます。特に売却代金でローンを完済する場合、所有権移転登記と抹消登記を同時に行う必要があり、慣習として司法書士が対応します。
• 住所・氏名が変更されている場合:抵当権抹消の前に住所変更登記や氏名変更登記が必要となり、手続きが一つ増えるため、専門家に任せる方がスムーズです。
• 複雑な事案:相続が発生している場合、複数の金融機関が関わる場合、または古い抵当権で銀行の合併や商号変更があり、連絡先が不明な場合などは、手続きの難易度が大きく上がります。
2. 司法書士に依頼した場合の「費用」
司法書士に抵当権抹消登記のみを依頼した場合の報酬(手数料)は、一般的に1万円~2万円程度が相場とされています。これに前述の登録免許税やその他の実費用が加算されます。
4.手続きをスムーズに進めるための注意点
1. 必要書類はすぐに確認・管理する
住宅ローンを完済し、銀行から必要書類を受け取ったら、速やかに内容を確認しましょう。銀行が発行する資格証明書など、一部の書類には発行日から3ヶ月といった有効期限が設けられているものがあります。期間が空くと、再取得の手間が発生し、手続きが煩雑になる可能性があります。
また、登記識別情報は再発行ができないため、紛失してしまうと手続きが複雑化し、時間もかかります。受け取った書類は大切に保管し、完済後は早めに抹消登記を申請することが推奨されます。
2. 住所や氏名に変更がある場合は要注意
不動産の登記簿に記載されている所有者の住所や氏名が、現在の情報と異なる場合、抵当権抹消登記の前提として、住所変更登記または氏名変更登記が必要です。これらの変更登記にも、不動産1個につき1,000円の登録免許税が発生します。
3. 連絡先を正確に記載する
申請書には、法務局からの連絡を受けるための電話番号(平日の日中に連絡が取れるもの)を正確に記載しましょう。申請後に不備が見つかった場合、法務局の担当者から連絡があり、申請者が法務局に出向いて修正(補正)を行う必要があるためです。
5.お困りの場合は司法書士へご相談を
抵当権抹消登記は、住宅ローン完済後に不動産の自由な活用を確保するために必須の手続きです。登録免許税を含めた費用は少額ですが、必要書類の収集や申請書の作成には手間と時間がかかります。
完済後は、銀行から交付される必要書類を基に、速やかに手続きを開始しましょう。もし、書類の紛失、住所変更、相続といった複雑な事情がある場合や、ご自身で手続きを行う時間がない場合は、司法書士のような専門家に連絡し、依頼することを検討してください。これにより、確実かつ迅速に登記を完了させ、将来的なトラブルを未然に防ぐことができます。

神奈川県横浜市青葉区にある高野司法書士事務所の高野直人です。遺言書作成や相続登記、相続放棄など、相続に関する手続きを中心にお手伝いしています。令和6年4月から相続登記が義務化されたこともあり、不安や疑問をお持ちの方も多いかと思います。当事務所では、平日夜間や土日祝日の無料相談も行っており、お一人おひとりに丁寧に対応しています。どうぞお気軽にご相談ください。