遺言執行者とは、相続開始後に遺言書の内容を実現する手続きを行う人を指します。遺言執行者がいる場合は遺言執行者が単独で相続手続きを行えますし、他の相続人が勝手に相続財産を処分することを防ぐことも出来ます。
遺言執行者がいない場合にも相続手続きを行うことは可能ですが、相続人が遺言書に従ってくれない可能性もあります。
また、相続人全員の署名捺印を求めなければならないなど手続きが大分煩雑になり、遺言書がない場合と同様の手間が必要になる場合もあります。自分の残した遺言書を確実に実現させるためには、遺言書で遺言執行者を定めておくことをおススメいたします。
このページの目次
遺言執行者を選任する方法
①遺言書で定める
もっとも一般的な方法が、遺言者が遺言書で指定する方法です。指定された者は遺言執行者への就任を拒否することが出来ますので、予め了承を得ておいたほうが安心です。
また、遺言書で指定する場合は、遺言執行者の権限の範囲やその報酬額(報酬を与える場合)なども定めておくようにします。
②第三者に決めてもらう
遺言書で遺言執行者自体を指定するのではなく、遺言執行者を決めてもらう人を指定する方法です。遺言書作成時と相続発生時では相続財産を含めて状況が変わってくるため、相続発生時に最適な人を遺言執行者に選任できるようにしておく方法です。
③家庭裁判所に決めてもらう
遺言書に遺言執行者に関する指定がない場合、遺言執行者に指定された者が就任を拒否した場合、遺言執行者に指定された者が死亡している場合などは、相続人や受遺者などの利害関係人が家庭裁判所に遺言執行者の選任請求を行うことが出来ます。
人選を誤ると遺言書の内容が実現されない可能性もあります。周りに適任者が見つからない場合は、弁護士や司法書士などの専門家を遺言執行者に選任することが出来ますので、検討してみてください。
遺言執行者になれる者
未成年者と破産者は遺言執行者になることが出来ません。それ以外の者であれば誰でも遺言執行者に就任することが出来ます。
遺言執行者を定めるべき場合
遺言執行者を定めるかどうかは任意ですが、以下の場合には遺言執行者を定めなければなりません。
①遺言書で認知をする場合
遺言書で遺言者が認知をしている場合、遺言執行者は、その就職の日から10日以内に認知の届け出をしなければなりません。
②相続人の廃除、廃除の取消をする場合
遺言書で遺言者が推定相続人の廃除や廃除の取り消しをしている場合、遺言執行者は、遅滞なく、その推定相続人の廃除や取り消しを家庭裁判所に請求しなければなりません。
遺言執行者の職務の進め方
1.自筆証書遺言書の検認
自筆証書遺言書(法務局で保管されているものを除く)や秘密証書遺言書は、家庭裁判所での遺言書検認手続が必要となります。
2.就任通知書を送付
遺言執行者に指定された者はその就任を承諾するかどうかを選択することが出来ます。就任を承諾する場合は、遅滞なく遺言書の写しを添えて自らが遺言執行者に就任した旨を相続人全員に対して通知します。
3.相続財産の調査
遺言者のすべての財産を調査します。現金や預貯金、不動産などのプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も含まれます。ここで調査した財産に漏れがあると相続税の計算なども間違えてしまいますので、慎重に調査することが重要です。
4.相続人の調査
相続財産の調査と同時に相続人の調査も開始します。戸籍謄本などを取得し、相続人の範囲を確定させます。戸籍の取得に関する知識も必要になり、不慣れな方にとっては骨の折れる作業になります。戸籍の取得等でお困りになったら相続業務に精通している弁護士や司法書士に相談されることをおススメします。
5.財産目録の作成
預貯金の残高証明書、不動産の登記済権利証、登記事項証明書、名寄帳などを確認して、被相続人の財産を把握し、財産目録を作成します。財産目録が完成したら相続人全員に対して交付します。
6.遺言の執行
遺言書に記載された内容に従って相続人や受遺者に財産を引き渡します。不動産の相続登記や預貯金の解約、有価証券の名義変更などの手続き、認知の届出、家庭裁判所への廃除やその取り消しの請求などの手続きを行います。
7.業務完了報告
すべての遺言執行業務が完了したら、報告書を作成して相続人全員に送付します。
遺言執行者の義務
遺言執行者は例えば以下のような義務を負っています。義務に違反すると解任されたり、損害賠償責任を負う可能性もあります。
遺言執行者の任務の開始
遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければなりません。また、遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。
善良な管理者としての注意義務
遺言執行者は、遺言の執行にあたって、「善良な管理者」としての注意義務を負います。この注意義務は、職業や能力、社会的地位を考慮して決定されますが、「自己の財産におけるのと同一」の注意義務よりも高いレベルの注意義務とされています。
報告義務
遺言執行者は、相続人や受遺者からの要求があるときは、いつでも遺言執行の処理の状況を報告し、業務が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければなりません。
受取物等の引渡し義務
遺言執行者は、遺言執行に当たって受け取った金銭その他の物を、相続人や受遺者に引き渡さなければなりません。
金銭の消費についての責任
遺言執行者は、遺言執行にあたって受領した金銭を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならず、この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負います。
司法書士を遺言執行者に選任するメリット
ここまで見てきたように、遺言執行者の職務内容は煩雑で多岐にわたり、専門的な知識や経験が必要な場面が多々あります。
また、職務を遂行するにあたっては、様々な義務を負っており責任も重い仕事になります。司法書士は登記業務を始めとして中立的な立場で業務を行うことを得意とする専門家です。相続人全員の代理人として、関係各方面と連携し調整役業務を行うことに長けています。
また、日ごろから高い注意義務のもと業務を遂行しておりますし、相続登記や遺産承継業務などで、相続人確定のために戸籍謄本を収集したり、被相続人の財産を確定するため財産目録の作成を行っており、遺言執行者の職務の内容と重複している部分も多くあります。
このような業務に精通している司法書士は遺言執行者の候補者として適任です。遺言執行者の選任に迷ったら是非司法書士を候補者にすることをご検討ください!