両親が続けて亡くなった場合の相続手続き

相続というと「人が亡くなったときに一度きりで発生するもの」と思われがちですが、実際には、相続手続きが一度で完結しないケースも少なくありません。特に、両親が短期間のうちに相次いで亡くなった場合などには、相続の手続きが「数次相続(すうじそうぞく)」として重なって発生することになります。

たとえば、父が亡くなり、母が相続人となってその財産を相続した直後に、今度は母も亡くなったとします。この場合、父の財産の一部はすでに母に移っているため、母の相続においては「父から母に渡った財産」も再び子どもたちへと相続される対象になります。

このように、複数の相続が連続して発生する状態が「数次相続」と呼ばれますが、その手続きは非常に煩雑で、遺産分割協議書の作成や名義変更なども通常の相続よりも手間がかかります。しかも、相続人の人数が増えていくことで、協議の調整や書類収集にも多くの時間と労力がかかるのです。

本記事では、両親が続けて亡くなった場合に発生する数次相続のしくみや、遺産分割協議書の作成に関するポイント、実務上の注意点について、具体的な事例も交えながらわかりやすく解説します。相続に関する不安や悩みをお持ちの方が、今後の手続きで迷わず対応できるよう、ぜひ参考にしてください。

1.両親が相次いで亡くなった場合に起きる「数次相続」とは

「数次相続(すうじそうぞく)」とは、ある相続が完了しないうちに、相続人の一人が亡くなり、次の相続が発生することをいいます。特に高齢化が進んだ現代では、夫婦が数年以内、あるいは数ヶ月以内に続けて亡くなることは決して珍しくありません。

具体例で見る数次相続

たとえば、家族構成が以下のような場合を考えてみましょう。

  • 父(被相続人1)死亡:相続人=母と子2人(長男・長女)
  • 父の遺産:不動産、自動車、預貯金など
  • 母(被相続人2)死亡:相続人=子2人(長男・長女)

このとき、父の相続手続きを完了しないうちに母が亡くなると、「父の遺産のうち母が取得する予定だった部分」も含めて母の相続財産となり、再度、相続手続きを行う必要があります。

結果として、以下の2つの相続手続きが必要になります。

  1. 父から母・子への相続(第1次相続)
  2. 母から子への相続(第2次相続)

このような相続の連鎖が「数次相続」です。

数次相続が発生するとどうなるか?

数次相続になると、遺産分割協議書を2通作成しなければならない場合があります。また、第1次相続の遺産分割を行う時点で、第2次相続の相続人がまだ相続人として確定していない場合(例えば、母の兄弟姉妹など)は、第1次相続の遺産分割協議に参加する人が増える可能性があります。

さらに、以下のような問題も発生しやすくなります。

  • 相続人の人数が増え、協議がまとまりにくい
  • 調査しなければならない戸籍が増える
  • 相続税の計算が複雑になる
  • 登記や金融機関の手続きも2段階で必要になる

このように、両親が相次いで亡くなった場合の相続は、手続きが通常の倍以上に膨れ上がるリスクがあるのです。

2.数次相続における遺産分割協議書の作成方法と注意点

両親が続けて亡くなったケースでは、遺産分割協議書を適切に作成しないと、後々の相続登記や預貯金の解約手続きに支障をきたす可能性があります。ここでは、数次相続における遺産分割協議書の作成方法と、その際に注意すべきポイントについて解説します。

1. 協議書は原則として相続ごとに作成する

数次相続の場合、原則として相続が発生したごとに1通ずつ、別々の遺産分割協議書を作成します。

たとえば、次のような2段階の相続があった場合:

  • 第1次相続:父 → 母・長男・長女
  • 第2次相続:母 → 長男・長女

この場合は、

  • 「父の相続に関する遺産分割協議書」
  • 「母の相続に関する遺産分割協議書」

をそれぞれ作成する必要があります。

なお、実務上は2つの相続をまとめて1通の協議書で記載する遺産分割協議書を作成するケースもあります。

2. 協議の参加者(相続人)を正確に把握する

数次相続では、相続人が世代をまたいで増加することがあります。たとえば、母が父の死亡後に遺産を受け取らないまま亡くなった場合、その相続権は母の法定相続人(たとえば母の兄弟姉妹など)に相続されるため、その人たちも遺産分割協議に加わる必要があります。

