前述したように、相続放棄は①「被相続人が亡くなったこと」と②「自分が相続人になったこと」を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に相続放棄の申立てをしなければいけません。
この3ヶ月の期間のことを熟慮期間といいます。この「被相続人が亡くなったこと」と「自分が相続人になったこと」の2つの要件が揃って初めて期間が進行します。
よって次のようなケースでは、被相続人が亡くなってから3ヶ月を経過していても相続放棄の申立が認められます。
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被相続人が亡くなったことを知らなかったケース
生前から被相続人と疎遠だったとすると亡くなった事実もすぐには知らされないケースがあります。しばらく経って、被相続人の親族などからの連絡で、被相続人が亡くなったことを知ることになります。
この場合、親族から連絡があった時に「被相続人が亡くなったこと」と「自分が相続人になったこと」を知りますので、その時点から3ヶ月の期間が進行します。
自分が相続人になったことを知らなかったケース
法定相続人の順位
- 第1順位 子供や孫(直系卑属)
- 第2順位 父母や祖父母(直系尊属)
⇨親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
- 第3順位 兄弟姉妹
※配偶者は常に相続人
第1順位の子供全員が相続放棄をすると、相続権は孫には行かず、次の第2順位である父母に移り法定相続人になります。父母双方が相続放棄をすると、次に親等が近い祖父母に相続権が移ります。
祖父母双方(及びその上の代を含むすべての直系尊属)がすでに亡くなっていたり、相続放棄をすると相続権は第3順位の兄弟姉妹に移り法定相続人になります。
先の順位の相続人が相続放棄をした場合、(自動的に次の順位の者が相続人になりますが、)放棄したことを次の順位の相続人に知らせなければ、(被相続人が亡くなったことは知っていたとしても)次の順位の相続人は自分が相続人になったことに気づきません。
このまま気が付かなければいつまで経っても3ヶ月の期間制限は始まりませんし、何かをきっかけに被相続人が亡くなったことと自分が相続人になったことを認識したなら、その時点から3ヶ月の期間が進行します。
上記2つのケースでは、被相続人が亡くなってから3ヶ月を経過しているので、「被相続人が亡くなったこと」と「自分が相続人になったこと」を知った時から3ヶ月が経過していないことを家庭裁判所に書面で説明する必要があります。
そのため、被相続人が亡くなってから3ヶ月以内に申し立てる相続放棄よりも難易度は高くなります。
申立て書類に不備があっても、相続放棄の申述はやり直すことは出来ません。このようなケースでは、相続放棄の申立てに精通した司法書士にご相談いただくことをおススメ致します。
被相続人に多額の借金があることを知らなかったケース
ここまで見てきたのは①「被相続人が亡くなったこと」と②「自分が相続人になったこと」のどちらかあるいは両方の要件が揃わないため、熟慮期間が進行せず相続放棄の申立ての手続きが可能なケースでした。
これからご紹介するのは、熟慮期間が既に経過しているケースです。
被相続人が生前に多額の借金を抱えていたとしても、それを相続人には秘密にしたまま亡くなってしまうということはあり得ることだと思います。
被相続人の債権者は、相続人が相続放棄したかどうかを家庭裁判所に照会することが出来ます。相続人が相続放棄をしていないことが分かると、被相続人が亡くなってから3ヶ月を経過したころに(あるいはもっと後に)、相続人に宛てて督促状を送付してきます。
例えば、被相続人が父親で、相続人が母親と子供2人という家族で、全員同居していたのであれば、各相続人は「被相続人が亡くなったこと」も「自分が相続人になったこと」も被相続人が亡くなった時点で認識します。
しかし、熟慮期間が経過してから、相続人が被相続人の借金の存在に気付いた場合に、期間を経過しているという理由だけで、相続放棄を認めないのであれば、相続人にとってかなり酷な話になります。
そこで、熟慮期間が経過しても「特別な事情」がある場合は、例外的に相続放棄の申述が認められる場合があります。
しかし、この「特別の事情」を家庭裁判所にうまく説明出来るかどうかで相続放棄の申立ての結果に大きな違いを生むことになります。
「特別な事情」と認められるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
- 被相続人に相続財産が全くないと信じていたこと
- 被相続人に相続財産が全くないと信じたことについて正当な理由があること
- 相続人に相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があること
この3つの要件を満たす場合には「特別な事情」ありとして、3ヶ月の熟慮期間を「相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時」からスタートさせるとしています。
要するに、「借金の存在を認識した時点」から3ヶ月以内に相続放棄の手続きを行えば良いことになります。
熟慮期間を経過した相続放棄申述の申立てをご自身で作成されるのはかなり難解な作業になると思われます。熟慮期間内の相続放棄の手続きに比べ難易度は格段に上がりますし、ご自身で申立てをされて家庭裁判所に受理されなかった場合、ご自身の人生を台無しにしてしまうことになりかねません。
当事務所では熟慮期間を経過した相続放棄の手続きも多数ご依頼いただいております。個別に事情をお伺いしながら相続放棄が認められるように考慮した書類を作成することが可能です。
熟慮期間を経過した相続放棄の手続きはスピードが命です。不安やお悩みから解放されるため、少しでも早くご相談ください。