亡くなった方のクレジットカード解約手続き

身近なキャッシュレス決済手段として利用されているクレジットカード。亡くなった方が生前に複数枚保有していたというケースも珍しくありません。しかし、相続手続きの際に意外と見落とされがちなのが、これらクレジットカードの解約です。

「もう故人は使わないのだから、そのままでも問題ないのでは?」と考えがちですが、実はクレジットカードを放置しておくことで、家族や相続人に不利益が生じるおそれがあるのです。

たとえば、以下のようなリスクがあります。

  • 未払い残高の請求:故人に残債(リボ払いや分割払いなど)がある場合、相続人がその支払い義務を負うことがあります。
  • 年会費の自動引き落とし:カードを放置しておくと、毎年自動的に年会費が請求されることがあります。
  • 不正利用のリスク:紛失や盗難に気づかず放置したカードが、第三者に悪用される可能性も否定できません。

また、クレジットカードにはポイントや特典、保険などの付帯サービスがついていることも多く、それらの処理も相続の一環として検討すべき重要事項です。

つまり、クレジットカードの解約は単なる「手続き」ではなく、「相続管理」の一部として正しく行うことが求められるのです。

本記事では、クレジットカード解約の具体的な流れや必要書類、注意すべき点、相続放棄や支払い義務との関係などを詳しく解説します。

1.相続とクレジットカードの関係

被相続人(亡くなった方)が契約していたクレジットカードは、死亡により自動的に「解約される」と誤解されがちですが、実際には相続人側で正式な手続きを行わなければ、契約状態がそのまま残ってしまうことが多いのが現実です。

1. クレジットカード契約は「個人契約」

クレジットカードの契約は、あくまで個人とカード会社との間で結ばれるものです。契約者が死亡した場合には、カード会社に対してその旨を連絡し、必要な手続きを経て解約処理をしてもらう必要があります。

このとき、未払い残高がある場合には、原則として相続人に支払い義務が引き継がれます(相続放棄をしない限り)。したがって、カードの利用明細や残債の有無を必ず確認しておくことが大切です。

2. 死亡後も引き落としが継続するリスク

クレジットカードには、年会費や各種サービス料が定期的に発生するものもあります。死亡後も銀行口座が凍結されるまでの間に、引き落としが行われることがあります。

また、公共料金や定期購読などをカードで支払っていた場合、それらも自動で継続されてしまう恐れがあります。

死亡した事実をカード会社に迅速に伝えない限り、こうした「無駄な引き落とし」や「請求」が続いてしまう可能性があるため注意が必要です。

3. ポイント・マイルなどの付帯サービス

クレジットカードには、利用に応じて貯まるポイントや航空会社のマイルなどの付帯サービスがあります。これらは原則として現金のような法定通貨ではないため、法的には相続財産に該当しないという考え方が一般的ですが、実際にはカード会社やマイレージプログラムごとに対応が異なります。

たとえば、航空会社のマイルについては、所定の手続きにより相続(名義変更)できる制度を設けているケースが多くあります。ANAやJALなどの国内大手航空会社では、相続人からの申請に基づき、被相続人の保有マイルを家族に移行することが可能です(所定の条件あり)。

一方、クレジットカードのポイントについては相続不可としているカード会社も少なくありません。死亡と同時に自動的に失効するケースが多いため、ポイントを有効活用するには、生前に家族カードを持ってもらうなどの工夫が必要です。

したがって、マイルやポイントが多く貯まっている場合には、利用規約や相続時の対応についてあらかじめ確認しておくことが重要です。

2.解約手続きの流れと必要書類

亡くなった方が保有していたクレジットカードは、原則として速やかに解約手続きを行う必要があります。解約を怠ると、年会費が自動で請求されたり、不正利用による損害が発生するおそれがあります。この章では、解約手続きの一般的な流れと必要書類について解説します。

1. カード会社への連絡

まず最初に行うべきは、クレジットカード会社への死亡の通知です。連絡先は、カードの裏面や公式ホームページに記載されています。多くの場合、「会員様が亡くなられた場合の連絡先」や「死亡時の専用窓口」が用意されています。

電話での連絡時に伝える主な内容:

  • 会員の氏名・生年月日
  • 会員の死亡日
  • 死亡した旨の報告
  • 相続人または手続きを行う家族の氏名・連絡先

カード会社によっては、連絡を受けた時点でカードを即時停止し、今後の利用をブロックする措置が取られます。

2. 必要書類の提出

カード会社によって多少異なりますが、解約の際に提出を求められる主な書類は以下のとおりです。

必要書類内容・取得先
死亡診断書または除籍謄本死亡を証明するために必要。市区町村役場で取得可能。
相続人であることの証明書類戸籍謄本など。法定相続人であることを確認するため。
本人確認書類(相続人)免許証、マイナンバーカード、パスポートなど。
解約申請書(所定様式)カード会社指定の解約届。公式サイトでダウンロード可能なことも。

※会社によっては、郵送での対応、または専用のフォームによる提出が求められる場合もあります。

3. 支払い残高の精算

解約手続きにあたっては、亡くなった方のカードに未払い残高があるかどうかを確認する必要があります。残高がある場合、その分の精算(支払い)が済まない限り、正式な解約はできません。