相続人の調査は「戸籍謄本」や「除籍謄本」「改製原戸籍」などを取り寄せて行い、正確に関係者を把握しなければなりません。

3. 代襲相続の確認も忘れずに

父が亡くなった時点で、相続人の一人(たとえば長男)が既に死亡していた場合、その長男の子どもが「代襲相続人」となります。こうした代襲相続も数次相続と同様に発生しうるため、遺産分割協議書の作成に際しては、すべての関係者を正しく把握する必要があります。

4. 相続財産の名義人に注意

遺産分割協議書を作成する際には、相続財産の「名義人が誰であるか」を明確にします。父名義の不動産は第1次相続の対象となり、母が取得した場合、その後の第2次相続では「母名義の不動産」として再度分割の対象になります。

このように、相続財産の名義を確認せずに手続きを進めると、協議書の内容に矛盾が生じ、登記や金融機関の手続きでトラブルになる恐れがあります。

5. 協議書には印鑑証明書の添付が必要

遺産分割協議書には、協議に参加した相続人全員の署名・実印の押印が必要です。また、実印の押印があることを証明するために、市区町村で発行される「印鑑登録証明書」を添付する必要があります。これがなければ、登記や預貯金の名義変更ができません。

3.数次相続で特に注意すべき5つのポイント

数次相続は、通常の相続と比べて手続きが煩雑で、相続人の数も多くなりがちです。この章では、実務上特に注意すべきポイントを5つに絞って詳しく解説します。

1. 相続人の確定に時間がかかる

数次相続では、複数の相続が連続して発生するため、すべての相続人を特定するのに時間がかかります。特に、先に亡くなった方の相続人がさらに亡くなった場合には、その人の法定相続人(配偶者や子、場合によっては兄弟姉妹など)まで調査の対象になります。

相続関係が複雑になると、戸籍の収集範囲が広がり、数十通以上の戸籍を取り寄せる必要があるケースも珍しくありません。また、相続人の一部が海外に在住していたり、長期間音信不通だったりすると、さらに時間と労力がかかります。

2. 不動産の登記が2段階必要になることがある

たとえば、父が亡くなった際に相続登記をしないまま母も亡くなってしまった場合、相続登記は本来であれば「父→母→子」の2段階で行う必要があります。このとき、まず父から母へ相続登記をし、そのうえで母から子への相続登記を行うという流れになります。

ただし、父の財産を一度すべて母が相続し、さらにその母の財産を子が単独で相続するという形であれば、「父→子」の登記を1回の申請でまとめて行うことが可能です。これを「中間省略登記」と言い、法務局はこのようなケースにおいて、連続した相続であればまとめて1件での登記申請を認めています。

3. 遺産分割協議が複雑になりやすい

相続人が増えると、それだけ利害関係も複雑になります。数次相続では、「父の遺産の分割」「母の遺産の分割」と、相続対象となる財産も複数あるため、どの財産を誰がどの相続として取得するか、明確にしなければなりません。

また、遺産の内容が不動産や金融資産など多岐にわたる場合、誰が何をどのように取得するかをめぐって、相続人同士の意見が分かれることもあります。このような状況を避けるには、できる限り早い段階で話し合いを始め、必要に応じて司法書士や税理士などの専門家に相談することが有効です。

4. 遺産の評価時点が異なる

数次相続では、相続税の申告において、それぞれの相続時点で財産評価を行う必要があります。たとえば、父の相続が令和元年に発生し、母の相続が令和6年に発生した場合、それぞれの財産はその相続時点の時価で評価されることになります。

不動産や株式などの資産は、数年の間に大きく価値が変動することもあり、評価を誤ると後の税務調査で追徴課税を受けるリスクもあります。そのため、税務上の適正な評価が求められ、税理士などの専門家との連携が不可欠です。

