「親が亡くなって、実家が空き家になるので、相続放棄したいのですが」というご相談を受けることがあります。管理のコストや手間ばかりかかり、活用することも難しい価値のない空き家は相続したくない場合も多いでしょう。
借金などの負債であれば、相続放棄をすれば一切の責任を引き継がず、相続人が返済をする義務もありません。これに対し、空き家などの不動産は、相続人が相続放棄をしても空き家の管理責任を完全に放棄することは出来ません。
このページの目次
1.空き家と相続放棄
相続放棄をするためには、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内に、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てなければなりません。
相続放棄が家庭裁判所に認められると、借金等の債務や負債などのマイナスの財産だけでなく、現金や預貯金、不動産や有価証券などのプラスの財産も一切相続しないことになります。
相続放棄は、被相続人の一切の権利義務を引き継がないという制度ですので、空き家以外の財産は相続するという選択をすることは出来ません。
空き家の処分などに困って、相続放棄を選択する人が今後も増加していくことが見込まれています。
2.相続放棄しても免れない管理責任に要注意
民法には、相続放棄後の管理責任について以下のように規定されています。
第940条第1項
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
空き家を放置していると、不審者のたまり場になって近隣の迷惑になったり、家屋が老朽化して倒壊し第三者に損害を与えてしまう可能性があります。このような損害が発生してしまうと、相続放棄をしている相続人にも管理義務違反によって多額の損害賠償金を請求されることがあるのです。
そのため、他の相続人や次の順位の相続人が空き家の管理をすることができるようになるまで管理を継続しなければなりません。
また、(後順位を含めた)全ての相続人が相続放棄をした場合は、家庭裁判所で選任された相続財産管理人が管理を開始するまで、管理を継続しなければなりません。
このように「新たな管理者」が決まるまで、相続放棄をした相続人も(固定資産税や管理費の支払いなどの債務は免れても)、引き続き空き家の管理責任を負わなければならないのです。
(後順位を含めた)全ての相続人が相続放棄をしている場合は、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を行って、空き家の管理を引き継げば、自らの管理責任を免れることが出来ます。
しかし、相続財産管理人の選任の申立てを行う際は、「予納金」の納付を求められる場合があります。相続財産管理人が財産を管理する際に発生する費用や相続財産管理人の報酬は原則的には相続財産から支払われます。
しかし、相続財産が少なく費用や報酬をまかなえそうにない場合は、申立人が家庭裁判所に「予納金」として納付しなければならないのです。予納金の額は数十万円~100万円程度と言われており、家庭裁判所が事案の難易度に応じて決定します。
相続人が相続放棄を選択するのは、マイナス財産がプラス財産を上回るケースが多いでしょうから、申立人が予納金を納付しなければならないことになるでしょう。
3.相続放棄以外の選択肢
国や自治体などへの寄付
相続放棄をせず、国や自治体へ空き家を寄付するという選択肢もあります。ただし、利用価値のない不動産は基本的に寄付を受け付けてもらえません。自治体にとって、空き家などの不動産の寄付を受けてしまうと、固定資産税などの貴重な税収が減ってしまい、逆に管理費用がかかり財政を圧迫するためです。
地域の公共施設として活用できそうな場合や公園や防災スペースになりそうな広い土地の場合は寄付を受け付けてもらえる可能性もあります。
近隣の住民に譲渡する
近隣に住む住民が空き家(とその土地)を必要としているのであれば、その住民に譲り渡すという選択肢もあります。有償で譲渡するのであれば売買、無償であれば贈与ということになりますが、譲渡所得税や贈与税などの課税関係が発生しますので、税理士や税務署へ良く確認することが必要です。
空き家買取り業者へ売却する
空き家の買取希望者を募っても、買い手が現れるまで数年かかるかも知れません。その間、空き家の管理のコストと手間はかかり続けることになります。この点、買取り業者であれば直接空き家を買取ってもらえるので、比較的短時間で空き家を手放すことが出来ます。
リフォームや建物解体費用も不動産業者に負担してもらえることが多いので、費用を抑えて売却出来ますが、一般の買取希望者を募る場合に比べて売買代金は安価になる傾向にあります。
空き家バンクに登録する
空き家バンクとは、自治体のホームページ上で、空き家の賃貸・売却を希望する所有者が空き家情報を登録し、これから空き家の利用・活用を考えている方に紹介する制度です。利用するには、空き家がある自治体で空き家バンクの登録申請を行います。自治体が空き家を調査し、問題がなければホームページで空き家の情報が公開されます。
活用して収益を得る
売却等せず活用して収益を得るのも選択肢の一つです。
- アパート・マンション経営
- 駐車場経営
- 太陽光発電
- トランクルーム設置
例えば、このような活用事例があります。成功すれば収益を得ることが出来ますが、当然リスクもありますので、信頼出来る不動産業者を選んで相談することが必要です。
4.空き家の処分に困ったら司法書士などの専門家にご相談ください
ここまで見てきたように、空き家を相続放棄しても、相続人には一定の管理責任が残ります。相続人全員が相続放棄をすれば管理責任を免れますが、相続財産管理人の選任に思わぬ費用がかかります。
空き家を相続する場合は、相続放棄以外の方法も含めて、何がベストな選択なのか総合的に考える必要があります。
当事務所では、それぞれの事例に合わせてお客様と一緒に考えながら最適な解決方法を導きだします。空き家の相続方法に迷ったらまずは当事務所へご相談ください。