支払いについては、原則として相続人が引き継ぐことになります。ただし、相続放棄を選択すれば、債務の支払い義務は免除されます。この点は後述の「4.相続放棄との関係」で詳しく解説します。

3.解約後にやるべきこと

クレジットカードの解約手続きが完了しても、遺族としてやるべき作業はまだ残っています。解約後の確認不足により、後から思わぬ請求やトラブルが発生することもあります。この章では、解約後に確認・対応しておきたいポイントを紹介します。

1. 利用履歴と請求内容の確認

カードの利用明細やWEB明細を確認し、亡くなった後に不正な利用がされていないかをチェックすることが重要です。場合によっては、解約の連絡をする前に自動引き落としや決済が行われているケースもあります。

特に注意すべきは以下のような項目です:

  • サブスクリプション(定額課金サービス)
  • 公共料金などの継続的な支払い
  • ネットショッピングでの購入履歴
  • キャッシングやローンの利用

不正利用や不要な課金が見つかった場合には、速やかにカード会社に連絡し、停止または取り消しの申請を行いましょう。

2. 付帯サービス・ポイントの扱い

亡くなった方のカードに付帯していたサービス(旅行保険、ショッピング保険、空港ラウンジ利用など)は、解約と同時にすべて無効になります。それに伴い、クレジットカード会社が提供していたポイント(例:Tポイント、dポイント、楽天ポイントなど)も、基本的には消滅します。

ただし、一部のポイントサービスでは、相続によってポイントを引き継げる制度を設けている場合もあります。たとえば、ANAやJALのマイルは、一定の条件下で相続手続きを行うことで引き継ぐことが可能です。各カード会社・ポイント運営元に確認し、手続きを進めてください。

3. 複数枚持ちの確認

高齢の方や経営者の方などは、複数枚のクレジットカードを所持していることが少なくありません。1枚を解約しても他のカードが残っていることもあるため、亡くなった方の郵便物や通帳、引き落とし口座の履歴を確認し、見落としのないよう全カードの把握と解約を行いましょう。

4.相続放棄との関係と注意点

クレジットカードの債務は、亡くなった方が残した「負の財産(債務)」として扱われるため、相続放棄との関係は非常に重要です。特に、カードの利用残高がある場合や支払い状況が不明な場合には慎重な対応が必要です。

1. 相続放棄とクレジットカードの債務

相続放棄とは、相続人が「一切の財産(プラスの財産もマイナスの財産も)を受け取らない」ことを選択する制度です。家庭裁判所に申述し、受理されれば最初から相続人ではなかったことになります。

クレジットカードの未払い残高やキャッシング債務などもこの「マイナスの財産」に含まれます。相続放棄をすれば、こうした債務を支払う義務も免れることになります。

ただし注意が必要なのは、以下のような「相続を単純承認した」とみなされる行為をしてしまうと、相続放棄が認められなくなる可能性があるという点です。

2. 相続放棄が認められなくなる行為とは?

相続放棄をするには、原則として「被相続人が亡くなったことを知った日から3か月以内」に申述を行わなければなりません。しかも、その期間内であっても、次のような行為をすると、「相続を承認した」とみなされる可能性があります。

  • カード明細を精査せずに支払ってしまう
  • 相続財産の一部(預金や不動産など)を処分・引き出す

これらの行為は、相続人として財産の処分をしたとみなされる可能性があり、相続放棄が認められなくなることもあります。悪意がなかった場合でも単純承認と判断されるリスクがあるため、十分な注意が必要です。

3. 相続放棄を検討する場合の対応

クレジットカードの債務が明らかでない場合や、複数のカードがあった可能性がある場合は、まず以下の手順で対応するのが安全です。

  • すぐにカード会社への返済等を行わない
  • 亡くなった方の財産調査を進める(通帳・郵便物などを確認)
  • 法律の専門家に相談し、相続放棄するかどうかを判断
  • 相続放棄をする場合は家庭裁判所に申述

相続放棄が受理された後は、クレジットカード会社から相続人に対して支払い請求が来た場合でも、「相続放棄済み」である旨を伝えれば支払う義務はありません

5.早めの対応と専門家への相談が安心

クレジットカードは便利な反面、相続手続きにおいて見落とされやすく、残債やポイント・マイルの扱いを誤ると、相続人に思わぬ負担をかけることもあります。また、カード会社への解約連絡の遅れが原因で、遅延損害金が発生するケースや、信用情報に影響を与えるリスクも考えられます。

特に、亡くなった方が複数のカードを契約していた場合や、カードローンなどの債務が残っていた場合には、相続放棄を含めた慎重な判断が求められます。その際、書類の取り寄せや相続関係の整理など、対応すべき手続きは多岐にわたります。

こうした複雑な手続きをスムーズに進めるためには、相続に精通した専門家に相談することが非常に重要です

高野司法書士事務所では、横浜市青葉区を中心に、相続や不動産の名義変更、相続放棄など幅広い相続手続きに対応しており、多くのご相談者様から信頼をいただいております。クレジットカードの解約に関するサポートはもちろん、預貯金や不動産などを含めた相続全体のトータルサポートが可能です。

「何から手をつけていいかわからない」「カード会社への連絡が不安」という方も、どうぞお気軽にご相談ください。専門家の視点で、安心・確実な手続きをお手伝いさせていただきます

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