また、このように短期間に連続して相続が発生した場合には、「数次相続控除)」の適用が検討できます。これは、最初の相続で納めた相続税について、次の相続で一定の条件を満たすことで一部を控除できる制度です。具体的には、最初の相続から10年以内に次の相続が発生し、かつ最初の相続で相続税を納付していた場合、次の相続でその負担が二重にならないように一部相続税を軽減できる仕組みです。

5. 遺言書の有無によって対応が大きく変わる

もし両親のどちらか、または両方が遺言書を残していた場合、遺産の分け方や相続人の構成が大きく変わる可能性があります。たとえば、「父の遺産はすべて母に相続させる」という遺言がある場合、父の相続分については遺言が優先されるため、その後の母の相続にすべての遺産が引き継がれることになります。

逆に、遺言がない場合や内容に不備がある場合は、法定相続分に従って分割する必要があるため、遺産分割協議が不可欠になります。遺言書の存在や内容は、数次相続の全体設計に関わる重要な要素です。

4.数次相続を円滑に進めるための実務ポイント

数次相続の手続きをスムーズに進めるには、いくつかの実務的なポイントを押さえることが大切です。

1. 相続人の関係図(家系図)を早い段階で作成する

相続手続きの第一歩は、相続人の把握から始まります。数次相続の場合、「父→母→子」と相続関係が複雑になるため、家系図を用いて関係性を可視化することが非常に有効です。

また、戸籍の収集もこの図に基づいて行うことで、漏れなく、効率よく作業を進めることができます。

2. 相続財産目録を丁寧に作成する

父と母の遺産を明確に区別し、それぞれの相続に応じた財産を把握する必要があります。預貯金、不動産、有価証券、自動車、借入金などを一つひとつリスト化し、どちらの相続で取得したかを明記すると、後の遺産分割協議や登記手続きがスムーズに進みます。

財産目録は、将来的なトラブルを防ぐための証拠資料にもなります。相続税の申告が必要なケースでは、評価額を含めた財産目録を作成し、税理士と連携することも重要です。

3. 遺産分割協議書は1つにまとめる?2つに分ける?

父母の遺産を同時に処理する際、遺産分割協議書を「1通でまとめて作成する」か「2通に分けて作成する」かは、状況に応じて選択することになります。

1通でまとめるメリット:

  • 相続人の署名押印が1回で済む。
  • 実務負担が少ない。

2通に分けるメリット:

  • 父と母の財産を明確に区別でき、将来的な証明に便利。
  • 税務処理上の整理がしやすい。

相続財産の内容や相続人間の合意状況、手続き先の要件などを踏まえて判断すると良いでしょう。

5.数次相続を放置しないために

両親が相次いで亡くなった場合に発生する「数次相続」は、通常の相続よりも手続きが複雑になり、相続人にかかる負担も大きくなります。戸籍の収集、財産の確認、遺産分割協議書の作成、不動産や預貯金の名義変更など、やるべきことは多岐にわたります。

特に注意が必要なのは、「とりあえず手続きを後回しにしておく」という判断です。相続人が増え続けることで協議がまとまりづらくなり、不動産の処分や金融資産の引き出しも困難になるリスクがあります。また、相続税の申告期限(10か月)を過ぎてしまえば、加算税や延滞税の対象にもなりかねません。

したがって、数次相続が発生した場合には、できるだけ早期に全体像を整理し、相続人全員が納得できる形で遺産の分割や名義変更を進めることが大切です。

そのためには、相続に精通した専門家に相談し、法的に正確かつ実務的に効率のよい方法を選択することが重要です。戸籍の収集から名義変更の手続きまでをワンストップで対応できる司法書士に相談することで、精神的な負担も軽減され、スムーズな解決へとつながります。

相続手続きでお困りの方は、高野司法書士事務所へご相談ください。当事務所では、横浜市青葉区を中心に、緑区・都筑区・町田市など周辺地域からも多数のご相談をいただいております。数次相続や複雑な相続手続きにも対応可能です。初回相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。

keyboard_arrow_up

0455077744 問い合わせバナー 無料相談について