トラブルを未然に防ぐ遺言書とは

遺言書がない場合は、相続人全員で遺産(相続財産)を共有している状態となり、それぞれの相続財産を各相続人の単独所有とするには遺産分割協議が必要です。この遺産分割協議では、各相続人のそれぞれの思惑が交錯します。

例えば、相続人の一人が何十年も親と同居して介護をしていたのなら、親の相続の際は自分が多めに財産を相続したいと考えるでしょう。かたや親と同居していない相続人からしたら、同居している相続人が親の財産を使い込んでおり、本来はもっと財産があったのではないかと考える可能性もあります。

また、相続人の一人が親から生前に多額の贈与を受けていたとしたら、他の相続人は贈与を受けた相続人の相続分を少なくしたいと思うかもしれません。

このように、各相続人の思惑が複雑に絡まり合い、それぞれの立場で自らの権利を主張しあうと遺産分割協議は紛糾し、相続手続きは暗礁に乗り上げます。

遺言書があればこの遺産分割協議の手続きを不要にすることが出来ます。遺産相続では遺言者の意思が最優先されるのです。

ただし、どのような内容の遺言書でも良いわけではありません。相続トラブルを未然に防ぐ遺言書とはどのようなものか見ていきましょう。

1.有効な遺言書を作成する

遺言書はいつ書くのが良いのでしょうか。これについては様々な回答があると思いますが、心身ともに元気なうちに書くのが良いと考えます。遺言書はいつでも書き直すことが出来ますので、まずは現時点での遺言書を作成してみようという少し気軽な気持ちでも良いのです。

遺言書作成は、遺言能力(遺言の内容を理解して、その結果として相続開始後にどのようなことが起こるか理解しうる能力)が必要です。認知症が進んでから作成した遺言書は、遺言能力を巡って相続トラブルの原因になることがあります。

また、遺言書の作成方法は法律で厳格に定められています。遺言者が真意に基づいて遺言を作成したことを確かなものにするためです。せっかく遺言書を用意しようと思っても自由気ままに書いてしまっては要件を満たさず無効になってしまうリスクがあります。要件を満たした適法な遺言書を作成することが重要です。

2.内容が明確な遺言書を作成する

適法に作成された遺言書でもその内容が不明確な場合は遺言書の解釈を巡ってトラブルとなることがあります。

例えば、遺言書で「〇〇市の土地は子供に任せる。」と書いた場合、土地を相続させるのか管理だけを任せるのかが判然としません。

また、「〇〇市の土地」や「子供」といった不明確な書き方ではなく、「私所有のA土地(不動産登記事項証明書を取り寄せて詳細を記載する)」や「長男〇〇」と財産や相続させる相手を特定できる方法で記載すべきです。(例「私所有のA土地については、長男〇〇に相続させる。」)。

遺言書は可能な限り有効となるように解釈するものとされていますが、無用な相続トラブルを避けるためにも明確な内容の遺言書を作成するようにしましょう。

また、財産を承継する相手が法定相続人であれば「相続させる」、法定相続人以外であれば「遺贈する」という記載の仕方をすることが望ましいです。「譲る」「任せる」「託す」「与える」などの表現は使用しないようにしましょう。

3.遺留分に配慮する

一部の相続人には遺言によっても奪うことのできない、法律によって最低限保障された相続分があり、これを遺留分と言います。

たとえば、長男と次男が相続人である場合、遺言で「自分の財産のすべては長男に相続させる」という遺言を残すとします。この場合、次男には相続する財産が何もありません。

それではあまりにも不公平なので相続人の生活保障のため、次男は、すべての財産を相続した長男に対し、一定の割合で金銭による保障を求めることが出来ます。

これを遺留分侵害額請求権と言います。遺留分を侵害する遺言も無効ではありませんが、相続開始後に相続人間でトラブルの原因になりますので遺留分に配慮した遺言を作成することが重要です。

4.予備的遺言を盛り込む

遺言書で財産を相続させると指定した相手が遺言者よりも先に亡くなった場合、遺言書の該当部分は無効となり、その財産については遺言者の法定相続人で遺産分割協議をする必要があります。このような事態を避けるため、遺言書に予備的遺言の条項を入れることが出来ます。

予備的遺言とは、遺言書作成後に一定の事由が発生する場合に備え、その事由が発生した場合に別の効果を発生させる旨の内容の予備的な遺言のことです。財産を相続させると指定した相手が遺言者より先に(同時を含みます)亡くなっていた場合には、当該財産を誰に承継させるのか、予備的遺言の条項を定めるようにしましょう。

5.相続税を考慮する

平成27年の相続税改正により、基礎控除額が引き下げられた結果、相続税がかかる事案が2倍になったと言われています。

相続税の節税などを考慮した遺言書を作成したい場合、税理士への相談は必須になります。相続人の誰にどの財産を相続させるかによって特例利用の可否が決まり、それによって相続税が大きく変わることがあるからです。

また、財産を取得した相続人が相続税を支払う現金を確保出来るかどうかも検討しなければなりません。不動産のみ取得した相続人が納税資金を現金で用意出来ず相続税を支払えない状況になるのは遺言者にとっても本望ではないでしょう。

弊所では相続に強い税理士と連携しておりますので相続税に関するお悩みも同時に解決することが可能です。

6.定期的に見直す

遺言書は作成したら終わりではありません。遺言書は遺言者の死亡をきっかけに効力が生じます。遺言書作成から数十年経過していることも珍しくありません。

その間、遺言者を取り巻く状況が変化する、遺言者の気持ちが変化する、遺言者の財産内容が変化するなどの事情により、遺言書に書いた内容が現状にそぐわないということが起こりえます。そのため、遺言書は定期的にメンテナンスをすべきなのです。

例えば、結婚や離婚、出産などの状況変化や、親しい家族や友人との仲たがい等による気持ちの変化、不動産や自動車など高価なものを購入、売却したことによる財産内容の変化、このような変化があっても無くっても、数年に一度は遺言書の内容が現時点で最適なものとなっているか確認することが重要です。

7.各相続人の気持ちに配慮する

遺言書を書くということは、これまでに築いてきた財産について考え、苦楽をともにしてきた愛する家族への想いを確かめることでもあります。自分の死後、家族にどうなって欲しいか、財産をどう守っていって欲しいか等の願いを自分の人生を振り返りながら真剣に考える良い機会です。

各相続人の幸せを願いながら遺言書を作成していただきたいと思います。したがって、相続人間で著しく不平等になるような遺言書は相続トラブルのもとになりますので避けるべきでしょう。

また、財産を平等に分配することが難しい場合は付言事項を上手く活用して、財産を多く分配出来ない相続人へのメッセージを残し、理解を得られるように努めましょう。

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